知ってるか ウサギはかなり強かだ
●『月にはウサギが住んでいる』
満月の月に浮かぶ紋様。それがウサギがモチをついている様に見えることから、そのような伝承が生まれる。
月が神聖化されるにつれ、そこに写るウサギも神格化されていく。餅つきと望月をかけた事もあり、その餅は不老不死の薬であるという伝説まで発生するのであった。
さて、ウサギと言うのは童話内では以外に強かな一面を持っている。『因幡の白兎』や『カチカチ山』などの日本の話だけではなく、『ウサギとカメ』『不思議な国のアリス』等において、どちらかと言うと人間に近い知性と心と……そして少し狡賢い部分が見られる。これはそれだけウサギが人間に親しんでいた証拠でもあると言えよう。
何が言いたいかと言うと『不老不死の薬を作る』ウサギが『実は意外と強か』であるというわけで……。
●月のウサギ(自称)と発明王の生まれ変わり(自称)
「この玉兎の親戚と言われたこのあちしに目をつけるとは、なかなかお前も慧眼だぴょん」
「はは。この『発明王の生まれ変わり』、智謀と人を見る目に関しては他に類を見ない才を持っていると自負しております」
ウサギの古妖に向かって、一人の覚者が頭を下げていた。
「それで、白舟様は様々な仙薬の知識を有しているとのことですが」
「不老不死を始めとした様々な仙薬の処方、たしかにあちしの頭の中にあるぴょん。だがそれをタダで聞こうというつもりか?」
「いえいえ。勿論そのようなおつもりは。先ずはこれをお納めください。足りぬというのであれば、幾らでも」
「ほっほっほ、お前中々殊勝だぴょん。それじゃあ先ずはニンジン一万本持ってこい!」
「ははっ!」
言って出ていく覚者。
「いっしっし。暫くからかうオモチャができたぴょん。さーて、何をさせようかなー」
●FiVE
「と言う状況なんだが」
久方 相馬(nCL2000004)は頭を掻きながら状況を説明する。
「古妖のウサギが覚者をいい様に使ってるんだ。まあそれ自体は放置してもいいことなんだが……この要求が徐々にエスカレートして、覚者を薬で操ってこのウサギを疎ましく思う古妖や人間を襲うようになるんだ。三日後ぐらいに」
なんだかなぁ、と言う顔をする覚者。
「問題はこのウサギが本当に仙薬?を作れる古妖で、相応に戦闘力があるってことだ。ただのサギウサギだと思ってると、痛い目を見るぜ」
ああ、ただの喋れるウサギ型古妖じゃなかったのね……と思ってたら、予想以上にメンドクサイ強さを持っていた。
「トリッキーな相手だが、逆に言えばそこを崩せば大した相手じゃない。気を付けてくれ」
相馬に送り出されて、覚者達は会議室を出た。
満月の月に浮かぶ紋様。それがウサギがモチをついている様に見えることから、そのような伝承が生まれる。
月が神聖化されるにつれ、そこに写るウサギも神格化されていく。餅つきと望月をかけた事もあり、その餅は不老不死の薬であるという伝説まで発生するのであった。
さて、ウサギと言うのは童話内では以外に強かな一面を持っている。『因幡の白兎』や『カチカチ山』などの日本の話だけではなく、『ウサギとカメ』『不思議な国のアリス』等において、どちらかと言うと人間に近い知性と心と……そして少し狡賢い部分が見られる。これはそれだけウサギが人間に親しんでいた証拠でもあると言えよう。
何が言いたいかと言うと『不老不死の薬を作る』ウサギが『実は意外と強か』であるというわけで……。
●月のウサギ(自称)と発明王の生まれ変わり(自称)
「この玉兎の親戚と言われたこのあちしに目をつけるとは、なかなかお前も慧眼だぴょん」
「はは。この『発明王の生まれ変わり』、智謀と人を見る目に関しては他に類を見ない才を持っていると自負しております」
ウサギの古妖に向かって、一人の覚者が頭を下げていた。
「それで、白舟様は様々な仙薬の知識を有しているとのことですが」
「不老不死を始めとした様々な仙薬の処方、たしかにあちしの頭の中にあるぴょん。だがそれをタダで聞こうというつもりか?」
「いえいえ。勿論そのようなおつもりは。先ずはこれをお納めください。足りぬというのであれば、幾らでも」
「ほっほっほ、お前中々殊勝だぴょん。それじゃあ先ずはニンジン一万本持ってこい!」
「ははっ!」
言って出ていく覚者。
「いっしっし。暫くからかうオモチャができたぴょん。さーて、何をさせようかなー」
●FiVE
「と言う状況なんだが」
久方 相馬(nCL2000004)は頭を掻きながら状況を説明する。
「古妖のウサギが覚者をいい様に使ってるんだ。まあそれ自体は放置してもいいことなんだが……この要求が徐々にエスカレートして、覚者を薬で操ってこのウサギを疎ましく思う古妖や人間を襲うようになるんだ。三日後ぐらいに」
なんだかなぁ、と言う顔をする覚者。
「問題はこのウサギが本当に仙薬?を作れる古妖で、相応に戦闘力があるってことだ。ただのサギウサギだと思ってると、痛い目を見るぜ」
ああ、ただの喋れるウサギ型古妖じゃなかったのね……と思ってたら、予想以上にメンドクサイ強さを持っていた。
「トリッキーな相手だが、逆に言えばそこを崩せば大した相手じゃない。気を付けてくれ」
相馬に送り出されて、覚者達は会議室を出た。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.古妖一匹の打破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
中秋の名月ネタを書こうとしたら、なぜかこうなった。
●敵情報
・白舟(×1)
しらふね。ウサギ型の古妖です。大きさは一メートルほど。直立して、人間の言葉を喋ります。知性はそれなり……と言うよりは人間を利用しようと思う程度に狡賢いです。
薬の知識や仙術に詳しく、それを駆使して戦います。ですが実力は本物の仙人には遠く及びません。『それっぽい術が使えるウサギ』程度の認識で十分です。
攻撃方法
杵で殴る 物近単 杵で殴ってきます。
外丹術 特遠全 卑金属を貴金属に変える術。その逆転技で神具を鈍らせます。〔虚弱〕〔ダメージ0〕
辰砂の嵐 特遠列 血を思わせる赤い砂を嵐のように舞わせます。
内丹術 自 特殊な呼吸法により、生命力を活性化します。回復&BS解除50%
搗薬兎 P とうやくと。回復術の流れを仙薬に写し、かすめ取ります。HP回復が行われた時、その四分の一量(端数切捨て)このキャラのHPが回復します。
・『発明王の生まれ変わり』山田・勝家
過去に何度か(割としょーもない経緯で)FiVEと抗戦した覚者です。前世持ちの木行。自分の前世を『発明王』と言い切るイタイ覚者。識者ぶりますが、残念さんです。
白舟の才能を見込んで仙薬を教えてもらおうとしていますが、あっさり騙されて下僕状態です。あといろいろ薬を飲まされていて、洗脳状態です。好きなだけ殴ってください。
拙作『前世知る識者が集いて、タコ殴り』『有名になれば誰かが名を騙る』などに出てきますが、ギャグ要員と見て問題ありません。
白舟にかけられている仙術により、肉体能力が強化されています。具体的には能力のステータスアップ(破綻者深度1並)と、ブロック可能人数が四人になっています。
ただし無理な強化の為、戦闘開始から一分(六ラウンド)で戦闘不能になります。
『錬覇法』『葉纏』『香仇花』『捕縛蔓』『覚醒爆光』『韋駄天足』等を活性化しています。
●場所情報
山奥の洞窟。そこに古妖と覚者(隔者?)がいます。明るさは戦闘に支障なし。一つの列に四人以上並ぶと、判定にマイナス修正が入ります。足場は悪く、回避にマイナス修正が付きます。
戦闘開始時、敵前衛に『発明王』が、中衛に『白舟』がいます。覚者達の初期位置は、敵前衛から一〇メートル地点から。
事前付与等の行動はいくらでもしてもかまいません。その間、敵側も行動します。外の行動に気付くかもしれませんし、不意打ちの準備をするかもしれません。ウサギは強かなのです。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年09月22日
2016年09月22日
■メイン参加者 8人■

●
「人を襲う気がある古妖と、それに操られた人間、か。はっきりと、敵だな」
神具を手に葦原 赤貴(CL2001019)は頷いた。状況分析は正しく、そして導き出される結論も間違いない。周りに迷惑をかける前に力で止める。夢見が見た悪夢を阻止するために、全力で相手を攻撃しよう。
「かなり悪さをするようですし、懲らしめないといけないようですね」
第三の瞳を開きながら望月・夢(CL2001307)が頷いた。相手は仙術や仙薬が使える古妖。決して油断ならない相手だ。討伐になっていないのは気が楽か、と心の中で安堵する。事が悪さ程度の古妖だ。命を奪うのは忍びない。
「ズル賢いウサギは、懲らしめられる運命だよねー!」
ケラケラと笑いながら天乃 カナタ(CL2001451)が歩を進める。物語において、汚い事をして儲けを得る動物はたくさんいた。だがそのほとんどが、最後は酷い目にあうオチが付く。さてこの白舟はどうなる事やら。
「それにしてもこの山田さんって方。初めてお会いしましたが、何ともしょうもない……」
古妖に操られて、自信満々に立ちふさがる覚者を見ながら『願いの翼』天野 澄香(CL2000194)が肩をすくめた。いい様に下働きさせられて、挙句洗脳されてしまうとは。しょうもない以外の言葉が思いつかなかった。STもである。
「『勝家』って戦国武将みたいなカッコイイ名前なのに残念な奴とはトホホなんよ」
同じく古妖に操られた覚者を見ながら肩をすくめる茨田・凜(CL2000438)。こちらは覚者の顔とかを見て判断していた。お世辞にもいい男とはいいがたい。残念さんのハンコを心の中で押して、神具を構えた。
「山田さん……なんでここまで、学習能力ないかなぁ……」
呆れる様に額に手を当てて『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)がため息をついた。この覚者との縁故は深いが、その大抵がこんな感じである。そろそろ何かを学んでほしいのだが。守護使役の『レンゲさん』も、主と同じ表情をしていた。
「それでも何故か憎めないのは彼の人徳かしらね」
『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は何とも言えない表情を浮かべ、操られている覚者を見た。彼としょーもない理由で敵対するのは毎度のことだが、憎めないのは確かだ。容赦なく殴るつもりではあるが。
「ワタシはね。勝家はケッコーすごいと思ってるのよ」
と、操られている覚者を評価するのは『デブリフロウズ』那須川・夏実(CL2000197)。FiVEのように巨大な組織の後押し無く情報を得るアンテナと、失敗を恐れない行動力は称賛に値する。その結果が毎回酷いという事実を除けば、だが。
「侵入者だぴょん! 行け、ヤマダ!」
「ふっ! この吾輩にかかれば白舟様の安全は確保されたと約束しよう!」
二足歩行するウサギと、それに操られた黒タキシード。そのコンビの戦意が覚者に向けられた。ああもう、完全に洗脳されてるじゃん。説得は通じそうにないっていうかする気が起きないという顔で覚者達はその戦意に応える。
洞窟の中、神秘解明とか日本の平和とかそういった事件とは全く関係ないしょーもない戦いの火蓋が、今切って落とされたのであった。
●
「ねえ、ウサギさん、お友達になりません? ちょっと前に出てきて下さいな」
戦闘開始と同時に澄香は白舟に問いかける。澄香の格好は黒のバニーガール衣装だ。黒いウサミミを示すようなポーズをとり、白舟を誘う。同じ姿だと思わせて交渉を有利にしようという考えだが、
「行かねーよ、人間。頭大丈夫か?」
「まあ無理だとは思ってましたが」
口悪く罵られ、心の中でヘイトを溜める澄香。その恨みを秘めながら、神具を手にする。タロットカードの『節制』と『世界』。腕を交差させて力を貯め、カードを投擲する。カードは真っ直ぐに『発明王』の頭に当たり、澄香の手に戻っていく。
「ウサギって耳が弱かったりしません? 狙ってみましょうか?」
「ふざけんなだぴょん! 普通に耳斬られたら痛いわ!」
「性格が悪いウサギとは聞いていましたが、口も悪いようですね」
夢は耳を押さえて叫ぶ白舟を見ながら息を整える。人をだます性格であるがゆえに、人を下に見てしまう。故に人に対する態度は決してよくないという事なのだろう。やはりキツイお灸をすえる必要があるようだ。
背筋を整え、舞うように術展開をする。天の源素と木の源素。その両方を使って霧と蔓を生み、相手の視界と動きを縛っていく。火力源として夢は貢献できない。相手の動きを制限することが自分の役目。そしてそれが味方の攻撃を助けていく。
「どうあれ。此処で倒させていただきます」
「久しぶりだな、FiVEの諸君。いろいろ事情があるようだが白舟様には手出させん」
「あ……。記憶は、あるんだ……」
自分達を認識する『発明王』の言葉に、ミュエルは手を叩いた。白舟を守ることが第一義と洗脳されているとはいえ、記憶を消したわけではないのだ。まあだからと言って、手心を加えるつもりは全くないのだが。
『発明王』から視線を逸らし、白舟の方を見るミュエル。相手の動きを注視し、その動きを見る。相手がの足が止まったのを見計らって、『ポプリサシェ』から扱いやすい植物の種子を取り出し、投げつけた。源素を受けて活性化し、棘となって白舟の体を傷つけていく。
「山田さん……声とかかけたら、元に戻る……かも?」
「何を言う。まるで吾輩が誰かに洗脳されたかのような物言い。そのような事などあるはずがない!」
「無駄みたいね。跪かせてあげないといけないみたい」
ミュエルの問いに、ため息を吐くように言うエメレンツィア。『発明王』の態度は洗脳される前とあまり変わらない。そういう意味ではこの洗脳はそれほど深くはないのだろう。だが、戦闘中の説得で戻るほど甘くはないようだ。
前世との繋がりを強く強化し、防御に回る。エメレンツィアの頭の中に流れてくるかすかなヴィジョン。今より前の時代、今より違う価値観の知識。それと自分の知識が混ざり合い、二重の知識で術式を動かす準備ができる。
「山田は自滅するだけでしょうし、その後でウサギを痛めつけましょうか」
「怖いぴょん! この可愛いあちしを傷つけるとか人間は野蛮だぴょん!」
「うんうん。可愛い可愛い」
相づちを討つ凜。ウサギは可愛いけど、それとこれとは別問題と態度で示していた。悪戯する子供の理屈を聞き流すように、微笑みながら頷いて体は別の動きをする。そういった子供の世話に手慣れてる感があった。
心と体をリラックスさせながら、凜は天の源素を体内で回転させる。心の中でリズムを刻み、ステップを踏むように足を動かしながら源素を解放する。広がる風が仲間の緊張をほぐし、その肉体能力を増していく。適度に力み、適度に脱力する。それが生むベストの状態。
「じゃあみんな、頑張ってねー」
「あ、可愛いあちしにもそれ欲しいぴょん」
「お前にはきつい一撃を切れてやろう」
言葉に明確な拒絶を乗せて赤貴が神具を振りかぶる。怒りや憎しみを波動に変換する性質を持つと言われる『沙門叢雲』。青銅色の両手剣を強く握りしめ、戦場をかける。敵の命乞いを聞くつもりはない、とばかりに言葉は硬く。
足場の悪さに難儀している『発明王』の動きを見ながら、赤貴は土の源素を剣の先に集わせる。相手がバランスを崩した瞬間を見計らい、剣を振るって土の源素を解放した。『発明王』の足元から槍が生え、傷つけると同時にその動きを縫いとめる。
「小賢しい詐術にひっかからないコツを教えてやる。相手が口を開く前に殴り倒すことだ」
「それ会話してねーだけだぴょん! この脳筋!」
「でも有効かな。とにかくボコればいいんだし」
うんうんを頷くカナタ。相手の得意な状況で勝負をしないというのは、基本である。相手の事を知り、それに対して対応策を考える。そうやって自分にとって有利な戦い方をするのも知恵なのだ。気だるげに手を振りながら術を練る。
『発明王』と白舟を一直線上に並べるような位置に足を運び、指先に力を集める。鋭い矢をイメージしながら、弓を引き絞るように力を一点に集めるカナタ。唇を歪めると同時に力を解放し、一直線に力の矢が放たれた。力は一直線に敵を貫いていく。
「いたずらウサギの背中焼いて、カラシ塗って、俺達がサメにでもなる?」
「ちょ、動物虐待で愛護団体に訴えられるぴょん!?」
「アンタ古妖でしょう」
白舟の訴えをあっさり退ける夏実。相手はそれなりに知性を持ち、そして悪意のある存在だ。犯罪を行う隔者ほどではないにせよ、甘く見ていい存在ではない。物語のようにイタズラウサギは懲らしめなくては。
傷つく仲間を見定め、一番傷ついている人間を見つける夏実。体内の水の源素を活性化させ、神具を中心に円を描くようにその力を回転させる。回転の度に純度を増した水が霧となり、仲間の傷を冷やし、清め、そして癒していく。
「勝家をダマクラかしてセンノーして……『裏切ってる』のは、ちょーっとユルセないわね!」
「『まだ』裏切ってないぴょん! あと三日ぐらい遊んでから……あ」
しまった、と口を紡ぐ白舟。覚者の冷たい視線が貫く。もっとも当の本人である『発明王』は、発言を気にすることなく戦っているのだが。
古妖とFiVE、両者は退くことなく戦いを続ける。
●
強化された『発明王』は一分で倒れる。
故に赤貴以外は『発明王』には積極的な攻撃を控えていた。どうせ自滅するし。
白舟もそれが分かっているのか、全力で攻撃するように『発明王』に命令していた。蔦を伸ばして動きを封じ、締め付けていく。
「あいたたたた……!」
「後ろを狙ってきますか」
古妖の攻撃は後衛を中心に行われ、凜と夢が命数を削られる。
「鬱陶しいおっさんだ」
そして前衛で攻勢に出ていた赤貴もまた、『発明王』の一撃で運命を燃やすほどのダメージを受ける。防御に回っていた者たちは、厚い回復もありそこまでの深手を負わなかったようだ。
「馬鹿な!? この『発明王』がこのような所で倒れるなどー!?」
そして薬の効果が切れて倒れる『発明王』。白舟は覚者を止める壁がなくなり、いまだに戦闘可能であることを察して、構えを取り直す。指を一つ立てて真剣な瞳で口を開く。
「寿命を一年伸ばす薬をあげるから、見逃してほしいぴょん」
「「「却下!」」」
あっさり交渉が決裂し、戦闘は続行される。
「どうやら逃げ道はないようだな」
白舟が逃げないのを見て、赤貴が呟く。狡賢い相手だから用心はしていたが、もし逃げ道があるなら、戦闘開始と同時に逃げていたはずだ。白舟の必死の抵抗もそれを裏付けている。逃げないのなら、力の限り叩くだけだ。
「にしてもワレながらレアね。攻撃するのって……」
水の弾丸を白舟に叩き込みながら、夏実は自分の行動に違和感を感じていた。回復を押さえているのは、白舟に回復をかすめ取られるのを防ぐためである。とはいえ、攻撃の術式は慣れないのか、少し動作が硬かった。
「俺自身が使う回復技が、俺優先なのは当然だよね?」
カナタは白舟から受けた傷を癒すべく回復の術式を練り上げる。その度に白舟が回復するが、自分が倒れるよりはましだろう。回復の術式を乗せた霧を放ち、仲間と自分の傷を癒していく。
「とりあえず棘で削っておきましょう」
「じゃあ……こっちは、毒、入れるね……」
「私は蔓で縛っておきましょう」
「げげふぅ! ちょ、いろいろ酷い状態なんで勘弁してほしいぴょん!」
澄香とミュエルと夢は互いに役割分担をしながら白舟にバッドステータスを与えていた。回復してもすぐに血まみれ毒まみれ弱体まみれになっていく。
「あ、そろそろリラックス効果の香の効果が切れそうですね」
「じゃあ……アタシが交代でかけるよ……役割分担……重要だもん」
「それでも何かれば、私が舞って癒しましょう」
「最悪の場合は、私も水の術式で癒しますし」
「これが……チームプレイの強さ、だよ」
「余裕があれば、皆様の身体能力を強化しておきます」
「唯の数の暴力だぴょん!」
まあ、バッドステータス与える覚者三人が速度九〇近くで一斉に動いた結果と言うメタな理由もありますが。
(不思議な事に、山田が関わると回復厚めになる傾向があるのよね)
白舟の攻撃を水の術式で回復しながらエメレンツィアは眉をひそめていた。回復行為が嫌と言うわけではないのだが、何故かこうなってしまうことに運命や因果のようなものを感じてしまう。ただの偶然、作戦の役割分担による最適解なのは確かなのだが。
「あ。これは凜も攻撃に出てよさそうかな」
白舟がしびれたりして攻撃が来ないときは、凜は攻撃に出ていた。水の弾丸を手のひらで回転させ、ボールを投げるように投擲して水の弾丸を投げつける。弾丸は飛来に適した矢のような形に変化し、真っ直ぐに古妖に突き刺さる。
「あばばばばば。やばいぴょん、傷の回復が追い付かねー!」
白舟はカナタやエメレンツィアの回復をかすめ取って身体の傷を癒しているが、それ以上のダメージを受けてボロボロになっていた。そのトリッキーな能力で翻弄するウサギの古妖は、純粋な火力は高くない。この状況を押し返すだけの力は残されていなかった。
「これで終わりだ」
ウサギが何かする前に封殺する。そうった考えで容赦なく攻める赤貴。その為振り下ろす剣に容赦はなかった。
「寝たフリをしている……わけではなさそうだな」
剣を通じて伝わる確かな感覚。その一撃で地面に叩きつけられる白舟。赤貴は最後まで剣を収めることなく、戦闘不能となった白舟を見下ろしていた。
●
戦い終わって『発明王』と白舟の傷を癒す覚者。
「一回ボコって充分チャラよ。実際まだ大して悪い事してないんだし」
言って白舟まで癒す夏実。そう言われればそうか、と反論の声はなかった。
「あちし、反省した! もう悪いことしないぴょん!」
手が動けば土下座でもしそうな勢いで喋る白舟。殺すつもりはないが、信用ができないのも事実だった。
「ねえねえ。不老不死の薬の知識を使って美容化粧品とか健康サプリとかを作るとかどう?」
凜は白舟の知識を世間の為に生かそうと提案するが、周りの覚者に止められた。不老不死の仙薬を作れること自体がが眉唾だし、なにより白舟の性格を鑑みれば素直に技術を出してくれるとは思えない。
「じゃあさ。コイツの師匠とかを呼んで秘薬の作り方を教えてもらうとか」
本人がだめならその師匠、とカナタが提案するが、伝承が正しければ玉兎は月に居るのだ。そこまでどうやって行くかと言う事を考え、断念する。折角のおこずかいが、と唇をすぼめるカナタ。
「ほら。そろそろ起きなさい、山田」
エメレンツィアが回復を施して『発明王』を起こす。洗脳は解けているのか、そこに戦意はなかった。
「この『発明王』を謀るとは、流石玉兎の親戚筋に当たる古妖。見事とほめておこう! あ、いろいろご迷惑おかけしました」
操られた記憶があるのか、FiVEの覚者に頭を下げる『発明王』。
「もう少し注意深くならないと前世がお泣きになりますよ? もう古妖に騙されたりしないように気をつけて下さいね」
「はっはっは。この吾輩が騙されるようなことなど、もうないと断言しよう」
澄香の言葉に嗤いながら答える『発明王』。ああ、これはダメだろうなぁ、と彼を知る者は沈痛な表情をしていた。
「自分に自信を持てることだけは、すごいなぁって思う、けど、うん……」
そんなポジティブな『発明王』の態度にミュエルはそう呟いていた。色々失敗しているはずなのに、それでへこたれることはない。心が折れることなくチャレンジできるのはすごいとおもう。……結果がまあ、伴わないのだけど。
「で、コイツはどうする?」
白舟をつまみ上げながら赤貴が問いかける。ボロボロでもう何もできないだろう。えへー、と笑みを浮かべて許しを請う白舟。
「殺さなくともよいでしょう。もうしないと言っているのですし」
夢の言葉に覚者は頷いた。実質的な被害は『発明王』の尊厳を除けばゼロだ。それも当人は気にしていないようだし。殺すほどの悪人でもない。
「次に何か悪さしたら、今度はただじゃ置かないぞ」
「はーい」
念を押す覚者の言葉に笑みを浮かべて走り去る白舟。しばらく離れたところで振り返り、
「ばーかばーか! お前達なんか怖くないぴょん!」
そんな悪態をついて、文字通り脱兎の如く視界から消えていった。唖然とする覚者達だがあの態度はこちらを恐れている証左でもあり、しばらく悪さはしないだろうと結論付けることができる。安全は確保できたと言えよう。
神秘解明とか日本の平和とかそういった事件とは全く関係ないしょーもない戦いだったが、とりあえず何事もなく終了した。
「ところで仙薬について何か情報はないかしら?」
「あ、吾輩が見たのをまとめたメモならここにあるぞ」
エメレンツィアの問いかけに、懐からメモを取り出す『発明王』。そこには結構詳細な仙薬についての情報が書かれてあった。材料などが不明瞭なため実際の作製は難しいが、初歩的な理論の取っ掛かりにはなりそうだ。
これを元にFiVEの神具庫に新たな武装が並ぶことになるのだが、それは少し先の話である。
「人を襲う気がある古妖と、それに操られた人間、か。はっきりと、敵だな」
神具を手に葦原 赤貴(CL2001019)は頷いた。状況分析は正しく、そして導き出される結論も間違いない。周りに迷惑をかける前に力で止める。夢見が見た悪夢を阻止するために、全力で相手を攻撃しよう。
「かなり悪さをするようですし、懲らしめないといけないようですね」
第三の瞳を開きながら望月・夢(CL2001307)が頷いた。相手は仙術や仙薬が使える古妖。決して油断ならない相手だ。討伐になっていないのは気が楽か、と心の中で安堵する。事が悪さ程度の古妖だ。命を奪うのは忍びない。
「ズル賢いウサギは、懲らしめられる運命だよねー!」
ケラケラと笑いながら天乃 カナタ(CL2001451)が歩を進める。物語において、汚い事をして儲けを得る動物はたくさんいた。だがそのほとんどが、最後は酷い目にあうオチが付く。さてこの白舟はどうなる事やら。
「それにしてもこの山田さんって方。初めてお会いしましたが、何ともしょうもない……」
古妖に操られて、自信満々に立ちふさがる覚者を見ながら『願いの翼』天野 澄香(CL2000194)が肩をすくめた。いい様に下働きさせられて、挙句洗脳されてしまうとは。しょうもない以外の言葉が思いつかなかった。STもである。
「『勝家』って戦国武将みたいなカッコイイ名前なのに残念な奴とはトホホなんよ」
同じく古妖に操られた覚者を見ながら肩をすくめる茨田・凜(CL2000438)。こちらは覚者の顔とかを見て判断していた。お世辞にもいい男とはいいがたい。残念さんのハンコを心の中で押して、神具を構えた。
「山田さん……なんでここまで、学習能力ないかなぁ……」
呆れる様に額に手を当てて『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)がため息をついた。この覚者との縁故は深いが、その大抵がこんな感じである。そろそろ何かを学んでほしいのだが。守護使役の『レンゲさん』も、主と同じ表情をしていた。
「それでも何故か憎めないのは彼の人徳かしらね」
『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は何とも言えない表情を浮かべ、操られている覚者を見た。彼としょーもない理由で敵対するのは毎度のことだが、憎めないのは確かだ。容赦なく殴るつもりではあるが。
「ワタシはね。勝家はケッコーすごいと思ってるのよ」
と、操られている覚者を評価するのは『デブリフロウズ』那須川・夏実(CL2000197)。FiVEのように巨大な組織の後押し無く情報を得るアンテナと、失敗を恐れない行動力は称賛に値する。その結果が毎回酷いという事実を除けば、だが。
「侵入者だぴょん! 行け、ヤマダ!」
「ふっ! この吾輩にかかれば白舟様の安全は確保されたと約束しよう!」
二足歩行するウサギと、それに操られた黒タキシード。そのコンビの戦意が覚者に向けられた。ああもう、完全に洗脳されてるじゃん。説得は通じそうにないっていうかする気が起きないという顔で覚者達はその戦意に応える。
洞窟の中、神秘解明とか日本の平和とかそういった事件とは全く関係ないしょーもない戦いの火蓋が、今切って落とされたのであった。
●
「ねえ、ウサギさん、お友達になりません? ちょっと前に出てきて下さいな」
戦闘開始と同時に澄香は白舟に問いかける。澄香の格好は黒のバニーガール衣装だ。黒いウサミミを示すようなポーズをとり、白舟を誘う。同じ姿だと思わせて交渉を有利にしようという考えだが、
「行かねーよ、人間。頭大丈夫か?」
「まあ無理だとは思ってましたが」
口悪く罵られ、心の中でヘイトを溜める澄香。その恨みを秘めながら、神具を手にする。タロットカードの『節制』と『世界』。腕を交差させて力を貯め、カードを投擲する。カードは真っ直ぐに『発明王』の頭に当たり、澄香の手に戻っていく。
「ウサギって耳が弱かったりしません? 狙ってみましょうか?」
「ふざけんなだぴょん! 普通に耳斬られたら痛いわ!」
「性格が悪いウサギとは聞いていましたが、口も悪いようですね」
夢は耳を押さえて叫ぶ白舟を見ながら息を整える。人をだます性格であるがゆえに、人を下に見てしまう。故に人に対する態度は決してよくないという事なのだろう。やはりキツイお灸をすえる必要があるようだ。
背筋を整え、舞うように術展開をする。天の源素と木の源素。その両方を使って霧と蔓を生み、相手の視界と動きを縛っていく。火力源として夢は貢献できない。相手の動きを制限することが自分の役目。そしてそれが味方の攻撃を助けていく。
「どうあれ。此処で倒させていただきます」
「久しぶりだな、FiVEの諸君。いろいろ事情があるようだが白舟様には手出させん」
「あ……。記憶は、あるんだ……」
自分達を認識する『発明王』の言葉に、ミュエルは手を叩いた。白舟を守ることが第一義と洗脳されているとはいえ、記憶を消したわけではないのだ。まあだからと言って、手心を加えるつもりは全くないのだが。
『発明王』から視線を逸らし、白舟の方を見るミュエル。相手の動きを注視し、その動きを見る。相手がの足が止まったのを見計らって、『ポプリサシェ』から扱いやすい植物の種子を取り出し、投げつけた。源素を受けて活性化し、棘となって白舟の体を傷つけていく。
「山田さん……声とかかけたら、元に戻る……かも?」
「何を言う。まるで吾輩が誰かに洗脳されたかのような物言い。そのような事などあるはずがない!」
「無駄みたいね。跪かせてあげないといけないみたい」
ミュエルの問いに、ため息を吐くように言うエメレンツィア。『発明王』の態度は洗脳される前とあまり変わらない。そういう意味ではこの洗脳はそれほど深くはないのだろう。だが、戦闘中の説得で戻るほど甘くはないようだ。
前世との繋がりを強く強化し、防御に回る。エメレンツィアの頭の中に流れてくるかすかなヴィジョン。今より前の時代、今より違う価値観の知識。それと自分の知識が混ざり合い、二重の知識で術式を動かす準備ができる。
「山田は自滅するだけでしょうし、その後でウサギを痛めつけましょうか」
「怖いぴょん! この可愛いあちしを傷つけるとか人間は野蛮だぴょん!」
「うんうん。可愛い可愛い」
相づちを討つ凜。ウサギは可愛いけど、それとこれとは別問題と態度で示していた。悪戯する子供の理屈を聞き流すように、微笑みながら頷いて体は別の動きをする。そういった子供の世話に手慣れてる感があった。
心と体をリラックスさせながら、凜は天の源素を体内で回転させる。心の中でリズムを刻み、ステップを踏むように足を動かしながら源素を解放する。広がる風が仲間の緊張をほぐし、その肉体能力を増していく。適度に力み、適度に脱力する。それが生むベストの状態。
「じゃあみんな、頑張ってねー」
「あ、可愛いあちしにもそれ欲しいぴょん」
「お前にはきつい一撃を切れてやろう」
言葉に明確な拒絶を乗せて赤貴が神具を振りかぶる。怒りや憎しみを波動に変換する性質を持つと言われる『沙門叢雲』。青銅色の両手剣を強く握りしめ、戦場をかける。敵の命乞いを聞くつもりはない、とばかりに言葉は硬く。
足場の悪さに難儀している『発明王』の動きを見ながら、赤貴は土の源素を剣の先に集わせる。相手がバランスを崩した瞬間を見計らい、剣を振るって土の源素を解放した。『発明王』の足元から槍が生え、傷つけると同時にその動きを縫いとめる。
「小賢しい詐術にひっかからないコツを教えてやる。相手が口を開く前に殴り倒すことだ」
「それ会話してねーだけだぴょん! この脳筋!」
「でも有効かな。とにかくボコればいいんだし」
うんうんを頷くカナタ。相手の得意な状況で勝負をしないというのは、基本である。相手の事を知り、それに対して対応策を考える。そうやって自分にとって有利な戦い方をするのも知恵なのだ。気だるげに手を振りながら術を練る。
『発明王』と白舟を一直線上に並べるような位置に足を運び、指先に力を集める。鋭い矢をイメージしながら、弓を引き絞るように力を一点に集めるカナタ。唇を歪めると同時に力を解放し、一直線に力の矢が放たれた。力は一直線に敵を貫いていく。
「いたずらウサギの背中焼いて、カラシ塗って、俺達がサメにでもなる?」
「ちょ、動物虐待で愛護団体に訴えられるぴょん!?」
「アンタ古妖でしょう」
白舟の訴えをあっさり退ける夏実。相手はそれなりに知性を持ち、そして悪意のある存在だ。犯罪を行う隔者ほどではないにせよ、甘く見ていい存在ではない。物語のようにイタズラウサギは懲らしめなくては。
傷つく仲間を見定め、一番傷ついている人間を見つける夏実。体内の水の源素を活性化させ、神具を中心に円を描くようにその力を回転させる。回転の度に純度を増した水が霧となり、仲間の傷を冷やし、清め、そして癒していく。
「勝家をダマクラかしてセンノーして……『裏切ってる』のは、ちょーっとユルセないわね!」
「『まだ』裏切ってないぴょん! あと三日ぐらい遊んでから……あ」
しまった、と口を紡ぐ白舟。覚者の冷たい視線が貫く。もっとも当の本人である『発明王』は、発言を気にすることなく戦っているのだが。
古妖とFiVE、両者は退くことなく戦いを続ける。
●
強化された『発明王』は一分で倒れる。
故に赤貴以外は『発明王』には積極的な攻撃を控えていた。どうせ自滅するし。
白舟もそれが分かっているのか、全力で攻撃するように『発明王』に命令していた。蔦を伸ばして動きを封じ、締め付けていく。
「あいたたたた……!」
「後ろを狙ってきますか」
古妖の攻撃は後衛を中心に行われ、凜と夢が命数を削られる。
「鬱陶しいおっさんだ」
そして前衛で攻勢に出ていた赤貴もまた、『発明王』の一撃で運命を燃やすほどのダメージを受ける。防御に回っていた者たちは、厚い回復もありそこまでの深手を負わなかったようだ。
「馬鹿な!? この『発明王』がこのような所で倒れるなどー!?」
そして薬の効果が切れて倒れる『発明王』。白舟は覚者を止める壁がなくなり、いまだに戦闘可能であることを察して、構えを取り直す。指を一つ立てて真剣な瞳で口を開く。
「寿命を一年伸ばす薬をあげるから、見逃してほしいぴょん」
「「「却下!」」」
あっさり交渉が決裂し、戦闘は続行される。
「どうやら逃げ道はないようだな」
白舟が逃げないのを見て、赤貴が呟く。狡賢い相手だから用心はしていたが、もし逃げ道があるなら、戦闘開始と同時に逃げていたはずだ。白舟の必死の抵抗もそれを裏付けている。逃げないのなら、力の限り叩くだけだ。
「にしてもワレながらレアね。攻撃するのって……」
水の弾丸を白舟に叩き込みながら、夏実は自分の行動に違和感を感じていた。回復を押さえているのは、白舟に回復をかすめ取られるのを防ぐためである。とはいえ、攻撃の術式は慣れないのか、少し動作が硬かった。
「俺自身が使う回復技が、俺優先なのは当然だよね?」
カナタは白舟から受けた傷を癒すべく回復の術式を練り上げる。その度に白舟が回復するが、自分が倒れるよりはましだろう。回復の術式を乗せた霧を放ち、仲間と自分の傷を癒していく。
「とりあえず棘で削っておきましょう」
「じゃあ……こっちは、毒、入れるね……」
「私は蔓で縛っておきましょう」
「げげふぅ! ちょ、いろいろ酷い状態なんで勘弁してほしいぴょん!」
澄香とミュエルと夢は互いに役割分担をしながら白舟にバッドステータスを与えていた。回復してもすぐに血まみれ毒まみれ弱体まみれになっていく。
「あ、そろそろリラックス効果の香の効果が切れそうですね」
「じゃあ……アタシが交代でかけるよ……役割分担……重要だもん」
「それでも何かれば、私が舞って癒しましょう」
「最悪の場合は、私も水の術式で癒しますし」
「これが……チームプレイの強さ、だよ」
「余裕があれば、皆様の身体能力を強化しておきます」
「唯の数の暴力だぴょん!」
まあ、バッドステータス与える覚者三人が速度九〇近くで一斉に動いた結果と言うメタな理由もありますが。
(不思議な事に、山田が関わると回復厚めになる傾向があるのよね)
白舟の攻撃を水の術式で回復しながらエメレンツィアは眉をひそめていた。回復行為が嫌と言うわけではないのだが、何故かこうなってしまうことに運命や因果のようなものを感じてしまう。ただの偶然、作戦の役割分担による最適解なのは確かなのだが。
「あ。これは凜も攻撃に出てよさそうかな」
白舟がしびれたりして攻撃が来ないときは、凜は攻撃に出ていた。水の弾丸を手のひらで回転させ、ボールを投げるように投擲して水の弾丸を投げつける。弾丸は飛来に適した矢のような形に変化し、真っ直ぐに古妖に突き刺さる。
「あばばばばば。やばいぴょん、傷の回復が追い付かねー!」
白舟はカナタやエメレンツィアの回復をかすめ取って身体の傷を癒しているが、それ以上のダメージを受けてボロボロになっていた。そのトリッキーな能力で翻弄するウサギの古妖は、純粋な火力は高くない。この状況を押し返すだけの力は残されていなかった。
「これで終わりだ」
ウサギが何かする前に封殺する。そうった考えで容赦なく攻める赤貴。その為振り下ろす剣に容赦はなかった。
「寝たフリをしている……わけではなさそうだな」
剣を通じて伝わる確かな感覚。その一撃で地面に叩きつけられる白舟。赤貴は最後まで剣を収めることなく、戦闘不能となった白舟を見下ろしていた。
●
戦い終わって『発明王』と白舟の傷を癒す覚者。
「一回ボコって充分チャラよ。実際まだ大して悪い事してないんだし」
言って白舟まで癒す夏実。そう言われればそうか、と反論の声はなかった。
「あちし、反省した! もう悪いことしないぴょん!」
手が動けば土下座でもしそうな勢いで喋る白舟。殺すつもりはないが、信用ができないのも事実だった。
「ねえねえ。不老不死の薬の知識を使って美容化粧品とか健康サプリとかを作るとかどう?」
凜は白舟の知識を世間の為に生かそうと提案するが、周りの覚者に止められた。不老不死の仙薬を作れること自体がが眉唾だし、なにより白舟の性格を鑑みれば素直に技術を出してくれるとは思えない。
「じゃあさ。コイツの師匠とかを呼んで秘薬の作り方を教えてもらうとか」
本人がだめならその師匠、とカナタが提案するが、伝承が正しければ玉兎は月に居るのだ。そこまでどうやって行くかと言う事を考え、断念する。折角のおこずかいが、と唇をすぼめるカナタ。
「ほら。そろそろ起きなさい、山田」
エメレンツィアが回復を施して『発明王』を起こす。洗脳は解けているのか、そこに戦意はなかった。
「この『発明王』を謀るとは、流石玉兎の親戚筋に当たる古妖。見事とほめておこう! あ、いろいろご迷惑おかけしました」
操られた記憶があるのか、FiVEの覚者に頭を下げる『発明王』。
「もう少し注意深くならないと前世がお泣きになりますよ? もう古妖に騙されたりしないように気をつけて下さいね」
「はっはっは。この吾輩が騙されるようなことなど、もうないと断言しよう」
澄香の言葉に嗤いながら答える『発明王』。ああ、これはダメだろうなぁ、と彼を知る者は沈痛な表情をしていた。
「自分に自信を持てることだけは、すごいなぁって思う、けど、うん……」
そんなポジティブな『発明王』の態度にミュエルはそう呟いていた。色々失敗しているはずなのに、それでへこたれることはない。心が折れることなくチャレンジできるのはすごいとおもう。……結果がまあ、伴わないのだけど。
「で、コイツはどうする?」
白舟をつまみ上げながら赤貴が問いかける。ボロボロでもう何もできないだろう。えへー、と笑みを浮かべて許しを請う白舟。
「殺さなくともよいでしょう。もうしないと言っているのですし」
夢の言葉に覚者は頷いた。実質的な被害は『発明王』の尊厳を除けばゼロだ。それも当人は気にしていないようだし。殺すほどの悪人でもない。
「次に何か悪さしたら、今度はただじゃ置かないぞ」
「はーい」
念を押す覚者の言葉に笑みを浮かべて走り去る白舟。しばらく離れたところで振り返り、
「ばーかばーか! お前達なんか怖くないぴょん!」
そんな悪態をついて、文字通り脱兎の如く視界から消えていった。唖然とする覚者達だがあの態度はこちらを恐れている証左でもあり、しばらく悪さはしないだろうと結論付けることができる。安全は確保できたと言えよう。
神秘解明とか日本の平和とかそういった事件とは全く関係ないしょーもない戦いだったが、とりあえず何事もなく終了した。
「ところで仙薬について何か情報はないかしら?」
「あ、吾輩が見たのをまとめたメモならここにあるぞ」
エメレンツィアの問いかけに、懐からメモを取り出す『発明王』。そこには結構詳細な仙薬についての情報が書かれてあった。材料などが不明瞭なため実際の作製は難しいが、初歩的な理論の取っ掛かりにはなりそうだ。
これを元にFiVEの神具庫に新たな武装が並ぶことになるのだが、それは少し先の話である。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
どくどくです。
馬鹿キャラは書いてて楽しい……!
ハイバランサー持ち多過ぎっ、な戦場でした。まあ、こういう状況なら用意しますよね。
足場のペナルティを敵側だけで受けていた感じでした。あるぇ~?
ともあれお疲れさまでした。先ずは傷を癒してください。
それではまた、五麟市で。
馬鹿キャラは書いてて楽しい……!
ハイバランサー持ち多過ぎっ、な戦場でした。まあ、こういう状況なら用意しますよね。
足場のペナルティを敵側だけで受けていた感じでした。あるぇ~?
ともあれお疲れさまでした。先ずは傷を癒してください。
それではまた、五麟市で。
