『 芋 』
 『 芋 』


●『芋』
 まだまだ暑い日が続く今日この頃。しかし、刻一刻と刻限は近付いている。そう、食欲の秋はもう目の前なのだ!
 今日の主役はサトイモ、ジャガイモ、サツマイモ。しかし、当然それだけでは物足りない。

 さあ、食いしん坊よ、腹ペコキッズよ! 思い思いの材料を持ち寄り、お腹一杯食べようじゃないか!

●一方、会場では。
「フンフフンフフーンフーンフーン♪」
 くつくつと煮える鍋を覗きながら久方 万里(nCL2000005) の鼻歌が響く。ゆらゆらと揺れる頭はご機嫌なのか、ドリル状のツインテールがぴこぴこと跳ねていた。
「よいしょっと……いやーごめんね万里ちゃん、火の番なんか頼んじゃって。この後予定あったんでしょ?」
 そう言いながら段ボール箱を下ろしたのは水瀬 珠姫(nCL2000070)だった。そもそも、わざわざ公園まで道具を運んでくる羽目になったのは彼女が原因である。
 五麟学園の寮で生活をしている学生には珍しい事ではないが、彼らには家族や友人から度々荷物が届く。今回はそれが段ボール一杯に詰まった芋だったと言うだけだ。
 それも旬であるサツマイモはともかく、何故かサトイモやジャガイモ等まで詰め合わせで。それが五箱もあるのだから、一人で食べ切れる訳が無い。
「まだ時間あるからだいじょーぶ!」
「そっか、ならコレ出来たら持ってって。真由美さんと相馬さんの分も一緒に」
 そう言いながら二人は鍋の蓋を少し開けて確かめる。第一弾はふっくらフワフワふかし芋だが、もう少し待った方がよさそうだ。
「ところで珠姫おねーちゃん」
「ん? 何?」
「他の具は?」
「……他の人に持ってきて貰う、って事で」
 顔を逸らした珠姫に対し、万里の目が一気にじっとりとした湿り気を帯びる。果たしてこの芋煮会、無事に終わるのだろうか……?


■シナリオ詳細
種別:イベント
難易度:楽
担当ST:杉浦則博
■成功条件
1.美味しいご飯を作る!
2.皆で楽しく食べる!
3.お残しは許しまへんで!
●場面
・良く晴れた日中の公園に幾つかの鍋、芋が満載された段ボール、加熱用の燃料、申し訳程度の調理器具があります。その他必要な物は各自の判断でお持ちください。

●参加NPC
・水瀬 珠姫(nCL2000070):原因。仕事で常に動いているのが性に合っているので、道具の用意やら調理やらであちこち歩き回っています。好きに使ってやって下さい。
※久方 万里(nCL2000005)は開始時点で帰っているので当シナリオには参加しません。展開等の都合でオープニングだけ登場しました。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記願います。グループ参加の場合、参加者全員が【グループ名】をプレイング冒頭につけてください。記載する事で個別のフルネームとIDを書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
50LP
参加人数
30/30
公開日
2015年09月15日

■メイン参加者 30人■

『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)
『天衣無縫』
神楽坂 椿花(CL2000059)
『落涙朱華』
志賀 行成(CL2000352)
『Queue』
クー・ルルーヴ(CL2000403)
『ママは小学六年生(仮)』
迷家・唯音(CL2001093)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)
『雨後雨後ガール』
筍 治子(CL2000135)
『弦操りの強者』
黒崎 ヤマト(CL2001083)
『偽弱者(はすらー)』
橡・槐(CL2000732)
『星唄う魔女』
秋津洲 いのり(CL2000268)
『コルトは俺のパスポート』
ハル・マッキントッシュ(CL2000504)
『移り気な爪咲き』
花房 ちどり(CL2000331)
『レヴナント』
是枝 真(CL2001105)
『ワイルドキャット』
猫屋敷 真央(CL2000247)
『獣の一矢』
鳴神 零(CL2000669)
『水の祝福』
神城 アニス(CL2000023)
『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)
『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)


 ある晴れた秋口の日、五麟学園近くの公園は常にない賑わいを見せていた。
「うん、いい感じに出来た♪」
 向日葵 御菓子(CL2000429)はタレのついた刷毛を置き、目の前で湯気を立てる焼きおにぎりを見た。その様はコゲとタレで黄金色に輝く絨毯のようである。
 そこには八種類の具と味噌・醤油ダレを組み合わせた焼きおにぎりが並び、今も尚増産真っ最中だった。
「いろんなの用意したから、たぁ~ぷり食べてね。お茶漬け用のだし汁と薬味もあるよー」
 公園の入り口で振舞われる焼きおにぎりは注目を集め、一つ二つと皆が手に取っていく。早速車椅子に乗った少女―――橡・槐(CL2000732)が干鯵・すだち・塩昆布の焼きおにぎりを頬張っている。
「車椅子だと調理の邪魔になるですし、大人しく食べる側に回るのですよー……ふふっ」
 してやったり、と言わんばかりの表情で槐は車椅子を進める。何とも黒幕チックな登場であるが、彼女もこの場に集まった腹ペコキッズの一人な事には変わりない。
「しかしいい匂いがするな、芋鍋とか最高じゃねえか……じゃがバタとかも旨そうだ」
 槐が通り過ぎた所でそう呟くのはしまむら ともや(CL2001077)であった。キッズと言うには少々薹が立っているが、彼もまた食欲の赴くままにこの場にやって来たのだった。
「料理のうまいやつらが居る見たいだし、恥を忍んで色々貰えるように歩くのもいいかもな。よし、まず一品作るか!」
 そう意気込むともやの隣では、肉味噌焼きおにぎりを持った安ケ平 直貴(CL2000835)から調理用の道具を受け取る水瀬 珠姫(nCL2000070) の姿があった。
「水瀬さんとは初めまして、ですね。今日はお世話になります」
「ええ、初めまして。まあお世話って言っても割と皆好き勝手やってますし、あんまり気にしないで下さい」
 それでは、と一応の主催として珠姫は問題が無いか見回り始める。直貴も持ち寄った材料を元に調理を始めるのだった。
「できそうなのは、さつま芋ご飯に豚汁、コロッケですかね……秋はついつい食べ過ぎてしまって、体重が気になる季節なんですよね」
 そう言いながらも焼きおにぎりを完食している辺り、食欲には勝てない様子である。
「さて、準備はこれでいいか……やる気があるのはいい事だが、包丁使えるのか?」
「凜音ちゃんありがとーなんだぞ! え、包丁? ……刀なら使えるんだぞ!」
 公園の一角で料理教室状態になっていたのは神楽坂 椿花(CL2000059)と、そのエプロンのリボンを結んでいた香月 凜音(CL2000495)であった。
 材料の隣に大葉と山椒の味噌焼きおにぎりと梅とゴマとごま油の焼きおにぎりも置かれており、後で作った料理と一緒に食べる気なのだと解る……つまみ食い用かもしれないが。
「そのちっちゃい手じゃ普通の包丁は無理だろ。これで芋を適当に切ってくれ 手を切らないようにな」
「椿花、包丁もちゃんと使えるんだぞ! ……うん、みんながいっぱい食べれるよう、頑張ってお芋いっぱい切るんだぞ!」
 椿花が持っていた包丁を取り上げ、凜音は一回り小さくデザインも子供向けの包丁を椿花に手渡した。椿花は軽く抗議したものの、すぐに気を取り直して芋の山へと取り掛かっていく。
「……なんでこいつの面倒見てるんだろう、俺は」
 そう言いつつも子供用包丁まで用意している辺りが彼の面倒見の良さを表しているのだが……それを素直に認めるのも難しい年頃なのであろうか。
「芋煮会というのはいのりは初めてなので、とても楽しみですわ♪」
「そっか。切った食材を大鍋で煮込んで味付けする程度だから、手順は難しくないけど気を付けてね」
 一方、秋津洲 いのり(CL2000268)と華神 悠乃(CL2000231)の二人も料理教室状態になっていた。何故か材料の山の中で包丁で縫い止められた蛸が蠢いている。
 悠乃も最初は鮭とバター醤油の焼きおにぎりを食みつつ周りを見ていたのだが、いのりが一人で危なっかしく包丁を振り回していたので見かねて教える事になったのだ。
「家では危ないからとさせてくれないのですよ。いのりはもう4年生。大丈夫ですのに!」
「肉と野菜を同じ包丁で切ろうとしてたけどね。衛生面を考えたら別々にした方が良いんだよ、っと」
 いのりが思い切り食材を切ろうとするが、手元が滑ってしまって勢いよく飛んでいく。幾つかは悠乃がキャッチするが、それでもカバーしきれない切れ端も存在した。
「す、すみません! 大丈夫ですか!?」
「ああ、鍋に入っただけだからな。煮込んでしまえば大丈夫だろう」
 二人の近くで最後の煮込みに入っていた水蓮寺 静護(CL2000471)は謝るいのりに大した事は無いと返す。
 しかしその鍋だが、ジャガイモとサトイモが串が簡単に通るまで茹でられているのは良い。肉と玉葱もじっくりと炒められて芋と共に沸騰してあるのも良い。
 ……が、何故か鍋からは猛烈なカレー臭が漂っている。静護の荷物を見ればカレールーがはみ出ていた。
「……これ、カレーだよね?」
「………。」
 悠乃に指摘される前から気付いていたのか、静護は何も言わずに顔を背けるだけであった。まあ、静護の皿に乗っているちりめんじゃこと削り粉と青海苔の醤油焼きおにぎりに良く合う事は間違いないだろう。
「私なんかがこんな所に居て良いのかしら……良くないわよね、駄目よきっと……」
「あれ? 待ち合わせしたのに、どこで……お、居たいた! おーい、ハルコ!」
 視点を変えると、人の数に気圧されたらしい筍 治子(CL2000135)の手を取ってハル・マッキントッシュ(CL2000504)が確保していた鍋へと連れて来た所であった。
「その、こういう時は……ちょっとだけ、頼りにな―――」
「全く、おくゆかしさはジャパニーズ美徳だけどな。権利は主張しないと……ん? なんか言ったかい?」
「あ、ううん。何でもない。何も言ってません……」
「そっか。それなら見てくれよコイツを! ちょうどステイツのママ……おふくろから届いたんだ! 旬じゃないけど、この季節のもまた美味い、んだ……ぜ?」
 治子は何かを言いかけるが、ハルはそれを聞き逃す。料理中の香ばしい空気の筈が、何とも甘酸っぱい空間へと早変わりしていた。
 そんな治子の手には茸の詰め合わせが、そしてハルの足元には何故か山盛りの林檎が置かれていた。瑞々しい林檎は非常に美味しそうだが、この場には結構不釣合いである。
「……あれ? ハルコサン、何かすごーくコワイお顔ですよ……?」
「……ハル君あの、ね。好物なら何でも良いって物じゃないんですと言うか、正気ですか? 正気なんですね。尚悪いです」
「ハイ……ハイ……いえすまむ……もうしません……」
 先程の空気もどこへ行ったのやら、治子はハルに正座をさせて説教を始める。彼らの食事はもう少し先になりそうだ。
「よーし、みんな一緒に蒸かしまクリスティ☆」
「おぉっ! お芋たくさん! ありがとね、珠姫ちゃん!」
 迷家・唯音(CL2001093)の一言に思わずフリーズした珠姫に工藤・奏空(CL2000955)が声をかける。その隣では我慢できなかったのかウィチェ・F・ラダナン(CL2000972)が蕗味噌焼きおにぎりと共に熱々のじゃがバタをパクついていた。
「じゃがバタ美味しいですよね!」
「うーん……うちじゃほとんどさつまいもとか天ぷらにしてたから、作り方分かんない!」
「簡単だよー、アルミホイルでくるんだじゃがいもを蒸かせばハイッ! ふかふかのじゃがバタのできあがりっ」
 唯音はマヨネーズ、奏空はバター、ウィチェはマーガリンと三者三様のじゃがバタを頬張ってはハフハフと熱がる。他にも塩などが用意されており、準備万端で楽しんでいるようだ。
「んーっ、サイコーッ! おいしいねウィチェちゃん! あ、奏空くんあーんってして! 熱いならふーふーしたげよっか?」
「あ、ウィチェちゃんお皿ありがと! 熱いから気を付けて……い、いやその唯音ちゃん、あーんは……ふーっ、ふーっ」
「お家では作る事があんまりなかったので、こうして機会をいただけるのは嬉しいです! お二人とも火傷に気をつけ……あづぁっ!」
 熱さのあまりテンションが上がっているのか、唯音は奏空の口にじゃがバタを突っ込もうとし、ウィチェは奏空が目の前で冷ましているのにかぶりついて熱いと叫んでいた。
「あ、この焼き芋おみやげに持って帰っていいかな? がっくんやおとーさんおかーさんにあげるの」
「え、あ……うん。いいよ、好きなだけ持ってって」
 ようやくフリーズから回復した珠姫は目の前の惨状から目を逸らしつつ答えるので精一杯であった。
 彼らとは逆に、非常に静かに料理を作り食べている姿もある。阿久津 亮平(CL2000328)と志賀 行成(CL2000352)の二人であった。
「「いただきます」」
 二人の前にあるのはビスケットに盛られたサツマイモのタルト。それぞれのタルトにはメープルシロップとチョコレートが乗せられていた。
「志賀君、シナモン貸してくれてありがとう」
「必要かなと思って持って来ただけだ。うん、阿久津さんのタルトも旨いね」
「簡単なタルトだけど旨いって言ってもらえてよかった。こうして色んなトッピングで食べるのも美味いな」
 亮平はそう言うが砂糖、シナモン、牛乳を柔らかく煮えたサツマイモにいれてペースト状に。生クリームを入れてなめらかにした物をビスケットに盛りつけるまではともかく、更に調理用バナーで焦げ目をつける手の入れ様である。
 恐らくこの場に居る女子の大半よりも女子力の高い成人男性であった。伊達に店長はやっていないという事か。
「こういう何もない楽しい一日もいいものだな。旨い、という感想を皆で共有できること……それはとても幸せな事だ」
「ああ……」
 静かに過ごす二人とは打って変わり、賑やかかつ凄まじいチーズ臭のする一団も居た。
「芋煮会……なんだか、お祭のようですね。私もご一緒して、よろしいでしょうか」
「ああ! みんなで一緒にメシを食う! それだけで楽しいし、おいしいよな!」
「……こういう時、にこやかに笑える鹿ノ島さんが少し羨ましく感じますね」
 是枝 真(CL2001105)の控えめな挨拶に、鹿ノ島・遥(CL2000227)の底抜けに明るい挨拶が返る。それにまだ少し人に慣れていない柳 燐花(CL2000695)のリアクションが続いた。
「これがチーズフォンデュ……実は初めて食べるのじゃよ。楽しみじゃのぅ」
「ラクレットチーズもありますよ。こちらは火で溶かして、ジャガイモやパンにつけて頂くと美味しいです。お一つどうでしょうか」
 溶けたチーズの入った鍋を覗き込む檜山 樹香(CL2000141)に制服姿のクー・ルルーヴ(CL2000403)が更に別のチーズを差し出す。
「そういや猫の因子持ってるやつって、やっぱ猫舌だったりするのかな? なんならフーフーしてやろうか? はははは!」
「え、あ……」
「フー、フー……」
 遥の軽い一言に猫の獣憑である燐花が反応する。まあ、流石に熱々の物をそのまま食べて無事な人間の方が少ないだろう。現に戌の獣憑のクーも息をかけて冷ましていた。
「とろとろのチーズと、ほくほくのお芋。これは、素敵です、美味しいです……パンやソーセージも、あるのですね。試してみましょう」
「……不思議な感じがするが、美味しい。これがチーズフォンデュなんじゃな」
 真と樹香は初めて食べるチーズフォンデュに目を輝かせている。そんな彼女達は他にもポテトサラダやソーセージ、パン等にも手を伸ばし始めていた……流石にチーズの入った鍋に味噌をそのままぶち込むような真似はしないが。
 とは言え基本的に食べる量が違うのか、一番食べているのはこのグループ唯一の男子である遥であった。
「何だ、食べきれないのか? そんときゃオレが全部食うから安心しろ!」
「ふふ……今日は、素敵な人や、お料理に出会えました。美味しくて、楽しい時間を、ありがとうございます」
「ええ。皆さまと過ごしたから、更に美味しく感じられたのかもしれません」
「お腹も満たされて、クーは幸せです」
「全くじゃな。参加させてもらった友人たちには感謝じゃよ」
 真は早速食べた料理をメモし、燐花も少しずつではあるが人の多い所に慣れ始めた様子である。クーと樹香もまた、その様子を見て笑い合うのであった。
「花房! ふかしイモおいしそうだし、食べる? ジャガイモもある!」
「えぇ、折角ですもの。頂きましょうか」
 食べ歩くように動いているのは黒崎 ヤマト(CL2001083)と花房 ちどり(CL2000331)の二人だった。蒸かし芋を手に歩いていた二人だったが、話題は自然と自身の事、音楽の事へとシフトしていく。
「花房が普段急がしそうだから、芋煮会に誘ってよかったか不安だったけど……音楽仲間だし、一度一緒に遊びたかったんだよな」
「あらあら。忙しいだなんて、そんな。一向に構いませんのよ。うふふ、息抜きも必要でしょう?」
 互いの対応に差があるのは、駆け出しとは言えプロのアイドルとインディーズ活動中という立場の差故か照れているだけか。身長差もあり、ヤマトよりもちどりの方が年上のようだった。
「オレ、花房と対バンしたい! 花房の音楽を聴いてみたい!」
「対バン……面白そうですわね」
 それでいいのか現役アイドル。
「真央さんたちはこういうの、体験したことあるの?」
 そう尋ねるのは酒々井 数多(CL2000149)であった。視線の先には明石 ミュエル(CL2000172)、猫屋敷 真央(CL2000247)、神城 アニス(CL2000023)の姿がある。
「芋煮、初めて……地元では、こういう習慣、なかったから……」
「芋煮会って東北の行事でしたよね……私も始めてでドキドキしています」
「私も始めてなのでわくわくしてます。お友達とお外でご飯! 楽しみです!」
「そっか。お友達同士で初めてを共有するのって素敵よね」
 ねー、と数多とアニスが声を合わせる。彼女達が囲む食材は牛蒡や人参、インゲンが入っておりとても鮮やかであった。四人は力を合わせて手早く準備を進めていく。
「こないだ、帰省したとき……信州味噌、買ってきたから、味付けに使おう……」
「お味噌! 素敵ね。お味噌汁みたいな感じにするのね。あとは鶏肉とかかしら?」
 ミュエルが味噌を取り出し、数多がそれに合わせて鶏肉を入れようと席を立つ。その間、真央とアニスは話に夢中になっていた。
「これでも田舎にいた頃に色々教わったのでお料理はちゃんと出来るんですよ、えっへん!」
「そうなんですか……あ、芋煮ってお醤油ベースなんですよね。入れておきましょう」
 鍋一つに適量の醤油が入れられ、更に鍋一つ分の味噌が投入される……豚汁であれば両方を同時に使う事もある。が、当然ながら入れる量の調節は必要だ。
 そして何の奇跡か偶然か、四人は互いの行動を目にする事はできなかった。当然、止められる訳も無い。
「みんなで、料理するの……楽しいね。また、こういう機会、あったら……いいな……」
「ふふふっ、また皆でお料理とかしましょうね!」
「うん、またみんなで、こうやってご飯作りましょう!」
「……ッ!? ぐふっ」
 味見をしたアニスが噴き出し、和気藹々とした空気が粉々になるまであと五秒。
「お芋系って、やっぱり煮物が一番だよね☆ これからは肉じゃがとか、にっころがしとかも! あー涎がとまらん!」
「俺は普通にふかした芋が好きだ。あんまり濃い味よりかは、素材の味が一番だからな」
 反応を聞いた鳴神 零(CL2000669)は好みが違うと一色・満月(CL2000044)を敵認定するが、満月はそれもまた良しと呵々大笑していた。
 一通り回って問題ないと判断した珠姫は、そんな騒がしくも仲良く喧嘩する二人に挟まれた状態で休憩中だった。と言うか、気が付いたら二人に挟まれていたと言うべきか。
「ね、珠姫ちゃんはー何が好き? これでも鳴神、お料理得意なんだぞう!」
「俺は料理はできんが、女性の手料理は美味しいからな。珠姫は料理はするのか?」
「同時に両サイドから聞くのやめて下さいよ……そうですね、魚介類とか好きですよ。特にワタとか。料理も必要最低限の家事はできるってぐらいです」
 人の目がないとどうしても横着してしまう、という珠姫の言葉に零がうんうんと頷く。心当たりがあるようだ。
 と、そこにカメラを首から下げた葦原 赤貴(CL2001019)が現れる。先に手伝いを申し出ていたのだが、まずは何か食べて来いと送り出されていたのだった。
「水瀬さん、何か足りない物とかって有るか? 必要なら買って来るけど」
「んー……皆色々と持って来てくれてるから、足りない物は無いと思うよ。むしろ食べ手が足りないみたい」
 珠姫の視線の先には数多ら四人が囲んでいる鍋があった。作り過ぎたのだろうと判断した珠姫は、その妙に濃い色合いの鍋を配るのを手伝って欲しいと赤貴に頼む事にした。
 赤貴と話す為に珠姫が離れても構わず騒いでいる零と満月や、ともやが作ったコロッケかチーズと海苔の醤油焼きおにぎりのどちらを先に食べるかで悩んでいる槐。カレーとおにぎりの味覚のハーモニーを奏でている静護と御菓子など余裕のありそうな人はまだまだ居る。
「あ、それと葦原君。写真撮るのは良いけど、ちゃんと撮って良いですかって聞くんだよ?」
「……ああ、そうする。写真、配った方が良いよな?」
 配る時は手伝うと言って赤貴を送り出すと、入れ替わりでやって来た直貴とともやが料理の盛り合わせを珠姫に差し出す。
「水瀬さん、お手間でなければ味見、お願いできますか? コロッケはともやさんと作ったんですよ」
「ちなみに肉は無いぞ。あ、残った芋があったら持ち帰っていいか? ちょっと今生活苦しくてな」
「構いませんよ、ってもう居ないし……んっ! は、はっふ! ……ほ、ほいひぃれふ」
 熱々のコロッケが珠姫の舌を焼く。少し離れた場所では同じく舌が焼けたのか、悠乃やいのりが赤貴から妙に濃い色の芋鍋を受け取っていた。
 ……写真の撮影と共に配られる濃い色芋鍋は、続々と増え続ける。
「まだ少し熱かったですかね……しかし、こうして秋晴れの下で秋の味覚を楽しむのは、また格別ですね」
「ですね……うぁ、舌火傷したかも」
 苦笑する直貴にそう答え、珠姫は高くなり始めた空を見上げた。本格的な秋の訪れを感じさせる空が続いている。
 ……決して何人かが濃い味鍋を食べて悶絶している地獄絵図を見たくないからではない。ないのだ。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『芋料理』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員




 
ここはミラーサイトです