再起、古妖商店街への挑戦!
【F村S2】再起、古妖商店街への挑戦!


●出張ファイヴ村
 とある伝説を知っているか。
 雑草しか無かった荒れ地の廃村を開拓し、人と古妖の共存する村作りを成功させた者立ちが居る。
 農作業、酪農業、漁業に林業に観光業と驚くほど高い成功を収めた彼らの村群は、ファイヴ村と呼ばれた。

 そんな村に訪れた一人の老人から、今回の話は始まる。
「商店街、ですか……」
「ハイ。わたくし商店街組合の会長をしておりますムサシノと申しまして、ハイ……」
 噴き出す汗をぬぐいながらムサシノが語ったのは、ある商店街の苦境である。
「元々古い商店街でして、高齢者の店主が八百屋や魚屋、クリーニング屋なんかを経営しておるんです。でも十年前にジェスコができてから……」
「ああ……」
 ジェスコは大型複合商業施設グループだ。独自の流通を駆使して田舎に施設を建てては高い収益を上げている。品揃えもサービスも娯楽の量も段違いということで、大抵の商店街はそのあおりを食らうのだ。
「それで経営が苦しく?」
「いえ、逆なんです」
「……と、いうと?」
 首を傾げる女性スタッフに、ムサシノは汗をぬぐって一呼吸置いた。
「去年ジェスコで妖騒ぎが起きまして、死傷者が随分出たんだそうです、ハイ。その対応でジェスコは土地から撤退してもうて……」
「それは……まさか……」
「ハイ。煽りを受けて店を辞めたモンばかりで、土地にも老人しかおりません。なのにスーパーマーケットすら無くなってしもうたもんですから土地のモンが本当に苦しく……」
 大型商業施設のもたらす苦境はその最中ではなく、撤退した後に訪れる。自力で土地を運営していた人々からそのパワーを奪った上で撤退してしまうので、土地が自活能力を喪うだ。
「若者を募集しましたが、なにせ田舎のコトですから、興味本位でやってきてもすぐに離れてしまうんです、ハイ」
「なるほど。それでこちらに助けを求めてやってきたんですね」
 ファイヴ村は古妖特区に指定されている。
 それは妖や隔者被害による慢性的な人不足に古妖という埋蔵人材をはめ込むことで経済の潤滑化を実現した数少ない自治体だからだ。
 人間だけでは解決出来ない問題を、もしかしたら解決できるかもしれない。
 そんな希望をもって、ムサシノはやってきたのだ。
「分かりました。その問題、私たちで力を貸しましょう」


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:簡単
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.商店街の復活を目指す
2.なし
3.なし
 ファイヴ村シーズン2、第二回。
 出張ファイヴ村です。
 プレイングのサポートプランなども盛り込んでいますので、補足をお読みください。

●出張パート
 こちらのパートがメインパートとなっております。
 外から助けを求めてやってきた人々を、村を復興させた皆さんの知恵と力をもってお助けしようというパートです。

 今回は商店街。
 建物は並んでいるが8割シャッターが下り、高齢者ばかりで体力をつかった運営もままならないという商店街です。
 幸い商業施設の撤退で需要はあるので、運営方法を切り替えていくことで目標を達成できるでしょう。
 ちなみに最も簡単で雑なプランは『古妖を放り込む』です。古妖の中には長寿で体力の落ちないものもいるので高齢者問題は解決されます。
 ですが古妖は『寿命が一週間』とか『主食が人間』みたいなのも当然いるので、雑なやり方をすると来年の今頃大変な事態に発展します。
 先を見据えたプランを提案してみましょう。
 お勧めは『見た目の変更』『スタッフの確保と教育』『イベントの企画』『空き店舗の利用』『流通経路の確保』『長期的な宣伝』です。いっそのこと一人一つずつ分担してもいいかもしれません。

●村運営パート
 こちらはサブパートとなります。
 村にはダモさんやレンさん、ベン市長のように黙っててもちゃんと運営してくれるスタッフが常駐しています。
 村の運営も軌道に乗っているので、多少トラブルが起きても村の中だけで自己解決できます。
 そのため100文字程度のプレイングで今後の方針を述べるだけで充分に動いてくれるでしょう。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(3モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
5/6
公開日
2016年09月26日

■メイン参加者 5人■

『天使の卵』
栗落花 渚(CL2001360)
『田中と書いてシャイニングと読む』
ゆかり・シャイニング(CL2001288)
『希望を照らす灯』
七海 灯(CL2000579)

●再起の道
 長々語ることでも無いので単刀直入に言うと、商店街は時代遅れだ。
 みんな自転車すら持ってない時代に効率と必要性から生まれたものが、さらなる効率と必要性からインターネットとジェスコに呑まれるのは当然である。
 今回のオハナシは古き良き暖かみがどうのといってみんなでゴリラ原人に回帰する話ではない。
 大きな効率に呑まれた者たちが、より大きな姿へと進化し、生き残るためのオハナシである。
「とは言っても、流通を取り戻さないと話は始まらないでしょう?」
 そろそろ農林水産省が頭下げに来る頃だと噂される女、『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)。
 彼女は商店街組合のコガネイという男の助手席にのって、山側の農協へと車を走らせていた。
 ノートを開くと、大まかに『肉、野菜、魚』といったカテゴリーに分かれて仕入れ先の調査記録がまとめられていた。
 老人たちも商店を閉めたとはいえ、十年くらい遡れば仕入れ先の検討はつくものだ。いくらインターネットで生野菜を買える時代とはいえ、その野菜は土から生えるし人が収穫するし、未だ変わらず巨大な農協倉庫に集積される。
 この辺は、もはやエメレンツィアの得意分野であった。
 ネットワークだイノベーションだといくらグローバルオラウータンにコミットしようと一次産業の形態は数百年単位で変わらないものだ。肉や魚も同じで、食肉加工所と魚市場へ行けば大体の食材は取りそろえられる。
 あとは大手の食品メーカーを2~3回ればスーパーマーケットレベルは取りそろえられるだろう。価格をいじろうと思うならさらなる工夫が必要だが、ソコは後回しでいい。
「しかし、契約してくれますかね。何年も閉じていた商店街をまた開くと言っても……」
「向こうも商売だものね」
 恐らく高く売りつけるために渋りを見せるだろう。
 エメレンツィアは髪を耳にかけ、ちいさくため息をついた。
「あまりこの手は使いたくないけれど……」
 車が止まる。
 農協倉庫の前へと降り立ったエメレンツィアを見て、係員は目を剥いた。
 彼女の大物めいた風格に驚いたのだ。
 だが、ただ彼女が大物オーラを出していただけならそこまで引きはしないだろう。彼らとてプロである。隙あらば安く買いたたこうとする小売店たちと熾烈な戦いを続けるソルジャーである。
 だが相手があの……。
「エメレンツィアさんですか! あのファイヴ村の! 僕ら農家にとってはスターですよ! サインいいですか!?」
 腰を折って握手を求めてくる農協職員。
 コガネイはその様子を、神々しい者を見る目で眺めていた。
 実績はその場しのぎをはるかに上回るという証明であった。

 エメレンツィアの口利きによってかなり良心的な価格での仕入れルートが確保され、商売のメドが立ち始めたところで……。
「働いて貰うのはもちろん貴公たちだよ。だって貴公たちの街でしょ?」
 『村の王子様』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)はホワイトボードによくわかんないマモノの絵を描きながら、商店街組合の老人たちへ振り返った。
 目をぱちくりする老人たち。
「でも……身体が……」
「脳みそ動いてて人権持ってるってだけで百パー商売できるよ。みなよこの民」
「ハルウコンです……」
「アキウコンです……」
 自分の足を大根おろしでしょりしょりしてる根っこの妖怪を指さして、プリンスはホワイトボードにくっそ乱暴なひらがなを書き付けた。
「まずはこの民たちを教育してもらうよ! 経営判断もしてもらう」
「判断といいますと……」
「まずは二択。民と商店街、どっちが大事?」
 プリンスに言われて、老人たちは顔を見合わせた。

 人には二種類居る。
 自分の利益が世界を保つと考える者。
 世界の利益が自分を保つと考える者。
 表面的な違いはあれど広く見れば同じものだ。
 しかしこの表面的な思想によって、多くの商店街は死滅してきた。
 自分の店が儲からないと困るという発想から大規模な改変を嫌い、どこかの誰かが余ったリソースで自分たちを救ってくれる日を待っているという悪循環を生んでいるのだ。
 もちろん世界のリソースは一定なのでいつかは救われたりするのだが、それが本人の生きているうちかどうかは保証されていない。
 老人だらけとなったこの商店街にとって時間は限りなく少ない。自分たちが正常に判断できるまでとなればもう時間が無いといってもいいくらいだった。
 悪く言えば焦りゆえの、良く言えば勇敢な、『商店街統合計画』であった。

 旧効率思考の徒である商店街を思い切って引き上げ、まっさらなテナントエリアとして改装してしまう。壊した方がマシなエリアはいっそのこと駐車場に変える大胆さまで見せた。
 まるで昆虫が脱皮をして空へ飛び立つがごとく、老人たちは妖災害で破棄されたショッピングモールへと降り立ったのだ。
「ワシらに、ショッピングモールをしろというんです?」
「まさか。人間配られたカードで勝負しないとね」
 プリンスが提案したのはモールの大改装である。
 ほとんどハコだけ残した建物は人間が運営しているとは思えないくらいとっちらかったカオス空間へと変貌し、カッパの運営する沼地みたいな店や蜘蛛の巣だらけの店、ほぼほぼ暗室みたいな店が並んでいた。
 それでいて担当範囲は厳しく割り当てられていて、よそへの浸食や人間種への害意はない。ちょっとしたテーマパークの様相である。
「これが、人と古妖が共存する店……名付けて王子メガスクラムマーケットさ!」

●王子メガスクラムマーケット(正式名称になっちゃった)
 人間は保守的な生き物だ。知らないことをやりたがらない。
 ショッピングモールができたなら行ってみようと思わんでもないが、『王子メガスクラムマーケットができたよ』と言われても行く気が起きないものだ。
 いや、名前のせいじゃなくて。
 『古妖』というひたすら漠然とした名前の連中がうようよしている場所に近づかないのだ。子を持つ親は、子供をそういう場所から遠ざけようとすらする。
 しかしそんな問題を刺激的に打破できるチャンスが年に一回だけ存在する。
 それが。
「ハロウィンイベントだよ!」
 『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)はモールのゲートに『どれす・あんど・しょっぷ』というお題を掲げ、様々なファッションや小物をとりあげた店を前面に押し出した。
 大半が日本妖怪や都市伝説存在で構成された古妖は、意外とこの手の商売に適正があった。
 特に都市伝説勢は無駄に流行やイメージに敏感で、次の時代に流行りそうなファッションを割と的確に勧めてくるのだ。
 それに小物類に関しては『むしろ本人が小物』でおなじみの百鬼夜行勢の皆さんが役に立った。タンスが冷蔵庫を勧めてくるシュールさや、宝石が宝石店を営んでいるダイレクトさが好評を生んだ。
 勿論そんな店が都内とかに忽然と存在していたらイロモノ扱いされてしまうが、モール全体がそれ一色なので来客は大体場の雰囲気に呑まれて素直に楽しめるというメリットもある。
 そこに拍車をかけるように……。
「トリックオアトリート! 仮装スタンプラリーですよ!」
 『田中と書いてシャイニングと読む』ゆかり・シャイニング(CL2001288)が入り口で配るスタンプシートには、おなじみのモルモチーフのスタンプをはじめ、すねこすりやリモコン隠し、一つ目小僧などのコミカルなスタンプが押せるようになっている。
 中には商店のモチーフにそったスタンプもあって、眼鏡妖怪から眼鏡を買って眼鏡のスタンプを押すというもうこの世のものとは思えないような体験を可能にしていた。
 勿論ファイヴ村おなじみのすねこすりグッズやこれまで開発した豆腐スイーツも販売している。五華モールのアンテナショップが全体に拡大したようなものだろうか。
 時間が移れば、モール中央に設置されたイベントステージでゆかりが椅子にすわってゲストを交えたトークショーを行なっていた。
「本日お越し頂いたのはライトニングゴリラさんです」
「ウホ! ウホホウホ! ウッホウッホ、ゴリラ!」
 観客へのウケも抜群だ。
 そんな様子を、『希望峰』七海 灯(CL2000579)は満足げに眺めていた。
 古妖が運営するショッピングモールという形式は話題を生み、灯がわざわざ呼びかけなくとも多くのマスコミ関係者が取材に訪れるという盛況ぶりで、むしろ取材方法をこちらがわから制限する必要すら生まれたほどである。
「お疲れ様です、七海さん」
「あ、どうも……」
 事務局から応援にきたレンさんからコーヒーを受け取り、灯は微笑みを返した。
「早速『コヨーワーク』について聞かれました。革新的なアイデアだったようで、随分驚かれましたよ。多くの自治体にも広まるといいですね」
「渚さんのアイデアです。このイベントも」
「アイデアひとつでここまで変わるものですか……」
 感心される一方で、灯は少し不安も抱えていた。
 取材に来るマスコミの大半は『人と古妖が共存している良いハナシ』として取り上げるのだが、中には『古妖が絶対事件を起こすからセンセーショナルにとりあげてやろう』と悪意を持った取材を行なう者もあった。そういう連中に限って普通に好意的な取材をしかけて後で編集かますので回避のしようがないのだが……。
「悪意ある取材も、事実確認と広報を強めることでかき消せますよね。私たちの腕の見せ所かもしれません」
 灯は、新しく作ったパンフレットに目を落とす。
 これまでの実績をまとめたパンフレットで、危険な古妖に対する注意喚起やショッピングモールを起点とする宅配サービスのチラシなんかも入っていた。
「七海さん、そろそろ宅配チームが出発する時間です。取材スタッフがその場面をとりたいそうで」
「はい! 今……」
 灯が提案したのは商店街の『御用聞き』を拡大したサービスである。
 今でもインターネットで出前を頼めたり肉やら野菜やらを届けてくれるサービスはあるが、あくまで人力。陸路を車で走るほかない。そのため山岳地帯では普及しづらいところがあるが、これが素で飛行能力をそなえた古妖であれば話は別だ。
「よろしくお願いします、カラスさん!」
 無数のカラスが灯に応えるようにエコバッグを掴んで飛び立った。
 田舎でこそ効果を発揮する、古妖による宅配サービスである。
 ちなみに建物の上空300メートル(東京タワーくらい)まで土地の一部とみなされるので、普通の町でやると不法侵入だらけになりかねない。公道の上だけを通らせる教育が必要だが……。
 諸々含め、なかなか将来性のある事業だ。
 暮れゆく夕日へと飛ぶ飛行宅配スタッフたちを眺め、ファイヴ村の功労者たちは未来を想った。

●ファイヴ村は今日も順調
「ってことで、余たちは新しい商売に乗り出したよ」
「興味がわいたら、いつでも事務局にいらしてくださいね」
 プリンスと灯は飛行宅配スタッフの写真を掲示しながら、ファイヴ村の住民たちへと呼びかけていた。
 ここは風雲マスキュラリィ王子城の大広間。
 なにかっつーと宴会開いたり謎のライブにふけったりする場所だが、今日は真面目に勉強会だ。
 ハルウコンとアキウコンの狭間でナツウコンのコスプレしたプリンスが、日本酒かかげて叫んだ。
「ということで、民のさらなる繁栄にカンパーイ!」
「乾杯じゃありません! 今日はお勉強するって……ああっみんなもう飲んでる!」
 慌てる灯をよそに、ハロウィンらしくオバケに(無駄に)仮装した古妖や住民たちが宴会を始めた。
 妖怪豆知識。
 日本妖怪は大体お酒が好き。

 宴会場と化した大広間の端。渚とゆかり、そしてエメレンツィアが卓を囲んでいた。
 卓っていうか、卓上で勝手に宴会を始める湯飲みやお茶碗たちをじーっと眺めていた。
 『自分の頭からお互いに呑ませるんだ……』みたいな目で見ていた。
「っと、見てる場合じゃなかった。私はそろそろ畑に自然災害対策をするべきだと思うの。辰巳先生に頼ってばかりじゃ広がらないもん」
「そうね。あの人普通に農業し始めてるけど、天候を操るにはそれなりに消耗するらしいから、本当なら力を借りないくらいが丁度いいわ」
 幸い、農業関係の人員はかなり増え、古来から伝わる災害対策の知識も蓄積されていた。
 ハンドル操作で水をはけさせる水門や町中を流れる巨大な用水路なんかがその実績である。都内で普通に暮らしていると見かけないが、米の栽培がさかんな地域では自転車がまるごとはまりそうなでっかい溝が道路の端にのびていることがある。
 はじめからある土地をひっぺがすのは難しいが、村を土から作った彼らにはむしろ簡単なことだったろう。
「それと、牧場の計画も進めませんか? 大人のもふもふ好きが喜ぶポイントリストを預かってき――スヤァ」
「んめー」
 ゆかりが『ふわふわ』という古妖の身体にうもれてスヤァした。
 つい最近入ってきたばかりのヒツジ型古妖で、どうやらゲイルおじさんが依頼で拾ってきたらしい。今居ないけど。
「畑に牧場、さすがにもう村と言うには広すぎる規模になってきたわね。市町村でいうといまどのくらいの規模なのかしら……」
 エメレンツィアが頬に手を当てて考えていると……そっと知らないおっさんが卓に加わってきた。
「どうも」
「……どうも?」
 とりあえずな挨拶を交わす三人。
 おっさんは名刺を取り出すと、重々しく言った。

「皆さん、遊園地の開発にご興味……ありませんか」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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