【F村S2】隠し鉱山を手に入れろ!
●栄え広がれファイヴ村
サザナミ村に建設された灯台は、無線の使えない現代日本において重要な役割を果たすだけでなく、村のシンボルとしても有名だ。
望遠設備の整った監視室からは海側からの脅威を早く察知するだけでなく、村の色々な場面を眺めることが出来るからだ。
マックス村に建設された食堂や家々の様子。新しく開かれた裏山の田畑や牧場。興業から帰ってくるすねっこキャラバンのワゴンや、シーレジャーに来る客の列。
海側では漁船が行き来し、港は魚とネコと猟師でいっぱいだ。
だがそんな全ての光景には、人と古妖がお互いを尊重し合って生活する風景が重なっている。
人と古妖が共存する村づくりは、ここに来て完成の目を見たのかもしれなかった。
だがそんな中、ファイヴ村にある知らせが寄せられた。
山側から更に進んだ先に、鉱山地帯が発見されたという。
しかし……。
「古妖が人を遠ざけているんですか?」
「はい。この鉱山を掘れば僅かではありますが金や鉄といった鉱石資源が得られますが、そういった人々を略奪者だと考える古妖が住み着いているのです」
古妖の名前は『岩石親方』。岩でできた人型の古妖で、周囲の石などにかりそめの命を与えて使役する能力をもつという。
「近づけば問答無用でこのツブテたちをけしかけてきます。なので我々は土地の手放しを考えているのですが……もしかしたらファイヴ村の皆さんなら何か画期的な対策がとれるのではないかと」
「なるほど……わかりました」
ファイヴ村のテーマは『人と古妖が共存する村』。
その理念は確かに村を動かし、巨大なコミュニティへと成長させた。
その裏にあったのは勿論村の管理者たちだ。彼らの力があれば、日本中にある古妖や妖の問題を抱えた村々を救うことができるかもしれない。
今再び、ファイヴ村の力が必要とされていた!
サザナミ村に建設された灯台は、無線の使えない現代日本において重要な役割を果たすだけでなく、村のシンボルとしても有名だ。
望遠設備の整った監視室からは海側からの脅威を早く察知するだけでなく、村の色々な場面を眺めることが出来るからだ。
マックス村に建設された食堂や家々の様子。新しく開かれた裏山の田畑や牧場。興業から帰ってくるすねっこキャラバンのワゴンや、シーレジャーに来る客の列。
海側では漁船が行き来し、港は魚とネコと猟師でいっぱいだ。
だがそんな全ての光景には、人と古妖がお互いを尊重し合って生活する風景が重なっている。
人と古妖が共存する村づくりは、ここに来て完成の目を見たのかもしれなかった。
だがそんな中、ファイヴ村にある知らせが寄せられた。
山側から更に進んだ先に、鉱山地帯が発見されたという。
しかし……。
「古妖が人を遠ざけているんですか?」
「はい。この鉱山を掘れば僅かではありますが金や鉄といった鉱石資源が得られますが、そういった人々を略奪者だと考える古妖が住み着いているのです」
古妖の名前は『岩石親方』。岩でできた人型の古妖で、周囲の石などにかりそめの命を与えて使役する能力をもつという。
「近づけば問答無用でこのツブテたちをけしかけてきます。なので我々は土地の手放しを考えているのですが……もしかしたらファイヴ村の皆さんなら何か画期的な対策がとれるのではないかと」
「なるほど……わかりました」
ファイヴ村のテーマは『人と古妖が共存する村』。
その理念は確かに村を動かし、巨大なコミュニティへと成長させた。
その裏にあったのは勿論村の管理者たちだ。彼らの力があれば、日本中にある古妖や妖の問題を抱えた村々を救うことができるかもしれない。
今再び、ファイヴ村の力が必要とされていた!

■シナリオ詳細
■成功条件
1.鉱山をなんとかしよう
2.村の事業をすすめよう
3.なし
2.村の事業をすすめよう
3.なし
好評を博したファイヴ村シリーズですが、ちょっと長く続いたので前回で一旦終了となりました。
参加優先権も一旦リセットされていますので、もしかしたら顔ぶれも変わるかもしれませんね。
今回からはシーズン2ということで、各地に出張して村的問題を解決していくワンランク上のシリーズとなっております。
とはいえこれまで育ててきたあれやこれやもありますので、サブ要素としてちゃんと残してございます。
●岩石親方
鉱山をこれまで人々の目から隠し、発覚した今でも人々を遠ざけようとしている古妖です。
これまで人間との関わりをもたなかったので、『人間=略奪者』という偏見を持っています。
接触したらまずは問答無用で兵隊をけしかけてくるのでバトル自体はさけられませんが、その後の展開は工夫次第で変えることが出来ます。
一番楽なのは岩石親方もろとも殺害して鉱山を手に入れることですが、話し合いで解決することもできなくはないでしょう。
しかし『話が出来る=意見が通る』ではないので、やり方を工夫しないとこじれてしまいます。
(※ツブテは近単物小ダメージのかなり弱めのエネミーです。そのぶん沢山出ます)
●村の事業を進めよう
『自分の担当はコレ!』という自覚のある方はその事業を進めてください。
他にも鉱山をどうするとか、増えてきた村人をどうするとか、やることは沢山あります。
ざっくり以下にまとめてみました。
・農林:裏山の使い道が実は決まってない。そろそろ米の収穫時期。
・酪農:最近ちょっぴり人手不足。飲食業との兼任はちょっとキツいか?
・漁業:滑り出し順調。ただ海上で妖が出ると恐いので、対策がいるかも。
・観光:海や山を見る以外に来る目的は無い。担当者も今のところいない。
・建設:移住者が増えたことで家を建てる業者が足りていない。
・事務:全国からの問い合わせに対応しきれないかも。
・鉱山:どうなるかまだ未定
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/8
6/8
公開日
2016年08月29日
2016年08月29日
■メイン参加者 6人■

●岩石親方と隠し鉱山
立ち入り禁止の看板をまたいで、ずんずん進む赤ジャージ。
その名も愉快なユカリッチ。
飲むデザートみたいなニックネームだが本名は『田中と書いてシャイニングと読む』ゆかり・シャイニング(CL2001288)。芸人みたいな名前である。
そんな彼女が、鉱山の前で仁王立ちした。
「こんにちはー!」
「かえれー!」
やまびこよりも早い反応速度で鉱山の扉を蹴破って出てくる岩石親方。
岩でできたゴリラみたいなそのフォルムで岩をバシンと叩くやいなや、崩れ落ちてきた岩が手足の生えた妖怪へと変化した。
「人間は帰れー! ぶっころすぞ!」
「私たち、マックス村からきたものです!」
「そんな村しるかー!」
「ぜひ! 親方さんといい関係を築きたくて!」
「人間といい関係なんて気づけるかー! かえれー!」
親方が地面をリズミカルに叩くと、あちこちから崩れてきた大小様々な岩が妖怪化して襲いかかってくる。
ただ石を投げつけられただけでも痛いのに、石がひとりでに飛びかかってくるとあっては大変だ。
「やはりこの状況は避けられませんか」
「知ってた!」
『希望峰』七海 灯(CL2000579)と『村の王子様』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)がゆかりの前へ飛び出し、襲い来るツブテたちを振り払い始めた。
「ユカリッチ=サン、オヤカタへ熱いパッションをぶつけるんだ!」
「はい!」
「そして頼れる王家の背中にときめきつつ余をねぎらって二十秒くらいで話まとめて!」
「むりです!」
「知ってた!」
幸い回復担当はそろっている。思えばたいしてバトルに精を出さない村運営だが、そろったメンツの基礎戦闘力はファイヴでもトップクラスなのだ。
「私たちのこと、分かって欲しい。仲良くしたいから……」
『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)は自らのエネルギーを注入した注射器を村の王子と事務局長に投げまくった。
「とにかく耐えて、話し続ける!」
「それしかないわね」
同じく回復に専念する『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)。気を練り上げて空へ放つと、治癒効果をもつ雨へと変化させた。
メガホン片手に呼びかけるゆかり。
「親方さんを略奪者からお守りするかわりに、この周辺の土地と使わせていただきたいんです!」
「うそつきだー! 人間は嘘つきだー! 仲良くするふりして、俺を怖がってるんだ!」
ツブテを両手に掴むとぽいぽいと投げつけてくる。
それをキャッチし、『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は目を光らせた。
「鉱石が僅かながら出るという情報……それはすなわち採掘が行なわれていた事実を示している。親方からすれば、それは略奪に見えたのかもしれん」
今でこそ古妖を古妖として見ているが、ある日突然岩石のゴリラがしゃべり出したら即通報。あるいはその場で殴り殺しているだろう。
1~2世代前の鉱山労働者なら尚のこと。土地権利書も持たない古妖を害獣扱いしてもおかしくはない。
「出て行けー! 二度と山に近づくんじゃなーい!」
「わかりましたー!」
「……えっ?」
ぴたりと動きを止める岩石親方。
ゆかりは、額から流れる血をそのままに、強く叫んだ。
「鉱山を秘匿して、誰も立ち入らないようにします! できます!」
「……ほんとうに?」
「ほんとうです!」
「ころさない?」
「ころしません!」
それこそ顔もゴリラめいている親方である。表情は変わりにくいが、全身から落ち込んでいる気分が窺えた。
「それで、気が向いたらなんですけど……村のお手伝いをして頂けたら嬉しいです」
「手伝いだと? い、嫌だと言ったらどうするんだ!」
「どうもしないわ」
回復の必要はないと分かって腕組みするエメレンツィア。
「ただ、何もせずに朽ちていくのは避けたいし、誰かが迷い込んで犠牲になるのも避けたいのよ」
「オオ……」
岩石親方は岩そのものの手で顔を覆った。
「ミーは沢山、人間に石を投げてきた。きっと殺されると思った……」
「大丈夫です。そんなこと、させません」
ゆかりはポケットからクッキーを取り出すと、岩石親方に差し出した。
「ここはあなたのお家です。一緒に暮らしましょう」
差し出されたクッキーを、親方はそっと手に取った。
そしてぽろりと、親方の目から金色の小石が落ちた。
●鉱山なんていらないから
「親方ー、エロティカルな冊子いるー?」
やけにフレンドリーに接してくるプリンスに、親方は軽く引いていた。
こういう人間がまわりに居なかったんだとおもう。数百年規模で。
「あのね、土木作業とかにツブテを貸してくれたら、鉱山の封鎖手伝えると思う」
「本当か? 金とか銀とか……たくさんあるぞ?」
「この先百年掘れるくらいじゃないでしょ? 正直、そんなにお金いらないしね」
今やファイヴ村は百人規模を余裕で越える大きな村だ。
農作や漁業といった一次産業を基板に、シーレジャーや食堂経営といった幅広い事業展開でかなりの金額が日夜動いている。今更いちおくまんえん手に入った所で『じゃあ灯台もう一本いく?』くらいの話にしかならないのだ。
「でも……ツブテは頭が悪い。物を運んだり岩を掘ったりしかできないぞ」
「やりたいのは建設業だからさ。加工した石材や木材を石油とか使わずに運べるのがイイんだよ。ね、ゲンさん!」
「ごわす」
建設なら任せろとばかりに初期メンバーでおなじみのゲンさんがファイルを持ってきた。
「王子の言いたいのはこれでごわすな」
ゲンさんが広げたのは古民家改築などに用いる資料だ。
京都や金沢といった古い土地には古い家がそのまま残っていて、その風景を壊すこと無く改築するという業者も多い。
だが逆に、コンビニやファミレスだって欲しいので景観を壊さないように雰囲気に合わせて古民家っぽく作るという技術も進んでいるのだ。建築学科の若者とかが着目したがるポストモダンジャンルだ。
「みんなそろそろ長屋の雑魚寝も飽きたと思ってさ。生まれた時代にあった建築様式を取り入れるってどうかな」
「いいでごわすな。してプロジェクト名は」
「王子ダブルバイセップス城下町計画さ!」
歯を光らせるプリンス。
名前からしてお城作る気だこの人と思って、親方とゲンさんは顔を見合わせた。
●コヨーワーク!
「コヨーワークだよ!」
「コヨーワークですか!」
「こよーわーく?」
ファイヴ村第二拠点、サザナミ村。
最近完成したばかりの灯台には展望スペースやカフェが併設されている。
そのカフェに渚とゆかりそして副村長が集まっていた。
「最近色んな所に行ってわかったんだ。妖の被害で真っ先に経営が破綻するのって、一次産業なの。畑に漁に家畜に鉱物。安全に採取する場所をみんな求めてるんだよ。その割に人手は足りちゃうから、農業大学や専門学校からの新卒採用率が低くなるの。だから、そういったジャンルの人たちに募集をかけて村に招こうと思うの」
「それと、コヨーワークに何の関係があるんじゃ?」
「古妖って、お金が欲しくてもお仕事探せないでしょ。でもここに来れば、大抵の仕事は紹介できるし、斡旋もできると思うの」
「灯台の強化要因に木の子さんを連れてきたみたいにですね」
「それと一緒に、事業も思い切って拡大しよう」
渚は色鉛筆で描いたイメージスケッチをテーブルに広げた。
「マックス村の裏山に牧場地帯を作ろう。あそこは人が住むには適してないし、作物栽培にも適してないエリアがあるんだよね。でもそういう所は牧場には適してるの」
「牧場経営っていうと……乳搾り体験とか、ソフトクリームとか生キャラメルとかですか?」
「うん、観光事業への転換もだね。それは牧場としての下地が整ってからになるかな。あとは、山の感じを活かしてジップラインやターザンアクティビティを開いてみるっていうのもおもしろいと思うの」
ターザンアクティビティとは文字通り高い木から木へワイヤーロープで移動する遊びのことだ。山ばっかでゴルフ場にもなんねーような土地をそのまま利用した施設として注目されている。千葉のターザニアなんて施設もその一つだ。
「ファイヴ村は色んな所から注目されてる。でも注目される時期が終わってからが本番なんだ。継続的に人が入ってくれて、定着してくれる。そういう村にしていかなくちゃならないんだよ」
●ふわもこは正義
「フーン、じゃあ鉱山貰わなかったんだ」
「ソーミタイダネ」
アマゾネスがすねこすりのブラッシングをしながら頷いた。
最近入ってきた新人に世話の仕方を教えているのだ。
「金も、ダイヤも、ワタシタチにはイラナイ。なぜならここに、フワモコが、アルカラ」
「もふもふうううううう! うおおおおおおおおもふもふううううううう!」
ゲイルが全身全霊ですねこすりと戯れていた。
両腕に抱えてでんぐり返しを繰り返すという、路上で見かけたら即通報モンの奇行である。
壁までいったらぺたんと寝転がり、頭から背中(?)にかけてもみほぐしてこねるという独学によるマッサージを施していく。
素人からすればすねこすりにマッサージなんて効果あるのかって感じだしそもそも筋肉や血管があんのかこいつって話だが、かようたびに戯れ続けていたゲイルにはなんとなく分かっていた。
「そうかあ、気持ちいいか。よーしよしよしよしよし」
「リーダーは……ああしてフワモコと対話してるヨ」
「対話……」
「愛情ダヨ。愛情でタッチすると、愛情で応える。ネコもクマも皆同じダヨ。動物は皆そうやって対話してる」
ゲイルは暫くすねこすりをマッサージしたあと、キリッとダンディな顔つきになって立ち上がった。
「すねこすり牧場を、開くぞ」
「「リーダー!?」」
「専用のステージを作り、台本も用意する。店に行く牧場から、見に来て貰う牧場へとシフトチェンジだ」
「ついにその時が来るんですね、リーダー!」
「そうと決まれば――」
ゲイルは上半身のシャツを脱ぎ捨てた。
「コミュニケーションだ!」
「「リイイイダアアアア!!」」
これはすねこすり牧場が『ふわもこ古妖ぱーく』へと変わっていくまでの、ほんのスタートラインである。
●神のあたえし米
日本神道において農作は清浄な行為である。
元々稲作を生活基盤としていた文化から発生したメンタルヘルスというだけあって、農民のために色々な教えが作られていた。
「その殆どは、風がふく理由や雷がおちる理由だったんダモ。不思議なことは全部神様がやってくれる。お米も育つ。だからみんな学校に行かなくても生きて行けたんダモ」
「今では考えられない価値観だけれど……学校の無い国ではそういう精神のよりどころが今でも存在しているものね。そういう土地では、古妖もそれらしく生きているのかしら」
「日本にもそういう教えはあった。山に入るときは神様に断わりを入れる。でも何百年も前から、それを人間たちは忘れてしまったみたいだ」
首をゆっくりとふる岩石親方。
エメレンツィアは頷いて、ティーカップを置いた。
「そうでもないわ。人間は『未知なるもの』を理解し始めてる。科学信仰が絶対でないことや、森羅万象の住人たちの存在や、それこそ神様の有無を考え始めてるわ。きっと遠くない将来、人々は新しい価値観を手に入れるでしょうね」
振り返ると、そこには広大な田園が広がっていた。
見渡す限り金の稲穂だ。米の収穫時期が近いのだ。
農作に関わるようになって、エメレンツィアはたびたび痛感することがある。
それは科学が万能ではないということだ。
地震の起きるメカニズムも、台風の進路も、太陽の巡り方も知っている。しかし地震を止めることも太陽を逆に回すことも、勿論風を逆向きに吹かせることもできない。
なぜなら地球という巨大な存在の上に自分たちが存在しているからだ。
それはたかだか半径一キロの土からトマトを生やすだけでも難しい。
土は酷使すれば病気をもつし、虫を嫌えば土を枯らすことになる。太陽を嫌がれば米は実らず、雨を嫌がれば稲穂は死ぬ。そしてその全てが、思い通りになどいかないのだ。
惑星規模の不思議の上に、自分たちは生きている。
分かった気になったところで、何も出来はしないのだ。
と、そんな壮大な考えから絞り出された知恵はただひとつ。
「寄り添って育てる……だけなのね、結局は」
古妖の特殊能力になど、最初から頼る必要は無い。
地球のもつ力に頼るのが農作の基本だからだ。
「自給自足をするってわけでもないもの。これからは基本の野菜と米の栽培を進めていくわ。ある程度は村で自給して、余った分を売っていく。それがこの村の行き方としては丁度いいのかもしれないわね」
「ダモ」
●こちらファイヴ村事務局
「私メリーさん。コールセンターにいるの。あなた都市伝説ね? 大丈夫、いい話があるわ。今度特別な村を作るからそこで――」
「最終学歴は、中卒? 全く問題ありません。スポーツなどされていましたか? でしたら――」
「かわいいのがお仕事? けっこう、きっと気に入りますよ。今そういった方が求められていて――」
コールセンターは今日も電話でひっきりなしだ。
灯はコーヒーを片手に、分厚いファイルをパタンと閉じた。
事務所に並べられたスチールデスクにはそれぞれ担当部署のプレートが置かれ、必要に応じて専門分野を細分化する処理を施している。
まずは電話を受けるだけの係が相手の用件を聞いてメモをとり、それぞれの担当者に取り次ぐという作業ツリーを作ったのだ。
誰が作ったのかといえば、コールセンターの初期メンバーでもあったレンさんである。
パソコンのサポートセンターで働いていたという彼女は、情報のレール形成に長けていた。
「助かりました。私たちで一から十まで担当していたらキリがありませんでしたから……」
「いえ。会話能力だけの古妖をコールセンターに雇い入れるアイデアは素晴らしかったですよ、七海局長」
「局長だなんて……」
てれてれする灯。
「ですが、やはり古妖は古妖。人間的な会話マナーを知らずにいるパターンが多いですから、表層部分での起用は難しいでしょう。逆に人間スタッフが古妖の複雑怪奇な事情を察するのも難しいかと」
「レンさんでもですか?」
「相当アレな人を沢山対応してきましたから、人間相手なら自信があります。日本語が通じない日本人とだって会話できますけれど……『蛍光灯をチカチカさせる係』さんのLEDへの憎しみ聞いてあげる自信はありません」
「それは確かに……」
古妖。つまり妖怪はかなりいいかげんな存在だ。宇宙人クラスの意味不明さで生きている。しかし地球上に存在している以上、地球上の何かを何かにして生きているのだ。
灯火も『窒素ガスが主食なんですが……』と言われた時には焦ったが、キーボードクリーナーなどの液体窒素缶を備蓄すればいいと気づけば話は早い。
「さて、問題はこっちですね……」
分厚いファイルに目をやる。
それはファイヴ村に来たいという問い合わせの中にごくまれに混じってくる『うちの村もどうにかできないか?』といった相談だ。
「全て対応するには、ファイヴの人員を全部使っても足りるかどうかですよね……」
「では、その中のひとつを解決して、モデルケースとしてホームページなどに掲示するというのはどうでしょうか」
「モデルケースですか……うーん……」
灯の頭に、なんだかとんでもないワードが浮かんだ気がした。
出張ファイヴ村、である。
立ち入り禁止の看板をまたいで、ずんずん進む赤ジャージ。
その名も愉快なユカリッチ。
飲むデザートみたいなニックネームだが本名は『田中と書いてシャイニングと読む』ゆかり・シャイニング(CL2001288)。芸人みたいな名前である。
そんな彼女が、鉱山の前で仁王立ちした。
「こんにちはー!」
「かえれー!」
やまびこよりも早い反応速度で鉱山の扉を蹴破って出てくる岩石親方。
岩でできたゴリラみたいなそのフォルムで岩をバシンと叩くやいなや、崩れ落ちてきた岩が手足の生えた妖怪へと変化した。
「人間は帰れー! ぶっころすぞ!」
「私たち、マックス村からきたものです!」
「そんな村しるかー!」
「ぜひ! 親方さんといい関係を築きたくて!」
「人間といい関係なんて気づけるかー! かえれー!」
親方が地面をリズミカルに叩くと、あちこちから崩れてきた大小様々な岩が妖怪化して襲いかかってくる。
ただ石を投げつけられただけでも痛いのに、石がひとりでに飛びかかってくるとあっては大変だ。
「やはりこの状況は避けられませんか」
「知ってた!」
『希望峰』七海 灯(CL2000579)と『村の王子様』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)がゆかりの前へ飛び出し、襲い来るツブテたちを振り払い始めた。
「ユカリッチ=サン、オヤカタへ熱いパッションをぶつけるんだ!」
「はい!」
「そして頼れる王家の背中にときめきつつ余をねぎらって二十秒くらいで話まとめて!」
「むりです!」
「知ってた!」
幸い回復担当はそろっている。思えばたいしてバトルに精を出さない村運営だが、そろったメンツの基礎戦闘力はファイヴでもトップクラスなのだ。
「私たちのこと、分かって欲しい。仲良くしたいから……」
『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)は自らのエネルギーを注入した注射器を村の王子と事務局長に投げまくった。
「とにかく耐えて、話し続ける!」
「それしかないわね」
同じく回復に専念する『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)。気を練り上げて空へ放つと、治癒効果をもつ雨へと変化させた。
メガホン片手に呼びかけるゆかり。
「親方さんを略奪者からお守りするかわりに、この周辺の土地と使わせていただきたいんです!」
「うそつきだー! 人間は嘘つきだー! 仲良くするふりして、俺を怖がってるんだ!」
ツブテを両手に掴むとぽいぽいと投げつけてくる。
それをキャッチし、『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は目を光らせた。
「鉱石が僅かながら出るという情報……それはすなわち採掘が行なわれていた事実を示している。親方からすれば、それは略奪に見えたのかもしれん」
今でこそ古妖を古妖として見ているが、ある日突然岩石のゴリラがしゃべり出したら即通報。あるいはその場で殴り殺しているだろう。
1~2世代前の鉱山労働者なら尚のこと。土地権利書も持たない古妖を害獣扱いしてもおかしくはない。
「出て行けー! 二度と山に近づくんじゃなーい!」
「わかりましたー!」
「……えっ?」
ぴたりと動きを止める岩石親方。
ゆかりは、額から流れる血をそのままに、強く叫んだ。
「鉱山を秘匿して、誰も立ち入らないようにします! できます!」
「……ほんとうに?」
「ほんとうです!」
「ころさない?」
「ころしません!」
それこそ顔もゴリラめいている親方である。表情は変わりにくいが、全身から落ち込んでいる気分が窺えた。
「それで、気が向いたらなんですけど……村のお手伝いをして頂けたら嬉しいです」
「手伝いだと? い、嫌だと言ったらどうするんだ!」
「どうもしないわ」
回復の必要はないと分かって腕組みするエメレンツィア。
「ただ、何もせずに朽ちていくのは避けたいし、誰かが迷い込んで犠牲になるのも避けたいのよ」
「オオ……」
岩石親方は岩そのものの手で顔を覆った。
「ミーは沢山、人間に石を投げてきた。きっと殺されると思った……」
「大丈夫です。そんなこと、させません」
ゆかりはポケットからクッキーを取り出すと、岩石親方に差し出した。
「ここはあなたのお家です。一緒に暮らしましょう」
差し出されたクッキーを、親方はそっと手に取った。
そしてぽろりと、親方の目から金色の小石が落ちた。
●鉱山なんていらないから
「親方ー、エロティカルな冊子いるー?」
やけにフレンドリーに接してくるプリンスに、親方は軽く引いていた。
こういう人間がまわりに居なかったんだとおもう。数百年規模で。
「あのね、土木作業とかにツブテを貸してくれたら、鉱山の封鎖手伝えると思う」
「本当か? 金とか銀とか……たくさんあるぞ?」
「この先百年掘れるくらいじゃないでしょ? 正直、そんなにお金いらないしね」
今やファイヴ村は百人規模を余裕で越える大きな村だ。
農作や漁業といった一次産業を基板に、シーレジャーや食堂経営といった幅広い事業展開でかなりの金額が日夜動いている。今更いちおくまんえん手に入った所で『じゃあ灯台もう一本いく?』くらいの話にしかならないのだ。
「でも……ツブテは頭が悪い。物を運んだり岩を掘ったりしかできないぞ」
「やりたいのは建設業だからさ。加工した石材や木材を石油とか使わずに運べるのがイイんだよ。ね、ゲンさん!」
「ごわす」
建設なら任せろとばかりに初期メンバーでおなじみのゲンさんがファイルを持ってきた。
「王子の言いたいのはこれでごわすな」
ゲンさんが広げたのは古民家改築などに用いる資料だ。
京都や金沢といった古い土地には古い家がそのまま残っていて、その風景を壊すこと無く改築するという業者も多い。
だが逆に、コンビニやファミレスだって欲しいので景観を壊さないように雰囲気に合わせて古民家っぽく作るという技術も進んでいるのだ。建築学科の若者とかが着目したがるポストモダンジャンルだ。
「みんなそろそろ長屋の雑魚寝も飽きたと思ってさ。生まれた時代にあった建築様式を取り入れるってどうかな」
「いいでごわすな。してプロジェクト名は」
「王子ダブルバイセップス城下町計画さ!」
歯を光らせるプリンス。
名前からしてお城作る気だこの人と思って、親方とゲンさんは顔を見合わせた。
●コヨーワーク!
「コヨーワークだよ!」
「コヨーワークですか!」
「こよーわーく?」
ファイヴ村第二拠点、サザナミ村。
最近完成したばかりの灯台には展望スペースやカフェが併設されている。
そのカフェに渚とゆかりそして副村長が集まっていた。
「最近色んな所に行ってわかったんだ。妖の被害で真っ先に経営が破綻するのって、一次産業なの。畑に漁に家畜に鉱物。安全に採取する場所をみんな求めてるんだよ。その割に人手は足りちゃうから、農業大学や専門学校からの新卒採用率が低くなるの。だから、そういったジャンルの人たちに募集をかけて村に招こうと思うの」
「それと、コヨーワークに何の関係があるんじゃ?」
「古妖って、お金が欲しくてもお仕事探せないでしょ。でもここに来れば、大抵の仕事は紹介できるし、斡旋もできると思うの」
「灯台の強化要因に木の子さんを連れてきたみたいにですね」
「それと一緒に、事業も思い切って拡大しよう」
渚は色鉛筆で描いたイメージスケッチをテーブルに広げた。
「マックス村の裏山に牧場地帯を作ろう。あそこは人が住むには適してないし、作物栽培にも適してないエリアがあるんだよね。でもそういう所は牧場には適してるの」
「牧場経営っていうと……乳搾り体験とか、ソフトクリームとか生キャラメルとかですか?」
「うん、観光事業への転換もだね。それは牧場としての下地が整ってからになるかな。あとは、山の感じを活かしてジップラインやターザンアクティビティを開いてみるっていうのもおもしろいと思うの」
ターザンアクティビティとは文字通り高い木から木へワイヤーロープで移動する遊びのことだ。山ばっかでゴルフ場にもなんねーような土地をそのまま利用した施設として注目されている。千葉のターザニアなんて施設もその一つだ。
「ファイヴ村は色んな所から注目されてる。でも注目される時期が終わってからが本番なんだ。継続的に人が入ってくれて、定着してくれる。そういう村にしていかなくちゃならないんだよ」
●ふわもこは正義
「フーン、じゃあ鉱山貰わなかったんだ」
「ソーミタイダネ」
アマゾネスがすねこすりのブラッシングをしながら頷いた。
最近入ってきた新人に世話の仕方を教えているのだ。
「金も、ダイヤも、ワタシタチにはイラナイ。なぜならここに、フワモコが、アルカラ」
「もふもふうううううう! うおおおおおおおおもふもふううううううう!」
ゲイルが全身全霊ですねこすりと戯れていた。
両腕に抱えてでんぐり返しを繰り返すという、路上で見かけたら即通報モンの奇行である。
壁までいったらぺたんと寝転がり、頭から背中(?)にかけてもみほぐしてこねるという独学によるマッサージを施していく。
素人からすればすねこすりにマッサージなんて効果あるのかって感じだしそもそも筋肉や血管があんのかこいつって話だが、かようたびに戯れ続けていたゲイルにはなんとなく分かっていた。
「そうかあ、気持ちいいか。よーしよしよしよしよし」
「リーダーは……ああしてフワモコと対話してるヨ」
「対話……」
「愛情ダヨ。愛情でタッチすると、愛情で応える。ネコもクマも皆同じダヨ。動物は皆そうやって対話してる」
ゲイルは暫くすねこすりをマッサージしたあと、キリッとダンディな顔つきになって立ち上がった。
「すねこすり牧場を、開くぞ」
「「リーダー!?」」
「専用のステージを作り、台本も用意する。店に行く牧場から、見に来て貰う牧場へとシフトチェンジだ」
「ついにその時が来るんですね、リーダー!」
「そうと決まれば――」
ゲイルは上半身のシャツを脱ぎ捨てた。
「コミュニケーションだ!」
「「リイイイダアアアア!!」」
これはすねこすり牧場が『ふわもこ古妖ぱーく』へと変わっていくまでの、ほんのスタートラインである。
●神のあたえし米
日本神道において農作は清浄な行為である。
元々稲作を生活基盤としていた文化から発生したメンタルヘルスというだけあって、農民のために色々な教えが作られていた。
「その殆どは、風がふく理由や雷がおちる理由だったんダモ。不思議なことは全部神様がやってくれる。お米も育つ。だからみんな学校に行かなくても生きて行けたんダモ」
「今では考えられない価値観だけれど……学校の無い国ではそういう精神のよりどころが今でも存在しているものね。そういう土地では、古妖もそれらしく生きているのかしら」
「日本にもそういう教えはあった。山に入るときは神様に断わりを入れる。でも何百年も前から、それを人間たちは忘れてしまったみたいだ」
首をゆっくりとふる岩石親方。
エメレンツィアは頷いて、ティーカップを置いた。
「そうでもないわ。人間は『未知なるもの』を理解し始めてる。科学信仰が絶対でないことや、森羅万象の住人たちの存在や、それこそ神様の有無を考え始めてるわ。きっと遠くない将来、人々は新しい価値観を手に入れるでしょうね」
振り返ると、そこには広大な田園が広がっていた。
見渡す限り金の稲穂だ。米の収穫時期が近いのだ。
農作に関わるようになって、エメレンツィアはたびたび痛感することがある。
それは科学が万能ではないということだ。
地震の起きるメカニズムも、台風の進路も、太陽の巡り方も知っている。しかし地震を止めることも太陽を逆に回すことも、勿論風を逆向きに吹かせることもできない。
なぜなら地球という巨大な存在の上に自分たちが存在しているからだ。
それはたかだか半径一キロの土からトマトを生やすだけでも難しい。
土は酷使すれば病気をもつし、虫を嫌えば土を枯らすことになる。太陽を嫌がれば米は実らず、雨を嫌がれば稲穂は死ぬ。そしてその全てが、思い通りになどいかないのだ。
惑星規模の不思議の上に、自分たちは生きている。
分かった気になったところで、何も出来はしないのだ。
と、そんな壮大な考えから絞り出された知恵はただひとつ。
「寄り添って育てる……だけなのね、結局は」
古妖の特殊能力になど、最初から頼る必要は無い。
地球のもつ力に頼るのが農作の基本だからだ。
「自給自足をするってわけでもないもの。これからは基本の野菜と米の栽培を進めていくわ。ある程度は村で自給して、余った分を売っていく。それがこの村の行き方としては丁度いいのかもしれないわね」
「ダモ」
●こちらファイヴ村事務局
「私メリーさん。コールセンターにいるの。あなた都市伝説ね? 大丈夫、いい話があるわ。今度特別な村を作るからそこで――」
「最終学歴は、中卒? 全く問題ありません。スポーツなどされていましたか? でしたら――」
「かわいいのがお仕事? けっこう、きっと気に入りますよ。今そういった方が求められていて――」
コールセンターは今日も電話でひっきりなしだ。
灯はコーヒーを片手に、分厚いファイルをパタンと閉じた。
事務所に並べられたスチールデスクにはそれぞれ担当部署のプレートが置かれ、必要に応じて専門分野を細分化する処理を施している。
まずは電話を受けるだけの係が相手の用件を聞いてメモをとり、それぞれの担当者に取り次ぐという作業ツリーを作ったのだ。
誰が作ったのかといえば、コールセンターの初期メンバーでもあったレンさんである。
パソコンのサポートセンターで働いていたという彼女は、情報のレール形成に長けていた。
「助かりました。私たちで一から十まで担当していたらキリがありませんでしたから……」
「いえ。会話能力だけの古妖をコールセンターに雇い入れるアイデアは素晴らしかったですよ、七海局長」
「局長だなんて……」
てれてれする灯。
「ですが、やはり古妖は古妖。人間的な会話マナーを知らずにいるパターンが多いですから、表層部分での起用は難しいでしょう。逆に人間スタッフが古妖の複雑怪奇な事情を察するのも難しいかと」
「レンさんでもですか?」
「相当アレな人を沢山対応してきましたから、人間相手なら自信があります。日本語が通じない日本人とだって会話できますけれど……『蛍光灯をチカチカさせる係』さんのLEDへの憎しみ聞いてあげる自信はありません」
「それは確かに……」
古妖。つまり妖怪はかなりいいかげんな存在だ。宇宙人クラスの意味不明さで生きている。しかし地球上に存在している以上、地球上の何かを何かにして生きているのだ。
灯火も『窒素ガスが主食なんですが……』と言われた時には焦ったが、キーボードクリーナーなどの液体窒素缶を備蓄すればいいと気づけば話は早い。
「さて、問題はこっちですね……」
分厚いファイルに目をやる。
それはファイヴ村に来たいという問い合わせの中にごくまれに混じってくる『うちの村もどうにかできないか?』といった相談だ。
「全て対応するには、ファイヴの人員を全部使っても足りるかどうかですよね……」
「では、その中のひとつを解決して、モデルケースとしてホームページなどに掲示するというのはどうでしょうか」
「モデルケースですか……うーん……」
灯の頭に、なんだかとんでもないワードが浮かんだ気がした。
出張ファイヴ村、である。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
