≪友ヶ島騒乱≫神鹿の怒りがここに顕れる
≪友ヶ島騒乱≫神鹿の怒りがここに顕れる


●友ヶ島
 和歌山県南部に浮かぶ無人島群『友ヶ島』。
『沖ノ島』『神島』『虎島』の総称として知られるこの島は、海の美しさや歴史的遺跡などから観光に来るものが絶えなかった。
 だが観光に訪れる人間達の出すゴミや、マナーの悪いものが島の自然を破壊するなどして島の景観が乱れつつある。
 そしてそれらのゴミなどが妖化するに至り、観光を担当する者はゴミのクリーンキャンペーン実施と共に、妖退治を覚者組織に依頼するのであった。

●古妖『島守』
「すげー! 全部煉瓦とかどこかの天空城みたいだぜ!」
 煉瓦作りの建物を見ながら、観光客が叫ぶ。写真を撮りながらテンションが上がっていく観光客。
「よーし。折角だから記念に俺のサインを残してやるぜ」
「おいやめろって。怒られるだろうが」
「大丈夫だって。歴史に残る俺のサインだから」
 そんな理屈を言いながら、カラースプレーを取り出す観光客。だがそれは地面を叩く音により中断される。
 そこに居るのは一頭の鹿。二本の角を雄々しく立たせ、真っ直ぐに観光客を見て足踏みしていた。動物の言葉など理解できないが、鹿が激しく怒っているのはすぐにわかる。
「なんだよこらぁ。やんのかぁ?」
「この島を守るものとして、これ以上の暴挙は捨て置けぬ」
「「シャベッタアアアアアア!」」
 驚く観光客の声をよそに、鹿は地面を蹴ってその角で観光客を蹴っ飛ばす。悲鳴を上げて階段を転げ落ちる人間を見ながら、その鹿は人間との絶縁を考える。この島に居る人間全てを叩き返そう、と。

 ゴミやマナーの悪さに憤りを覚えているのは人間だけではない。そこに住む古妖も怒りを感じていた。鹿の古妖、島守である。
 元々この島に住んでいた鹿が永く時を生きて古妖化した存在であり、人間との態度も友好的で会った古妖だ。昨今の観光客のマナーの悪さを感じ取り、人間への態度は悪化していく。
 そしてその我慢の限界が訪れたのであった。

●FiVE
「そんな鹿なんだが、元はいい古妖で。ちょっと怒りで頭に血が上っているだけなんだ」
 久方 相馬(nCL2000004)は集まった覚者に対し、説明を開始する。机の上には友ヶ島の地図が置かれてあった。
「聞いてるとは思うけど説明な。FiVEは和歌山県の友ヶ島に発生する妖退治を請け負ったんだ。生物系妖やゴミが妖化したりすることが増えたので、その対応だ。
 で、もともと島に住んでいた古妖の鹿が観光マナーの悪さに腹を立てて、人間を敵視し始めたんだと」
 古妖からすれば、島の景観は自分の庭を荒らされるようなものだ。これに関しては観光客が悪い。蹴られた後、骨折で入院コースになるのは流石に過剰だが。
 そして悪いことに、この怒りは継続してしまうのだ。
「ここで止めないと古妖は完全に人間を敵視して、観光客全てを襲うようになる。それを止めてきてほしい。
 頭に完全に血が上っているので、古妖には悪いけど殴って止めることになることになる。大人しくしてもらった後で連中に謝らせれば、怒りも収まるだろう」
 説得は通じそうにない。致し方ないとはいえ、殴った後での説得はあまり気持ちのいい話でないのは事実だ。
 だがこれを放置すれば、人間とこの鹿の関係は一気に悪化する。一度古妖を止めて、観光客に謝らせるのが一番無難な解決策だろう。元々人間に好意的だった古妖だ。興奮が収まれば、話を聞いてくれる可能性もある。
「ま、『今までごめんなさい』と過去を謝るよりは『これから注意して頑張ります』っていった感じの方が印象はいいと思うぜ。許せないのは島を荒らす行動であって、人間自体じゃないんだし。
 そんなわけだ。急いでくれ」
 相馬に背中を押されるように、覚者達は現場に向かって移動し始めた。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.古妖の戦闘不能
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 鹿肉美味しいです。

●敵情報
・島守(×1)
 古妖。体長3メートルほどであることを除けば、一般的なニホンジカの姿をしています。知識は人間並。
 島を守る神獣のような存在で、人間の観光も『これも自然の一部』と受け入れるのですが、人間のあまりある行為に怒りを抑えきれなくなっています。その為戦闘中の説得は通じません。
 プレイング内で殺害を明記しない限りは、オーバーダメージがどれだけあっても死亡しません。

 攻撃方法
 角で突く 物近列  巨大な角を振り回します。
 踏みつけ 物近単  蹄で踏みつけてきます。何度も。〔二連〕〔必殺〕
 鹿の遠音 特遠貫2 鳴声が衝撃波となります。(100%、50%)
 島の言葉 特遠全  友ヶ島の自然と共鳴し、心を乱します。〔ダメージ0〕〔Mアタ50〕
 神鹿   P    しんろく。『島の言葉』を除く全てのダメージに『防御不可の<PCの悪名×10>点』が追加されます。

・観光客(×4)
 友ヶ島の観光にやってきた観光客です。戦闘が始まると安全圏まで逃げて、隠れて見ています。
 流石に反省しています。

●場所情報
 友ヶ島第三砲台跡。時刻は昼。広さや足場の安定などは十分です。戦闘にはまるで影響なし。
 特に何もしなければ、OPの『この島を守るものとして、これ以上の暴挙は捨て置けぬ』の段階で乱入することができます。
 戦闘開始時、『島守』が前衛にいます。覚者は敵前衛から一〇メートルの距離からスタートです。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(5モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年08月27日

■メイン参加者 8人■

『落涙朱華』
志賀 行成(CL2000352)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『涼風豊四季』
鈴白 秋人(CL2000565)
『天衣無縫』
神楽坂 椿花(CL2000059)
『研究所職員』
紅崎・誡女(CL2000750)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)


「この島を守るものとして、これ以上の暴挙は捨て置けぬ」
 今まさに古妖の攻撃が繰り出されようとするときに、8人の覚者が割って入る。
「確かに住んでいる場所に落書きされれば、いい思いはしないだろうな」
 ため息をついて『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)は薙刀を構える。非は確かに観光客にあるが、だからと言ってこのまま放置はできない。古妖の頭を冷やすため、一度大人しくなってもらわなければならない。
「出来れば手荒な事をしたくないけど、怒りを鎮められるように頑張ろう」
 逃げていく観光客を確認しながら『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)が神具を構える。経緯はどうあれ、このままこの古妖を暴れさせるわけにはいかない。一度落ち着いてもらって、そこから謝ろう。
「落書きに、ポイ捨て……。島の守り神みたいな古妖さんなら、怒って当然、だよね……」
 少し申し訳なさげに『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)が呟く。自分がしたことではないが、古妖からすれば同じ『人間』の行為だ。そう思うと恥ずかしくなる。とにかく、このままではよくないのも事実。
「その辺にゴミ捨てるのはダメだって子供だって分かるのに。なんで大の大人がそういうことするんかなあ」
 覚醒して子供の姿から青年の姿に変わった『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)が言う。学校で酸っぱく言われている行為だ。それが大の大人が守れないとはどういうことか。情けなくなってくるが、かといって見捨てるわけにもいかなかった。
「壁や人の物に落書きはしちゃいけない、なんて椿花でも知ってる事なんだぞ!」
 ぷんすか。擬音をつけるならそんな感じで『天衣無縫』神楽坂 椿花(CL2000059)が拳を振り上げる。この拳を降ろす先は今護った観光客なのだが、それより前に古妖を大人しくさせないといけない。あまり気は進まないが仕方ないと刀を抜く。
「本来なら古妖が暴れる前に、人間たちで何とかできた事案だろ? これ」
 呆れる様に『第二種接近遭遇』香月 凜音(CL2000495)が肩をすくめた。無論県とてそういった努力は行っている。だがそれでもマナーの悪化を完全に防ぐことはできない。百件が一件になっても、その一件でこういった事例は生きるのだ。
「仕方ないよ。自分がやっていることがどういう行為か。それが身に染みていないのだし」
 鈴白 秋人(CL2000565)は冷静に言い放つ。人間は基本的に自分に害が及ばなければ、痛みを感じずに反省しないものなのだ。病気になって初めて健康を顧みる様なものだ。今回の件がいい反省になればいいのだが。
「交渉の場を整える為にも、今は古妖を押さえましょう」
 少しかすれた声で『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)が頷いた。事の発端はともかく、この怒りを継続されては話ができない。交渉のテーブルを整えるために、先ずはこの場を納めなければならない。些か強引だが、力押しで。
「今までは良き者もいると見過ごしていたが、もはや我慢の限界。この島に入った人間全て、蹴り返してくれよう」
 三メートルの大きさを持つ古妖がゆっくりとその足を振り上げる。頭の角も、その蹄も神具並みの威力を持つ。油断していい相手ではない。
 怒りにまみれた古妖を落ち着かせるため、覚者達は神具を握りしめた。


「何が正しいかは分かりませんが」
 最初に動いたのは誡女だ。神具を構えて古妖を見る。自然を汚されて怒る古妖。その怒りな人間である誡女から見ても正当なモノだ。それを止めることが正しいのだろうか? そう思う部分もあるが、このままヒビが入ったままなのもよくないのは事実だ。
 体内で源素を回し、呼吸を整える。手のひらから風に乗って吹くのは細かな粒子。それが霧となって古妖の視界を奪った。直接的なダメージではなく、敵を弱体化させて味方のサポートをする。それが誡女の戦い方だ。
「よりよい結果のため頑張りましょう」
「そうだね。余り手荒なことはしたくないけど」
 深く帽子をかぶり、亮平がハンドガンとナイフを構える。大事な物を傷つけられて怒るのは当然だ。だが、その状態のままでは話し合いができない。先ずは話ができる状態にしなければ。少し心苦しいが、神具を構えて古妖を見る。
 ハンドガンを古妖に向けて、静かに狙いを定める亮平。筋肉で衝撃を受け止め、骨で銃を固定する。射撃の衝撃で標準がぶれないように構え、引き金を引いた。神具に込められた勾玉が弾丸に稲妻の力を付与する。その弾丸が、古妖の足を止めた。
「怒りを鎮めないと話し合いもできないし」
「できりゃー、戦わずに話し合いで終わらせたいけど……」
 指先を立てて印を切りながら、翔が古妖を見る。正直本気で殴りづらいのは事実であり、話し合って解決できればそれに越したことはないと思っている。だが古妖の表情がそれが無意味だと暗に語っていた。
 星の姿を形どるように、指先を動かす。五行の印。陰陽における基本にして至高の陣。そのまま源素を放出し、稲妻を生み出す翔。激しい落雷音と共に叩きつけられる稲妻が古妖を穿ち、その痺れでその動きを止める。
「人間がごめんな! オレ達は掃除しにきたんだ。敵じゃねーよ」
「その言葉、過去に何度も聞いた。だがその結果がこれだ」
「そっか……。掃除する人も、いたんだね……」
 古妖の言葉の中に含まれていた怒りを感じ取り、ミュエルが胸を痛める。観光客も県の人間も、決して悪い人間ばかりではない。むしろいい人の方が多かったのだろう。だが、その言葉を信じても島は汚されるのだ。古妖からすれば裏切られた気持ちになるだろう。
 体内にある植物の力を活性化し、指先にその力を集わせるミュエル。『術式ノート』に書かれた源素の扱い方。その方法を思い出しながら、術を解き放つ。毒性植物の樹液を凝縮した液体。それを古妖に向かい撃ちだす。皮膚から毒は吸収され、体力を奪っていく。
「苦しかったら、ごめんね……」
「苦しみが続かぬように、できるだけ素早く終わらせよう」
 古妖の前に立ち薙刀を振るう行成。前世との繋がりを強化し、古妖を見る。行成の持つ薙刀は長いが、古妖の体長も相応に大きい。長柄の武器と、長い角。下手をすればこちらの方が間合が小さいかもしれない。慎重に足を動かしていく。
 突如振るわれる古妖の頭。振るわれる角が行成に迫る。反射的に薙刀を動かし、その角を防ぐ。そのまま力押しの形で留まる古妖と行成。力では負ける。そう判断し行成は素早く身をひねって重心をずらした。角を受け流す形で隙を作り、薙刀を回転させて叩き込む。
「怒るのも無理はない、ただ今はいったん頭を冷やしてもらおう」
「出来ればこういう戦いは、これで終わりにしたいな」
 言って小さく肩をすくめる秋人。古妖の怒りはもっともで、この戦いはそれを諫めるためとはいえ正当性は低い。だがその怒りを継続されては困るのも事実だ。先ずは怒りを鎮めてもらい、その後の行動こそが大事なのだ。
 古妖から距離を取り、術符を構える。夏の日を受けて、秋人の手に冷気が光る。雪の結晶が宙を舞い、刃の姿に形を変えた。それは秋人の意のままに宙を舞い、古妖を貫かんとばかりに振るわれる。
「島守が二度と怒る事が無い様に、上手く自然と共存出来たらいいね」
「そう簡単にはいかないだろうがな」
 どこか冷めた口調で凜音が呟く。モラルの低下と言うのは言葉だけでは変わらない。誰かが手を抜けば、自分もそれでいいやと楽をしたがるのが人間だ。それを知っているがゆえに、凜音は楽観的な意見を言わない。だがそれは後回しだ。
 前世との繋がりを強化し、戦場を見渡す。冷静沈着に、そして勝利への情熱を失わず。それが前世と関りがあるのだろうかと思いながら、凜音は回復の術式を展開する。霧雨のような薄い霧を張り、仲間の傷を癒していく。
「無理するなよー」
「大丈夫なんだぞ。凜音ちゃん」
 体内で源素の炎を燃やしながら椿花が刀を振り上げる。気合を入れて古妖に刃を向けるも、少し申し訳ない気分になるのは否めなかった。だが怒る古妖を後ろに通すわけにはいかない。背後で回復を行う者を想いながら、刀を握りしめる。
 椿花が振るうのは紫の炎を纏った身の丈を超す刀。足、膝、腰、背中、肩、肘、手。体全体を使って回転するように椿花は刀を振るう。他人から見れば曲芸のようにも見える動きだが、椿花の高いバランス感覚は、危なげなくその攻撃を繰り返していく。
「鹿さんが悪いわけじゃないから、ちょっと申し訳ないんだぞ……」
 僅かな罪悪感を含みながら、しかし着実に攻撃を重ねていく覚者達。
 だが加減をすればそこから攻められる。古妖の攻撃を受けながら、その勢いを肌で感じていた。


 島守――古妖の戦い方は、怒りに身を任せている事もあり直線的だった。
 まず目の前の相手に蹄を叩き込み、密集したら角で大きく払いのける。そして――
(心を乱す島の言葉……この現状の代弁とかでしょうか?)
 一陣の風と共に吹き荒れる風。そこに乗せられたメッセージが覚者の気力を削っていく。
「やべぇ。気力削られてきた!」
「前衛は、アタシが回復するから……」
 その結果、翔とミュエルと誡女の三人が気力と体力の回復に移行することになる。攻撃手が減ったこともあり、戦いは予想以上に長期化することになった。
「この風……音……木の、言葉も混じってる……?」
 木と親和性の高いミュエルが、風の中に聞こえる声の正体に気づく。長くこの島に生息する樹木。そこには怒りもあるが、人間を見守る優しさもあった。自然は全てを受け止める。人間の傲慢も、身勝手も。そんな声を聴いた気がした。
(正しく受け止めて、心に留めておきましょう)
 言葉に対して神秘的な探査を行った誡女も、同様のメッセージを受け取っていた。身勝手な人間に怒りを。だけどそれも自然の流れなのだ。領域を汚そうとしたことは怒ろう。だが、それだけだ。それを正そうとする人間がいることも知っている、と。
「よっこいしょ、なんだぞ!」
 古妖の角の一撃を受け止め、押し返すように椿花が力を籠める。身長に対して巨大な刀を振るう椿花だが、その根っこはただの元気な小学生だ。振るわれる刃に殺意はない。どちらかと言えば遊んでいる無邪気さが浮かんでいた。
(子供に怪我はさせたくないしな)
 そんな椿花を守るように凜音が水の弾丸を放って牽制する。勿論回復行為を優先して可能な時だけだが。基本的に後ろで支援を行うのが凜音の戦い方だが、世話の焼ける妹分に関しては色々と思う所があるらしい。
「合わせるよ」
「分かりました」
 行成と秋人が言葉を交わし、亮平と翔が頷いた。僅かな視線の交差と小さな動きで、四人は一糸乱れず戦場を動く。
「――先ずはオレだ!」
 翔が星の形に印を切り、稲妻を放つ。獣の咆哮を思わせる激しい落雷は、古妖の体を穿ちの動きを一瞬止めた。激しい怒りを真正面から受け止める翔。それは怒りを受け止める決意と当時に、戦うことで互いを理解しようとする思いもあった。
「――続けます」
 止まった動きを逃さず秋人が氷を生み出す。小さく、しかし鋭い氷の槍。前線で戦う覚者の隙間を縫うように進む、氷の稲妻。それが動きを止めた古妖を貫いた。傷口を冷やし、体温を奪って動きを鈍くする。
「――道は私がつくろう」
 雷と氷が交差する瞬間を逃すことなく行成が神具を振るう。銘は『雪舞華』。浅葱色の組み紐が装飾として付いた薙刀。振るわれる一閃に、その組み紐はらりと揺れた。古妖の角をはね上げて、ガードの隙を生む。
「――ああ、進ませてもらうよ」
 両手に神具を構え、古妖に迫る亮平。まるでガードが開くことが分かっていたかのような動きで、間合いを詰める。手にしたナイフを回転させてグリップ部分を古妖に向ける。そのまま柄を古妖の眉間に叩きつけた。ぐらり、と頭が揺れる古妖。
「これで終わりだ。手荒な仲裁になったのは謝るよ」
 亮平の言葉と共に崩れ落ちる島守。巨体が崩れ落ちる音が、静かになった戦場に響き渡った。


「先ずは謝罪を。怒りに我を忘れていた。この島守、深く陳謝する」
 目を覚ました古妖は、いきなり頭を下げた。覚者達も事の経緯は知っているので、力ずくで解決して申し訳ないと謝罪する。
「鹿さん、ごめんなさい……」
 そしておずおずと落書きをしそうになっていた観光客もやってくる。
「君達はちょっとしたイタズラ心でやっただけかもしれないけど、勝手に落書きをするのは、やっぱりよくないよ」
「「「「すみませんでした」」」」
 亮平の言葉に謝罪する観光客達。古妖もその行為に、この場の怒りを収める。最も収めたのは、あくまで『この場』のだ。同じような事をする人間が現れないとは限らない。
「呼び方は島守殿でよいのでしょうか?」
 誡女が手をあげて、古妖に尋ねる。神鹿、という呼称も考えたがそれは人間で例えると『役職』のようなものだ。ここは個人名で読んだ方がいい、と判断する。
「古妖も自然の一部、という事を喧伝して表に出てくるのはどうでしょうか? 神秘と人の付き合い方も変わってきていますので」
「自然の一部であるが故の距離だ。人の集落に異物が混じるわけにはいかん」
 この古妖からすれば人間社会もまた自然の一部。そこを汚すつもりはないらしい。
「よーし、それじゃあゴミ拾いするぞー!」
 翔がゴミ袋片手に拳を振り上げて元気良く叫ぶ。最初は神秘の力を使って観光客を説得しようとしたが、そうする必要もなく彼らはゴミ拾いに同意してくれた。彼らにも島の言葉が届いたのだろうか。
「ふむ……」
 その様子を見て、亮平は考え耽る。言葉に神秘の力を乗せて、ゴミ拾いをするように扇動するのは簡単だ。だがそれでは一時的な解決にしかならないのでは? 誠意ある言葉と行動を示せば人は動くと証明できた。もちろん全てがそうではないのがつらいところだが……。
「彼らには『本来の島の姿』を見てもらいたいからね」
 秋人は今の友ヶ島の現状を観光客に伝え、そして本来の自然を取り戻そうと訴えかける。それは簡単な事ではないが、不可能な事ではない。その為のゴミ拾い。覚者がどれだけ強くとも、こればかりはすぐに解決できるものではない。
「もしよければだが……『友ヶ島滞在中に地を清める行為をすると、神秘的なものに出会えるかもしれない』と言う噂を流してもらえないか?」
 ゴミを運搬しながら行成が観光客達にそう頼み込む。掃除を促す噂だが、神秘的な生物に出会えるということ自体は嘘ではない。今回は『汚した』から現れたわけだが、この程度なら嘘も方便だ。

 掃除を終えたFiVEの覚者達は、看板を立てるために交渉していた。敷地内に看板を立てる為には、いろいろ行政的な手続きが必要なのだ。下手をするとそれ自体が『島の景観を損なう』可能性が出てくるのだから。
 交渉の結果、看板を見て判断するという事になった。とはいえ妖を退治してくれた覚者達の提案なので、可能な限り採用するという前向きな結果であったという。
「外国人にもわかりやすいように、英語とイラスト付で書こう」
 亮平はイラストを基本とした看板を書く。ゴミを捨てる絵を描き、バツをつける。そしてゴミを持ち帰る絵を描いていた。
「こんなところ……かな……?」
 ミュエルは亮平の看板に文字を書く形で貢献していた。意外に達筆な字を書き加えていく。見た目が奇麗な看板は、それだけで目を引く。細かなことに気を遣う事こそが、一瞬しか目を向けてもらえない看板にとって最も重要な事なのだ。
「『何かあった場合は、担当の覚者が対応します』……って書いたらゴミを捨てる人が減るかもしれないんだぞ!」
「脅かすな」
 椿花の提案にツッコミを入れて止める凜音。ちぇー、と口をすぼめる。じゃあこういうのはどうだぞ、と言いながら看板に飾り付けをしていく。そして凜音が看板作りに手伝ってくれないことに気付いて、振り返る。
「終わったらしっかり遊ぼうな。今はお仕事の時間だ」
 椿花の頭を撫でる凜音。椿花が自分にべったりくっつくよりは、他の人と一緒に作業をした方がいい。そう判断して今は距離を置いていた。これを機会に独り立ちしてくれればいいのだが、とそんなことを考える。
「うん、絶対なんだぞ! 後で一緒に遊ぶんだぞ!」
 満面の笑みを浮かべる椿花。妹分の独り立ちはまだ遠いかもな。そんな事を凜音は考えていた。

 覚者の働きにより、古妖の怒りは解けそのわだかまりも解消された。
 島の美化に関しては、一朝一夕で効果が表れるものではない。ゆっくりと効果を待つことにしよう。
 様々な生物の想いが重なって形成される自然。友ヶ島はその一つだ。
 ――願わくば、この美しい景観が永遠でありますように。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 後編(イベシナ)に続く!




 
ここはミラーサイトです