はらへったおみずのみたいしにそうだ
はらへったおみずのみたいしにそうだ


●はらへったおみずのみたい
 夏休み。学校は人気もなく、登校しているのは部活に勤しむ人か何かしらの用事がある者だけである。
 その用事の中に『生き物の世話』というのがあった。小屋で飼っているウサギに餌と水をあげる係である。ウサギを飼っているクラスの生徒達は交代で学校にやって来て、餌を与えている。
 だだ皆がやるとはいえ、それを面倒に思う生徒もいる。素行が悪い生徒が餌やりをさぼり、動物が死んでしまったという事例も過去に発生していた。
「――そんなウサギの幽霊が出るんだって」
「やだー。怖いー」
「大丈夫だって。美香ちゃんは僕が守ってあげるから」
「真昼間に幽霊なんて出ないけどねー」
「だよねー」
 そんな談話を交わしながら三人の生徒達はウサギ小屋に向かう。そこで初めて違和感に気づいた。
「あれ? ウサギの数、多くない……?」
「え? まって、あれって、もしかして」
「ウサギの幽霊……じゃなくて」
 赤く光る瞳。数多くの半透明のウサギ。幽霊に見えるそれは、今では子供でも知っている神秘現象だった。
 ――妖だ!
 子供達が叫ぶよりも早く、心霊系妖が子供達の命を刈り取った。

●FiVE
「覚者に夏休みってあるの?」
 首をかしげて久方 万里(nCL2000005)が問いかける。基本的にFiVEの覚者は、FiVEの活動以外に別の仕事を持っている。夏休みがあるか否かは、その仕事によるだろう。
「夏休みの学校に心霊系の妖が出るの。それを倒してきて!」
 万里の説明によると、妖はそこで餓死したウサギの恨みが妖化したようだ。元となったウサギは当然だがない。小屋の中に居るウサギに襲い掛からないのは、同胞だからなのだろうか。
「少しすると餌やりに生徒がやってくるから、それまでに何とかしてね」
 時間にすれば二分後に予知で見た生徒達がやってくる。それまでに妖を全滅させることが出来なければ、戦場に彼らがやってくることになる。勿論、そうならないために策を講じることは可能だ。
「学校への手続きはFiVEの方でやっておくみたい。事後承諾の形になるから、学校からの協力は無理と思ってね」
 昨今学校敷地内への侵入は厳しくなっている。監視カメラ等が基本の為、いきなり足止めを喰らう事はない。だが職員室や放送室を使おうと思うと、途端に騒ぎが大きくなるだろう。そうなれば妖退治どころではない。
 つまり、現場に走っていき出来るだけ早く妖を倒すことが肝要となる。
「妖の強さランク1が四体とランク2が一体。奈良の闘いに比べれば大したことはないから頑張ってね」
 大したことはない、とは言っても相手は妖だ。油断すれば時間がかかってしまうだろう。そうなれば子供達を巻き込むことになる。
 どうしたものか、と思いながら覚者達は会議室を出た。




■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.妖の全滅
2.子供達の無事
3.なし
 どくどくです。
 ウサギ可愛いですよね。アレルギーの為飼えませんけど。

●敵情報
・はらへった(×4)
 心霊系妖。ランク1。飢えて死んだウサギの恨みが妖化しました。
 半透明のやせ細ったウサギの姿をしています。人間を見ると、襲い掛かってきます。

 攻撃方法
 噛む 物近単 牙で噛んできます。
 恨む 自付  恨み言を呟きます。〔反射〕
 
・おみずのみたい(×1)
 心霊系妖。ランク2。水が飲めずに死んだウサギの恨みが妖化しました。
 こちらの方が恨みが深いのか、一回り大きなウサギの姿です。

 攻撃方法
 水を吸う 物近単 生物から水分を吸い取ります。〔必殺〕
 血を吸う 特近単 栄養分豊富な体液を吸います。〔出血〕
 ■■喰い  P  「はらへった」の数が減った瞬間、自分のHP回復。

●場所情報
 京都にある小学校。その飼育小屋の前。時刻は朝。足場や灯りは戦闘に支障がない者とします。現場に向かうこと自体に問題はなく、特に何もなければリプレイは学校侵入してウサギ小屋前からのスタートとなります。
 戦闘開始時に人はいませんが、開始二分後(十二ターン後)に生徒達が三名やってきます。彼らはパニックを起こして脱力し、自発的な行動はできません。1点でもダメージを受ければ死亡します。
 戦闘開始時、前衛に『はらへった(×4)』『おみずのみたい(×1)』がいます。
 事前付与は可能ですが、その間も時間は流れます。子供達も移動します。考慮の上でご判断ください。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
5/8
公開日
2016年08月11日

■メイン参加者 5人■

『ファイブブラック』
天乃 カナタ(CL2001451)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『落涙朱華』
志賀 行成(CL2000352)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『願いの花』
田中 倖(CL2001407)


 学校の校門を抜けた覚者は、それぞれの思いを胸に真っ直ぐに飼育小屋に向かう。
 出現が予知されたのは五体の妖。ウサギの苦しみが顕現したと思われる心霊系妖。世話を忘れ、人間に放置されて亡くなったウサギの怨念。
 それが世話をしにやってきた生徒を襲うというのは皮肉な話だ。彼らには何の罪もないというのに。
 だが罪を問うならば、餓死したウサギにも罪はない。
 ただ言えることがあるとすれば、妖は放置できないという事実のみだ。

「妖化したならば、放置しておくわけにはいきません」
 卯の獣憑として妖化したウサギの怨念には思う所がある『覚悟の事務員』田中 倖(CL2001407)。だがそれが妖化して人を襲うというのなら放置はできない。やってくる生徒三人を殺すと言う悲劇は食い止めなければならないのだ。
「確かにな。しかし『はらへった』に『おみずのみたい』か……」
 妖の呼称を思い出しながら『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)は心がうつな気持ちに傾くのを感じていた。餓死したウサギと脱水して死亡したウサギ。この呼称がぴったりであるがゆえに、どうしようもない苦しみに捕らわれてしまう。
「あー……なんか、ムカついて来た……」
 怒りの声をあげるのは天乃 カナタ(CL2001451)。死んだウサギへの同情と、世話を忘れた生徒達への怒りだ。この妖が発生した因果はともかく、元となったウサギの死亡は生徒達が世話を忘れたからだ。それを思うと怒りが強くなってくる。
「お前達だってこんな風になりたくなかったよな、ごめんよ……」
 飼育小屋前に鎮座する妖を見ながら『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)は拳を握る。餓死したウサギには思う所がある。だが、討たなくてはいけない。そんな自分達を悔やみながら、戦意を高めていく。ここで妖を討つために。
「……飢え死にしたウサギ、か」
 経緯を聞いて思う所があるのか『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は顔を俯けた。動物を飼うことは責任で、その責任を果たさなければ命は死んでしまう。この妖は、その責任が果たせなかった者の犠牲者だ。それを思い、謝罪の念がこみ上げてくる。
 シャアアアアアアアア!
 妖が叫ぶ。それは威嚇なのか、それとも恨みの声なのか。
 飢餓の衝動のままに襲い掛かってくる妖。或いは人間への恨みを果たそうと襲い掛かってくる妖。あるいはその両方か。どちらにせよ、交渉の余地はない。あるはずがない。それは覚者達もわかっている。
 だから覚者達に出来ることは、ただ一つ。
「ここでお前達を倒し、悲劇を防ぐ!」
 翔の言葉と同時に、覚者達は皆覚醒する。その手には神具を持ち、各々の立ち位置に移動していく。
 飢えた妖と、覚者。様々な思いを込めて、両者は交差する。


 予知では子供達が来るまで二分。
 それを意識しながら、覚者達は陣形を整える。
 翔、行成、倖が前に立ち、その後ろにカナタ、奏空がつく。対して妖は戦術などのか、一番近い相手に向かって飛びかかる。
「子供達が来るまでになんとかしないとな!」
『双刀・天地』を手に奏空が構えを取る。右手には天獄村の柄司の『鬼地刀』を、左手には奏空の『空』のイメージで鍛えられた刀。抜き放った刀を逆手に持ち、腰を落とす。その刀に込められた思いを確かめる様に強く握りしめ、猛る心を静めていく。自分が戦う理由は『救う事、助けること』。それは悪鬼のような心では成し得ないことだ。
 心は沈めても、戦意は落さない。ここに来る子供達を守るため。その為にこの刀は振るわれる。故に奏空に躊躇いはない。飛び交うウサギの霊をしっかり見ながら、その着地地点を予測して刀を振るう。その軌跡を追う様に稲妻が走る。獣のような雷の蛇は、俊敏ともいえるウサギの動きを上回った。
「最初から一気に攻めるよ!」
「ああ、世話係の連中が来る前に倒すんだ!」
 奏空の言葉に頷くように翔が叫ぶ。決意を口にして、自ら身を引き締める。覚醒して一気に背丈が伸びた翔は、神具を手に妖を睨む。攻撃するたびに恨み言が吐かれ、それが心を削っていくが、そんなことは気にしない。自分が傷つくことは我慢できる。だが、他人が傷つき倒れるのは我慢できない。
 決して下がることのない妖。それは格好の術の的だった。逆に言えば、それだけ空腹に苛まれている証拠でもある。その事に心を痛めながら、翔は印を切る。五行の力を理解し、術に転化する。生まれた稲妻が妖達を打ち据えた。轟雷が鳴りやんで、痺れて動かなくなる妖が数体。それを確認しながら新たな術の用意をする。休む暇は、ない。
「お前らは悪くない。だけど、子供達は襲わせはしない!」
「そうですね。せめて僕達の手で、成仏させて差し上げましょう」
 優しく頷く倖。かわいい動物が好きな倖は、ウサギのような小動物が死んだという事実に心を痛めていた。だが、それは顔に出さない。自分が不安がれば、自分に接する生徒や先生にまで不安が伝播するからだ。だから笑顔で。これが妖ではなく動物なら、獣憑の能力で不安や苦しみを知ることができるのだが、と少し残念に思う。
 ナックルを手にして少し大きな妖に相対する倖。足をしっかり踏ん張って、獣の因子を強く活性化させる倖。体内を駆け巡る血液の流れを強く感じ取りながら、全身に力を込めた。腰を下ろし、拳を強く握る。獣が獲物をしとめるような重い一撃が、妖に向かって繰り出された。この傷は簡単には癒せないだろう。
「これで回復はできません。今のうちに」
「おっけー。でも俺は回復に回るわ」
 カナタは手をあげて、術式を展開する。水の源素を体内で循環させ、手のひらに集める。純粋な混じりっけのない透明な水。それを霧状に変化させて、仲間たちに向かって放つ。冷たい水は覚者の傷に降り注ぎ、傷の熱を冷やすと同時に癒しの力をもって傷を塞いでいく。仲間の傷を癒しながら、目の前の妖達をじっと見ていた。
 人間の都合で飼育しておいて、無責任な管理で殺されてしまった動物達。カナタはその事実に怒りを感じていた。人間の勝手で餌や水を与えられず、餓死してしまった。それは想像以上に辛く苦しい物なのだ。それを思うと、今飼育小屋で飼育されているウサギたちも解放してやりたくなる。……流石に我慢するが。
「攻撃に回れそうだったら、そうするぜ」
「ああ。その判断は任せる」
 眼鏡の位置を直しながら行成は妖に向き直る。飢えに苦しむ妖の姿。水を求める妖の姿。やせ細り、血走った表情で攻めてくる妖を見ながら、それを撃退するために薙刀を振るう。回転の勢いを殺さぬように振るわれる、薙刀の連続攻撃。十重に二十重に形成される薙刀は、迫る妖を次々と打ち据えていく。
 人間に害をなす妖は討たなければならない。それは事実だ。だからこそ感情を殺し、妖を討つために情を捨てる。妖の元となったウサギは、一生懸命生きようとした。だがそれは敵わなかった。死者を甦らせることができない以上、この妖に対し出来ることは多くない。ただその恨みを受け止め、この世から消すだけだ。
「恨みつらみも全て、ここに置いていけ。私たちに……とどめを刺したものに存分に吐き出していけ」
 そうすることで天に昇れるのなら。
 覚者の想いは様々だ。だがやらなければならないことはわかっている。妖を倒すこと。そしてやってくる生徒を守ること。
 覚者のやる気は十分だ。傷つきながらも二体の妖を倒す。
 だが、時間は容赦なく過ぎていく。
「あっ、ウサギを苛めてる人がいる!」
「なんだと! おい、誰だよお前達!?」
「え? まって、あれって、もしかして」
 背後から聞こえる子供達の声。
 そこには予知された三名の子供達が、驚きの顔で立っていた。


「逃げろ!」
 翔は振り向かずに子供達に叫ぶ。とっさの事で硬直していた子供達は、その声に弾けるように下がっていく。言葉に力を込めて放ったのが事もあるが、端的に行動を示した事も大きな要因だ。
「おっと、上手く逃げたようだな」
 カナタは子供達を庇う為に後ろに走ろうとして、その足を止める。他の覚者も子供達が去ったのを確認して、戦いに専念し始めた。
「ここからは俺も回復するぜ!」
 味方の負傷具合を見て翔が回復の術式を展開する。ランク2の心霊系妖の攻撃が、予想以上に深手を負わせてくるのだ。攻め手は自分が抜けても三人いる。そう判断してのスイッチだ。
「まだ倒れるわけにはいきませんので」
 ランク2の妖と相対していた倖は、強い一撃を受けて膝を折る。だが強い信念により命数を燃やし、なんとか立ち上がった。だがその甲斐もあって、ランク2への回復はかなり制限されていた。
「これでランク1の方は終わりだ……いてて……!」
 奏空の放った稲妻がランク1を一掃する。散り際の呪言が力となってその心に刺さる。飼っていた動物を放置してしまった。そんな経験を持つ奏空は、その言葉に強く心を痛ませていた。謝罪の言葉をあげつつ、ランク2に向き直る。
(浴びるだけ、沢山飲みな……)
 カナタはランク2に対し、水の礫を放って攻撃する。水が飲めず死亡したウサギに、せめて水を飲ませてやろうという手向けの為に。普段は辛辣な物言いで意地悪な性格のカナタだが、この妖に対しては色々思う所があるようだ。
「全てを許して天に向かう必要はない。その苦しみを受け止めてやる」
 ランク2に薙刀を向ける行成。人間がしたことを許してもらおうとは思わない。その恨みが妖を生んだというのなら、それをすべてここで吐き出していけ。勿論、攻撃を止めるつもりはない。ここで妖を討つことは覚者の使命なのだから。
 五人の覚者の猛攻を受けて、ランク2は追い込まれていく。だが妖はそれを感じさせぬほど激しく、そして真っ直ぐに覚者に向かう。それが飢えた獣が生んだ本能なのだろうか。
 だが、その限界が近いのは確かだ。
「あとひと息のようです」
 拳で殴りながら倖が妖の様子を皆に伝える。その姿は薄くぼやけ、もうすぐ消えてなくなりそうなのだ。妖の獰猛性は変わらないが、それでももう限界なのは見て取れる。
「だなー。そろそろ限界だし、ちょうどよかったかな」
 水の弾丸を限界まで放ち続けたカナタが頷く。気力の限界まで水を撃ち続けたカナタ。その心の中に秘められた妖に対する思い。それは最後まで語られることはなかった。
「今癒してやるぜ!」
 翔は覚者を癒すべく水の術を展開する。その水が生物から水を吸おうとした妖の能力から仲間を守っていた。
「すまない。――合わせるぞ、奏空」
 その回復を受けて行成が妖への間合いを詰める。仲間の位置を把握し、攻撃の花道を作る為に。下段に振るわれた薙刀は、ほぼ強制的に妖を宙に浮かした。
「これで終わりにしてやる!」
 宙に浮いた妖に迫る奏空。二本の刀を手にして、それを高速で振るう。双刀が同時に右から左に走り、二本の刃の線が妖に迫る。
「ごめんな……」
 謝罪の言葉とともに納刀する奏空。その言葉が空気に消えるより先に、妖の姿はこの世から消え去っていた。


 戦いが終わってしばらくすると、子供達が帰ってきた。安全な場所から覗いていたようだ。
「すごーい! 覚者の人だー!」
「妖倒したの? お強いんですね」
「どんな妖だったの?」
「どこから来たんですか?」
 興味から矢次に質問する子供達。覚者達も聞きたいことがあったので丁度いいという事もあり、質問に答えていく。FiVEの覚者であること。妖の発生を予知して急いでここにやってきたこと。そして――
「餓死したウサギの……?」
 妖の経緯を聞いて、驚く子供達。
「なあ、最近ウサギが死んだとかいう話は知らないか? あとは死んだ動物をどこかに埋めたとかそういう事は?」
「えーと……僕たちのクラスではないです。死体は先生がペット業者に連絡して」
 昨今衛生等の問題もあり、死亡した動物はペット葬するのが習わしになっていた。遺骨が安置してある場所があるので、その場所を教えてもらう。
「夏休み中でも、忘れずお世話に来たのですね。ありがとうございます」
 倖は子供達に向かい、笑顔でそう告げる。
「飼育小屋の中のウサギさん達は、お世話をしてくれるあなた方に頼るしか生きる術がないのです。ほら、この子もお世話係をとても頼っていると言っています」
 動物の心を感じ取り、それを子供達に伝える倖。
「ほんとー?」
「ええ、本当ですよ。ウサギの仲間ですからわかるんです」
 倖は自分についているウサギの耳を刺しながら、子供達に笑いかける。
「今ウサギ小屋にいる子達を、精いっぱい可愛がってあげてくれ」
 行成はしゃがみ込み、子供達と目線を合わせて真摯にお願いする。ウサギの死が今回の騒動となった。小さな命が失われたことで妖となり、それが多くの命を奪いかねない。それを防ぐという意味合いはある。
「そして、おなかがすいて、おみずがのみたいと静かに思い死んでいった子のことを忘れないであげてくれないか。
 彼らのように飼われているものは、君達飼い主しか、頼りに出来るものはいないのだから 」
 だがそれとは関係なく、動物は大事にして欲しい。全ての命は、死ねばそれで終わりなのだ。死後、生まれ変わるかもしれないが『その命』はそこで終わるのだから。
 その真剣な態度に、子供達は頷いて返した。

(辛かったよね……。喉が渇いてお腹が空いて、暑い小屋からも出る事も出来ず……ごめんね……)
 ウサギの遺骨の前で手を合わせて祈る奏空。それは何処か悲愴さを感じさせる。自分も同じ罪を犯し、それを償うような……。
「奏空、何か辛いことがあったのなら聞くぞ」
「……水槽で飼ってたおたまじゃくしが」
「おたまじゃくし?」
 うん、と頷いて奏空は続ける。
「小さいころ、水槽で飼ってたおたまじゃくしがカエルになってたなんて気づかず遊び回ってたんだ……そのままカエルさんは……」
「そうか……。ゆっくり供養してくれ」
 うん、と頷く奏空。そのまま静かに祈り始める。
「恨むなとは言わねー。けど生まれ変わる為に、ここに留まらないで欲しい」
 翔は手を合わせながら、ボロボロと涙を流していた。妖自体は決して許してはいけない存在だが、発生した理由を思うと涙が止まらなくなる。悲劇はこの世界に満ちている。覚者として戦う以上、そういったことと相対することも増えてくるだろう。
(生まれ変われたら、オレとも遊ぼうな)
 それが罪滅ぼしになるとは思わない。苦しみから解放されるとは思わない。だけど、そうすることで何かが変わるかもしれない。
(俺らが祈るよりも、あいつ等のラス全員でやらせた方がいいんじゃねーの?)
 カナタは祈る覚者達を見ながら、心の中で静かに思う。死は終わりだ。生物ではなく無生物に。命ではなく物質になる。祈りを捧げても供物をそなえてもそこに意味はない。強いて言えば生きている人間の自己満足で、それこそ今飼育している者達こそがやるべきことなのだ。だが、
(でもまあ……今度は自分等の好きな生き方、出来るといいな)
 死は終わり、と思うカナタであっても『今度』の生を願ってしまう。苦しみの後には楽しいことがある。次のウサギたちはきっと――

 そして覚者達は学校を出る。手を振って見送ってくれる子供達に手を振り返し、そのまま帰路についた。
 動物の心霊系妖がこの学校に発生するという予知は、今後見られることはなかった。 


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。
 少し心情寄りに書いてみました。

 皆様の思いが伝わってくるプレイングでした。
 事の発生が『現実でもありうる』現象なだけに、PL含めて思う所はあったと思います。
  
 それではまた、五麟市で。




 
ここはミラーサイトです