オレ様の流儀
【鬼と人】オレ様の流儀



 弱い奴ほど群を成すってぇのは正にこの事だ。 
 小さくて弱い奴らほど、大きな群を作って安心した気になりやがる。
 力を合わせるとか言えば聞こえは良いが、用は自分の力が足りねぇ分、他人の力をあてにしようって魂胆だ。

 オレ様は違う。
 そんなクソだせぇ連中とは違う!
 数ばかり多い、一山いくらの連中とつるむなんざ願い下げだ。

 なにせ、オレ様は、強いんだから!


 FiVEの一室。
 前回からさほど間をおかずに現れたその鬼の母親は、あいも変わらず足を組み、ふてぶてしい態度で覚者へと説明を続ける。
「って訳でさ。 ヒネちまった若い奴を拳で説得してやって欲しいのさ」
 鬼の母親の話を要約すれば、なんてことはない、気合の入った若いヤンキー鬼を懲らしめて欲しいとの事だ。
 鬼と人との最近の関係は鬼にとっても概ね望まれた関係ではあるものの、やはり極少数こういった者が出てきてしまう。
「アタシが拳骨をくれてやるのは簡単だけどさ、それじゃアイツはアンタ達を認めない。 でもアンタ達の実力を見せつつ懲らしめればアイツも認めざるをえないだろ?」
 やや強引な気がしなくも無いが、筋が通る気がしないでもない。
 彼には彼の流儀があるのなら、その流儀に従い実力で説得する。
「毎度毎度悪いんだけどさ。 人と鬼の関係の為さね、乗りかかった船だと思って頼まれてくんないかい?」
 端から断られるとは思っていないような口調だが、その目は覚者を試すでも嵌めるでもなく、仲間として頼る光が感じられる。
 鬼と人との関係改善の為。
 それに、古妖「鬼」の力を見る良い機会にもなるかもしれない。
 覚者達は各々の思いを胸に、首を立てに振るうのだった。


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:普通
担当ST:のもの
■成功条件
1.古妖「鬼」の若者達を倒す。
2.なし
3.なし
どうもです、STののものです!
今回は古妖「鬼」との決闘! 
…というと深刻そうに聞こえるかも知れませんが、つまる所は鬼を倒して実力を認めさせる依頼となります。


鬼の母親は拳で説得と言っていますが、もちろん武器の使用も大丈夫です。
鬼の若者はそれなりにタフなので、全力で戦ってもOKです。
言葉での説得も無意味ではありませんが、実力を認めない限り心を開きはしないと思われます。


★敵データ
 OPで語られた気合の入った鬼の若者。
 二人の舎弟を連れています。
 鬼の若者の強さは平均的な覚者2~3人分程度、ボスの鬼は舎弟より一回り強いです。

・ボス鬼
 髪型は気合の入ったツーブロックで、「鬼」の文字の入った鬼衣(パンツ)を着用。
 体表の色は赤。
 大きな棍棒を片手で振り回せる怪力の持ち主です。
 傲慢で意地っ張りではありますが、根は悪い奴ではなく人情に厚い奴です。
 ・ぶん回し………棍棒を頭上で振り回し、その勢いのまま前衛を薙ぎ払う。 近接列にダメージ。
 ・怒号………気合の入った怒声が衝撃とする技。 2段貫通(前衛中衛)[貫:100%,80%]
 ・鬼神撃……鬼の力を棍棒に込めて豪快に振り下ろす鬼伝統の技。 溜め:1ターンからの高威力の近距離単体攻撃。

・舎弟の鬼
 ボスの鬼を兄貴と慕う鬼。
 体表の色は青で、2匹間に戦闘力での差は無い。
 武具はボスと同じく棍棒と鬼衣。
 ボスと比べ特に気力は大きく劣り、ぶん回しは各自2回程度しか使えない様子。
 ・叩きつけ……棍棒を振り下ろす近接単体攻撃。
 ・ぶん回し………棍棒を頭上で振り回し、その勢いのまま前衛を薙ぎ払う。 近接列にダメージ。

★場所データ
 鬼の依頼で以前も訪れた辺りの山中の野原を根城としてるようです。
 訪れれば気配を察し出てくるでしょう。
 明るく、足場も安定し、戦うには十分なスペースがあります。
 迷い人等、他者が立ち入ってしまう等の危険もありません。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(4モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年08月26日

■メイン参加者 8人■

『花守人』
三島 柾(CL2001148)
『天使の卵』
栗落花 渚(CL2001360)
『希望を照らす灯』
七海 灯(CL2000579)
『淡雪の歌姫』
鈴駆・ありす(CL2001269)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『研究所職員』
紅崎・誡女(CL2000750)
『獣の一矢』
鳴神 零(CL2000669)
『愛求独眼鬼/パンツハンター』
瀬織津・鈴鹿(CL2001285)


「おうおうおう。 ぞろぞろ連れ立って俺のシマに何の用だぁ?」
 風の抜ける穏やかな平原にいかつい鬼の声が響く。
 だるそうに首を斜めにしながら棍棒で肩を叩くそいつは、客が人だと知ると眉間に皺をよせた。
「群れてやがると思ったらどうりでなぁ。 あのババアの知り合いって奴等か?」
 威圧的な鬼の声。
 しかしそれに動じず、対照的に礼儀正しく返すのは『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)だ。
「ええ、あなたの驕りと思い上がりが人と鬼の関係を壊さないように」
 静かな中に強い意思と怒りを込めたその言葉は、鬼の強い自信に小さな波風を立てる。
「そういう真っ直ぐさって、私、嫌いじゃないよ。だけど、勘違いしてるところがあるって気付いて欲しいな」
 続く『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)の言葉は諭すような純粋な視線を添えての物だ。
 年端もいかぬ少女に優しく説得をされる。
 こんな状況を招いている自身への情けなさがむくむくと怒りとなり膨れだす。
「へぇ。 オレ様の何処が間違ってるって? 教えて貰いたいもんだなぁ!」
 バシっと胸の前で拳を組み怒りの矛先を覚者達へと向ける鬼。
 なんにせよ、言葉での説得を受容れるほど素直ではないようだ。
「威勢のいい奴は嫌いじゃない。 ぶつかりあわないと解らない事も多いしな」
「趣味じゃないけど力尽くで捩じ伏せてあげるわ」
 炎が静かに燃え広がるように、落ち着いた風貌の『花守人』三島 柾(CL2001148)が両の腕にナックルを付けつつ臨戦態勢にはいると、続く『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)も第三の目を開眼させる。
「おもしれぇじゃねぇか。 マサ! ヤス! 手加減はいらねぇぞ!」
「任せてくだせぇ、カズマの兄貴!」
 舎弟の鬼に指示を出し、自身も巨大な棍棒を構えるカズマと呼ばれたリーダー格の鬼。
 
 郷に入れば郷に従う。
 彼らの流儀に従う事こそが、彼らを説得する唯一の方法なのだ。



「さて、自身の力が弱いと認められる強さもあると示してみましょうか」
 互いがその熱を激突させようかというその前に、擦れた声で呟いた『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)がクナイを持った手を胸元へ当てる。
 すると、ふわりと漂うように発生した霧は徐々に質量を帯び、鬼達へと纏わりつく。
「ちっ! こんな霧程度で俺達を止められると思ってやがるのか?」
 舎弟の一人、マサと呼ばれた鬼が面倒くさそうに霧を払いつつも構わず歩を進め棍棒に力を込めようとすると、素早くその腕へと鞭が絡み付く。
「勿論思っては居ません、ですが力を重ねればどうでしょう」
 力を奪う霧に、腕に絡み付く鞭。
 単純な力では鬼には敵わないと認めているからこその、文字通りの絡め手だ。
 そして、重ねられる手はこれだけでは無い。
 鬼の動きを封じたのは、仲間を生かす為なのだから。
「紅崎さんそのまま、一気に巻き込みます!」
 その隙を付き、天駆の力で風の如く鬼へとの間合いを詰めた『希望峰』七海 灯(CL2000579)が黒刃の鎖鎌をしならせ分銅と共にすくい上げる。
 狙いは最前列、舎弟の二人組みだ。
 マサとヤス、二人の正面の灯から放たれたにも拘らず鎖鎌は大きく弧を描き、二人の外から打ち据え切り刻む。
 腕を封じられたマサは成す術も無く、両腕の自由なサブですら棍棒で鎖を払うもその斬撃を防ぎきる事は出来ない。
 柳の葉を相手にして居るかのような捕え所の無い鎖鎌による攻撃。
 単純な力のみでは無い、卓越した技術と仲間の作り出した好機を最大限生かす素早さ。
 支える者と生かす者の連携は、力に勝る鬼達を圧倒する。
「力を合わせるって言うのも中々のもんだろ? だが…」
 鎖鎌と鞭に翻弄されていた鬼達へと向けられた声は、灯を飛び越えるように跳ねた柾から。
 両腕に気を纏わせたまま二人の鬼に狙いをつける。
「個々の力も認めて貰わないとな」
 言葉と同時に両腕に溜め込んだ力が、気弾の雨となり鬼達へと降り注ぐ。
 全力の拳が、鬼に、地面にと打ち込まれ轟音と共に土を舞い上げるその様は、荒々しくも力強い、彼らも認めざるを得ない純粋な「力」。
 防ぐ腕を軋ませ、鈍い痛みを感じながらもなお、重ね上げられる強さに鬼達の顔は自然に笑みを浮かべるのだった。


「ちぃ! マサ、ヤス、大丈夫か?」
 苛立ちを滲ませながら声をかける鬼たちのリーダー、カズマ。
 舎弟達に声をかける事は出来ても自らが駆けつける事の出来ない理由は…。
「余所見する余裕があるの? 貴方の相手は私よ」
 言うが早いが、大太刀を腰にぶら下げた『裏切者』鳴神 零(CL2000669)が舎弟を気にしたカズマの顎を拳でかち上げる。
 太刀を抜かず、あくまで拳での攻撃に徹する零。
 舐めるなとばかりにカズマもその豪腕を振り回すも、頭に血が上り寸での所で舞うようにかわされる。
「安心してよ。こっちの方が私の本気だからネ」
 拳を解き、手をプラプラとさせながらもいつ攻撃が来ても対応できるように集中だけは切らさない。
 戦いの経験では零が上でも相手は人よりも遥かに力の強い、鬼なのだから。
「クソうぜぇ! ちょこまか逃げ回りやがって…!」
 カズマの棍棒が怒りと共に薙ぎ払われ、紙一重でかわす零の前髪を弾く程の至近距離を通り過ぎる。
 その風圧で周りの木々でも倒そうかという馬鹿げた棍棒の威力に零が見せた、隙というには小さい僅かな体の強張りをカズマは見逃さない。
「棍棒は避けられてもこいつは……」
 カズマは息を大きく吸い込むと口を開き、怒号を放つ!

 オオオォォォォォォ!

 音というのが生温い程の雄たけびの衝撃が零に襲い掛かる。
 鬼の巨体を考えても、なお体に見合わぬほどの咆哮。
 架空の世界に生きる龍の咆哮のような衝撃に、零は弾き飛ばされ木へと打ちつけられる。
「どうよ、オレ様の………」
 一撃必殺の怒号砲を正面から喰らった零へ、勝ち誇った高説を垂れようとしたカズマの口が止まる。
「回復は任せて!」
 巨大な注射器を持った渚が自らの生命力を光の鳥に変え、零の傷を癒してゆく。
 立ち上がれる訳が無い。 それ程のダメージを与えた筈だ。
 そんなカズマの自身を砕くかのように、零はゆっくりと立ち上がる。
「でも、今のは危なかったよ。 無理はしないでね」
 渚の言葉に頷き、カズマへ向き直る零。
 棍棒の直撃を貰い気を失う事さえなければ、渚が傷を癒してくれる。
 死を招くような無謀とも言える足止めの為の特攻。
 渚は、死地に赴く仲間と共に前に出たい思いを押し止め、巨大な注射器に癒しの力を込める。
 自分の癒しの力、それと仲間はそう簡単に直撃を貰う訳が無いという信頼感。
 それが無ければとても仲間を送り出す事は出来ないだろう。
 自分の最大の武器は癒しの力。
 そして仲間はそれを信頼している。
 ならば自分がすべきは…。
 旋風の如き棍棒がかすめ血が滲む零を前にぎゅっと唇の端をかみ締め、渚は癒しの鳥を放つのだった。


 一方、劣勢を強いられるマサとヤス。
 何とか状況を打開しようと息み前へ出ようとするヤスの前に『愛求独眼鬼/パンツ脱がしの幼鬼』瀬織津・鈴鹿(CL2001285)が立ち塞がる。
「お父さんとお母さんから聞いた事あるの。 鬼との戦いはメンチの切り合いだって」
 そうは言われても、こんな幼い少女とメンチで鬼が怯むわけが無い。
 とはいえ、ここで引く訳にもいかないヤスは眉を歪め眉間の皺を更に濃くし、特上のメンチを鈴鹿へ向ける。
「あ゛ぁん? 嬢ちゃんナメてんじゃ……」
 ヤスは、言葉半ばで詰まり息を呑む。
 鈴鹿の前髪がふわりと揺れたその奥で第三の目がギロリとメンチを切り、更にはほのかに光っていたのだ。
「私が勝ったらお兄さん達のパンツをもらうの…。 ただの趣味だから気にしないで」
 無邪気な中に怪しさを匂わせる鈴鹿の、有無を言わさない迫力。
 もはや力がどうという話では無い身の危険の気配に思わずたじろぎ後ずさるヤス。
 ヤスの逃亡を察したかのように、クワっと見開かれた鈴鹿の第三の目からポーヒーというアニメチックな効果音と共に怪光線が放たれる。
 慌てて避けるヤスを躍らせるように足元へと刺さる怪光線。
 勝負はメンチの切り合い。 気持ちで負けた方が負けるのだとしたら、もはやヤスは勝負に負けたといっても過言では無いのかもしれない。
「…なに遊んでるの」
 バタバタと慌てるヤスがその冷えた言葉の方へ目線を向けると、そこには燃え盛る炎を掌に乗せたありすがジトっとした目つきで睨んでいた。
 拳程の大きさの炎は荒ぶる力を押し込められるように渦を巻き、驚異的な熱量を誇っている事を容易に予想できる。
「ま…待ってく……」
 棍棒を手放し両手を前に出すヤスに、ありすは変わらぬ目つきで言葉をかけた。
「アタシ達は鬼のお母さんに言われてアンタ達を懲らしめに来てるの」
 まるで死刑宣告でも受けたかのように脅えるヤス。
 そんなヤスに、ありすはゆっくりと掌を向ける。
「アフロにしてあげる」
 静かな言葉と共に放たれる業火の砲弾。
 辺りを眩しく照らし木々が振るえる程の衝撃がおさまると、そこには見事にチリチリの毛髪になったヤスが目を回し転がっているのだった。


「おぉぉぉぉ!」
 気合と共に振るわれるマサの棍棒が空を切る。
 身を捻りる奔放な灯を捕える事ができないマサは、歯を食いしばり次の攻撃の為の力を込める。
 薄々とは解っている。
 灯の身のこなしは確かに脅威だが、それだけで全てを回避されている訳では無い。
 赤毛の女が、挙動からこちらの意図を察し仲間へと伝えている。
 奥の手である棍棒の薙ぎ払いも、苦戦し少し下がる様も、全てが予測されていた。
 こちらの動きを妨害するかのように穿たれる銀髪の少女の氷の槍も厄介だ。
 細腕で鬼にも負けぬ程の拳を打ち込んでくる男に、風のように素早くトリッキーな技を使う青髪の少女。
 皆が最強の力を持っている訳では無い。
 それでも、各々の力が噛み合い機能した彼女たちの力は最強の4人を組ませるよりも強いだろう。
 負けたら説得の言葉を一応聞いてやるが、納得するかは別だ。
 そう思っていた。
 だが、説得を前に実感をした。
 これが、奴等の言う「協力する」という力だと。
「今です!」
 誡女の鞭が棍棒へと絡むと同時に、乾いた声が仲間へと響くと、間髪入れずに灯が空中で身を捻りつつ鎖鎌を躍らせる。
 遠心力をつけた分銅をマサの頭上へと振り下ろすと、回転しもう1方の腕から同じ軌道で鎌を放つ。
 分銅と鎌をなんとか腕で凌いだ目の前に着地した灯は、しなる鎖に引かれた鎌を逆手で捕え下からすくい上げる。
 キィンと澄んだ音をたて、宙を舞うマサの棍棒。
 余りの事に動けないマサに結鹿が水晶のように輝く剣の切っ先を向けると、輝きが集束し氷の槍となり襲い掛かる。
 認めたくは無い自らの敗北を意識したマサの前へと詰めたのは、柾だ。
 拳に力を集約し、右の拳をマサの額へと振りぬく。
 鬼の巨体ですら弾き飛ばす強烈な衝撃に、失う寸前の意識の中、マサは思った。

 自らの認める強さに負けるのなら悪くは無い。


「クソ! しぶてぇな…」
 赤い体を怒りで更に赤く染めるカズマは、あと一息という所まで追い込みながらも零を仕留めきれずにいた。
 状況がこちらに傾けば一気にそのまま押し込む。
 それだけの力の差はあった筈だ。
 だが、致命傷を避けながらも多少の負傷に怯まない零は揺るがない。
 意識が断たれる一寸手前の状況でも光を逸らさずカズマへと向ける。
 仲間は、優秀な癒し手だ。
 視線を逸らし呼びかけずとも。
「大丈夫、絶対守るから!」
 そんな零の思いの通り、渚が幾度目かの光の鳥を羽ばたかせ零の傷を癒してゆく。

 連中は弱さを埋める為に群れる情けない奴等だった筈だ。
 それがこの気迫はなんなんだ。
 オレ様はこの二人を追い込んでいるはずなのに…。

「おめぇら、なんでそこまで気張りやがるんだ。 倒れちまった方が楽だって解らねぇのか?」
 気圧されたカズマが、不安を吐き出すように口を開く。
「限界という形で自分に負ける事は許されない。 仲間に申し訳ないもの」
 仲間とは、絆と信頼で繋がる物。
 そう付け加えた零の言葉に、渚は頷き注射器を持つ手に力を込める。

「だったらその信念ごとへし折ってやるよ!」
 不安を振り払うような大声と共に、カズマは棍棒へと鬼の力を集める。
 周りの空気が歪むほどのすさまじい力が棍棒を中心に渦を巻く。
「こいつで全部終わりに……」
 その棍棒を構えようとしたカズマの横腹に、赤い何かが打ち付けられ肌を焦がす。
「遅くなってごめん。 でも、あとはそいつだけよ」
 真紅の髪の少女、ありすの火炎の術だ。
 それだけでは無い、他の覚者も舎弟たちとの戦いを終えカズマとの戦闘に駆けつける。
 
 信じたくは無いが舎弟達もこの人間達に敗れたのだろう。
 こうなってはもはや、勝ちは絶望的だ。
 だが…。
「一度始めたケンカだ。 とことんやってやるぜ!」
 振り上げた拳は、そう簡単には止められない。
 力の渦巻く棍棒を掲げ、零へと振り下ろすべく走るカズマ。
「あの技……!」
 誡女のあげた声に3人の覚者が反応する。
 覚者達には無い、未知の技。
 その中で鬼神撃に当たりをつけていた鈴鹿がいち早く反応し、零の前に躍り出る。
「私が相手なの」
 毒衣の力に身を包み、二刀を額の前で交差し守りの構えをとる鈴鹿。
 負傷した仲間を庇い、あわよくばその技術を得る。
 しかし、対する鬼の力を得た棍棒は、鈴鹿が全ての力を防御に費やしてもなお押し切ることが出来そうな力を備えている。
「オレ様の力を……思い知れ!」
 カズマの意地を込めた棍棒が鈴鹿の愛刀へと振り下ろされる。
 技を盗む事を諦め、全精力を腕の力へ費やす鈴鹿。
 
 力の差は歴然。
 棍棒は二刀の守りを打ち破り、鈴鹿を地面へと叩き伏せる。
 そう、なるはずだった。

「貴方は確かに強いです。 ですが、ただ強いだけでは勝てません」
「俺達は皆で戦ってるからな。 一人では無理でも、三人でなら止められる」
 いつの間に腕へと巻きつけられた灯の分銅。
 それと、鈴鹿の背後から腕をクロスし棍棒の力を受けた柾。
 二人の力が鈴鹿の力合わさり、地をえぐるほどの一撃を止めたのだ。
 未だかつて止められた事のない、正真正銘一撃必殺の力を備えた棍棒が、地に触れることもなく空に静止している事に呆然とするカズマ。
「これが、私『達』の、全力、っだあああああああああああ!」
 もはや立っている事すら用意では無い零の魂の力を込めた拳がカズマの顔面へと放たれる。
 辺りに響く程の衝撃と共に自身の信じた強さとは別の力に打ちのめされ、カズマは倒れ伏すのだった。


「わかりましたか? 力だけでは敵わないこともあるんです」
 口をへの字に曲げてそっぽを向くカズマに、結鹿が説得とも説教ともとれる話を続ける。
 力を合わせるという事、仲間と協力するという事、それに覚者達の力と心の強さ。
 それは先の戦いで十分解った。
 ただ、それを「はいそうです」と受容れられるほどカズマも丸くは無い。
「アンタ達は、まぁなんだ。 骨のある奴だって事は認めてやる」
 見栄と本心の天秤は揺れつつも、出来る範囲でのギリギリの譲歩なのだろう。
「こっちこそ。 噂に名高い鬼の力、見せてもらったわ」
 そんなカズマに、ありすが小さく笑顔を向けながら言葉を返す。
 他人の強さを認められるのも一つの強さといえる。
 弱い者ほど意地を張り、他人の強さを受容れられないのだ。
 参ったとばかりにカズマが大きなため息を吐く。
「…あの鬼ババアたちの言う、人との共存ってのも案外悪くねぇかもな」
 ため息と供に見栄を吐き出したかのようなカズマの偽りの無い本心。
 長所を生かし、短所を補う。
 その輪の中に入り、助け、助けられるのも悪くないと、心の底から思う事が出来た。
 そして、舎弟達も自分と同じ経験をしたのだ。
 気づかないような奴等では無い。

「おい、お前ら。 お前らもいいな!」
 カズマがヤスとマサへと声をかけるが、それに答えは返って来ない。
 かわりに聞こえてきたのは…。
「スズカの姉御、マジで勘弁してくださいよ!」
「姉さん、ぼんたん狩りなんてマジよくないっすよぉ!」
 カズマと覚者達が声の方へ振り向けば、そこにはうずくまり股間を隠すサブとマサ。
 それに、二人のパンツを剥ぎ取り満足そうにふんぞりかえる鈴鹿の姿があった。

「……。 あいつらもああ言ってる事だ。 これからも宜しく頼むわ」
 折角気持ち良くケンカが終わった後に汚点を残す事もないだろう。
 あれは見なかった事にしよう…と、そう訴えるカズマの目。
 美しい思い出を美しく終わらせる為の編集点を、覚者達とカズマは互いの視線で瞬時に把握する。
 
 鬼と人が、互いの目を見て分かり合う。
 覚者達が戦闘中にしたように、真に信頼した者達のみが行える事である。
 言葉だけでの表面だけでの信頼ではない。
 鬼と人は、心が通じたのだ。
 ……やや強引な気はしなくも無いが、そう、美しい物語は美しく終わるに越した事は無いのである。
 鬼の青年達は、人と人の持つ絆の力を信じてくれた。
 それは紛れもない事実であり、それこそが大事なのだ。
 言い方を変えれば、それ以外は些細な事なのだ。
 人と鬼が手を取りあえる日は、もうすぐそこまできているのかもしれない。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

参加された皆様、お疲れ様です!
戦闘も心情も取り入れたい物が多く、それはもう楽しくリプレイを書かせていただきました。
これもあれも採用したいと思ってたら純戦闘なのかコメディなのか自分でも解らなく…。
ちなみにマサさんとヤスさんも、こんな事の後ではありますが好意的な感情を持ってくれてるみたいです。
嫌な事は忘れる!
それこそが真の強さ…だと思います!




 
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