<ヒノマル陸軍>鉄壁巨兵、淀
●中間管理職、淀カズヒト。
とある居酒屋にて。喧噪の中で小さな卓を挟む二人の男がいた。
「聞きましたか隊長。暴力坂総帥が戦争の準備をしているらしいですよ」
夜中でもサングラスを外さず、ビールをスルメでグイグイ行く男。長島。
「戦争の準備? そんなもん毎日してるだろうが。この前だって核分裂の実験施設をだな……」
常人の倍はあろうかという体格で焼酎をがぶ飲みする男。淀カズヒト。
彼らはヒノマル陸軍に籍を置く隔者である。
だがしかし、京都作戦のような『ひ弱な組織を煽るための作戦』くらいにしか起用されない、いわゆる使いっ走り要員であった。(※念のため解説しておくと、京都襲撃作戦は黎明という小さな偽組織を潰すためだけの作戦だとされていた。当時ファイヴは知られてすらいなかった)
「そっちの戦争じゃありませんよ。『戦争のための戦争』。国内での覚者戦争ですよ」
「ナニッ!? なら我ら鉄壁兵団の出番じゃないのか!?」
「いやあ……でも総帥自ら戦闘に加わるそうですから、僕ら下っ端は出番無いんじゃあ……」
「……」
淀は表情をなくし、グラスをテーブルに置いた。
「長島よ。我らが戦場からのけ者にされるということはだ……つまり存在意義ナシということではあるまいか」
「……隊長」
「このままではいかん!」
淀は立ち上がり、一万円札を三枚テーブルに叩き付けると駆け足で店を飛び出した。
――その六時間後、ヒノマル陸軍の秘密倉庫に管理されていたとある装備が持ち出された。
●破綻者、淀カズヒト
憤怒者組織Kブレイズは隔者犯罪に立ち向かう非覚者戦闘組織である。
だがそのアジトが今、たった一人の隔者によって崩壊しつつあった。
「撃て撃て! 相手は一人だ、囲んで潰せ!」
機関銃を備えた兵隊が扇状に展開し、発射レバーをめいっぱいに握り込んだ。
集中砲火を浴びているのは巨大な黒い金属塊だ。
全身鎧のようにも見えるそれは、一切の隙間も見えない謎の素材でできていた。
初見の印象で言えば、黒金のゴーレムである。
ゴーレムは飛来する弾の全てを全身の装甲で弾くと、ショルダータックルの構えをとった。
とった次の瞬間には姿が消え、展開した兵隊の位置に立っていた。
遅れてズドンという音が響く。振り向けば、兵隊が壁にめり込んで潰れていた。
音より早く体当たりを仕掛けたのだと気づいたときには既に遅い。ゴーレムはタックルの構えをとり――次の瞬間には展開していた全ての兵隊が壁にめり込んで死亡した。
「ぐ、グふ……ガは、ハハは……や、ヤったゾ……」
ゴーレムは壁を粉砕し、屋外へとまろび出た。
建物の中からはもう何の音も聞こえない。全員死んだからだ。
「わ、ワシが、ひ、ヒトリ、で……」
「隊長!」
ジープをとめ、駆け寄ってくる長島。
鎧の顔面装甲が構造不明の動きで開き、淀の顔を露出させる。
「あア……長島……ミろ、これヲ……ヒト、リデ……ワシ、が……」
「今すぐ『黒屍』を脱いでください! それは呪われた装備ですよ!?」
「イイ……んダ……ちから、さエ、あれバ……ワシら、は、立場、ヲ……守レ……」
「そんなこといいですから! 隊長、早――!」
形容しがたい音を立てて顔の装甲が閉じた。
淀の姿は消え、長島はジープのボンネットにめり込まされていた。
「ぐっ!」
直後、爆発。
黒い塊となった長島を見下ろして、数秒。
淀は破壊の塊となり、空に向けて吠えた。
●ファイヴ、出動
破綻者『淀カズヒト』を夢見が感知。
死者多数。住宅地へ移動を開始する模様。
現地から移動する前に目標を殲滅せよ。
繰り返す――。
とある居酒屋にて。喧噪の中で小さな卓を挟む二人の男がいた。
「聞きましたか隊長。暴力坂総帥が戦争の準備をしているらしいですよ」
夜中でもサングラスを外さず、ビールをスルメでグイグイ行く男。長島。
「戦争の準備? そんなもん毎日してるだろうが。この前だって核分裂の実験施設をだな……」
常人の倍はあろうかという体格で焼酎をがぶ飲みする男。淀カズヒト。
彼らはヒノマル陸軍に籍を置く隔者である。
だがしかし、京都作戦のような『ひ弱な組織を煽るための作戦』くらいにしか起用されない、いわゆる使いっ走り要員であった。(※念のため解説しておくと、京都襲撃作戦は黎明という小さな偽組織を潰すためだけの作戦だとされていた。当時ファイヴは知られてすらいなかった)
「そっちの戦争じゃありませんよ。『戦争のための戦争』。国内での覚者戦争ですよ」
「ナニッ!? なら我ら鉄壁兵団の出番じゃないのか!?」
「いやあ……でも総帥自ら戦闘に加わるそうですから、僕ら下っ端は出番無いんじゃあ……」
「……」
淀は表情をなくし、グラスをテーブルに置いた。
「長島よ。我らが戦場からのけ者にされるということはだ……つまり存在意義ナシということではあるまいか」
「……隊長」
「このままではいかん!」
淀は立ち上がり、一万円札を三枚テーブルに叩き付けると駆け足で店を飛び出した。
――その六時間後、ヒノマル陸軍の秘密倉庫に管理されていたとある装備が持ち出された。
●破綻者、淀カズヒト
憤怒者組織Kブレイズは隔者犯罪に立ち向かう非覚者戦闘組織である。
だがそのアジトが今、たった一人の隔者によって崩壊しつつあった。
「撃て撃て! 相手は一人だ、囲んで潰せ!」
機関銃を備えた兵隊が扇状に展開し、発射レバーをめいっぱいに握り込んだ。
集中砲火を浴びているのは巨大な黒い金属塊だ。
全身鎧のようにも見えるそれは、一切の隙間も見えない謎の素材でできていた。
初見の印象で言えば、黒金のゴーレムである。
ゴーレムは飛来する弾の全てを全身の装甲で弾くと、ショルダータックルの構えをとった。
とった次の瞬間には姿が消え、展開した兵隊の位置に立っていた。
遅れてズドンという音が響く。振り向けば、兵隊が壁にめり込んで潰れていた。
音より早く体当たりを仕掛けたのだと気づいたときには既に遅い。ゴーレムはタックルの構えをとり――次の瞬間には展開していた全ての兵隊が壁にめり込んで死亡した。
「ぐ、グふ……ガは、ハハは……や、ヤったゾ……」
ゴーレムは壁を粉砕し、屋外へとまろび出た。
建物の中からはもう何の音も聞こえない。全員死んだからだ。
「わ、ワシが、ひ、ヒトリ、で……」
「隊長!」
ジープをとめ、駆け寄ってくる長島。
鎧の顔面装甲が構造不明の動きで開き、淀の顔を露出させる。
「あア……長島……ミろ、これヲ……ヒト、リデ……ワシ、が……」
「今すぐ『黒屍』を脱いでください! それは呪われた装備ですよ!?」
「イイ……んダ……ちから、さエ、あれバ……ワシら、は、立場、ヲ……守レ……」
「そんなこといいですから! 隊長、早――!」
形容しがたい音を立てて顔の装甲が閉じた。
淀の姿は消え、長島はジープのボンネットにめり込まされていた。
「ぐっ!」
直後、爆発。
黒い塊となった長島を見下ろして、数秒。
淀は破壊の塊となり、空に向けて吠えた。
●ファイヴ、出動
破綻者『淀カズヒト』を夢見が感知。
死者多数。住宅地へ移動を開始する模様。
現地から移動する前に目標を殲滅せよ。
繰り返す――。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.淀カズヒトの殲滅
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
淀は憤怒者施設を破壊し、自己のダメージ修復に当たっています。
施設は二階建ての鉄筋コンクリート構造。あちこちに穴があき、建物自体が既にもろくなっています。
淀は建物内にて修復中と思われます。
●エネミーデータ
土行械の因子、破綻者3。
全ての戦闘能力がブーストされ、理性を失ったバケモノと化してします。
無頼漢、琴富士、鉄甲掌を使い、きわめて高い防御力と体力を持っています。
反面命中補正と回避補正が若干(あくまで若干)低いのが弱点ですが、100%ヒットを見込むにはよほど高い命中力が必要になるでしょう。
●補足情報
・黒屍(くろかばね)
淀が装備している鎧型神具です。呪われた力を持ち、使用者の能力を極限まで引き出す一方、高確率で暴走させてしまいます。
・ヒノマル陸軍
七星剣直系組織。目的は第三次世界大戦。
ファイヴが初めての大規模決戦を行なった相手。
・淀カズヒト
京都作戦において黄昏城前で鉄壁兵団を率いていた。
長島はその時の副官。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年09月18日
2016年09月18日
■メイン参加者 6人■

●灰よ、悟り白夜の火となれば
ジープが止まり、運転席のドアが開く。
『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は軍帽を被り直し、灰と黒煙のあがる車を見た。
「武器コンペに憤怒者の襲撃……ついに目に見える形で動き始めたか」
暗殺者が足を踏みならさぬように、力ある組織は動いていることを他者に悟らせない。
悟らせる時は他者を動かしたいときか、もしくは悟られても良いほどに準備を整えた後である。
いつまでも動きを見せないと侮っていれば、一方的に奪われることになるだろう。
ゆえに、油断はしない。
「淀カズヒト。破綻者である上に呪いの装備とは、ぞっとしない」
「そーか? 強そうじゃん!」
ぐいぐいと腕のストレッチを始める鹿ノ島・遥(CL2000227)。
「ヒノマルさんは気持ちよくバトれるから好きなんだよな!」
戦争行為を忌避している節のある千陽は『何を子供のようなことを』という目で見たが、改めてみれば子供である。人間は基本、そんなものかもしれない。
『介錯人』鳴神 零(CL2000669)も、仮面で表情こそ読み取れないがこれから起きる戦いに興奮している様子だけは十分すぎるほど伝わってくる。
納屋 タヱ子(CL2000019)が盾をしっかりと腕に固定しつつ、深く呼吸を整え始めていた。
敵が見えないといえども、ここは既に戦場なのだ。
「大丈夫ですか? 相性が悪いようですが」
「それでも、がんばります」
コンディションは整ったようだ。
タヱ子の表情に迷いや焦りはない。
零が無言の圧力で『はやくいこう』と促してきた。
遥は頷いて、拳をぎゅっと握り込んだ。
「っしゃ、行くか! センソーしようぜ、ヒノマルさん!」
進む仲間たちの後ろについて歩く『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)。
「下っ端は大きな作戦に呼ばれないなんて、世知辛いねえ。それに戦争の準備っていうけど、それってかなり重要な問題なんじゃあないかな」
「……どうでしょう。下っ端を自称する方の、それも小耳に挟んだ程度の話だそうですから、真に受けるのは少々……」
言葉を選んで結局何も言わないことにした『迷い猫』柳 燐花(CL2000695)。
恭司も言わんとしたことをは理解しているようで、苦笑で返した。
「はは、いい大人がスポーツ誌を盲信するようなことを言ったらダメだよねえ」
「別にそこまでは」
一度目をそらし、燃えるジープを見やる。
「淀という方は、兵団の立場を憂いて力を求め、全て喪ったという状況なのでしょうか」
「誰にでも、あることだけどね」
「だから起こっていいわけでは」
「ないよね。だから僕たちがここにいる」
恭司はさりげない動作で小さなカメラを取り出すと、燃えるジープを撮影した。
●虚妄の野火に神は成る
「どこからか、音が……」
屋内で身を休めているという淀を襲撃すべく憤怒者施設へと侵入した千陽たち。
慎重に進む彼らの中で、恭司がびくりと肩をふるわせた。
「――後ろだ!」
振り向く恭司。ひび割れる壁。距離にしておよそ1m。
壁が破壊され、ショルダータックル姿勢の淀が飛び出してきたのと燐花が恭司の腕を掴んで引っ張ったのはほぼ同時のことだった。
180度反転し、盾を構えるタヱ子。
淀のタックルを受け止めはしたものの、そのまま廊下を十メートル近く吹き飛ばされていった。
幾度のバウンドの末に小石だらけの床を転がるタヱ子。
「とんでもなく、重い攻撃……」
「心配いりません。納屋嬢は防御体勢を整えてください!」
真横を飛んでいったタヱ子を一瞥してから、千陽は素早く銃を抜いた。
「総員対バックアタック――隊列の修復を早く!」
淀に向けて銃を乱射。
対する淀はタックルの姿勢を一度解き、周囲をぐるりと見回していた。緩慢な動きなれど、全身の装甲は弾を傘に落ちる雨粒のごとく弾いていく。
「随分な場所に左遷されたようだな。不格好な鎧で――」
暴言を吐きつけて興奮させる作戦に出た。いや、出ようとした。
しかし淀は話を聞く様子すらなく、千陽の胸めがけてパンチを叩き込んできた。
あばら骨と内臓がまとめて押しつぶされたような衝撃に顔をしかめる。
相手の隙をつくつもりが、隙をうかがう動作そのものが自らの隙になってしまったようだ。いわゆる逆効果である。
直後、淀の後頭部に跳び蹴りが叩き込まれた。
燐花が死角から打ち込んだものであるがしかし、首の角度すら変わることが無い。
「装甲が硬い――ならば」
ジャンプでついた勢いをそのままに壁を蹴って反転。逆手に握ったクナイを淀の脇腹に叩き込んだ。
「手数で勝負するのみです。雨だれ石を穿つと言いますから」
しかし刃が通らない。これがステンレス包丁なら折れていたのではと思うほどの反動に燐花も僅かに目を細める。
本当にダメージが入っているのかすら不安になるほど、淀の反応は無かった。
小さな虫を払うかのごとく腕を翳す。
その時。
「ちょっとまったぁー!」
遥が跳び蹴りを叩き込んだ。
燐花の振り込むような蹴りとは根本的に違う、ダッシュの勢いと伸び足踵による『突き』を重視したミサイルのような蹴りである。
翳した腕を防御に回す淀。
手のひらを打った蹴りが衝撃を生み、周囲の壁や塵を揺らした。
即座に後ろへ飛び退く千陽と燐花。
「相手はオレだ! さあ戦おうぜ、おっさん!」
遥は蹴りつけの状態から膝を曲げ、バク転をかけてからカラテの姿勢で着地した。
後ろから呼びかけるタヱ子。
「持久戦に持ち込んで体力切れを待つのは得策じゃありません。ここは短期決戦で」
「分かってるって! ガーッと行ってドンだろ!」
「シンプル!」
零が殆ど鉄棍棒のようになった剣を抜き、強引に突撃をかけた。
地面と壁を削り、火花と欠片を散らしながらひたすら強引に剣を叩き込む。
これまで使っていなかった腕を翳し、剣を受け止める淀。
剣を握り込み、タックルの姿勢へ移行。
「来ます、避けて!」
「来なさい、受ける!」
零の顔面へ叩き込まれるショルダータックル。
常人なら即死、武装した憤怒者であっても即死したかも知れないような衝撃に零は吹き飛び、その後ろで構えていた遥もろとも倒される。
が、まるでこたえていないという顔で零は立ち上がった。
「立場が欲しいか。役目が戦場が勝利が力が欲しくてたまらないか――その意気や、よし!」
剣は手元に無いが知ったことでは無い。
拳を握り込み、再び殴りかかる。
「君は兵士として何も間違っていない!」
ボディーブロー。
更に身体をふって連続でパンチを叩き込んでいく。
「あなたたちはずっと、戦場と武器と破壊と火薬と血と生と死だけを求めていたじゃない! あなたは意識も心も兵器に呑まれてきっと本望でしょう! ご覧なさいよ豪華絢爛、ここがあなたの大好きな戦場よ!」
両腕をだらんと垂らしたままの淀。
淀はゆすられもしないが、零は血まみれになった拳で渾身のパンチを叩き込んだ。
その瞬間、零の頭上を飛び越えた遥が顔面めがけて突きを叩き込んだ。
初めて半歩さがる淀。
その隙にそばへ突き立った剣をとり、零は足払いの要領でフルスイングをしかけた。
「ここで死ね! 淀カズヒト、戦場で死ねェ!」
転倒――はしない。淀は器用に半受け身をとると、身を転がして後退。
自らが破壊した壁の穴を抜けて奥へと撤退した。
「逃がすか!」
「待って」
反射的に追いかけようとした遥と零を、恭司が腕を掴んで止めた。
癒やしの雨を展開しながら様子をうかがう。
「なんだか嫌な予感がするんだよね。深追いは気をつけた方がいい」
「確かに……」
千陽はあえて周りに退くように合図を出した。
「自分も『土の心』で把握を試みていますが……」
中恭介の言葉を思い出していた。去年十二月末ごろ、研究内容に対する質問会を開いた時のことだが、『基本的に土地の高低や地下構造のみという認識で問題ない。あくまで地形に対するのため、地形の上にある構造物については把握しきれないようだ』と述べていた。
「何か分かったのか?」
「いえ、充分には……。しかし少し歩いた感触として、内部が多少入り組んでいることは察しがつきます。恐らく淀は狭く入り組んだ場所に誘導して自分に有利な戦いをするつもりでしょう」
「理性が死んでいるのにそんなことができるものでしょうか」
次にどこから襲ってきてもいいように気を張るタヱ子。
それには遥が当たり前のように応えた。
「できるんじゃねーの? 熊とか虎とか、なんとなく自分に有利な場所しってんじゃん」
「……戦ったことでも?」
「ともかく」
恭司は皆の体調を一旦整えてから、進路を確認した。
「落とし穴やブービートラップを仕掛ける知能があるとは思えないけど、有利な地形くらいは察していそうだよね。こっちも誘いには乗らないようにしよう」
かくして彼らは、その場からあえて離れる選択肢をとった。
それから暫くの間、淀による単発的な襲撃が続いた。
タヱ子の言うように短期決戦が望ましい相手だが、それを相手も本能的に分かっているのだろう。壁や家具を壊して突然現われては数発叩き込み、こちらの攻撃態勢が整う頃になって逃げていくのだ。
「これは、かなり困りましたね……」
タヱ子はかなり疲労した様子で呟いた。
彼女の防御が整うまでマックスで4ターンかかる。特に蒼炎の導が3ターンしかもたないので、こちらは常に空振りを続けるような状態だ。
恭司から貰ったエナジードリンクでなんとか気力を回復させているが、いつまでも続けたい勝負ではない。
というか、恭司が大填気を活性していなかったら今頃には全滅もありえた状況である。ちなみにそれでも単発襲撃一回分(それも6人全員分)の気力をフォローしきれないので、減る一方である。
「なんとか有利な場所におびき出すか不利を覚悟で突入するかしませんと、じり貧になりますね……」
「私は突入でもいいけど?」
かくんと首を傾げる零。彼女のスタイルはパッシブで固めて物理で殴るというかなりシンプルなもので、淀の無頼漢をマトモにくらって負荷状態になることは多々あっても、せいぜい最終ダメージ値がちょっと下がる程度でしょということで構わず殴りかかっていた。気力がつきてもそういう意味ではリスクが薄い。
「オレもいいぜ! 受け身はそろそろ疲れてきたしな!」
ばしんと壁を殴る遥。
彼も彼で五織の彩だけを使うことで気力を節約しているので、淀の戦術による苦労はあまりない。
『どうしますか』という目で恭司を見る千陽。
その視線を受けて、恭司はいつのまにか状況判断の役割が自分に回ってきていたことに気がついた。
確かに、淀の接近をいち早く気づける彼はこの状況においてかなり頼りになる。
ファーストアタック時にも淀の不意打ちを見事に察することができた。
「そうだねえ……」
一度燐花の顔を見る。そして、胸ポケットから取り出した写真を見る。一年ほど前の京都を撮影したものだ。
「そうだね、思い切って行ってみようか。それに有利な場所に移る手がないでもないんだ。ちょっとちょっと」
恭司は千陽と遥に手招きをした。
●知るは難き無窮の光を
崩壊する壁。
と同時に、遥は正拳突きを叩き込んだ。
タックルと突きが正面からぶつかり合い、激しい衝撃波を散らしていく。
足に逃がした衝撃は放射状に広がるヒビとなり、周囲の壁へとのびていく。
「そうだ、オレを見ろ! オレはお前の敵だ!」
「今!」
恭司の呼びかけに、千景は頷いた。
術式を纏わせたナイフを地面に叩き付ける。
その途端、ひび割れた地面が思い切り崩壊した。
千陽たちは自由落下。
数メートル下のコンクリートに身体を打ち付けるが、歯を食いしばってこらえた。
なぜなら――。
身体を起こし、淀はハッとした様子を見せた。
彼を囲む固い壁。しかし壁までの距離は広く、転げ回れるほどのスペースが保たれていた。
施設の地下に作られた武器倉庫である。万一誤射が起きてもいいように壁が頑丈に作られ、多くの壁はそのまま大地に覆われている。地形を深く理解しているわけでもなく、突然落とされた淀には牢獄に近い状況だった。
「ここなら、存分に戦える! 柳嬢!」
見上げる千陽。
燐花は開いた床穴から宙返りをかけて飛び降りると、起き上がったばかりの淀の頭を蹴りつけた。反動で離脱。
その隙に飛び込んだ零が剣をおもむろに叩き込んだ。
腹めがけてのフルスイングアタックである。
その衝撃に、淀が僅かに身体を折った。
「まるでダメージがないように振る舞っていましたが、打てば響くのが物理の法則。内部の肉体には着実にダメージが蓄積していたはず」
「褒めてあげるわ淀カズヒト。あなたは確かにここにいて、最悪の脅威であり敵だったわ。間違えたことがあるとすれば、力に伴う犠牲を忘れたことだけ……じゃあ、改めて始めるね」
剣を構え、大地を踏みしめる零。
「鳴神零、推して参る!」
零の斬撃を拳で受ける淀。
その隙に脇腹をクナイで削っていく燐花。
更に脇へ回って後ろ回し蹴りを繰り出す遥。
身体をぐらつかせた淀は、零と遥の頭を掴んで放り投げた。
地面と水平に飛び、壁に叩き付けられる二人。
追撃のタックルで押しつぶそうとした淀だが、素早くタヱ子と千陽がガードに入った。
「長くはもちません、早く……!」
タックルを盾でうけ、衝撃をぎりぎりまでこらえるタヱ子。
そんな彼女の首を掴み、淀は高く振り上げた。
まるでぬいぐるみを振り回す子供のように、そこら中の床にたたき付けはじめる。
地面が小さくへこむほどに叩き付けられたあと、タヱ子は反動でバウンドしていく。
床穴の上から覗き込んでいた恭司がポケットに手を突っ込み、写真の束を取り出した。
「これを」
まき散らされた写真が護符の力を持ち、タヱ子たちの怪我を治癒していく。
そして。
「穿ちました」
脇腹の装甲を破壊した、燐花のクナイ。
強く押し込み、引き抜く。
すると、まるで当たり前のように、淀はうつ伏せに倒れた。
倒れたまま、起き上がることはなかった。
二度と。
手を借りて淀のそばまで下りてくる恭司。
「僕らは、彼にとってハイスコアターゲットたりえたかな。聞いてあげることは、できなかったけど」
恭司はポラロイド写真を一枚引いて、淀のそばに置いた。
灰をあげるジープの、悲しくもどこか満足そうな、写真であった。
ジープが止まり、運転席のドアが開く。
『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は軍帽を被り直し、灰と黒煙のあがる車を見た。
「武器コンペに憤怒者の襲撃……ついに目に見える形で動き始めたか」
暗殺者が足を踏みならさぬように、力ある組織は動いていることを他者に悟らせない。
悟らせる時は他者を動かしたいときか、もしくは悟られても良いほどに準備を整えた後である。
いつまでも動きを見せないと侮っていれば、一方的に奪われることになるだろう。
ゆえに、油断はしない。
「淀カズヒト。破綻者である上に呪いの装備とは、ぞっとしない」
「そーか? 強そうじゃん!」
ぐいぐいと腕のストレッチを始める鹿ノ島・遥(CL2000227)。
「ヒノマルさんは気持ちよくバトれるから好きなんだよな!」
戦争行為を忌避している節のある千陽は『何を子供のようなことを』という目で見たが、改めてみれば子供である。人間は基本、そんなものかもしれない。
『介錯人』鳴神 零(CL2000669)も、仮面で表情こそ読み取れないがこれから起きる戦いに興奮している様子だけは十分すぎるほど伝わってくる。
納屋 タヱ子(CL2000019)が盾をしっかりと腕に固定しつつ、深く呼吸を整え始めていた。
敵が見えないといえども、ここは既に戦場なのだ。
「大丈夫ですか? 相性が悪いようですが」
「それでも、がんばります」
コンディションは整ったようだ。
タヱ子の表情に迷いや焦りはない。
零が無言の圧力で『はやくいこう』と促してきた。
遥は頷いて、拳をぎゅっと握り込んだ。
「っしゃ、行くか! センソーしようぜ、ヒノマルさん!」
進む仲間たちの後ろについて歩く『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)。
「下っ端は大きな作戦に呼ばれないなんて、世知辛いねえ。それに戦争の準備っていうけど、それってかなり重要な問題なんじゃあないかな」
「……どうでしょう。下っ端を自称する方の、それも小耳に挟んだ程度の話だそうですから、真に受けるのは少々……」
言葉を選んで結局何も言わないことにした『迷い猫』柳 燐花(CL2000695)。
恭司も言わんとしたことをは理解しているようで、苦笑で返した。
「はは、いい大人がスポーツ誌を盲信するようなことを言ったらダメだよねえ」
「別にそこまでは」
一度目をそらし、燃えるジープを見やる。
「淀という方は、兵団の立場を憂いて力を求め、全て喪ったという状況なのでしょうか」
「誰にでも、あることだけどね」
「だから起こっていいわけでは」
「ないよね。だから僕たちがここにいる」
恭司はさりげない動作で小さなカメラを取り出すと、燃えるジープを撮影した。
●虚妄の野火に神は成る
「どこからか、音が……」
屋内で身を休めているという淀を襲撃すべく憤怒者施設へと侵入した千陽たち。
慎重に進む彼らの中で、恭司がびくりと肩をふるわせた。
「――後ろだ!」
振り向く恭司。ひび割れる壁。距離にしておよそ1m。
壁が破壊され、ショルダータックル姿勢の淀が飛び出してきたのと燐花が恭司の腕を掴んで引っ張ったのはほぼ同時のことだった。
180度反転し、盾を構えるタヱ子。
淀のタックルを受け止めはしたものの、そのまま廊下を十メートル近く吹き飛ばされていった。
幾度のバウンドの末に小石だらけの床を転がるタヱ子。
「とんでもなく、重い攻撃……」
「心配いりません。納屋嬢は防御体勢を整えてください!」
真横を飛んでいったタヱ子を一瞥してから、千陽は素早く銃を抜いた。
「総員対バックアタック――隊列の修復を早く!」
淀に向けて銃を乱射。
対する淀はタックルの姿勢を一度解き、周囲をぐるりと見回していた。緩慢な動きなれど、全身の装甲は弾を傘に落ちる雨粒のごとく弾いていく。
「随分な場所に左遷されたようだな。不格好な鎧で――」
暴言を吐きつけて興奮させる作戦に出た。いや、出ようとした。
しかし淀は話を聞く様子すらなく、千陽の胸めがけてパンチを叩き込んできた。
あばら骨と内臓がまとめて押しつぶされたような衝撃に顔をしかめる。
相手の隙をつくつもりが、隙をうかがう動作そのものが自らの隙になってしまったようだ。いわゆる逆効果である。
直後、淀の後頭部に跳び蹴りが叩き込まれた。
燐花が死角から打ち込んだものであるがしかし、首の角度すら変わることが無い。
「装甲が硬い――ならば」
ジャンプでついた勢いをそのままに壁を蹴って反転。逆手に握ったクナイを淀の脇腹に叩き込んだ。
「手数で勝負するのみです。雨だれ石を穿つと言いますから」
しかし刃が通らない。これがステンレス包丁なら折れていたのではと思うほどの反動に燐花も僅かに目を細める。
本当にダメージが入っているのかすら不安になるほど、淀の反応は無かった。
小さな虫を払うかのごとく腕を翳す。
その時。
「ちょっとまったぁー!」
遥が跳び蹴りを叩き込んだ。
燐花の振り込むような蹴りとは根本的に違う、ダッシュの勢いと伸び足踵による『突き』を重視したミサイルのような蹴りである。
翳した腕を防御に回す淀。
手のひらを打った蹴りが衝撃を生み、周囲の壁や塵を揺らした。
即座に後ろへ飛び退く千陽と燐花。
「相手はオレだ! さあ戦おうぜ、おっさん!」
遥は蹴りつけの状態から膝を曲げ、バク転をかけてからカラテの姿勢で着地した。
後ろから呼びかけるタヱ子。
「持久戦に持ち込んで体力切れを待つのは得策じゃありません。ここは短期決戦で」
「分かってるって! ガーッと行ってドンだろ!」
「シンプル!」
零が殆ど鉄棍棒のようになった剣を抜き、強引に突撃をかけた。
地面と壁を削り、火花と欠片を散らしながらひたすら強引に剣を叩き込む。
これまで使っていなかった腕を翳し、剣を受け止める淀。
剣を握り込み、タックルの姿勢へ移行。
「来ます、避けて!」
「来なさい、受ける!」
零の顔面へ叩き込まれるショルダータックル。
常人なら即死、武装した憤怒者であっても即死したかも知れないような衝撃に零は吹き飛び、その後ろで構えていた遥もろとも倒される。
が、まるでこたえていないという顔で零は立ち上がった。
「立場が欲しいか。役目が戦場が勝利が力が欲しくてたまらないか――その意気や、よし!」
剣は手元に無いが知ったことでは無い。
拳を握り込み、再び殴りかかる。
「君は兵士として何も間違っていない!」
ボディーブロー。
更に身体をふって連続でパンチを叩き込んでいく。
「あなたたちはずっと、戦場と武器と破壊と火薬と血と生と死だけを求めていたじゃない! あなたは意識も心も兵器に呑まれてきっと本望でしょう! ご覧なさいよ豪華絢爛、ここがあなたの大好きな戦場よ!」
両腕をだらんと垂らしたままの淀。
淀はゆすられもしないが、零は血まみれになった拳で渾身のパンチを叩き込んだ。
その瞬間、零の頭上を飛び越えた遥が顔面めがけて突きを叩き込んだ。
初めて半歩さがる淀。
その隙にそばへ突き立った剣をとり、零は足払いの要領でフルスイングをしかけた。
「ここで死ね! 淀カズヒト、戦場で死ねェ!」
転倒――はしない。淀は器用に半受け身をとると、身を転がして後退。
自らが破壊した壁の穴を抜けて奥へと撤退した。
「逃がすか!」
「待って」
反射的に追いかけようとした遥と零を、恭司が腕を掴んで止めた。
癒やしの雨を展開しながら様子をうかがう。
「なんだか嫌な予感がするんだよね。深追いは気をつけた方がいい」
「確かに……」
千陽はあえて周りに退くように合図を出した。
「自分も『土の心』で把握を試みていますが……」
中恭介の言葉を思い出していた。去年十二月末ごろ、研究内容に対する質問会を開いた時のことだが、『基本的に土地の高低や地下構造のみという認識で問題ない。あくまで地形に対するのため、地形の上にある構造物については把握しきれないようだ』と述べていた。
「何か分かったのか?」
「いえ、充分には……。しかし少し歩いた感触として、内部が多少入り組んでいることは察しがつきます。恐らく淀は狭く入り組んだ場所に誘導して自分に有利な戦いをするつもりでしょう」
「理性が死んでいるのにそんなことができるものでしょうか」
次にどこから襲ってきてもいいように気を張るタヱ子。
それには遥が当たり前のように応えた。
「できるんじゃねーの? 熊とか虎とか、なんとなく自分に有利な場所しってんじゃん」
「……戦ったことでも?」
「ともかく」
恭司は皆の体調を一旦整えてから、進路を確認した。
「落とし穴やブービートラップを仕掛ける知能があるとは思えないけど、有利な地形くらいは察していそうだよね。こっちも誘いには乗らないようにしよう」
かくして彼らは、その場からあえて離れる選択肢をとった。
それから暫くの間、淀による単発的な襲撃が続いた。
タヱ子の言うように短期決戦が望ましい相手だが、それを相手も本能的に分かっているのだろう。壁や家具を壊して突然現われては数発叩き込み、こちらの攻撃態勢が整う頃になって逃げていくのだ。
「これは、かなり困りましたね……」
タヱ子はかなり疲労した様子で呟いた。
彼女の防御が整うまでマックスで4ターンかかる。特に蒼炎の導が3ターンしかもたないので、こちらは常に空振りを続けるような状態だ。
恭司から貰ったエナジードリンクでなんとか気力を回復させているが、いつまでも続けたい勝負ではない。
というか、恭司が大填気を活性していなかったら今頃には全滅もありえた状況である。ちなみにそれでも単発襲撃一回分(それも6人全員分)の気力をフォローしきれないので、減る一方である。
「なんとか有利な場所におびき出すか不利を覚悟で突入するかしませんと、じり貧になりますね……」
「私は突入でもいいけど?」
かくんと首を傾げる零。彼女のスタイルはパッシブで固めて物理で殴るというかなりシンプルなもので、淀の無頼漢をマトモにくらって負荷状態になることは多々あっても、せいぜい最終ダメージ値がちょっと下がる程度でしょということで構わず殴りかかっていた。気力がつきてもそういう意味ではリスクが薄い。
「オレもいいぜ! 受け身はそろそろ疲れてきたしな!」
ばしんと壁を殴る遥。
彼も彼で五織の彩だけを使うことで気力を節約しているので、淀の戦術による苦労はあまりない。
『どうしますか』という目で恭司を見る千陽。
その視線を受けて、恭司はいつのまにか状況判断の役割が自分に回ってきていたことに気がついた。
確かに、淀の接近をいち早く気づける彼はこの状況においてかなり頼りになる。
ファーストアタック時にも淀の不意打ちを見事に察することができた。
「そうだねえ……」
一度燐花の顔を見る。そして、胸ポケットから取り出した写真を見る。一年ほど前の京都を撮影したものだ。
「そうだね、思い切って行ってみようか。それに有利な場所に移る手がないでもないんだ。ちょっとちょっと」
恭司は千陽と遥に手招きをした。
●知るは難き無窮の光を
崩壊する壁。
と同時に、遥は正拳突きを叩き込んだ。
タックルと突きが正面からぶつかり合い、激しい衝撃波を散らしていく。
足に逃がした衝撃は放射状に広がるヒビとなり、周囲の壁へとのびていく。
「そうだ、オレを見ろ! オレはお前の敵だ!」
「今!」
恭司の呼びかけに、千景は頷いた。
術式を纏わせたナイフを地面に叩き付ける。
その途端、ひび割れた地面が思い切り崩壊した。
千陽たちは自由落下。
数メートル下のコンクリートに身体を打ち付けるが、歯を食いしばってこらえた。
なぜなら――。
身体を起こし、淀はハッとした様子を見せた。
彼を囲む固い壁。しかし壁までの距離は広く、転げ回れるほどのスペースが保たれていた。
施設の地下に作られた武器倉庫である。万一誤射が起きてもいいように壁が頑丈に作られ、多くの壁はそのまま大地に覆われている。地形を深く理解しているわけでもなく、突然落とされた淀には牢獄に近い状況だった。
「ここなら、存分に戦える! 柳嬢!」
見上げる千陽。
燐花は開いた床穴から宙返りをかけて飛び降りると、起き上がったばかりの淀の頭を蹴りつけた。反動で離脱。
その隙に飛び込んだ零が剣をおもむろに叩き込んだ。
腹めがけてのフルスイングアタックである。
その衝撃に、淀が僅かに身体を折った。
「まるでダメージがないように振る舞っていましたが、打てば響くのが物理の法則。内部の肉体には着実にダメージが蓄積していたはず」
「褒めてあげるわ淀カズヒト。あなたは確かにここにいて、最悪の脅威であり敵だったわ。間違えたことがあるとすれば、力に伴う犠牲を忘れたことだけ……じゃあ、改めて始めるね」
剣を構え、大地を踏みしめる零。
「鳴神零、推して参る!」
零の斬撃を拳で受ける淀。
その隙に脇腹をクナイで削っていく燐花。
更に脇へ回って後ろ回し蹴りを繰り出す遥。
身体をぐらつかせた淀は、零と遥の頭を掴んで放り投げた。
地面と水平に飛び、壁に叩き付けられる二人。
追撃のタックルで押しつぶそうとした淀だが、素早くタヱ子と千陽がガードに入った。
「長くはもちません、早く……!」
タックルを盾でうけ、衝撃をぎりぎりまでこらえるタヱ子。
そんな彼女の首を掴み、淀は高く振り上げた。
まるでぬいぐるみを振り回す子供のように、そこら中の床にたたき付けはじめる。
地面が小さくへこむほどに叩き付けられたあと、タヱ子は反動でバウンドしていく。
床穴の上から覗き込んでいた恭司がポケットに手を突っ込み、写真の束を取り出した。
「これを」
まき散らされた写真が護符の力を持ち、タヱ子たちの怪我を治癒していく。
そして。
「穿ちました」
脇腹の装甲を破壊した、燐花のクナイ。
強く押し込み、引き抜く。
すると、まるで当たり前のように、淀はうつ伏せに倒れた。
倒れたまま、起き上がることはなかった。
二度と。
手を借りて淀のそばまで下りてくる恭司。
「僕らは、彼にとってハイスコアターゲットたりえたかな。聞いてあげることは、できなかったけど」
恭司はポラロイド写真を一枚引いて、淀のそばに置いた。
灰をあげるジープの、悲しくもどこか満足そうな、写真であった。
