【兵器開発局】ショットガントレット改良量産計画・壱
●『開発チームはアナタだ』
「皆さんには兵器開発のため、3チームに分かれて模擬戦闘をして頂きます。勿論、この武器を使って」
説明のために、時間を遡ろう。
ここはファイブの地下闘技場。数十人規模の模擬戦闘などで所属覚者にはなじみの場所だが……。
「普段は、新しい神具開発の実験場として機能しています。町中で兵器を発砲するわけにも、いきませんしね」
久方 真由美(nCL2000003)は一つの写真を簡易デスクに置いて見せた。
ばらばらに分解された銃のパーツのようだが……。
「これは『ショットガントレット』という兵器を分解した写真です。ヒノマル陸軍が開発した新兵器ですが、色々あって一丁持ち帰ることができました。これを研究して一から作れるようになれば、ファイヴでも運用することが可能になります。皆さんが神具庫に行って、ポイントを使っていつでも購入できるようにね」
続いて、白衣の作業員たちがワゴンを引いてやってきた。
シーツを外すと、銀色のガントレットが複数。いや、集まった覚者の人数分あった。
「これは開発室で作ったコピー品ですが……正直に言って劣化コピーです。運用するにはあまりに不安定ですし、何より必要条件を満たしていません」
資料をめくって見せる真由美。
内容によれば、ショットガントレットに期待されていたノックバック性を再現しようとした結果、射撃性を失ってしまったようだ。必要充分な攻撃力も確保できていない。
「やはり机上での再現には限界があります。皆さんでこの武器を使用して、実際の感触を確かめなくては」
そこで配られたのが、模擬戦闘用の特殊スーツだ。
頭、肩、肘、胸、膝。計五箇所に衝撃に反応して破裂するペイントパックが付いている。
更に劣化ショットガントレットを手に取り、真由美は言った。
「皆さんには兵器開発のため、3チームに分かれて模擬戦闘をして頂きます。勿論、この武器を使って」
ルールは簡単。チームのペイントパックが全て破裂したらそのチームは戦闘終了というものだ。
実験終了後にはミーティングを設け、ガントレットに求める性能や特徴なども募るつもりのようだ。
「新兵器の開発に加えて、今まで曖昧に使っていたノックバックというものの性質を明らかにするチャンスでもあります。武器研究であると同時に戦術研究の意味も持つこの実験に、どうか協力してください」
「皆さんには兵器開発のため、3チームに分かれて模擬戦闘をして頂きます。勿論、この武器を使って」
説明のために、時間を遡ろう。
ここはファイブの地下闘技場。数十人規模の模擬戦闘などで所属覚者にはなじみの場所だが……。
「普段は、新しい神具開発の実験場として機能しています。町中で兵器を発砲するわけにも、いきませんしね」
久方 真由美(nCL2000003)は一つの写真を簡易デスクに置いて見せた。
ばらばらに分解された銃のパーツのようだが……。
「これは『ショットガントレット』という兵器を分解した写真です。ヒノマル陸軍が開発した新兵器ですが、色々あって一丁持ち帰ることができました。これを研究して一から作れるようになれば、ファイヴでも運用することが可能になります。皆さんが神具庫に行って、ポイントを使っていつでも購入できるようにね」
続いて、白衣の作業員たちがワゴンを引いてやってきた。
シーツを外すと、銀色のガントレットが複数。いや、集まった覚者の人数分あった。
「これは開発室で作ったコピー品ですが……正直に言って劣化コピーです。運用するにはあまりに不安定ですし、何より必要条件を満たしていません」
資料をめくって見せる真由美。
内容によれば、ショットガントレットに期待されていたノックバック性を再現しようとした結果、射撃性を失ってしまったようだ。必要充分な攻撃力も確保できていない。
「やはり机上での再現には限界があります。皆さんでこの武器を使用して、実際の感触を確かめなくては」
そこで配られたのが、模擬戦闘用の特殊スーツだ。
頭、肩、肘、胸、膝。計五箇所に衝撃に反応して破裂するペイントパックが付いている。
更に劣化ショットガントレットを手に取り、真由美は言った。
「皆さんには兵器開発のため、3チームに分かれて模擬戦闘をして頂きます。勿論、この武器を使って」
ルールは簡単。チームのペイントパックが全て破裂したらそのチームは戦闘終了というものだ。
実験終了後にはミーティングを設け、ガントレットに求める性能や特徴なども募るつもりのようだ。
「新兵器の開発に加えて、今まで曖昧に使っていたノックバックというものの性質を明らかにするチャンスでもあります。武器研究であると同時に戦術研究の意味も持つこの実験に、どうか協力してください」
■シナリオ詳細
■成功条件
1.模擬戦を行なう
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
参加した皆さんの意見や希望をダイレクトに取り入れるチャンスとして、開発チームもやる気を見せています。ぜひご参加ください。
●劣化ガントレット
近接格闘武器。追加効果『ノックバック』。固定ダメージ0。
バラした兵器を参考にマネして作ったものです。
開発チームの話によれば(専門分野なので色々省きますが)作った人間の天才さがわかる兵器だそうで、バラして眺めただけで全く同じものを作るのは不可能だとのことです。
今ある技術で試行錯誤を繰り返していますが、やはり実戦データが必要なようです。
●実験内容
模擬戦を行ないます。
内容はきわめてシンプルです。
皆さんは『劣化ショットガントレット』を装備して、通常の武器攻撃のみを使って相手チームを撃破していきます。
チームのペイントパックが全て破裂したら終了。
単純な話、攻撃を一度食らったら一つのパックが破裂します。クリーンヒットなら二つ。囲まれて集中攻撃などを食らえば三つ以上破裂することもあるでしょう。
防ぐ方法は大きく分けて二つ。
回避するか、庇われるかです。
ルール上『チーム全員のパックが破裂したら』なので、全てのパックが破裂しても味方ガードやブロックを行なって仲間のパックを守ることが出来るでしょう。
ちなみに3チーム制にしたのはあえて乱戦状態を作ってデータをとるためのようです。がしがしやっていきましょう。
尚、仮に今回のことで『ノックバック』について新しい発見があった場合、ファイヴのマニュアルの更新が行なわれます。勿論それは、皆さんの功績です。
折角の機会です。色々試してみましょう。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年08月14日
2016年08月14日
■メイン参加者 8人■
●実用実験
『スポーティ探偵』華神 悠乃(CL2000231)はガントレットを両手に嵌めると、がしんと拳を打ち合わせた。
「今日はキミとわかりあうってことで――ヨロシクっ!」
基本的な使い方はまっすぐ行ってぶっ飛ばす。つまりダッシュアンドストレートである。
しかし悠乃はあえて自ら地面を殴りつけ、散弾の発射によって跳躍。
空中から相手に狙いをつけた。
対するは深緋・久作(CL2001453)。
両腕を翳したガード姿勢でパンチを受けた。接触の瞬間に悠乃のガントレットが炸裂。散弾が飛び出し、久作の身体は地面と反発をおこし、強制的に地面から浮いた。
その際に身体を曲げて重力調整。
これが事故実験などに使う人形ならおもしろいように吹き飛んでいった所だろうが、久作は五メートルほどの滞空を挟んで両足からしっかりと着地。
踵でブレーキをかけ、再び悠乃に狙いを定めた。
(遠距離射程内。ノックバックによって射程外へ飛ばされるというのは杞憂かもしれませんね)
今ガントレットに射撃機能が備わっていれば、それを利用して反撃に出たところである。
久作の横を抜けてネコパンチの構えを撮る『燃焼系ギャル』国生 かりん(CL2001391)。
「とりまぶん殴――」
「国生さんごめん!」
横合いから飛び込む『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)。
アッパーカットが綺麗に決まり。かりんの身体は回転しながら吹き飛んでいった。
大きく弧を描き、地面をバウンドして転がる。
「意外と痛った! パンチラサービスもできやしねーじゃん!」
「そういうこと考えてたの!?」
思わずツッコミを入れてしまった奏空――の隙を突く形で、至近距離まで滑り込んだ赤坂・仁(CL2000426)がボディブロー。アンドショット。
地面と平行に吹き飛び、空中でバランスを崩して回転。
しかし回転を途中から利用し、ガントレットで地面を殴りながら体勢を復旧。四つ足姿勢でスライドすると、すぐさま駆けだした。
目くらまし程度のショットを連続で繰り出す仁。チップ弾をジグザグ走行でかわしつつ、奏空は跳躍。仁へと殴りかか――ろうとした途端、仁の後ろから飛び出した『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)がカウンターショット。
奏空の売り出したガントレットと自らのガントレットを衝突させ、互いに散弾を発射。
激しい衝撃の反発がおき、奏空と誡女はそれぞれ地面を両足でスライドするかたちでのけぞった。
そのタイミングを逃さぬ『狗吠』時任・千陽(CL2000014)。
素早く誡女に接近すると、両腕によるパンチアンドショットを繰り出した。
余波を受けないようにと僅かにバックスウェーをかけた仁の横を縦回転しながら吹き飛んでいく誡女。
が、奏空同様地面にガントレットの指を引っかけて強制ブレーキ。
千陽は自分の両手を見て唸った。
(当たるタイミングと相手の受け方、そして周囲の配置。あらゆる要素が吹き飛ぶ方向に影響している……。もしや、ノックバックにはヒット率が影響しているのでは?)
今のところファイヴの保有しているノックバック性スキルは火行弐式の圧撃と土行弐式の大震のみだ。
コンピューターを用いた戦闘シミュレーションとは違い、実際の戦闘では狙うタイミングや連携のしかたによって攻撃の有効性を引き上げることができる。
いわゆるプレイング補正というやつだ。今千陽がのけぞり時を狙い撃ちにしたのも、プレイング補正である。
(となると、以前敵前衛を押し込んだ実績がどういうものだったのか気になりますね)
「考え事か? 隙があるぞっ!」
『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)が千陽の背後に接近。
ステップを踏んで空振りを誘うが、懐良はその動きを読んでのフェイントをしかけていた。
すり足で距離を詰めてフックパンチ。軽くよろめいた隙にもう一方のガントレットでアッパーカットを叩き込んだ。
「ぐっ!?」
なんとか空中で体勢を整える千陽だが、驚くべきことを発見した。
懐良は吹き飛んだ千陽をくぐり抜け仁へと密着。
バスケットボールでいうところのマンツーマンディフェンスだが、それなら千陽がその対象だったはず。
(ブロックを――!?)
「らしいな。すり抜けられる! チャンスだ!」
「了解でっす!」
奏空は千陽と仁のブロックを抜け、攻撃後後衛に下がっていた悠乃に接近。ダッシュパンチを叩き込む。
まさか二人チームが後衛に抜けてくるとは思わなかった悠乃は咄嗟にガード――をやめて奏空の腕を横から殴りつけた。
結果として奏空のパンチが肩に命中。
悠乃はくるくるとスピンしながらも再び着地。軽やかなフットワークで距離をとり、着地後すぐに割り込んできた千陽によって接近を遮った。
距離をとってトントンステップで体勢を直しながら、考えをまとめる悠乃。
「あ、なんか」
「ん?」
「私たち、割と大事なことに気づかずにいたかもしれない」
戦いは乱戦を極めた。
別に勝者に何かがあるわけではないので、全員が全員をランダムに狙ったためというのもあるが、ノックバック(あくまで『ノックバック』であり吹き飛ばしや転ばしとは別種の追加効果)による陣形の乱れが思った以上に汎用性を持っていたことだ。
かりんが当初気にしていた『定めるとかえって面倒』は全くその通りで、殴り飛ばし自体は時と場合によって様々な結果を生んだ。
上向きに飛ばしたいと思ってアッパーカットを放っても、それが顎に当たるか肩に当たるかで全く飛び方が変わるし、こちらが当てようと思った箇所へ親切に当たってくれる相手でもない。
ここはお互い激しく動き回る戦闘状態ならではだ。
もっと細かい話をすれば、風向きや相手の体重、使用者のコンディションだって細かく影響するだろう。
「そこは後で話し合うとして……」
ペイントパックが全損した久作とかりんはそれぞれ千陽のガードに入っていた。
対して奏空と懐良のチームは奏空をガードに、誡女と仁は悠乃のガードにという展開に進み、最後はお互いのチームにいる壁担当を只管殴りまくるという状態になった。
かりん辺りはなんだこの作業くそウッザとか思っていたが、学者肌の誡女には興味深いケースだった。
検証のために只管殴ってみるというケースが今まで全くなかったからだ。
従来の考えで行くならば、味方ガード担当者が戦闘不能にならない現状で非ガード者に攻撃を当てるのは不可能。
しかし殴り合いを続けるうち、ノックバックを受けた対象者がターン中行動不能になるいわゆるスタン状態に入ることが分かってた。
それゆえ、戦闘は思いの外はやく決着がついたのだった。
ちなみに最後まで残ったのは誡女、仁、悠乃のチームである。
●ミーティング
『今回は限定的に、私が研究所の代表としてお話を進めさせて頂きますね。どこも人手不足のようで……』
誡女はホワイトボードの前に立つと、タブレットPCを操作した。
『まずは、分かったことをまとめましょうか』
目配せを受け、仁がこくりと頷いた。
「まずは隊列への影響についてだが、これはごく一部についてのみあると考えていい」
「ごく一部とは?」
千陽の問いかけに、仁はまずサッカーコートを描き出した。
「実戦経験が少ないと、どうしても敵味方はコートの左右に分かれていて、距離によって前・中・後衛に分かれていると考えがちだ。よって……」
ゴールキーパーの位置に置いたマグネットを、相手のゴール側まで移動させる。
「このような移動はありえないと考えてしまう。だが、戦場では往々にしてありえることだ。なぜなら……」
仁はコートへ均等に並べていてマグネットをぐちゃぐちゃにかき混ぜた。
「目的が相手のゴールへの接近ではなく、相手チームの殲滅にあるからだ。全員の身体がゴールネットのようなものだな」
「なんそれ、相手の身体にシュートすんの?」
頬杖をついてジュースをちゅーちゅーするかりん。
「言い得て妙だな。敵前衛を取り囲みたくなるのは道理だし、敵後衛の背後に回りたいのもまた道理。そして相手も同じことを考え、同じことを防ぐ。専門用語の『ブロック』は互いの近接戦闘者が張り付き合って、マンツーマンディフェンスをかける状態に近いだろう」
「ちょっと待ってくれ、つまり……」
懐良ががたっと立ち上がった。
「オレがブロックをすり抜けたっていうのは」
「このマンツーマンディフェンスができなくなった状態を意味する。つまり、ノックバックによるブロックのすり抜けは可能だ」
「勿論、別の前衛が空いていれば穴を埋めますから、『ノックバックによってブロック要員から外れる』というのが正しいですね」
千陽が手を上げた。
「では、吹き飛ばしによって隊列が変わるというのは?」
「別に一列に整列するわけではない」
「そうでしたか……」
かなりメタな話をして申し訳ないが、元々ノックバックに隊列(前衛~後衛)を強制変更することはできないというルールがあったのだが、マニュアルに記載していなかったので、千陽が経験した敵陣の隊列ならしはその辺のこう、なんていうんだろう、察して。
「まずこういう結論が、出ますね」
久作が、ぽつりと述べた。
「ノックバックという追加効果は、対象のブロックおよび味方ガードをターン中無効にする効果がある、と」
誡女は再びタブレットPCを操作し、次の議題にシフトした。
『では、ノックバックの指向性や汎用性についてですが……』
「これについては、検証を重ねるまでもないでしょう」
千陽が頷き、久作も瞑目した。
「こちらが『右方向に飛ばそう』と考えても、バスケットボールサイズの静止物体ならまだしも人間サイズの動体を狙った方向に飛ばすことはきわめて難しいようです」
「ただノックバックの効果からして、上や下への叩き付けも可能だ。それもまた、狙うのは難しいけどな」
腕組みをして唸る懐良。
悠乃がティーカップをまぜながら言った。
「壁を殴って加速したり、地面を殴って飛ぶってやり方はアリだったかな。移動補助とはいいづらいけど」
『攻撃行動の代わりに移動しているだけですからね。状況次第では何か良い効果につながるかも知れませんが』
プレイング補正は無限に存在するので、その一つとして用いることは充分可能だろう。それこそ時と場合によるが。
「まあつまり、状況次第でうまく使える時があるってことかな。対人戦ならこうして殴るだけだけど、全長10メートルの巨人とか、ボートの上で跳ね回るとか、状況次第ではかなり色々意味を持ってくると思うよ。ただね、これ……皆承知のことだと分かってて言うけど」
ティースプーンをカップから上げる悠乃。
「追加効果って、100%ヒット時にしか発動しないよね」
「それは、勿論。知ってましたよね?」
久作の目配せに、かりんが『なんそれ』という顔をした。
当たり前のことみたいに考えていたが、新しいめの人にとっては急に知った事実みたいに見えるかもしれない。
小さくうなる仁。
「ノックバック攻撃を行なった際に、1m程度のしか下がらない時や10m以上吹き飛んだ時があるのはそのせいだと思われるが」
「検証してみた結果としても、それは明らかですね」
久作がボードにさらさらとヒトガタを書き込んだ。
「たとえば野球のバットで人を殴ればある程度は殴り飛ばせますし、拳や足を使っても同じことができると思います。体術による投げ技も例外ではありませんね。しかしこれはノックバック効果とは言えません」
「確かに。ノックバック効果をもった武器やスキルで100%ヒット以上を出したときのみ、効果をもつということですね」
「ですが、ヒット率に焦点を絞った場合100%がボーダーラインとは思えない部分がありまして」
「と、いうと?」
首を傾げた奏空を、久作がちょいちょいと手招きした。
大人しく立って前へとやってくる奏空。
その後ろに誡女を立たせて、久作はスッと拳を振り上げた。
「あなたが女性を庇っているとして、殴られたら簡単に庇うことをやめるでしょうか」
「それはちょっと……ん? 一人で戦ってる時と、庇うことに専念してるときじゃあ、ノックバックの効果発動ヒット率が変わるってこと?」
「おそらくですが。こればかりは状況による部分も大きいので明確な数字は出しかねますが、終盤の『味方ガードはがし』を繰り返した際の手応えからして、100%ヒットよりは上かと」
「ふむ……」
千陽は頷いて、広げた紙に作戦図のようなものを書き始めた。
「ではノックバックの主な使い方は、自分よりも格下の戦力が複数体ブロックに入った際、大震などを使ってブロック要員から外し、そのターンのみではありますが中~後衛への近接攻撃を行なう……というものになりそうですね」
「あとはガード専門のやつを集中重ねて殴ってはがすとかだな。それこそ状況によるが、成功すればかなり効果が得られるはずだ」
懐良の言葉に、千陽は強く頷いた。
まとめに入る誡女。
『ノックバックに対する検証はこんなところでいいでしょう。こうしてわかったことに関しては、マニュアルの改訂という形で対応しましょうか』
「そこは任せるけど……じゃあコレ、どうしようか」
悠乃はプロトタイプのショットガントレットをテーブルに置いた。
『ショットガントレットに求める機能や効果ですが……』
「申し上げても?」
控えめに手を上げる久作に、誡女が一歩下がった。
ボードの前にたつ久作。
「まず格闘補正は不要です。主力スキルとは言えませんし無駄です。次に術式補正もより優れた武器があるので不要。射撃属性はあってもいいですが、ノックバックも不要ですね。全体の速度的連携を必要としますし」
次々にショットガントレットの特性にバツをつけていく。
「その上で、極限まで昨日を切り詰め、祖体としての能力と勾玉による拡張性をもたせるべきだと思います」
『なるほど。物理攻撃力に特化した銃カテゴリーの武器としてのショットガントレット……ということですね』
「そうなりますね」
「現状最も近い武器は『ハンドガン』ということになりますが……それを更に物理よりにするということですか」
千陽はかなりアリだなという顔で頷いた。
安定性と信頼性は大事だ。
頭の後ろで手を組む懐良。
「ってことは、両手セットじゃなく片手武器として作るってことか」
「なんで?」
首を傾げる奏空に、懐良が両手の指を立てて説明した。
「スロットが5つの両手武器より、スロット3つの片手武器のほうが拡張性たかいだろ」
「なーるほどー」
「とはいえ、ブロックや味方ガードに影響すると分かった以上、武器の交換だけで誰にでもノックバックが可能になるというメリットも捨てがたい。次回はそれらを検証しつつ実戦で試す必要があるかもしれない」
仁はてきぱきと報告書をまとめると、次回の研究テーマを定めにかかった。
「現在、AAAが対応している妖案件がある。これに両方の武器を投入することで実用性を試しつつ、どちらか一方を実用化するというのはどうだろうか。もし没になったとしても、これからのアイデアとして活用できる」
「なるほど。それはいいですね。実戦の場ほど価値を証明するものはありませんから」
かくして、ショットガントレットは射撃特化武器とノックバック格闘武器の二択という形で、実用試験にうつることとなった。
『スポーティ探偵』華神 悠乃(CL2000231)はガントレットを両手に嵌めると、がしんと拳を打ち合わせた。
「今日はキミとわかりあうってことで――ヨロシクっ!」
基本的な使い方はまっすぐ行ってぶっ飛ばす。つまりダッシュアンドストレートである。
しかし悠乃はあえて自ら地面を殴りつけ、散弾の発射によって跳躍。
空中から相手に狙いをつけた。
対するは深緋・久作(CL2001453)。
両腕を翳したガード姿勢でパンチを受けた。接触の瞬間に悠乃のガントレットが炸裂。散弾が飛び出し、久作の身体は地面と反発をおこし、強制的に地面から浮いた。
その際に身体を曲げて重力調整。
これが事故実験などに使う人形ならおもしろいように吹き飛んでいった所だろうが、久作は五メートルほどの滞空を挟んで両足からしっかりと着地。
踵でブレーキをかけ、再び悠乃に狙いを定めた。
(遠距離射程内。ノックバックによって射程外へ飛ばされるというのは杞憂かもしれませんね)
今ガントレットに射撃機能が備わっていれば、それを利用して反撃に出たところである。
久作の横を抜けてネコパンチの構えを撮る『燃焼系ギャル』国生 かりん(CL2001391)。
「とりまぶん殴――」
「国生さんごめん!」
横合いから飛び込む『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)。
アッパーカットが綺麗に決まり。かりんの身体は回転しながら吹き飛んでいった。
大きく弧を描き、地面をバウンドして転がる。
「意外と痛った! パンチラサービスもできやしねーじゃん!」
「そういうこと考えてたの!?」
思わずツッコミを入れてしまった奏空――の隙を突く形で、至近距離まで滑り込んだ赤坂・仁(CL2000426)がボディブロー。アンドショット。
地面と平行に吹き飛び、空中でバランスを崩して回転。
しかし回転を途中から利用し、ガントレットで地面を殴りながら体勢を復旧。四つ足姿勢でスライドすると、すぐさま駆けだした。
目くらまし程度のショットを連続で繰り出す仁。チップ弾をジグザグ走行でかわしつつ、奏空は跳躍。仁へと殴りかか――ろうとした途端、仁の後ろから飛び出した『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)がカウンターショット。
奏空の売り出したガントレットと自らのガントレットを衝突させ、互いに散弾を発射。
激しい衝撃の反発がおき、奏空と誡女はそれぞれ地面を両足でスライドするかたちでのけぞった。
そのタイミングを逃さぬ『狗吠』時任・千陽(CL2000014)。
素早く誡女に接近すると、両腕によるパンチアンドショットを繰り出した。
余波を受けないようにと僅かにバックスウェーをかけた仁の横を縦回転しながら吹き飛んでいく誡女。
が、奏空同様地面にガントレットの指を引っかけて強制ブレーキ。
千陽は自分の両手を見て唸った。
(当たるタイミングと相手の受け方、そして周囲の配置。あらゆる要素が吹き飛ぶ方向に影響している……。もしや、ノックバックにはヒット率が影響しているのでは?)
今のところファイヴの保有しているノックバック性スキルは火行弐式の圧撃と土行弐式の大震のみだ。
コンピューターを用いた戦闘シミュレーションとは違い、実際の戦闘では狙うタイミングや連携のしかたによって攻撃の有効性を引き上げることができる。
いわゆるプレイング補正というやつだ。今千陽がのけぞり時を狙い撃ちにしたのも、プレイング補正である。
(となると、以前敵前衛を押し込んだ実績がどういうものだったのか気になりますね)
「考え事か? 隙があるぞっ!」
『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)が千陽の背後に接近。
ステップを踏んで空振りを誘うが、懐良はその動きを読んでのフェイントをしかけていた。
すり足で距離を詰めてフックパンチ。軽くよろめいた隙にもう一方のガントレットでアッパーカットを叩き込んだ。
「ぐっ!?」
なんとか空中で体勢を整える千陽だが、驚くべきことを発見した。
懐良は吹き飛んだ千陽をくぐり抜け仁へと密着。
バスケットボールでいうところのマンツーマンディフェンスだが、それなら千陽がその対象だったはず。
(ブロックを――!?)
「らしいな。すり抜けられる! チャンスだ!」
「了解でっす!」
奏空は千陽と仁のブロックを抜け、攻撃後後衛に下がっていた悠乃に接近。ダッシュパンチを叩き込む。
まさか二人チームが後衛に抜けてくるとは思わなかった悠乃は咄嗟にガード――をやめて奏空の腕を横から殴りつけた。
結果として奏空のパンチが肩に命中。
悠乃はくるくるとスピンしながらも再び着地。軽やかなフットワークで距離をとり、着地後すぐに割り込んできた千陽によって接近を遮った。
距離をとってトントンステップで体勢を直しながら、考えをまとめる悠乃。
「あ、なんか」
「ん?」
「私たち、割と大事なことに気づかずにいたかもしれない」
戦いは乱戦を極めた。
別に勝者に何かがあるわけではないので、全員が全員をランダムに狙ったためというのもあるが、ノックバック(あくまで『ノックバック』であり吹き飛ばしや転ばしとは別種の追加効果)による陣形の乱れが思った以上に汎用性を持っていたことだ。
かりんが当初気にしていた『定めるとかえって面倒』は全くその通りで、殴り飛ばし自体は時と場合によって様々な結果を生んだ。
上向きに飛ばしたいと思ってアッパーカットを放っても、それが顎に当たるか肩に当たるかで全く飛び方が変わるし、こちらが当てようと思った箇所へ親切に当たってくれる相手でもない。
ここはお互い激しく動き回る戦闘状態ならではだ。
もっと細かい話をすれば、風向きや相手の体重、使用者のコンディションだって細かく影響するだろう。
「そこは後で話し合うとして……」
ペイントパックが全損した久作とかりんはそれぞれ千陽のガードに入っていた。
対して奏空と懐良のチームは奏空をガードに、誡女と仁は悠乃のガードにという展開に進み、最後はお互いのチームにいる壁担当を只管殴りまくるという状態になった。
かりん辺りはなんだこの作業くそウッザとか思っていたが、学者肌の誡女には興味深いケースだった。
検証のために只管殴ってみるというケースが今まで全くなかったからだ。
従来の考えで行くならば、味方ガード担当者が戦闘不能にならない現状で非ガード者に攻撃を当てるのは不可能。
しかし殴り合いを続けるうち、ノックバックを受けた対象者がターン中行動不能になるいわゆるスタン状態に入ることが分かってた。
それゆえ、戦闘は思いの外はやく決着がついたのだった。
ちなみに最後まで残ったのは誡女、仁、悠乃のチームである。
●ミーティング
『今回は限定的に、私が研究所の代表としてお話を進めさせて頂きますね。どこも人手不足のようで……』
誡女はホワイトボードの前に立つと、タブレットPCを操作した。
『まずは、分かったことをまとめましょうか』
目配せを受け、仁がこくりと頷いた。
「まずは隊列への影響についてだが、これはごく一部についてのみあると考えていい」
「ごく一部とは?」
千陽の問いかけに、仁はまずサッカーコートを描き出した。
「実戦経験が少ないと、どうしても敵味方はコートの左右に分かれていて、距離によって前・中・後衛に分かれていると考えがちだ。よって……」
ゴールキーパーの位置に置いたマグネットを、相手のゴール側まで移動させる。
「このような移動はありえないと考えてしまう。だが、戦場では往々にしてありえることだ。なぜなら……」
仁はコートへ均等に並べていてマグネットをぐちゃぐちゃにかき混ぜた。
「目的が相手のゴールへの接近ではなく、相手チームの殲滅にあるからだ。全員の身体がゴールネットのようなものだな」
「なんそれ、相手の身体にシュートすんの?」
頬杖をついてジュースをちゅーちゅーするかりん。
「言い得て妙だな。敵前衛を取り囲みたくなるのは道理だし、敵後衛の背後に回りたいのもまた道理。そして相手も同じことを考え、同じことを防ぐ。専門用語の『ブロック』は互いの近接戦闘者が張り付き合って、マンツーマンディフェンスをかける状態に近いだろう」
「ちょっと待ってくれ、つまり……」
懐良ががたっと立ち上がった。
「オレがブロックをすり抜けたっていうのは」
「このマンツーマンディフェンスができなくなった状態を意味する。つまり、ノックバックによるブロックのすり抜けは可能だ」
「勿論、別の前衛が空いていれば穴を埋めますから、『ノックバックによってブロック要員から外れる』というのが正しいですね」
千陽が手を上げた。
「では、吹き飛ばしによって隊列が変わるというのは?」
「別に一列に整列するわけではない」
「そうでしたか……」
かなりメタな話をして申し訳ないが、元々ノックバックに隊列(前衛~後衛)を強制変更することはできないというルールがあったのだが、マニュアルに記載していなかったので、千陽が経験した敵陣の隊列ならしはその辺のこう、なんていうんだろう、察して。
「まずこういう結論が、出ますね」
久作が、ぽつりと述べた。
「ノックバックという追加効果は、対象のブロックおよび味方ガードをターン中無効にする効果がある、と」
誡女は再びタブレットPCを操作し、次の議題にシフトした。
『では、ノックバックの指向性や汎用性についてですが……』
「これについては、検証を重ねるまでもないでしょう」
千陽が頷き、久作も瞑目した。
「こちらが『右方向に飛ばそう』と考えても、バスケットボールサイズの静止物体ならまだしも人間サイズの動体を狙った方向に飛ばすことはきわめて難しいようです」
「ただノックバックの効果からして、上や下への叩き付けも可能だ。それもまた、狙うのは難しいけどな」
腕組みをして唸る懐良。
悠乃がティーカップをまぜながら言った。
「壁を殴って加速したり、地面を殴って飛ぶってやり方はアリだったかな。移動補助とはいいづらいけど」
『攻撃行動の代わりに移動しているだけですからね。状況次第では何か良い効果につながるかも知れませんが』
プレイング補正は無限に存在するので、その一つとして用いることは充分可能だろう。それこそ時と場合によるが。
「まあつまり、状況次第でうまく使える時があるってことかな。対人戦ならこうして殴るだけだけど、全長10メートルの巨人とか、ボートの上で跳ね回るとか、状況次第ではかなり色々意味を持ってくると思うよ。ただね、これ……皆承知のことだと分かってて言うけど」
ティースプーンをカップから上げる悠乃。
「追加効果って、100%ヒット時にしか発動しないよね」
「それは、勿論。知ってましたよね?」
久作の目配せに、かりんが『なんそれ』という顔をした。
当たり前のことみたいに考えていたが、新しいめの人にとっては急に知った事実みたいに見えるかもしれない。
小さくうなる仁。
「ノックバック攻撃を行なった際に、1m程度のしか下がらない時や10m以上吹き飛んだ時があるのはそのせいだと思われるが」
「検証してみた結果としても、それは明らかですね」
久作がボードにさらさらとヒトガタを書き込んだ。
「たとえば野球のバットで人を殴ればある程度は殴り飛ばせますし、拳や足を使っても同じことができると思います。体術による投げ技も例外ではありませんね。しかしこれはノックバック効果とは言えません」
「確かに。ノックバック効果をもった武器やスキルで100%ヒット以上を出したときのみ、効果をもつということですね」
「ですが、ヒット率に焦点を絞った場合100%がボーダーラインとは思えない部分がありまして」
「と、いうと?」
首を傾げた奏空を、久作がちょいちょいと手招きした。
大人しく立って前へとやってくる奏空。
その後ろに誡女を立たせて、久作はスッと拳を振り上げた。
「あなたが女性を庇っているとして、殴られたら簡単に庇うことをやめるでしょうか」
「それはちょっと……ん? 一人で戦ってる時と、庇うことに専念してるときじゃあ、ノックバックの効果発動ヒット率が変わるってこと?」
「おそらくですが。こればかりは状況による部分も大きいので明確な数字は出しかねますが、終盤の『味方ガードはがし』を繰り返した際の手応えからして、100%ヒットよりは上かと」
「ふむ……」
千陽は頷いて、広げた紙に作戦図のようなものを書き始めた。
「ではノックバックの主な使い方は、自分よりも格下の戦力が複数体ブロックに入った際、大震などを使ってブロック要員から外し、そのターンのみではありますが中~後衛への近接攻撃を行なう……というものになりそうですね」
「あとはガード専門のやつを集中重ねて殴ってはがすとかだな。それこそ状況によるが、成功すればかなり効果が得られるはずだ」
懐良の言葉に、千陽は強く頷いた。
まとめに入る誡女。
『ノックバックに対する検証はこんなところでいいでしょう。こうしてわかったことに関しては、マニュアルの改訂という形で対応しましょうか』
「そこは任せるけど……じゃあコレ、どうしようか」
悠乃はプロトタイプのショットガントレットをテーブルに置いた。
『ショットガントレットに求める機能や効果ですが……』
「申し上げても?」
控えめに手を上げる久作に、誡女が一歩下がった。
ボードの前にたつ久作。
「まず格闘補正は不要です。主力スキルとは言えませんし無駄です。次に術式補正もより優れた武器があるので不要。射撃属性はあってもいいですが、ノックバックも不要ですね。全体の速度的連携を必要としますし」
次々にショットガントレットの特性にバツをつけていく。
「その上で、極限まで昨日を切り詰め、祖体としての能力と勾玉による拡張性をもたせるべきだと思います」
『なるほど。物理攻撃力に特化した銃カテゴリーの武器としてのショットガントレット……ということですね』
「そうなりますね」
「現状最も近い武器は『ハンドガン』ということになりますが……それを更に物理よりにするということですか」
千陽はかなりアリだなという顔で頷いた。
安定性と信頼性は大事だ。
頭の後ろで手を組む懐良。
「ってことは、両手セットじゃなく片手武器として作るってことか」
「なんで?」
首を傾げる奏空に、懐良が両手の指を立てて説明した。
「スロットが5つの両手武器より、スロット3つの片手武器のほうが拡張性たかいだろ」
「なーるほどー」
「とはいえ、ブロックや味方ガードに影響すると分かった以上、武器の交換だけで誰にでもノックバックが可能になるというメリットも捨てがたい。次回はそれらを検証しつつ実戦で試す必要があるかもしれない」
仁はてきぱきと報告書をまとめると、次回の研究テーマを定めにかかった。
「現在、AAAが対応している妖案件がある。これに両方の武器を投入することで実用性を試しつつ、どちらか一方を実用化するというのはどうだろうか。もし没になったとしても、これからのアイデアとして活用できる」
「なるほど。それはいいですね。実戦の場ほど価値を証明するものはありませんから」
かくして、ショットガントレットは射撃特化武器とノックバック格闘武器の二択という形で、実用試験にうつることとなった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし








