迷路洞窟
●迷路洞窟
海を見わたす崖の上は、松の林がなっている。崖壁にはぽっかり開いた洞窟の口が幾つも姿をみせる。洞窟は荒い海風を獣の鳴き声に変える。そのため、人々は鳴穴と呼ぶようになった。
鳴穴は昔の水脈跡だ。京都にある修験山から湧き出る水が地下に潜り、水脈を通り海に流れできた穴だ。穴は複雑に広がり、ネズミが一匹通れるかどうかの広さから人を乗せた馬が一頭ゆうゆうと通れる広さまであった。1986年、鳴穴一帯は国指定の公園となり、迷路の一部は一般人も通れるようになった。いまでは観光名所として多くの人が訪れている。
ある晴れた日、海に出ていた漁師は奇妙な音を耳にした。ザリザリザリ、地面が削れるような音だった。猟師は不思議に思い辺りを見わたした。音は、鳴穴から聞こえていた。
「なんだぁ……?」
目をよく凝らし洞窟を見つめる。大きな毛玉のようなモノが崖を這い、穴に向かっている。
「あれまぁ……」
驚き、成り行きを見守っていると、毛玉のようなものは洞窟の入り口で何かと争い始めた。黒い羽をはばたかせるコウモリのようなものと争っているようだ。
毛玉とコウモリ、どちらが勝つか気になる猟師は、少し洞窟へ近づこうと船を動かす。すると、次はなにやら心が軽くなる歌声が聴こえてくるではないか。歌声を耳にすると何故だか眠くなる。漁師は、船を上でまどろみ、とうとう眠りこけた。
●鳴穴の三つ巴
「鳴穴っていう自然の迷路で、妖2体と古妖1体が争いを始めるぜ! ここは、迷路の一部が一般人も通れるようになっているから、人が巻き込まれる恐れがある。食い止めてほしい!」
久方 相馬(nCL2000004)が、集まった覚者に訴えた。
「現われる敵は、生物系1体。皆は糸ミミズって知っているか? 細いミミズが何十匹も絡まって一塊になっている。あれの屍骸が妖になったようだ。コイツは連続技を使ってくるはずだ。それと、物質系1体。黒い壊れた傘。漁師はこれをコウモリと勘違いしたみたいだな。空中戦を得意として鋭い爪で襲ってくるぜ。最後に、古妖1体。雷魚って呼ばれるヤツだ。皆も知っている人魚の見た目をちょっとおっかなくした感じだな。雷魚は文字通り、雷を使う。そのうえコイツの歌声を聴いたら催眠状態になるから気をつける必要がある。ただ、古妖は昔からこの迷路に住み着いていたみたいだな。人間と距離をおき静かに暮らしていたところ、妖が現われ縄張り争いを始めた。それが逆鱗に触れたようだ。うまく説得できれば、迷路奥にいる妖のところまで案内してくれる可能性もある」
相馬は、いったん言葉をきり迷路のチケットと地図、資料を覚者に配り始めた。
「妖も古妖も、迷路のどこかにいる。そこにたどり着くまでは一般人に開放している迷路をつかうといい。午前9時から営業が始まるはずだ。迷路を進めば、関係者以外進入禁止の看板があらわれる。それを無視して奥に進んでくれ。人が多いから気づかれないよう注意してほしい。もちろん、一般人が通れる迷路以外に侵入方法をみつけたらそれを使ってもいい。現場に行くお前たちの判断に任せる!」
相馬は覚者の顔を見ながら言った。
「迷路の最奥は海につながっている。漁師が歌声を聴いて眠りこけるのは、おおよそ10時30分頃。その前に敵をやっつけてほしい。船の上でうたた寝は危ないからな。もし、雷魚が説得に応じない場合、雷魚を退治すれば催眠は解け漁師も目を覚ます。じゃぁ、頼んだぜ!」
海を見わたす崖の上は、松の林がなっている。崖壁にはぽっかり開いた洞窟の口が幾つも姿をみせる。洞窟は荒い海風を獣の鳴き声に変える。そのため、人々は鳴穴と呼ぶようになった。
鳴穴は昔の水脈跡だ。京都にある修験山から湧き出る水が地下に潜り、水脈を通り海に流れできた穴だ。穴は複雑に広がり、ネズミが一匹通れるかどうかの広さから人を乗せた馬が一頭ゆうゆうと通れる広さまであった。1986年、鳴穴一帯は国指定の公園となり、迷路の一部は一般人も通れるようになった。いまでは観光名所として多くの人が訪れている。
ある晴れた日、海に出ていた漁師は奇妙な音を耳にした。ザリザリザリ、地面が削れるような音だった。猟師は不思議に思い辺りを見わたした。音は、鳴穴から聞こえていた。
「なんだぁ……?」
目をよく凝らし洞窟を見つめる。大きな毛玉のようなモノが崖を這い、穴に向かっている。
「あれまぁ……」
驚き、成り行きを見守っていると、毛玉のようなものは洞窟の入り口で何かと争い始めた。黒い羽をはばたかせるコウモリのようなものと争っているようだ。
毛玉とコウモリ、どちらが勝つか気になる猟師は、少し洞窟へ近づこうと船を動かす。すると、次はなにやら心が軽くなる歌声が聴こえてくるではないか。歌声を耳にすると何故だか眠くなる。漁師は、船を上でまどろみ、とうとう眠りこけた。
●鳴穴の三つ巴
「鳴穴っていう自然の迷路で、妖2体と古妖1体が争いを始めるぜ! ここは、迷路の一部が一般人も通れるようになっているから、人が巻き込まれる恐れがある。食い止めてほしい!」
久方 相馬(nCL2000004)が、集まった覚者に訴えた。
「現われる敵は、生物系1体。皆は糸ミミズって知っているか? 細いミミズが何十匹も絡まって一塊になっている。あれの屍骸が妖になったようだ。コイツは連続技を使ってくるはずだ。それと、物質系1体。黒い壊れた傘。漁師はこれをコウモリと勘違いしたみたいだな。空中戦を得意として鋭い爪で襲ってくるぜ。最後に、古妖1体。雷魚って呼ばれるヤツだ。皆も知っている人魚の見た目をちょっとおっかなくした感じだな。雷魚は文字通り、雷を使う。そのうえコイツの歌声を聴いたら催眠状態になるから気をつける必要がある。ただ、古妖は昔からこの迷路に住み着いていたみたいだな。人間と距離をおき静かに暮らしていたところ、妖が現われ縄張り争いを始めた。それが逆鱗に触れたようだ。うまく説得できれば、迷路奥にいる妖のところまで案内してくれる可能性もある」
相馬は、いったん言葉をきり迷路のチケットと地図、資料を覚者に配り始めた。
「妖も古妖も、迷路のどこかにいる。そこにたどり着くまでは一般人に開放している迷路をつかうといい。午前9時から営業が始まるはずだ。迷路を進めば、関係者以外進入禁止の看板があらわれる。それを無視して奥に進んでくれ。人が多いから気づかれないよう注意してほしい。もちろん、一般人が通れる迷路以外に侵入方法をみつけたらそれを使ってもいい。現場に行くお前たちの判断に任せる!」
相馬は覚者の顔を見ながら言った。
「迷路の最奥は海につながっている。漁師が歌声を聴いて眠りこけるのは、おおよそ10時30分頃。その前に敵をやっつけてほしい。船の上でうたた寝は危ないからな。もし、雷魚が説得に応じない場合、雷魚を退治すれば催眠は解け漁師も目を覚ます。じゃぁ、頼んだぜ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖、物質系と生物系の退治
2.古妖、雷魚の説得もしくは退治
3.なし
2.古妖、雷魚の説得もしくは退治
3.なし
今回は古妖の説得、もしくは退治が成功の鍵になるかもしれません。迷路の中は途中まで照明がありますが、立ち入り禁止区域は真っ暗闇です。場所によっては頭をぶつける可能性もあるので気をつけてください。
*迷路内でスキルを発動しても、迷路が崩れる心配はありません。また、隆槍などのスキルはちゃんと効果があります。
以下は、相馬が皆さんに配った資料です。
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
敵情報
『古妖:雷魚』性質 大人しい(若干、引きこもり気味) 歌が好き さほど強くない
全身緑色、下半身は鱗を覆われています。青い牙が特徴的な古妖です。歌声には催眠効果があり、聴いた人を催眠状態にします。
鳴穴に200年前から住み着いています。昔、大嵐で転覆した船人を助けたこともあり、崖の上の松林には、雷魚を祀る祠が建てられています。
意思疎通をはかる事は可能です。うまく説得できれば妖のいる場所まで案内してくれます。
(スキル)
・稲妻ぼっくり:松ぼっくりを弾丸のように飛ばします。被弾すると、雷のように電流が体に流れます。遠単体攻撃 ダメージ+BS痺れ
・雷魚の歌:聴くものを催眠状態にします。BSは睡眠が付与されます。
列攻撃 ダメージ+BS睡眠
『妖:糸ミミズ』
生物系 ランク1
海側の穴から侵入しようとする。
(スキル)
・千本ミミズ:物近列ダメージ+BS不運
『妖:黒傘コウモリ』
物質系 ランク1
夜の間に飛んで洞窟に侵入したもよう。
(スキル)
・引っかく:物近単ダメージ+BS混乱
『場所』
・京都の某海
・鳴穴と呼ばれる洞窟
・洞窟の大きさは野球場ほど。
・一部、迷路として一般公開されている。公開されている場所は照明あり。立ち入り禁止区域は、暗闇。
・洞窟の高さは、低いところで10センチほど、高いところは3メートルほど。広いところで大人4人通ることができる。洞窟は数箇所崩れているので外に出ることもできます。洞窟の中は、ネズミやイタチなどの小動物が多数生息しています。
・祠の近くにも崩れた洞窟の穴あり。
『気象』
・晴れ、海の波も穏やか
『備考』
・一般公開されている迷路は9時開業。
・8時50分の時点で、観光客が8人います。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年09月15日
2015年09月15日
■メイン参加者 8人■

●祠
「は~い、皆さん到着。ここがあの雷魚の祠みたいね!」
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)が祠の前でくるりと後ろを振り返り、微笑んだ。
「うわぁ、みかこおねーさん、本物の先生みたいだぁ!」
『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)と、からかう。
「わたし、本当に先生ですってば~!」
頬をふくらませ抗議するように御菓子がきせきの隣に立つが、14歳になったばかりの少年ですら見上げてしまうほど御菓子は小柄だった。そのうえ、御菓子の見た目は少女そのものだ。はたから見ると同い年の子が二人で戯れているようだった。
「ふふ、ごねんね、向日葵せんせー」
「そうです! せんせーなのです!」
じゃれ合う二人のそばを通り抜け、神室・祇澄(CL2000017)が祠に挨拶しようと近づいた。しかし、彼女は首をかしげる。
「あれ?」
「すすむさん、どうしたん?」
茨田・凛(CL2000438)が尋ねる。
「ええ、供えられたサカキが枯れているのかと思っていたのですが、どうやら枯れ枝そのものを供えているようです……」
「枯れ枝……?」
『裏切者』鳴神 零(CL2000669)も不思議そうに首をかしげた。黒い狐の面を被る彼女の表情は見えないが、困惑しているようだった。
「子供のイタズラかな? でも、それならお菓子なんかが周囲に散乱しているものだけど……」
「おぉ、いま探偵の洞察力を目の当たりにした気分。零さん、かっこいいやん!」
凛が拍手する。
「そ、そんな探偵っていっても心霊探偵なんだけどね」
零の首から胸元がみるみる赤くなっていく。仮面の中の顔はそれ以上に赤くなっているのだろう。
「ふむ、祠にイタズラなんてひどいんだぞ! ちかのお母さんが作ったカップケーキお供えするぞ! ……雷魚も喜ぶかな?」
『天衣無縫』神楽坂 椿花(CL2000059)がそっとカップケーキを供えた。その様子を見ていた香月 凛音(CL2000495)が微笑み、
「ああ、喜ぶだろう」
と言うと、拍手を一度打ち、深く一礼した。皆もそれに続くように参拝を始めた。
古い祠だった。屋根の朱色は剥げ、木ももろくなっている。ずいぶん昔に置かれたカップ酒はラベルの色が薄くなり、たまった雨水にアメンボウが一匹浮いていた。
「おや?」
皆の背後にいた四月一日 四月二日(CL2000588)が足元に光る何かに気づいた。四月二日はしゃがみこみ光るそれを手のひらに乗せた。それは薄いガラス片のようだった。よく見ると、周囲にいくつか落ちている。落ちているガラス片にそって歩くと洞窟に辿りついた。
「おい、皆……」
言いながら、振り返る。が、皆はまだ参拝中だった。四月二日は頬をぽりぽりと掻き、皆の元に戻ると一緒に参拝を始めた。
祠の前で覚者達は、これから出会うであろう雷魚に気持ちを込めて祈った。
「さて、そろそろ行くん? えいじさん、さっき何言おうとしたん?」
凛が背伸びしながら言うと同時に覚醒する。肩の刺青が空色に輝きだした。
「ぼくも気になってた!」
赤い瞳に青色の髪になったきせきが四月二日に駆け寄る。四月二日は伊達メガネをかけ、拾った小さなガラス片を皆に見せた。
「そこの穴に向かって、いくつも落ちていたんだ……」
「綺麗なガラス片なんだぞ! ちょっと花びらに似てるぞ。ねっ!」
椿花が凛音を見上げる。
「……あれ? 凛音ちゃん、椿花とおそろい!」
覚醒後の二人は、髪の色といい瞳の色といいどことなく雰囲気が似ていた。
凛音は椿花の頭を軽くぽんぽんしつつ、
「と、とりあえず、行こうぜ」
少し照れくさそうに言う。
「そうですね。一般人もいるみたいですし、漁師さんのこともありますし、早めに片づけてしまいたいです」
祇澄はこくりと頷いた。長い前髪の隙間から見える青い瞳は、強い決意を見せていた。
「では、行きますね」
零が最初に洞窟に入った。つぎに椿花ときせきが続く。順に仲間が暗い穴に消えていく。最後の凛音の順番がきた。彼は後ろを振り返り、人がいないか確認した。と、遠くの松の木の後ろで何かが動く影が見えた。小さな生き物だ。人ではない。
「……カラスか?」
凛音は首をかしげ、そのまま洞窟に入って行った。
●気配
「……そこは右に、左の道を選ぶと行き止まりのようです」
土の心で地形を把握する祇澄が、複雑に枝分かれする道を的確に選ぶ。
零と椿花の守護使役が道の先を照らす。懐中電灯の明かりで洞窟内を見わたし、光の届かない場所は、それぞれのスキルを使い用心深く確認した。武器はまだ手に持っていない。守護使役に預けたまま、もしくは服の中に隠したままだ。慎重に進まざるを得なかった。
「皆さん、足元に気をつけてくださ……わぁっ!?」
何か怪しいものはないか探ろうとした祇澄は、地面のくぼみにつまずいた。
「大丈夫? 神室さん?」
心配そうに御菓子が駆け寄る。
「ええ、大丈夫です。ちょっと転んじゃった。てへ」
そんな二人のやり取りをそばで見ていた四月二日の目の端に、何かが動いた。とっさにそちらを見る。
「もしかして……」
懐中電灯の明かりを向けた。そこには全身緑色の背の低い生き物がじっと祇澄と御菓子を見つめている。鱗に覆われた下半身、ぽっかり開いた口から見える青い牙。間違いなく古妖の雷魚だ。黄色い目玉焼きのような大きな目が、覚者達に見られていることに気づき、瞬きを繰り返す。
「……あっ、やばい。えっとえっと、お前らここで何してるのら! ここはオレっちの洞窟なのら。こうも次から次へとヘンなのが入り込んで困るのらぁ!」
四月二日は頭を掻き、
「大丈夫、キミをどうにかしようなんて思ってないぜ。キミのイライラの原因が俺たちにも邪魔くさくてな。退治させてほしい」
と、言った。
「そ、そんなの信じられないら!」
御菓子は首を横に振り、生徒に話しかけるように雷魚の目を見る。
「雷魚さんはある意味、巻き添えだもの。争いたくないわ。あなたの縄張りを荒らす2体の妖を退治しにきたのよ」
「に、2体? あのコウモリ以外にまだいるのら?」
祇澄は雷魚に歩み寄り、
「こんにちは、雷魚さん……ですよね。私たちは奥で争いを始める妖たちを退治しにきました」
「で、でも、信じられないら……。お、お前たち、嘘ついてオレっちを食べるつもりら!?」
5歳児ほどの身長の雷魚がプルプル振るえだした。しかし、
「ねぇ、口元についているの、カップケーキのカス? もしかして、祠にお供えした椿花のカップケーキ食べてくれた?」
椿花が嬉しそうに訊く。さっきまで興奮していた雷魚がとたん真っ赤になる。
「じゃぁ、ボクの大好きなチョココロネもどうぞ!」
きせきが差し出したチョココロネを嬉しそうに抱く雷魚。
「おまえら、おまえら……イイ奴なのら。こんなに親切にされたのは何十年ぶりら。最近じゃ、祠に来てくれる人間もいなくなって、オレっちが祠の掃除や木を飾っていたのらぁ」
「じゃぁ、あの枯れ枝は雷魚がやってたん?」
凛の問いかけに、ぶんぶんと頭を振り頷く。
「人間は木の枝を飾るのが好きみたいだから真似したら。今朝も枝を飾って散歩してたら、お前たちが来たんで、遠くから隠れて眺めてたら」
「……ああ、分かった。地面に落ちていたガラス片は雷魚の鱗だ」
凛音が苦笑いを浮かべ、四月二日と顔を見合わせる。四月二日もまた小さな笑みを浮かべていた。
「ねぇ、雷魚様。できればどこに妖がいるのか、教えていただけたらいいな☆ なんてね……」
零はおそるおそる雷魚に近づき、祠でお願いしたことを口にしてみた。
「まかせるらぁぁ! オレっちについて来るらぁ!」
雷魚はドンと自分の胸を叩き、覚者達を奥へ案内した。
●激突
「この奥ら。気をつけろ。コウモリ以外に何かが海から這ってきている気配がするら!」
雷魚の案内で敵の近くまで辿りついた。波の音に混じり、バサバサと黒傘コウモリが羽ばたく音がする。
「あ、ありがとうございます。雷魚様」
零は感謝の気持ちを告げると、神具の大太刀鬼桜を出現させ敵のもとへ向かった。
向かった先は、洞窟の出口だった。海が見える。陽の光が波に反射し、それが洞窟の天井でキラキラと揺れていた。
「キィキィ!」
陽の光を背に羽ばたきながら威嚇の声をあげる黒傘コウモリに御菓子は、
「こんなところにいたのね!」
と叫ぶ。透き通るような凛とした声音が洞窟内に響く。
「キィー!!」
覚者達と妖の戦闘が始まった。
仲間が次々と身体能力を上げていく。その横で、椿花が上段のかまえから大きく刀を敵に振り下ろす。
「今回は怪我しないように頑張るんだぞ!」
紫色の炎を纏った刀は、黒傘コウモリめがけて五織の彩を放った。
ボンッという音と共に敵は空中で急旋回しだした。
「いきますよ。無駄な争いはここで止めます!」
祇澄も続けざまに五色の彩を放つ。長い前髪から見える青い瞳は確実に敵を捉えていた。地面に落ちる黒傘コウモリに祇澄の攻撃は当たった。地面に強く叩き着けられたあと、吹き飛んだ。
刀と禅の融合である活人剣。武人としての精神を養い、正義のために刃を抜く。祇澄が日々鍛錬している活人剣がここで炸裂した。
しかし、黒傘コウモリは起き上がり、すかさず反撃に出た。
「うわぁ!」
きせきがダメージを負う。思わずよろけてしまい、その場に膝をついてしまった。
「……!! よくもわたしの生徒を!」
御菓子はすぐにきせきを回復させる。いつもの優しい笑顔は消えた。本気で怒っている。
「う……ん、ありがろ……せんせー」
ろれつが回らないまま、きせきはなんとか立ち上がった。目の前の敵を睨みつける。その時、異変が起き始めた。霧がどこからともなくあらわれ、黒傘コウモリに纏わり憑いているのだ。黒傘コウモリは穴の空いた羽で霧を拡散しようとするも、だんだん霧は濃密になっていく。
「今がチャンスなんよ!」
凛が後方から叫んだ。纏霧を発動し敵の身体能力を低下させたのだ。
「うん!」
きせきは重い刀によろけるも、すぐさま体勢を立て直し黒傘コウモリに一撃食らわせる。刀の柄をぎゅっと握りしめる左手がビリビリと衝撃を感じる。
「キシャァァァ!!」
ダメージは黒傘コウモリを退治させるには十分だった。ボロボロになった黒い布片がはらはらと舞う。布片が地面に着くころ、糸ミミズが崖壁を這い上がり、その姿を見せた。
腐っているのか黒や紫の変色した無数のミミズ。腐臭をまき散らしベチョリ、ベチョリと近づいてくる。目の前に人間を襲うことしか興味がない。それが覚者か非覚者かなどは関係なかった。ただ、襲いたかった。ミミズがいっせいに激しくうねる。
伊達メガネをかけた四月二日がすかさず疾風斬りを放つ。糸ミミズに確実にダメージを与えた。ブレードの先が陽の光を反射させキラリと輝くが、刀身はヘドロのような液体が付着していた。四月二日は無言で、ブンと大きく音をたてブレードを振り、付着物を落とす。
糸ミミズは悲鳴こそあげることはないが、その身を襲うダメージを振り払うように全体をくねらせる。
「……気持ち悪い」
凛音がポツリと呟いた。思わず本音が出てしまったといった感じの呟きだった。皆も同じことを感じていたのだろう。全員、同意するようにうなずく。
前衛、中衛、合わせて五本の刃が次の一手を撃つタイミングを計る。その時、糸ミミズがひとしきり暴れ、前列を襲った。
「きゃぁ!」
紫の炎を纏う刀でミミズを避ける椿花、よろけながらも刀で防ぐきせき、そして、
「アハハハ!」
戦闘でハイになる零が、糸ミミズの攻撃に応戦した。
●洞窟からこだまするのは
「くうぅ……あははっは!!」
零が辛そうに唸りながら笑う。
前列の零、椿花、きせきが糸ミミズの攻撃にあった。できるかぎり防いでみたものの、やはりダメージは相当ある。
「なめんな」
そう言うと、凛音が呪句を唱えた。
経典が開く。
呪句を唱える声はしだいに大きくなる。同時に凛音の雰囲気が変わった。声はいつもの凛音の声だ。しかし、その一句、一句に言霊が宿っているのが分かる。呪句は目に見えない魔方陣のように円を描き仲間の怪我を癒し始めた。
「ふわぁ……ありがと! 凛音ちゃん」
椿花が笑う。
「……怪我は治してやるから、しっかり片づけような」
ぱたり、と経典を閉じながら凛音は言った。
凛音に続いて御菓子と凛も回復を施す。その間に祇澄が五織の彩で糸ミミズに攻撃を仕掛けた。
「もう、これ以上ひどいことはさせません!」
刀は弧を描き、糸ミミズを斬る。切り落とされたミミズがぼとぼとと落ちる。残りは刀を捕らえようと身を伸ばし迫ってきた。それを追い払うように、きせきの深緑鞭がミミズの動きを阻止する。
「うねうね攻撃対決だぁー!!」
しなる鞭の攻撃にミミズが後ずさる。
椿花はその隙を逃がさなかった。
「さっきのお返しなんだぞ!!」
地を這うような軌跡から飛び上がり刀が連撃で敵を討つ。攻撃をもろに受けたミミズは上半分が消えた。
そんなミミズの前にゆらりと零が立ちつくす。
「ごめんなさい、人間のために着実に殺します」
宣言すると同時に、尋常ならざるスピードで連続攻撃をしかけた。
残りの糸ミミズは一瞬電流が走ったようにその身を伸ばす。最後の力を振り絞って逃げるように後退する。だが、そのまま力尽き崖から落ちて海に消えていった。
妖はすべて退治した。まずそのことを雷魚に伝える。
「もう大丈夫なんよ。妖は2体とも退治したんやから」
雷魚の身長にあわせ、しゃがみこみ凛が報告する。
「おまえら強いら! ありがとら!」
チョコクリームを口につけた雷魚が嬉しそうにバンザイした。
「無事に妖も退治できたことだし、雷魚さんとセッションしたいな♪」
御菓子も凛の隣に来て同じようにしゃがんだ。
「せんしょん?」
初めて聞く言葉に雷魚は首を傾げる。
「セッションだよ。一緒に歌を歌ったり、演奏したりできたら楽しいと思うよ」
くすりと笑い四月二日が雷魚に教えた。
「お、オレっちと一緒に歌いたいのか……? でも、オレっち、人を楽しませる歌はもうずっと歌っていなかったから、どんな歌だったか忘れたら」
しょんぼりと雷魚は肩を落とす。
「雷魚さんはずっと一人で寂しくないの?」
零が思わず尋ねた。
「……寂しいら。毎日、祠でお願いしていたら。友達ができますようにって……」
大きな目から涙があふれた。
「椿花は雷魚と仲よくしたいんだぞ! 祠の前でもそうお願いしたんだぞ!」
「ほ、本当ら?」
「皆の歌を聴けば、雷魚さんも歌を思い出すんじゃないでしょうか?」
祇澄の提案に雷魚は大きくうなずいた。
「ワン、ツー、スリー……」
四月二日の掛け声でセッションがスタートした。雷魚は最初に零や凛音と一緒に歌を聴いた。体を揺らしリズムを取る。
「ふんふんふん~ら♪」
とうとう雷魚が嬉しそうに立ち上がる。そして、歌を歌うグループに混ざった。
覚者の歌う声と雷魚の歌う声が混じりあい、洞窟の中で響く。心地の良い歌声に、戦闘で疲れたきせきが眠りこけてしまった。
「う……ん。えへへ、雷魚さんとお友達……」
きせきの寝言に近くにいた仲間はおもわず笑ってしまった。
幸せな声色は、洞窟を抜け青い海と空にまで届いた。
楽しい時間もおわりがきた。洞窟の前まで雷魚は見送りに来た。
「雷魚さん……また会いに来てもいいですか?」
御菓子が尋ねた。雷魚は胸をどんと叩きうなずく。
「キミが歌いたい歌があるなら、俺が作ってくるよ。キミの言葉や、キミの持つイメージにぴったりな歌を」
四月二日が言う。
「うわーい! 嬉しいら。約束ら!」
雷魚は新しくできた友達をぎゅっと抱きしめる。
そして、覚者達を見送った。その姿が見えなくなっても、ずっと手をふりつづけた。
「は~い、皆さん到着。ここがあの雷魚の祠みたいね!」
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)が祠の前でくるりと後ろを振り返り、微笑んだ。
「うわぁ、みかこおねーさん、本物の先生みたいだぁ!」
『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)と、からかう。
「わたし、本当に先生ですってば~!」
頬をふくらませ抗議するように御菓子がきせきの隣に立つが、14歳になったばかりの少年ですら見上げてしまうほど御菓子は小柄だった。そのうえ、御菓子の見た目は少女そのものだ。はたから見ると同い年の子が二人で戯れているようだった。
「ふふ、ごねんね、向日葵せんせー」
「そうです! せんせーなのです!」
じゃれ合う二人のそばを通り抜け、神室・祇澄(CL2000017)が祠に挨拶しようと近づいた。しかし、彼女は首をかしげる。
「あれ?」
「すすむさん、どうしたん?」
茨田・凛(CL2000438)が尋ねる。
「ええ、供えられたサカキが枯れているのかと思っていたのですが、どうやら枯れ枝そのものを供えているようです……」
「枯れ枝……?」
『裏切者』鳴神 零(CL2000669)も不思議そうに首をかしげた。黒い狐の面を被る彼女の表情は見えないが、困惑しているようだった。
「子供のイタズラかな? でも、それならお菓子なんかが周囲に散乱しているものだけど……」
「おぉ、いま探偵の洞察力を目の当たりにした気分。零さん、かっこいいやん!」
凛が拍手する。
「そ、そんな探偵っていっても心霊探偵なんだけどね」
零の首から胸元がみるみる赤くなっていく。仮面の中の顔はそれ以上に赤くなっているのだろう。
「ふむ、祠にイタズラなんてひどいんだぞ! ちかのお母さんが作ったカップケーキお供えするぞ! ……雷魚も喜ぶかな?」
『天衣無縫』神楽坂 椿花(CL2000059)がそっとカップケーキを供えた。その様子を見ていた香月 凛音(CL2000495)が微笑み、
「ああ、喜ぶだろう」
と言うと、拍手を一度打ち、深く一礼した。皆もそれに続くように参拝を始めた。
古い祠だった。屋根の朱色は剥げ、木ももろくなっている。ずいぶん昔に置かれたカップ酒はラベルの色が薄くなり、たまった雨水にアメンボウが一匹浮いていた。
「おや?」
皆の背後にいた四月一日 四月二日(CL2000588)が足元に光る何かに気づいた。四月二日はしゃがみこみ光るそれを手のひらに乗せた。それは薄いガラス片のようだった。よく見ると、周囲にいくつか落ちている。落ちているガラス片にそって歩くと洞窟に辿りついた。
「おい、皆……」
言いながら、振り返る。が、皆はまだ参拝中だった。四月二日は頬をぽりぽりと掻き、皆の元に戻ると一緒に参拝を始めた。
祠の前で覚者達は、これから出会うであろう雷魚に気持ちを込めて祈った。
「さて、そろそろ行くん? えいじさん、さっき何言おうとしたん?」
凛が背伸びしながら言うと同時に覚醒する。肩の刺青が空色に輝きだした。
「ぼくも気になってた!」
赤い瞳に青色の髪になったきせきが四月二日に駆け寄る。四月二日は伊達メガネをかけ、拾った小さなガラス片を皆に見せた。
「そこの穴に向かって、いくつも落ちていたんだ……」
「綺麗なガラス片なんだぞ! ちょっと花びらに似てるぞ。ねっ!」
椿花が凛音を見上げる。
「……あれ? 凛音ちゃん、椿花とおそろい!」
覚醒後の二人は、髪の色といい瞳の色といいどことなく雰囲気が似ていた。
凛音は椿花の頭を軽くぽんぽんしつつ、
「と、とりあえず、行こうぜ」
少し照れくさそうに言う。
「そうですね。一般人もいるみたいですし、漁師さんのこともありますし、早めに片づけてしまいたいです」
祇澄はこくりと頷いた。長い前髪の隙間から見える青い瞳は、強い決意を見せていた。
「では、行きますね」
零が最初に洞窟に入った。つぎに椿花ときせきが続く。順に仲間が暗い穴に消えていく。最後の凛音の順番がきた。彼は後ろを振り返り、人がいないか確認した。と、遠くの松の木の後ろで何かが動く影が見えた。小さな生き物だ。人ではない。
「……カラスか?」
凛音は首をかしげ、そのまま洞窟に入って行った。
●気配
「……そこは右に、左の道を選ぶと行き止まりのようです」
土の心で地形を把握する祇澄が、複雑に枝分かれする道を的確に選ぶ。
零と椿花の守護使役が道の先を照らす。懐中電灯の明かりで洞窟内を見わたし、光の届かない場所は、それぞれのスキルを使い用心深く確認した。武器はまだ手に持っていない。守護使役に預けたまま、もしくは服の中に隠したままだ。慎重に進まざるを得なかった。
「皆さん、足元に気をつけてくださ……わぁっ!?」
何か怪しいものはないか探ろうとした祇澄は、地面のくぼみにつまずいた。
「大丈夫? 神室さん?」
心配そうに御菓子が駆け寄る。
「ええ、大丈夫です。ちょっと転んじゃった。てへ」
そんな二人のやり取りをそばで見ていた四月二日の目の端に、何かが動いた。とっさにそちらを見る。
「もしかして……」
懐中電灯の明かりを向けた。そこには全身緑色の背の低い生き物がじっと祇澄と御菓子を見つめている。鱗に覆われた下半身、ぽっかり開いた口から見える青い牙。間違いなく古妖の雷魚だ。黄色い目玉焼きのような大きな目が、覚者達に見られていることに気づき、瞬きを繰り返す。
「……あっ、やばい。えっとえっと、お前らここで何してるのら! ここはオレっちの洞窟なのら。こうも次から次へとヘンなのが入り込んで困るのらぁ!」
四月二日は頭を掻き、
「大丈夫、キミをどうにかしようなんて思ってないぜ。キミのイライラの原因が俺たちにも邪魔くさくてな。退治させてほしい」
と、言った。
「そ、そんなの信じられないら!」
御菓子は首を横に振り、生徒に話しかけるように雷魚の目を見る。
「雷魚さんはある意味、巻き添えだもの。争いたくないわ。あなたの縄張りを荒らす2体の妖を退治しにきたのよ」
「に、2体? あのコウモリ以外にまだいるのら?」
祇澄は雷魚に歩み寄り、
「こんにちは、雷魚さん……ですよね。私たちは奥で争いを始める妖たちを退治しにきました」
「で、でも、信じられないら……。お、お前たち、嘘ついてオレっちを食べるつもりら!?」
5歳児ほどの身長の雷魚がプルプル振るえだした。しかし、
「ねぇ、口元についているの、カップケーキのカス? もしかして、祠にお供えした椿花のカップケーキ食べてくれた?」
椿花が嬉しそうに訊く。さっきまで興奮していた雷魚がとたん真っ赤になる。
「じゃぁ、ボクの大好きなチョココロネもどうぞ!」
きせきが差し出したチョココロネを嬉しそうに抱く雷魚。
「おまえら、おまえら……イイ奴なのら。こんなに親切にされたのは何十年ぶりら。最近じゃ、祠に来てくれる人間もいなくなって、オレっちが祠の掃除や木を飾っていたのらぁ」
「じゃぁ、あの枯れ枝は雷魚がやってたん?」
凛の問いかけに、ぶんぶんと頭を振り頷く。
「人間は木の枝を飾るのが好きみたいだから真似したら。今朝も枝を飾って散歩してたら、お前たちが来たんで、遠くから隠れて眺めてたら」
「……ああ、分かった。地面に落ちていたガラス片は雷魚の鱗だ」
凛音が苦笑いを浮かべ、四月二日と顔を見合わせる。四月二日もまた小さな笑みを浮かべていた。
「ねぇ、雷魚様。できればどこに妖がいるのか、教えていただけたらいいな☆ なんてね……」
零はおそるおそる雷魚に近づき、祠でお願いしたことを口にしてみた。
「まかせるらぁぁ! オレっちについて来るらぁ!」
雷魚はドンと自分の胸を叩き、覚者達を奥へ案内した。
●激突
「この奥ら。気をつけろ。コウモリ以外に何かが海から這ってきている気配がするら!」
雷魚の案内で敵の近くまで辿りついた。波の音に混じり、バサバサと黒傘コウモリが羽ばたく音がする。
「あ、ありがとうございます。雷魚様」
零は感謝の気持ちを告げると、神具の大太刀鬼桜を出現させ敵のもとへ向かった。
向かった先は、洞窟の出口だった。海が見える。陽の光が波に反射し、それが洞窟の天井でキラキラと揺れていた。
「キィキィ!」
陽の光を背に羽ばたきながら威嚇の声をあげる黒傘コウモリに御菓子は、
「こんなところにいたのね!」
と叫ぶ。透き通るような凛とした声音が洞窟内に響く。
「キィー!!」
覚者達と妖の戦闘が始まった。
仲間が次々と身体能力を上げていく。その横で、椿花が上段のかまえから大きく刀を敵に振り下ろす。
「今回は怪我しないように頑張るんだぞ!」
紫色の炎を纏った刀は、黒傘コウモリめがけて五織の彩を放った。
ボンッという音と共に敵は空中で急旋回しだした。
「いきますよ。無駄な争いはここで止めます!」
祇澄も続けざまに五色の彩を放つ。長い前髪から見える青い瞳は確実に敵を捉えていた。地面に落ちる黒傘コウモリに祇澄の攻撃は当たった。地面に強く叩き着けられたあと、吹き飛んだ。
刀と禅の融合である活人剣。武人としての精神を養い、正義のために刃を抜く。祇澄が日々鍛錬している活人剣がここで炸裂した。
しかし、黒傘コウモリは起き上がり、すかさず反撃に出た。
「うわぁ!」
きせきがダメージを負う。思わずよろけてしまい、その場に膝をついてしまった。
「……!! よくもわたしの生徒を!」
御菓子はすぐにきせきを回復させる。いつもの優しい笑顔は消えた。本気で怒っている。
「う……ん、ありがろ……せんせー」
ろれつが回らないまま、きせきはなんとか立ち上がった。目の前の敵を睨みつける。その時、異変が起き始めた。霧がどこからともなくあらわれ、黒傘コウモリに纏わり憑いているのだ。黒傘コウモリは穴の空いた羽で霧を拡散しようとするも、だんだん霧は濃密になっていく。
「今がチャンスなんよ!」
凛が後方から叫んだ。纏霧を発動し敵の身体能力を低下させたのだ。
「うん!」
きせきは重い刀によろけるも、すぐさま体勢を立て直し黒傘コウモリに一撃食らわせる。刀の柄をぎゅっと握りしめる左手がビリビリと衝撃を感じる。
「キシャァァァ!!」
ダメージは黒傘コウモリを退治させるには十分だった。ボロボロになった黒い布片がはらはらと舞う。布片が地面に着くころ、糸ミミズが崖壁を這い上がり、その姿を見せた。
腐っているのか黒や紫の変色した無数のミミズ。腐臭をまき散らしベチョリ、ベチョリと近づいてくる。目の前に人間を襲うことしか興味がない。それが覚者か非覚者かなどは関係なかった。ただ、襲いたかった。ミミズがいっせいに激しくうねる。
伊達メガネをかけた四月二日がすかさず疾風斬りを放つ。糸ミミズに確実にダメージを与えた。ブレードの先が陽の光を反射させキラリと輝くが、刀身はヘドロのような液体が付着していた。四月二日は無言で、ブンと大きく音をたてブレードを振り、付着物を落とす。
糸ミミズは悲鳴こそあげることはないが、その身を襲うダメージを振り払うように全体をくねらせる。
「……気持ち悪い」
凛音がポツリと呟いた。思わず本音が出てしまったといった感じの呟きだった。皆も同じことを感じていたのだろう。全員、同意するようにうなずく。
前衛、中衛、合わせて五本の刃が次の一手を撃つタイミングを計る。その時、糸ミミズがひとしきり暴れ、前列を襲った。
「きゃぁ!」
紫の炎を纏う刀でミミズを避ける椿花、よろけながらも刀で防ぐきせき、そして、
「アハハハ!」
戦闘でハイになる零が、糸ミミズの攻撃に応戦した。
●洞窟からこだまするのは
「くうぅ……あははっは!!」
零が辛そうに唸りながら笑う。
前列の零、椿花、きせきが糸ミミズの攻撃にあった。できるかぎり防いでみたものの、やはりダメージは相当ある。
「なめんな」
そう言うと、凛音が呪句を唱えた。
経典が開く。
呪句を唱える声はしだいに大きくなる。同時に凛音の雰囲気が変わった。声はいつもの凛音の声だ。しかし、その一句、一句に言霊が宿っているのが分かる。呪句は目に見えない魔方陣のように円を描き仲間の怪我を癒し始めた。
「ふわぁ……ありがと! 凛音ちゃん」
椿花が笑う。
「……怪我は治してやるから、しっかり片づけような」
ぱたり、と経典を閉じながら凛音は言った。
凛音に続いて御菓子と凛も回復を施す。その間に祇澄が五織の彩で糸ミミズに攻撃を仕掛けた。
「もう、これ以上ひどいことはさせません!」
刀は弧を描き、糸ミミズを斬る。切り落とされたミミズがぼとぼとと落ちる。残りは刀を捕らえようと身を伸ばし迫ってきた。それを追い払うように、きせきの深緑鞭がミミズの動きを阻止する。
「うねうね攻撃対決だぁー!!」
しなる鞭の攻撃にミミズが後ずさる。
椿花はその隙を逃がさなかった。
「さっきのお返しなんだぞ!!」
地を這うような軌跡から飛び上がり刀が連撃で敵を討つ。攻撃をもろに受けたミミズは上半分が消えた。
そんなミミズの前にゆらりと零が立ちつくす。
「ごめんなさい、人間のために着実に殺します」
宣言すると同時に、尋常ならざるスピードで連続攻撃をしかけた。
残りの糸ミミズは一瞬電流が走ったようにその身を伸ばす。最後の力を振り絞って逃げるように後退する。だが、そのまま力尽き崖から落ちて海に消えていった。
妖はすべて退治した。まずそのことを雷魚に伝える。
「もう大丈夫なんよ。妖は2体とも退治したんやから」
雷魚の身長にあわせ、しゃがみこみ凛が報告する。
「おまえら強いら! ありがとら!」
チョコクリームを口につけた雷魚が嬉しそうにバンザイした。
「無事に妖も退治できたことだし、雷魚さんとセッションしたいな♪」
御菓子も凛の隣に来て同じようにしゃがんだ。
「せんしょん?」
初めて聞く言葉に雷魚は首を傾げる。
「セッションだよ。一緒に歌を歌ったり、演奏したりできたら楽しいと思うよ」
くすりと笑い四月二日が雷魚に教えた。
「お、オレっちと一緒に歌いたいのか……? でも、オレっち、人を楽しませる歌はもうずっと歌っていなかったから、どんな歌だったか忘れたら」
しょんぼりと雷魚は肩を落とす。
「雷魚さんはずっと一人で寂しくないの?」
零が思わず尋ねた。
「……寂しいら。毎日、祠でお願いしていたら。友達ができますようにって……」
大きな目から涙があふれた。
「椿花は雷魚と仲よくしたいんだぞ! 祠の前でもそうお願いしたんだぞ!」
「ほ、本当ら?」
「皆の歌を聴けば、雷魚さんも歌を思い出すんじゃないでしょうか?」
祇澄の提案に雷魚は大きくうなずいた。
「ワン、ツー、スリー……」
四月二日の掛け声でセッションがスタートした。雷魚は最初に零や凛音と一緒に歌を聴いた。体を揺らしリズムを取る。
「ふんふんふん~ら♪」
とうとう雷魚が嬉しそうに立ち上がる。そして、歌を歌うグループに混ざった。
覚者の歌う声と雷魚の歌う声が混じりあい、洞窟の中で響く。心地の良い歌声に、戦闘で疲れたきせきが眠りこけてしまった。
「う……ん。えへへ、雷魚さんとお友達……」
きせきの寝言に近くにいた仲間はおもわず笑ってしまった。
幸せな声色は、洞窟を抜け青い海と空にまで届いた。
楽しい時間もおわりがきた。洞窟の前まで雷魚は見送りに来た。
「雷魚さん……また会いに来てもいいですか?」
御菓子が尋ねた。雷魚は胸をどんと叩きうなずく。
「キミが歌いたい歌があるなら、俺が作ってくるよ。キミの言葉や、キミの持つイメージにぴったりな歌を」
四月二日が言う。
「うわーい! 嬉しいら。約束ら!」
雷魚は新しくできた友達をぎゅっと抱きしめる。
そして、覚者達を見送った。その姿が見えなくなっても、ずっと手をふりつづけた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
この度は、妖撃退依頼に参加していただきありがとうございます。
皆さんの活躍のおかげで洞窟内の平和は取り戻せました。これで観光客も襲われる心配はありません。
雷魚は、また皆さんとあえる日を楽しみにしているようです。機会があれば遊んであげてください。
皆さんの活躍のおかげで洞窟内の平和は取り戻せました。これで観光客も襲われる心配はありません。
雷魚は、また皆さんとあえる日を楽しみにしているようです。機会があれば遊んであげてください。
