我らが死の怨
●はじまり
夜、帰りの会も終わって、生徒が家に帰って、それからしばらくたった夜半の話。
「3ねん1くみ」とプレートがかかった教室に普段そこで学ぶ子供たちがいた。
少年少女たちは机を後ろに運び教室の中で大きなスペースをつくっている。
「先生、僕たちを殴りました」
スペースの中で輪になったなかの一人が呟いた。事実を確認するようにあたりを見渡すと、回りのクラスメイト達もそれを肯定するようにゆっくりと頷く。
「先生は、あたしたちを虐めます」
今度は少女が。そしてまた、クラスメイトが頷く。
それは、彼らの儀式。溜まったものを吐き出して、明日からまた頑張るために。
「先生は、人の嫌がることをしてはいけないと言うけれど先生はそうじゃありません」
「先生が」「先生は」「先生に」
次々と輪の中に悪行が投げ込まれる。火にかけた鍋の中身が煮詰まっていくみたいに。
「だから、先生はいらないと思います」
最後の一人が呟いた時、複数の声がした。
「「「「ソノネガイ、叶えてやろう」」」
それが誰か、生徒たちにわかるべくもなかったが、なぜかそれが自分たちの悪意を吸収していることだけは理解できた。
三年一組の念に古妖が取り憑いて化け物が生まれる。
「セセセセセセンンンンンンセセセセセセセイイイイイイ」
そうして生まれたそれは、床をヒタヒタと歩き、敵の元へ向かった。
●
「皆さん、ご足労ありがとうございます」
久方真由美(nCL2000003)が集めた覚者たちを前にして一礼する。その顔色は冴えない。
「早速ですが、皆さん……覚悟して、こちらをご覧ください」
会議室のプロジェクターを起動させ、画像を映す。
「ウッ」
表示されたそれに、覚者の何人かが息をのんだ。
「……これは?」
まるでそれはたくさんの人を丸めて作った歪な丸い球のような外見だった。
「とある学校で出現する敵です。皆さんにはこれを討伐していただきます」
真由美は息を吸って、詳細の説明を続ける。
「これはとある学校の生徒たちが生み出した念に、管狐という古妖が取りついた結果生まれてしまったものです。」
曰く、真由美が夢で見た映像によると、このクラスの教師は生徒に酷く手をあげていたらしい。
そして、月に一度程クラス全員で集まって教師に対する愚痴をこぼしていた。その念に、古妖が目をつけたというのだ。
生徒たちはこの管狐が念に取り憑いた瞬間、教室でそのまま意識を失っているらしい。
「この状態の管狐……便宜上、識別名「三年一組」は、今はまだ取り憑きの元となった生徒たちの意思を色濃く反映して動いています。即ち、自分たちを虐めたものへの復讐」
間の悪いことはかさなり、件の教師はたまたま今日職室室で残業しているらしい。
このままでは、三年一組はこの教師を殺害するだろう。
「この敵性対象についての具体的な詳細は別途資料をお渡しします。皆さんには追加で説明しなければいけないことがあります」
首をかしげる覚者たち。続いた真由美の言葉は衝撃的だった。
「この管狐は生徒たちの念を外側に纏うようにしている状態です。即ち、欲望を満たすか、元を断てば大幅に弱体化することが判明しています」
「それは、どういう」
ごくりと、のどを鳴らすものがいた。それに構わず真由美は続ける。
「教師を見捨てるか、生徒を殺すかすれば皆さんは安全にこの敵を倒すことが出来るでしょう。」
「ですが逆に、欲望を満たした後の三年一組はどう動くかわかりません。そのことを勘案し、FIVEは本件に関してのミッションを管狐の討伐のみ、と規定しました。よってその他一切の人命保護を強制しません。仮に、皆さんが一般人に手をかけようと本件に限ってペナルティはありませんし、対外的には古妖の犠牲、ということに出来るでしょう」
そこまで一息に言い切って、真由美は頭を下げた。
「私ができるのは説明までです。現地でどうするかは、皆さんにお任せします」
夜、帰りの会も終わって、生徒が家に帰って、それからしばらくたった夜半の話。
「3ねん1くみ」とプレートがかかった教室に普段そこで学ぶ子供たちがいた。
少年少女たちは机を後ろに運び教室の中で大きなスペースをつくっている。
「先生、僕たちを殴りました」
スペースの中で輪になったなかの一人が呟いた。事実を確認するようにあたりを見渡すと、回りのクラスメイト達もそれを肯定するようにゆっくりと頷く。
「先生は、あたしたちを虐めます」
今度は少女が。そしてまた、クラスメイトが頷く。
それは、彼らの儀式。溜まったものを吐き出して、明日からまた頑張るために。
「先生は、人の嫌がることをしてはいけないと言うけれど先生はそうじゃありません」
「先生が」「先生は」「先生に」
次々と輪の中に悪行が投げ込まれる。火にかけた鍋の中身が煮詰まっていくみたいに。
「だから、先生はいらないと思います」
最後の一人が呟いた時、複数の声がした。
「「「「ソノネガイ、叶えてやろう」」」
それが誰か、生徒たちにわかるべくもなかったが、なぜかそれが自分たちの悪意を吸収していることだけは理解できた。
三年一組の念に古妖が取り憑いて化け物が生まれる。
「セセセセセセンンンンンンセセセセセセセイイイイイイ」
そうして生まれたそれは、床をヒタヒタと歩き、敵の元へ向かった。
●
「皆さん、ご足労ありがとうございます」
久方真由美(nCL2000003)が集めた覚者たちを前にして一礼する。その顔色は冴えない。
「早速ですが、皆さん……覚悟して、こちらをご覧ください」
会議室のプロジェクターを起動させ、画像を映す。
「ウッ」
表示されたそれに、覚者の何人かが息をのんだ。
「……これは?」
まるでそれはたくさんの人を丸めて作った歪な丸い球のような外見だった。
「とある学校で出現する敵です。皆さんにはこれを討伐していただきます」
真由美は息を吸って、詳細の説明を続ける。
「これはとある学校の生徒たちが生み出した念に、管狐という古妖が取りついた結果生まれてしまったものです。」
曰く、真由美が夢で見た映像によると、このクラスの教師は生徒に酷く手をあげていたらしい。
そして、月に一度程クラス全員で集まって教師に対する愚痴をこぼしていた。その念に、古妖が目をつけたというのだ。
生徒たちはこの管狐が念に取り憑いた瞬間、教室でそのまま意識を失っているらしい。
「この状態の管狐……便宜上、識別名「三年一組」は、今はまだ取り憑きの元となった生徒たちの意思を色濃く反映して動いています。即ち、自分たちを虐めたものへの復讐」
間の悪いことはかさなり、件の教師はたまたま今日職室室で残業しているらしい。
このままでは、三年一組はこの教師を殺害するだろう。
「この敵性対象についての具体的な詳細は別途資料をお渡しします。皆さんには追加で説明しなければいけないことがあります」
首をかしげる覚者たち。続いた真由美の言葉は衝撃的だった。
「この管狐は生徒たちの念を外側に纏うようにしている状態です。即ち、欲望を満たすか、元を断てば大幅に弱体化することが判明しています」
「それは、どういう」
ごくりと、のどを鳴らすものがいた。それに構わず真由美は続ける。
「教師を見捨てるか、生徒を殺すかすれば皆さんは安全にこの敵を倒すことが出来るでしょう。」
「ですが逆に、欲望を満たした後の三年一組はどう動くかわかりません。そのことを勘案し、FIVEは本件に関してのミッションを管狐の討伐のみ、と規定しました。よってその他一切の人命保護を強制しません。仮に、皆さんが一般人に手をかけようと本件に限ってペナルティはありませんし、対外的には古妖の犠牲、ということに出来るでしょう」
そこまで一息に言い切って、真由美は頭を下げた。
「私ができるのは説明までです。現地でどうするかは、皆さんにお任せします」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.管狐憑依体:「三年一組(たち)」の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
古妖管狐。識別名:「三年一組(たち)」×5体
・外見
人を何人か固めて団子にしたような形。そこらじゅうから生えている手足で移動する。
知性はあるが、現在は生徒たちの念に強く影響を受ける状態
・スキル
呪詛:特全・呪い ダメージ小
轢殺:物遠単
車裂き:物近単・ダメージ大
大合唱:特遠貫通2(100/50)
・特殊
1、生徒(一クラス30人)一人死亡につき3%全能力が低下する。(5体全て3%に下がる)
2、教師を自らの手で死亡させた場合、全能力が50%低下する。(5体全て50%下がる)
●場所
よくある校舎。
教室は2階西端。職員室は1階東端にある。
夜であるが光源や地形による有利不利はない。
周囲に人影はないが必要以上に長時間騒音を立てると人が来るかもしれない。特に考えなくてもよいと思われる。
以上になります。皆さまのご参加お待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年09月06日
2016年09月06日
■メイン参加者 8人■

●夜の校舎にて
FiVEの依頼で夜の小学校を訪れた覚者たちは、今校舎の中で沈黙を保っていた。
それは偏に、『笑顔の約束』六道 瑠璃(CL2000092)の邪魔をしないためだ。彼の鋭敏化した聴力は明らかに人と違う足音を捉えている。
「敵は一固まりになってまっすぐ職員室の方に来てるな」
瑠璃は仲間にアイコンタクトを送りながら報告を行う。それを受けて覚者たちは職員室と三年一組たちが通るルートの途中に彼らは布陣する。
学校の廊下は武器を振り回すことを考えると前衛に三人しか並べなかったため、前衛3、中衛1、後衛3で並んだ形だ。
こんなことが出来たのも常であれば人がいない校舎の静けさの中で聴力を使うというのは目論見通りの結果を齎し、万全の態勢で敵を迎え撃つ準備を整える時間を得ることに成功していたからだ。
覚者たちは三年一組たちがバラバラに動いてくることも想定していた。でも、三年一組たちはそれを選ばなかった。ただ一目散に担任の教師がいる職員室を目指しているのだ。
「それだけ、殺したいってことなんかねー……」
事前に使えるスキルのない『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)は手持無沙汰そうに髪を指に巻き付けながらポツリと呟いた。彼もまた、同族探知でこの時間を作り出すことに一役買っていた。
自分たちに暴力を振るった教師を恨んだという小学生の念を受けて動く管狐が、絡め手を使わず動くというのは、納得できるようでそして吐き気がした。
「僕は、小学校にはいい思い出のほうが多いんですけどね」
ここも、なんだか懐かしいです、と『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)。
「僕には、こんな事件が起きるほど両方が悪いことをした、とは思えません」
『覚悟の事務員』田中 倖(CL2001407)が後ろを振り向く、この先には今日、当直で残っている担任がいる。もし彼が本当に悪い人間であったなら、生徒たちのために残業はしないだろう。
「だから、助けたいと思います」
瑠璃のお陰で作れた時間で倖は蔵王を使う。
「人にものを教えるって大層なことだよな。」
だからといって、子供に暴力を振っていいかと言われると、それにも首を傾げて、『第二種接近遭遇』香月 凜音(CL2000495)も錬覇法を使いながら今回の任務を振り返る。
教師の仕事が人を教え導くというのなら、今回の件はそういう風に導いてしまった本人の責任かというと、否とこの場にいる誰もが言うだろう。
「一番悪いのは言葉でわかりあう機会すら奪った妖だ」
清廉珀香を使用しながら東雲 梛(CL2001410)が低い声音で呟く。それはこの場にいる全員の共通認識のはずだ。
そう、この場に「死ぬべき人間」なんていない。
命の天秤にかけることなどせず、覚者たちは戦うことを選んだ。
「外から職員室に入ったりもしねぇみたいだし、サクッと魔眼をかけてくるかな」
補助を受け終えた後、スーツにオールバック姿の『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)は一度仲間たちから離れる。彼の役目は教師を魔眼で職員室に留めることだ。
「……難儀なもんだなぁ」
助けると決めたのは自分たちとはいえ、敵が来ることをわかっていて一人がその場を離れなければいけないというのは戦力的な意味で考えるなら愚策だ。影兵法に詳しくない者でもそれは分かっているだろう。
ただ、それを選んだ以上完璧に遂行するように策を練り、その通りに動くことが兵法者の自分の役目だと彼は足早に職員室に向かう。
●まるで子供がわがままを言うみたいに
「来ます」
『狗吠』時任・千陽(CL2000014)がハンドガンとナイフを抜く。
全員が補助スキル使い終わった時、それに合わせたように――実際は瑠璃の得た情報を千陽の送受信で共有し、覚者たちがタイミングを合わせたのだが。
ぺた。それが強化された聴覚を持たない覚者たちにも確かに聞こえた。最初の一つが聞こえてしまえば、そこから続く音を拾うのも簡単だった。
ぺたぺたぺた。廊下の向こうからそれが姿を現す。
「来た……来た来た怖くない怖くないぞぉ。ギョエエェエ結構グロい!!」
その姿はまるで子供のマネキンを固めて作った団子。体中から固めきれず伸びた手足でパタパタと音を立てて移動教室のようにならんで歩きまわっている。前に3体、後ろに2体。
周囲をせわしなく動く目のうちいくつかとバッチリ目が合ってジャックは思わず叫んだ。
「う、うわぁ……」
最年少の小唄も見た目のグロテスクさに口に手を当てる。
「「「「センセイイイイイイイイイイイイイイ」」」
立ちはだかる覚者たちを威嚇するように三年一組たちが声を上げる。
「うるせぇよ、ここから先は通さない」
覚者たちの中で速度で一等勝る瑠璃が鎌を振り上げる。自然現象を無視した雷雲から伸びる雷が三本、三年一組たちを打つ。
「ドケエエエエエ」
「行かせません! 退きません!」
小唄が懐に入って低い位置からの二連撃。高速のコンビネーションは三年一組たちの歩みを止める。
「センセイのミカタだあああ」
二人の攻撃を受けて、どうやら三年一組たちは覚者たちを敵と認識したようだった。
(先生の味方、ね。そうじゃないんだけどな)
梛は掌の中に生んだ花へ息を吹きかけるとたちまちの内に花の香が前方へ飛び敵を包む。
「どちらかというと古妖の敵さ」
仇花の香で体勢を崩しながらも一体がその丸い体で転がるようにして突撃してくる。
その攻撃を、千陽が受けた。
「無邪気な悪意を吸い取って、結果がこうですか」
蔵王で防御力を強化したとはいえ、体の芯に響いてくるダメージを受けながらも千陽は吐き捨てる。
「度し難い」
だが、いくら許せないといったところその悪意に管狐が憑依したこの敵がそれなりの強さを持つのは事実だ。
(真由美さんが言っていましたね……)
列攻撃でダメージを受けた一体に攻撃しながら倖が思い出したのはこの事件に関する予知を見た真由美の言葉。
(念の欲望を満たすか、念の元を断てばこの敵は弱くなる)
そう、仮に、仮にの話だ。ここで覚者たちが左右に割れて、道を開いたならば。
そうしたら三年一組たちは全員の間をすり抜けて職員室へ向かうだろう。その後は30分も時間を潰してから職員室へ向かえば弱体化した三年一組たちと戦えるだろう。
もしくは先ほど事前にスキルを使ったタイミングでこの場所に布陣せず一度三年一組をやり過ごしながら教室へ向かったならば。
覚者たちは幾度かスキルを撃つだけでこの敵を生み出す念の元になった生徒たちを殺し、大幅にその念を削ぎ落とすことが出来ただろう。
FiVEはその判断を覚者たちに任せた。罰することもないと約束した。
「でも、そうじゃない」
ジャックが巻き起こすは炎の津波。廊下一杯にあふれる炎は逃げ場を作らない。
「アアアアア」
小唄が敵に捕まれる。ギシギシと苛む古妖の力は一般人であれば容易く殺しうる
三年一組の攻撃はそのどれもが殺意に満ち溢れていた。
「こんなことをキミたちはしようとしたのか!」
その痛みだって、望んで受けた。自分たちが選んでいれば自分を苛む痛みだってもっと弱かった。だけどこれを選んだのはわがまま。
――生徒を手にかければ敵が弱くなるとか、教師に向かうのを見過ごせば倒しやすくなるとか。
「そんなのは関係ない!」
「その通りだな」
そこへ凛音が送るのは全体をカバーする癒しの霧。
「待たせたな」
懐良が戻ってくる。よほど急いできたのか髪が乱れていた。
「教師にはちゃんと魔眼をかけてきた。あとはコイツらをどうにかするだけだ」
国包が軽快に煌めく。するべきことはあと一つ。誰も殺させずにコイツを倒すこと。
「難しいことだけどだからこそやりがいがある!」
懐良の顔は自信に満ちていて。それは彼の前世故か、彼が本来の気質なのか。
「小さな悪意も重なれば大きな力になる、君たちは教師を殺す程に憎んでいたのですか?」
千陽のBerettaM9:3Fが吠える。
「もし、明日、担任の教師が惨たらしく殺されていたら、君達は喜んでしまうでしょう」
人の死を喜んでしまった経験は、傷になる。それも、二度と治らない傷に。
「なので申し訳ありませんがこの先へ通すわけにはいきません」
●たった三つの選択肢で
「「「シンデエエエエエエエ」」」
三年一組が放つは呪いの言葉。この数か月で集めてきた彼らの怒り。
それが複数の口から洩れて合唱のようになる。それは覚者たち全てを覆った。
「あーあー、うるせぇよ」
歌声を吸収するように凛音の回復。音を水が吸収し、揺らした精神を癒す。
「言葉じゃなくてちゃんと行動で表しやがれ! こんな妖怪なんぞに頼らずによ」
こんな風になるくらいまで。という言葉を飲み込んで国包で腕を纏めて切り飛ばして返事にする。
範囲を重ねた彼らの戦法は廊下という戦場を選んだことも相まって絶大な効果を発揮し、既に二体は地に伏した。これで2体目。
「狐の本体も一緒に死ぬのですか」
千陽がちらりと死体となった管狐を見やる。誰かに使われたのか、ただ引き寄せられたのかは確認しておきたかったが出来そうもない。
「聞け、管狐!!悪意があるか無いかは分からないが、今すぐにお帰り下さい!!
もういいだろう? 仲間がこんだけ死んで、お前たちにも得なんてないはずだ」
けれど、それくらいでは止まらない。もしあかしたら、止まれないのか。
「止まれよ……止まってくれよ……」
ジャックがいくら叫んだところで止まらない。だから前を向いて彼は杖を振り上げた。ああ、この世界はやっぱり糞みたいな世界だ。
「ナグラナイデエエエエ」
梛は呪詛をまともに受けて膝をつく。思い出すのは純粋な殺意を向けられた過去のこと。出来るならそんな感情を身に孕むことなどしたくはない。
「受け止めてやるよ」
だけど、彼はその身を呪詛に踊らせた。もういいんだと。けれど、彼にはそれ以上のことは出来ない。寄り添うことは出来ても同じ道は歩けない。
何よりこの念を受けて育った敵には他の感情がない。それだけを吸って育っているから、生徒たちに向けた言葉では届かないし――それに、梛には恨みだけで人を殺そうと思ったことがない。だから、この技の本質が理解できても、使えない。家族や……大切な友人の顔が君の中にある限り。
「キミたちの普通の暮らしを終わらせるわけにはいかないのです!」
腕をとって叩きつける。それで響く3体目の最後の声。
覚悟をしてきた、でもそれをは誰かを犠牲にする覚悟じゃない。明日の朝誰かがいなくなってちゃいけない。
「ええ、だから俺たちはここにいる」
千陽……彼もまた、誰かの優しさと覚悟でここにいる。×と×はきっといい人だったのだろう。じゃなければ、自分は5歳で死んでいた。
そのことについて、答えは出ていないけど。軍人として、この判断は甘いと言われるかもしれないけれど。だから、千陽はここにいる。
「皆男らしいなぁ……俺もそうなんだけどさ」
元より真由美の説明を聞いて、人を殺して楽しようなんて思わなかった連中だから。だからこそやりがいがあるし、回復のしがいがある。この場にいるのは優しい奴らばっかりだから。
「そろそろ終局にしよーや!」
「ああ、子供はうちに帰る時間だ」
懐良の斬撃に梛が合わせる。日本刀で開いた傷口にそっと置かれたのは花の種。それが伸びて敵を縛り付ける様は手向けのようで。
「お前らには帰る場所があるんだろう? こんなことで不意にするんじゃないよ」
どうして梛がそんなことを言ったのか、彼以外にはわからない。けれどその言葉、とても。
「この先にはきっと楽しいことがあるから!」
小唄の体が高速で駆動する。人知を超えた動きに体が悲鳴を上げるがそんなことはどうでもいい。
だって今は、こうすることのほうが大事だから。
空気の壁を突き抜けたような音が三回、教室に木霊した。
「さようなら、おやすみなさい」
「センセイ……」
「……もしかしたら、生徒たちは最初は先生が好きだったのかもしれませんね」
その言葉を最期に残して消滅した三年一組を見て、倖がポツリと呟いた。
●目を逸らさずに
戦いが終わっても、覚者たちにはやらなければいけないことがあった。
「おら、起きろ」
懐良が教師の頬をかるくたたいて催眠を解除する。
「き、キミたちは」
「俺たちはFiVE……まー今はそれはいい。あんたが生徒に暴力を振るってるってことで事件が起きちまってな」
驚く教師に一通りの経緯を説明する。勿論この記憶に関しては後から懐良が再び魔眼で消すつもりだが。
「あんたの体罰は教育なのかそれとも鬱憤晴らしなのか?」
凛音の問い詰めるような言葉。
「ち、違う、俺はただ、あいつらが言うことを聞かなくて」
教師が頭を抱えるようにうなだれる。
「イライラが溜まった時、子供を殴ると少しだけスッとしたんだ」
その言葉を聞いてジャックは顔を顰める。彼は教師を問い詰める気はなかったが、それでも少しだけ、期待していた。この教師から愛の言葉が聞けることを。
「もし、アンタの心のどこかで罪悪感か責任感があるのなら、次は、痛い方法じゃなくて分かり合える方法で接してやって欲しいな!」
もしかしたら、もう今の生徒に対してではないかもしれないけど。
「アンタだって最初から人を殴りたくって教師になったわけじゃないだろう?」
小唄はこの教師が私欲で殴っている人であれば、どうしてもやっておかなければいけないことがあった。
「人の痛みが分からない人が人の道を説くんじゃないです」
小唄が力を抑えて一発だけ教師を殴る。それは教師を殺したいがあまりに古妖すら呼び寄せてしまった子供たちの怒りの代弁だろうか。だとするとそれは、最も年の近い彼が一番やりたかったことだろう。
後ろへ踏鞴を踏んだ教師に梛が近寄る。
「自業自得だな」
自分たちが断罪者だと言うつもりはないが、それでも今回こういった件が起きてしまった以上、このまま放置して良い訳はない。
「後のことは警察だの学校が決めることだ」
ただ、30人と1人がちゃんと助かったならそれでいい、と瑠璃。
一度事が起きてしまったなら、もうなあなあで済ますことは出来ない。子供たちだって別の立ち上がり方をするだろう。
少なくとも、これで誰かの命が失われるような解決はなくなったのだから。
起きるべき惨劇は起こらず、誰の命も失われずに、教師と生徒の関係に変化を生んで、一夜は終わりを告げる。
「おやすみ、また明日学校で」
それが誰の言葉なのか、わからないけれど。きっと明日が、いい日になりますように。
FiVEの依頼で夜の小学校を訪れた覚者たちは、今校舎の中で沈黙を保っていた。
それは偏に、『笑顔の約束』六道 瑠璃(CL2000092)の邪魔をしないためだ。彼の鋭敏化した聴力は明らかに人と違う足音を捉えている。
「敵は一固まりになってまっすぐ職員室の方に来てるな」
瑠璃は仲間にアイコンタクトを送りながら報告を行う。それを受けて覚者たちは職員室と三年一組たちが通るルートの途中に彼らは布陣する。
学校の廊下は武器を振り回すことを考えると前衛に三人しか並べなかったため、前衛3、中衛1、後衛3で並んだ形だ。
こんなことが出来たのも常であれば人がいない校舎の静けさの中で聴力を使うというのは目論見通りの結果を齎し、万全の態勢で敵を迎え撃つ準備を整える時間を得ることに成功していたからだ。
覚者たちは三年一組たちがバラバラに動いてくることも想定していた。でも、三年一組たちはそれを選ばなかった。ただ一目散に担任の教師がいる職員室を目指しているのだ。
「それだけ、殺したいってことなんかねー……」
事前に使えるスキルのない『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)は手持無沙汰そうに髪を指に巻き付けながらポツリと呟いた。彼もまた、同族探知でこの時間を作り出すことに一役買っていた。
自分たちに暴力を振るった教師を恨んだという小学生の念を受けて動く管狐が、絡め手を使わず動くというのは、納得できるようでそして吐き気がした。
「僕は、小学校にはいい思い出のほうが多いんですけどね」
ここも、なんだか懐かしいです、と『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)。
「僕には、こんな事件が起きるほど両方が悪いことをした、とは思えません」
『覚悟の事務員』田中 倖(CL2001407)が後ろを振り向く、この先には今日、当直で残っている担任がいる。もし彼が本当に悪い人間であったなら、生徒たちのために残業はしないだろう。
「だから、助けたいと思います」
瑠璃のお陰で作れた時間で倖は蔵王を使う。
「人にものを教えるって大層なことだよな。」
だからといって、子供に暴力を振っていいかと言われると、それにも首を傾げて、『第二種接近遭遇』香月 凜音(CL2000495)も錬覇法を使いながら今回の任務を振り返る。
教師の仕事が人を教え導くというのなら、今回の件はそういう風に導いてしまった本人の責任かというと、否とこの場にいる誰もが言うだろう。
「一番悪いのは言葉でわかりあう機会すら奪った妖だ」
清廉珀香を使用しながら東雲 梛(CL2001410)が低い声音で呟く。それはこの場にいる全員の共通認識のはずだ。
そう、この場に「死ぬべき人間」なんていない。
命の天秤にかけることなどせず、覚者たちは戦うことを選んだ。
「外から職員室に入ったりもしねぇみたいだし、サクッと魔眼をかけてくるかな」
補助を受け終えた後、スーツにオールバック姿の『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)は一度仲間たちから離れる。彼の役目は教師を魔眼で職員室に留めることだ。
「……難儀なもんだなぁ」
助けると決めたのは自分たちとはいえ、敵が来ることをわかっていて一人がその場を離れなければいけないというのは戦力的な意味で考えるなら愚策だ。影兵法に詳しくない者でもそれは分かっているだろう。
ただ、それを選んだ以上完璧に遂行するように策を練り、その通りに動くことが兵法者の自分の役目だと彼は足早に職員室に向かう。
●まるで子供がわがままを言うみたいに
「来ます」
『狗吠』時任・千陽(CL2000014)がハンドガンとナイフを抜く。
全員が補助スキル使い終わった時、それに合わせたように――実際は瑠璃の得た情報を千陽の送受信で共有し、覚者たちがタイミングを合わせたのだが。
ぺた。それが強化された聴覚を持たない覚者たちにも確かに聞こえた。最初の一つが聞こえてしまえば、そこから続く音を拾うのも簡単だった。
ぺたぺたぺた。廊下の向こうからそれが姿を現す。
「来た……来た来た怖くない怖くないぞぉ。ギョエエェエ結構グロい!!」
その姿はまるで子供のマネキンを固めて作った団子。体中から固めきれず伸びた手足でパタパタと音を立てて移動教室のようにならんで歩きまわっている。前に3体、後ろに2体。
周囲をせわしなく動く目のうちいくつかとバッチリ目が合ってジャックは思わず叫んだ。
「う、うわぁ……」
最年少の小唄も見た目のグロテスクさに口に手を当てる。
「「「「センセイイイイイイイイイイイイイイ」」」
立ちはだかる覚者たちを威嚇するように三年一組たちが声を上げる。
「うるせぇよ、ここから先は通さない」
覚者たちの中で速度で一等勝る瑠璃が鎌を振り上げる。自然現象を無視した雷雲から伸びる雷が三本、三年一組たちを打つ。
「ドケエエエエエ」
「行かせません! 退きません!」
小唄が懐に入って低い位置からの二連撃。高速のコンビネーションは三年一組たちの歩みを止める。
「センセイのミカタだあああ」
二人の攻撃を受けて、どうやら三年一組たちは覚者たちを敵と認識したようだった。
(先生の味方、ね。そうじゃないんだけどな)
梛は掌の中に生んだ花へ息を吹きかけるとたちまちの内に花の香が前方へ飛び敵を包む。
「どちらかというと古妖の敵さ」
仇花の香で体勢を崩しながらも一体がその丸い体で転がるようにして突撃してくる。
その攻撃を、千陽が受けた。
「無邪気な悪意を吸い取って、結果がこうですか」
蔵王で防御力を強化したとはいえ、体の芯に響いてくるダメージを受けながらも千陽は吐き捨てる。
「度し難い」
だが、いくら許せないといったところその悪意に管狐が憑依したこの敵がそれなりの強さを持つのは事実だ。
(真由美さんが言っていましたね……)
列攻撃でダメージを受けた一体に攻撃しながら倖が思い出したのはこの事件に関する予知を見た真由美の言葉。
(念の欲望を満たすか、念の元を断てばこの敵は弱くなる)
そう、仮に、仮にの話だ。ここで覚者たちが左右に割れて、道を開いたならば。
そうしたら三年一組たちは全員の間をすり抜けて職員室へ向かうだろう。その後は30分も時間を潰してから職員室へ向かえば弱体化した三年一組たちと戦えるだろう。
もしくは先ほど事前にスキルを使ったタイミングでこの場所に布陣せず一度三年一組をやり過ごしながら教室へ向かったならば。
覚者たちは幾度かスキルを撃つだけでこの敵を生み出す念の元になった生徒たちを殺し、大幅にその念を削ぎ落とすことが出来ただろう。
FiVEはその判断を覚者たちに任せた。罰することもないと約束した。
「でも、そうじゃない」
ジャックが巻き起こすは炎の津波。廊下一杯にあふれる炎は逃げ場を作らない。
「アアアアア」
小唄が敵に捕まれる。ギシギシと苛む古妖の力は一般人であれば容易く殺しうる
三年一組の攻撃はそのどれもが殺意に満ち溢れていた。
「こんなことをキミたちはしようとしたのか!」
その痛みだって、望んで受けた。自分たちが選んでいれば自分を苛む痛みだってもっと弱かった。だけどこれを選んだのはわがまま。
――生徒を手にかければ敵が弱くなるとか、教師に向かうのを見過ごせば倒しやすくなるとか。
「そんなのは関係ない!」
「その通りだな」
そこへ凛音が送るのは全体をカバーする癒しの霧。
「待たせたな」
懐良が戻ってくる。よほど急いできたのか髪が乱れていた。
「教師にはちゃんと魔眼をかけてきた。あとはコイツらをどうにかするだけだ」
国包が軽快に煌めく。するべきことはあと一つ。誰も殺させずにコイツを倒すこと。
「難しいことだけどだからこそやりがいがある!」
懐良の顔は自信に満ちていて。それは彼の前世故か、彼が本来の気質なのか。
「小さな悪意も重なれば大きな力になる、君たちは教師を殺す程に憎んでいたのですか?」
千陽のBerettaM9:3Fが吠える。
「もし、明日、担任の教師が惨たらしく殺されていたら、君達は喜んでしまうでしょう」
人の死を喜んでしまった経験は、傷になる。それも、二度と治らない傷に。
「なので申し訳ありませんがこの先へ通すわけにはいきません」
●たった三つの選択肢で
「「「シンデエエエエエエエ」」」
三年一組が放つは呪いの言葉。この数か月で集めてきた彼らの怒り。
それが複数の口から洩れて合唱のようになる。それは覚者たち全てを覆った。
「あーあー、うるせぇよ」
歌声を吸収するように凛音の回復。音を水が吸収し、揺らした精神を癒す。
「言葉じゃなくてちゃんと行動で表しやがれ! こんな妖怪なんぞに頼らずによ」
こんな風になるくらいまで。という言葉を飲み込んで国包で腕を纏めて切り飛ばして返事にする。
範囲を重ねた彼らの戦法は廊下という戦場を選んだことも相まって絶大な効果を発揮し、既に二体は地に伏した。これで2体目。
「狐の本体も一緒に死ぬのですか」
千陽がちらりと死体となった管狐を見やる。誰かに使われたのか、ただ引き寄せられたのかは確認しておきたかったが出来そうもない。
「聞け、管狐!!悪意があるか無いかは分からないが、今すぐにお帰り下さい!!
もういいだろう? 仲間がこんだけ死んで、お前たちにも得なんてないはずだ」
けれど、それくらいでは止まらない。もしあかしたら、止まれないのか。
「止まれよ……止まってくれよ……」
ジャックがいくら叫んだところで止まらない。だから前を向いて彼は杖を振り上げた。ああ、この世界はやっぱり糞みたいな世界だ。
「ナグラナイデエエエエ」
梛は呪詛をまともに受けて膝をつく。思い出すのは純粋な殺意を向けられた過去のこと。出来るならそんな感情を身に孕むことなどしたくはない。
「受け止めてやるよ」
だけど、彼はその身を呪詛に踊らせた。もういいんだと。けれど、彼にはそれ以上のことは出来ない。寄り添うことは出来ても同じ道は歩けない。
何よりこの念を受けて育った敵には他の感情がない。それだけを吸って育っているから、生徒たちに向けた言葉では届かないし――それに、梛には恨みだけで人を殺そうと思ったことがない。だから、この技の本質が理解できても、使えない。家族や……大切な友人の顔が君の中にある限り。
「キミたちの普通の暮らしを終わらせるわけにはいかないのです!」
腕をとって叩きつける。それで響く3体目の最後の声。
覚悟をしてきた、でもそれをは誰かを犠牲にする覚悟じゃない。明日の朝誰かがいなくなってちゃいけない。
「ええ、だから俺たちはここにいる」
千陽……彼もまた、誰かの優しさと覚悟でここにいる。×と×はきっといい人だったのだろう。じゃなければ、自分は5歳で死んでいた。
そのことについて、答えは出ていないけど。軍人として、この判断は甘いと言われるかもしれないけれど。だから、千陽はここにいる。
「皆男らしいなぁ……俺もそうなんだけどさ」
元より真由美の説明を聞いて、人を殺して楽しようなんて思わなかった連中だから。だからこそやりがいがあるし、回復のしがいがある。この場にいるのは優しい奴らばっかりだから。
「そろそろ終局にしよーや!」
「ああ、子供はうちに帰る時間だ」
懐良の斬撃に梛が合わせる。日本刀で開いた傷口にそっと置かれたのは花の種。それが伸びて敵を縛り付ける様は手向けのようで。
「お前らには帰る場所があるんだろう? こんなことで不意にするんじゃないよ」
どうして梛がそんなことを言ったのか、彼以外にはわからない。けれどその言葉、とても。
「この先にはきっと楽しいことがあるから!」
小唄の体が高速で駆動する。人知を超えた動きに体が悲鳴を上げるがそんなことはどうでもいい。
だって今は、こうすることのほうが大事だから。
空気の壁を突き抜けたような音が三回、教室に木霊した。
「さようなら、おやすみなさい」
「センセイ……」
「……もしかしたら、生徒たちは最初は先生が好きだったのかもしれませんね」
その言葉を最期に残して消滅した三年一組を見て、倖がポツリと呟いた。
●目を逸らさずに
戦いが終わっても、覚者たちにはやらなければいけないことがあった。
「おら、起きろ」
懐良が教師の頬をかるくたたいて催眠を解除する。
「き、キミたちは」
「俺たちはFiVE……まー今はそれはいい。あんたが生徒に暴力を振るってるってことで事件が起きちまってな」
驚く教師に一通りの経緯を説明する。勿論この記憶に関しては後から懐良が再び魔眼で消すつもりだが。
「あんたの体罰は教育なのかそれとも鬱憤晴らしなのか?」
凛音の問い詰めるような言葉。
「ち、違う、俺はただ、あいつらが言うことを聞かなくて」
教師が頭を抱えるようにうなだれる。
「イライラが溜まった時、子供を殴ると少しだけスッとしたんだ」
その言葉を聞いてジャックは顔を顰める。彼は教師を問い詰める気はなかったが、それでも少しだけ、期待していた。この教師から愛の言葉が聞けることを。
「もし、アンタの心のどこかで罪悪感か責任感があるのなら、次は、痛い方法じゃなくて分かり合える方法で接してやって欲しいな!」
もしかしたら、もう今の生徒に対してではないかもしれないけど。
「アンタだって最初から人を殴りたくって教師になったわけじゃないだろう?」
小唄はこの教師が私欲で殴っている人であれば、どうしてもやっておかなければいけないことがあった。
「人の痛みが分からない人が人の道を説くんじゃないです」
小唄が力を抑えて一発だけ教師を殴る。それは教師を殺したいがあまりに古妖すら呼び寄せてしまった子供たちの怒りの代弁だろうか。だとするとそれは、最も年の近い彼が一番やりたかったことだろう。
後ろへ踏鞴を踏んだ教師に梛が近寄る。
「自業自得だな」
自分たちが断罪者だと言うつもりはないが、それでも今回こういった件が起きてしまった以上、このまま放置して良い訳はない。
「後のことは警察だの学校が決めることだ」
ただ、30人と1人がちゃんと助かったならそれでいい、と瑠璃。
一度事が起きてしまったなら、もうなあなあで済ますことは出来ない。子供たちだって別の立ち上がり方をするだろう。
少なくとも、これで誰かの命が失われるような解決はなくなったのだから。
起きるべき惨劇は起こらず、誰の命も失われずに、教師と生徒の関係に変化を生んで、一夜は終わりを告げる。
「おやすみ、また明日学校で」
それが誰の言葉なのか、わからないけれど。きっと明日が、いい日になりますように。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
