静かな森の小さな宴
静かな森の小さな宴


●誘いの泉
 都会よりもずっと離れた場所に在る自然の大地。
 とは言い難いが、極力自然のまま残した地形の上に建てたロッジは我ながら素晴らしいと見惚れる。
 やはり、この山をキャンプ場に設計したのは正解だった。
 問題は都心から離れすぎて滅多に来客が訪れない事だが、一度来ればこの自然の中で優雅に過ごせるひとときにきっと満足するだろう。
 ロッジを建て過ぎた気もするが、寂しいよりかはマシだ。
 管理人である男はお客より先に満足しながら緩やかな坂道を登って行く。
 勿論この地面もならして歩き易くしただけの、舗装とも呼べないただの整地だ。
 そしてこのキャンプ地の奥にはもう一つ、とっておきの場所が眠っている。
 美しく澄んだ泉だ。
 ロッジが並ぶ道は大きく三本に分かれており、中央の道を進んでいくと少し見え辛いが、草木に隠れて丁度人が降りられる段のような坂がずっと続いているのだ。
 水の流れる音を聞いて偶然見つけたのだが、あの時は久方ぶりに少年心が擽った。
 段を降りればすぐ目の前に泉は広がっている。
 その泉の奥は見事に洞窟の様になっており、まるでそこだけ幻想世界のよう。
 故に無駄に手を付けたくなかったというのも、自然を残した理由だ。
 他の人間を立ち入れさせるかどうかは悩むところだ、それくらい綺麗に、見ていると吸い込まれるような恐怖も感じる。
 何度も立ち入った所為で道の跡が出来てしまったが、良く観察をしない限りは気付かれないだろう。
 それにしても、何度来ても美しさが衰えない。
 泉から繋がる川の音が手伝って、世界から隔離されたような印象すら受けた。
 だが、その日はまた少し変わっていた。
 やけに獣の鳴き声がする。
 野鳥とも違うが甲高く切り裂くよな音。それも一匹では無い。
 いよいよ野生に警戒されたか? と唇を噛んだ直後、泉が沸騰したかのように大きな気泡を立てて盛り上がった。

 気が付くと、そこには透明な女……のような何かが立っていた。
 辛うじて人の輪郭に見えたその水の塊は、人に無い妖艶さと触れてはいけない恐怖を帯びていた。

 ハッとした男は気付く。
 その水の塊が徐々にこちらへ近づいている事に。
 何か、嫌な予感がする。
 言い知れぬ不安を抱いた男が咄嗟に後ずさりをしたのと同時に、真後ろで何かが落ちる音がした。
 振り向くとそれが何だったのかすぐに判った。
 道が、無い。
 いや、道が塞がれていたのだ。犬のような恐ろしい生き物によって。
 上の方で何かが鳴く声と、小さな影が立ち去るのが見えた。
 猿……!?
 その時、男の背から冷やりとしたものが身体に巻き付いた。
 呼吸を取られ、もがき、苦しむ。
 次の瞬間には、男は泉の底へと消え去っていた……。


「少しややこしい事になっちまってる」
 集まった覚者達を前に、久方 相馬(nCL2000004)は開口一番そう言った。
 夢見で得た情報を何処から伝えようかと、たっぷり十秒は考え込んで再び口を開いた。
「山奥のキャンプ場で管理人の男が妖に殺される夢を視たんだ。男が殺されるのは泉に行った所為……その泉に潜んでいた妖にやられちまう。ただ、原因は他にも有る」
 相馬は言いながら紙に書きだして説明していく。
「他に妖がいる。三体だ」
 泉の妖を合わせれば四体。組んでいるのか? と聞くと相馬は首を傾げた。
「いや……そうじゃないな。アイツ、喜んでる感じだった。『引っ掛けてやった!』って風にな」
 次に、ロッジの在るキャンプ地の地図を描き出す。
「こんな風に……大まかには三本の道が泉まで繋がってる。これじゃ解りにくいが、高低があるぜ。
 この右から左に向かって段々と高くなってる。一つの段差は五メートルってところかな。で、中央の道の先に泉への道が続いてるんだ」
 泉への道は草木で隠れているが、掻き分ければ普通に見つける事が出来るようだ。
「妖は猿っぽいのと犬が二体。この地形だと待ち伏せされてる可能性があるから気を付けてくれ」
 一本の道に一体、とは限らないかもしれない。最悪、挟み撃ちの状態になる、と相馬は告げる。
「こいつらは泉の妖に協力してるってより、こっちを邪魔して楽しんでんだ。クッソ―……あの顔! 何回思い出しても腹立つぜ……!」
 どうやら、夢の記憶は根深い様だ。
「あぁ、それと管理人のオッサンをどうするかは任せるよ。下手に怪しまれてついて来られても面倒だし……いっそ縛るか? ……ってのは冗談。
 客が来ないっつってたからそれを利用できるかもな」
 妖さえ出なかったら山の探索してみたいよなぁ。
 まだ夢の猿を引きずっていそうな相馬が呟いた。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:朱月コウ
■成功条件
1.全ての妖の撃破
2.管理人の生存
3.なし
どうも、朱月コウです。
忙しなく感じますが、少し凝り始めたいなって思ったらこんなの出来ました。
どうぞ、蚊に刺されて来てください。


●敵情報

泉の妖『グリーフ』……一体
 自然系、ランク1。
 森の泉から湧き出て来た妖。近づく者を泉の中に引きずり込んで溺死させる。
 地上に居ても自身の水を絡めさせて窒息させようとする。
 水の身体で締め付けられると『弱体』のBSに陥る可能性がある。
 他にも泉の水を飛ばす水弾は近距離単体通 貫2[80%,60%]を持つ。
 水弾は泉の中か、地上に居る時でも泉とかなり近くに接して無いと飛ばせないようだ。

 地上には普通に上がって来る。

猿型妖……一体
 生物系、ランク2。
 オランウータンのような外見を持った猿型の妖。
 攻撃は二体の犬に任せている上、自身の攻撃手段は近接攻撃しか持たない。
 だがこいつの膂力を侮ってはいけない。『ノックバック』させられる程の力を持つ。
 追い詰められたらその力が猛威を振るうだろう。
 逃げられると厄介な事になりそうだ。

犬型妖……二体
 生物系、ランク1。
 猿型の統率で動いていると思われる犬型の妖。
 攻撃は単純だが噛みつきの攻撃には『毒』が含まれ、気を取られていると体当たりをかまして来る。


●場所
 覚者達は入ってすぐに三又の道に出会う事になる。
 どの道も正面から見ると突き辺りまで見える程見通しは良いが、各道の間はロッジが障害物になって少々確認し難くなっている。
 中央の道を突っ切るのが泉の道へ辿り着くのには手っ取り早い。
 尚、それぞれの道には五メートル程の段差がある。
 上から下まで飛び降りるならそれ程苦では無いだろうが、反対に上がるのには時間が掛かりそうだ。

 泉の周辺は広く平らである。
 奥が洞窟になっているが、泉の深さが判らないうえ妖をどうにかしないと危険だろう。


●管理人の男
 主だって覚者達の邪魔をしたりはしないが、流石に外が騒がしいと不審に思うかもしれない。
 但し日が暮れる頃に泉に向かってしまうので注意が必要。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
5/8
公開日
2016年08月22日

■メイン参加者 5人■


●宴は陽気に開かれる
 噴出音が断続的にする。
 ほんのり漂うスプレー缶の匂いに包まれた石和 佳槻(CL2001098)は細眼鏡のフレームを指で押し上げた。
 森の中という場所を考えれば、几帳面にも思える虫対策のそれは、当然の行動かもしれない。
 容器の残りを確認して佳槻はそれを収納する。
 彼を含んだ五人は、道路に面した道の傍らでキャンプ場を見遣った。
 決して涼しいとは言い難いキャンプ場の一番低い箇所。
 そこに他とは違った長さの家が在る。恐らくそこが管理小屋だろう。

「ファイヴ……妖……? それを討伐する為にやってきたってのか」
 管理人の男は、まるで他人事のように困惑した顔で覚者達の言葉を繰り返した。
 これから襲われるかもしれないというのに呑気な返答だ。そう、感じられずにはいられない。
 だが、自分しか知らない筈の泉の事まで話された時には、流石に信じざるを得ない様子であった。
 敷地内を荒らされるというのは少々悩みどころではあったが、葦原 赤貴(CL2001019)の三白眼からも、それが冗談ではないことはハッキリしている。
「うーん、本当に出るってんなら……」
「無事終わったら、皆さんで一泊シマスカラ、ネ?」
 何故か『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)によって話が勝手に進んでいる気がする。
 とは言え、これだけ美人で可愛い女性に、しかも上目遣いで言い寄られたとあっては男としても悪い気はしない。
 何より客として来てくれるのなら願ったりではある。
 それはそれとして、と佳槻も付け加えた。
「このままだとお客が来ても被害が出るしそうなったら寂れるどころではありませんから」
 管理人は唸った。
 確かに客の足が無い現状、これ以上不安要素があったとしてはますます収益が無くなる。
「分かった……分かったよ。気にはなるけど、俺は行かない方が良いんだろう?」
「物分かりが良くて助かるわん。泉には絶対近づいちゃダメだからねん?」
 『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)の念押しに、管理人は渋々といった様子で頷いた。
 納得はしてくれたようだ。
 皆が討伐に向かう中、最後に桂木・日那乃(CL2000941)が振り返った。
「ここに、隠れてて」
 静かに扉が閉められる。
 外が騒がしくなったのは、それから約十分後の事だった。


 日差しが再び彼らを照らす。
 向かうは泉、通るのは中央の道のみ。
 三方向に分かれて各個撃破が望ましいと思っていたが、この人数では逆にこちらの戦力をただ削いでしまうだけだろう。
 そう判断した為であった。
 泉の妖と連戦になる事を考えれば、速攻で片を付けるとすると良い判断だったかもしれない。
 何せどの道にどのような敵が待ち構えているのか分からないのだから、別れて行動していると緊急の対応が出来ないかもしれない。
 皆と距離を置いて潜む赤貴の前方を、四人がなだらかな坂を上がって行く。
「暑いわねぇ~……泉はまだかしらん?」
 輪廻はそう言って着物の襟を扇ぐ。
 ただでさえギリギリなのに、ふくよか且つ滑らかな白い肌が期待と極僅かな理性の境目を保って見え隠れする光景は、健全男子であれば非常に目に毒だ。
「……魂行さん、暑いのは分かりますが、もう少しですね……」
 佳槻の苦言にも輪廻は変わらず笑みを崩さない。
「あらあら、もしかして気になるのかしらん?」
 そう言った輪廻は、今度はわざとらしく着崩した着物を佳槻へ見せつけた。
「違います」
 と喜も怒も無い口調で言い切った佳槻は、日那乃とリーネへ目配せした。
「変なの、寄って来るよ?」
「そうですよ、それで求婚なんて迫られた日には……」
 三人の前で、嗚咽が聞こえた。
 あ、何かマズいワードに触れたな、と物陰から見ていた赤貴も気付いたのは、五秒くらいした後だった。
「何か、あった?」
「うぅ……聞いてくれマスカ!?」
 涙ぐんだ声が強くなる。
「愛しの彼が……」
 とリーネが語り出した時点で、輪廻は大体予想が付いたかもしれない。
「とうとう私以外の人と付き合ってしまったのデースウワァァァァァン!!」
 何でも、一目惚れした初恋の相手なんだとか。
 今までは(一方的?)片思いの相手だったが、それも失恋となってしまったらしい。
「ウゥ……でもでも、まだ結婚はしてないデス……! ま、まだチャンスはアリマス……!」
 諦めるつもりもないらしいが。
 飽くまで囮として会話を始めた筈なのだが、いつの間にか感情が籠りきっている。
 それでもリーネの驚異的な直感と、輪廻の聴力は場の変化を逃さなかった。
 砂を蹴る爪音、黒っぽい四足歩行の何か。
「来た」

 ポツリと日那乃が言った直後、物陰から残像が横切った。
 赤を灯した大剣を両手に、その残像、赤貴が狙うは二体の犬の背後に居る猿型。
 だが、その進路に一体の犬型が立ち塞がる。
 抑制の難しい速度に、瞬時に応戦は出来なかったが怯む事は無い。
 それより大事なのは、ここでこの猿を逃さない事。
 もう一体の犬型もそちらへ加わろうとしたが、それを輪廻が阻んだ。
 宿る炎を活性化させると、そこへリーネも詰め寄り、頑強な岩の鎧を纏う。
 犬の牙をそれぞれ防ぐ輪廻と赤貴へ日那乃が恵みの雨を降らし、輪廻の周囲を佳槻の水のベールが覆う。
 目の前の犬を抜けた輪廻が、地を穿った衝撃で赤貴側の犬と猿を衝撃波に巻き込みそのまま赤貴側の犬へ接近。
 隙の出来た犬の牙をひらりと躱し、赤貴は猿へ詰め寄ると巨大な岩槍を撃ち放った。
「抗うな。手間を掛けたくない」
 隆起した岩槍が猿の身体へめり込む。
 それが思わぬ箇所へ当たったのか、猿の動きが鈍くなった。
 近くで雄叫びが聞こえれば、リーネの腕へ犬の牙が食い込んでいる。
 その瞬間、ゾワリとリーネの腕から背中に悪寒が走った。
 毒を流し込まれたか……!
 犬を突きとばしたリーネは即座に間合いを詰め、体勢を崩した犬の胴体へ反撃を叩き込む。
 そのリーネの毒を日那乃が神秘の力によって浄化。
「ありがとゴザイマース!」
 と礼と同時にリーネが貫通波、佳槻の水礫も目の前の犬を襲った。

 犬の肢体が揺れ動く。
 刀の間合いをフェイントに、胴に一発。顔面に一発、再度胴に。
「退いて貰えるかしらん」
 目にも止まらぬ速さで打ち込まれた輪廻の殴打が犬をへこませる。
 その目の前では赤貴が宙を一回転すると、逆手に持ち替えて着地した。
 同時に、彼の持つ大剣を纏う銀光が膨れ上がる。
 一閃、空を薙ぎ払うと刀身から炎の津波が三体を纏めて飲み込んだ。
 響き渡る鳴き声。その中へ日那乃の薄氷が吸い込まれる。
 追撃を受けた犬たちの内、地に落ちた音が一つした。
 直後、輪廻の元へリーネが舞い込む。
「お待たせシマシタ!」
 笑顔を見せた輪廻は、すぐに猿型の元へ駆けた。
 残る一体の犬型。
 大口を開ける。地面を蹴り、鼻先が擦れる。
 その瞬間、横っ面にリーネの拳が叩きこまれる。
 二歩、三歩とよろめいた犬は、意識を失ったように側面から地に伏せた。

 動きの止まった猿型に、佳槻が狙撃、良い的だと言わんばかりに日那乃の薄氷も命中する。
 逃げようとはした。
 いや、それは無理だと分かっていても。
 本能がここに居る事を拒んだのだ。
 だが、それも身体の自由を半分も奪われればほぼ叶わなかった。
「悪いけど、悪戯が過ぎたのよん」
 眼前に迫る、嵐の連撃。
 猿型に出来たのは、それらを見届ける事のみだった。


「確かに……良い場所だ」
 草を掻き分け、段差を降りた赤貴の言葉。
 言われた通り、辿り着くのには苦労はしなかった。
 日の光が余り届かず、それでも泉の水面に反射された光は、薄暗い森の木々と底の見えない水中を半々に映し出している。
 周囲に立った木が虫の音だけを音響にして、まず入って来ない外の喧騒も一切入って来ない。
 もし月の光に照らされたなら、海の一画をそのまま持って来た様な、静かな恐怖もそこにあった。
 だが、今は眺めているのにも命に関わる。
 ここに巣食う悪魔の手によって。
 これがただの観光地であれば、もっと良く落ち着けたかもしれない。

 水面が隆起した。
 無数の気泡。
 水中から這い上がって来たというより、水そのものがそれへ変化していく。

「被害者が出るなら、消す」
 日那乃が淡々と呟く。
 同時に、変化したそれは女性の形を模った。
 飽くまでも『そう見える』だけで、人間とは似ても似つかない水の肌、生気どころか黒目部分も無い瞳。
 そして明らかな殺意。
 覚者達が再び一斉に構えたのも、そうした妖の敵意というのをその身に感じ取ったからであろう。
 地上へ迫る泉の妖、グリーフに対し、まずは輪廻が相対する。
 近接、刀へ伸びた腕はそのままに反転し、肘鉄、裏拳、膝蹴りと連撃を繰り出す。
 そこへ日那乃と佳槻がそれぞれ氷と水の礫を飛来させた。
 水の身体を飛散させたグリーフは、それでも尚、腕を輪廻へ向けて伸ばす。
 それを後退して躱した輪廻、両者の間に赤貴の大剣が立ち入った。
 大剣がグリーフを横薙ぎにするとリーネはその場で貫通弾を放ち、命中したのを確認して輪廻の隣へ並ぶ。
 再び水を収束させ、身体を形成していくグリーフに輪廻の連撃。
 水泡を弾き飛ばす、景気の良い音が響く。
 だが、その水泡がいやに湧きあがっている事に、覚者達は気付く。

 次の瞬間、グリーフの水弾、少し脇から外れて日那乃の薄氷がすれ違った。
 水弾は赤貴を襲う。
 至近距離に居た為か、大剣で弾こうとも少なからず身体へ被弾してしまう。
 佳槻からの射撃を回避しようと試みたグリーフであったが、その時、何やら不思議な感触を覚えた。
 固まった左腕。いつもと違う凝固。
 これは……氷。
 つい先程の氷弾のせいか……!
 その場から離れようとグリーフはもがく。動けない訳では無い。
 もがき続けるグリーフに、覚者達の攻撃が集中する。
 これでは一方的……。
 せめてもの対抗か、グリーフは再び凍っていない片手を、輪廻へ向けて伸ばした。
 泉は近くだ。ならばこのまま水の中へ。
 しかし、その手が掴んだ者は狙いとは全く違う。
「させマセン!」
 手を伸ばした瞬間に間に入った金色の髪。
 リーネによって、それも阻まれた。
 彼女らが道を開ける。
 その背後に、大剣を構えた赤貴が待っていた。
 銀光が膨れ上がる。炎が、剣を纏っている。
「これで終わりだ」
 薙ぎ払われた大剣の炎に、グリーフは飲み込まれた。
 氷が、溶ける。
 いや、溶けたのは……蒸発したのは己の身体ごと、だったか。


 静かな森の中に、平穏は戻った。
 客が来るかどうかは分からないが、安全を取り戻せたのは確かであろう。
 戦闘後に改めて訪れた覚者達に対して、管理人は疑ったりはしなかった。
 あれだけ外で戦闘をしていれば、隠れていても音は聞こえてきたのだろう。
 その後、佳槻の提案により、警戒や監視のシステムが考えられた。
 自然の風景を守りたい管理人がこの提案を呑むかどうかは微妙なところだが、そうなればより安全なのは間違いない。
 修繕が必要な部分と言えば泉の周辺だろうが、恐らく出来る事は簡単に整地してやるくらいだろう。
 あの泉をまた見て行っても良いか? という赤貴の問いに対しても、管理人は快く受け入れてくれた。
「アンタ達が来なきゃ、あぁ……ホントにヤバかったんだろうな。良いよ、構わねぇ、好きなだけ見てってくれ」
 少々無愛想な気もするが、彼は彼なりに感謝している、のだと思う。
 では、とその場を後にしようとした覚者達へ、管理人は呼び止めた。
「なぁ、アンタ達」
 皆振り返る。彼はリーネの方へと顔を向けていた。
「泊まってくれる約束だったろ? さぁ、自然を充分に堪能すると良い」
 あぁ……と皆は思い出す。
 夏の山は、やっぱり暑かった……のかもしれない。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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