≪ピンナップシナリオ≫吾輩は猫であるからして!
●
赤い番傘の、後ろ姿。
「にゃん♪」
くる、と番傘が半回転。
「にゃん♪」
再び、くる、と半回転。
「にゃんにゃん、にゃふん♪」
振り返った女の瞳は、黄昏色の縦瞳孔。少女のように花が咲く笑顔に合わせて、頭の上の猫耳が片方だけぴくぴくと揺れた。
「ふぁ……クリスマスデェイだにゃん!」
パン、と音をたて合わせた両手を開けば、両手の上に光の粒が浮かぶ。
「今日という日程度、誰しもが幸せににゃる日だにゃん。
にゃので、この世界にぇ、プレゼントにゃっ!!」
●
「――うむ、困ったものなのだ」
樹神枢は、相談室で腕を組んでいた。
「クリスマスに、猫又の古妖が大暴れするのを予見されたのだ、しかし……」
どうやらその件の猫又は、プレゼントと称してあらゆる迷惑商品を撒き散らしていくのだという。
例えば。
「またたびとか、またたびとか、またたびとか」
どうやら人間でも酔っぱらってしまう程に、超強力なマタタビなんだとか。
あとは。
「妖煙を吐く竹包みとか」
どうやら妙ちくりんな煙が噴き出すもので、暫くの間、猫の耳とか、尻尾がはえちゃうんだとか。
あとは?
「クリスマスっぽい、やたらキラキラしたお粉とか」
どうやらくしゃみが止まらなくなるらしい。地味に迷惑。
「猫又には悪気は無いのだ。
きっと……ちょっとした遊び心とかなのだ。
でも野放しにしておくと割と色々、尊厳とかアイデンティティとか大切なものとか失いかねない、あれあれそれそれみたいな事情で、クリスマスが盛大な黒歴史製造日になってしまうので、とりあえずアイテムの回収と、猫又をとっ捕まえて『めっ!』ってしてきて欲しいのだ、頼んだぞ」
赤い番傘の、後ろ姿。
「にゃん♪」
くる、と番傘が半回転。
「にゃん♪」
再び、くる、と半回転。
「にゃんにゃん、にゃふん♪」
振り返った女の瞳は、黄昏色の縦瞳孔。少女のように花が咲く笑顔に合わせて、頭の上の猫耳が片方だけぴくぴくと揺れた。
「ふぁ……クリスマスデェイだにゃん!」
パン、と音をたて合わせた両手を開けば、両手の上に光の粒が浮かぶ。
「今日という日程度、誰しもが幸せににゃる日だにゃん。
にゃので、この世界にぇ、プレゼントにゃっ!!」
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「――うむ、困ったものなのだ」
樹神枢は、相談室で腕を組んでいた。
「クリスマスに、猫又の古妖が大暴れするのを予見されたのだ、しかし……」
どうやらその件の猫又は、プレゼントと称してあらゆる迷惑商品を撒き散らしていくのだという。
例えば。
「またたびとか、またたびとか、またたびとか」
どうやら人間でも酔っぱらってしまう程に、超強力なマタタビなんだとか。
あとは。
「妖煙を吐く竹包みとか」
どうやら妙ちくりんな煙が噴き出すもので、暫くの間、猫の耳とか、尻尾がはえちゃうんだとか。
あとは?
「クリスマスっぽい、やたらキラキラしたお粉とか」
どうやらくしゃみが止まらなくなるらしい。地味に迷惑。
「猫又には悪気は無いのだ。
きっと……ちょっとした遊び心とかなのだ。
でも野放しにしておくと割と色々、尊厳とかアイデンティティとか大切なものとか失いかねない、あれあれそれそれみたいな事情で、クリスマスが盛大な黒歴史製造日になってしまうので、とりあえずアイテムの回収と、猫又をとっ捕まえて『めっ!』ってしてきて欲しいのだ、頼んだぞ」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.猫又の捕縛
2.アイテムの回収
3.なし
2.アイテムの回収
3.なし
頑張るときっと良いことがある思う
●状況
今年もやってきたクリスマス
しかし
猫又が色々危うい商品をばら撒いているので、とっつ構えて、アイテム回収
よりによって五麟市だよ、FiVEの膝下で好き勝手はさせないが、
さてさて?
●古妖:猫又
・見目麗しいお姉さんでサンタの姿した猫さん、語尾は、にゃ。
すばしっこく、高いところから落ちても平気で、ジャンプ力がめちゃくちゃ高い
やたら大きな袋を抱えています、追いかけて来る人物を見ると、鬼ごっこと勘違いして逃げていくようです
以下のようなアイテムを含めたよくわからないものを大量にばら撒いていきます
●アイテム
・またたび(古妖用)
「皆好きだと思うんだにゃ」
臭いをかぐと強制酔っぱらい、未成年でも酔っぱらう、人間だろうが動物だろうが酔っぱらう
自然治癒判定に成功したターンは酔っぱらわないわけだが、酔っぱらうと50%の確率で動けなくなるので注意。
かなりの本数撒かれている為、五麟をくまなく散策する必要はある。またたびの近くでは人、動物が倒れているので見つけやすくはある
・竹包み
「皆仲間に、にゃるんだにゃ」
これまた厄介な商品。
猫又成分増し増しに、回避判定に失敗すると強制50ターン猫の耳か尻尾がはえる、だけ
判定には数値判定を適用するがプレイングの気合いも考慮する
20cmくらいの竹が煙を吐いているので見つけやすいが、近づくと犠牲になると思う
・きらきらした粉
「綺麗でロマンチックだにゃ」
言ってしまえば、色付けされた胡椒の瓶
猫又が振りまいているので、本体である瓶は猫又が持っている。撒かれた粉は、範囲攻撃扱いでダメージこそないものの、全能力値下げてくるくらいにはくしゃみが止まらなくなるので、ある意味一番厄介
●場所:五麟市内
ペナルティ無し。時刻は夕方
既に犠牲は出ているため、道端に人が転がっていたり、叫んでいたり、それはもう悲惨なのだ
それではご縁がありましたら、宜しくお願いします
◆重要な備考
この依頼は『たぢまよしかづ』VC発案による特別依頼企画です。
・リプレイ納品後一ヶ月以内に参加PC全員描写のピンナップがつきます。
・基本的に構図などのデザインはVC任せとなります。
・服装は自由に設定できます。(サンタの恰好等) 【お任せ】もOKです。
・イラスト描写にNG要素がある場合はプレイングに必ず明記してください。
・プレイング文字数は800文字となります。
プレイング600文字にプラスしてイラストに関する記述が200文字記入できます。
イラストに関する記述はプレイングの後部に【ピンナップ:日常or覚醒】とタグをつけてからご記述下さい。
・ピンナップへの描写はBUイラストを所持していることが条件です。
・BU未所持のキャラクターも参加は可能ですがピンナップには描写されません。
※イラスト記述について
イラストの描写については数人のプレイングからの抽出になる為、すべてが適用されない場合があります。
ステータスシートだけでは伝えきれない服装や髪型、NGポイント等をメインに御活用下さい。
参加費用は450LPです。全員描写ピンナップの料金が含まれています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:1枚 銅:1枚
金:1枚 銀:1枚 銅:1枚
相談日数
6日
6日
参加費
450LP[+予約50LP]
450LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年01月11日
2017年01月11日
■メイン参加者 6人■

●つまりそういうこと
あたしは、ちょうイカすサンタにゃのにゃ!
まずは五麟の真ん中!
にゃんていうのだっけ?
らいじゅーとかいってた、ふぁいぶで頑張っている奴らを、にぇぎらいにゅいくにょにゃ。
あのらいじゅうけっかいというやつあたまにぴりぴりしてたけど、最近にゃくにゃったのはあいつらのおかげだしにゃ。
ブラシで自慢の尻尾をブラッシングするとぼさぼさにならにゃくにゃったのはありがたいにゃ。
プレゼントとは自分がもらって嬉しいものというにゃ。
押入れごそごそしてみつけた、とっておきの、またたびに、たけつつみ。これにゃんだっけな?まあ良い物だったにょだ。
キラキラしたのもはいってるにゃこれはうれしいにゃ。
あれだにゃ、りあじゅーってやつの上にまくにゃ。
きれいななかでぶっちゅーとしちゃうにょだろう?
よいよいねここはりあじゅうを応援するにゃ。
●
「めりーくりすますにゃあっ」
その日、五麟市の中でも一際高い建物の屋上で、それも一歩間違えてしまえば落ちてしまうような崖っぷち擦れ擦れの場所で、猫は踊る。
雄々しく尾を触れ、耳を高らかに立てろ。
くるくる廻り、されど男なら誰しもが振り向くような曲線美を持った女の正体は、猫又という古妖である。
名を、――いや、今はまだいいだろう。
金に煌く粉を空中に放ち、それが風に乗ってどこかへと飛んでいく。あれはまたたびというものらしいが、古妖が使うマタタビが人間界のそれとはイコールではない。
「そこの猫又サンター! 止まれー! ちょっと話があるー! 止まらないと実力行使で捕まえるぞー!!」
屋上のタイルを踏みしめ『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は全速力で駆けてきた。その大声に猫又は驚いたように身体を揺らした。
猫又視点では、突然少年がこちらへ向かって走ってくるのだ。しかも彼の瞳は猫又の縦瞳孔の瞳よりも、どっちかっていうと胸のほうを凝視している。
なんとなく色々なアレの危機感を感じた猫又は――しかし予想以上に少年の足は速い。
フェンスに飛びつき、そしてガシガシと昇る遥に驚いた猫又は、勢いで足を滑らせ、屋上から身を放り投げるように落ちていく。
「あ――!!」
遥が思わず手を伸ばした――それは遅い。自殺するようにあっけなく落ちていく猫――割とそれは予想していた出来事である。
「猫又がそっちおちてった!!」
遥は即時、携帯に耳を当てて建物下の仲間へとかけた。
「あーあー、了解了解。まったく、どこらへんがクリスマスよ……」
『スポーティ探偵』華神 悠乃(CL2000231)は携帯を仕舞い、両手を伸ばしながら猫又を受け止める体勢へと変わる。
その頃、ぴゅ~~と落ちている猫又。
くるんと地面に対してうつ伏せの姿になったとき、猫又の視界には悠乃が映った。
「ははーん、アタシのぷれぜんとを独り占めしたいひとたちだにゃ?」
この盛大な勘違いが、被害を拡大させることに繋がっていた。
猫又はふむふむと顎を指で触ってから、空中で建物の壁に足の裏をくっつけ、重力や空気抵抗、そんなもの知るかと言わんばかりに、壁を横に走り始めていく。
「そんなのアリかい!!」
思わず悠乃が叫んだ。
猫又は大きな袋を抱えたまま、ビル壁に沿って斜め下へと走り、地面に着地。即時、悠乃は猫又を追った。
『―――という感じで、イレギュラーな猫で、見失ったわけで』
「そ、そう、大変だったわね、わかったわ」
溜息まじりの悠乃から連絡を受けていたのは、三島 椿(CL2000061)。
椿は携帯をポケットの奥へと仕舞ってから、ある意味もう見慣れた世界を一周見回した。そこには荒れ果てた世界が広がっている。
人々は皆、くしゃみが止まらなくなっていたり、電柱にもたれかかっては二日酔いのようにふらふらしていたり、挙句の果てには猫耳の男が叫び声を上げている。
「なんてこと……」
どうしてこんな事になったのか。
というのは、あの猫又が撒いたありとあらゆるもののせいな訳だが。
地味にこう、世間を騒がせるには十分すぎる話題である。
「凜には猫又が悪い子には見えないけど、これもお仕事だから」
茨田・凜(CL2000438)も荒れ果てた世界を見て、頷いていた。
「凜は回収するんよ、猫又はお願いするんよ」
「ええ、適材適所、ね」
猫又が撒いたあらゆるアイテムを回収しに走る凜。その隣で、地面を蹴り上げた椿の身体がふわりと空中に浮かんでいく。
一方。
「ふっ、クリスマスを楽しもうという心意気はいいものですっ。ですが、迷惑なのはダメですよっ。配る方も受け取る方もにっこり楽しくがクリスマスパーティーなのですっ」
首に巻かれたマフラーを靡かせながら、『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)は仁王立ちしていた。しかし、脳天には猫耳が、腰には尻尾があった。
いつもとは違う風貌だが、中身は変わらぬ浅葱は常にマイペース。
しかし打って変わって『雷切』姫神 桃(CL2001376)は浅葱より遥か後方の、ビルの物陰に半身だけ隠れて浅葱を見ていた。
「遠くないですかっ」
浅葱は竹包みを拾い上げながら、笑顔で桃へ振り向く。
「そりゃそうよ。だって、そんな何が起きるか分からないアイテムの影響を受けるのは御免だもの」
「大丈夫ですよっ、ちょっと猫耳とかが生えるだけですからっ!」
「生やさないわよ! 私に猫耳が生えても、あんまり変わらない気がするわ」
でも……。
桃は観念したように物陰から出てきながら、浅葱と同じサンタの恰好にちょっとだけ身震いをした。
「あと……寒いわ」
「運動してあったまりましょうっ!」
「ほんと、笑えるくらいに前向きよね」
竹包みを大きなゴミ袋に入れながら、赤いサンタ恰好の浅葱は桃の隣まで進んでいく。
浅葱の頭にぴょこんと生えた耳が、行動するごとに連動して動いているのに気づいた桃は、喉の奥を「うっ」と鳴らす。なにこれと、触ってみたい衝動に、駆られるのだが桃は理性で抑えていた。
●
回収作業と共に進行する猫又の追跡劇。
空中から被害を見ていた椿は、一目散に騒動や叫び声が大きい場所へと向かった。
蒼い羽がふと、猫又の鼻あたりを優しく撫でた。
「そこまでよ!」
猫又が振り向く動作、黄金の瞳の中に映ったのは椿の姿。
羽を畳みながら、動かないでと片腕を手前に出し、されど罪猫は胡椒と踊る。
粉末が光の反射で七色に輝き、それは胡椒というものでなければとても幻想的なものに見えるのだが、椿は、一歩進む足を止めた。
「綺麗でろまんちっくだにゃ?」
「そ、そうだけどっ。貴方が悪い古妖さんではないのは分かるわ、だから、その、あんまり暴れ――くちゅんっ!!」
「今日はくしゃみする人間が多いにゃ」
椿は両手で顔を抑えながら、びくっびくっと揺れつつ、くしゃみをしないようにしているのだが、身体は正直というやつだ。翼で風を起こし、煌きの粉を退けながら、大きな袋をよっこいしょと担いだ猫を追わんとする。
そんなとき、
「けしからんおpp……じゃなくて、そのこ猫おおおおお!!!」
遥が猛スピードで走ってきた。猫を挟み撃ちにするように、悠乃は遥と対面の位置から走る。
その時、猫又はこう思った。遥と悠乃を見比べて、あ、もしかしてこの二人、かっぷるというものではないか。人間世界ではこのクリスマスに二人でいる男女はかっぷるというカデコリに属するものが多い。
その間に猫又がいるということは、つまり今、ちょっと二人の邪魔になっている。あ、退かないと。
「このまま、終わりだああああ!」
「アスリート舐めないでくだ……くしゅん!! くそう、被弾した」
遥と悠乃が、二人っていうスキルに物言わせてほぼ同時に地面を蹴る。
猫又はむやみやたらに強力な健脚で地面を蹴れば、コンクリが凹み、猫又がいなくなったので遥と悠乃はそのまま衝突する。
猫又は勢いで向かいのマンションの7階ベランダに着地しつつ下を見れば、悠乃の上に遥が覆いかぶさっているではないか。よきかな。
「かっぷるがいちゃいちゃしているのは、いい目の保養だにゃ」
がばぁ!! と上半身だけ起こした遥。
「ごめん! 悠乃さん!! こらあ!! 待て!!」
「今のはいいタックルだったよ、しかし」
「え!?」
遥の手のひら、わきわき、と動かしてみると。悠乃のお腹よりちょっと上のあれこれみたいなあれをわきわきしていた。
気を取り直して。
竹包みから胡椒瓶まで、ありとあらゆるものを詰め込んだゴミ袋を引きずりながら、凜はふと上空を見た。
ビルとビルの間を駆ける猫又、それを追うように椿が追跡していた。
(あっちも大変そうだなんよ)
なんて思いながら、凜はふと、ん? あれ……、凜は、凜は……くらくらふらふら。
力が抜けたように凜の腰が、地面にへたりと座り込んだ。こんなはずでは、思ってみれば先ほどの猫又の通過のときに、やたら粉っぽかったような気もする。
つまりまさか、知らぬうちに被弾したというのか、古妖性のまたたびとやらに。
「は、はひぇ……?」
守るべきは凜のお腹のなかに芽生えた新しい命ではあるのだが、しかし、大丈夫安心して、これはアルコールみたいにお腹の子に影響を与えない系だからそれは約束しよう。妊婦という神秘的かつ繊細な存在に手を出してしまった猫又の明日はいざ知れず。
さておき、身体の奥から熱が浮き出て、凜は――
「暑い……」
と遂に服を一枚脱ぎ始める。
最早彼女の周囲は同じように酔っぱらった人々で埋め尽くされているのだから、葉を隠すなら森の中なんてそんな理由にはならないが、一枚以上脱いでいる輩の中であれば凜のそれくらいなんて許容範囲であると断っておきたい。
口端から涎を垂らしそうで垂らさないぎりぎりと、とろんと色気に満ち満ちた女の表情と、艶やかに煌く肌の露出を発生させた凜であった(戦闘不能)。
そんな事件が起きているとは知らず。
桃と浅葱にも割と深刻な事態が起きていた。事件は現場で起きるのよ。
「やっ」
何気なく歩いていた桃が、飛び跳ねた。
「どうしたんですかっ」
「やっ、ちょっ」
浅葱は瞳をぱちぱちとさせた。桃の頭と腰から、耳と尻尾がにゅるんとはえていたのだ。桃色の猫さん、珍しい毛色であるか。
「むむっ、桃さんに猫耳がっ」
半ば嬉しそうに浅葱は桃の耳をつんつんと触ってみる。
「ちょっと! やめっ」
桃としては絶対に生やさないと心に誓っていた分、ちょっとしたショックはあるもののしかしそれでも友人が与えてくる耳への感触に身体は正直に反応していた。なんかくすぐったいらしい。
「しっぽも生えちゃってますよっ」
「って、ひゃ!」
浅葱は桃の尻尾を捕まえて、少しだけ力を入れて握ってみると桃の身体がぴくんと動いた。初めての感触に、くすぐったくも、気持ちいような、それでいてちょっと恥ずかしいようなそんな気分らしい。
お返しに桃は浅葱の猫耳へと手を伸ばした。こしょこしょ……とくすぐってみれば、浅葱の尻尾はこれ以上になくぶるぶる震えている。
「にゃあっ! わっ、なんだか、こそばゆいような不思議な感覚ですよっ!」
更に、少しだけ耳の奥をくすぐったり、付け根の部分をやさしくなぞってみたり、傷つけないように先端をつまんでみたり。
「ふふ、身悶えるといいわ!」
「ふわぁ……」
桃の指に反応する浅葱は、とろんと瞳をうるうるさせつつ、へにゃりと座り込んだ。
二人の触り合いは暫く続いた。
凜や浅葱、桃たちの地道な回収もあり、少しずつ被害も収まっているようにみえるが、当の猫又は未だにすばしっこく逃げている。
椿の視界に見える猫又はいま、公園のベンチで座り込んでいた背広のサラリーマンに幸せの粉(またたび)を撒いて、幸せそうに酔っぱらわせている。
「奇襲、いけるかしら」
場所を遥と悠乃に伝えながら、二人の到着を暫く待つ。その間に猫又を見失わないようにするのが椿の役目だ。
猫又は今度は公園に入ってきたカップルにきらきらの粉を撒いている。心のなかで、南無……と思った椿だが、近づけばきっとさっきみたいに前後不覚になるレベルのくしゃみ地獄になるのは、今の状況では遠慮したい。
ごめんなさいとカップルに心の中で念じたとき、椿の左右隣に猫耳ついた悠乃と、酔っぱらってふらふらしている遥があつまった。
「被弾したのね……」
「らいろうぶだぜ!」
「無理しないで、ああ、なんか耳がくすぐったいわ……」
さてはて、どうなるものか。
●
ちょっとしだ相談を挟んだ三人は、今度こそと猫又と対峙する。
まずは悠乃が飛び出した――猫又は彼女の最接近に気づき、「あ、あのかっぷるだにゃ」なんて思ったのだが、悠乃の気迫を前にそうでは無いのかもしれないと自力で気づいた。
ふわ、と撒かれたマタタビを炎を撒いてギリギリかき消し、煙に巻かれた猫又は左右に首をふる。
「にゃにもみえにゃいにゃ」
と呟いたとき、煙の奥から飛び込んできた悠乃。
反射神経を利かして、横へ逃げた猫又は同じように足に力を込めて跳ね、商店街へと逃げ込む。そこには遥が待っていた。
商店街の店の屋根や、窓の僅かな隙間を足場に飛び移っていく猫又と同じように、跳ね、飛んで建物の僅かな凹凸を足場にしながら追って行く遥。
「やるにゃ、しょうにぇん!」
「へっ!! 絶対に捕まえる!!」
猫又は建物と建物の間を利用して、ジグザグに壁を蹴りながら屋上へ着地。その軌跡を完全にコピーした遥が同じように追って行く。
屋上では、悠乃と手を繋いで翼を広げた椿が待っていた。猫又は二人の襲来にびびってから、屋上をぴょんぴょんと跳ねて逃げていく。
「どんだけ捕まりたくないの」
「楽しんでいるようにも見えるわね」
「待てえええええええ!!」
くるーんと振り返った猫又が、意地悪く笑いながら、尻尾を振った――その時、衝撃、どしん! と音がして、猫又は屋上の床の上にごろごろ回転してから柵にぶつかって止まった。
「にゃ、にゃんにゃ……」
と思えば、桃と浅葱とぶつかっていたのだ。猫耳尻尾の二人はぶつかった衝撃で目を廻していたが、どうやらアイテム回収を終了したため、二人は応援に来ていたのだ。
しかしだ。猫又がぶつかった衝撃で、抱えていた袋の中身が散乱。粉やまたたびや、竹包みがばらばらになって。
「ひゃっ!?」
椿の頭から猫耳がぴょこん!
「ふぁっ」
悠乃の腰から尻尾がぴゅるん!
「へっっくしゅん!!」
遥が大きくくしゃみし。
「「ふあぁぁ?」」
桃と浅葱が、とろんと酔っぱらっていく。
「にゃー、全部撒いちゃったのにゃ」
にししと笑い顔を浮かべた猫又だが、即座撤退せんと身体を起こしたその時、遥が飛び出し猫又の身体を掴んでいく。
胸あたりに顔を埋め、腰あたりに腕を廻し、二人は一斉に体勢を崩して、遥は猫又を押し倒していく。
「やっと、捕まえ――くしゅん! たぞ!! へっくしゅん!!」
「にゃああ!」
猫又は艶やかな声を出した。悠乃は頭を抑えた。
「……かのしまくん? タックルの掴む先はそこじゃないよ?」
「へ?」
むにむに。
なんだろう、このマシュマロでも掴んでいるような掌の感触は。
「これは……ふ、不可抗力……だから!!」
遥はそう言いながらも手をむにむに動かしていた。
「にゃっ、んっ」
猫又は更にびっくりして跳ね飛び、遥を腰にぶら下げたまま、空中で待機していた椿が猫又をキャッチした。
猫又は泣きそうになりながら遥を指さし。
「人間さん人間さん! あのひとですにゃ、わるいにんげんですにゃ!!」
「ええーっと」
椿はとりあえず猫又の頭をなでなでした。
――なんだかんだあり、本部。
正座させられた猫又は、六人の覚者に囲まれていた。
「あれは あかんでしょ……」
悠乃は携帯に再生されている五麟の有様、とくに猫耳になって叫んでいるおじさんの画像を流しながら、半目になっていた。
「わるぎはにゃかったにゃ」
「犯人はみんなそういうよ」
「ごめんにゃさいにゃ」
悠乃の足下で、しぶしぶ頭を下げた猫又。
「他意はなかった……」
猫又と向かいあう形で正座しながら頭を下げた遥。
「次からは気を付けるんよ」
優しい瞳で苦笑していた凜。
さてはてどたばたではあったものの、五麟市のほうはやっと猫又の撒いたものの効果も薄れて、平穏を取り戻してきたらしい。
椿は諭すように猫又の瞳に、己のそれを重ねていた。
「にゃあ……?」
「プレゼントどうも有難う。追いかけっこ楽しかったわ」
「そうにゃにょ?」
「貴方にいっぱいプレゼントをもらったから、今度は私達が貴方にプレゼントをしたいわ。今度は一緒に美味しいものでも食べに行かない?」
「おいしいものにゃ?」
その言葉に、浅葱と桃が両手を合わせて頷いた。
「ふふふ、気を取り直して猫又さんとクリスマスパーティーですねっ!」
「猫又なりのクリスマスの次は、私達なりのクリスマスを堪能してもらいましょ」
「一緒ににっこり楽しんじゃいましょうっ! あ、でも竹包みは可愛くていいと思ったのですよっ」
「にゃあ!」
そうしてクリスマスは平穏が訪れた。
最後に――椿はいう。
「あなたの名前は――?」
「あたしのにゃまえは――」
あたしは、ちょうイカすサンタにゃのにゃ!
まずは五麟の真ん中!
にゃんていうのだっけ?
らいじゅーとかいってた、ふぁいぶで頑張っている奴らを、にぇぎらいにゅいくにょにゃ。
あのらいじゅうけっかいというやつあたまにぴりぴりしてたけど、最近にゃくにゃったのはあいつらのおかげだしにゃ。
ブラシで自慢の尻尾をブラッシングするとぼさぼさにならにゃくにゃったのはありがたいにゃ。
プレゼントとは自分がもらって嬉しいものというにゃ。
押入れごそごそしてみつけた、とっておきの、またたびに、たけつつみ。これにゃんだっけな?まあ良い物だったにょだ。
キラキラしたのもはいってるにゃこれはうれしいにゃ。
あれだにゃ、りあじゅーってやつの上にまくにゃ。
きれいななかでぶっちゅーとしちゃうにょだろう?
よいよいねここはりあじゅうを応援するにゃ。
●
「めりーくりすますにゃあっ」
その日、五麟市の中でも一際高い建物の屋上で、それも一歩間違えてしまえば落ちてしまうような崖っぷち擦れ擦れの場所で、猫は踊る。
雄々しく尾を触れ、耳を高らかに立てろ。
くるくる廻り、されど男なら誰しもが振り向くような曲線美を持った女の正体は、猫又という古妖である。
名を、――いや、今はまだいいだろう。
金に煌く粉を空中に放ち、それが風に乗ってどこかへと飛んでいく。あれはまたたびというものらしいが、古妖が使うマタタビが人間界のそれとはイコールではない。
「そこの猫又サンター! 止まれー! ちょっと話があるー! 止まらないと実力行使で捕まえるぞー!!」
屋上のタイルを踏みしめ『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は全速力で駆けてきた。その大声に猫又は驚いたように身体を揺らした。
猫又視点では、突然少年がこちらへ向かって走ってくるのだ。しかも彼の瞳は猫又の縦瞳孔の瞳よりも、どっちかっていうと胸のほうを凝視している。
なんとなく色々なアレの危機感を感じた猫又は――しかし予想以上に少年の足は速い。
フェンスに飛びつき、そしてガシガシと昇る遥に驚いた猫又は、勢いで足を滑らせ、屋上から身を放り投げるように落ちていく。
「あ――!!」
遥が思わず手を伸ばした――それは遅い。自殺するようにあっけなく落ちていく猫――割とそれは予想していた出来事である。
「猫又がそっちおちてった!!」
遥は即時、携帯に耳を当てて建物下の仲間へとかけた。
「あーあー、了解了解。まったく、どこらへんがクリスマスよ……」
『スポーティ探偵』華神 悠乃(CL2000231)は携帯を仕舞い、両手を伸ばしながら猫又を受け止める体勢へと変わる。
その頃、ぴゅ~~と落ちている猫又。
くるんと地面に対してうつ伏せの姿になったとき、猫又の視界には悠乃が映った。
「ははーん、アタシのぷれぜんとを独り占めしたいひとたちだにゃ?」
この盛大な勘違いが、被害を拡大させることに繋がっていた。
猫又はふむふむと顎を指で触ってから、空中で建物の壁に足の裏をくっつけ、重力や空気抵抗、そんなもの知るかと言わんばかりに、壁を横に走り始めていく。
「そんなのアリかい!!」
思わず悠乃が叫んだ。
猫又は大きな袋を抱えたまま、ビル壁に沿って斜め下へと走り、地面に着地。即時、悠乃は猫又を追った。
『―――という感じで、イレギュラーな猫で、見失ったわけで』
「そ、そう、大変だったわね、わかったわ」
溜息まじりの悠乃から連絡を受けていたのは、三島 椿(CL2000061)。
椿は携帯をポケットの奥へと仕舞ってから、ある意味もう見慣れた世界を一周見回した。そこには荒れ果てた世界が広がっている。
人々は皆、くしゃみが止まらなくなっていたり、電柱にもたれかかっては二日酔いのようにふらふらしていたり、挙句の果てには猫耳の男が叫び声を上げている。
「なんてこと……」
どうしてこんな事になったのか。
というのは、あの猫又が撒いたありとあらゆるもののせいな訳だが。
地味にこう、世間を騒がせるには十分すぎる話題である。
「凜には猫又が悪い子には見えないけど、これもお仕事だから」
茨田・凜(CL2000438)も荒れ果てた世界を見て、頷いていた。
「凜は回収するんよ、猫又はお願いするんよ」
「ええ、適材適所、ね」
猫又が撒いたあらゆるアイテムを回収しに走る凜。その隣で、地面を蹴り上げた椿の身体がふわりと空中に浮かんでいく。
一方。
「ふっ、クリスマスを楽しもうという心意気はいいものですっ。ですが、迷惑なのはダメですよっ。配る方も受け取る方もにっこり楽しくがクリスマスパーティーなのですっ」
首に巻かれたマフラーを靡かせながら、『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)は仁王立ちしていた。しかし、脳天には猫耳が、腰には尻尾があった。
いつもとは違う風貌だが、中身は変わらぬ浅葱は常にマイペース。
しかし打って変わって『雷切』姫神 桃(CL2001376)は浅葱より遥か後方の、ビルの物陰に半身だけ隠れて浅葱を見ていた。
「遠くないですかっ」
浅葱は竹包みを拾い上げながら、笑顔で桃へ振り向く。
「そりゃそうよ。だって、そんな何が起きるか分からないアイテムの影響を受けるのは御免だもの」
「大丈夫ですよっ、ちょっと猫耳とかが生えるだけですからっ!」
「生やさないわよ! 私に猫耳が生えても、あんまり変わらない気がするわ」
でも……。
桃は観念したように物陰から出てきながら、浅葱と同じサンタの恰好にちょっとだけ身震いをした。
「あと……寒いわ」
「運動してあったまりましょうっ!」
「ほんと、笑えるくらいに前向きよね」
竹包みを大きなゴミ袋に入れながら、赤いサンタ恰好の浅葱は桃の隣まで進んでいく。
浅葱の頭にぴょこんと生えた耳が、行動するごとに連動して動いているのに気づいた桃は、喉の奥を「うっ」と鳴らす。なにこれと、触ってみたい衝動に、駆られるのだが桃は理性で抑えていた。
●
回収作業と共に進行する猫又の追跡劇。
空中から被害を見ていた椿は、一目散に騒動や叫び声が大きい場所へと向かった。
蒼い羽がふと、猫又の鼻あたりを優しく撫でた。
「そこまでよ!」
猫又が振り向く動作、黄金の瞳の中に映ったのは椿の姿。
羽を畳みながら、動かないでと片腕を手前に出し、されど罪猫は胡椒と踊る。
粉末が光の反射で七色に輝き、それは胡椒というものでなければとても幻想的なものに見えるのだが、椿は、一歩進む足を止めた。
「綺麗でろまんちっくだにゃ?」
「そ、そうだけどっ。貴方が悪い古妖さんではないのは分かるわ、だから、その、あんまり暴れ――くちゅんっ!!」
「今日はくしゃみする人間が多いにゃ」
椿は両手で顔を抑えながら、びくっびくっと揺れつつ、くしゃみをしないようにしているのだが、身体は正直というやつだ。翼で風を起こし、煌きの粉を退けながら、大きな袋をよっこいしょと担いだ猫を追わんとする。
そんなとき、
「けしからんおpp……じゃなくて、そのこ猫おおおおお!!!」
遥が猛スピードで走ってきた。猫を挟み撃ちにするように、悠乃は遥と対面の位置から走る。
その時、猫又はこう思った。遥と悠乃を見比べて、あ、もしかしてこの二人、かっぷるというものではないか。人間世界ではこのクリスマスに二人でいる男女はかっぷるというカデコリに属するものが多い。
その間に猫又がいるということは、つまり今、ちょっと二人の邪魔になっている。あ、退かないと。
「このまま、終わりだああああ!」
「アスリート舐めないでくだ……くしゅん!! くそう、被弾した」
遥と悠乃が、二人っていうスキルに物言わせてほぼ同時に地面を蹴る。
猫又はむやみやたらに強力な健脚で地面を蹴れば、コンクリが凹み、猫又がいなくなったので遥と悠乃はそのまま衝突する。
猫又は勢いで向かいのマンションの7階ベランダに着地しつつ下を見れば、悠乃の上に遥が覆いかぶさっているではないか。よきかな。
「かっぷるがいちゃいちゃしているのは、いい目の保養だにゃ」
がばぁ!! と上半身だけ起こした遥。
「ごめん! 悠乃さん!! こらあ!! 待て!!」
「今のはいいタックルだったよ、しかし」
「え!?」
遥の手のひら、わきわき、と動かしてみると。悠乃のお腹よりちょっと上のあれこれみたいなあれをわきわきしていた。
気を取り直して。
竹包みから胡椒瓶まで、ありとあらゆるものを詰め込んだゴミ袋を引きずりながら、凜はふと上空を見た。
ビルとビルの間を駆ける猫又、それを追うように椿が追跡していた。
(あっちも大変そうだなんよ)
なんて思いながら、凜はふと、ん? あれ……、凜は、凜は……くらくらふらふら。
力が抜けたように凜の腰が、地面にへたりと座り込んだ。こんなはずでは、思ってみれば先ほどの猫又の通過のときに、やたら粉っぽかったような気もする。
つまりまさか、知らぬうちに被弾したというのか、古妖性のまたたびとやらに。
「は、はひぇ……?」
守るべきは凜のお腹のなかに芽生えた新しい命ではあるのだが、しかし、大丈夫安心して、これはアルコールみたいにお腹の子に影響を与えない系だからそれは約束しよう。妊婦という神秘的かつ繊細な存在に手を出してしまった猫又の明日はいざ知れず。
さておき、身体の奥から熱が浮き出て、凜は――
「暑い……」
と遂に服を一枚脱ぎ始める。
最早彼女の周囲は同じように酔っぱらった人々で埋め尽くされているのだから、葉を隠すなら森の中なんてそんな理由にはならないが、一枚以上脱いでいる輩の中であれば凜のそれくらいなんて許容範囲であると断っておきたい。
口端から涎を垂らしそうで垂らさないぎりぎりと、とろんと色気に満ち満ちた女の表情と、艶やかに煌く肌の露出を発生させた凜であった(戦闘不能)。
そんな事件が起きているとは知らず。
桃と浅葱にも割と深刻な事態が起きていた。事件は現場で起きるのよ。
「やっ」
何気なく歩いていた桃が、飛び跳ねた。
「どうしたんですかっ」
「やっ、ちょっ」
浅葱は瞳をぱちぱちとさせた。桃の頭と腰から、耳と尻尾がにゅるんとはえていたのだ。桃色の猫さん、珍しい毛色であるか。
「むむっ、桃さんに猫耳がっ」
半ば嬉しそうに浅葱は桃の耳をつんつんと触ってみる。
「ちょっと! やめっ」
桃としては絶対に生やさないと心に誓っていた分、ちょっとしたショックはあるもののしかしそれでも友人が与えてくる耳への感触に身体は正直に反応していた。なんかくすぐったいらしい。
「しっぽも生えちゃってますよっ」
「って、ひゃ!」
浅葱は桃の尻尾を捕まえて、少しだけ力を入れて握ってみると桃の身体がぴくんと動いた。初めての感触に、くすぐったくも、気持ちいような、それでいてちょっと恥ずかしいようなそんな気分らしい。
お返しに桃は浅葱の猫耳へと手を伸ばした。こしょこしょ……とくすぐってみれば、浅葱の尻尾はこれ以上になくぶるぶる震えている。
「にゃあっ! わっ、なんだか、こそばゆいような不思議な感覚ですよっ!」
更に、少しだけ耳の奥をくすぐったり、付け根の部分をやさしくなぞってみたり、傷つけないように先端をつまんでみたり。
「ふふ、身悶えるといいわ!」
「ふわぁ……」
桃の指に反応する浅葱は、とろんと瞳をうるうるさせつつ、へにゃりと座り込んだ。
二人の触り合いは暫く続いた。
凜や浅葱、桃たちの地道な回収もあり、少しずつ被害も収まっているようにみえるが、当の猫又は未だにすばしっこく逃げている。
椿の視界に見える猫又はいま、公園のベンチで座り込んでいた背広のサラリーマンに幸せの粉(またたび)を撒いて、幸せそうに酔っぱらわせている。
「奇襲、いけるかしら」
場所を遥と悠乃に伝えながら、二人の到着を暫く待つ。その間に猫又を見失わないようにするのが椿の役目だ。
猫又は今度は公園に入ってきたカップルにきらきらの粉を撒いている。心のなかで、南無……と思った椿だが、近づけばきっとさっきみたいに前後不覚になるレベルのくしゃみ地獄になるのは、今の状況では遠慮したい。
ごめんなさいとカップルに心の中で念じたとき、椿の左右隣に猫耳ついた悠乃と、酔っぱらってふらふらしている遥があつまった。
「被弾したのね……」
「らいろうぶだぜ!」
「無理しないで、ああ、なんか耳がくすぐったいわ……」
さてはて、どうなるものか。
●
ちょっとしだ相談を挟んだ三人は、今度こそと猫又と対峙する。
まずは悠乃が飛び出した――猫又は彼女の最接近に気づき、「あ、あのかっぷるだにゃ」なんて思ったのだが、悠乃の気迫を前にそうでは無いのかもしれないと自力で気づいた。
ふわ、と撒かれたマタタビを炎を撒いてギリギリかき消し、煙に巻かれた猫又は左右に首をふる。
「にゃにもみえにゃいにゃ」
と呟いたとき、煙の奥から飛び込んできた悠乃。
反射神経を利かして、横へ逃げた猫又は同じように足に力を込めて跳ね、商店街へと逃げ込む。そこには遥が待っていた。
商店街の店の屋根や、窓の僅かな隙間を足場に飛び移っていく猫又と同じように、跳ね、飛んで建物の僅かな凹凸を足場にしながら追って行く遥。
「やるにゃ、しょうにぇん!」
「へっ!! 絶対に捕まえる!!」
猫又は建物と建物の間を利用して、ジグザグに壁を蹴りながら屋上へ着地。その軌跡を完全にコピーした遥が同じように追って行く。
屋上では、悠乃と手を繋いで翼を広げた椿が待っていた。猫又は二人の襲来にびびってから、屋上をぴょんぴょんと跳ねて逃げていく。
「どんだけ捕まりたくないの」
「楽しんでいるようにも見えるわね」
「待てえええええええ!!」
くるーんと振り返った猫又が、意地悪く笑いながら、尻尾を振った――その時、衝撃、どしん! と音がして、猫又は屋上の床の上にごろごろ回転してから柵にぶつかって止まった。
「にゃ、にゃんにゃ……」
と思えば、桃と浅葱とぶつかっていたのだ。猫耳尻尾の二人はぶつかった衝撃で目を廻していたが、どうやらアイテム回収を終了したため、二人は応援に来ていたのだ。
しかしだ。猫又がぶつかった衝撃で、抱えていた袋の中身が散乱。粉やまたたびや、竹包みがばらばらになって。
「ひゃっ!?」
椿の頭から猫耳がぴょこん!
「ふぁっ」
悠乃の腰から尻尾がぴゅるん!
「へっっくしゅん!!」
遥が大きくくしゃみし。
「「ふあぁぁ?」」
桃と浅葱が、とろんと酔っぱらっていく。
「にゃー、全部撒いちゃったのにゃ」
にししと笑い顔を浮かべた猫又だが、即座撤退せんと身体を起こしたその時、遥が飛び出し猫又の身体を掴んでいく。
胸あたりに顔を埋め、腰あたりに腕を廻し、二人は一斉に体勢を崩して、遥は猫又を押し倒していく。
「やっと、捕まえ――くしゅん! たぞ!! へっくしゅん!!」
「にゃああ!」
猫又は艶やかな声を出した。悠乃は頭を抑えた。
「……かのしまくん? タックルの掴む先はそこじゃないよ?」
「へ?」
むにむに。
なんだろう、このマシュマロでも掴んでいるような掌の感触は。
「これは……ふ、不可抗力……だから!!」
遥はそう言いながらも手をむにむに動かしていた。
「にゃっ、んっ」
猫又は更にびっくりして跳ね飛び、遥を腰にぶら下げたまま、空中で待機していた椿が猫又をキャッチした。
猫又は泣きそうになりながら遥を指さし。
「人間さん人間さん! あのひとですにゃ、わるいにんげんですにゃ!!」
「ええーっと」
椿はとりあえず猫又の頭をなでなでした。
――なんだかんだあり、本部。
正座させられた猫又は、六人の覚者に囲まれていた。
「あれは あかんでしょ……」
悠乃は携帯に再生されている五麟の有様、とくに猫耳になって叫んでいるおじさんの画像を流しながら、半目になっていた。
「わるぎはにゃかったにゃ」
「犯人はみんなそういうよ」
「ごめんにゃさいにゃ」
悠乃の足下で、しぶしぶ頭を下げた猫又。
「他意はなかった……」
猫又と向かいあう形で正座しながら頭を下げた遥。
「次からは気を付けるんよ」
優しい瞳で苦笑していた凜。
さてはてどたばたではあったものの、五麟市のほうはやっと猫又の撒いたものの効果も薄れて、平穏を取り戻してきたらしい。
椿は諭すように猫又の瞳に、己のそれを重ねていた。
「にゃあ……?」
「プレゼントどうも有難う。追いかけっこ楽しかったわ」
「そうにゃにょ?」
「貴方にいっぱいプレゼントをもらったから、今度は私達が貴方にプレゼントをしたいわ。今度は一緒に美味しいものでも食べに行かない?」
「おいしいものにゃ?」
その言葉に、浅葱と桃が両手を合わせて頷いた。
「ふふふ、気を取り直して猫又さんとクリスマスパーティーですねっ!」
「猫又なりのクリスマスの次は、私達なりのクリスマスを堪能してもらいましょ」
「一緒ににっこり楽しんじゃいましょうっ! あ、でも竹包みは可愛くていいと思ったのですよっ」
「にゃあ!」
そうしてクリスマスは平穏が訪れた。
最後に――椿はいう。
「あなたの名前は――?」
「あたしのにゃまえは――」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
