わんわんお
わんわんお


●空腹と
 ずっと、腹をすかせていた。
 ずっと、満たされることはなかった。
 都会に生まれるというのはそういうことだ。
 貧富の差。持つものと持たざるもの。より自分を庇護してくれる集団に染まり、与えてくれる主を見つけ、へりくだらなければ生きてくことなどできない。
 弱者とはそういうものだ。
 媚びへつらい、甘えた声を出し、尻尾を振る。そうしなければ裕福に生きていくことなどできない。反抗心を持つのはいい。だがその責任は自分にのしかかる。
 孤軍奮闘。聞こえはいいが、それができる存在などごく少数だ。大半は、大きな力に縋っていなければ惨めな性活が待っている。
 自分も、そのようなものだった。上から何かを言われるのを嫌い、独りで生きていくことを選んだのだ。
 その結果、歩いてきた道は本当に本当につらいものだった。
 日々を当てなく歩き、店裏の残飯を漁った。あいつらめ、捨てる癖に拾う相手には敵意を向ける。要らないものにまで権利を主張するなんて業突く張り共が。
 だが、そういうやつらでできている以上、そういうコミュニティの成り立っている異常。自分は当然のごとく追いやられていく。
 腹が減った。
 本当に腹が減った。
 尊厳とか、意志だとか、誇りだとか、そういったものはとうに打ち壊されている。ただ、食うこともできない。それが辛い。ただただ辛い。日々、腹を満たすことだけが自分の欲求となる。自分の存在となる。自分の価値となる。自分の意味となる。
 食いたい。食いたい。何でもいい。そこら辺にいる。ほら、お前でもいい。

 晴れやかな気分だ。
 ずっと、こんな気持を味わえたことはなかった。
 晴れやかな気分だ。
 嗚呼、どうして気づかなかったのだろう。
 腹が減ったなら食えばいいのだ。満たされたいならば食えばいいのだ。
 こんなにも転がっている。こんなにもこいつらはそこかしこに転がっているじゃあないか。
 ほとんどのやつは不健康で、大した栄養を積んじゃいないが、なに、自分は肉食だ。贅沢は言うまい。喰らえばいいのだ。
 牙を剥く。今やふらついていた身体はしっかりと四本の足で大地を踏み、そして遠吠えをあげた。仲間への合図ではない。
 ただ、産声としてだ。

●集団と
「人間を食うちょる」
 ミリアルデ・ニーチェ(nCL2000064)は資料を配るなりそう言った。
 妖:生物系。ランク2。出現数1。
 その見出しで始まる資料には、夢見によって判明している妖の特徴が印字されている。
 犬。犬だ。野犬であるのか、飼犬であったのかは定かではない。まあ、そのあたりは大した問題では無いだろう。
 人間を食らう妖。存在としてカテゴライズするならば、重要なのはその一点であった。
 少しだけ、緊張感が走る。
 鎖に繋がれた飼犬でさえ、躾が悪くよく吠えるような奴は恐ろしい。戦えば倒せるのだから平気、というのは少し違う。
 それでも任務。仕事である。自分たちがやらねば、この獣は本当に噛み付くのだから。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:yakigote
■成功条件
1.妖の討伐
2.なし
3.なし
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

人を食らう妖が出現しました。
被害が広がる前に討伐してください。

●エネミーデータ
人喰いの犬
・妖:生物系。ランク2。出現数1
・成長した大型犬の2倍以上の体躯を持つ犬の姿をした妖。
・巨体に反して素早く、また力も強い。
・空腹を満たす喜びに狂い、ひとを発見すれば襲い、食らおうとするでしょう。

・夢想した向こう側を食らう:遠距離単体攻撃。味方ガード無効。牙の届かない距離でも噛み付くことができます。
・只々空腹を満たすための行為:近距離列攻撃。
・襲い殺し食すだけの存在:遠距離単体攻撃。二連撃。物防無視。体力2割未満でシナリオ中1度のみ使用。

●シチュエーションデータ
・深夜の街中。
・街灯があるため明かりの心配はありません。
・皆、寝静まっている時間になりますが、人が出歩いていて不思議ではありません。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(3モルげっと♪)
相談日数
5日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年09月09日

■メイン参加者 8人■

『ワイルドキャット』
猫屋敷 真央(CL2000247)
『相棒・恋人募集中!』
星野 宇宙人(CL2000772)

●焦燥と
 豚が一年食べなくても、蚕が一食抜いた時の空腹には叶わない ――――ベトナムの諺。

 街灯はどうやって管理しているのだろう。
 オレンジの光はお世辞にも綺麗だとはいえず、寧ろ夜の恐怖をかき立てている。夜の街は、昼のそれとは別の世界だ。眠らない街、なんてのもこの世にはあるらしいが、この辺りではイマイチぴんと来ない。夜は夜である。暗闇であり、恐怖であり、深遠である。夜とは死を連想させるものなのだ。
「仲良く出来るわんさんなら、良かったのです、けれど……人でなくては、いけなかったんでしょう、か」
 心のやさしい『花日和』一色 ひなた(CL2000317) らしく、倒すべき敵であってもその境遇には憂いの気持ちを見せずにはいられない。悪意だけが害を及ぼすのだとは限らない。不幸もまた、同じく害を撒き散らすこともあるのだ。同情を誘う生き方であったのだろう。しかし、その味は覚えてはならぬものであった。
「ただ、おなかがすいて……傍にいたのが人であっただけかも、しれません。それでもその行いは、あなたを殺してしまう」
 孤独である。たった一人で生きていく。それはとても楽なことだと、『星狩り』一色・満月(CL2000044) は思う。誰にも気遣わなくていい。何事にも囚われなくていい。それを自由と呼ぶのかは知らないが、法も協調もないとはそういうことだ。責務も、罰も、結果も、罪も、禍福も、経緯も、ただ己のうちにのみある。それがひとりであるということだ。全てにおいて言い訳が立たぬということだ。
「俺も独りで復讐を行う。その責務を果たすため、俺は今日も依頼を通過点として扱うのさ」
 願うはひとつ。ただ、強くなるために。
「ワンコさん、出来ればこんな風になる前に出会いたかったです……けど、人を襲うというなら見過ごすわけにはいきません、全力で退治させてもらいます」
 身近な種族であるだけに、『ワイルドキャット』猫屋敷 真央(CL2000247) もまた件の犬には同情的である。だが、討たねばならぬ。害獣には駆除以外のコミュニケーションは許されていないのだ。コンフラックス。一切の面識がなく、自分への危害が皆無である時点から、敵対を強要されることもありうるのだ。
「それがきっと貴方を救うことにもなると思っていますからっ!」
「はらへりわんわん。やせいのわんわん」
 八百万 円(CL2000681) の考えは、少々読み取りづらい。ただ非常にシンプルであるが故だが、それ故に社会性が聞くものの理解度を妨げる。生きるという行為を極限までシンプルにした場合、そこには食のみが存在する。文化という幸福が、社会という知性がそれを邪魔しているのだ。かといって、それを手放すことはできないし、手放すことを奨励するつもりもない。はじめからもっているのか、いないのか。違いとはそういうことなのだから。
「そういうのすき。たべちゃだめっておなかすくもんね」
「飢えてる健康状態じゃねえだろ、この大きさ。こえー……」
 資料を読み返し、四月一日 四月二日(CL2000588) は再度げんなりする。いくら人にとって身近な生き物であると言っても、犬はやはり肉食獣である。牙は正しく殺すためで、爪は正しく殺すために存在する。獲り、暗い、込む。身近な生き物である。否、身近であるからこそ容易く恐怖心を煽るのか。それが常のそれよりもずっと大きいというのだから、恐ろしくないわけがなかった。
「もし忠実なペットなら、心強い相棒になっただろうになあ。残念なこって」
 くわばらくわばらと、四月二日は己の獲物を指先でなぞる。
「飢餓を乗り越える為に妖に転じたのかな?」
 四条・理央(CL2000070)は妖の成り立ちを推測する。飢え、痛み、寒さ、熱さ。死を予感させる感覚は数あれど、飢えというのは別格だ。他のどれよりも緩やかで、しかし確実に死へと向かっている。それよりも緩やかで確実となれば老化というものがあるのだが、如何せんこれは死への感覚が遠過ぎる。やはり長く、かつ鮮明に死を予感させるという点で、飢えというのは別格なのである。それこそ、元の自分を在り方から見失ってしまうほどには。
「可哀想だと思うけど、人の社会に紛れ込むには生き方がまずかったね」
「本来は可愛いワンコだったかもしれないのに、妖となってしまうことで人を喰らうようになってしまうとは……」
 辿る生い立ちが違えば別の結果であったのだろうと思えば、『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)はそれが残念でならない。誰かに飼われ、餌を与えられ、人のパートナーとして生きる。そういう在り方を誰かが与えてくれていたのなら。そう思わずにはいられない。いつだって人生はままならない。行く先はたらればで満ちている。人は抗うだけ抗おうとするのに、どこかでどうしようもない諦念を抱いている。
 集団を離れていた星野 宇宙人(CL2000772) が皆と合流する。どうやら人影が見えたため、近づかぬよう話していたようだ。説得には成功したのか、とくにいがみ合ったような形跡もない。
 と。
 遠吠えが聞こえた。
 ひとりでいるだろうに。仲間などいないだろうに。それでも犬の習性か。遠吠えが聞こえた。

●諦念と
 生きるために食べるべきで、食べるために生きてはならぬ ――――ソクラテス。

 犬がいる。
 大きな犬だ。
 その全貌は巨大ではあるが、犬としての様相を崩してはいない。それが幸福なことなのかどうかは分からないが、少なくともひとめで犬とわかるだけのそれではあった。
 ただ大きい。
 巨大であるということは恐怖である。力を示す上で最も視覚的なファクターであると言えよう。いくら攻撃的なデザインでも、巨大さを上回ることはできない。
 ハリネズミを恐れることがないように、人は小さいというだけで恐怖心を減少させる。
 巨大であるということは恐怖である。
 そしてそれは大きく、獣らしい匂いを撒き散らして我々を見ている。見つめている。品を定めている。
 小さく、鳴いた。
 それは「腹が減った」と聞こえた気がした。

●憂鬱と
 彼らはブリオッシュを食べるように ――――マリー・アントワネット。

 真央の爪が、肉食獣の皮を刻む。
 その牙は距離を法則外とし、肉に届くとは聞いている。しかし、そのような超常の技を乱発できるものでもあるまい。
 だれか常の人が通らぬとも限らぬのだ。意識をこちらに集中させていれば、不意の闖入者であっても牙を向けられることはないかもしれない、というのが彼女の考えであった。
 大きくなろうとも獣は獣。それほど多くに意識をさけはしない。こちらに噛み付こうとするのを手甲のそれで防いだ。鼻につく獣臭。平時であれば鼻を塞いでいたかもしれないが、今それを行えば次の刹那に自分は食事へと変貌していることだろう。
 押しては引き、敵がバランスを崩した隙をついて、加速した。
 爪で二度、その顔を薙ぐ。身体に負荷がかかったか、疾風の連撃に神経が悲鳴をあげる。声は漏らさない。獣にとって獲物の弱みとは好機であり、敗北の白旗にも近いものだ。
 もう一撃、踏み込んで。腕の血管が千切れたか、血線をまき散らしながら彼女は舞う。

 鉄輪をはめた宇宙人の拳が、犬の銅に叩き込まれる。
 鈍い音。連撃へとは転じず、かわりに一歩大きく後方へ。
 返しにと振るわれた獣の爪が自分の鼻先をかすめていた。
 ずきりと痛む。野良であることに一瞬、感染症の不安がよぎるのは現代人ゆえか。まともに喰らいたくはないものだと思う。喰らわれてもならないのだが。
 鼻頭の血を拭いながら、彼の見えているものは通常の視界とは異なるものだ。
 熱源。機械的なサーモグラフィーほど正確ではないが、熱の動きはある程度見て取れる。大きくても、強くても、人を喰ったとしても、獣は獣。体内の動きにはもしかしたら―――慌てて声をあげた。
 急ぎ、防御の姿勢を取る。見えない虚空。届かないはずの距離、しかしガードにあげた腕を、その牙は確実に噛み付いていた。
 肉が裂け、血が流れる。ガードが遅れていればどうなっていたことか。
 にちゃにちゃと嫌な音がした。くちゃくちゃ、にちゃにちゃ。
 嗚呼畜生、食ってやがんな。

「こっちだよ~」
 自分たちの後ろへと犬が目線を向けた矢先、円はその鼻っ柱へと頭突きを叩き込んでやった。
 鼻への強打はどんな生き物でもショックを受ける。思い切り睨まれるが、気持ちがこちらへ向いたのであれば成功だ。
 戦いは苛烈だ。肌も所々が裂けている。血は流れているものの、痛みをさほど感じないのは脳内物質のせいだろう。
 触れている隙はないため、犬が何を考えているのかはわからない。しかし、わかりそうなものだ。
 食べたい。食べたい。飢えぬために、死なぬために食べたい。生きるとはそれだ。正しくそれなのだ。
「食べっこしよう。そうしよう」
 食うとは神聖な行為だ。我慢は辛い。死に近づくのは怖い。飢えて、飢えて、飢えて、飢えて。その果てにやっとありつけたというのなら。
 食うのか、食われるのか。生命のやりとりの本質とはそこであるのだから。
 そこに快楽は存在しない。もっと、もっと純粋なものなのだ。
「だから命掛けで遊ぼう。楽しい、楽しい!」

 四月二日の電撃に、獣は苦しそうな鳴き声をあげたものの、次の瞬間には暴力に転じていた。通じていないのではない。仕留めるにはまだ足りないというだけなのだろう。
 気を巡らせる。自分のそれを増幅させようとも考えたが、打ち切った。効率が悪すぎる。気力の練り上げがうまくいかなければ、いたずらに精神を摩耗させるだけだ。
「俺一人食べたら満足して、人襲うの一生やめます……ってんなら、餌になるのも検討したげてイイんだがなあ。絶対ソレで収まんないだろ、キミ」
 当然だ。ご馳走してやるから金輪際食うなと言われて誰が納得できよう。そして、その言葉を理解できるだけの知性も持ちあわせてはいないのだ。
「もうそんな苦しみにに苛まれないように、今ここで幕を下ろしてやるよ。夢も美学もなく、襲い殺し食すだけの憐れなイキモノが空腹を満たすだけの狂った喜劇にな……んふふ。俺ったら優しー」
 致し方なし。反抗するだけの力があれば、豚とて人に逆らうだろう。食うことと、食われる覚悟をすることはけして同義ではないのだ。

「出来る限り支えるけど、長くは持たないからね。出来るだけ早くけりをつけて!」
 通常の、倍はあろうかという大型犬。それもおとなしい飼犬ではない。食すために狩りを続ける野生のそれである。そんなものと対峙しているのだ。こちらのほうが数で有利といえど、無傷で済むはずもない。
 皆傷つき、血を流し、肉をえぐられていた。
 治療役として動く理央にしても例外ではない。爪という、牙という不揃いな鋭利さで斬り裂かれた傷は、包丁で指を切るような痛みとはまるで別種のものだ。
 鈍い痛みが思考を妨げる。ずきずきと傷口が悲鳴をあげて脳に訴える。痛みは危険信号だ。死の可能性を主人に訴えている。
 しかし、安易に治癒してしまっていいものではない。
 足りない。燃料不足である。
 常に万全を整えていたいのは山々だが、それで待っているのはリソースの早期枯渇である。中途半端に戦闘が長引くだけで戦線を崩されかねない。
 理央は観察する。思考する。後ろというこの距離で、ずっと仲間の傷を判断している。

 疲弊している。
 戦闘という概念において、今現状の数はけして多いとはいえない。大規模な戦争であるのならまだしも、敵と肉薄する距離での生命の削り合い。スポーツではないのだ。ルールはなく、生き残るためにはなんでもやれる。殺すためならばなんでもできる。インターバルは存在しない。そんな中で蓄積する疲労とダメージは想定外に大きいものだ。
 加えて、一撃が大きい。ゲイルも治癒に回ってはいるが、それが追いついているとは言いがたい。
 だが、相手にも言えることだ。巨大な犬。素早く、力強い化け物。だが無敵ではない。不死身でもない。確実に死に近づいている。こちらが危ういのと同じように、敵も確実に追い詰められている。
 そろそろだ、と思う。
 そろそろ、均衡が崩れるだろう。どちらかが、バランスを崩すだろう。拮抗しているほど、何がきっかけでこの殺し合いが崩れるかはわからない。
 頬を汗がつたう。すでに全身がそうであるはずなのに、それだけが妙にはっきりと感じられた。

 両腕の噛み砕かれる音を聞いた。
 それがどんな音かと聞かれれば、けして思い出したくないものだと答えるだろう。とにかくその牙は、危険を感じ身を守ろうとしたひなたの腕ごと容易く、彼女を噛み砕いたのだ。
 痛みは感じない。正しくは、まだ感じていない。肉に穴が空き、骨格がひしゃげている。血は吹き出していない。無論正しくは、まだ吹き出していない。それは刹那。極限に追いやられた生命が知覚の中で永遠に思えるほど自己を引き伸ばす。噛み付かれてから、痛みが神経を伝うよりも前のごく僅かなそれを。
 意識せず、しかし意志の力を持って閉じかけた心をこじ開ける。それは生命を削る行為だ。今を繋ぎ止めるために未来を前借りしているに過ぎない。
 よって、倒れない。倒れることをよしとしない。時間は正常に流れ、痛みが脳で早鐘を打つ。泣きたいのか、叫びたいのか、わめきたいのか、わからなくて、ごちゃまぜになって、どうにもならないうちに。
 弟が、自分の横を走り抜けた。

「てンめェ、俺のひなたに何してくれんだ……傷でもついたら、どうするつもりだ、ァア!?」
 誰が静止する間もなく、満月はただがむしゃらに己の得物を妖へと叩きつけていた。
 怒り任せの一撃は、重く鋭い。だが代償もある。彼の被った反撃は、袈裟懸けに肩から横腹へと三本、ずたずたに斬り裂いた。
 けして軽いとは言えない傷。だが、脳が命令する。魂が命令する。痛みを感じているような暇はないのだと。ただ唯一の家族を護れと。そのために猛る怒りに身を任せるのだと。
 心の何処かで、冷静な自分が囁く。いまのがこいつの奥の手だろう。それを切ったのなら、嗚呼、こいつはもうすぐだ。こいつはもうすぐお終いなのだ。
 仲間もそれに気づいている。猛攻。怒号。こちらの勢いに、犬のそれが明らかに鈍る。
 弱肉強食。食うのだ。食えたなら、強者なのだ。それは正しい。正しいからこそ、この結末を迎えるのだ。
「喜べ、今日で食事を取らなくて良い身体にしてやる」

●空腹と
 しかし彼らは全ての動物の主だ。全ての動物を働かせ、その見返りに飢え死にしないだけの最低限だけを動物に分け与えて残りを自分で所有するのだ ――――ジョージ・オーウェル。

 ざあざあと。ざあざあと。
 それを見下ろしている。今や倒れ伏し、ぴくりとも動かなくなったそれを見下ろしている。
 ざあざあと。ざあざあと。
 余裕があるわけではない。これは、回収班が来るまでのただ、感傷にすぎない。
 ざあざあと。ざあざあと。
 ちょうど雨が降ってきて、おびただしい血を獣の匂いと一緒に洗い流していく。
 こいつは、どうなるのだろう。
 現実的に考えれば、処理班が何とかするのだろう。だが、これも感傷だ。強者がそれを倒したのだ。だが、死と同時に肉はぐずぐずに崩れてしまった。ハイエナとて、これを口に含もうとは思うまい。
 弱かった。野生のルールで言えば、それが全てだ。だが肉にはならない。なれもしない。
 それでも還ったのだと、外れたのではないのだと、そういうことにしたかった。
 了。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
ここはミラーサイトです