「熱い」夏がやって来た
「熱い」夏がやって来た


●「熱い」夏がやって来た
 日々暑さを増す、とある街。確かに夏は暑いものだが、その街の気温は常軌を逸していた。
 昼前で既に四十五度を超え、それでもまだ気温は上がっていく。地形的にも気象条件的にも有り得ない現象であった。
 ―――それもその筈。その街の一角で、異常が起きていたのだから。
「ふ……は、ははっ、はっはははははっ!」
 三方をビルに囲まれた路地裏。そこに一人の男と一つの岩があった。周囲は異常な熱気に包まれており、既に足元のアスファルトが溶解し始めている。
「もっと、もっとだ……」
 路地への入口に背を向けた男は両手を岩に翳して力を籠める。すると、岩から発する熱が更に強くなっていく。男は目が血走り、壮絶としか言いようのない笑みを浮かべていた。
「熱く、燃え盛るんだ……!」
 一抱え程も有る注連縄の巻かれた岩が発する熱は、留まる所を知らない。例え岩自身に亀裂が入っていようとも。

●もっと熱くなれよ!
「今回の相手は破綻者です……が、状況が最悪です」
 久方真由美(nCL2000003)はいつになく厳しい表情を浮かべ、一枚の写真を取り出した。そこには注連縄が巻かれた岩が映っている。
「神具『灼熱の器』。熱を吸収・増幅・放出する機能を持っています。数日前に盗難が発生し、現在管理者が捜索中との事です。そして先日、破綻者と思しき者がこの神具へと熱を与えるという予知が出ました」
 F.i.V.E.は組織規模からすると非常に多くの夢見が所属しているが、その能力は各自バラバラであり複数の夢を繋ぎ合わせて事件の発生を予測する事もある。
「今回は場所の特定に時間がかかりましたが、ここ数日僅かに気温が上昇し続けている街があり発見する事が出来ました」
 現状を管理者に問い合わせた所、そのままだと周囲の気温が上がり続け、最終的に爆発する可能性があるとの事だ。それも、街の一角を吹き飛ばす威力で。
「管理者も急行するようですが、間に合うかどうかは解りません。その為、まずは破綻者の捕縛ないし排除を行います。
 幸い起爆までは少々時間があるようなので、それまでに破綻者を倒せるかどうかという点がポイントになると思われます」
 間に合わなければ街がドカン、である。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:杉浦則博
■成功条件
1.破綻者の撃破
2.灼熱の器を止める
3.なし
●場面
・日中の街中、三方をビルに囲まれた路地裏です。熱量を吸収・増幅・放出する神具「灼熱の器」が稼働している為非常に気温が高くなっています。
・灼熱の器は不安定な状態になっており、爆発する可能性があります。爆発した場合、街が焼け野原になります。

●目標
 火炎男:破綻者・精霊顕現・火行・深度2:灼熱の器に熱を注ぎ続ける破綻者。血走った眼で薄ら笑いを浮かべている。自我はあるにはあるが灼熱の器に集中しているため意思疎通は非常に困難。
・炎柱:A特近列:地面より燃え盛る複数の大炎の柱を出現させて焼き払います。[火傷]
・火焔連弾:A特遠単:遠くの対象に対し拳大の炎の塊を連続で飛ばし狙い撃ちます。[二連][火傷]
 灼熱の器:神具:熱量を吸収・増幅・放出する事が出来る大型の神具。重さ1トン前後の岩(一辺75センチメートル程)に注連縄が付いている。
 火炎男が常時熱を加え続けているので周囲に膨大な熱量を放出している。長時間全力稼働している為、非常に不安定な状態。すぐに止めないと最悪爆発する。

●備考
・灼熱の器への処置は可能であればバックアップスタッフが行います。まずは火炎男を倒す事を優先して下さい。ただし一定のラインを超えた場合はどうしようもありません。破壊もしくは離脱を推奨します。
・灼熱の器は周囲で熱量を伴う行動をした場合爆発へのカウントが進行します。
・灼熱の器が爆発した場合半径100メートル近くが全て吹き飛びます。離脱する場合はご注意下さい。また爆発には[必殺]効果が付与されます。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
5/6
公開日
2016年08月02日

■メイン参加者 5人■

『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)
『花守人』
三島 柾(CL2001148)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)


 とある、夏も盛りの暑い日。気温も五十度を数えようかという異常気象の町に五つの影があった。蜃気楼で揺らめいていた姿はやがて鮮明な像を描く。
「あー……俺、何でこんなわざわざ暑いトコに来ちゃったのかな……」
 暑さ、いや「熱さ」のあまりに溶けそうになっているのは天乃 カナタ(CL2001451)だ。黒いスニーカーが熱でアスファルトと同化しかけている。
「はは、これはなかなか……」
 五人は異常な熱の元である路地に入る。その一人である三島 柾(CL2001148)はあまりの暑さに苦笑しながら手にナックルを嵌めると『火行弐式「火纏」による熱を発した』。
「くっそあちーな。夏は涼しい部屋でゆっくり過ごしたいんだよ俺は」
 香月 凜音(CL2000495)も矢代の羽織をはためかせながら毒づいている。やがて五人は路地の突き当りに神具「灼熱の器」に熱を注ぐ破綻者「火炎男」の姿を認めていた。
「夏ってだけでも暑いのに……なにコレ。あの火祭男、脱水症で倒れてくれたら楽なのに」
 熱を持った角を手で扇ぎながら葉柳・白露(CL2001329)も戦闘態勢に入る。その耳には遠くからの避難誘導の声が聞こえており、事前に話した通りにバックアップスタッフが避難誘導をしているのが解った。
「早く奴を打ち倒し、暴発する前に灼熱の器を無事確保せねばの。では、始めようかのお前様方」
 そして前衛に立ち妖薙・濡烏をくるりと回した檜山 樹香(CL2000141)の声を皮切りに、熱い暑い闘いが口火を切るのだった。


「使用すればカウントが進むけど、引き離せるならそれにこした事はないよね」
 圧倒的なスピードで先手を取った白露が両手の火行弐式「圧撃」による連撃で火炎男を吹き飛ばす。その速度は正に暴れ牛か―――と言えば、本人は「魔王だ」と否定するのだろうが。
「気になる事は多いが、今はやるべき事をやろう。時間もないしな」
 続けて飛び込んだ柾が拳を振るう。連撃体術「飛燕」だ。とは言え吹き飛ばされている最中では一発外してしまったが、初手としては充分である。
「ハ……燃えろ、燃えろぉぉぉぉっ!」
 吹き飛ばされ、更に殴り付けられた火炎男はようやく覚者達へと目の焦点を合わせる。そして放たれたのは火行弐式「炎柱」。前衛の三人が特大の炎に包まれる。
「けほっ……棘よ、蔓よ、奴を縛り付けよ。樹が燃えず、炎を制する事もあると、教えてやろうぞ」
 珠の肌に痛々しい火傷を作りつつ、樹香は木行弐式「棘散舞」のための種を放る。しかし火に巻かれたのがまずかったのか、種は発芽する事なく地へと落ちるのだった。
「過去の俺の気が狂ってたとしか思えない……唯でさえ暑いのに、これ以上暑くなったら、俺、死んじゃうよ……」
 暑さのせいかダウナームードを引き摺るカナタは手に持った鞭を火炎男の足に伸ばす。巻き付けて転がそうと言うのか。
 しかし、鞭はアッサリと蹴り払われる。まともなダメージになっていないようだ。
「そもそも、重さ1トンなんて岩持ち出されるなよな……」
 攻撃に備えた凜音が溜息をつくが、一言一句尤もである……まあ、それが出来るが故に破綻者であるとも言えるのだが。流石に一般人よりも覚者が強靭とは言え、そこまで身体能力に優れている訳でも無い。

「キミに何があったとかそんなのはどうでも良いけど、爆発されると面倒くさいから」
 白露は火傷に震える体に活を入れ、灼熱の器と火炎男の間に飛び込んでいく。そして間髪入れずに手に持った双刀「白無垢・白露」で火炎男へと斬りかかった。
「暑いのが好きなのか? ならコレをくれてやる!」
 そう言った柾は首筋の紋様を一際強く輝かせ、その力を火炎男へと叩き込んだ。「五織の彩」と呼ばれる精霊顕現特有の技―――なのだが、火行である柾の攻撃には少なからず『熱が篭っていた』。また一つ、爆発へのカウントが進む。
「はひっ! ひっははははっ!」
「おっと……そもそも、熱を与えすぎてコレが爆発した場合、お前さんも只じゃすまないと思うんだが。自殺願望でもあるのかよ?」
 前衛に痛めつけられたからか、今度は後衛を狙って巨大な炎の柱を立てる火炎男。その熱は灼熱の器へと吸い込まれるが、そのせいか後衛の凜音にはひらりと躱されていた。
「濡烏よ、ワシに力を貸しておくれ」
 その隙に接近した樹香が地を這うほどの低さから濡烏を振り上げる。飛燕と同系統の連撃体術「地烈」の独特の軌道が火炎男の体をなぞった。
「さっさと終わらせて帰ろうぜ」
 本来の立ち位置から踏み込んだ凜音は水行弐式「深想水」で樹香の火傷を解消する。傷自体は残っているが、これで行動に支障は出ない筈だ。
「熱っ! すっげー熱い!」
 そしてその隣に立つカナタは灼熱の器の前に立ち、その身で熱気から灼熱の器を守ろうとガードの体勢に入る。
 まあ、あまり意味は無いのだが。あと至近距離にある尻が熱いようだ。

「灼熱の器、ね。こんな扱い難い代物なんで作られたんだか……兵器以外だと熱電発電くらいにしか使い道が思いつかない」
 熱さのあまり飛び跳ねるカナタをチラリと横目に見た白露は、再び火炎男を切り刻む。注連縄がある以上は何らかの形で祀られていた事が解るが、ソレは荒魂の扱いに近いものだという事だろう。
「火炎男を倒せても、器が無事に治まらねば意味がないからの……ふむ、まだ辛うじて余裕はありそうじゃな」
 ポケットから新しい種を取り出し、今度こそ棘散舞を発動させた樹香は灼熱の器に意識を向ける。超直観により後どれぐらいで臨界かを察しているようだ。
「灼熱の器を止める為にも、まずは元凶を叩かせてもらう」
 隣の二人に続けと言わんばかりに柾も火炎男を殴る。殴る。殴る。外れる。連撃である以上は一撃当たりの安定性の低下は免れないが、それでも当てる時は急所に当てている辺りは流石である。
「気づいてないのか? それとも熱を注ぐ事だけを考えて精神的に逝っちゃってんのか……」
 問いかけにリアクションを見せない火炎男に対し、凜音は考えを巡らせながら白露を深想水で治療する。柾は気が付けば自力で回復しており、それを確認した凜音は静かに後衛に戻るのだった。
「ハァ……アアアアアアアッ! ヒヒヒヒヒィッ!」
 しかしそこに火炎男の攻撃が迫る。火行弐式「火焔連弾」だ。一発は回避に成功するが、この攻撃は連撃である。しかも当たり所が悪く、凜音は酷い火傷を負ってしまった。
「ならコイツを抱えて後ろに、って熱ぁっ!?」
 ようやく熱さに慣れたカナタは灼熱の器を抱え後ろに下がろうとしたが、ただでさえ高熱を発している岩である。まともに持ち上げられず転がす様にするので精一杯であった。
「ヤベー……すっげー熱いし、痛いし、最悪だ……」
 何とか凜音の後ろへと移動だけは出来たが、元々不安定になっている灼熱の器である。今の衝撃で爆発しても不思議では無かったし、何よりも今の行動でダメージを負ったカナタは体力の三割以上を削られてしまっていた。

「そら、もう一発だ!」
 白露の猛攻は続く。右に左にと白い刃が振るわれ、空間に篭った熱気ごと火炎男を切り裂いていった。
「このペースでは……五発耐えられるか否か、という所かの? 間に合え―――!」
 白露が下がったと思えば、今度は濡烏を握った樹香だ。くるりくるりと薙刀を振るい、見る間に火炎男へダメージを与えていく。
「反撃こそしてくるが灼熱の器に釘付けだな……なんだってそんなに熱くなりたいんだ?」
 更に再び紋様を輝かせ、柾は五織の彩で火炎男を攻撃する。転がされた灼熱の器が間も無く臨界といった雰囲気を醸し出しているが、その前に決着をつける自信があるのだろう。
「暑くてイラついてんのに、これ以上イラつかせんな!」
 半ば逆ギレのように叫んだカナタはブロウオブトゥルースを放つ。が、集中を欠いた攻撃はアッサリと見切られてしまってた。
「ガフ……はっ、ハハハハハッ! そうだ、燃えろ! もっともっともっトもットモットモエロォォォォ!」
 いや、火炎男はよろめいていたのだ。猛攻に体が耐えられなくなっていたのだ。しかし、それでも尚火炎男は止まらない。柾へと火焔連弾を放つ。
「あちち……全く、傍迷惑な奴だ」
 その間に凜音は後ろに下がり、頭から深想水を被って火傷を治す。流石にベテランが多いが故か、回復も余裕をもって出来ているようだ。

「何かへの復讐の為か、器に魅入られているのか……何にせよ、これで!」
 そして炎の中へ飛び込む柾。火炎男も流石に自分から炎に向かう姿を見て動揺したのか、その拳に強かに打ち付けられる。
 その一撃によって遂に限界を超えたのか、火炎男はぐるりと白目を剥いて倒れ伏した。
 ―――灼熱の器は、ぐつぐつと空気を煮立たせながらも静かに転がっている。


 火炎男の動きが完全に止まったのを確認した覚者達は、路地の入口で待機していたバックアップスタッフへと声をかける。
 危うい所であったが、無事に灼熱の器を確保できたのであった。
「止まった……ようじゃな。ギリギリだったのう」
「なんとかなったか……みんなお疲れ」
 超直観によって爆発の危険性が無い事を確認した樹香が額の汗を拭い、柾も胸を撫で下ろして皆へ労いの言葉をかけていた。
「ふぃー。あと少しで皆で頭チリチリになる所だったな!」
 カナタはまるでギャグ漫画か何かのような光景を思い浮かべているようだが、間違いなくそれでは済まなかっただろう。
「はぁ、見てるだけで暑苦しい……アイスかかき氷食べたくなってきたかも。どうせなら帰りに冷たいモノ食べようよ」
 白露は倒れ伏しながらもどこか熱気を感じさせる火炎男を爪先で小突き、周囲の徐々に治まり始めた熱気を払おうと皆に提案する。
「神具だろうがなんだろうが、結局使い方を誤れば兵器にしかならないって事だな」
 そんな凜音の言葉に覚者達はしみじみと頷くのであった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『灼熱の欠片』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員




 
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