≪友ヶ島騒乱≫煉瓦と硝煙のバレットストーム
●第二砲台跡の戦い
和歌山県友ヶ島。
環境悪化の影響か妖の群生地帯となってしまったこの土地が、ファイヴの力で浄化されようとしている。
「ともがしまは、きちょうなぶんかいさんです……なんて読むのこれ
。あっ、ほうだい、あとなど……いくさじちゅ……せんじちゅうのめんかげが……のこっています。いますっ」
パンフレットをまんま棒読みしていたユアワ・ナビ子(nCL2000122)が、パンフレットをおもむろに引き裂いた。
「ええいまどりょっこしー! 要は妖ぶっぱして遊んでいいって話でしょー! 知ってるんだかんね! 私知ってるんだかんね!」
ファイヴは今回委託を受けて島の妖討伐に乗り出すことになった。
とはいえ島は広いのでいくつかのチームに分かれることになるだろう。
このチームの担当は第二砲台跡だ。
「なんでもこの砲台跡、貴重な文化財らしいから、壊したらすごい泣かれるらしいよ。いい歳したおじさん連中が声を上げて泣くらしいよ。流石に見たくないよねそれは」
この後遊ぼうって言ってんのになんか気まずいしね。
「だからこう、できるだけ建物をこれ以上壊さないように戦ったらいいかもしんないよね」
とはいえ第二砲台跡は戦後に爆破処理が成されているので全体的にかなり壊れた廃墟である。そんな事情もあって、よそに比べて神経質になる必要も減るだろう。
出現する妖は巨大なリス型妖だ。
両腕を砲台化したリス妖はこちらを見つけ次第砲撃を仕掛けてくるはずだ。遮蔽物をうまく利用すれば有利に戦えるが、そのぶん建物が壊れていくので、話し合ってどういう方針でいくか決めておこう。
「それじゃあがんばって……あ、お土産よろしく!」
和歌山県友ヶ島。
環境悪化の影響か妖の群生地帯となってしまったこの土地が、ファイヴの力で浄化されようとしている。
「ともがしまは、きちょうなぶんかいさんです……なんて読むのこれ
。あっ、ほうだい、あとなど……いくさじちゅ……せんじちゅうのめんかげが……のこっています。いますっ」
パンフレットをまんま棒読みしていたユアワ・ナビ子(nCL2000122)が、パンフレットをおもむろに引き裂いた。
「ええいまどりょっこしー! 要は妖ぶっぱして遊んでいいって話でしょー! 知ってるんだかんね! 私知ってるんだかんね!」
ファイヴは今回委託を受けて島の妖討伐に乗り出すことになった。
とはいえ島は広いのでいくつかのチームに分かれることになるだろう。
このチームの担当は第二砲台跡だ。
「なんでもこの砲台跡、貴重な文化財らしいから、壊したらすごい泣かれるらしいよ。いい歳したおじさん連中が声を上げて泣くらしいよ。流石に見たくないよねそれは」
この後遊ぼうって言ってんのになんか気まずいしね。
「だからこう、できるだけ建物をこれ以上壊さないように戦ったらいいかもしんないよね」
とはいえ第二砲台跡は戦後に爆破処理が成されているので全体的にかなり壊れた廃墟である。そんな事情もあって、よそに比べて神経質になる必要も減るだろう。
出現する妖は巨大なリス型妖だ。
両腕を砲台化したリス妖はこちらを見つけ次第砲撃を仕掛けてくるはずだ。遮蔽物をうまく利用すれば有利に戦えるが、そのぶん建物が壊れていくので、話し合ってどういう方針でいくか決めておこう。
「それじゃあがんばって……あ、お土産よろしく!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の討伐
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
『遮蔽物を利用して戦う』『あえて広い場所に陣取る』
このうちどちらかを選択して行きましょう。
戦闘の序盤は遮蔽物を利用して、余裕が出たら広い場所に出るという作戦でも構いません。
遮蔽物を利用すればするほど建物が摩耗していくと考えてください。
●砲台リス
巨大なリス型妖です。
動物系ランク1。
数は10体。
両腕からクルミ状の砲弾を発射します。
当たるとそこそこ痛いので気をつけましょう。
あと日差しが強いので水分補給を忘れないようにしましょう。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年08月26日
2016年08月26日
■メイン参加者 6人■

●ガンショットサークル
大地に点線を刻むかのように弾丸が叩き込まれていく。
前屈みの姿勢で走る『迷い猫』柳 燐花(CL2000695)を追うように軌道を修正する弾痕のライン。
燐花は宙返りで崩れた塀を越え、ワンロールで膝立ち姿勢。壁に弾かれた弾がカラカラと小気味よい音を立てた。胡桃をそのまま鉛に変えたような弾丸が、火薬の香りと共に地面に散らばっていく。
燐花は小さく息をつくと、自らの身体能力をブーストした。
塀から飛び出すタイミングを待つ。空にフィルムケースが飛び上がり、マグネシウム発光を見せた瞬間が狙い目だ。
花火の如く散ったスパークが原型をとどめなくなった巨大なリス型妖へと降り注ぎ。体勢がわずかに崩れたその瞬間だ。
塀からクラウチングスタートで飛び出す。咄嗟に打ち込んだ胡桃弾が燐花の背後五十センチの地面を跳ねるや否や壁を蹴ってターン。軌道修正による弾が今度は燐花の頬脇二十センチを通過。
抜いたクナイをリス妖の額に突き刺しつつ駆け抜け、脱力した妖を盾にしてぐるりと反転。敵の射撃を防ぐ一回限りの壁にしてから飛び退いた。
塀に空いた僅かな穴からスライディングで潜り込み、壁に背をつけて停止。
「お疲れ様。今日はよく動くね」
フィルムケースにアルミホイル粉末を詰め込みながら笑う『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)。
くわえ煙草のままだが、まるで携帯灰皿のようにフィルムケースに混ぜ込んでいく。
先程投げたお手製グレネード……の半分までできたものだ。この先のレシピは危ない本でも読んで学んで欲しい。
開いた穴からねじ込まれた弾丸が跳ねていく。
さらなる射撃を警戒して、スタンド式の手鏡を穴のそばに置いた。
「カメラマンの端くれとしては歴史的建造物を傷付けたくはないんだけれど……こう敵が元気だとねえ」
「おじいさまは言いました。形あるものはいつか滅びる……」
サングラスの端から見る恭司。
表情を変えない燐花。
「ですが、なるべく被害を押さえて立ち回りましょうか。現地の方に泣かれると面倒そうですし」
「確かに、な」
すぐ横にやってきて壁に背をつける『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)。
燐花の表情がごくごく僅かに変化した。
「大の男に泣かれるのは面倒だ。守ってやることにするか。とはいえ……」
小さいペットボトルを取り出し、燐花に突き出す両慈。
「無理はするんじゃないぞ。お前は放っておくと無茶しそうだからな。人を頼れ」
「……」
ボトルを受け取り、少しばかり乱暴に飲む燐花の頭を撫でてやる。
そんな光景を、恭司は片眉を上げて見ていた。
「清風をかける。少しは避けやすくなるはずだ」
両慈は筆で呪様を描いた髪を取り出すと、擦ったマッチで燃やし始めた。
周囲の空気が変わり、燐花の身体が軽くなっていく。
燐花は大きく息を吸って、深く深くはき出した。
『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)は崩れた壁に身を隠しつつ、岩で作った鎧を身体のあちこちに装着していた。
横で敵の出方をうかがっていた『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)がぴくりと顎を上げる。
「この空気、男の誰かだな」
「天明か蘇我島のどっちかとは言えんのか」
「ただでさえ男女比の少ない今、わざわざ男の名を語りたくないんだ……」
前髪をふぁさあっとやる懐良に、義高は『もうそのまま強く生きろ』という視線だけを送った。
装着し終えた鎧の上から黄金色のエネルギーフィールドをコーティングし、どこからともなく取り出した斧を握り込んだ。
手をぐーぱーしてから振り返る。
「ま、俺は自前の防御壁があるから、こいつで暫く持ちこたえておく。お前はどうする」
「愚問。ピンク!」
懐良が指を鳴らすと。
「いえぃう☆」
どっから生えてきたんだって勢いで二人の間から飛び出す『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)。
「人様が楽しむためのリゾート地を襲うファッキン妖! 片っ端から首もぎ取ってみじん切りのすまし汁にしてやるわ! ってことでカネ君いつものやったげて!」
「ヘイ聞きたいか俺の――ううううううううお!?」
めちゃくちゃかっこいいポーズで立ち上がった途端懐良の鼻先を弾丸が掠っていった。
鼻を押さえてかがみ込む懐良。
「気合いでどうにかなる。しろ!」
「へい……ほう……?」
「きゃーかっこいー! 惚れないけど!」
数多はドガッと塀の上に飛び乗ると、両手を腰に当てて胸を張った。
「気合い、イコール、女子力、イコール……乙女心!」
数多からわき上がったエネルギーが上昇気流のように髪を浮かせていく。
「燃え上がれ乙女! 高二の夏は今しか無い! ほら燐花さんも!」
別の屋内に身を隠していた燐花をびしりと指さした。
思わず背筋を伸ばす燐花。
「命短し恋せよ乙女、よ! 当たるな弾丸!」
飛んできた弾丸を拳で殴り飛ばし、数多は真正面からリス妖へと突撃した。
それに驚いたのは懐良と義高である。
「あいつ、突っ込んでいったぞ!」
「仲間に信じて任せるというのも総帥としての器。と言うことで援護するぜ男!」
「せめて名前で呼べ!」
懐良は塀を回り込むようにダッシュ。
反対側に回り込んだ義高は物質透過でリス妖の背後に飛び出した。
気配に気づいて振り向き、乱射してくるリス妖。
しかし腕を掴んで上に向けて強制回避。もう一方の腕が腹に押しつけられたが、あえてそのまま押しつけてやった。
弾が腹の装甲で止まる。どころか弾詰まりを起こして腕が破裂したくらいだ。
その隙に膝蹴りを入れて転がす。
別の妖も義高を狙おうと仲間の倒れた瞬間を狙うが、しかし。
「たべごろ乙女パンチ!」
数多のパンチによって思い切り吹き飛んだ。
塀を跳び越える勢いで飛んだリス妖はバウンドして転がり、最終的には燐花のクナイを突き刺すと言う形で停止した。
「ナイス連携だ! いいぞ!」
懐良はサムズアップしながら茂みから出現。懐良と数多のどちらを狙うべきか迷うリス妖を後ろから駆け抜けスラッシュ。スピニングターンからのもう一撃。崩れ落ちるリス妖を前に、懐良は仲間に合図を送った。
「そろそろ広場へ出るぞ。大人を泣かすのもこれでおしまいだ!」
はじめは倍ほどいた妖も、数の有利さえ消してしまえばこちらのものだ。
「ここからは攻勢モードだ!」
義高はA強枠(アクティブ強化スキルフレーム)を蔵王・戒から灼熱化にチェンジ。
アーマーをパージしながら突撃していく。
反撃とばかりに乱射してくるリス妖だが義高にとっては好都合だ。飛来した弾を斧でもってはじき返す。七割以上身体にめり込んだがなんということはない。弾いた一発がリス妖の脳天に命中。僅かにのけぞった所に懐良が急接近。
刀で真っ二つに切り裂いてやると、周囲のリス妖が一斉に懐良へと狙いをつけた。
ニヤリと笑い、わざとらしく前髪をかき上げてみせる。
集中砲火だ。激しい連射が懐良を襲う――かと思いきや、その場から素早く跳躍したことにより弾丸の多くがフレンドリーファイア。混乱した所で妖を串刺しにし、蹴り飛ばして後ろの妖に叩き付けてやった。
懐良と背中合わせになって立つ義高。
「ふう……文化財を盾にするのは内心キツかったぜ。ようやく思い切り暴れられるな」
「そこ、危ないよ」
恭司がすぐ横を駆け抜けていく。
直後、リス妖による乱射がかがんだ彼らの頭上を通過していった。
建物から離れ、茂みへと飛び込んでいく恭司。
茂みといっても観光客が踏みならした道である。隠れるものはろくに無い。
恭司はポケットに手を突っ込むと、先程作っていたようなフィルムケースを複数取りだして肩越しの背後へと放り投げた。
フィルムケースは追いかけて来たリス妖たちの眼前で爆発。激しいスパークを起こしてリス妖たちを吹き飛ばした。
「よろしく」
「ふん……」
茂みに深く身を潜めていた両慈が儀式刀を地面に突き刺すや否や、地面に配置されていた高圧電流ワイヤーに通電。リス妖たちを一秒足らずで炭の塊に変えた。
「妖化していなければリスは割と嫌いでは無いのだがな……許せよ」
瞑目し、『もし死んでいたなら』と軽く祈る両慈だった。
あれだけいたリス妖も残るは一体。
雑草の生い茂る広場の真ん中で、燐花と数多は並んでいた。
対するはリス妖。両腕を砲台に変え、燐花めがけて乱射してきた。
燐花は一発目を側転回避。相手の円周軌道を高速で走り、続けて三発を空振りさせる。
その間に数多はあえての直線突撃。
ホップステップからの両膝ニードロップを叩き込んでリス妖を蹴り倒した。
仰向けに倒れたリス妖に跨がって、守護使役から刀を抜く。
「櫻火真陰流、酒々井数多、いつもより気合入れて首チョンパさせちゃいまーっす!」
両手で握った刀をおもむろに突き立てる。
まるでレバーのオンオフを切り替えるようにぐいぐいと左右に振ると、最後にがくんとオフ方向へと押しきった。むろん、生命のオフ方向である。
ブレーキをかけ、呼吸を整える燐花。
「先輩の熱さは、気持ちがいいものですね」
「ありがと、もっと褒めて☆」
ほっぺに手を当ててウィンクする数多。
「だって恋をしてるもの」
「恋……」
「女の子は、恋をすると熱くなるのよ」
「……」
燐花は胸に手を当てて、目を瞑り、ゆっくりと肩を落とした。
●アイランドサークル
第二砲台跡は爆破処理のされた元軍事施設である。
そうは言っても残っているのは煉瓦と土と空の色だけだ。七十年以上たった今となってはオシャレ廃墟以外の何物でも無い。
「いやんいやん、こんな茂みで二人っきりになったらにーさまったら……ぐへへへへダメよ私たち高校生なんだから!」
自分で自分をハグしてぐねぐねしている数多みたいな子が普通に居てもいい場所である。
「だめだ。いんらんピンクは話にならん」
南の島で女子と遊ぶチャンスだとばかりにやってきた懐良だったが、数多が完全に(脳内麻薬で)トリップしているのを見てこれは無理だなと悟った。
「そうなると燐花ちゃんが気になるんだが……どこ行ったんだあの子」
見回してみるが、どこにも居ない。
「クッ……本当なら今頃、妖を華麗に倒した俺を水着美女が取り囲んでワッショイワッショイしてる筈だってのによー! どーなってんだよー! ナビ子の土産に石ころでも持って帰るかなー!」
「いやんダメよにーさま太陽が見てるぅー!」
所変わって砲台跡の奥。
義高はふと顔を上げた。
「なんだ。亡者の声が聞こえたような……気のせいか」
LEDランプを掲げて歩くのは、水のしたたる砲台施設である。
といっても殆どの建物は爆破処理によって崩れ、天井がぽっかり空いている状態である。
建物というより壁の群れといった方が正しいだろう。
海側の通行路にはいい加減な柵が渡され、『砲台跡は風化が進んでいるの柵の内側に入らないでください』なんて看板が立っているほどだ。
ついさっきまでガンガン駆け回っていたのが気まずくなってくるほどの廃墟っぷりである。
良さといえば、近くにまるで建物がないから海が綺麗に見えることくらいだろうか。
「しっかし……なんだってこんな所に妖が大量発生してんだ。人の少ねえ所には出ねえんじゃねえのか?」
友ヶ島。それも沖ノ島と呼ばれる東側の島には多くの建造物がある。
今義高が見て回っている砲台跡は勿論のこと、旅館や海の家、併設された売店なんかも存在していて無人島という雰囲気はあまりない。
森は鳥獣保護区に指定されていて、今のように妖を倒す目的でも無い限り武器の持ち込みは禁止されている場所だ。
なんとなくノリで昆虫採集や食肉狩猟なんかをしてしまわないように、くれぐれも気をつけなくてはならない。
とはいえ、そんな場所だけに非現実的な感覚も沸いてくる。
「妖がこんだけ出るんだ。なんかよからぬことでも企んでねえだろうな……」
そう思って、風化して危険だという建物内へと立ち入ってみた。
すると。
「……ん、なんだ」
両慈がなんかリスに囲まれていた。
妖じゃない普通のリスである。
両手と肩にのっけてなんか仲良くやってたような空気が流れている。
義高は空をあおぎ、手で顔を覆い、そして深く息を吸った。
「邪魔したな」
苔むした廃墟というものはこの世にいくらでもあるが、友ヶ島の第二砲台跡の廃墟感は他を圧倒する風体をなしている。
恭司はそんな風景を写真に納めつつ、ゆっくりと歩いていた。
記憶というのは曖昧なものだ。昨日や一昨日のことですら誤ってすり込まれていることすらあるというのに、何十年も前のことなどどう残せるというのだろうか。
人類が一生懸命ピラミッドを積んでいた時代から絵や彫刻がもてはやされたのも、そう考えれば無理からぬことだろう。
そして現代、こうして写真が重宝されるのもまた、無理からぬことだ。
「ここ、一応観光地らしいんだけどねえ……知ってるかい? アメリカ人がこの廃墟をバックにピースサインで写真をとるんだよ」
振り返る。
そこには燐花が二人分のスポーツドリンクを持って立っていた。
「皆さんに配ってるんです。蘇我島さんも、いかがですか」
「ん、ありがとう。もらうよ」
燐花からボトルを受け取り、キャップを捻って開く。
「ここはね、元々外国艦隊の大阪湾侵入を防ぐために作られたんだ。要塞施設なんだよ」
「……今は、観光地なんですね」
「まあ、でも、第二次世界対戦の時点で主力が航空戦になっちゃったからね、砲台はその頃から用をなしてなかったみたいだよ」
廃墟と海を上手に画角に入れてシャッターをきる恭司。
「燐ちゃんもどう? 周辺探索」
「……そうですね」
恭司について歩き出す燐花。
波の音が、今になってようやく聞こえた気がした。
大地に点線を刻むかのように弾丸が叩き込まれていく。
前屈みの姿勢で走る『迷い猫』柳 燐花(CL2000695)を追うように軌道を修正する弾痕のライン。
燐花は宙返りで崩れた塀を越え、ワンロールで膝立ち姿勢。壁に弾かれた弾がカラカラと小気味よい音を立てた。胡桃をそのまま鉛に変えたような弾丸が、火薬の香りと共に地面に散らばっていく。
燐花は小さく息をつくと、自らの身体能力をブーストした。
塀から飛び出すタイミングを待つ。空にフィルムケースが飛び上がり、マグネシウム発光を見せた瞬間が狙い目だ。
花火の如く散ったスパークが原型をとどめなくなった巨大なリス型妖へと降り注ぎ。体勢がわずかに崩れたその瞬間だ。
塀からクラウチングスタートで飛び出す。咄嗟に打ち込んだ胡桃弾が燐花の背後五十センチの地面を跳ねるや否や壁を蹴ってターン。軌道修正による弾が今度は燐花の頬脇二十センチを通過。
抜いたクナイをリス妖の額に突き刺しつつ駆け抜け、脱力した妖を盾にしてぐるりと反転。敵の射撃を防ぐ一回限りの壁にしてから飛び退いた。
塀に空いた僅かな穴からスライディングで潜り込み、壁に背をつけて停止。
「お疲れ様。今日はよく動くね」
フィルムケースにアルミホイル粉末を詰め込みながら笑う『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)。
くわえ煙草のままだが、まるで携帯灰皿のようにフィルムケースに混ぜ込んでいく。
先程投げたお手製グレネード……の半分までできたものだ。この先のレシピは危ない本でも読んで学んで欲しい。
開いた穴からねじ込まれた弾丸が跳ねていく。
さらなる射撃を警戒して、スタンド式の手鏡を穴のそばに置いた。
「カメラマンの端くれとしては歴史的建造物を傷付けたくはないんだけれど……こう敵が元気だとねえ」
「おじいさまは言いました。形あるものはいつか滅びる……」
サングラスの端から見る恭司。
表情を変えない燐花。
「ですが、なるべく被害を押さえて立ち回りましょうか。現地の方に泣かれると面倒そうですし」
「確かに、な」
すぐ横にやってきて壁に背をつける『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)。
燐花の表情がごくごく僅かに変化した。
「大の男に泣かれるのは面倒だ。守ってやることにするか。とはいえ……」
小さいペットボトルを取り出し、燐花に突き出す両慈。
「無理はするんじゃないぞ。お前は放っておくと無茶しそうだからな。人を頼れ」
「……」
ボトルを受け取り、少しばかり乱暴に飲む燐花の頭を撫でてやる。
そんな光景を、恭司は片眉を上げて見ていた。
「清風をかける。少しは避けやすくなるはずだ」
両慈は筆で呪様を描いた髪を取り出すと、擦ったマッチで燃やし始めた。
周囲の空気が変わり、燐花の身体が軽くなっていく。
燐花は大きく息を吸って、深く深くはき出した。
『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)は崩れた壁に身を隠しつつ、岩で作った鎧を身体のあちこちに装着していた。
横で敵の出方をうかがっていた『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)がぴくりと顎を上げる。
「この空気、男の誰かだな」
「天明か蘇我島のどっちかとは言えんのか」
「ただでさえ男女比の少ない今、わざわざ男の名を語りたくないんだ……」
前髪をふぁさあっとやる懐良に、義高は『もうそのまま強く生きろ』という視線だけを送った。
装着し終えた鎧の上から黄金色のエネルギーフィールドをコーティングし、どこからともなく取り出した斧を握り込んだ。
手をぐーぱーしてから振り返る。
「ま、俺は自前の防御壁があるから、こいつで暫く持ちこたえておく。お前はどうする」
「愚問。ピンク!」
懐良が指を鳴らすと。
「いえぃう☆」
どっから生えてきたんだって勢いで二人の間から飛び出す『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)。
「人様が楽しむためのリゾート地を襲うファッキン妖! 片っ端から首もぎ取ってみじん切りのすまし汁にしてやるわ! ってことでカネ君いつものやったげて!」
「ヘイ聞きたいか俺の――ううううううううお!?」
めちゃくちゃかっこいいポーズで立ち上がった途端懐良の鼻先を弾丸が掠っていった。
鼻を押さえてかがみ込む懐良。
「気合いでどうにかなる。しろ!」
「へい……ほう……?」
「きゃーかっこいー! 惚れないけど!」
数多はドガッと塀の上に飛び乗ると、両手を腰に当てて胸を張った。
「気合い、イコール、女子力、イコール……乙女心!」
数多からわき上がったエネルギーが上昇気流のように髪を浮かせていく。
「燃え上がれ乙女! 高二の夏は今しか無い! ほら燐花さんも!」
別の屋内に身を隠していた燐花をびしりと指さした。
思わず背筋を伸ばす燐花。
「命短し恋せよ乙女、よ! 当たるな弾丸!」
飛んできた弾丸を拳で殴り飛ばし、数多は真正面からリス妖へと突撃した。
それに驚いたのは懐良と義高である。
「あいつ、突っ込んでいったぞ!」
「仲間に信じて任せるというのも総帥としての器。と言うことで援護するぜ男!」
「せめて名前で呼べ!」
懐良は塀を回り込むようにダッシュ。
反対側に回り込んだ義高は物質透過でリス妖の背後に飛び出した。
気配に気づいて振り向き、乱射してくるリス妖。
しかし腕を掴んで上に向けて強制回避。もう一方の腕が腹に押しつけられたが、あえてそのまま押しつけてやった。
弾が腹の装甲で止まる。どころか弾詰まりを起こして腕が破裂したくらいだ。
その隙に膝蹴りを入れて転がす。
別の妖も義高を狙おうと仲間の倒れた瞬間を狙うが、しかし。
「たべごろ乙女パンチ!」
数多のパンチによって思い切り吹き飛んだ。
塀を跳び越える勢いで飛んだリス妖はバウンドして転がり、最終的には燐花のクナイを突き刺すと言う形で停止した。
「ナイス連携だ! いいぞ!」
懐良はサムズアップしながら茂みから出現。懐良と数多のどちらを狙うべきか迷うリス妖を後ろから駆け抜けスラッシュ。スピニングターンからのもう一撃。崩れ落ちるリス妖を前に、懐良は仲間に合図を送った。
「そろそろ広場へ出るぞ。大人を泣かすのもこれでおしまいだ!」
はじめは倍ほどいた妖も、数の有利さえ消してしまえばこちらのものだ。
「ここからは攻勢モードだ!」
義高はA強枠(アクティブ強化スキルフレーム)を蔵王・戒から灼熱化にチェンジ。
アーマーをパージしながら突撃していく。
反撃とばかりに乱射してくるリス妖だが義高にとっては好都合だ。飛来した弾を斧でもってはじき返す。七割以上身体にめり込んだがなんということはない。弾いた一発がリス妖の脳天に命中。僅かにのけぞった所に懐良が急接近。
刀で真っ二つに切り裂いてやると、周囲のリス妖が一斉に懐良へと狙いをつけた。
ニヤリと笑い、わざとらしく前髪をかき上げてみせる。
集中砲火だ。激しい連射が懐良を襲う――かと思いきや、その場から素早く跳躍したことにより弾丸の多くがフレンドリーファイア。混乱した所で妖を串刺しにし、蹴り飛ばして後ろの妖に叩き付けてやった。
懐良と背中合わせになって立つ義高。
「ふう……文化財を盾にするのは内心キツかったぜ。ようやく思い切り暴れられるな」
「そこ、危ないよ」
恭司がすぐ横を駆け抜けていく。
直後、リス妖による乱射がかがんだ彼らの頭上を通過していった。
建物から離れ、茂みへと飛び込んでいく恭司。
茂みといっても観光客が踏みならした道である。隠れるものはろくに無い。
恭司はポケットに手を突っ込むと、先程作っていたようなフィルムケースを複数取りだして肩越しの背後へと放り投げた。
フィルムケースは追いかけて来たリス妖たちの眼前で爆発。激しいスパークを起こしてリス妖たちを吹き飛ばした。
「よろしく」
「ふん……」
茂みに深く身を潜めていた両慈が儀式刀を地面に突き刺すや否や、地面に配置されていた高圧電流ワイヤーに通電。リス妖たちを一秒足らずで炭の塊に変えた。
「妖化していなければリスは割と嫌いでは無いのだがな……許せよ」
瞑目し、『もし死んでいたなら』と軽く祈る両慈だった。
あれだけいたリス妖も残るは一体。
雑草の生い茂る広場の真ん中で、燐花と数多は並んでいた。
対するはリス妖。両腕を砲台に変え、燐花めがけて乱射してきた。
燐花は一発目を側転回避。相手の円周軌道を高速で走り、続けて三発を空振りさせる。
その間に数多はあえての直線突撃。
ホップステップからの両膝ニードロップを叩き込んでリス妖を蹴り倒した。
仰向けに倒れたリス妖に跨がって、守護使役から刀を抜く。
「櫻火真陰流、酒々井数多、いつもより気合入れて首チョンパさせちゃいまーっす!」
両手で握った刀をおもむろに突き立てる。
まるでレバーのオンオフを切り替えるようにぐいぐいと左右に振ると、最後にがくんとオフ方向へと押しきった。むろん、生命のオフ方向である。
ブレーキをかけ、呼吸を整える燐花。
「先輩の熱さは、気持ちがいいものですね」
「ありがと、もっと褒めて☆」
ほっぺに手を当ててウィンクする数多。
「だって恋をしてるもの」
「恋……」
「女の子は、恋をすると熱くなるのよ」
「……」
燐花は胸に手を当てて、目を瞑り、ゆっくりと肩を落とした。
●アイランドサークル
第二砲台跡は爆破処理のされた元軍事施設である。
そうは言っても残っているのは煉瓦と土と空の色だけだ。七十年以上たった今となってはオシャレ廃墟以外の何物でも無い。
「いやんいやん、こんな茂みで二人っきりになったらにーさまったら……ぐへへへへダメよ私たち高校生なんだから!」
自分で自分をハグしてぐねぐねしている数多みたいな子が普通に居てもいい場所である。
「だめだ。いんらんピンクは話にならん」
南の島で女子と遊ぶチャンスだとばかりにやってきた懐良だったが、数多が完全に(脳内麻薬で)トリップしているのを見てこれは無理だなと悟った。
「そうなると燐花ちゃんが気になるんだが……どこ行ったんだあの子」
見回してみるが、どこにも居ない。
「クッ……本当なら今頃、妖を華麗に倒した俺を水着美女が取り囲んでワッショイワッショイしてる筈だってのによー! どーなってんだよー! ナビ子の土産に石ころでも持って帰るかなー!」
「いやんダメよにーさま太陽が見てるぅー!」
所変わって砲台跡の奥。
義高はふと顔を上げた。
「なんだ。亡者の声が聞こえたような……気のせいか」
LEDランプを掲げて歩くのは、水のしたたる砲台施設である。
といっても殆どの建物は爆破処理によって崩れ、天井がぽっかり空いている状態である。
建物というより壁の群れといった方が正しいだろう。
海側の通行路にはいい加減な柵が渡され、『砲台跡は風化が進んでいるの柵の内側に入らないでください』なんて看板が立っているほどだ。
ついさっきまでガンガン駆け回っていたのが気まずくなってくるほどの廃墟っぷりである。
良さといえば、近くにまるで建物がないから海が綺麗に見えることくらいだろうか。
「しっかし……なんだってこんな所に妖が大量発生してんだ。人の少ねえ所には出ねえんじゃねえのか?」
友ヶ島。それも沖ノ島と呼ばれる東側の島には多くの建造物がある。
今義高が見て回っている砲台跡は勿論のこと、旅館や海の家、併設された売店なんかも存在していて無人島という雰囲気はあまりない。
森は鳥獣保護区に指定されていて、今のように妖を倒す目的でも無い限り武器の持ち込みは禁止されている場所だ。
なんとなくノリで昆虫採集や食肉狩猟なんかをしてしまわないように、くれぐれも気をつけなくてはならない。
とはいえ、そんな場所だけに非現実的な感覚も沸いてくる。
「妖がこんだけ出るんだ。なんかよからぬことでも企んでねえだろうな……」
そう思って、風化して危険だという建物内へと立ち入ってみた。
すると。
「……ん、なんだ」
両慈がなんかリスに囲まれていた。
妖じゃない普通のリスである。
両手と肩にのっけてなんか仲良くやってたような空気が流れている。
義高は空をあおぎ、手で顔を覆い、そして深く息を吸った。
「邪魔したな」
苔むした廃墟というものはこの世にいくらでもあるが、友ヶ島の第二砲台跡の廃墟感は他を圧倒する風体をなしている。
恭司はそんな風景を写真に納めつつ、ゆっくりと歩いていた。
記憶というのは曖昧なものだ。昨日や一昨日のことですら誤ってすり込まれていることすらあるというのに、何十年も前のことなどどう残せるというのだろうか。
人類が一生懸命ピラミッドを積んでいた時代から絵や彫刻がもてはやされたのも、そう考えれば無理からぬことだろう。
そして現代、こうして写真が重宝されるのもまた、無理からぬことだ。
「ここ、一応観光地らしいんだけどねえ……知ってるかい? アメリカ人がこの廃墟をバックにピースサインで写真をとるんだよ」
振り返る。
そこには燐花が二人分のスポーツドリンクを持って立っていた。
「皆さんに配ってるんです。蘇我島さんも、いかがですか」
「ん、ありがとう。もらうよ」
燐花からボトルを受け取り、キャップを捻って開く。
「ここはね、元々外国艦隊の大阪湾侵入を防ぐために作られたんだ。要塞施設なんだよ」
「……今は、観光地なんですね」
「まあ、でも、第二次世界対戦の時点で主力が航空戦になっちゃったからね、砲台はその頃から用をなしてなかったみたいだよ」
廃墟と海を上手に画角に入れてシャッターをきる恭司。
「燐ちゃんもどう? 周辺探索」
「……そうですね」
恭司について歩き出す燐花。
波の音が、今になってようやく聞こえた気がした。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
