≪友ヶ島2016≫星水晶洞窟物語
●ふんどし漢の誘い
友ヶ島を襲った妖化現象――その騒動を見事に鎮めたF.i.V.E.の覚者たちは、そのお礼として貸切解放された島で、夏のリゾートを満喫することとなる。
「そんな訳で、今回は穴場っぽい場所を探索しようと思うのだ。……謎の洞窟を」
どうだ、わくわくしないか――とでも言うように、リゾートのお誘いにやって来たのは『銀閃華』帯刀 董十郎(nCL2000096)。ふんどしスタイルでばっちり決めた彼は、既に楽しむ気満々のご様子だった。
「洞窟は観光ルートから外れた場所にあって、余り人の手が入っていないようでな。その所為もあるだろうが、其処では幻想的な光景が見られるようだ」
――深い緑を掻き分けて進んだ先には、樹々に呑まれるようにして自然の洞窟がぽっかりと口を開けている。氷柱のように天井から垂れ下がる鍾乳石を横目に、夏でもひんやりとした洞窟内部を進んでいくと、やがて透き通り仄かな光を放つ水晶群が姿を現わすのだとか。
「青、緑、赤……と、まるで源素の輝きのようだな。そうして水晶の導きに従い奥へ進むと、其処には澄んだ地底湖が広がっていると言う」
広場のようになっている最奥は、ゆったりと寛ぐには最適だろう。天井の所々からは陽光が降り注ぎ、天の階のような光の筋は、洞窟内を幻想的に照らしてくれている。陽が当たる一部の空間には、苔などの緑も育まれており、可愛らしい花の姿も見ることが出来るらしい。
「そして――天井の岩は、不思議な成分を含んでいるようでな、まるで蛍の群れか星空かと思うほどに瞬いて、遥か頭上を照らしているのだ」
こんな不思議な光景が広がっている原因は、よく分かっていないのだが――恐らくは島に住まう古妖の祝福なのかもしれない、と董十郎は言う。
「しかし、人の手が入っていない為、奥まで辿り着くのはちょっとした冒険になるだろう」
洞窟内は昼でも暗く、足場も不安定だ。地面が滑りやすいのに加え、所々水に浸かっている場所もあるらしい。その為、思い切って最初から水着姿で向かうのも良いだろうか――地底湖でひと泳ぎするのならば、そちらの方が楽だろう。
「……無謀な洞窟探検家の、悲惨な末路の話もある。注意するのに越したことはない。少しの段差に躓いて死んだり、坂道で不用意に飛び跳ねたりしても死の危険があるからな。蝙蝠の糞にも注意を払いたい所だ」
何だか、董十郎は何処からか偏った知識を仕入れたようだったが、まあ余程変なことをしない限り生命の危険は無いだろう。彼もふんどし一丁で洞窟へ赴くようであるし。
「奥に辿り着いたら、皆でお茶会を楽しむのも良いな。飲食は自由だが、ゴミはきちんと持ち帰るようにして」
――さて、準備が出来たら、秘密の洞窟の探検に行くとしよう。最奥に広がる地底湖、その頭上に広がる輝きは、澄んだ湖面に映し出されて――まるで天と地が溶け合い、星空の中へ飛び込んだような気持ちにさせてくれる筈だ。
友ヶ島を襲った妖化現象――その騒動を見事に鎮めたF.i.V.E.の覚者たちは、そのお礼として貸切解放された島で、夏のリゾートを満喫することとなる。
「そんな訳で、今回は穴場っぽい場所を探索しようと思うのだ。……謎の洞窟を」
どうだ、わくわくしないか――とでも言うように、リゾートのお誘いにやって来たのは『銀閃華』帯刀 董十郎(nCL2000096)。ふんどしスタイルでばっちり決めた彼は、既に楽しむ気満々のご様子だった。
「洞窟は観光ルートから外れた場所にあって、余り人の手が入っていないようでな。その所為もあるだろうが、其処では幻想的な光景が見られるようだ」
――深い緑を掻き分けて進んだ先には、樹々に呑まれるようにして自然の洞窟がぽっかりと口を開けている。氷柱のように天井から垂れ下がる鍾乳石を横目に、夏でもひんやりとした洞窟内部を進んでいくと、やがて透き通り仄かな光を放つ水晶群が姿を現わすのだとか。
「青、緑、赤……と、まるで源素の輝きのようだな。そうして水晶の導きに従い奥へ進むと、其処には澄んだ地底湖が広がっていると言う」
広場のようになっている最奥は、ゆったりと寛ぐには最適だろう。天井の所々からは陽光が降り注ぎ、天の階のような光の筋は、洞窟内を幻想的に照らしてくれている。陽が当たる一部の空間には、苔などの緑も育まれており、可愛らしい花の姿も見ることが出来るらしい。
「そして――天井の岩は、不思議な成分を含んでいるようでな、まるで蛍の群れか星空かと思うほどに瞬いて、遥か頭上を照らしているのだ」
こんな不思議な光景が広がっている原因は、よく分かっていないのだが――恐らくは島に住まう古妖の祝福なのかもしれない、と董十郎は言う。
「しかし、人の手が入っていない為、奥まで辿り着くのはちょっとした冒険になるだろう」
洞窟内は昼でも暗く、足場も不安定だ。地面が滑りやすいのに加え、所々水に浸かっている場所もあるらしい。その為、思い切って最初から水着姿で向かうのも良いだろうか――地底湖でひと泳ぎするのならば、そちらの方が楽だろう。
「……無謀な洞窟探検家の、悲惨な末路の話もある。注意するのに越したことはない。少しの段差に躓いて死んだり、坂道で不用意に飛び跳ねたりしても死の危険があるからな。蝙蝠の糞にも注意を払いたい所だ」
何だか、董十郎は何処からか偏った知識を仕入れたようだったが、まあ余程変なことをしない限り生命の危険は無いだろう。彼もふんどし一丁で洞窟へ赴くようであるし。
「奥に辿り着いたら、皆でお茶会を楽しむのも良いな。飲食は自由だが、ゴミはきちんと持ち帰るようにして」
――さて、準備が出来たら、秘密の洞窟の探検に行くとしよう。最奥に広がる地底湖、その頭上に広がる輝きは、澄んだ湖面に映し出されて――まるで天と地が溶け合い、星空の中へ飛び込んだような気持ちにさせてくれる筈だ。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.謎の洞窟探索を楽しむ!
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●謎の洞窟
観光ルートから外れた場所にひっそりと佇む、自然の洞窟です。島の古妖の力が影響しているのでしょうか、幻想的な光景が広がっているようです。
●洞窟おしながき
・鍾乳石のアスレチックゾーン
・洞窟水晶の通路
・最奥の広場(星の地底湖、陽光の緑空間)
※以上を順に進んでいきます。洞窟内は暗く、足場が悪い場所もあり滑りやすいので、そこら辺は対策をしておけばスムーズに進めます。
※奥まで辿り着いた後は、自由行動です。幻想的な光景を楽しむも良し、わいわい泳いだり遊ぶも良し、ゆったりお茶を楽しむも良しです。
●補足など
・水着できゃっきゃしてみるのがお勧めです。
・ゴミはきちんと持ち帰りましょう。
・危ないので飲酒は控えてください。
●NPC
帯刀 董十郎(nCL2000096)がひっそりついて行きます。ふんどし着用でうきうき、基本荷物持ちとかにこきつかって下さい。特に絡まない場合、コマのすみっこでふんどしをちらつかせている位の存在感です。
幻想的な光景の中、ひと夏の思い出を作るお手伝いが出来たらと思います。しっとり&わいわいどちらも大歓迎です。それではよろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年09月10日
2016年09月10日
■メイン参加者 8人■

●洞窟浪漫に魅せられて
友ヶ島で過ごす夏はまるで、きらきら光る宝石の欠片を積み上げていくようだ。今日はどんなことが待っているのだろう――夏休みの日々に感じた、眩暈を覚えるような無限の可能性は、今彼らの前に確かに広がっていた。
「董十郎さん、本当にその格好で大丈夫? あまりにも無防備な気がするのだけれども」
髪を結んで水着の上にパーカーを羽織り、動き易そうな格好をしてきた『月々紅花』環 大和(CL2000477)は、ふんどし一枚で仁王立ちをしている『銀閃華』帯刀 董十郎(nCL2000096)に、そっと声をかけた。
どうせ濡れるならと大和も初めから水着で行くことにしたのだが、董十郎の場合――何かの拍子にふんどしが飛んで行ってしまいそうで心配だ。
「いや、大丈夫だ。この上にコートなんかを羽織ったら、不審者として通報される可能性がある」
「……そう言う自覚はあるのね。でも、怪我をしないように気を付けてね」
そんな大和へ、真面目な顔でサムズアップしてみせる董十郎――その姿を見て、何とも言えない表情をした東雲 梛(CL2001410)だったが、洞窟探検と聞けばやはり楽しそうな気持ちが勝る。
(まぁ確かに、水着の方が良さそうなんだが)
取り敢えずサーフパンツの上にパーカーを羽織り、梛は持って来たカメラの調子を確かめていた。一方の『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)も、着替えが大変そうだと思ったようで、最初から水着で行こうと決めたらしい。
「妖とかの危険はないみたいだし、そこまで危険はないのだろう。ゆっくり探検を楽しませてもらうとするか」
そんなゲイルの水着は、セクシーな黒のビキニパンツだ。引き締まった筋肉に、厚い胸板――漢の肉体美を余すところ無く晒した彼の姿に、『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)は「ううむ」と唸りつつ、神妙な顔でスキンヘッドを掻いていた。
「なんだ、ふんどしは義務じゃなかったのか……帯刀がふんどしでいっから騙されたぜ」
しかし、ふんどし一丁で洞窟に赴くほど、義高は迂闊では無い。自然を嘗めてかかっていい筈がないと、彼は知っているからだ――そんな訳で義高のコーディネートはと言えば、上はライフジャケットにケイビングスーツ、頭にはヘルメットとライトをセット。更にワイヤーバシゴやザイル、救急装備も用意と万全の構えだ(中身はふんどしだけど)。
「で、今回は謎の洞窟を満喫すりゃいいんだよな? いいじゃねぇか!」
『謎』『洞窟』『探検』『幻想的な光景』――このワードでときめかない、濡れない男はいない! そうきっぱりと断言する義高に、うむとゲイルも確りと頷く。
「洞窟内部は、地下水が染み出している場所も多いと言うしな。濡れるのには注意したい所だ」
「そう……いい年したおっさんだって、そこは変わりゃしねぇぜ。男は常にロマンを追い求めるものなんだからな」
――微妙にかみ合っていない会話を交わしつつ、彼らもやる気満々の様子だ。ねぇ、と大和も守護使役の明日香に声をかけ、深い緑の先に広がる洞窟を見据える。
「ちょっとした大冒険の始まりよ、とても楽しみね」
「行くぞ、頼蔵! 一緒に探検だ!」
一方で『星護の騎士』天堂・フィオナ(CL2001421)はショートパンツ型のビキニを着て、元気一杯に八重霞 頼蔵(CL2000693)を先導しようと駆け出した。
「張り切るのは良いが、足元の確認を怠るなよ」
そんな頼蔵の姿は、普段通りの黒スーツ。フィオナに誘われて洞窟探検に加わった彼だが、その口調の中にも、微かに心浮き立つ素振りが見え隠れしている――ような気もする。
「よーし、水着で洞窟探検れっつごー!」
次々に洞窟へと飛び込んでいく仲間たちに続き、『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)も狐の尾を揺らし、わくわくしながら謎の洞窟に挑むことにした。
――足元に気を付けながら、率先して前に出よう。そう思った彼の後ろには、涼しげなフリルのワンピース水着でおめかしした『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)の姿がある。
「……ええ。星水晶の洞窟、頑張って奥まで辿り着けるようにしましょう」
●鍾乳洞の冒険
ぽっかり開いた入り口をくぐれば、其処はもう自然洞窟の内部。陽光も満足に射し込まず、辺りは瞬く間に薄暗くなっていき――梛は守護使役のまもりの力を借りて、周囲を灯で照らしていった。
「……寒いな。けど、すごい大きな鍾乳石がたくさんある」
ぼぅ、と闇の中で浮かび上がったのは、自然が作り出した見事な鍾乳洞。大和やゲイルと言った面々が点けた懐中電灯の光に照らされて、氷柱のような影たちがゆらゆらと魅惑のダンスを踊る。
(確か、長い長い年月をかけて、ここまで大きくなるんだよな)
刻の重さを噛みしめながら、梛は鍾乳石を壊さないように気を付けて、一歩一歩確りと歩みを進めていって。光源は確保出来たけれど、暗くて危なそうな場所だし――と万一のことを考えたフィオナは、隣を歩く頼蔵へ蒼炎の導による加護を与えた。
「念の為……だな!」
――それは、海で出会った古妖と巫女から託された力。あの子達本来の火は、こんな風に優しいんだとフィオナが頷く中、頼蔵は温かな蒼炎に包まれた己が身を確かめる。
「こういった類のモノは、私には合わぬ。……良いから自身の心配をしろ」
「う、その……暗いけど、お化けとかそういうのは出ないよな? いや、怖くないぞ!? 私騎士だぞ!?」
苦笑と共に吐き出された頼蔵の言葉に、ふと辺りを見回したフィオナは、何も突っ込まれていないのに慌てて首を振っていた。
「帯刀さん、寒くないのかな……。それはさておき、こういうのって、わくわくしますよね!」
先程ちらっと見た董十郎には、鳥肌が立っているような気もしたのだが――ともあれ小唄はと言えば、薄暗い洞窟も格好の探検場所だと楽しんでいる様子。急勾配の岩場も面接着を用いてするすると登り、発光によって周囲を照らしているクーの手を掴んで、確りと引き上げる。
「こういうところは、やはり男の子の方が得意でしょうか」
自分を先導してくれる小唄の、差し出された小さな手が頼もしい。ぎゅっと握って力を借りて、岩場を飛び越えたクーは、自分を受け止めてくれた小唄が何故だかやけに眩しく見えた。
「ちょっと歩き辛いですけど、鍾乳洞がこんなになってるなんてすごいですよね!」
屈託なく笑う彼にこくりと頷き、クーは土蜘蛛の糸を生み出して足場の補助を行う。そんな感じで入り組んだ岩場を上り下りし、鍾乳石の柱を躱して進んでいく道程は、ちょっとしたアスレチックのようだと大和は息を弾ませていた。
(あえて楽しむなら、覚者としての力に頼らずに進んだほうが楽しそうだわ)
優れた平衡感覚を発揮することも出来るけれど、明日香と一緒に手探りで進んでいくような、ドキドキした緊張感も面白いもの。
(けれども、鍾乳洞は貴重な存在。果てしない時を重ねて出来上がったものだから……)
――適度に楽しんだら、あとは傷つけないように進むのが良いだろう。そうして頭上に手を伸ばした大和の元へ、まるで恵みの雨のように鍾乳石から水滴が落ちてきたのだった。
「慌てず騒がず、ゆっくり行きたいところだな」
一方のゲイルは慎重に、滑りやすい足元にも注意して歩みを進めている。どうやら覚醒はせずとも大丈夫なようで、彼の足元では守護使役の小梅が、何処となく楽しそうに後をついて行っていた。
「夏でもひんやりとした空気、氷柱のように天井から垂れ下がる鍾乳石……いいね、そそるねぇ」
腕組みをして、うんうんと洞窟の雰囲気に浸っているのは義高で、その隣では唇が紫色になった董十郎が変な顔をしていた――が、賢明な義高は敢えて見ない振りをする。
「どうする? もし必要ならロープも使えるが」
一足先に岩場の上に登ったゲイルが、眼下の義高に呼びかける。と、其処で何かを思いついたのか義高は豪快に破顔しつつ、ロープを下ろしてくれるようにと頼んだ。
「折角だから鉄板ネタやってもいいな! あれ、一度はやってみたいと思うんだよな」
――そんな訳で義高は、ゲイルの下ろしたロープに掴まり、上腕二頭筋を盛り上げて絶叫する。
「ファイトォォォぉ――……!」
●水晶通路をゆく
起伏の激しい鍾乳洞を抜ければ、なだらかな通路が一行を出迎える。そこかしこで光り輝くのは、仄かな光を宿した水晶群――色とりどりに輝く鉱石たちは、まるで五行の源素を思わせた。
「まぁ、迷うようなことはないようだな」
ゲイルの手にした懐中電灯の光が水晶に反射し、輝きは混じり合い幻想的な色合いを見せていく。その何とも言えない光の空間に大和も懐中電灯を当てて、きらきらと反射する輝きに魅入っていた。
「尖っているから明日香、さわっちゃだめよ」
興味深そうに尻尾を揺らす明日香をたしなめつつ、大和が見つめた先では、義高までばつが悪そうに頭を掻いていて。ふたり並んで水晶通路を歩く小唄とクーは、色鮮やかな水晶たちに、思わず目を奪われていた。
「うわぁ……綺麗ですね……」
澄んだ青の瞳を煌めかせて辺りを見回す小唄は、通り抜けてしまうのが惜しい気になりながら、ゆっくりと通路を進んでいく。色鮮やかな水晶の通路は、これまで見たことのないものだと思うクーは、思わず見惚れそうになりつつも――その視線は無意識に、隣の小唄に注がれていた。
(小唄さんは、こういうところはお好きでしょうか)
――何故、彼のことが気になってしまうのか。そのことを微かに気にしつつも、ふたりはのんびりと散策を楽しむのだった。
「天堂君含め、皆の事は心の底から応援しているよ」
そうして頼蔵とフィオナの二人組はと言うと。涼しい顔で壁面をすいすい進んで来た頼蔵は、暗視能力で暗闇に怯えるフィオナを観察しつつ、妙に爽やかな様子でエールを送る。
「何、これも鍛錬の一つと思えばな? ハハハ」
「ちょ、ちょっと早いぞー!?」
実は灯りと足場の準備を忘れていたフィオナは、必死に気合で乗り越えつつも、肩で大きく息をしていた。
「これも鍛錬だ……! ところで趣味とかも、無意識に前世の影響って出るのかな」
と、気を取り直して雑談なども交えたりして進もうとしたのだが、其処でふと、頼蔵が「ああ、そうだ」と適当な話題を振ってくる。
(ん? ……おっと!)
彼の方へ注意を向けて初めて、フィオナはすぐ横に危ない場所があったことに気が付いた。明らかな警告や指摘をした、と言う訳では無かったけれど、これはもしかして――。
(……誘導してくれた、のか?)
そんな中で梛は色とりどりの水晶を眺め、その風景を写真に残そうとシャッターを切っていた。どうしてこんな風に光るのかと興味はあるが、壊してまで知りたくはないと思う。
「これは綺麗だな。色々な光に輝いてる」
――感じるのは、自然の奥深さと不思議さ。古妖が関係あると言われても、何か納得するなと梛は頷いた。
●陽光の緑、星の湖
そうして、洞窟水晶に導かれるようにして――辿り着いたのは洞窟の最深部。天井の所々から降り注ぐ陽光と、まるで星々のような輝きを宿す岩盤。昼と夜が混じり合った其処は、澄み切った地底湖が煌めきを反射して、正に幻想的と言って良い雰囲気を作り出していた。
「これはすごい……。星が、いや、これは星じゃないけど。でも本当に、星空みたいだ」
光の階を縫うようにして、梛はゆっくりと最奥へ――闇が濃く、星瞬く天井岩が地底湖一杯に映し出される光景に、ただただ魅入っている。
「圧倒的っていうのは、こういう事かな。本当すごい」
カメラのフラッシュが数度瞬く中、大和もひんやりとした空気が肌を撫でる感覚に、心地良さそうに深呼吸をしていた。
「とても綺麗ね。たどり着くのはちょっと大変だったけれども、来てみてよかったわ」
自然の力か古妖のしわざかは分からないけれど、神秘的なことには変わりない――そう言って穏やかに微笑む大和へ、全身で降り注ぐ陽光を浴びていた義高も大きく頷く。
「ふむ、古妖も粋なことをする……もし目の前にいるのであれば、GJと称えたいところだ」
「微かに気配はするんだけどな、恥ずかしがっているのかもしれない」
同族把握で古妖の存在を感じ取った梛は、彼らを余り怖がらせないように気をつけようとしたけれど――いかつい義高はどう見えているのだろう、と少し心配した。陽光によって輝く赤銅色の肌、そして頭。湖に浮かぶ、たゆたうふんどし――否、決して怪しい者ではない。
「まずは今までの疲れを取り、お茶を飲んだりお弁当を食べたりしながらゆっくりしよう」
「ティータイムだな! 私もお茶を淹れるぞ」
本当ならば、スフレチーズケーキやアップルパイを持って来たかったと残念がるゲイルは、崩れることを考慮してクッキーを持って来たようだ。フィオナはティーバッグを取り出し、皆の分の温かな紅茶を淹れていき――頭上に広がる星の如き光に、頑張れば届きそうだと手を伸ばす。
「あれ? 何だか冷えるような……」
くしゅん、と可愛らしいくしゃみをしたフィオナを見て、頼蔵はやれやれと肩を竦めた。正面突破気味に洞窟を駆けていった彼女は濡れ鼠のようになっており、これで洞穴の冷気も加われば堪えるものもあるだろう。
「星が如何のと言う前に……ほら」
ちょっぴり寒そうに肩を抱くフィオナへ、頼蔵は自分のジャケットを掛けてやって。え、と驚いたように彼を見上げるフィオナだったが、その好意を有難く受け取ることにしたようだ。
「……うん、すごく温かい。ありがとう」
頼蔵のジャケットは大きくて、彼の背の高さに改めて気付かされる。大事なスーツだろうし、汚さないように気を付けないと――其処まで考えた所で、フィオナは彼に預けていた荷物をようやく思い出した。
「あ、その例の物なんだが……料理上手の友達と作ったから、ちゃんと食べられるぞ? 危なくないぞ」
む、と頼蔵から包みを受け取ったフィオナは、中からお茶請けのサンドイッチを取り出し、シートの上に広げていく。パンに具を挟んだだけの簡単な料理だけど、野菜やチーズに蒸し鶏と、種類は豊富だ。これを頑張り過ぎて、他を忘れてしまった――なんて言うと、呆れられてしまうだろうか。
「ふむ、見た目は悪くない。しかし……味の感想は正直に言うよ、私は」
そうして一口食べた頼蔵は、神妙な顔をして。やがて「個性的だな」とぽつりと零した。
「……その、ジャケット、もう暫く借りていいかな?」
「嗚呼、構わぬよ。君が不要と思うまで好きにするといい」
――そうして大和も皆に軽食を振舞い、お腹を満たしたところで、一行は思い思いに自由時間を過ごす。
「花屋として無視はできんのだよ、わかるだろ?」
そう言って洞窟に咲く花を観察する義高は、後学の為にと調査を行っていた。勿論、最低限のマナーだと採集はしないでおく。一方、木の心で洞窟の植物たちと心を交わした梛は、その後地底湖へと潜り――微かな光で照らされた水底に、不意に吸い込まれそうになる感覚を覚えていた。
「あら、董十郎さんやっぱり怪我をしているじゃない」
と、膝に血が滲んでいるのを発見した大和は、絆創膏で董十郎の応急処置をすることに。お礼を言われた大和は頷き、地底湖で水遊びを始める。
「とても冷たいけれど気持ちいいわ。かぱちゃんがいれば思いっきり泳いだのかしら」
仲良しの古妖をふと思い出した大和へ、その時董十郎が取り出したのは、手作りと思しきビーチボール。
「かぱちゃんの顔を描いてみた。良かったらこれで遊んで貰えないだろうか」
「……あら、有難う。それじゃ楽しませてもらうわね」
――そんな中、クーは小唄の手を引いて湖のほとりへとやって来ていた。此処で少し休もうと言ってから、クーはふと彼へ、自分の水着について尋ねてみる。
「まだ感想、聞いていませんし」
「その……クー先輩の水着、とっても素敵です。可愛くて、綺麗で……水着姿のクー先輩とこんなに近くにいると、どきどきしちゃいますね」
勢い込んで小唄が力説すると、クーははにかみ笑顔を見せて。その笑顔に小唄はどきりと、何だか頬が熱くなってしまう。
――上を見上げれば、色とりどりの星空のような天井が何処までも広がる。隣には小唄の体温と匂いが感じられ、クーの瞼がとろんと重くなっていった。
「とても、心地良い時間ですね。一緒に来て良かったです」
「僕も、先輩と一緒で良かったです……って、あれ?」
ふと、肩にかかる重みに小唄が気付けば、クーが寄りかかって身体を預け、気持ち良さそうに寝息を立てている。無意識に尻尾を巻きつけ、匂いを擦り付けるように頬擦り――夢心地のまま小唄に甘えるクーは、きっと目覚めた時には全て忘れてしまっているのだろう。
(いつも僕が甘えてる方なので、珍しいですけど)
それでも、子犬のようにじゃれつくクーがずり落ちないように、小唄は肩を抱き寄せて、ゆっくり寝かせてあげることにする。
(笑顔だけじゃなくて、寝顔まで見れるなんて)
最近、クーが色々な表情を見せてくれるようになって、とても嬉しいと思いながら――小唄は、この幸せな時間を大事にしなければと固く誓った。
――幻想的なひと時が終わり、彼らは名残惜しくも洞窟を後にする。
行きとは違って、小唄を先導するのはクー。恥ずかしくて顔が見れない、なんてことは――多分ない筈。
友ヶ島で過ごす夏はまるで、きらきら光る宝石の欠片を積み上げていくようだ。今日はどんなことが待っているのだろう――夏休みの日々に感じた、眩暈を覚えるような無限の可能性は、今彼らの前に確かに広がっていた。
「董十郎さん、本当にその格好で大丈夫? あまりにも無防備な気がするのだけれども」
髪を結んで水着の上にパーカーを羽織り、動き易そうな格好をしてきた『月々紅花』環 大和(CL2000477)は、ふんどし一枚で仁王立ちをしている『銀閃華』帯刀 董十郎(nCL2000096)に、そっと声をかけた。
どうせ濡れるならと大和も初めから水着で行くことにしたのだが、董十郎の場合――何かの拍子にふんどしが飛んで行ってしまいそうで心配だ。
「いや、大丈夫だ。この上にコートなんかを羽織ったら、不審者として通報される可能性がある」
「……そう言う自覚はあるのね。でも、怪我をしないように気を付けてね」
そんな大和へ、真面目な顔でサムズアップしてみせる董十郎――その姿を見て、何とも言えない表情をした東雲 梛(CL2001410)だったが、洞窟探検と聞けばやはり楽しそうな気持ちが勝る。
(まぁ確かに、水着の方が良さそうなんだが)
取り敢えずサーフパンツの上にパーカーを羽織り、梛は持って来たカメラの調子を確かめていた。一方の『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)も、着替えが大変そうだと思ったようで、最初から水着で行こうと決めたらしい。
「妖とかの危険はないみたいだし、そこまで危険はないのだろう。ゆっくり探検を楽しませてもらうとするか」
そんなゲイルの水着は、セクシーな黒のビキニパンツだ。引き締まった筋肉に、厚い胸板――漢の肉体美を余すところ無く晒した彼の姿に、『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)は「ううむ」と唸りつつ、神妙な顔でスキンヘッドを掻いていた。
「なんだ、ふんどしは義務じゃなかったのか……帯刀がふんどしでいっから騙されたぜ」
しかし、ふんどし一丁で洞窟に赴くほど、義高は迂闊では無い。自然を嘗めてかかっていい筈がないと、彼は知っているからだ――そんな訳で義高のコーディネートはと言えば、上はライフジャケットにケイビングスーツ、頭にはヘルメットとライトをセット。更にワイヤーバシゴやザイル、救急装備も用意と万全の構えだ(中身はふんどしだけど)。
「で、今回は謎の洞窟を満喫すりゃいいんだよな? いいじゃねぇか!」
『謎』『洞窟』『探検』『幻想的な光景』――このワードでときめかない、濡れない男はいない! そうきっぱりと断言する義高に、うむとゲイルも確りと頷く。
「洞窟内部は、地下水が染み出している場所も多いと言うしな。濡れるのには注意したい所だ」
「そう……いい年したおっさんだって、そこは変わりゃしねぇぜ。男は常にロマンを追い求めるものなんだからな」
――微妙にかみ合っていない会話を交わしつつ、彼らもやる気満々の様子だ。ねぇ、と大和も守護使役の明日香に声をかけ、深い緑の先に広がる洞窟を見据える。
「ちょっとした大冒険の始まりよ、とても楽しみね」
「行くぞ、頼蔵! 一緒に探検だ!」
一方で『星護の騎士』天堂・フィオナ(CL2001421)はショートパンツ型のビキニを着て、元気一杯に八重霞 頼蔵(CL2000693)を先導しようと駆け出した。
「張り切るのは良いが、足元の確認を怠るなよ」
そんな頼蔵の姿は、普段通りの黒スーツ。フィオナに誘われて洞窟探検に加わった彼だが、その口調の中にも、微かに心浮き立つ素振りが見え隠れしている――ような気もする。
「よーし、水着で洞窟探検れっつごー!」
次々に洞窟へと飛び込んでいく仲間たちに続き、『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)も狐の尾を揺らし、わくわくしながら謎の洞窟に挑むことにした。
――足元に気を付けながら、率先して前に出よう。そう思った彼の後ろには、涼しげなフリルのワンピース水着でおめかしした『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)の姿がある。
「……ええ。星水晶の洞窟、頑張って奥まで辿り着けるようにしましょう」
●鍾乳洞の冒険
ぽっかり開いた入り口をくぐれば、其処はもう自然洞窟の内部。陽光も満足に射し込まず、辺りは瞬く間に薄暗くなっていき――梛は守護使役のまもりの力を借りて、周囲を灯で照らしていった。
「……寒いな。けど、すごい大きな鍾乳石がたくさんある」
ぼぅ、と闇の中で浮かび上がったのは、自然が作り出した見事な鍾乳洞。大和やゲイルと言った面々が点けた懐中電灯の光に照らされて、氷柱のような影たちがゆらゆらと魅惑のダンスを踊る。
(確か、長い長い年月をかけて、ここまで大きくなるんだよな)
刻の重さを噛みしめながら、梛は鍾乳石を壊さないように気を付けて、一歩一歩確りと歩みを進めていって。光源は確保出来たけれど、暗くて危なそうな場所だし――と万一のことを考えたフィオナは、隣を歩く頼蔵へ蒼炎の導による加護を与えた。
「念の為……だな!」
――それは、海で出会った古妖と巫女から託された力。あの子達本来の火は、こんな風に優しいんだとフィオナが頷く中、頼蔵は温かな蒼炎に包まれた己が身を確かめる。
「こういった類のモノは、私には合わぬ。……良いから自身の心配をしろ」
「う、その……暗いけど、お化けとかそういうのは出ないよな? いや、怖くないぞ!? 私騎士だぞ!?」
苦笑と共に吐き出された頼蔵の言葉に、ふと辺りを見回したフィオナは、何も突っ込まれていないのに慌てて首を振っていた。
「帯刀さん、寒くないのかな……。それはさておき、こういうのって、わくわくしますよね!」
先程ちらっと見た董十郎には、鳥肌が立っているような気もしたのだが――ともあれ小唄はと言えば、薄暗い洞窟も格好の探検場所だと楽しんでいる様子。急勾配の岩場も面接着を用いてするすると登り、発光によって周囲を照らしているクーの手を掴んで、確りと引き上げる。
「こういうところは、やはり男の子の方が得意でしょうか」
自分を先導してくれる小唄の、差し出された小さな手が頼もしい。ぎゅっと握って力を借りて、岩場を飛び越えたクーは、自分を受け止めてくれた小唄が何故だかやけに眩しく見えた。
「ちょっと歩き辛いですけど、鍾乳洞がこんなになってるなんてすごいですよね!」
屈託なく笑う彼にこくりと頷き、クーは土蜘蛛の糸を生み出して足場の補助を行う。そんな感じで入り組んだ岩場を上り下りし、鍾乳石の柱を躱して進んでいく道程は、ちょっとしたアスレチックのようだと大和は息を弾ませていた。
(あえて楽しむなら、覚者としての力に頼らずに進んだほうが楽しそうだわ)
優れた平衡感覚を発揮することも出来るけれど、明日香と一緒に手探りで進んでいくような、ドキドキした緊張感も面白いもの。
(けれども、鍾乳洞は貴重な存在。果てしない時を重ねて出来上がったものだから……)
――適度に楽しんだら、あとは傷つけないように進むのが良いだろう。そうして頭上に手を伸ばした大和の元へ、まるで恵みの雨のように鍾乳石から水滴が落ちてきたのだった。
「慌てず騒がず、ゆっくり行きたいところだな」
一方のゲイルは慎重に、滑りやすい足元にも注意して歩みを進めている。どうやら覚醒はせずとも大丈夫なようで、彼の足元では守護使役の小梅が、何処となく楽しそうに後をついて行っていた。
「夏でもひんやりとした空気、氷柱のように天井から垂れ下がる鍾乳石……いいね、そそるねぇ」
腕組みをして、うんうんと洞窟の雰囲気に浸っているのは義高で、その隣では唇が紫色になった董十郎が変な顔をしていた――が、賢明な義高は敢えて見ない振りをする。
「どうする? もし必要ならロープも使えるが」
一足先に岩場の上に登ったゲイルが、眼下の義高に呼びかける。と、其処で何かを思いついたのか義高は豪快に破顔しつつ、ロープを下ろしてくれるようにと頼んだ。
「折角だから鉄板ネタやってもいいな! あれ、一度はやってみたいと思うんだよな」
――そんな訳で義高は、ゲイルの下ろしたロープに掴まり、上腕二頭筋を盛り上げて絶叫する。
「ファイトォォォぉ――……!」
●水晶通路をゆく
起伏の激しい鍾乳洞を抜ければ、なだらかな通路が一行を出迎える。そこかしこで光り輝くのは、仄かな光を宿した水晶群――色とりどりに輝く鉱石たちは、まるで五行の源素を思わせた。
「まぁ、迷うようなことはないようだな」
ゲイルの手にした懐中電灯の光が水晶に反射し、輝きは混じり合い幻想的な色合いを見せていく。その何とも言えない光の空間に大和も懐中電灯を当てて、きらきらと反射する輝きに魅入っていた。
「尖っているから明日香、さわっちゃだめよ」
興味深そうに尻尾を揺らす明日香をたしなめつつ、大和が見つめた先では、義高までばつが悪そうに頭を掻いていて。ふたり並んで水晶通路を歩く小唄とクーは、色鮮やかな水晶たちに、思わず目を奪われていた。
「うわぁ……綺麗ですね……」
澄んだ青の瞳を煌めかせて辺りを見回す小唄は、通り抜けてしまうのが惜しい気になりながら、ゆっくりと通路を進んでいく。色鮮やかな水晶の通路は、これまで見たことのないものだと思うクーは、思わず見惚れそうになりつつも――その視線は無意識に、隣の小唄に注がれていた。
(小唄さんは、こういうところはお好きでしょうか)
――何故、彼のことが気になってしまうのか。そのことを微かに気にしつつも、ふたりはのんびりと散策を楽しむのだった。
「天堂君含め、皆の事は心の底から応援しているよ」
そうして頼蔵とフィオナの二人組はと言うと。涼しい顔で壁面をすいすい進んで来た頼蔵は、暗視能力で暗闇に怯えるフィオナを観察しつつ、妙に爽やかな様子でエールを送る。
「何、これも鍛錬の一つと思えばな? ハハハ」
「ちょ、ちょっと早いぞー!?」
実は灯りと足場の準備を忘れていたフィオナは、必死に気合で乗り越えつつも、肩で大きく息をしていた。
「これも鍛錬だ……! ところで趣味とかも、無意識に前世の影響って出るのかな」
と、気を取り直して雑談なども交えたりして進もうとしたのだが、其処でふと、頼蔵が「ああ、そうだ」と適当な話題を振ってくる。
(ん? ……おっと!)
彼の方へ注意を向けて初めて、フィオナはすぐ横に危ない場所があったことに気が付いた。明らかな警告や指摘をした、と言う訳では無かったけれど、これはもしかして――。
(……誘導してくれた、のか?)
そんな中で梛は色とりどりの水晶を眺め、その風景を写真に残そうとシャッターを切っていた。どうしてこんな風に光るのかと興味はあるが、壊してまで知りたくはないと思う。
「これは綺麗だな。色々な光に輝いてる」
――感じるのは、自然の奥深さと不思議さ。古妖が関係あると言われても、何か納得するなと梛は頷いた。
●陽光の緑、星の湖
そうして、洞窟水晶に導かれるようにして――辿り着いたのは洞窟の最深部。天井の所々から降り注ぐ陽光と、まるで星々のような輝きを宿す岩盤。昼と夜が混じり合った其処は、澄み切った地底湖が煌めきを反射して、正に幻想的と言って良い雰囲気を作り出していた。
「これはすごい……。星が、いや、これは星じゃないけど。でも本当に、星空みたいだ」
光の階を縫うようにして、梛はゆっくりと最奥へ――闇が濃く、星瞬く天井岩が地底湖一杯に映し出される光景に、ただただ魅入っている。
「圧倒的っていうのは、こういう事かな。本当すごい」
カメラのフラッシュが数度瞬く中、大和もひんやりとした空気が肌を撫でる感覚に、心地良さそうに深呼吸をしていた。
「とても綺麗ね。たどり着くのはちょっと大変だったけれども、来てみてよかったわ」
自然の力か古妖のしわざかは分からないけれど、神秘的なことには変わりない――そう言って穏やかに微笑む大和へ、全身で降り注ぐ陽光を浴びていた義高も大きく頷く。
「ふむ、古妖も粋なことをする……もし目の前にいるのであれば、GJと称えたいところだ」
「微かに気配はするんだけどな、恥ずかしがっているのかもしれない」
同族把握で古妖の存在を感じ取った梛は、彼らを余り怖がらせないように気をつけようとしたけれど――いかつい義高はどう見えているのだろう、と少し心配した。陽光によって輝く赤銅色の肌、そして頭。湖に浮かぶ、たゆたうふんどし――否、決して怪しい者ではない。
「まずは今までの疲れを取り、お茶を飲んだりお弁当を食べたりしながらゆっくりしよう」
「ティータイムだな! 私もお茶を淹れるぞ」
本当ならば、スフレチーズケーキやアップルパイを持って来たかったと残念がるゲイルは、崩れることを考慮してクッキーを持って来たようだ。フィオナはティーバッグを取り出し、皆の分の温かな紅茶を淹れていき――頭上に広がる星の如き光に、頑張れば届きそうだと手を伸ばす。
「あれ? 何だか冷えるような……」
くしゅん、と可愛らしいくしゃみをしたフィオナを見て、頼蔵はやれやれと肩を竦めた。正面突破気味に洞窟を駆けていった彼女は濡れ鼠のようになっており、これで洞穴の冷気も加われば堪えるものもあるだろう。
「星が如何のと言う前に……ほら」
ちょっぴり寒そうに肩を抱くフィオナへ、頼蔵は自分のジャケットを掛けてやって。え、と驚いたように彼を見上げるフィオナだったが、その好意を有難く受け取ることにしたようだ。
「……うん、すごく温かい。ありがとう」
頼蔵のジャケットは大きくて、彼の背の高さに改めて気付かされる。大事なスーツだろうし、汚さないように気を付けないと――其処まで考えた所で、フィオナは彼に預けていた荷物をようやく思い出した。
「あ、その例の物なんだが……料理上手の友達と作ったから、ちゃんと食べられるぞ? 危なくないぞ」
む、と頼蔵から包みを受け取ったフィオナは、中からお茶請けのサンドイッチを取り出し、シートの上に広げていく。パンに具を挟んだだけの簡単な料理だけど、野菜やチーズに蒸し鶏と、種類は豊富だ。これを頑張り過ぎて、他を忘れてしまった――なんて言うと、呆れられてしまうだろうか。
「ふむ、見た目は悪くない。しかし……味の感想は正直に言うよ、私は」
そうして一口食べた頼蔵は、神妙な顔をして。やがて「個性的だな」とぽつりと零した。
「……その、ジャケット、もう暫く借りていいかな?」
「嗚呼、構わぬよ。君が不要と思うまで好きにするといい」
――そうして大和も皆に軽食を振舞い、お腹を満たしたところで、一行は思い思いに自由時間を過ごす。
「花屋として無視はできんのだよ、わかるだろ?」
そう言って洞窟に咲く花を観察する義高は、後学の為にと調査を行っていた。勿論、最低限のマナーだと採集はしないでおく。一方、木の心で洞窟の植物たちと心を交わした梛は、その後地底湖へと潜り――微かな光で照らされた水底に、不意に吸い込まれそうになる感覚を覚えていた。
「あら、董十郎さんやっぱり怪我をしているじゃない」
と、膝に血が滲んでいるのを発見した大和は、絆創膏で董十郎の応急処置をすることに。お礼を言われた大和は頷き、地底湖で水遊びを始める。
「とても冷たいけれど気持ちいいわ。かぱちゃんがいれば思いっきり泳いだのかしら」
仲良しの古妖をふと思い出した大和へ、その時董十郎が取り出したのは、手作りと思しきビーチボール。
「かぱちゃんの顔を描いてみた。良かったらこれで遊んで貰えないだろうか」
「……あら、有難う。それじゃ楽しませてもらうわね」
――そんな中、クーは小唄の手を引いて湖のほとりへとやって来ていた。此処で少し休もうと言ってから、クーはふと彼へ、自分の水着について尋ねてみる。
「まだ感想、聞いていませんし」
「その……クー先輩の水着、とっても素敵です。可愛くて、綺麗で……水着姿のクー先輩とこんなに近くにいると、どきどきしちゃいますね」
勢い込んで小唄が力説すると、クーははにかみ笑顔を見せて。その笑顔に小唄はどきりと、何だか頬が熱くなってしまう。
――上を見上げれば、色とりどりの星空のような天井が何処までも広がる。隣には小唄の体温と匂いが感じられ、クーの瞼がとろんと重くなっていった。
「とても、心地良い時間ですね。一緒に来て良かったです」
「僕も、先輩と一緒で良かったです……って、あれ?」
ふと、肩にかかる重みに小唄が気付けば、クーが寄りかかって身体を預け、気持ち良さそうに寝息を立てている。無意識に尻尾を巻きつけ、匂いを擦り付けるように頬擦り――夢心地のまま小唄に甘えるクーは、きっと目覚めた時には全て忘れてしまっているのだろう。
(いつも僕が甘えてる方なので、珍しいですけど)
それでも、子犬のようにじゃれつくクーがずり落ちないように、小唄は肩を抱き寄せて、ゆっくり寝かせてあげることにする。
(笑顔だけじゃなくて、寝顔まで見れるなんて)
最近、クーが色々な表情を見せてくれるようになって、とても嬉しいと思いながら――小唄は、この幸せな時間を大事にしなければと固く誓った。
――幻想的なひと時が終わり、彼らは名残惜しくも洞窟を後にする。
行きとは違って、小唄を先導するのはクー。恥ずかしくて顔が見れない、なんてことは――多分ない筈。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『宛名のない写真』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:東雲 梛(CL2001410)
『かぱちゃんボール』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:環 大和(CL2000477)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:東雲 梛(CL2001410)
『かぱちゃんボール』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:環 大和(CL2000477)
