<玉串ノ巫女>雪女郎の山道へ
<玉串ノ巫女>雪女郎の山道へ


●雪女郎の山
『北陸山中に高ランクの妖発生。
麓住民の退去中だが、山中の住民が退去を拒否。
妖の即時撃破を求めている。即時戦闘を要する』

 この知らせを受けて出動した神社本庁の覚者部隊『玉串の巫女』はまず山中に残る住民の避難勧告に手をつけた。
 マタギを生業とする人々の小さな集落で、四世帯が違いを支え合って生活していた人々のようだが、しかし……。
「俺たちは山を下りない。今更下りたところで生活なんかできん。集落から出て行ってくれ」
「それどころじゃないんです、話を聞いてください!」
「あんたらお国は俺たちの話なんて一度も聞かなかっただろう」
「私たちは役人じゃありません! ああもう!」
 巫女の一人豊四季は頭をがりがりとかいて唸った。
「ここを離れなければ死ぬんですよ?」
「妖が来るからだろう」
「分かってるなら……」
「あんたらが倒してくれれば済む話だろうが! 都合の悪いときは無視するくせに、こういう時ばかり従わせやがって! 仕事も家も失ったら、もう暮らしていけないんだぞ!」
「そういう話をしてる場合じゃ……!」
「豊四季、もういい」
 袖を引く小柄な巫女、七栄。
 豊四季はため息をついて、その集落から出ていった。

 彼女たちが次に目指したのは山頂付近だった。
 今回は二人編成だ。
 戦闘要請が重なるのはいつものことなので、珍しいケースではない。
「雪が積もってる……」
 万年雪の山は珍しくないが、足が埋まるほどの柔らかい雪が夏場に積もることはありえない。
 ひとすくいして、それが術式性のものであると察した。
 途端、周囲が吹雪に包まれる。
「来ますよ!」
 弓を構える豊四季。
 七栄も青銅製の剣を取り出すと、すたすたと前へ出た。
 雪結晶を巨大化させたような物体が飛来する。
 切り払うようにガード。飛び散った破片が体中に突き刺さるが、無視する。
(痛くない。悲しみのない凶器は、痛くない)
 続いて、周囲から次々と雪で出来た達磨のような人形が飛び出し、体当たりを仕掛けてくる。
「事前情報は?」
「いつも通りです。一切ありません。スキャン要員がいないので、身体で覚えるしかないですね……」
「わかった」
 達磨たちを一気に切り払って粉砕し、その奥にいるであろう妖へと突撃する。
 吹雪の中にいたのは、白い和服の女だった。
 手にした扇子を広げた途端、雪結晶がカミソリ状の刃となって飛来した。
 一瞬にして腕を切断される七栄。剣ごと雪に突き刺さる。
 豊四季が叫んだ。
「一度撤退しましょう! あと二日ありますから、策を立て直せます。集落の人々も、悪いですけど強制的に退去してもらって……」
「うざい」
 七栄はそうとだけ言うと、豊四季を突き飛ばした。
(集落の人たち、怒ってた。怒る先を探してるような人たちだった。きっと色んな人に無視されてきたんだ。これ以上、傷付けたらだめだ)
 ふと、誰かの顔が浮かんだ気がした。
 七栄は首を振って、妖へと駆け出す。
「待ってください、七栄さっ――!」
 そしてあたりは、まばゆい光に包まれた。


「…………」
 黙って話を聞いていたファイヴの覚者たち。その中に九美上 ココノ(nCL2000152)は混ざっていた。
 ここはファイヴの会議室。
 夢見が話を続ける。
「北陸地方のとある山中に妖が発生しました」
 当初ランク4と推定されていた妖でしたが、駆けつけた『玉串の巫女』が最後の魂を使用して激しく損傷させたことでランク3へ低下。現在はダメージ修復のために現地に留まっているという。
「このまま放置すれば妖は力を取り戻し、山中の集落のみならず麓の町まで攻撃しはじめるでしょう。そうなる前に、この妖を撃破して下さい」

 妖はその形状と土地から『雪女郎』と仮称された。土地の民間伝承は無関係である。
 雪女郎は吹雪による地形効果と雪達磨の生成。加えて雪結晶の刃による攻撃が確認されている。
「弱まったとはいえまだ強力な妖であることには変わりありません。くれぐれも無理をせず、頑張ってください」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.妖の撃破
2.なし
3.なし
【補足】
以下の内容は『玉串の巫女』が戦闘していた姿を夢見が夢でみた結果判明したものです。

●地形効果『凍てつく吹雪』
 時間:雪女郎を撃破するまで
 内容:毎ターン開始時に8割確率で『凍傷(※)』

●特殊能力『達磨生成』
 毎ターン1~10体の雪の達磨を生成します。
 この生成個数は雪女郎が前ターンに受けた攻撃の総量に応じて減少します。
 減少量はおよそ500ダメージにつき1体です。
 達磨の体当たりはダメージこそ少ないですが『氷結(※)』の効果を持っています。
 ただし反応速度が遅く、行動順は最後になると思われます。
 個体ずつの体力はおよそ200。回避力と防御力は一桁台です。
 基本行動はブロックと体当たり。

●雪女郎
 ランク3の心霊系妖です。
 雪をカミソリ状の刃にして飛ばす能力を持ちます。
 この能力は三つのパターンに分かれ
 雪包:特遠単大ダメージ、BSなし。
 雪凪:特遠単[貫3] [貫:100%,60%,30%] 中ダメージ、BSなし。
 雪吹:特殊遠全無ダメージ、命中力極大『氷結(※)』

●BSの補足
 雪女郎は氷結系のBSで固められています。
 ランク2以上は行動不能になるほか、非ダメージ解除率が五割あるのが特徴です。特に火の術式なら解除率が十割になります。

●NPC
 このシナリオには九美上 ココノ(nCL2000152)がF.i.V.E覚者のひとりとして参加します。
 行動は主に前衛での近接格闘。命数復活を一度でもした仲間の味方ガードです。
 全体の戦術にあわせて自主的に行動を変えるので、指示プレイングを必要としません。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(4モルげっと♪)
相談日数
8日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年09月12日

■メイン参加者 8人■


●冬、待、雪
 古いマタギの言い伝えによれば、山の掟を破った者たちは雪女郎に殺されるという。
「うそでしょ!? ニポンの四季って夏からスネークインで雪降るの!? 寒!」
 『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)は身体を縮めてカタカタ震えていた。
 いつもの王子である。故に『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)もスルーした。
「雪女郎、元ランク4……牙王やミカゲと同等だと考えると、今のメンツじゃ勝てないよね。最低でも五倍は必要になるのを……二人」
「そんで生き残ったんが一人だけ。神社本庁が悪いんやないのかもしれんけど、自己犠牲を強いてるように思えてハラ立ってきたわ」
 雪を踏んで歩く『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)。
 先に見える人型の影をにらんだ。
「せやけど、ここで倒せんと無駄死にになってまう。きばるで!」
「うん。命を張って戦った結果を、限界まで活かそう」
「その気持ちは、わたしも同じだよ。ううん。みんな、じゃないかな」
 後ろを振り向きながら、『火纏演武』鐡之蔵 禊(CL2000029)は表情を僅かに曇らせた。
「チャンスを逃すのは嫌だもんね」
 彼女たちの後ろを、顔色一つ変えずにヘラヘラとした調子でついてくる九美上 ココノ(nCL2000152)。相変わらず何を考えているのかよく分からない女だ。
 聞くところによれば、言うことなすこと全て嘘の、胡散臭さの塊のような女だという。
 最初は最大の警戒対象だった彼女だが、それだけの存在でなくなったことは確かだ。
 更に彼女のずっと後ろには、マタギの集落が存在している。
 人里から離れ、文字通り山に籠もって暮らす彼らの気持ちを正しく察することは難しい。
 それでも、虐げられる人間の悔しさは、葦原 赤貴(CL2001019)にも理解できるつもりだった。
(どこでも、淀みは下へ下へたまっていく。イヤな社会だ。権力者を皆殺しにしたらどうなるだろう……)
 声に出さず黙って歩く赤貴。そのすぐ後ろで『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)が歯を食いしばっている。
「巫女たちがまた命を散らして……彼らはそれでいいんやろうけど、俺ん中ではダメだ。死んで命を燃やすのはダメだ……」
 納得できないことがあるらしい。誰でもそうだ。
 けれどどこかで、合流しなければならない。首を横に振り続けても死ぬだけなのだ。
「豊四季さん。あの時は……」
 深く呼吸をする『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。
 ぎゅっと、胸の前で手を握る。
 同じように手を握る賀茂 たまき(CL2000994)。
「自分のことよりも、避難できないご家族のかたを心配なさっていました。そんな七栄さんのお気持ちを考えると……」
「うん」
「恵まれているんでしょうか、私たちは」
 急激な吹雪が視界を覆い、天地を真っ白に染めていく。
 距離感を無くし、重力さえおぼつかない空間に閉じ込められていく。
 戦いの幕は、いつも乱暴に開く。

●命、奪、雪
 構える禊。
 気づけば無数の雪だるまに囲まれていた。
 左右に視線を走らせ、状態を確認する。
 敵襲に備えて先頭を歩いていた禊たちが取り囲まれ、その少し向こう側にも更に雪だるまの一団。更に向こうで、白い和服の女がふわふわと浮いている状態だ。
「いくよ、みんな!」
 禊は拳を握って雪地を踏みしめると、自らを炎のようなオーラで包み込んだ。焼けるように消えた衣服の代わりに巫女装束と武具が装着される。
 同じく鈴ヒモを拳に巻き付けたココノが自らの装束をマイナーチェンジ。二人ほぼ同時に雪だるまの集団へと飛びかかった。
 ココノの下段回し蹴り。雪がしぶきのように散り爆ぜて、雪だるまたちを覆っていく。
 覆われた視界の幕を貫いて飛びかかるのは禊である。
 雪だるまの一体を跳び蹴りによって粉砕。反動をかけ、三ひねりと一回転を経て次から次へと雪だるまを蹴りつけて飛んでいく。
 刀を抜く凛。ばんざいするプリンス。
「喰らえ、焔陰流――」
 一瞬で紅白袴を纏った凛がよろめいた雪だるまの群れの間をジグザグに駆け抜けていく。
「逆波!」
 刀を振り抜きブレーキ。その直後に彼女の後ろで雪だるまが次々と粉砕された。
 早速破壊された雪だるまの前衛集団をカバーするように広がり始める中衛集団。
「王家キモイリの公共事業だよ! 最初から国庫開放――クライディングアウトだよ!」
 装着した武具から蒸気を噴出しながらハンマーを振り回すプリンス。
 カバーに入ろうとした雪だるまに脇腹位置へのインパクト。爆発的衝撃が走り、横の雪だるまたちもろとも吹き飛んでいった。
 雪女郎には初見殺しに似た能力がいくつも存在している。
 その一つがこの雪だるまだ。
 耐久力のまるでない雪だるまを大量に生み出すことで、『これが尽きるまで倒しきろう』という発想にとらわれてしまうのだ。結果無限肉壁で弾を浪費し、衰弱していくことになる。
 吹雪がやむまで足を止めてしまう登山者のごとくにだ。
 そしてもう一つの初見殺しがこの吹雪。
 常に体力を奪い続け、時として動きすら止めてしまう恐ろしい力場が働いている。
 知らずに受ければ、出所が分からずに混乱するだろう。
 だが、雪だるまも吹雪もカラクリを知っていれば……。
「清廉珀香!」
 理央が目の色を赤く変え、札を天空へ放った。
 強力な力場が発生し、治癒力を大幅に高めていく。
 凍傷効果もここまでリスクが薄まれば暫くは無視していい。雪だるまの持っている氷結効果も、受ける前に倒してしまえばいいだけだ。
 きわめて順調な滑り出しだ。
 理央は頃合いを見計らって、別の札を取り出した。
 残留思念との交信を目的とした札である。
 火打ち石で札を燃やし、上がった灰と煙の先に七栄の姿を幻視した。
「七栄さん。黄泉路へ向かうところ、御免」
 ゆっくりと幻影が振り返る。
「あなたが魂を潰してでも討てなかった妖の情報を教えてほしいの」
『……うざい』
 目をそらし、七栄は姿を消しにかかる。
「待っ――」
 途端、理央は激しい衝撃に見舞われた。

 雪だるまによる肉壁を失った雪女郎は無防備だ。
 ラーラと赤貴はそれぞれ黒髪を銀色に、瞳を赤色に染め上げると雪地を走り始めた。
 赤貴は雪女郎への直線コース。ラーラは外周コースだ。
 ラーラは巨大魔方陣を展開。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を。イオ・ブルチャーレ!」
 激しい炎弾の群れが雪女郎へと襲いかかる。扇子を広げ、弾を弾きにかかる雪女郎。
 一方で眼前まで接近した赤貴が地面に剣を叩き付けた。
 衝撃が複雑に伝わり、爆発的に地面が隆起。雪女郎の身体を吹き飛ばしていく。
 好機――ではない。雪女郎は空中であるにも関わらず身を翻し、周囲の雪を結晶化させ始めた。
 来る。赤貴は後ろに向けて叫んだ。
「雪凪だ、構えろ!」
 これもまた雪女郎初見殺しのひとつ。雪凪。貫通性の高い攻撃である。
 氷の槍をうみだし発射する。槍自体を操作しているのだろう。複雑に蛇行する槍がたまきへと迫る。
「……!」
 御朱印帳を蛇腹に開く。生み出された結界が広がり、弾かれた槍がたまきの肩をかすっていった。
 そのまま理央の腕をえぐり、大きくカーブしてラーラの前で爆ぜた。
 痛みにこらえながらも手帳を畳むたまき。前にしっかり回収して修理もすませたリュックから五重畳みにした大護符を取り出して握り込む。
「つなげて見せます、七栄さん……あなたの想い!」
 虚空に向け、拳を振り抜く。
 護符を通して飛ばされた衝撃が雪女郎にクリーンヒット。空中で殴り落とされたかのように、身体が地面へ叩き付けられる。
「大丈夫!? 肩のとこ……!」
 ジャックが駆けつけ、たまきの肩に杖を押し当てる。
 血の波動がたまきの血流を無理矢理に活性化。えぐれた傷口を修復していく。
 元々超純水で強化しているジャックである。理央の清廉珀香も伴って、氷結系ダメージへの心配は無くなっていた。回復の手が止まることも無いだろう。
 あとはこの調子が続けば何も問題ない。
 けれど、ジャックにはどうにも嫌な予感がぬぐえなかった。

●人、恐、雪
 流れる血が凍り始めている。痛みは不思議と感じないが、身体が思うように動かない。
 ラーラは唇を噛んで混乱を押さえつけながら、現状を分析していた。
 雪女郎はラーラと同じ特攻特化タイプの妖だ。そのぶん防御力に乏しいため、雪だるまの肉壁を生んでいるものと思われる。
 こちらの攻撃サイクルは主に、ココノと禊による前衛雪だるまの除去、更に中衛雪だるまをプリンスが破壊し、多少残っていても赤貴や凛が強引に貫通攻撃を繰り出して強引に雪女郎ごと破壊していく。
 雪女郎への主なダメージソースはたまきの琴桜とラーラの火焔連弾である。
 ダメージはなかなかの量を確保できているようで、雪だるまの発生量も7~8とゆるやかだ。
 問題は雪女郎の体力がかなり多いということだが、雪女郎が表面を撫でるようにまばらな攻撃を続けている限りはジャックと理央のヒールワークが崩れることもない。
 この調子なら。
 と、安堵がよぎった頃のことである。

 視界が凍り付いた。
 感覚としてはこんなものだ。
 やがて吹き出た血や、足や腕の関節や、髪や服の裾が凍り付いて動かなくなっていく。
 まるで周囲の空間そのものに縛られているかのような状態に、理央は焦った。
 雪女郎のスタイルは『壁を作って力押し』だが、それが通じない相手への対策をよういしていたのだ。それが凍り付かせてのなぶり殺しである。
『七栄……』
 口が動かないので、意識だけで交霊術を試みる。
 耳元に小声で囁くような彼女の声は、こちらにまだ無関心だ。
『何でもいいから教えて。対価ってわけじゃないけど、妖はボクたちが必ず討つから』
『……』
『時間は限られてるの。早く』
『……』
『お願いします』
 やがて、七栄が小さく口走った言葉に理央は目を見開いた。
 ラーラとの送受心回線に呼びかける。
『ラーラ、聞いて。雪女郎の初期ランクは4。激しいダメージを負って能力がランク3程度まで落ちてるけど、知能まで落ちたとは言い切れないの。だから――』
『こちらを観察して、弱点をついてくる?』
『え、ヤバイじゃんそれ』
 ラーラの送受心回線が複数のコールによって混乱した。
 事前情報によって確実な対抗策を組み、挑んだ場合。それが崩された際のもろさは恐ろしい。まるで、雪山への準備が崩壊した際の登山者そのものだ。
 ラーラは凍り付きそうになる思考をめいっぱい働かせ、想定しうる中での『最悪のパターン』を思い描き、はたと思いついた。
 炎を自らに巡らせ、全力で叫ぶ。
「理央さんよけて! 狙いはあなたです!」
 その瞬間、理央の全身から大量の血が噴出した。

 雪女郎が狙ったのは、理央の精錬発光とジャックの超純粋が同時に切れる戦闘開始から180秒のタイミングだった。効果時間を知っていたと考えるのは難しいので、恐らく『そうなる瞬間』を待っていたのだろう。
 理央が集中的に狙われる。もう一発食らえば体力は底を突くというその時に、理央とジャックは決断を迫られた。
 理央の決断は簡単だ。精錬発光をやめれば味方のサイクルが目に見えて崩壊するだろう。
 ジャックは迷ったが、首を横に振った理央に応じて超純水を発動させた。
 すぐさま理央が氷の刃に呑まれていく。はたからは彼女が赤い霧に変わったように見えたろう。
 命数を削ってこらえた理央。盛り返しは不可能じゃない。が、ここで守りに入ったら意味が無い。
 なぜなら、攻勢に出たことで雪女郎もまた自らの守りを弱めたからだ。
 欲を張ってさらなる雪包を放つ雪女郎。
 が、ココノが理央の襟首を掴んで背負い投げ。
 後方に大きく飛ばされた理央に変わってココノが氷の刃に呑まれていく。
 次にやるべきことは決まっていた。
「一気に蹴散らします。――皆さん!」
 ラーラが魔導書を開放。
 彼女を覆う全方位へドーム状に複数展開する魔方陣の群れから、一斉に炎の弾を発射した。
 雪だるまたちが一斉に薙ぎ払われ、雪女郎への道が開かれる。
 溶解した道が土と石となって延びていく。
「もらった!」
 禊の飛び込み蹴り。
 扇子で防御にかかるが大きく体勢を崩される雪女郎。
 そこへさらなる蹴りを連続で叩き込んでいく禊。
 徐々に傾く雪女郎――の背後に回り込むたまきとプリンス。
「余がここでいかなきゃ、また女子の民が自爆するじゃん? 将来の妃かもじゃん!? ということでよくも余の妃をー!」
 プリンスのハンマーアタック、の上からたまきが手帳を握っての掌底を叩き込んだ。
 雪女郎の腹を衝撃が貫通し、大穴を開ける。
「埋火が燃える時がきたかな」
 凛は一度刀を鞘に収めると、自らの炎を限界まで引き上げた。
「死んだ巫女がもっとった心の焔、それを消させたあんたが、今度は消える番になるんや!」
 対してジャックが杖をライフルのように腰で構える。
 周囲の氷が彼の杖へと集まった。
「アンタにはアンタの考えがあるかもわかんないけど、人間の都合で消えてくれ!」
 抜刀、放出。
 二人の攻撃が激しい爆発となって雪女郎を覆っていく。
「最後だ」
 赤貴が走り出した。
 剣を振りかざし、跳躍する。剣を覆う術式エネルギー。
 それが頂点に達しようとしたその瞬間――彼の剣が手首ごと吹き飛んでいった。
 身体の七割を喪った雪女郎が手を翳し、赤貴を見つめている。
「最後の悪あがきというわけか」
「でも、もう遅い!」
 地面を転がりながら理央が術式を発動。瞬間的に再生した赤貴の腕。雪女郎の横を転がるようにすり抜け、すぐ手元にあった剣をとった。
 溶解した雪の下から現われたそれは、青銅製の剣である。
「――!」
 握った瞬間、流れ込む力。
 それにあらがうこと無く、赤貴は雪女郎を真っ二つに切断した。

●心、止、雪
 山を下る。
 たまきが見上げると、空は青く澄んでいた。
 晩夏の虫が樹枝の間を飛び、遠くで鳴く鳥の声に消える。
 リュックサックの肩がけを握り、たまきは深く息をついた。
 振り向くと、理央が小さく頷いている。
 戦いは終わったのだ。
 消えた命も、掛かった願いも、無為に消えること無く。
 しばらく行くと、マタギの集落が見えてきた。
 禊がちらりと仲間の顔を見てから、小さく首を振った。
 足を止めること無く、山を下る。
 触れぬこと、交わらぬこと。それもまた、人を想うがこその選択である。

 人を想うなれば、祝詞の一つも唱えることもある。
 山頂に残った凛は散った七栄に向けて鎮魂の詞を贈っていた。
 理央によれば、ここに留まっていた思念は完全に消えたという。
 思い残しはない。妖も消え、集落も残り、山の雪は溶けていく。
 その場には、赤貴とココノもいた。
「帰らなくていいのか」
「今すぐ帰りますよー」
 雑な嘘をつくココノの顔を、横目で見る。
「九美上さん。七栄は、どんなヤツだったんだ」
「さあー。見たことも聞いたこともないですねー。七栄ってどんな字を書くんですかー?」
 また雑な嘘をつく。
 暫く、凛の奏でる音色だけが響いた。
 やがて虫や鳥や、風の音が混じる頃。ジッポライターの着火音がした。
 振り向く。
 煙草を咥え、大きく煙を吸い込むココノ。
 紫煙に混じって言った。
「クソ女でしたよ。自分に関係ないことにばかり怒ってて、分かりやすい悪者を見つけてはイライラしてて、すごい迷惑な奴でした。きっと妖がこの世から消えれば犯罪者もいなくなると思ってるんですよ、あの馬鹿は」
「……」
「八つ当たりなんですよ。八つ当たりで戦ってるバカなんです」
 赤貴の手には、青銅の剣がひとふり。
「……だから、好きだったのに」

 後日談を少しだけ語る。
「やあ、余だよ! あっまって閉めないで! 入れて入れて! 寒くて死にそうなの! キジ汁ちょうだい!」
 閉め出そうとするマタギの家に無理くり押し入り、プリンスは囲炉裏の前に座った。並んで座るジャックとラーラ。
「妖は倒したよ。俺たちがじゃ、なくて。ここへ来た巫女の子がほとんどやってくれたようなもんなんだ」
「恩を作ろうとしたんじゃありません。ただ、知って欲しくて……」
「だから、せめて冥福を祈って欲しいんだ。あの子のために」
 話を聞いたマタギの男は、暫く黙った後皆を追い返した。
 その、三日後。
 大きな石碑が山頂付近に建てられた。そのことを知る者は、とても少ない。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

アイテムドロップ

取得キャラクター:葦原 赤貴(CL2001019)
取得アイテム:沙門叢雲






 
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