≪初心者歓迎≫遊園地で大暴れ、妖討伐作戦!
●
「皆、遊園地は好き?」
久方 万里(nCL2000005)は古いパンフレットを広げた。
「ここは既に廃墟となった遊園地の跡地で、廃棄されたアトラクション設備が妖化してるの。
まだ人的被害は出てないけど、放って置いたらどんな被害でるか分からない。
私たちでそれを未然に防ごうっていうのが、今回の任務だよ」
遊園地は小規模だが、メンバーを2~3つに分けることをお勧めしている。
その方が敵が変に移動しなくて有利だからだ。
「妖の種類と特徴をそれぞれ書いていくね。こっちのボードを見て」
・ファンシーエリア
発生妖:妖木馬(物質系妖ランク1)×複数
メリーゴーランドの馬が妖化したもの。
台を外れ、複数体にばらけて襲ってくる。
動きは馬そのものだが、中には馬車タイプもいるので体当たりに注意しよう。
・ホラーエリア
発生妖:妖おばけ(物質系妖ランク1)×複数
お化け屋敷に設置された人形が妖化したもの。
動きとしては対人戦の延長で考えてよい。
戦うためにお化け屋敷の中を通る必要があり、廃墟なこともあってちょっと不気味。
・レースエリア
発生妖:妖ゴーカート(物質系妖ランク1)×複数
一人乗りカートが妖化したもの。
暴走し、時にはジャンプもして体当たりを仕掛けてくる。
スピードがそこそこ出るらしいので翻弄されないように注意しよう。
・スリルエリア
発生妖:妖コースタームカデ(物質系妖ランク1)×1体
ジェットコースターがムカデ型の妖になったもの。
コースなんか関係なく飛び回り、大顎化した先頭車で噛みついたり体当たりをしかけてくる。
列攻撃が可能で、巨大なためブロックが困難。ちょっと強いので皆で力を合わせて倒そう。
「流れとしては、『ファンシー』『ホラー』『レース』に分かれて妖を倒したあとに合流して、『スリル』の妖を倒すのがいいよね。チームを2つだけにした場合の別ルートも考えてあるから、その場合は参考にしてね。それじゃあ、がんばって!」
「皆、遊園地は好き?」
久方 万里(nCL2000005)は古いパンフレットを広げた。
「ここは既に廃墟となった遊園地の跡地で、廃棄されたアトラクション設備が妖化してるの。
まだ人的被害は出てないけど、放って置いたらどんな被害でるか分からない。
私たちでそれを未然に防ごうっていうのが、今回の任務だよ」
遊園地は小規模だが、メンバーを2~3つに分けることをお勧めしている。
その方が敵が変に移動しなくて有利だからだ。
「妖の種類と特徴をそれぞれ書いていくね。こっちのボードを見て」
・ファンシーエリア
発生妖:妖木馬(物質系妖ランク1)×複数
メリーゴーランドの馬が妖化したもの。
台を外れ、複数体にばらけて襲ってくる。
動きは馬そのものだが、中には馬車タイプもいるので体当たりに注意しよう。
・ホラーエリア
発生妖:妖おばけ(物質系妖ランク1)×複数
お化け屋敷に設置された人形が妖化したもの。
動きとしては対人戦の延長で考えてよい。
戦うためにお化け屋敷の中を通る必要があり、廃墟なこともあってちょっと不気味。
・レースエリア
発生妖:妖ゴーカート(物質系妖ランク1)×複数
一人乗りカートが妖化したもの。
暴走し、時にはジャンプもして体当たりを仕掛けてくる。
スピードがそこそこ出るらしいので翻弄されないように注意しよう。
・スリルエリア
発生妖:妖コースタームカデ(物質系妖ランク1)×1体
ジェットコースターがムカデ型の妖になったもの。
コースなんか関係なく飛び回り、大顎化した先頭車で噛みついたり体当たりをしかけてくる。
列攻撃が可能で、巨大なためブロックが困難。ちょっと強いので皆で力を合わせて倒そう。
「流れとしては、『ファンシー』『ホラー』『レース』に分かれて妖を倒したあとに合流して、『スリル』の妖を倒すのがいいよね。チームを2つだけにした場合の別ルートも考えてあるから、その場合は参考にしてね。それじゃあ、がんばって!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.全妖の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
実戦経験の獲得や新武器の試し撃ち。お友達との連携練習や得意技開発など、お気軽にご参加ください。
・補足:チームを2つだけにした場合のルート
『ファンシー』『ホラー』を攻略後、中央ゾーンを通って『レース』エリアへ。妖カートと妖コースタームカデを同時に相手します。
ちょっとせわしないですが、同時に対応できないほどの相手ではありません。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
9/9
公開日
2016年08月13日
2016年08月13日
■メイン参加者 9人■

●ファンシーエリアの暴走木馬
ばさりと羽根の散る空に、サビとコケのにおいがする。
「廃墟の遊園地、かあ。使われなくなって、怒ってるのかな」
『月下の白』白枝 遥(CL2000500)はゆっくりと目標地点に降下しながら、別のエリアを観察していた。
「それにしてもあの二人、大丈夫かな……て、心配してる場合じゃないね」
どこからともなく取り出した帽子をしっかりと被ると、遥はすたんとソフトクリームショップの屋根に着地した。
売店の壁をすりぬけて現われる十河 瑛太(CL2000437)。
「おー、ここがファンシーエリアか。いうほどファンシーじゃねーな」
つや消しナイフと小太刀をそれぞれぶら下げ、地面に転がった空き缶を蹴っ飛ばした。
壁を跳ね返ってくる空き缶を、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)がひょいっと掴み上げ、近くのくずかごに投げ入れる。
「お?」
「ゴミはくずかごに入れる男……夏休みの申し子、工藤奏空!」
『I AM BREAD』て書いてあるTシャツと短パン。更に野球帽という夏休み少年スタイルで現われた。
「俺、両親忙しかったからこういうとこ連れてってもらった記憶ぜんぜんないんだよ」
「俺だってねーよ、たぶん」
「えっと……」
この空気で遊園地は割と、とは言えないなと口を閉じる遥である。
代わりに応えたのは、勝手に動く木馬の群れであった。
ぶるんと鼻息荒く大地を蹴って、回転台から飛び出した木馬の群れ。
彼らは遥たちを見つけるや否や、一斉に突撃をしかけてきた。
「いよいよだね。僕も頑張らないと」
「だな、そっち任せた」
対抗して突撃かます瑛太。遥は屋根から二メートルほど浮き上がると、手の中にビー玉サイズの空圧弾を複数憂っ見出し、指の間に挟んで投擲した。
牽制にしては激しい攻撃に、先頭の木馬がボディを貫かれて粉砕。
後続の木馬がそれを飛び越えにかかるも、瑛太も同時に飛びかかってナイフを木馬の目に逆手刺し。軌道を無理矢理ずらし、蹴りつけながら更に奥へと飛び込んでいく。
「ちょっ、エータちゃん前出るの!?」
先陣を切ってオトコノコしようとした奏空は慌ててダッシュ。
瑛太めがけて突っ込んでくる馬車を見つけ、超高速でイケメンになるとぼくしにスライドをしかけた。
「エータちゃん危ない!」
説明しよう。ぼくしにスライドとはめっちゃ走ってる車の前に両手を広げて飛び出す僕は死にません的な庇い方である。
でも大抵ひかれる。
「はぅん!?」
ぺらーんとなった元イケメンを、事前にちゃんと避けるコースに入っていたエータがちょんちょんとつついた。
遥を見上げる。
「回復できるかー?」
「うん、大丈夫」
じょうろでお水かけたげると、奏空がぷくーっと再生した。
「白枝さんごめんね、ほんとごめんね」
しかしイケメンさは再生しなかった。
「このままじゃ男の面目が立たない。エータちゃん、奥にいるやつおびき出して!」
「おー、まってろ」
瑛太はナイフの側面でマッチをすると、一瞬で激しい炎に変えて投擲した。
炎に驚いた木馬が飛び出し、それに連動して別の木馬たちも飛び出してくる。
「ひっさつ……!」
奏空は帽子を脱ぐと、天高く放り投げた。
「夏休み少年時代サンダー!」
ほとばしる雷花火。
飛び出してきた木馬たちをとらえた雷撃はそのすべてを木っ端みじんに砕いて散らせた。
落ちてきた帽子を掴み、かぶり直す奏空。
「きまった」
「次いこーぜ」
「ユウちゃんにやっくん、大丈夫かな」
無視してすーっと通り過ぎていく二人。
奏空はそそくさとその後を追いかけた。
●レースエリアのクレイジーカート
ゴーカートコースは一応安全対策として壁に囲まれているが、入り口の扉はしっかりと鎖でふさがれている。
それを断ち切って、『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)たちはコース内へと立ち入った。
「きっとこいつら、人が来なくて寂しかったんじゃねーかな。妖になっても、遊んでやろうぜ!」
「おっし、俺の初陣。やっちゃうぜー!」
腕をぐるぐる回す赤羽根 大和(CL2001396)。
まるで本当に遊園地で遊ぶかのようにはしゃぐ小学生男子たち。
そんな彼らの頭にぽん、と手を乗せる『彼誰行灯』麻弓 紡(CL2000623)。
「力入れすぎないように、ファイト」
見た目同年代なのに納得いかねーという顔の翔に、紡は僅かに顎を上げて応えた。
「後ろは任せて、ガンガンいっちゃえ」
ほら、とばかりに手を離すと、手入れされずに雑草はえ放題になった芝生から暴走カートがジャンプで飛び出してきた。
「そんじゃ早速――ヒーロー参上!」
スマートホン片手にポーズをとる翔。アプリ画面を素早くスワイプすると、彼を中心に凄まじい電撃が巻き起こった。
「うおっ!」
派手な先制攻撃に一瞬のけぞる大和。
その背中を手のひらでそっと押す紡。
「ん、大丈夫」
まるで手の温かさがそのまま力に変わったような感覚に、大和はめをぱちくりさせた。
そして拳をぎゅっと握り、雷ほとばしるコース外へと飛び出していく。
「ゴーカートってのは!」
電撃に小爆発を起こして次々にスリップ、爆発していくゴーカートたちの中を駆け抜け、かろうじて無事なカートに飛びつく。
ハンドルを掴んで半ひねり。座席に無理矢理入り込むと、ハンドルを握り込んだ。
「人が運転するもんなんだぜ、っと!」
無理矢理ハンドルを右にきる。
ハンドル側からも人力を超えるレベルの抵抗があったが、一瞬の隙を突いて壁へと方向転換。
これ以上はとカートを蹴りながら離脱。
地面をごろごろ転がる大和のわきで、ゴーカートが爆発する。
そんな彼めがけて突っ込んでくる別のゴーカート。
「させっか!」
翔がスライドイン。
両手を突っ張るように突き出すと、カートを正面から受け止めた。
あまりの衝撃に全身がびりびりとしびれ、足が地面をえぐっていく。
が、突如として身体のしびれが消え、体力が舞い戻ってきた。
ハッとして振り向くと、壁際で紡が三日月型のスリングショットをふりふりしていた。
「ほい、もうひと踏ん張り。頑張れー」
ついでとばかりに空圧のボールをスリングショットにかけ、カートに浴びせる紡。
「サンキュ!」
吹き飛ばされてスピンするカートを前に、脣星落霜を発動させる翔。
降り注ぐ光弾の中を大和は駆け抜け、煙をふいて破壊寸前のカートへと接近。
破れかぶれのジャンプ突撃をアッパーカットで更に跳ね上げ、流れるような後ろ回し蹴りを叩き込んで爆発四散させた。
細く長く息を吐く大和。
「やったな!」
「おう、成瀬が守ってくれたおかげだな。それに……」
大和は紡にむけてにっかりと笑った。
「麻弓が力をくれたおかげでこんなに動けた。ありがとな!」
紡は首をちょこんと傾け、眉をわずかに上げて微笑んだ。
「ボクは頑張る子の味方だからね」
●ホラーエリアのリアルなオバケ
「へえ、雰囲気あるじゃん」
東雲 梛(CL2001410)は吊るされた偽物の生首や鬼火を眺め、そばをふよふよ浮かぶ人魂をつついた。
「けどお前のほうが、迫力あるよな」
ここはお化け屋敷の入り口付近。
流石に電気が通っていないのでびっくりギミックは作動しないが、元々おどろおどろしい場所が廃墟になったことで余計にリアルな不気味さが現われていた。
そんな中を静かに進む『月下の黒』黒桐 夕樹(CL2000163)。
「絡まれるのは面倒だけど、失望されるのは、なんか、癪だから……」
小さく呟く夕樹。
最前列を歩いていた『烏山椒』榊原 時雨(CL2000418)がくるりと振り向いた。
「なんかゆうた?」
「……いや」
時雨は前に向き直り、どこか複雑な顔をした。
(おとなしい子らと一緒になってもうた。一応女性はうちだけやけど……キャーキャーゆうて抱きつく柄でもないし、むしろちょうどいいい具合やね)
「さ、さっくりオバケを倒していこうううううわっ!?」
壁際の障子を突き破って飛び出してきた出刃包丁二刀流の女に時雨は絶叫した。
というか、誰だって出刃包丁二刀流の女に飛び出されたら驚く。
お化け屋敷なら尚のことである。
「こ、こわないよ!? 驚いただけやからな!」
誰に向けてかわからないいいわけをしつつ、咄嗟に翳した槍で包丁を受け止める。
その隙をついてか、左右から皿を数える女や生首を振り回す男が一斉にとびかかるが、そこは時雨。伊達に家出少女はしていない。
「こんにゃろ!」
包丁女を蹴飛ばすと、槍を縦横無尽にかつコンパクトに振り回して左右からの襲撃をはねのけた。
「ふーん、本格的なお化け屋敷だな」
一方で梛は冷静にポケットから小瓶を取り出すと、オバケの集団へと投擲した。
割れてはじける香液。
オバケたちが特殊な香りによろめいている間に、夕樹は懐から抜いた銃を連射。
直撃したオバケにばすんと穴が空き、その後ろから飛びかかろうとしていた別のオバケまでまとめて吹き飛ばした。
「今のうちに、視界の広いところに」
「そやな!」
オバケを蹴散らして駆け抜ける。
やがて、少しばかり広い部屋へと出てきたが、そこは血まみれの電気椅子が一個ぽつんと置いてあるだけの部屋だった。
ぶきみすぎる。
だが進まねば。そう思って踏み出した時雨の頭上から、布袋を被った男が逆さに飛び降りてきた。
「上からは反則やろ!」
咄嗟に飛び退き、槍で牽制する時雨。
上を見ると、大量のオバケが張り付いてこちらを見下ろしていた。
それが次々に飛び降りてくるではないか。
「実験には丁度いい、かな」
夕樹はポケットからBB弾をひとつかみすると、地面に巻きながら走った。
追いかけようと着地したオバケの足下で弾が炸裂。逃げたとみせかけていた夕樹は壁を蹴ってターンし、毒クナイを投擲。
突き刺さって倒れるオバケの上を駆け抜けつつクナイを回収していく。
一方の梛は電気椅子を壁にしてうまく逃げ回りつつ、破眼光で的確に敵を減らしていた。
こうなってくるとオバケというよりおかしな格好をした集団である。ハロウィンパレードのそれにちょっと近い。
「お、なんか目と頭が慣れてきたみたいや」
時雨はぱちぱちと瞬きすると、槍をしっかりと持ち直す。
「一気にいくでっ!」
時雨は槍を構えてチャージアタック。
ジグザグな軌道でありながら、進路上のあらゆるオバケが撥ね飛ばされ、ブレーキをかけた時には全てどさどさと落下。力尽きていた。
安堵の息をつき、銃を懐にしまう夕樹。
「そうだ、麻弓さんのお土産に……」
夕樹はデジカメを取り出し、お化け屋敷の光景を写真におさめた。
梛はそんな光景を見つめ、一瞬だけ昔を懐かしむような顔をした。
首を振り、オバケ屋敷をあとにする。
●スリルエリアのコースタームカデ
「ユウちゃん、大丈夫だった!? 怪我ない!?」
「うわ、ちょっと何……!?」
飛びついてきてぺたぺた触診しはじめる遥に、夕樹はびしりと硬直した。
それを見てけらけら笑う大和。
「それ、オレもやられた」
「やっくんは初陣なんだから、心配だってするよ」
「大丈夫だって」
大和はウィンクすると、ジェットコースターをびしりと指さした。
「あいつを倒して、いいとこ見せてやるからな!」
それに応えるかのようにガガーットレールを走ってくるムカデ。
レールから足を外し、身体をむっくりと起こした。
「……意外とデカいな」
ムカデ、咆哮。
元がジェットコースターというだけあってムカデは凄まじいスピードで突っ込んできた。
目をらんらんと輝かせる奏空。
「うおーすっげえ! あれ乗りてー!」
「乗り……えっ?」
二度見する時雨。
その隙を突いたわけではないが、ムカデが強引なまでの突撃でもって時雨たちを一斉に撥ね飛ばした。
柱や壁を器用に蹴って着地する瑛太と時雨。
一方で思い切り吹き飛ばされた大和は、飛翔した遥にキャッチされていた。陣形と体力を守る、いわゆるキャッチアンドヒールである。
「やっくん大丈夫!?」
「へーきへーき! って、なんだあれ!?」
見上げる大和のさきでは、奏空がムカデの身体につかまって思いっきり振り回されていた。
「これがジェットコースターの醍醐味かー!」
半眼で眺める時雨と瑛太。
「ほんとに乗っとる」
「なにやってんだあいつ」
「ずりー、オレもやりたい!」
などと言いつつ翔は距離を取るように走り、スマホのカメラ機能をオン。ムカデを画角に納めると、スワイプでもってスパークボールを投擲した。連想呪術が発動し、ムカデに激しい電撃が走る。
僅かに動きを鈍らせるムカデ。
「さあ、ラスボスを倒すチャンスだよ」
ふわふわと飛んできた紡が大和の肩をぽんと叩いた。
「頑張ろー」
「おう!」
再び力を漲らせた大和は遥から離脱すると、真下を通過するムカデめがけて拳を引き絞った。
フリーフォールアタックにはやや速度がありすぎる。
が、物陰から身を躍らせた夕樹が銃撃。
撃ったのは地面だが、アスファルトを破るように飛び出した無数の植物蔓がムカデの進行を遮った。
スピードの落ちたムカデの頭を思い切り殴る大和。
それによって急ブレーキ状態になった奏空は反動で吹っ飛び、くるくる回ってお空を飛んでいった。
「ほい、っと」
飛んでいく奏空に先回りして空中キャッチする紡。
「ど、どうも」
「大丈夫? もう一回いく?」
「いいこと思いついたんで、もう一回ほど……」
「んー……いいよ。頑張れ」
ぽいっと地面に放られ、奏空は着地。
その一方で瑛太と時雨はスピードの落ちたムカデに飛びかり、クロススラッシュを叩き込んでいた。
顔面に十字傷をつけられ、怒り狂うようにうねうねと暴れるムカデ。
「ジェットコースターならコース走ってればええもんを、もうコースター関係あらへんな!」
「……」
梛は再び突撃しようと顎をガチガチ鳴らすムカデへと香仇花の瓶を投擲。
顔に当たって炸裂。ぶるぶると首を振ったムカデは彼を邪魔だと考えたのか再び突撃の体勢に入った。
「よし、今だ!」
「オレも!」
突撃直前のムカデに横から飛び乗り、顔面にあたる座席レバーにつかまる奏空と翔。
「東雲さん、走って走って! できるだけまっすぐ!」
「走る……? いいけど」
梛は自分を引きつぶさんばかりに突っ込んでくるムカデに背を向けると、時折破眼光による牽制射撃をしかけながら全力疾走した。
途中にあるブースやベンチを粉砕しながら追いかけるムカデ。
そんなムカデに直接電撃を浴びせる翔と奏空。
ほとばしる電撃を纏いながらも突撃をやめないムカデ。
梛との距離がどんどん縮まり、ぐわりと口を開いたその瞬間。
「今だっ……!」
夕樹が拳銃を狙い澄まして発射。
弾が口の中でトゲとなって炸裂。同時に眼前へと飛行して滑り込んで遥が薄氷を発射。
両脇でホールドするための左右開閉式の角が粉砕。
ここぞとばかりにスライドインした大和が、固めた拳でムカデの上あごを殴りつけた。
凄まじく硬くて重い。が、ムカデは強制的に停止した。
「いいぞ」
「でかした!」
大和の左右を駆け抜ける瑛太と時雨。
瑛太は口の中にあえて飛び込み、あごの付け根をナイフで集中斬撃。
対して時雨は槍による突きに強烈な螺旋エネルギーを纏わせ、あごの奥を突いた。
衝撃がムカデの全身を伝わり、複雑に粉砕、爆発していく。
残骸が飛び散るなか、軽やかに着地する二人。
その一方で、ムカデ再びの急ブレーキによって吹き飛んだ奏空と翔はというと……。
「ほい、二回目」
回り込んだ紡の両腕にそれぞれキャッチされた。
「頑張ったね、やっくん!」
遥は卒業式の両親かなってくらいの勢いで大和をカメラで撮影しまくった。
はにかみつつ、ビースサインを繰り出す大和。
その様子に夕樹はなんともいえない顔になりつつ、黙って自分のカメラを取り出した。
一緒に撮影するためではない。
「麻弓さん、例のおみやげ」
「おー。ありがとうね」
カメラを受け取り、写真データを見てみる紡。
大量に折り重なるオバケの残骸はなかなか迫力があった……が。
「ん?」
一部分をズーム。
なんか部屋の隅に、こっちをじっと見つめる首の長い女が映っていた。
「……」
黙って夕樹にカメラを返した。
「今までみんな楽しませてくれて、ありがとな」
「廃墟になった遊園地だけど、ここには子供の夢が残ってるんだね」
翔と奏空は残骸となったアトラクションを見て魔和割っていた。
そこへ通りかかる梛。
「お疲れ」
とだけ言って帰ろうとする彼に、翔が声をかけた。
「また一緒に遊ぼうぜ!」
「……」
梛は一度だけ振り返って、そしてなんとも言えない顔をした。
高い屋根からそんな光景を眺める瑛太と時雨。
「やっぱ、おっさんみてーにカッコよくできねえな」
「なんや目標でもおるん」
「まーな」
「ふうん……」
分からんでも無い、というトーンで呟くと、時雨は屋根から飛び降りた。
「さて、帰ろか」
遊園地を楽しんだ子供たちが、帰って行く。
ばさりと羽根の散る空に、サビとコケのにおいがする。
「廃墟の遊園地、かあ。使われなくなって、怒ってるのかな」
『月下の白』白枝 遥(CL2000500)はゆっくりと目標地点に降下しながら、別のエリアを観察していた。
「それにしてもあの二人、大丈夫かな……て、心配してる場合じゃないね」
どこからともなく取り出した帽子をしっかりと被ると、遥はすたんとソフトクリームショップの屋根に着地した。
売店の壁をすりぬけて現われる十河 瑛太(CL2000437)。
「おー、ここがファンシーエリアか。いうほどファンシーじゃねーな」
つや消しナイフと小太刀をそれぞれぶら下げ、地面に転がった空き缶を蹴っ飛ばした。
壁を跳ね返ってくる空き缶を、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)がひょいっと掴み上げ、近くのくずかごに投げ入れる。
「お?」
「ゴミはくずかごに入れる男……夏休みの申し子、工藤奏空!」
『I AM BREAD』て書いてあるTシャツと短パン。更に野球帽という夏休み少年スタイルで現われた。
「俺、両親忙しかったからこういうとこ連れてってもらった記憶ぜんぜんないんだよ」
「俺だってねーよ、たぶん」
「えっと……」
この空気で遊園地は割と、とは言えないなと口を閉じる遥である。
代わりに応えたのは、勝手に動く木馬の群れであった。
ぶるんと鼻息荒く大地を蹴って、回転台から飛び出した木馬の群れ。
彼らは遥たちを見つけるや否や、一斉に突撃をしかけてきた。
「いよいよだね。僕も頑張らないと」
「だな、そっち任せた」
対抗して突撃かます瑛太。遥は屋根から二メートルほど浮き上がると、手の中にビー玉サイズの空圧弾を複数憂っ見出し、指の間に挟んで投擲した。
牽制にしては激しい攻撃に、先頭の木馬がボディを貫かれて粉砕。
後続の木馬がそれを飛び越えにかかるも、瑛太も同時に飛びかかってナイフを木馬の目に逆手刺し。軌道を無理矢理ずらし、蹴りつけながら更に奥へと飛び込んでいく。
「ちょっ、エータちゃん前出るの!?」
先陣を切ってオトコノコしようとした奏空は慌ててダッシュ。
瑛太めがけて突っ込んでくる馬車を見つけ、超高速でイケメンになるとぼくしにスライドをしかけた。
「エータちゃん危ない!」
説明しよう。ぼくしにスライドとはめっちゃ走ってる車の前に両手を広げて飛び出す僕は死にません的な庇い方である。
でも大抵ひかれる。
「はぅん!?」
ぺらーんとなった元イケメンを、事前にちゃんと避けるコースに入っていたエータがちょんちょんとつついた。
遥を見上げる。
「回復できるかー?」
「うん、大丈夫」
じょうろでお水かけたげると、奏空がぷくーっと再生した。
「白枝さんごめんね、ほんとごめんね」
しかしイケメンさは再生しなかった。
「このままじゃ男の面目が立たない。エータちゃん、奥にいるやつおびき出して!」
「おー、まってろ」
瑛太はナイフの側面でマッチをすると、一瞬で激しい炎に変えて投擲した。
炎に驚いた木馬が飛び出し、それに連動して別の木馬たちも飛び出してくる。
「ひっさつ……!」
奏空は帽子を脱ぐと、天高く放り投げた。
「夏休み少年時代サンダー!」
ほとばしる雷花火。
飛び出してきた木馬たちをとらえた雷撃はそのすべてを木っ端みじんに砕いて散らせた。
落ちてきた帽子を掴み、かぶり直す奏空。
「きまった」
「次いこーぜ」
「ユウちゃんにやっくん、大丈夫かな」
無視してすーっと通り過ぎていく二人。
奏空はそそくさとその後を追いかけた。
●レースエリアのクレイジーカート
ゴーカートコースは一応安全対策として壁に囲まれているが、入り口の扉はしっかりと鎖でふさがれている。
それを断ち切って、『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)たちはコース内へと立ち入った。
「きっとこいつら、人が来なくて寂しかったんじゃねーかな。妖になっても、遊んでやろうぜ!」
「おっし、俺の初陣。やっちゃうぜー!」
腕をぐるぐる回す赤羽根 大和(CL2001396)。
まるで本当に遊園地で遊ぶかのようにはしゃぐ小学生男子たち。
そんな彼らの頭にぽん、と手を乗せる『彼誰行灯』麻弓 紡(CL2000623)。
「力入れすぎないように、ファイト」
見た目同年代なのに納得いかねーという顔の翔に、紡は僅かに顎を上げて応えた。
「後ろは任せて、ガンガンいっちゃえ」
ほら、とばかりに手を離すと、手入れされずに雑草はえ放題になった芝生から暴走カートがジャンプで飛び出してきた。
「そんじゃ早速――ヒーロー参上!」
スマートホン片手にポーズをとる翔。アプリ画面を素早くスワイプすると、彼を中心に凄まじい電撃が巻き起こった。
「うおっ!」
派手な先制攻撃に一瞬のけぞる大和。
その背中を手のひらでそっと押す紡。
「ん、大丈夫」
まるで手の温かさがそのまま力に変わったような感覚に、大和はめをぱちくりさせた。
そして拳をぎゅっと握り、雷ほとばしるコース外へと飛び出していく。
「ゴーカートってのは!」
電撃に小爆発を起こして次々にスリップ、爆発していくゴーカートたちの中を駆け抜け、かろうじて無事なカートに飛びつく。
ハンドルを掴んで半ひねり。座席に無理矢理入り込むと、ハンドルを握り込んだ。
「人が運転するもんなんだぜ、っと!」
無理矢理ハンドルを右にきる。
ハンドル側からも人力を超えるレベルの抵抗があったが、一瞬の隙を突いて壁へと方向転換。
これ以上はとカートを蹴りながら離脱。
地面をごろごろ転がる大和のわきで、ゴーカートが爆発する。
そんな彼めがけて突っ込んでくる別のゴーカート。
「させっか!」
翔がスライドイン。
両手を突っ張るように突き出すと、カートを正面から受け止めた。
あまりの衝撃に全身がびりびりとしびれ、足が地面をえぐっていく。
が、突如として身体のしびれが消え、体力が舞い戻ってきた。
ハッとして振り向くと、壁際で紡が三日月型のスリングショットをふりふりしていた。
「ほい、もうひと踏ん張り。頑張れー」
ついでとばかりに空圧のボールをスリングショットにかけ、カートに浴びせる紡。
「サンキュ!」
吹き飛ばされてスピンするカートを前に、脣星落霜を発動させる翔。
降り注ぐ光弾の中を大和は駆け抜け、煙をふいて破壊寸前のカートへと接近。
破れかぶれのジャンプ突撃をアッパーカットで更に跳ね上げ、流れるような後ろ回し蹴りを叩き込んで爆発四散させた。
細く長く息を吐く大和。
「やったな!」
「おう、成瀬が守ってくれたおかげだな。それに……」
大和は紡にむけてにっかりと笑った。
「麻弓が力をくれたおかげでこんなに動けた。ありがとな!」
紡は首をちょこんと傾け、眉をわずかに上げて微笑んだ。
「ボクは頑張る子の味方だからね」
●ホラーエリアのリアルなオバケ
「へえ、雰囲気あるじゃん」
東雲 梛(CL2001410)は吊るされた偽物の生首や鬼火を眺め、そばをふよふよ浮かぶ人魂をつついた。
「けどお前のほうが、迫力あるよな」
ここはお化け屋敷の入り口付近。
流石に電気が通っていないのでびっくりギミックは作動しないが、元々おどろおどろしい場所が廃墟になったことで余計にリアルな不気味さが現われていた。
そんな中を静かに進む『月下の黒』黒桐 夕樹(CL2000163)。
「絡まれるのは面倒だけど、失望されるのは、なんか、癪だから……」
小さく呟く夕樹。
最前列を歩いていた『烏山椒』榊原 時雨(CL2000418)がくるりと振り向いた。
「なんかゆうた?」
「……いや」
時雨は前に向き直り、どこか複雑な顔をした。
(おとなしい子らと一緒になってもうた。一応女性はうちだけやけど……キャーキャーゆうて抱きつく柄でもないし、むしろちょうどいいい具合やね)
「さ、さっくりオバケを倒していこうううううわっ!?」
壁際の障子を突き破って飛び出してきた出刃包丁二刀流の女に時雨は絶叫した。
というか、誰だって出刃包丁二刀流の女に飛び出されたら驚く。
お化け屋敷なら尚のことである。
「こ、こわないよ!? 驚いただけやからな!」
誰に向けてかわからないいいわけをしつつ、咄嗟に翳した槍で包丁を受け止める。
その隙をついてか、左右から皿を数える女や生首を振り回す男が一斉にとびかかるが、そこは時雨。伊達に家出少女はしていない。
「こんにゃろ!」
包丁女を蹴飛ばすと、槍を縦横無尽にかつコンパクトに振り回して左右からの襲撃をはねのけた。
「ふーん、本格的なお化け屋敷だな」
一方で梛は冷静にポケットから小瓶を取り出すと、オバケの集団へと投擲した。
割れてはじける香液。
オバケたちが特殊な香りによろめいている間に、夕樹は懐から抜いた銃を連射。
直撃したオバケにばすんと穴が空き、その後ろから飛びかかろうとしていた別のオバケまでまとめて吹き飛ばした。
「今のうちに、視界の広いところに」
「そやな!」
オバケを蹴散らして駆け抜ける。
やがて、少しばかり広い部屋へと出てきたが、そこは血まみれの電気椅子が一個ぽつんと置いてあるだけの部屋だった。
ぶきみすぎる。
だが進まねば。そう思って踏み出した時雨の頭上から、布袋を被った男が逆さに飛び降りてきた。
「上からは反則やろ!」
咄嗟に飛び退き、槍で牽制する時雨。
上を見ると、大量のオバケが張り付いてこちらを見下ろしていた。
それが次々に飛び降りてくるではないか。
「実験には丁度いい、かな」
夕樹はポケットからBB弾をひとつかみすると、地面に巻きながら走った。
追いかけようと着地したオバケの足下で弾が炸裂。逃げたとみせかけていた夕樹は壁を蹴ってターンし、毒クナイを投擲。
突き刺さって倒れるオバケの上を駆け抜けつつクナイを回収していく。
一方の梛は電気椅子を壁にしてうまく逃げ回りつつ、破眼光で的確に敵を減らしていた。
こうなってくるとオバケというよりおかしな格好をした集団である。ハロウィンパレードのそれにちょっと近い。
「お、なんか目と頭が慣れてきたみたいや」
時雨はぱちぱちと瞬きすると、槍をしっかりと持ち直す。
「一気にいくでっ!」
時雨は槍を構えてチャージアタック。
ジグザグな軌道でありながら、進路上のあらゆるオバケが撥ね飛ばされ、ブレーキをかけた時には全てどさどさと落下。力尽きていた。
安堵の息をつき、銃を懐にしまう夕樹。
「そうだ、麻弓さんのお土産に……」
夕樹はデジカメを取り出し、お化け屋敷の光景を写真におさめた。
梛はそんな光景を見つめ、一瞬だけ昔を懐かしむような顔をした。
首を振り、オバケ屋敷をあとにする。
●スリルエリアのコースタームカデ
「ユウちゃん、大丈夫だった!? 怪我ない!?」
「うわ、ちょっと何……!?」
飛びついてきてぺたぺた触診しはじめる遥に、夕樹はびしりと硬直した。
それを見てけらけら笑う大和。
「それ、オレもやられた」
「やっくんは初陣なんだから、心配だってするよ」
「大丈夫だって」
大和はウィンクすると、ジェットコースターをびしりと指さした。
「あいつを倒して、いいとこ見せてやるからな!」
それに応えるかのようにガガーットレールを走ってくるムカデ。
レールから足を外し、身体をむっくりと起こした。
「……意外とデカいな」
ムカデ、咆哮。
元がジェットコースターというだけあってムカデは凄まじいスピードで突っ込んできた。
目をらんらんと輝かせる奏空。
「うおーすっげえ! あれ乗りてー!」
「乗り……えっ?」
二度見する時雨。
その隙を突いたわけではないが、ムカデが強引なまでの突撃でもって時雨たちを一斉に撥ね飛ばした。
柱や壁を器用に蹴って着地する瑛太と時雨。
一方で思い切り吹き飛ばされた大和は、飛翔した遥にキャッチされていた。陣形と体力を守る、いわゆるキャッチアンドヒールである。
「やっくん大丈夫!?」
「へーきへーき! って、なんだあれ!?」
見上げる大和のさきでは、奏空がムカデの身体につかまって思いっきり振り回されていた。
「これがジェットコースターの醍醐味かー!」
半眼で眺める時雨と瑛太。
「ほんとに乗っとる」
「なにやってんだあいつ」
「ずりー、オレもやりたい!」
などと言いつつ翔は距離を取るように走り、スマホのカメラ機能をオン。ムカデを画角に納めると、スワイプでもってスパークボールを投擲した。連想呪術が発動し、ムカデに激しい電撃が走る。
僅かに動きを鈍らせるムカデ。
「さあ、ラスボスを倒すチャンスだよ」
ふわふわと飛んできた紡が大和の肩をぽんと叩いた。
「頑張ろー」
「おう!」
再び力を漲らせた大和は遥から離脱すると、真下を通過するムカデめがけて拳を引き絞った。
フリーフォールアタックにはやや速度がありすぎる。
が、物陰から身を躍らせた夕樹が銃撃。
撃ったのは地面だが、アスファルトを破るように飛び出した無数の植物蔓がムカデの進行を遮った。
スピードの落ちたムカデの頭を思い切り殴る大和。
それによって急ブレーキ状態になった奏空は反動で吹っ飛び、くるくる回ってお空を飛んでいった。
「ほい、っと」
飛んでいく奏空に先回りして空中キャッチする紡。
「ど、どうも」
「大丈夫? もう一回いく?」
「いいこと思いついたんで、もう一回ほど……」
「んー……いいよ。頑張れ」
ぽいっと地面に放られ、奏空は着地。
その一方で瑛太と時雨はスピードの落ちたムカデに飛びかり、クロススラッシュを叩き込んでいた。
顔面に十字傷をつけられ、怒り狂うようにうねうねと暴れるムカデ。
「ジェットコースターならコース走ってればええもんを、もうコースター関係あらへんな!」
「……」
梛は再び突撃しようと顎をガチガチ鳴らすムカデへと香仇花の瓶を投擲。
顔に当たって炸裂。ぶるぶると首を振ったムカデは彼を邪魔だと考えたのか再び突撃の体勢に入った。
「よし、今だ!」
「オレも!」
突撃直前のムカデに横から飛び乗り、顔面にあたる座席レバーにつかまる奏空と翔。
「東雲さん、走って走って! できるだけまっすぐ!」
「走る……? いいけど」
梛は自分を引きつぶさんばかりに突っ込んでくるムカデに背を向けると、時折破眼光による牽制射撃をしかけながら全力疾走した。
途中にあるブースやベンチを粉砕しながら追いかけるムカデ。
そんなムカデに直接電撃を浴びせる翔と奏空。
ほとばしる電撃を纏いながらも突撃をやめないムカデ。
梛との距離がどんどん縮まり、ぐわりと口を開いたその瞬間。
「今だっ……!」
夕樹が拳銃を狙い澄まして発射。
弾が口の中でトゲとなって炸裂。同時に眼前へと飛行して滑り込んで遥が薄氷を発射。
両脇でホールドするための左右開閉式の角が粉砕。
ここぞとばかりにスライドインした大和が、固めた拳でムカデの上あごを殴りつけた。
凄まじく硬くて重い。が、ムカデは強制的に停止した。
「いいぞ」
「でかした!」
大和の左右を駆け抜ける瑛太と時雨。
瑛太は口の中にあえて飛び込み、あごの付け根をナイフで集中斬撃。
対して時雨は槍による突きに強烈な螺旋エネルギーを纏わせ、あごの奥を突いた。
衝撃がムカデの全身を伝わり、複雑に粉砕、爆発していく。
残骸が飛び散るなか、軽やかに着地する二人。
その一方で、ムカデ再びの急ブレーキによって吹き飛んだ奏空と翔はというと……。
「ほい、二回目」
回り込んだ紡の両腕にそれぞれキャッチされた。
「頑張ったね、やっくん!」
遥は卒業式の両親かなってくらいの勢いで大和をカメラで撮影しまくった。
はにかみつつ、ビースサインを繰り出す大和。
その様子に夕樹はなんともいえない顔になりつつ、黙って自分のカメラを取り出した。
一緒に撮影するためではない。
「麻弓さん、例のおみやげ」
「おー。ありがとうね」
カメラを受け取り、写真データを見てみる紡。
大量に折り重なるオバケの残骸はなかなか迫力があった……が。
「ん?」
一部分をズーム。
なんか部屋の隅に、こっちをじっと見つめる首の長い女が映っていた。
「……」
黙って夕樹にカメラを返した。
「今までみんな楽しませてくれて、ありがとな」
「廃墟になった遊園地だけど、ここには子供の夢が残ってるんだね」
翔と奏空は残骸となったアトラクションを見て魔和割っていた。
そこへ通りかかる梛。
「お疲れ」
とだけ言って帰ろうとする彼に、翔が声をかけた。
「また一緒に遊ぼうぜ!」
「……」
梛は一度だけ振り返って、そしてなんとも言えない顔をした。
高い屋根からそんな光景を眺める瑛太と時雨。
「やっぱ、おっさんみてーにカッコよくできねえな」
「なんや目標でもおるん」
「まーな」
「ふうん……」
分からんでも無い、というトーンで呟くと、時雨は屋根から飛び降りた。
「さて、帰ろか」
遊園地を楽しんだ子供たちが、帰って行く。
