≪玉串ノ巫女≫モクリコクリの海
●モクリコクリの海
『青森尻屋埼灯台より観測。
海北側にて妖発生。自然系妖ランク3と断定。数は5。
全長測定不能。上陸能力ありと推定。
ただし民間人が退去を拒否している。
対象をモクリコクリと仮称し、即時戦闘を要する』
この連絡を受け、神社本庁所属『玉串の巫女』が出動。
上陸した妖との戦闘に入っていた。
水上をアイススケートの要領で駆け抜けながら、水面から盛り上がった巨大な『モクリコクリ』をにらんだ。
形状は、巨大なゼリーを想像すれば近いだろうか。
そんなモクリコクリは全身から無数の触手めいたものを形成し、叩き付けてくる。
一斉に敵を薙ぎ払うような攻撃だ。
巫女たちは防御姿勢。中でも新米の巫女を庇うように、ピンク髪の巫女が前へ飛び出した。
一斉に吹き飛ばされ、陸地に投げ出される。
「六実さん、それ……!」
新米の叫びを無視して、ピンク髪の巫女六実はへし折れた腕をぶらさげた。
器用に着地した赤髪の巫女に目配せする。
「なんで逃げないんですかねえ民間人は。自殺願望でも?」
「モノミ平には寒立馬が放牧されてんだと。牧場主がこいつを残していけねえとさ」
上陸地点から放牧場までは100メートルとない。上陸されれば馬は死に絶え牧場主もやがて死ぬだろう。そういった経済事情を差し引いても、愛着ある馬を見殺しにできまい。
「お馬さんが大事ですかー。あーあー分かりますよー。偉い人はお馬さん遊び好きですからねー」
モクリコクリが陸地に接触し、大量の触手を足代わりにしてずもずもと進行してくる。
六実は折れた腕を持ってぷらぷらと降ると、目を大きく見開いた。
「でも偉い人が偉いままふんぞり返っててくれないと、世の中全部スラム街になっちゃいますからねー。ちょーどいい等価交換なんじゃないですか? これって」
六実はその表情のまま無理矢理笑うと、モクリコクリへと突撃した。
彼女の意をくんで逆方向へと走り出す巫女たち。赤髪に手を引かれて走る新米は、振り向きざまに光を見た。
「先輩」
それが、六実を見た最後の瞬間である。
●
「青森北部の海に妖が発生。覚者組織『玉串の巫女』が交戦したが敗北。最後の魂を使って大半を強制撃破し、残る個体も遠くの海上へと吹き飛ばしたそうだ。
我々の任務は、撃破しそこねたランク3妖1体を撃破することにある」
「六実さんも亡くなったんですかー。では次の六実さんを探さなきゃですねー。ご愁傷さまですー」
ファイヴの覚者の一人として依頼に参加した九美上 ココノ(nCL2000152)はそんな風に夢見の話を聞いていた。
妖は状況からモクリコクリと仮称されたようだ。
青森に伝わる妖怪伝承とは無関係である。
戦闘記録によればモクリコクリは巨大なゼリー状の物体で、身体を変形させ大量の触手を形成するようだ。
触手の平均的な大きさは木の丸太程度。
この触手を使用して海や陸での移動を可能とし、また攻撃にも利用している。
主な攻撃方法は触手群による強烈な薙ぎ払い。
もしくは触手を束にして個体を集中攻撃したり、ゼリー状の体内に取り込んで圧死させるといった動きも観測されている。
「前任者の魂によって損傷を与えているとはいえ強敵だ。無理はせず、気をつけてあたってくれ」
『青森尻屋埼灯台より観測。
海北側にて妖発生。自然系妖ランク3と断定。数は5。
全長測定不能。上陸能力ありと推定。
ただし民間人が退去を拒否している。
対象をモクリコクリと仮称し、即時戦闘を要する』
この連絡を受け、神社本庁所属『玉串の巫女』が出動。
上陸した妖との戦闘に入っていた。
水上をアイススケートの要領で駆け抜けながら、水面から盛り上がった巨大な『モクリコクリ』をにらんだ。
形状は、巨大なゼリーを想像すれば近いだろうか。
そんなモクリコクリは全身から無数の触手めいたものを形成し、叩き付けてくる。
一斉に敵を薙ぎ払うような攻撃だ。
巫女たちは防御姿勢。中でも新米の巫女を庇うように、ピンク髪の巫女が前へ飛び出した。
一斉に吹き飛ばされ、陸地に投げ出される。
「六実さん、それ……!」
新米の叫びを無視して、ピンク髪の巫女六実はへし折れた腕をぶらさげた。
器用に着地した赤髪の巫女に目配せする。
「なんで逃げないんですかねえ民間人は。自殺願望でも?」
「モノミ平には寒立馬が放牧されてんだと。牧場主がこいつを残していけねえとさ」
上陸地点から放牧場までは100メートルとない。上陸されれば馬は死に絶え牧場主もやがて死ぬだろう。そういった経済事情を差し引いても、愛着ある馬を見殺しにできまい。
「お馬さんが大事ですかー。あーあー分かりますよー。偉い人はお馬さん遊び好きですからねー」
モクリコクリが陸地に接触し、大量の触手を足代わりにしてずもずもと進行してくる。
六実は折れた腕を持ってぷらぷらと降ると、目を大きく見開いた。
「でも偉い人が偉いままふんぞり返っててくれないと、世の中全部スラム街になっちゃいますからねー。ちょーどいい等価交換なんじゃないですか? これって」
六実はその表情のまま無理矢理笑うと、モクリコクリへと突撃した。
彼女の意をくんで逆方向へと走り出す巫女たち。赤髪に手を引かれて走る新米は、振り向きざまに光を見た。
「先輩」
それが、六実を見た最後の瞬間である。
●
「青森北部の海に妖が発生。覚者組織『玉串の巫女』が交戦したが敗北。最後の魂を使って大半を強制撃破し、残る個体も遠くの海上へと吹き飛ばしたそうだ。
我々の任務は、撃破しそこねたランク3妖1体を撃破することにある」
「六実さんも亡くなったんですかー。では次の六実さんを探さなきゃですねー。ご愁傷さまですー」
ファイヴの覚者の一人として依頼に参加した九美上 ココノ(nCL2000152)はそんな風に夢見の話を聞いていた。
妖は状況からモクリコクリと仮称されたようだ。
青森に伝わる妖怪伝承とは無関係である。
戦闘記録によればモクリコクリは巨大なゼリー状の物体で、身体を変形させ大量の触手を形成するようだ。
触手の平均的な大きさは木の丸太程度。
この触手を使用して海や陸での移動を可能とし、また攻撃にも利用している。
主な攻撃方法は触手群による強烈な薙ぎ払い。
もしくは触手を束にして個体を集中攻撃したり、ゼリー状の体内に取り込んで圧死させるといった動きも観測されている。
「前任者の魂によって損傷を与えているとはいえ強敵だ。無理はせず、気をつけてあたってくれ」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.モクリコクリの撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
戦場のマップ等を大まかに説明します。
●戦場の構造
突き出た形の陸地に馬牧場と灯台があり、その北方100メートルの海上にモクリコクリが飛ばされています。
現在損傷を取り戻すために休憩中ですが、襲いかかれば休憩をやめて攻撃行動にでるでしょう。
現地まではモーターボートで移動。戦闘にも使用できますが、水上歩行や飛行があればより有利に戦えます。
(※具体的には、船上だと足場ペナルティとして命中-5回避-10がかかります)
尚、浮遊系アテンド能力のふわふわは移動速度や集中リソース的にみて戦闘使用に耐えません。
ちなみに、システム上船の上からでも近接攻撃は可能です。
モクリコクリは上陸を目指して南下。
なんの妨害もなければおよそ10ターンで上陸を開始します。
そのまま灯台や放牧施設を破壊してしまうので、それより早く解決すると周辺被害が軽減されるでしょう。
●同行NPC
九美上 ココノ(nCL2000152)が通常参加枠と同じ扱いで依頼に参加しています。
飛行や水上歩行をもっていないそうで、船上から攻撃を行なうそうです。
また、自主的に考える能力があるので指示プレイングを必要としません。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年08月10日
2016年08月10日
■メイン参加者 8人■

●モクリコクリ海上決戦
衝撃で海が割れた。
身長よりも高まった波を駆け上がり、突き破って飛ぶ『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。
(いきますよ、ペスカ。不安な気持ちで待っている人を助けに行くんです!)
水面から飛び出した時には両手を眼前に翳していた。生まれた小さな魔方陣が一回り大きな魔方陣を生み、それが更に大きな魔方陣を生み、幾重に繰り返して数メートルまで広がった魔方陣を炎弾が通り抜けていく。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
巨大な炎弾は空を穿ち、モクリコクリの巨体をも貫いていく。
ゼリー状の巨体だ。しかし空いた穴はすぐにふさがり、大量の触手が伸びてくる。
「攻撃、来ます! 併せてください!」
賀茂 たまき(CL2000994)が海上をモクリコクリ方向へダッシュ。
ポケットから奴下りにした大護符を二枚。両手で取り出して広げると、海面めがけて投げつけた。
海面を霊力噴射によって進む護符に自ら飛び乗り、全力加速。
触手が頭上から叩き付けられ、視界の全てが波と泡に呑まれていく。
音も光も混濁した中を、波に乗って飛び出してくるたまき。
その後ろには『星護の騎士』天堂・フィオナ(CL2001421)のボートがついていた。
たまきの防御力で水の圧力を逃がし、一種のスリップストリーム状態を作っていたのだ。
「フィオナさん!」
振り向いて手を出すたまき。その手を掴む。
たまきは自らのエネルギーを使ってフィオナを投擲。
アテンドから剣を取り出したフィオナは空中で激しく回転しながら斬撃を繰り出した。
切断面からの衝撃によってモクリコクリのボディが大きく引き裂かれていく。
ゼリー状のボディに足をつき、飛び退くフィオナ。
落下した所をキャッチする鹿ノ島・遥(CL2000227)。
すぐそばのボートに投げると、プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が彼女を受け取った。
「お疲れフィオ姫! あ、カノプー!」
「なんか分かったか!?」
「上でおっぱい揺れてる!」
「どーでもいー!」
遥は波打つ水面をジャンプで超えると、拳を握り込んでカウンターの構えをとった。
触手が襲いかかってくる。水面スレスレの横殴りだ。
遥は待ってましたとばかりに触手を掴み取り、吹き飛ばされる勢いに自分の跳躍力を乗せ、天高く舞い上がった。
「あ、まってカノプー。余も!」
タイミング良くハンマーを放り投げるプリンス。
かなり強烈なエネルギーの籠もったハンマーを空中でキャッチすると、遥は落下速度にプリンスのハンマー裏面から噴射されるエネルギーをあわせてモクリコクリの頭頂部(と思われる部位)に叩き付けた。
どうんという重低音が響き、形を歪めるモクリコクリ。
その直後である。
モクリコクリの側面を駆け上がっていた『火纏演武』鐡之蔵 禊(CL2000029)とボートで無理矢理ボディ側面を登らせていた九美上 ココノ(nCL2000152)が同時に跳躍。
宙返りから腕にエネルギーをため込むと、続けざまにパンチを叩き込んだ。
パンチといっても禊は掌底、ココノは肘打ちである。
元の形に戻ろうとする反動を利用して飛び退く二人。
そのまま水没しそうになったココノをかっさらう形で禊が水面に着地。
アイススケートの要領でモクリコクリの側面へと回り込む。
側面方向では既に準備を終えていた『希望峰』七海 灯(CL2000579)が鎖鎌を高速で回転させていた。
(本州最北端の灯台が壊れてしまうと、船の往来に大きな影響が出そうです。船の座礁などの二次被害も起こりかねません。灯台を守る家に産まれた者として……絶対に守って見せます!)
水面にふんばりをきかせ、鎌部分を投擲。
モクリコクリのボディ側面に突き刺さった鎌から破壊的なエネルギーが伝達し、ボディを深くえぐり込んでいく。
ぐい、と鎖を引く灯。ぴんと張った鎖の上にボートで通りかかった『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)が飛び乗り、ボディめがけて駆け上がっていく。
触手が足下を通過しそうになったがジャンプで回避。細い鎖の上をまるで平地のように駆け抜け、巨大注射器によるフルスイングアタックを叩き込んだ。
複雑にボディの形状を歪めるモクリコクリ。
元の形状に戻ろうとぐねぐねと動いているが、それを観察している暇はない。渚は鎌が抜けて引き戻された鎖を掴むことで緊急離脱。
常人を一秒で圧殺しそうな触手が頭上をかすめる中、灯のアシストによって海上を走るボートの上へと再び着地した。
振り返ると、見上げるような妖。
(大きい妖。でもこんな経験、初めてじゃ無いもんね。絶対、負けないから!)
灯台や牧場に被害を出さないようにと会場決戦を選んだファイヴ覚者たち。
彼らは非常に高度な連携によってモクリコクリを翻弄し、開始地点から10メートルたりとも動かさないまま戦闘を続けていた。
そんな中、侵攻の恐れがないと判断したラーラはモクリコクリから距離をとり、交霊術を試みていた。
「六実さん、聞こえますか。眠りを妨げるのをお許しください。六実さん」
水面に問いかける。
すると、巫女装束の六実が水面を割って現われた。見たところ足が無いのは死んでいますよという自己主張だろうか。ふああとあくびをする六実。
『なんですか急に、こっちは極楽浄土に行けるかどうかって瀬戸際なのに』
「……えっと、随分はっきりと出てくるんですね」
『我の強さなら自信あるんで』
力こぶをぽんぽんと叩く六実。
交霊術時に得られる情報量は相手の残留思念の強さに依存する。時間が経てば消えるし、元の思念が弱ければ会話すらできないこともあるが、今回は随分と解像度が高いようだ。
『で、なんですか? お馬さんのために犬死にしたって笑いに来たんです? でかい口きいてたくせに負けてやんのって』
「いいえ。あなたの死は無駄なんかじゃありません」
『……』
「私は行為自体を否定も肯定もしません。ただ、あなたが命がけで守った命を、取りこぼすわけにはいかないんです」
『あー……クソ女が二重スパイかましてるっていう組織って、おたくだったんですか。通りで最近噂に上らないと……』
「あの」
『はいはい。知りたいのはモクリコクリの弱点ですよね?』
「できれば」
『私もそれが分かってれば勝てたんですけどねえ。魂ぶっぱってワケには?』
「そういうわけには」
『じゃあ死亡率を減らすしか無いですわ。モクリコクリは触手を無限にはやせるけど、動かすにはリソースを食うっぽいんです。全方位から一斉に仕掛け続ければ相手の命中率を下げられますよ。代わりにダメージちょー喰いますけど』
「リソース……ですか」
『暫く寝かせて貰っていいです? 思念疲れてきたんで』
「は、はい……!」
交霊術を打ち切って、ラーラは振り返った。
灯からの送受心が送られてくる。
『ラーラさん、何か分かりましたか?』
『はい、全方位から一斉に仕掛ければと。前衛を極端に増やすことになりますが、可能ですか』
『無理じゃないですね――みなさん!』
灯からの一斉送心に、禊たちがハッと顔をあげた。
ニヤリと笑うプリンス。
『そんな民に王家から素敵なおふれ! 透視してたんだけどイイことわかったよ。モクリコクリはダメージをうけるたびに元通りになろうとするけど、徐々に内側スッカスカになってる。攻撃の時に硬い触手を外に出すために内側のリソース更にスッカスカになるから、そうなった時が一番のアタックチャーンスだね』
頷く渚。
腕章をピッと翳してボートの先頭に立った。
『みんな聞こえた!? 囲んで一斉に隙を晒して、その上で突っ込むよ! 回復は任せて!』
後ろで剣を抜くフィオナと、かがんだ姿勢のまま煙草をくわえるココノ。
『了解だ。ボートを叩き付けてやる!』
『こちらもいーですー』
一方でモクリコクリの背後に回った遥は、ぐっと拳を握った。
『攻撃再開だ! 張り切っていこー!』
『はいっ!』
たまきは側面へ回り込み、カミソリで腕を切ってみせる。
人間に執着する妖の習性を利用して、自分たちに注意を引かせようという試みである。
一方のモクリコクリは、自分をぐるりと取り囲んだ敵集団を前に一瞬たじろいだ様子を見せていた。
だがぼーっとしていればやられるだけだ。
モクリコクリは全方位から触手を生やし、まずは彼らを薙ぎ払うために繰り出した。
「来たよ!」
「負けるか、突っ込む! そして、ノブレス・オブリージュを果たすぞ!」
フィオナはボートの先頭を交代すると、エンジン全開でモクリコクリへと突っ込んだ。 触手のアタックが直撃。
ボートが粉々になる……が、渚たちは無事だった。
ダメージをフィオナが引き受けたからである。
「仲間を助けて貰った恩返しだ!」
「保健委員のがんばりどころ!」
渚は癒力活性を発動。モクリコクリの『全周薙ぎ払い』へカウンターヒールをぶつけた。
「カノプー、おっぱい来てる来てる!」
「うっせ!」
同時刻、モクリコクリ後方。ボートの破壊されたプリンスは待ち構えていた遥のレシーブによって再びジャンプ。
ハンマーを振りかぶると、モクリコクリのボディに叩き込んだ。
衝撃が貫通し、大きな穴が空く。
「今です、ココノさん! 禊さん!」
モクリコクリ前方。たまきがレシーブ姿勢をとると、彼女の両肩を足場に禊とココノが跳躍。
プリンスが開けた穴に逆から潜り込み、内側からキックの嵐を浴びせた。
ぼこぼこと複雑に身体を歪めるモクリコクリ。
こうなれば圧死させるしかと思ったのか、禊たちを自らの中に閉じ込め始めた。
「鐡之蔵さん! 九美上さん!」
咄嗟に灯が飛びかかり、鎌に纏わせた炎で斬りかかる。
引き裂かれたボディはそのまま破棄され、モクリコクリはどんどん小さくなっていった。
「巨大な身体を保てなくなって、自らを縮小している……このままじゃ禊さんが危険です!」
「ちっきしょ! 離せ! この!」
遥も拳にエネルギーを漲らせて殴りまくるが、モクリコクリはそのまま自らを縮めて水没するつもりのようだ。
流石に海の底へ引きずり込まれれば生きていられない。そうなる前にモクリコクリを倒さなければ……。
このままじゃヤバいと遥の顔に焦りが浮かんだその途端。
禊がモクリコクリから排出されてきた。
「うおっ!?」
慌ててキャッチする遥。
「ナイスLS!」
親指を立てるプリンス。
「言ってる場合ですか! あの人また……!」
ラーラが水面を駆け寄り、魔導書を開封。大量の炎弾を生み出す。
その一方で、たまきも攻撃に転じようとポケットに手を入れた。
が、護符がもう入っていない。先程の薙ぎ払いによってリュックサックもベルトが切れて流されてしまったようだ。
他に何か……と思った矢先、自分の腕に何かが巻き付いていることに気づいた。
触れてみると、淡い光に包まれて手帳サイズの本へと変化した。
「これは?」
開いてみると、蛇腹状に畳まれたきわめて長い御朱印帳のようだ。一瞬では確認できなかったが、全てに大きな神社による朱印と神主による筆書き。それに加えて何かの紋様が描かれていた。だがたまきが着目したのはそこではない。
「すごい力。これ自体が巨大な並列護符になっているみたい。これなら……!」
たまきは手帳の端を掴むと、ばっと手帳を広げた。蛇腹畳みのページが開き、長く長く伸びていく。
それを鞭のようにしならせると、たまきは叫んだ。
「ラーラさん!」
「あわせます!」
沈み行くモクリコクリへ炎弾が放たれる。
それと同時にたまきは飛び込み、腕にぐるぐると手帳のページを巻き付けた。
凄まじいエネルギーがスパークをおこし、たまきの全身を漲らせる。
水面を蹴って加速をつけたたまきはそして、モクリコクリのボディを強烈なパワーによって殴りつけた。
大きく歪み、はじけ飛ぶモクリコクリ。
海中に沈んだココノを、灯が素早く引き上げた。
周囲を確認。
そして小さく息をつき、仲間への一斉送心を行なった。
『モクリコクリの撃破を確認。お疲れ様でした!』
●
今回の作戦は大成功だった。
多くが水上での戦闘に適していたことは確かに有利だが、『二人』スキルの併用によって水上戦闘に不自由な仲間のアシストを行なった部分が戦闘面において高い効果を発揮した。
それだけでなく、取り囲んで妨害するという基本的な戦術や、血を使って引き寄せる試み(モクリコクリは嗅覚で人を探していたので効果的だったが、他の妖もそうとは限らない)や、相手が無機物による身体であることに着目したプリンスの透視観察。さらには強い思念をもって死亡したであろう六実を情報源にするというラーラの発想などが組み合わさり、モクリコクリ相手に大きな被害を出すこと無く勝利することができた。
牧場の馬やスタッフだけでなく、自分たちの身も守った彼らの功績は高く評価されるだろう。
現に、陸に上がってきた彼女たちは牧場主からいたく感謝された。プリンスに至っては『じゃあ馬のりたい馬』つってパカパカ遊びに興じる有様である。
「あの、これって……」
再び手帳サイズに戻った御朱印帳を見つめるたまき。
「落とし物ですかねー。貰っちゃえばいいんじゃないですかー?」
「でも……」
それ以上何か言おうとしたたまきに反して、太郎丸が御朱印帳をするりと自分の中に収納した。いつの間にか持ち主として登録されていたようだ。
その様子に目を見張るラーラ。
首を振り、戦いの記憶を振り返った。
「あんな妖を五体も相手に。いずれ私たちもそれだけの強さになれるでしょうか」
「私……護られて、生かされてきたんですね」
「そうだとしても、私は玉串の巫女さんたちの力になりたいです」
『あのー』
問いかけられて、慌てて振り返るラーラ。
死んだ六実を思ってか、うっかり交霊術をオンにしてしまっていたようだ。
『戦争になったら兵隊が死ぬのとか普通のことなんで、あんまり責任感じないでもらえます? こっちとしては毎日楽しく自分の仕事してて欲しいんですけど』
「でも、そんな」
「おいっ、話せるのか!? ちょっと通訳してくれ! 今から言いたいことがあるから!」
「わ、私も!」
「私もお願いします!」
ラーラが急に引っ張りだこになった。
この人の口調で話すの嫌だなあと想いながらも、仕方ないので通訳に徹するラーラである。
ここからはラーラを通しての会話だ。
「私は玉串のやり方は嫌だぞ! 使い捨てていい命なんてあるわけがない!」
『えー、でも一人死なないと十人死ぬってなったら、死ぬでしょう? それをやる係っているじゃないですか』
「いいえ。数は力です。補充人員の方々を育てて人数を増やせば魂を使わずに対応できるのではと」
『囲んで棒で殴る作戦ですか? ある程度通用しますけど、実力が離れすぎると手も足も出ないまま一方的にやられません?』
「だったらF.i.V.Eの力を借りると言う手だって」
『あーダメダメ。百人規模の戦力がタダで使えるってなったらスポンサーの人たち絶対食いつぶしますもん』
「なんでそんなこと……」
『なりゆきとか説明する時間ないから省きますけど、初富姉様だって最初は慈善事業のつもりだったんですよ? でも活動費用はかかるし、全国八万社の運営費用もまかなわなきゃですから、金持ちの土地を守る仕事が強制的に生まれてんですよ。十億円あげるからうちの土地から妖排除してってい――』
喋り続けた疲労が出たのだろうか、ラーラはがっくりと膝をついた。
慌てて抱え上げる渚。
「大丈夫!?」
「すみません……でも、もう思念をとらえられなくなりました」
顔を見合わせ、なにやら話し込むラーラたち。
その様子を、プリンスは馬に乗りながら遠目で眺めていた。
離れた所で煙草をふかすココノを見つけ、近づいていく。
「貴公、他にすることないんでしょ。もっと民とお話してあげなよ」
「沢山お話してますよー」
「で、『なんにも知らないくせにいい気なもんですぅー』とか言うんだよね」
「えー、そんなこと考えたこともないですー」
「なあなあ!」
遥が手を振って駆け寄ってきた。
「俺たちどう? やっぱまだ実力足んねえかな?」
「そんなことないですよー。私の十倍強いですよー。あと、何に足りないんですかー?」
「そりゃあ……」
「何度も言いますけどー」
ココノは煙草を携帯灰皿にねじ込むと、ひたすらかったるそうに言った。
「私は正式なファイヴの一員ですよ。いい加減煽るの辞めてもらえませんかね。協力しづらいんで」
「……協力、って言ったか?」
「言ってないですー」
ココノはにっこりと笑った。
衝撃で海が割れた。
身長よりも高まった波を駆け上がり、突き破って飛ぶ『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。
(いきますよ、ペスカ。不安な気持ちで待っている人を助けに行くんです!)
水面から飛び出した時には両手を眼前に翳していた。生まれた小さな魔方陣が一回り大きな魔方陣を生み、それが更に大きな魔方陣を生み、幾重に繰り返して数メートルまで広がった魔方陣を炎弾が通り抜けていく。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
巨大な炎弾は空を穿ち、モクリコクリの巨体をも貫いていく。
ゼリー状の巨体だ。しかし空いた穴はすぐにふさがり、大量の触手が伸びてくる。
「攻撃、来ます! 併せてください!」
賀茂 たまき(CL2000994)が海上をモクリコクリ方向へダッシュ。
ポケットから奴下りにした大護符を二枚。両手で取り出して広げると、海面めがけて投げつけた。
海面を霊力噴射によって進む護符に自ら飛び乗り、全力加速。
触手が頭上から叩き付けられ、視界の全てが波と泡に呑まれていく。
音も光も混濁した中を、波に乗って飛び出してくるたまき。
その後ろには『星護の騎士』天堂・フィオナ(CL2001421)のボートがついていた。
たまきの防御力で水の圧力を逃がし、一種のスリップストリーム状態を作っていたのだ。
「フィオナさん!」
振り向いて手を出すたまき。その手を掴む。
たまきは自らのエネルギーを使ってフィオナを投擲。
アテンドから剣を取り出したフィオナは空中で激しく回転しながら斬撃を繰り出した。
切断面からの衝撃によってモクリコクリのボディが大きく引き裂かれていく。
ゼリー状のボディに足をつき、飛び退くフィオナ。
落下した所をキャッチする鹿ノ島・遥(CL2000227)。
すぐそばのボートに投げると、プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が彼女を受け取った。
「お疲れフィオ姫! あ、カノプー!」
「なんか分かったか!?」
「上でおっぱい揺れてる!」
「どーでもいー!」
遥は波打つ水面をジャンプで超えると、拳を握り込んでカウンターの構えをとった。
触手が襲いかかってくる。水面スレスレの横殴りだ。
遥は待ってましたとばかりに触手を掴み取り、吹き飛ばされる勢いに自分の跳躍力を乗せ、天高く舞い上がった。
「あ、まってカノプー。余も!」
タイミング良くハンマーを放り投げるプリンス。
かなり強烈なエネルギーの籠もったハンマーを空中でキャッチすると、遥は落下速度にプリンスのハンマー裏面から噴射されるエネルギーをあわせてモクリコクリの頭頂部(と思われる部位)に叩き付けた。
どうんという重低音が響き、形を歪めるモクリコクリ。
その直後である。
モクリコクリの側面を駆け上がっていた『火纏演武』鐡之蔵 禊(CL2000029)とボートで無理矢理ボディ側面を登らせていた九美上 ココノ(nCL2000152)が同時に跳躍。
宙返りから腕にエネルギーをため込むと、続けざまにパンチを叩き込んだ。
パンチといっても禊は掌底、ココノは肘打ちである。
元の形に戻ろうとする反動を利用して飛び退く二人。
そのまま水没しそうになったココノをかっさらう形で禊が水面に着地。
アイススケートの要領でモクリコクリの側面へと回り込む。
側面方向では既に準備を終えていた『希望峰』七海 灯(CL2000579)が鎖鎌を高速で回転させていた。
(本州最北端の灯台が壊れてしまうと、船の往来に大きな影響が出そうです。船の座礁などの二次被害も起こりかねません。灯台を守る家に産まれた者として……絶対に守って見せます!)
水面にふんばりをきかせ、鎌部分を投擲。
モクリコクリのボディ側面に突き刺さった鎌から破壊的なエネルギーが伝達し、ボディを深くえぐり込んでいく。
ぐい、と鎖を引く灯。ぴんと張った鎖の上にボートで通りかかった『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)が飛び乗り、ボディめがけて駆け上がっていく。
触手が足下を通過しそうになったがジャンプで回避。細い鎖の上をまるで平地のように駆け抜け、巨大注射器によるフルスイングアタックを叩き込んだ。
複雑にボディの形状を歪めるモクリコクリ。
元の形状に戻ろうとぐねぐねと動いているが、それを観察している暇はない。渚は鎌が抜けて引き戻された鎖を掴むことで緊急離脱。
常人を一秒で圧殺しそうな触手が頭上をかすめる中、灯のアシストによって海上を走るボートの上へと再び着地した。
振り返ると、見上げるような妖。
(大きい妖。でもこんな経験、初めてじゃ無いもんね。絶対、負けないから!)
灯台や牧場に被害を出さないようにと会場決戦を選んだファイヴ覚者たち。
彼らは非常に高度な連携によってモクリコクリを翻弄し、開始地点から10メートルたりとも動かさないまま戦闘を続けていた。
そんな中、侵攻の恐れがないと判断したラーラはモクリコクリから距離をとり、交霊術を試みていた。
「六実さん、聞こえますか。眠りを妨げるのをお許しください。六実さん」
水面に問いかける。
すると、巫女装束の六実が水面を割って現われた。見たところ足が無いのは死んでいますよという自己主張だろうか。ふああとあくびをする六実。
『なんですか急に、こっちは極楽浄土に行けるかどうかって瀬戸際なのに』
「……えっと、随分はっきりと出てくるんですね」
『我の強さなら自信あるんで』
力こぶをぽんぽんと叩く六実。
交霊術時に得られる情報量は相手の残留思念の強さに依存する。時間が経てば消えるし、元の思念が弱ければ会話すらできないこともあるが、今回は随分と解像度が高いようだ。
『で、なんですか? お馬さんのために犬死にしたって笑いに来たんです? でかい口きいてたくせに負けてやんのって』
「いいえ。あなたの死は無駄なんかじゃありません」
『……』
「私は行為自体を否定も肯定もしません。ただ、あなたが命がけで守った命を、取りこぼすわけにはいかないんです」
『あー……クソ女が二重スパイかましてるっていう組織って、おたくだったんですか。通りで最近噂に上らないと……』
「あの」
『はいはい。知りたいのはモクリコクリの弱点ですよね?』
「できれば」
『私もそれが分かってれば勝てたんですけどねえ。魂ぶっぱってワケには?』
「そういうわけには」
『じゃあ死亡率を減らすしか無いですわ。モクリコクリは触手を無限にはやせるけど、動かすにはリソースを食うっぽいんです。全方位から一斉に仕掛け続ければ相手の命中率を下げられますよ。代わりにダメージちょー喰いますけど』
「リソース……ですか」
『暫く寝かせて貰っていいです? 思念疲れてきたんで』
「は、はい……!」
交霊術を打ち切って、ラーラは振り返った。
灯からの送受心が送られてくる。
『ラーラさん、何か分かりましたか?』
『はい、全方位から一斉に仕掛ければと。前衛を極端に増やすことになりますが、可能ですか』
『無理じゃないですね――みなさん!』
灯からの一斉送心に、禊たちがハッと顔をあげた。
ニヤリと笑うプリンス。
『そんな民に王家から素敵なおふれ! 透視してたんだけどイイことわかったよ。モクリコクリはダメージをうけるたびに元通りになろうとするけど、徐々に内側スッカスカになってる。攻撃の時に硬い触手を外に出すために内側のリソース更にスッカスカになるから、そうなった時が一番のアタックチャーンスだね』
頷く渚。
腕章をピッと翳してボートの先頭に立った。
『みんな聞こえた!? 囲んで一斉に隙を晒して、その上で突っ込むよ! 回復は任せて!』
後ろで剣を抜くフィオナと、かがんだ姿勢のまま煙草をくわえるココノ。
『了解だ。ボートを叩き付けてやる!』
『こちらもいーですー』
一方でモクリコクリの背後に回った遥は、ぐっと拳を握った。
『攻撃再開だ! 張り切っていこー!』
『はいっ!』
たまきは側面へ回り込み、カミソリで腕を切ってみせる。
人間に執着する妖の習性を利用して、自分たちに注意を引かせようという試みである。
一方のモクリコクリは、自分をぐるりと取り囲んだ敵集団を前に一瞬たじろいだ様子を見せていた。
だがぼーっとしていればやられるだけだ。
モクリコクリは全方位から触手を生やし、まずは彼らを薙ぎ払うために繰り出した。
「来たよ!」
「負けるか、突っ込む! そして、ノブレス・オブリージュを果たすぞ!」
フィオナはボートの先頭を交代すると、エンジン全開でモクリコクリへと突っ込んだ。 触手のアタックが直撃。
ボートが粉々になる……が、渚たちは無事だった。
ダメージをフィオナが引き受けたからである。
「仲間を助けて貰った恩返しだ!」
「保健委員のがんばりどころ!」
渚は癒力活性を発動。モクリコクリの『全周薙ぎ払い』へカウンターヒールをぶつけた。
「カノプー、おっぱい来てる来てる!」
「うっせ!」
同時刻、モクリコクリ後方。ボートの破壊されたプリンスは待ち構えていた遥のレシーブによって再びジャンプ。
ハンマーを振りかぶると、モクリコクリのボディに叩き込んだ。
衝撃が貫通し、大きな穴が空く。
「今です、ココノさん! 禊さん!」
モクリコクリ前方。たまきがレシーブ姿勢をとると、彼女の両肩を足場に禊とココノが跳躍。
プリンスが開けた穴に逆から潜り込み、内側からキックの嵐を浴びせた。
ぼこぼこと複雑に身体を歪めるモクリコクリ。
こうなれば圧死させるしかと思ったのか、禊たちを自らの中に閉じ込め始めた。
「鐡之蔵さん! 九美上さん!」
咄嗟に灯が飛びかかり、鎌に纏わせた炎で斬りかかる。
引き裂かれたボディはそのまま破棄され、モクリコクリはどんどん小さくなっていった。
「巨大な身体を保てなくなって、自らを縮小している……このままじゃ禊さんが危険です!」
「ちっきしょ! 離せ! この!」
遥も拳にエネルギーを漲らせて殴りまくるが、モクリコクリはそのまま自らを縮めて水没するつもりのようだ。
流石に海の底へ引きずり込まれれば生きていられない。そうなる前にモクリコクリを倒さなければ……。
このままじゃヤバいと遥の顔に焦りが浮かんだその途端。
禊がモクリコクリから排出されてきた。
「うおっ!?」
慌ててキャッチする遥。
「ナイスLS!」
親指を立てるプリンス。
「言ってる場合ですか! あの人また……!」
ラーラが水面を駆け寄り、魔導書を開封。大量の炎弾を生み出す。
その一方で、たまきも攻撃に転じようとポケットに手を入れた。
が、護符がもう入っていない。先程の薙ぎ払いによってリュックサックもベルトが切れて流されてしまったようだ。
他に何か……と思った矢先、自分の腕に何かが巻き付いていることに気づいた。
触れてみると、淡い光に包まれて手帳サイズの本へと変化した。
「これは?」
開いてみると、蛇腹状に畳まれたきわめて長い御朱印帳のようだ。一瞬では確認できなかったが、全てに大きな神社による朱印と神主による筆書き。それに加えて何かの紋様が描かれていた。だがたまきが着目したのはそこではない。
「すごい力。これ自体が巨大な並列護符になっているみたい。これなら……!」
たまきは手帳の端を掴むと、ばっと手帳を広げた。蛇腹畳みのページが開き、長く長く伸びていく。
それを鞭のようにしならせると、たまきは叫んだ。
「ラーラさん!」
「あわせます!」
沈み行くモクリコクリへ炎弾が放たれる。
それと同時にたまきは飛び込み、腕にぐるぐると手帳のページを巻き付けた。
凄まじいエネルギーがスパークをおこし、たまきの全身を漲らせる。
水面を蹴って加速をつけたたまきはそして、モクリコクリのボディを強烈なパワーによって殴りつけた。
大きく歪み、はじけ飛ぶモクリコクリ。
海中に沈んだココノを、灯が素早く引き上げた。
周囲を確認。
そして小さく息をつき、仲間への一斉送心を行なった。
『モクリコクリの撃破を確認。お疲れ様でした!』
●
今回の作戦は大成功だった。
多くが水上での戦闘に適していたことは確かに有利だが、『二人』スキルの併用によって水上戦闘に不自由な仲間のアシストを行なった部分が戦闘面において高い効果を発揮した。
それだけでなく、取り囲んで妨害するという基本的な戦術や、血を使って引き寄せる試み(モクリコクリは嗅覚で人を探していたので効果的だったが、他の妖もそうとは限らない)や、相手が無機物による身体であることに着目したプリンスの透視観察。さらには強い思念をもって死亡したであろう六実を情報源にするというラーラの発想などが組み合わさり、モクリコクリ相手に大きな被害を出すこと無く勝利することができた。
牧場の馬やスタッフだけでなく、自分たちの身も守った彼らの功績は高く評価されるだろう。
現に、陸に上がってきた彼女たちは牧場主からいたく感謝された。プリンスに至っては『じゃあ馬のりたい馬』つってパカパカ遊びに興じる有様である。
「あの、これって……」
再び手帳サイズに戻った御朱印帳を見つめるたまき。
「落とし物ですかねー。貰っちゃえばいいんじゃないですかー?」
「でも……」
それ以上何か言おうとしたたまきに反して、太郎丸が御朱印帳をするりと自分の中に収納した。いつの間にか持ち主として登録されていたようだ。
その様子に目を見張るラーラ。
首を振り、戦いの記憶を振り返った。
「あんな妖を五体も相手に。いずれ私たちもそれだけの強さになれるでしょうか」
「私……護られて、生かされてきたんですね」
「そうだとしても、私は玉串の巫女さんたちの力になりたいです」
『あのー』
問いかけられて、慌てて振り返るラーラ。
死んだ六実を思ってか、うっかり交霊術をオンにしてしまっていたようだ。
『戦争になったら兵隊が死ぬのとか普通のことなんで、あんまり責任感じないでもらえます? こっちとしては毎日楽しく自分の仕事してて欲しいんですけど』
「でも、そんな」
「おいっ、話せるのか!? ちょっと通訳してくれ! 今から言いたいことがあるから!」
「わ、私も!」
「私もお願いします!」
ラーラが急に引っ張りだこになった。
この人の口調で話すの嫌だなあと想いながらも、仕方ないので通訳に徹するラーラである。
ここからはラーラを通しての会話だ。
「私は玉串のやり方は嫌だぞ! 使い捨てていい命なんてあるわけがない!」
『えー、でも一人死なないと十人死ぬってなったら、死ぬでしょう? それをやる係っているじゃないですか』
「いいえ。数は力です。補充人員の方々を育てて人数を増やせば魂を使わずに対応できるのではと」
『囲んで棒で殴る作戦ですか? ある程度通用しますけど、実力が離れすぎると手も足も出ないまま一方的にやられません?』
「だったらF.i.V.Eの力を借りると言う手だって」
『あーダメダメ。百人規模の戦力がタダで使えるってなったらスポンサーの人たち絶対食いつぶしますもん』
「なんでそんなこと……」
『なりゆきとか説明する時間ないから省きますけど、初富姉様だって最初は慈善事業のつもりだったんですよ? でも活動費用はかかるし、全国八万社の運営費用もまかなわなきゃですから、金持ちの土地を守る仕事が強制的に生まれてんですよ。十億円あげるからうちの土地から妖排除してってい――』
喋り続けた疲労が出たのだろうか、ラーラはがっくりと膝をついた。
慌てて抱え上げる渚。
「大丈夫!?」
「すみません……でも、もう思念をとらえられなくなりました」
顔を見合わせ、なにやら話し込むラーラたち。
その様子を、プリンスは馬に乗りながら遠目で眺めていた。
離れた所で煙草をふかすココノを見つけ、近づいていく。
「貴公、他にすることないんでしょ。もっと民とお話してあげなよ」
「沢山お話してますよー」
「で、『なんにも知らないくせにいい気なもんですぅー』とか言うんだよね」
「えー、そんなこと考えたこともないですー」
「なあなあ!」
遥が手を振って駆け寄ってきた。
「俺たちどう? やっぱまだ実力足んねえかな?」
「そんなことないですよー。私の十倍強いですよー。あと、何に足りないんですかー?」
「そりゃあ……」
「何度も言いますけどー」
ココノは煙草を携帯灰皿にねじ込むと、ひたすらかったるそうに言った。
「私は正式なファイヴの一員ですよ。いい加減煽るの辞めてもらえませんかね。協力しづらいんで」
「……協力、って言ったか?」
「言ってないですー」
ココノはにっこりと笑った。

■あとがき■
アイテムドロップ!
取得者:賀茂 たまき(CL2000994)
取得アイテム:御朱印帳
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