対憤怒者防衛戦 羽金山護送車襲撃事件
対憤怒者防衛戦 羽金山護送車襲撃事件



 丘の道を護送車が花と雑草を揺らして走ってゆく。
 その助手席で、警官の女は資料をめくった。
「コヤマ・ユウイチ。強盗及び殺人の容疑で逮捕。因子に覚醒しており地元警備会社の協力を得て無力化。反因子過激派団体から身柄引き渡しの要求あり。襲撃にそなえよ……か」
 女は煙草を咥え、ため息交じりに煙を吐いた。
「最近増えたね、こういう連中が」
 灰のたまった煙草を灰皿に入れようとしたその時、急なブレーキによって車が止まった。
 つんのめった女は運転手に文句をつけようとしたが、運転手は緊張した面持ちで前だけを見つめている。
 同じように前方を見やると、女はより深いため息をついた。

 急停車した護送車の前には、ずらりと人間が横並びになっている。
 それぞれ一般的な私服姿だが、共通して肩から『因子廃絶』のたすきをかけていた。それだけではない。全員警棒や拳銃を装備してこちらに攻撃する構えを見せていた。
 中央の男が拡声器を翳す。
『我々はいのちの会である! 諸君らがかくまうコヤマ・ユウイチは因子の力を悪用しかよわき一般人から金品を奪ったあげく殺害した! そんな極悪非道な悪魔に人権を許すのか! 彼を即刻我々に引き渡せ!』
 男の唱えた文言は警察に送られてきた要求分と一字一句違わぬものである。これが要求が本物であることと、これが生半可な個人活動でないことを証明している。
 女は車内の拡声器用マイクを手に取った。
『この国は魔女裁判を認めちゃいないしこいつは名前も戸籍ある人間だ。人権は存在してる。あんたら民間人がぶっ殺していい法はないぞ。こいつは最悪死刑で良くて無期懲役だ。裁判するから結果を待っていろ』
 そう言ってやると、中央の男は自分の仲間たちに向かって叫び立てた。
『見ろ! やはり国家は悪魔の味方をするつもりなのだ! 悪魔への断罪を阻もうとしているのだ!』
 女は額に手を当てた。聞いちゃ居ないんだな、こいつらは。
 運転手が心配そうに見てくる。
「どうします」
「応援を呼べ」
「間に合いませんよ。殺されます」
「私刑制度を採用して滅ばなかった国がこの世にあるか? 撃退する許可は出てないんだ。偶然親切な武装組織が通りかかるのを祈れ」
「しかし……うう……」
 運転手は半泣き状態でハンドルから手を離した。うかつにこの場から動いても無駄だと察したのだ。
 女は再びため息をつく。
「他人の間違いを正すことで自分が正しいと錯覚する、か。そうしないと生きていけないのかね、私ら人間ってやつは」


 逮捕した隔者の護送中に憤怒者組織が襲撃。
 放置した場合拘束中の隔者および護送中の警察官が死亡するという事件が起きようとしている。
 つまり、まだ起きていない事件だということだ。もしこのことを予知し、介入できる存在があるならば、変わる未来だということだ。
 特別機関ファイヴに所属する夢見がこれを予知し、そしてあなたが介入する。
 この事件を解決できるのは、最終的にはあなただけなのだ。
「憤怒者組織は警棒や銃で武装した15人前後のグルーブです。これを鎮圧してして下さい。任務は以上です」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.憤怒者組織全員の戦闘不能、もしくは戦意喪失
2.なし
3.なし
 八重紅友禅でございます

●戦闘状況への介入について
 皆さんは護送車が通りかかる前。つまりOPの状況が起こるずっと前に憤怒者組織を襲撃して倒すことになります。
 一応周囲の立地を説明しておくと、川辺の丘になっている場所に車がとまり、進路を妨害する形で憤怒者たちが構えています。
 住宅地までは距離があり、視界もかなり開けています。
 憤怒者組織はこの場所で護送車を待ち構えています。
 なので、よほどのことでもない限りは堂々と介入し、戦闘状況に持ち込む形になるでしょう。
 戦闘するには充分な時間がとれるので、経過ターン数を気にする必要はありません。

●憤怒者組織について
 いのちの会。15人前後で構成されている市民団体です。隔者犯罪によって家族や友人を殺された被害者の集まりだと主張していますが、あまりよろしい集団ではないようです。
 隔者を含む五行能力者全般に対して強い殺意を持っており、彼らに引き渡すことで隔者は見世物にされた挙げ句拷問のように殺されるでしょう。
 武装は警棒(近単型)や拳銃(遠単型)。個体戦闘力は現在のファイヴ覚者よりやや低い程度です。

●補足
 ゲーム序盤なのでゲームルールについて一部解説します
・憤怒者との戦闘について
 基本的には対隔者戦闘と同じになります。決定的な違いは以下の二点です。
 絶対に命数復活をしないこと。
 絶対に術式スキルを使用しないこと。
・憤怒者への技能スキル使用について
 魔眼や記憶操作などの『覚者にはききません』と表記されているスキルですが、そも一般人である憤怒者に使用する事は出来ますがある程度の集中を要するため戦闘行動との同時使用難しいとお考え下さい。
・一般人の死亡判定について
 当ゲームは意図的に殺害しようとしない限りは直接の死亡判定をとりません。
 流血状態で24時間吊るしておくなどすれば副次的に死ぬことはありますが、基本的には殺さないものと判定します。念を入れたい場合はプレイングに『殺さない』と書きましょう。
 (同社前作で例えると全ての攻撃に『不殺』が半自動付与される感覚です)
 もちろんこれは『一般人を殺してはいけない』ということではありません。
 その意志があるなら殺害することも可能です。
・部位攻撃や武器破壊について
 相手は一応一般人ですが、武器の破壊や剥奪、手足の破壊等による無力化はゲームシステム上できません。戦って倒しましょう。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
公開日
2015年09月16日

■メイン参加者 9人■


●罪は悪であり罰は善である、という理論は成り立たない。――『大いなる誤解と歴史』より抜粋
 丘を走る自動車が雑草と花を散らしていく。
 車はテレビで見るような小型護送車で、ハイエースをベースにした改造車……のように見えるが、近づいて見れば全くの別物だということが分かる。
 フィルムで作られた偽サイレンが鳴らないのは当然のこと、スモークガラスごしの鉄格子も一巻き千円の針金を継ぎ合わせたものである。
 なぜこんなものが丘を走っているのかと言えば。
「『いのちの会』をぱっと見で騙すにゃこのくらいあれば充分だもんな。ッカー、俺って天才!」
 助手席で額をぱちんと打つ椎野 天(CL2000864)。
 運転席では『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)が複雑な顔でハンドルを握っている。
 ハイエースは中古で買っても約三百万円。それを激しい銃撃戦に晒すとなれば廃車が確定したようなものである。
「非覚者の起こした事件ならここまで騒がないでしょうに……覚者と非覚者は社会的に別なのかもしれませんね」
「考えすぎだろー。車に轢かれたからって車と免許持ちを駆逐すんのか? ただの八つ当たりかそれ以下だぜ。なあ?」
「…………」
 話を振られた十一 零(CL2000001)は、窓の外をじっと見つめたまま黙っていた。言うべきことは無いという顔である。
 代わりに応える『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)。
「今更因子を廃絶なんてできるわけないでしょ。私が生まれる前からあるんだもの。そもそも一般人が武装してることに事件性を感じるわよ。いいわよねー、正義っていう名分があれば賛同者を集められるもん。国家が自分たちの人権を守ってくれてるって、わかってないのかしら」
「じんけん?」
 『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)は曖昧な顔で首を傾げると、自分の唇を指でなぞった。
「おまわりさんの邪魔をするんだからわるものだよね? ちゃっつけちゃえばいいんだよね?」
「それはそうですが、殺害は自粛してくださいね。自動車で突撃するのもやはり……」
 やや控えめに釘を刺す『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。
 大島 天十里(CL2000303)がぱたぱたと手を振った。
「大丈夫大丈夫。こんな見通しのいいところで突っ込んだって避けられるだけだし、事故って痛い目みるだけだし、殺す価値ないし。ぶっ飛ばしてふん捕まえて通報するのがイチバンだってー」
「それならいいんですけど」
「そうよね、かわいそうよね。隔者に大事な人を奪われるなんて、つらいことだもの」
 春野 桜(CL2000257)はとても優しい顔で微笑んだ。
 その顔のままで言う。
「だからって誰彼構わず襲いかかるんじゃ、私から全てを奪った奴と変わらないじゃない。だから……」
 桜が全て言い終わる前に、車がぴたりと止まった。
 エンジンを切る。
 前方には、武装した『いのちの会』がずらりと並んでいた。
 『閃華双剣』太刀風 紅刃(CL2000191)は腕を組み、小さく息をつく。
「被害者であったはずのものがいつしか加害者に身を落とすとは、因果なものだ」

 一方車外。『いのちの会』のメンバーは車に銃を向けたまま小声で話し合っていた。
「あれが護送車で間違いないんですか? 雰囲気が違う気もします」
「違ったら違ったでいい。警告してみれば分かることだ」
 中央の男が拡声器を手に取った。
「『我々はいのちの会である!――』」

『諸君らがかくまうコヤマ・ユウイチは――』
 警告を聞きながら、車内の紅刃たちは戦闘準備を整えていた。
 夢見から攻撃のタイミングは知らされている。こちらには出だしのカウンターを仕掛けるだけのアドバンテージがあった。
 そうしているうちに、警告は通告へと変わる。
『引き渡すつもりがないと判断した。三つ数えるうちに投降しなければ車両ごと破壊する。ひとつ、ふたつ――』
 三つ目を数えると同時に、彼らは一斉に発砲した。
 誡女と天は身体を倒して斜線から逃れる。窓ガラスが粉々に砕けて散った。
「いたたっ! 防弾処理してないの!?」
「使い捨ての策に二千万かけるのはどうかと。払って頂けます?」
「ファイヴでもイヤっていうなーそれは」
 へらへらと笑いながらドアを蹴り開け、二人は車外へと飛び出した。
 誡女は一旦ドアを盾にしたが、通常車両のドア板なんてものはさしたる防御力をもたない。刑事ドラマでよく見るあの防御術は通常車両では役に立たないのだ。というわけで。
「皆さん。行きましょうか」
 順調にスクラップに変わっていく車両を破棄し、誡女は纏霧を発生させた。
 霧の中で銃を乱射する憤怒者の一人に、天がローラーダッシュで突撃。
 肘を腹に叩き込んで気絶させると、機敏なスピンターンで離脱。警棒による打撃を回避した。
「こいつら、やっぱり覚者(トゥルーサー)です!」
「馬鹿をいえ、我々に敵対するんだ、隔者(リジェクター)に決まってる! 数は揃えたんだ、二人くらい殺せる、行け!」
「ふたりくらい、ね」
 霧の中から声がした。
 ピンク色の影が揺れ、次の瞬間には憤怒者たちの腰や腕、足首や肩を次々と切り裂いていく。
 ややあって、刀を構えた数多が姿を現わした。
「櫻花真影流、酒々井数多、往きます。散華なさい」
「ほ、他にも仲間が……!? 油断するな、銃が利かないやつなんて――」
 男がむやみに発砲した。銃弾は明後日の方向へ飛び、見知らぬ女学生へ命中……しかけた時点で、弾が明後日の方向に弾かれた。
 女学生。否、紅刃が小太刀で弾いたのだ。
「一言だけ警告しておく。無秩序に法を乱すな。歪んだ力をもてばどうなるか、身をもって教えてやろう」
 次の瞬間、紅刃はジグザグに駆け回り、憤怒者たちを次々に無力化していく。
「しょーじき、隔者も憤怒者も危険なことには変わりないだろ。もっとべつのこと考えなよ。オゾン層のこととかさー」
 天十里は冗談のような口調で車両の上に立つと、高く跳躍。
 襲い来る銃弾をチェーンの回転で弾くと、着地と同時に周囲から岩を高速隆起。憤怒者たちを蹴散らしていく。
「ぼく十天だもん! 子供だからってなめんなー!」
 蹴散らされた憤怒者たちに追い打ちをかけるように、きせきが刀をめちゃくちゃに振り回して襲いかかった。
 幼い子供とはいえ、覚者と非覚者である。力量の差は明らかだった。
「ば、ばけもの!」
「ばけもので結構よ」
 開いた憤怒者の口に、ナイフが突き刺さった。
 いや、正確に述べよう。
 開いた憤怒者の口にナイフを持った手がめり込み、後頭部から刃先が露出した。
 白目を剥いて崩れ落ちる憤怒者。
 手が汚れたと言って、桜はナイフを振った。
「あの人を奪った奴といっしょ。だから死ね。苦しんで死ね」
 まだかろうじて息のある憤怒者に、桜は斧を振り上げた。
 その手を、ラーラは掴んで止める。
「やめてください。言いましたよね、私」
「大丈夫よ。リーダーひとり残しておけば情報くらい聞き出せるもの」
「そういうことを、言っているんじゃ、ありません」
 一語一句を区切りつつ、手に力を込めるラーラ。
「人を、殺さないでください」
「……」
 桜は了承したのかしていないのか、一見して分からない微笑み顔で首を傾げた。
 後ろから襲いかかろうとした憤怒者に、ラーラは火炎弾を発射。
 もんどりうって倒れる相手を一瞥してから、再び桜をにらんだ。
「この人たちにも家族はいます。こうして戦わなければならないこと自体、悲しいことなんです。私たちはこれ以上の怨嗟が深まらないようにしないといけません」
 さて。ほぼ無抵抗の隔者をリンチできると思っていた憤怒者らが覚者の集団に襲撃されたことで、一部構成員に変化が生じていた。
「こ、こんなの聞いてないぞ。俺は下りる!」
 この男もその一人である。銃を持ったままじりじりと後退し、逃走のチャンスを探っていた。
 そんな彼の口に手が回され、首にはクナイが押し当てられた。
 背後からの襲撃だ。姿もなければ足音もしなかった。
 まるで空気の中から急に現われたかの如く、それは……零はそこにいた。
「ごめんね。こっちも無用なけが人を出したいわけではないんだ」
 男は適度に無力化され、その場に縛って倒された。
 その様子に気づき、慌てて振り向く憤怒者たち。
「か、会長さん!」
「ここは、一旦負けを認めてはどうだろう」
 手を翳して見せる零。
 憤怒者たちは今、自分たちが格上の存在に取り囲まれていることを自覚した。

●かつての黒人迫害思想において、黒人は人の形をしていること自体が罪とされていた。――『大いなる歴史と誤解』より抜粋
 零が隠密行動を終えた段階から、形勢は大きく傾いた。
 それは崖を転げ落ちる岩のごとく、急速かつ絶望的なものである。
「……」
 零は憤怒者の乱射する銃を右へ左へ残像をつくりながらかわし、二本指を立てて召雷した。
 降り注ぐいかずちが憤怒者たちを攻め立て、草を刈り取るかのようにきせきが指や腱を切り裂いていく。
「うあ、なんだかワクワクする。こんなに血まみれの人たちをみてもドキドキしか感じないなんて、ぼくちょっとだけ人間に戻れたんだ! うれしいな、たのしいな! たたかうのって、たのしいな!」
 上機嫌で凶器を振り回すきせきに、ラーラはわずかに身震いした。
「はやく、終わらせなくては」
 手を翳し、火炎の弾を生成。きせきに銃口を向けた憤怒者めがけてそれを射出。
 火炎弾が肩に命中した憤怒者はバランスを崩し、銃口を上に向けた。
「せいっ!」
 隙を見せた憤怒者に、天がダッシュエルボーを仕掛けた。撥ね飛ばし、ターンからの突きですぐ脇の憤怒者をも撥ね飛ばす。
「今日の俺、ターンピック冴えてるぅ!」
 髪をかきあげる天。そんな彼の背後から殴りかかろうとした憤怒者――の腕に、鞭がぐるぐると巻き付いた。
 電撃が走り、口から煙を吐いて気絶する憤怒者。
 鞭はしゅるしゅると誡女の手元へと戻っていった。
「そろそろ、鎮圧が終わりそうですね」
 振り向いてみると、天十里が憤怒者たちを追い詰めている所だった。
 誡女が乗ってきた車に背をつけて警棒を振り回す。そこへ、天十里はなんということもなく地烈を起こし、車ごと彼らをひっくり返した。
「こういう風にぶっ飛ばすとまたわめき立てるんだろーなー。めんどい相手だ!」
「く、くそっ!」
 なんとか打撃を加えようと警棒を叩き付けるが、その手首にチェーンが巻き付く。
 無理矢理腕を引っ張り上げ、天十里は相手を足で踏みつけた。
 胸を激しく圧迫されたことで気を失い、腕から警棒がこぼれ落ちていく。
 そんな天十里を銃で狙う者もいたが、桜の放った深緑鞭が腕を強かに打ち、銃を撥ね飛ばした。
 反射的に手首を押さえるが、その手首をナイフで貫く桜。
「だいじょうぶ。死なないわよ? 一生右手が使えなくなるくらい。そのくらいよ。私よりずっとマシ。できれば手足全部使えなかったらいいのに」
 恐怖に震える憤怒者。彼をよそに、紅刃は残った一人に言った。
「お前が最後か」
 紅刃が小太刀に炎を纏わせ、ゆっくりと近づいていく。
 憤怒者は銃を乱射するが、よけはしない。
 肩や腹に弾がめり込み、頬を強く削っていく。
「な、なぜよけない。哀れみのつもりか!」
「そうは思わん。強いていえば、心の痛みを知ってみたかった」
 紅刃はそうとだけ言って、炎の小太刀を突き刺した。
 ずるずると崩れ落ちる男を抱え、瞑目する。
「結局、悲劇を招くのは力を持つ者だ。力におぼれて道を違えぬよう、私たちも心にとめておかねばな」

 無力化した『いのちの会』のメンバーはガムテープと結束バンドで拘束し、丘の上に並べた。当然武器は解体し、弾を抜いて転がしていく。ここれ没収してしまうと彼らの罪が軽くなりかねないからだ。
 作業を終えた紅刃が振り返ると、零がリーダーらしき人物を引きずってきた。
「会長と呼ばれていた」
「ふうん」
「リーダーってわけ」
 数多と桜はそれぞれ刀とナイフを彼の両頬に当てると、にっこりと笑って見せた。
「あんたらイレヴンの子飼い?」
「ゆっくり拷問(おはなし)してあげる」
 言って、両頬を切りつける。
 言葉にならない悲鳴を上げる男に、桜はたまらず二の太刀を入れようとナイフを振り上げた。
 その手を掴むラーラ。先刻同様、力を込めた。
「電話ボックスから警察と救急を呼びました。ここに残っていると、参考人として連行されますよ」
「なんで? ファイヴなんだから、警察くらい……」
「ムリでしょ」
 完全にスクラップ化した車をぼーっと眺めていた天十里が、手を組んで振り返った。
「警察の全部がファイヴを知ってるわけじゃないしー、そもそも僕らがファイヴの協力者だって証拠がないから、連行されるだけされちゃうんじゃない? そのあと解放されるかもだけど、無駄に時間とられるのは嫌でしょ」
「まー社員じゃないしな。バイトでもないしな。なんなのこの立場。フリー外注?」
 頬をぽりぽりとかく天。
 そんな話をしていると、きせきが会長らしき男のそばでかがんだ。口を塞いだガムテープを外し、目線を合わせて、無垢な顔で言う。
「おじちゃんたちは隔者が悪人だからやっつけたいんだよね。じゃあおまわりさんの邪魔をする悪人をやっつけても文句は言えないよね?」
「黙れバケモノめ! お前らが社会をおかしくしてるんだ! お前らそのものが悪だ! 全員地球から出ていけ!」
 彼の言葉がきせきに突き刺さったかと言えば、そうではない。途中で誡女がきせきの耳を塞いだからだ。
「あなたには正規の法的処理を受けて頂きます。傷害と凶器準備集合罪でしょうか。どちらも不十分かもしれませんが、間接的に過去の罪は洗われるでしょう。隔者同様、獄中で反省してください」
 そうとだけ言い残すと、誡女たちはギリギリ動くらしい車を運転してその場を後にした。

 後日談にならぬ程度に後のことを書き記す。
 現場を通った護送車は、集まったパトカーや救急車を見て車を止めた。
「何かあったのか」
「はあ、憤怒者組織が覚者相手に暴れていたようで、連行して話を聞くところです」
 内容のわりには緊張感がない。
 警官の女は首を傾げて彼らを見た。
 全員無力化され、一部は気絶したままだ。解体された拳銃らしきものが透明な袋に入って放置されているあたり、武装状態で鎮圧されたと見える。
 警察の仕事にしては荒っぽい。
「彼らは?」
「『いのちの会』を名乗っています。匿名で隔者犯罪の情報を得て決起したそうですが、覚者の集団に襲われたようで……死亡者一名、重軽傷十一名です。通報も匿名だったので、もしかしたらその人物かと」
 女は警官に礼を言って窓を閉じると、座席に身体を沈めた。
「……なるほど。奇跡に恵まれたわけだ」
 ちらりと隔者の方を見る。
「もしくは、人為的な奇跡か」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

・特殊な車両の用意について
 ゲームシステム上財力は無限に設定できるので、戦闘力にはあんまり反映しないものとして判定しています。
・ステルスしのびあしによる回り込みについて
 後衛への回り込みプラス奇襲として判定しました。効果は『後衛にブロックスルーして1ターンスタンさせる』です。

 これらは本件における判定であり、状況によって判定結果が変わります。ご注意ください。

〓運営追記〓
※自身の所持しているアイテム以外はオープニングやシナリオ詳細にて使用が許可されている場合を除いては基本的に持ち込む事はできませんのでご注意下さい。




 
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