山に住む一本踏鞴を守る為 喧嘩の華をここで咲かそう
山に住む一本踏鞴を守る為 喧嘩の華をここで咲かそう


●七星剣『拳花』
「いっぽんだたら?」
 少女はこの道の先に居る古妖の名を確認した。背中に神具であろう雷太鼓を背負い、手には太鼓の撥を手にしている。まだ成人していないのは見た目でわかるが、だからと言って舐めてかかった覚者は痛い目を見ることになる。
 七星剣『拳華』の一。二つ名は『雷太鼓』、名前は林・茉莉という。
「はい。一本踏鞴です」
 同行している部下が首を縦に振った。
 一本踏鞴。一つ足一つ目の古妖である。一本足の古妖の伝承は数多くあるが、山地か、雪の降る地方に多い。
「ふーん。で、強いのか?」
「ええ。かなりの強さだと聞いています。その為にわざわざ私達も同行するのですよ?」
「あたい一人で十分なんだけどなぁ」
 ため息をつく林だが、それだけ相手が強いのだという事は理解できる。そして七星剣がそれだけ確実に倒してほしいという意向があることも。
「そんなに力入れるほどの勝負なのかね、コレ? あたいは強い古妖と戦えれば十分なんだけど、ちょっと気合い入れすぎなんじゃねぇの?」
「ダタラはダタラ師(鍛冶師)とも呼ばれます。その伝承上、良き武具を作り出すときいています。勝負の結果でそれを得れば、相応の神具強化になるかと」
「あとは一本足は山の神様ていうのもあるね。それを倒すことで箔が付けようという意味もあるんだ」
 部下の説明を遮るように、林は手を振った。
「あー、細かいことはいいや。とにかく倒せばいいんだろう?」
 求められているのは戦闘力だ。強い相手がそこに居るのなら、それを拒否する理由はない。

●FiVE
「……とまあこれだけなら、七星剣と古妖が勝手にドンパチやってお疲れさまなんだけどさ」
 久方 相馬(nCL2000004)がため息と共に説明を開始する。
「問題なのはこの古妖で、しばらく戦いを忘れて引き籠ってたんだ。戦いが始まれば力の調整がうまくいかずに激しい山火事と土砂崩れを起こしてしまい、周囲に大きな被害が出てしまうんだ」
 面倒な古妖だ。だが、それを襲う七星剣の隔者にも問題がある。
「そして七星剣はこの古妖を倒す為に武闘派のチームを送り出している。その目的は古妖の作り出した武具の入手と、単に箔をつけたいという事もある。ま、どうあれ戦わせちゃいけないのは確かだ」
 七星剣は日本を手中に収めるために様々な活動をしている。無法な組織が利すれば、それにより苦しむ者が生まれることになる。古妖の武器を得ればそれだけ殺傷力が増し、名声が高まればそこに憧れ参入する人が増える。
「兎に角、七星剣が古妖と勝負することを止めてきてくれ。説得は難しいから、戦闘力を削る形で」
 だがそれも容易とはいいがたい。相手は七星剣の手練れだ。油断をすれば、返り討ちにあう可能性もある。だが夢見による事前情報入手があるのは大きい。敵の戦い方が分かっていて、それを元に作戦を立てることができるのは利点だ。
 夢見に見送られて、覚者達は会議室を出た。



■シナリオ詳細
種別:通常(EX)
難易度:難
担当ST:どくどく
■成功条件
1.隔者六名の戦闘不能。
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 偶には純戦を。

●敵情報
・七星剣(×6)
 日本最大の隔者組織の一員です。全員武闘派らしく、難易度相応の実力を持っています。戦いになれば全員命数を使いますが、魂は使いません。倒れた相手を殺すつもりはありませんが、意図して自分達の味方を殺されればその限りではありません。
 夢見の予知を告げても『あ、じゃあ注意して戦うわ』と返されます。夢見の予知が努力で覆るのは知ってますので、この方向性での説得は不可能です。

『雷太鼓』林・茉莉
 天の付喪。一五歳女性。神具は背中に背負った和太鼓(楽器相当)。
 喧嘩好き。とにかく強い相手と戦いたい隔者です。七星剣武闘派『拳華』と呼ばれる組織で年齢不相応ながら『姉御』と呼ばれています。
『機化硬』『林茉莉の喧嘩祭(※)』『雷獣』『正鍛拳』『霞纏』『戦巫女之祝詞』『命力分配』『電人』『絶対音感』などを活性化しています。
 

林茉莉の喧嘩祭 特遠敵味全 やたらに雷太鼓を叩き、周囲に稲妻を放ちます。仲間がの数が少なくなると使ってきます。

『バーガータイム』麻生・勉
 土の前世持ち。一八歳男性。ぽっちゃり……というかメタボ体質。常にハンバーガーを食べています。武器は大槌。
 ゆっくりと喋る温厚タイプ。だけど信条は一撃必殺。暴力を振るうことに躊躇はしません。
『錬覇法』『琴富士』『大震』『土纏』『マイナスイオン』『悪食』などを活性化しています。

『首切りウサギ』奧井・燕
 火の獣憑(卯)。二五歳女性。和装に日本刀。頭のウサギ耳が無ければ、クール系女侍。
 無口に切りかかってきます。速度に特化した一番槍。
『猛の一撃』『白夜』『速度強化・弐』『速度強化・壱』『灼熱化』『第六感』『火の心』等を活性化しています。

『水も滴る』佐伯・俊一
 水の変化。四五歳男性。覚醒すると、二〇歳の優男に若返る。
 回復役という役割上、慎重な判断を行うタイプ。どちらかというと頭脳派。武器は小型モバイル(書物相当)。
『B.O.T.』『潤しの雨』『潤しの滴』『超純水』『爽風之祝詞』『演舞・舞衣』『水の心』『送受心』等を活性化しています。

『ジャングルの精霊』アギルダ・ヌジャイ
 木の黄泉。一〇歳女性。アフリカ人。黒肌に白いワンピース。祖国の精霊と繫がりがあったとか。
 奇妙に歪んだナイフ(術符相当)を持ち、踊るように術式を放ちます。
『破眼光』『仇華浸香』『清廉珀香』『葉纏』『交霊術』『同属把握』などを活性化しています。

『赤の鎧武者』渡辺・和夫
 土の精霊顕現。全身を赤い和風鎧(重装冑相当)で身を包んでいます。中身は一五歳の男性。
 防御の構えを取り、仲間の為に盾となります。
『五織の彩』『紫鋼塞』『鉄甲掌』『物防強化・弐』『特防強化・弐』『痛覚遮断』『鉄心』等を活性化しています。

・一本踏鞴
 七星剣が向かう先に居る古妖。名前は『歩村』。人との接触を絶っています。
 このシナリオでは登場しません。

●場所情報
 一本踏鞴が住むと言われる山の麓。時刻は昼。足場や広さは戦闘に支障がないものとします。
 七星剣より先に麓にたどり着き、待ち受ける形になります。来る時間が分かっているため、一度だけ事前付与可能。プレイング次第では不意打ちも可能です。
 戦闘開始時、『林』『麻生』『奧井』が前衛に。『アギルダ』『渡辺』が中衛に。『佐伯』が後衛の形になります。
 覚者達は敵前衛の十メートル離れた場所から、戦闘開始とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
150LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
公開日
2016年08月01日

■メイン参加者 10人■

『使命を持った少年』
御白 小唄(CL2001173)
『緋焔姫』
焔陰 凛(CL2000119)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『五行の橋渡し』
四条・理央(CL2000070)
『デアデビル』
天城 聖(CL2001170)
『独善者』
月歌 浅葱(CL2000915)

●邂逅するFiVEと七星剣
 七星剣の隔者達の前に立ちふさがるのは、十人の覚者。
「ここは通さないわ」
 明確な戦意を乗せて三島 椿(CL2000061)が七星剣に声をかける。古妖を狙う隔者。ある事件を想起させるが、かぶりを振ってそれを振り払う。今やるべきことは彼らを止めること。油断ならない相手なのは間違いないのだ。
「戦い好きが強い相手と戦うだけなら無視していいけど、諸々の被害が発生するなら止めないといけないよね」
 山に住む一本踏鞴。それと隔者達が戦った時の被害。それを思いながら『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)は道を塞ぐように立つ。基本的に戦うことは好きではないが、厄介毎が起きるなら仕方ない。神具を手にして、隔者を見る。
(こいつらと戦うのは何度目だろうか)
 心の中で溜息をつく『第二種接近遭遇』香月 凜音(CL2000495)。凜音もまた、戦うことは得手としていない。だが、戦うのが好きな人間が戦っている時の顔を見るのは嫌いではない。口には出さないが『好きなこと』に没頭している人間は見ていて気持ちいい。
「そこの『雷太鼓』! ぶちのめしてやるよ!」
 隔者の一人を指差し、戦意満々な『異世界からの轟雷』天城 聖(CL2001170)。初対面だが、深い因縁を持つかのように強く指差し、その指を降ろす。雷のような荒々しい錫杖を手にして、好戦的な笑みを浮かべた。
「オーッス! 久しぶりタイコ! いや林マツリ! こないだ預けた勝負、今回は受けてもらうぜ!」
 割れた将棋の駒を手に鹿ノ島・遥(CL2000227)が叫ぶ。夢見からいろいろ話は聞いているが、遥にとってはそれは些事だ。『楽しい戦いができる相手』が目の前にいるのだ。それ以外の情報はどうでもいい。鍛えぬいた拳を叩きつけるのみ。
「茉莉さん、また会ったね。何で一本踏鞴を襲うのか、なんて聞かないよ」
 言いながら構えを取る『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)。『雷太鼓』と戦うのもこれで三度目。一度目は守りながら、二度目は妖との三竦みで。真正面から戦うのはこれが初めてか。それを思い、武者震いが体を襲う。
「今回はあたしらと茉莉達のガチンコ勝負、解りやすくてええな」
 うんうんと頷きながら『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が歩を進める。以前は色々と邪魔が入ったが、今回はそう言った要因は何もない。ただ純粋な強さと、そして戦術の勝負。その状況が、凛の剣術家の血を滾らせる。
「うちは前回喧嘩したくてもできへんかったからなぁ」
 残念そうにため息をつきながら、『烏山椒』榊原 時雨(CL2000418)は前の闘いを回顧する。強い人間と戦いたい。そうすることで強くなりたい。時雨はその一心で戦場に向かう。槍の中ほどを握って、気を引き締める。
「話し合いで解決が一番ですが、言語が拳の相手には拳で合わせるのが道理ですねっ」
 派手な音と光で気を引きながら、『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)が腕を組んで覚醒する。相手が喧嘩好きなら喧嘩で帰ってもらう。それが一番と頷いて構えを取った。ここから先は喧嘩の時間。拳で正義を押し通す。
「こちらとしても、とにかく倒せってお話だけど……みんな、力入れ過ぎないようにね?」
 気合の入っている覚者達に注意する『スポーティ探偵』華神 悠乃(CL2000231)。気合が入っているのはいいことだけど、その結果で目的を見失っては意味がない。やるべきことはしっかりやろう。この戦いが仕事じゃなければなぁ、と思いながら。
「FiVEの覚者……!」
「よう。久しぶりだな。色々武勇伝は聞いてるぜ」
 覚者達の顔を見て、それぞれの評判を思い出し緊張する隔者。そんな中、『雷太鼓』だけは嬉しそうに声をかけていた。
「姐さん。彼らは一筋縄じゃ行きません。一度撤退するのが賢明かと」
「何言ってやがる。売られた喧嘩を買わなくてどうするっていうのさ!」
「そう言うとは思っていました」
『水も滴る』の提言を却下する『雷太鼓』。言った隔者も初めからわかっていたのか、あっさりと覚醒して戦闘状態に入る。
「シンプルに行こうか。負けたらあたいらは退く。勝ったら通してもらう」
「望むところだ!」
『雷太鼓』の提案に応と答える覚者達。口約束だが、それを反故にする隔者ではないことは雰囲気で伝わってくる。
「あとそっちが負けたら、こないだ流れた乳勝負を申し込むで!」
「ぐ……。あたいが勝てばいいだけだ。受けて立つよ!」
「駄目だ……今諸事情で生巨乳を見てはいけない状態なんだ……」
 凛の提案に少し顔を赤らめて承諾する『雷太鼓』。その後に震える様に遥が頭を抱えていた。
 そんな一幕もありましたが、覚者達は神具を構えて隔者に挑むのであった。

●開戦!
「それじゃ、わかりあおうか!」
 最初に動いたのは悠乃だった。全身の細胞を活性化させて速度を増し、増幅した身体能力で一気に迫る。相手は鯉口に手をかけた『首切りウサギ』。速度をもってこちらを制する相手に、それ以上の速度をもって迫る。
 膝を軽く曲げ、腕で重要部位をガードするボクシングスタイル。前に出る力を腕に乗せ、隔者の腹部を穿つ様にフリッカーを放つ悠乃。その後にさらに一歩踏み込んで、振るわれる鞭のような拳打。時の拳を握り、時に爪で切り裂き、しなるように繰り返される。
「個人的には仕事以外の場でやりあいたいけどね」
「七星剣に来ればいつでも訓練に付き合えるぞ」
「生憎とそれを受け入れるつもりはないよ!」
『首切りウサギ』の勧誘を跳ねのける小唄。悪の道を進み、犠牲を善しとする七星剣と同じ道を歩むことはありえない。大も小もすべて救う。だがその為には力が必要だ。その力を得るためにも、今は鍛えなければならない。
 神具のナックルを握りしめ、『首切りウサギ』の前に立つ小唄。鯉口を切った刃を交わしながら視線は七星剣の隔者達を見る。自分の位置を俯瞰して戦場を見ているような、そんな錯覚。威力ではなく速度を重視した拳の嵐。それが七星剣に叩き込まれた。
「アンタ達と一本踏鞴を戦わせるわけには行かないんだ!」
「気合はいってるじゃないか。雰囲気も変わったな、小唄」
「男子三日会わざれば、やで。女子もやけどな!」
 古流剣術焔陰流継承者が持つ『朱焔』。その影打を手にして凛が笑みを浮かべる。どこか獰猛で、どこか楽しそうな笑み。小唄が変わったように自分も変わっている。その成長を叩きつける様に踏み込んだ。
 炎のように猛りながら、しかしゆっくりと刀を正眼に構える。型に入り、型に終わる。何年も体にしみこませてきた剣術の動き。それが思うより先に凛は体を動かし、刃を走らせていた。横薙ぎの一閃が走り、覚者達の鮮血が舞う。
「古流剣術焔陰流、焔陰凛。推して参る!」
「言うねえ。だけど成長したのはそっちだけじゃないよ」
「だからこそ嬉しいんだよ! FiVEの十天、鹿ノ島遥! いざ尋常に勝負!」
 握った拳から稲光が走る。名乗りを上げた遥は、真正面から『雷太鼓』の方に突き進む。他の隔者など目に移らない。ただこの瞬間を待っていたかのように。個々より後ろに下がるつもりはない、とばかりに強く足を踏ん張り、拳を振り上げた。
 遥の武具である『白溶裔』が主の意図を察したかのように拳に纏わりつく。源素の伝導率が高い布は、源素の力を受けて激しく光る。精霊顕現の基礎、空手の基礎。源素の力を乗せた正拳中段突き。それが『雷太鼓』に向かって放たれる。
「お前の相手はオレだ! オレを見てろ!」
「がっつくなよ。まとめて相手してやらぁ!」
「そんじゃ、うちもまぜてもらうよー!」
 槍を振り回し、時雨が迫る。槍の間合は理解している。自分を中心にして槍が届く範囲。その範囲を強く意識する。それは槍の結界。そこに入った者はこの槍が襲うだろう。強く、強く集中して戦いに挑む。
 現在の戦場の動きを想像し、一秒後の動きを予測する時雨。戦場を将棋の盤上のように思い、詰め将棋をするように冷静に。思考は一瞬。その間に数多くの選択肢を生み出し、その一つを選ぶ。突き出した槍が、隔者の一人を捕らえた。
「やっぱ強い人ばかりやなぁ。ええ刺激になるわ」
「お褒めに預かり。そちらも噂にたがわぬ戦闘力のようで」
「違いますよっ。噂以上の、ですっ」
 佐伯の分析に訂正を求める様に浅葱が動く。FiVEの名声が高まっていることは知っている。だが自分達はそこに胡坐をかくつもりはない。もっと高く、もっと強く。自らを磨き続けること。そして自らの正義を貫くこと。それを証明するように神具を振るう。
 日本刀を振るう『首切りウサギ』に迫り、その懐に潜り込む浅葱。とっさに距離を放そうとする『首切りウサギ』の動きに合わせるように体を動かし、移動の方向のままに相手を崩す。崩した相手に倒れ込むように肘を叩き込み、痛打を与えた。
「売りは喧嘩で他要らず、御代は見ての御帰りですよっ」
「見るだけで満足するほど、あたいらは行儀良くないよ!」
「はい。ですがそう言った手合いに慣れているのがFiVEです」
 青の翼を広げ、椿が凛と言い放つ。強くなる。その理由は様々だ。椿の理由は誰かを守る強さ。兄に庇護されてきた椿が、こんどは誰かを守りたいと思うようになる。その為の力。その為の心。その為の経験。その為の仲間。全て、ここにある。
 水の源素を活性化させて、体内で循環させる。イメージするのは世界。雨が降り、川が流れ、海に続く水の流れ。水は癒しの力を運び、流転する。そのイメージのままに術を解き放ち、仲間に癒しの力を与える。自らの気力を、仲間の癒しに変えて。
「ここは通しません。負けないわ」
「おとなしいと思ってたけど、いい目で吠えてくれるじゃないか」
「まあ、ボクはそういうのとはちがうんだけどね」
 荒事は苦手な理央。だが、夢見の予知を聞いた以上は相手せざるを得ない。別に強制ではないのだが、それでも参加してしまうのが理央という覚者だ。戦況をしっかり見極め、必要な物を頭の中で組み立てていく。思考こそが、動きの源。
 水の源素を活性化させて、神具に集中させる。鋭く、大きく、激しく。荒れ狂う大波と吠え猛る龍をイメージする。それは水の牙。それは龍の突撃。想像のままに水は形を変えて、水の龍となって隔者達に牙をむく。
「水行使いだけど、攻めさせて貰うよ」
「いいね。こういう水行も欲しいもんさ」
「じゃあ、俺は回復に回らせてもらうぜ」
 仲間達が戦っているのを後ろから見ながら、凜音は軽く手をあげて告げる。回復専門と言っているようなものだが、それは前回の闘いで知られていることだ。仲間を癒すことを誇りに思っている凜音は、臆することなく公言する。
 仲間の動きをしっかり見て、傷が深い者や隔者の攻撃でふらついた者を判断する。肩の力を抜いてリラックスし、深呼吸を行った。心が穏やかになれば、体内の源素の動きもはっきりと分かる。感じるままに解き放った水の力。それは癒しの術となり味方に飛ぶ。
「俺が立ってる間は治してやっから、しっかり喧嘩して来い」
「言ってな。治す以上にあたいの雷で痺れさせてやるよ」
「気に入らないなぁ! 誰の許可を貰って『雷』なんて名乗ってるのさ!」
 激高する聖。自分が『雷』を冠する二つ名を持つ故に、林が『雷太鼓』を名乗っているのが許せないのだ。理不尽だろうが何だろうが関係ない。自分がやると決めたのだ。ならそれに従うまで。不真面目に見えて、自分自身のルールには忠実だ。
 雷を模した錫杖を振るい、天の源素を集中させる。感情の赴くままに強い力を。遠慮はいらない。ブレーキなど不要。今出しえる全ての力を錫杖に集め、力のままに叩きつける。その一撃はまさに轟音。激しい音と共に叩きつけられた稲妻が、戦場に響く。
「『雷』の名を冠するのはこの私、天城聖だけで十分なんだから!」
「吠えるだけのことはあるね。だけどあたいを納得させるにはまだまだだね!」
 それぞれの意地を乗せて、神具は振るわれる。平和を守る者。戦いを楽しむ者。自らの矜持をかけた者。
 真正面からの激しいぶつかり合い。覚者と隔者の神具が交差する。

●交差する思い
 七星剣『拳華』。七星剣内でも武闘派を称する軍団。
 それは個人のカリスマや能力に従う隔者の集団ではない。一人一人が相当な熟練度を有している我ゆえにの『派閥』なのだ。
「こいつでどうだ!」
「も~、早くバーガー食べたいのに~」
「――疾ッ!」
『雷太鼓』の稲妻、『バーガータイム』の大槌、そして『首切りウサギ』の刀は回復の合間を与えぬとばかりに前衛の隔者に叩き込まれる。
『そろそろ危ないわね。前衛スイッチよ』
「ごめん、華神センパイ。こいつホントに速い!」
 悠乃が思念を飛ばして前衛の交代の指示を出す。それにより傷ついた前衛が下がり、悠乃自身や時雨が前に出て、その穴を埋めていた。だが、下がった前衛を逃さぬとばかりに『雷太鼓』と『ジャングルの精霊』の雷と毒華の香りが飛ぶ。
「まだまだ……!」
「負けへんでー!」
「まだ倒れえねぇ!」
 その猛攻を前に小唄、凛、遥が命数を削るほどの傷を受ける。
「っていうか、僕狙われてる!?」
「この前の一撃は効いたからな。FiVEの獣憑は深手を負わせてくるみたいだし」
 起き上がりながら小唄が状況を察し、それに『雷太鼓』が答える。以前の闘いの結果を反映させるのは、当たり前だが自分達だけではない。
「つーか、拳の『質』が以前と変わったな。何か覚悟でも決めたのか?」
 前の闘いとの意気込みの違いを察したのか、林が小唄に問いかける。
「茉莉さんは人間同士が戦いあい、そして死んでいくことをどう思う?」
「そりゃそういう時代だ。そういうものだろう?」
 小唄の問いかけに、林が答える。覚者の時代に生まれ、覚者として育つ戦闘好きな少女の意見。
「そうだね、それが現実だ。戦うたびに誰かが傷つく。このまま戦うことに、意味があるのかって」
 一泊置いて拳を握る小唄。
「でも、わかったんだ。ここで僕が逃げたら、守れる人も守れなくなるって!
 僕は、ただ強い人と戦う事を考えていたあの時の僕とは違うんだ!」
 小唄は戦う意味を知った。理由を得た。以前の小唄と雰囲気が異なるのは、それが原因だ。
「そーかい。だったらあたいらは格好の『敵』だ。その理由を拳に乗せてきな!」
「言われなくても止めて見せます」
 もっとも『拳』ではないけど、と付け加える椿。隔者の火力を前に、椿は攻撃の余裕を失っていた。ただ回復に専念している。だがそれでいい、と仲間を見ながら安堵する。信頼できる仲間がいる。それを護るのが自分の仕事。
「最後まで支えてみせる」
「根性あるね。気合の入った癒しては嫌いじゃないよ。お相手するのは骨だけどね」
 言ってからからと笑う林。敵であれ味方であれ『強い』人間には好意を示すのが『雷太鼓』という覚者だ。
「ところで聞きたいのだけど、貴方にとって一番優先する事は何?」
「そりゃ決まってるだろう。七星剣の、そして八神様さ!」
 迷うことなく返答する『雷太鼓』。七星剣の忠実な隔者の模範回答。その答えにむしろ驚きを隠せなかった者達もいる。
「以外やねー。てっきり戦いが一番、ていうと思ったけど」
 楽しそうに戦く『拳華』達を見て、時雨は疑問を投げかける。忠義がないとは思わないが、そちらを優先するとは。
「そりゃ戦うのは好きだぜ。だけど最優先と言われれば八神様さ。あの人が日本を支配するために、あたいは強くなるのさ」
 七星剣は日本を隔者の暴力で支配しようとしている。それは力無き者の訴えを無視する力が支配する国だ。
「確かにうちも戦うのは好きやし、強い人間とは戦いたいけど……」
「そうだね。それはFiVEとしては看過できないかな」
 ファイブの第一義は神秘解明である。だが活動内容には日本の平和があった。表向きには『妖から研究員の身を守るために』平和を維持するFiVEだが、その武力が隔者や憤怒者対策であることは明らかだ。
「ああ。期待してるぜ」
「期待?」
「『ヒノマル陸軍』や『百鬼』を退けたアンタらだ。そんな輩とやりあえる日が楽しみなんだよ。八神様の命令さえあれば、今すぐにでもやりあいたいぐらいだ」
 過去にFiVEが撃退した七星剣の隔者集団。それは世間に知れ渡っていることだ。それだけ社会はFiVEに期待が高まっている。それは七星剣内でも同じことだ。
「ボクたちは逃げも隠れもしない」
「個人的には、戦い自体が目的なら大歓迎ね」
 戦うことで相手と『わかりあう』悠乃が肩をすくめる。戦うのは好きだ。だが、組織が絡むと純粋な戦いにはならない。政治的な辛みが互いを束縛し、純粋に『戦う』事が出来なくなってくる。
「だから七星剣に来いって。『拳華』に入れば楽しく戦えるぜ」
「そうもいかないわ。五麟市での生活もあるし。何よりも隔者になるのは御免よ」
「戦いには事欠かないんだけどなぁ」
「私は『戦い』が好きなのであって、『戦争』は好きじゃないの」
 人の意志が絡まない『戦争』はどうもテンションが上がらない。『雷太鼓』と言葉と拳を重ねながら、悠乃はある憤怒者との『戦争』を思い出していた。やはり『戦い』は人間同士の交流が無くては楽しくなれない。
「細かいことはいいんだよ! 今ここでやりあえる! それが重要なんだ!」
 あらゆる事情をあえて考えずに、遥が拳を握る。ようやく真正面から殴り合える機会を得たのだ。今はFiVEや七星剣など関係ない、とばかりに真っ直ぐに拳を振るう。戦いで傷つき、身体が痛む。それさえも戦いの証とばかりに。
「お前との戦いをずっと楽しみにしてたんだ! 今日はとことんまでやるぜ!」
「威勢はいいが足がふらついてるぜ。後ろに下がって、回復してもらいな」
「下がるか! ぶっ倒れるまでお前の前に立ってやる!」
 決意を込めて拳を握る。強く拳を握り、足を踏みしめる。今自分が使える一番の技。引き絞った筋繊維が悲鳴を上げる。それだけの『溜め』を体内に生み出し、一気に『雷太鼓』に叩きつける。
「まだだ! まだこんなもんじゃねえぞ!」
「そのとおりっ。こちらもいきますからねっ」
 浅葱が仲間を癒しながら見栄を切る。敵の苦檄が苛烈になり、回復も行える浅葱も仲間を癒していた。自分自身の『生命力』を手のひらに集め、それを譲渡するように仲間に触れる。ほのかな温もりが仲間を包み、その傷を癒していく。
「ほらほらっ。攻撃範囲内に回復役がいますよっ。狙ってもいいんですよっ」
「ん~、回復は厄介だけど~、それ以上の火力で攻めればいいかな~」
 顎を擦りながら『バーガータイム』が呟く。
「なんとっ、そういう考えもありますかっ」
「前に出てきている時点で体力高そうだし~。巻き込んで攻撃でいいかな~、って」
「ならば遠慮なく攻めさせてもらうだけですっ」
 言って回復から攻撃に転ずる浅葱。体制を崩しての投げ技で隔者を追い込んでいく。
「予想通り脳筋だな!」
 聖がその会話を聞いて荒い口調で言い放つ。相手の構成はせめて四人にサポート二名。ならそのサポート役を落とせば問題はない。回復を行う『水も滴る』とそれを守る『赤の鎧武者』。ならばまずは守り手を潰す。
「ここの二人さえ制圧してしまえばあとはサポートか脳筋いないんだから、随分と楽になるね!」
「ええまあ。それをさせないために僕がいるんですが」
 聖の言葉に申し訳なさそうに『赤の鎧武者』が答える。土の加護を使って自己強化しながら、カウンターで相手にダメージを与える戦略だ。
「……言っておくケドなぁ、テメェらは過程でしかねぇんだからさっさと倒れちまえよ! あんましつこいと……殺るぞ」
「怖いよ! FiVEって研究所のイメージがあったけどこんなに過激なの!?」
 感情的な聖の意見に、気圧される『赤の鎧武者』。だからと言って黙って倒されるつもりはない。
「ちまちま反撃してうっとおしいんだよ! もうやめろ!」
「色々御免なさい! でもそういう作戦なんで!」
「相変わらず気弱だねぇ。そういう所を直さないと『拳華』じゃやってけないぜ」
「むしろそのにーちゃんが、なんで武闘派に居るのかが驚きやわ」
 呆れる様に凜が肩をすくめる。全員が戦いが好きな戦闘狂と思っていたのだが、いざ接してみればFiVEにもいそうな普通の『人間』である。
「親が七星剣の偉い人で、跡目を継がせるための教育ってことで任されたのさ。ま、この状況で逃げないだけ、根性は座ってると思うぜ」
「なんともまあ」
 戦う理由に親族が絡む、というのは凜も他人事ではない。最も凜の方は自ら跡目を継承するために強くなろうとしている。そういう意味では真逆の相手だ。戦う理由は様々である。それは覚者も隔者も変わらない。
「悪人やないんやったら、そんなところ抜けたらええのに」
「すみません。よく言われるんですが、それでも家族は大事なので。それに『拳華』の居心地も悪くないですし」
「俺には理解できない理由だが……まあそういうのもあるか」
『赤の鎧武者』の言葉を聞いてため息をつく凜音。基本面倒ごとは避ける凜音は、がんじがらめになるのは避けたいと思っている。もっとも、生来の面倒見の良さが故に、自ら面倒ごとに首を突っ込むことになるのだが。
「そうかね。どっちかっていうと似た者同士と思ってるぜ、あたいは」
「どういうことだ?」
『雷太鼓』の指摘に首をかしげる凜音。
「アンタ、戦うこと自体は好きじゃないだろうけど戦場には足を運ぶ。そいつは『誰かの為』なんだろう?」
 そういう所が似てるぜ、と『雷太鼓』は指摘する。凜音は肯定も否定もなく、回復の術式を展開する。仲間を癒す。それが自分がここにいる理由。ならその手を抜くつもりはない。
 交差する槍や刀や拳、稲島や衝撃や毒の風。それぞれがその領域に達するにはそれだけの研鑽が必要であり、その研鑽を得るには相応の努力があった。そこに秘められたドラマはそれぞれだ。紐解けば、一六の話がここに生まれるだろう。
 だがその話は今は意味を持たない。意味を成すのはただ強さのみ。ぶつかり合い、そして最後に立った者が勝者となる物語。
 その決着がつくのは、そう遠くない――

●激戦! そして決着
 FiVEの覚者が前衛と中衛のスイッチを行い、ダメージを拡散して戦う様に『拳華』の『首切りウサギ』と『ジャングルの精霊』も立ち位置を変化させてくる。
 だが、それはとりもなおさず体力が残り少ないことを示していた。それを追う様に覚者達は猛攻を仕掛ける。最初に戦闘不能になったのは、後ろに下がった『首切りウサギ』だった。元々防御力も低く、集中砲火されたのが堪えたようだ。
「へっ、やるじゃねーか」
 同じく集中砲火を受けていた『雷太鼓』も命数を削る。真正面に居れば傷が増えることを別っていながら、彼女は後ろに下がることを良しとしなかった。
「あたいは退かないよ! 来るなら来い!」
 稲妻を放ち、撥を振るい、最前線で戦う。それが不利であると理解しながらも、矢面に立つ。
 そして覚者の被害も戦いが続くにつれて大きくなってくる。
「僕は負けない……!」
「こりゃあかんわ!」
 狙われていた小唄と凜が隔者の攻撃を受けて倒れ伏す。
「きっついなー、もう!」
「あいたたた。流石に『拳華』の幹部。凄い雷ね」
「絶対ぶちのめす!」
 時雨と悠乃と聖も命数を燃やして、攻撃に耐え抜いた。
「仕方ないなー。前に出るか」
「前衛の数はキープしたいしね」
 戦闘不能者の穴を埋める様に、聖と悠乃が前に出た。
「悪いけど加勢するわよ」
 悠乃が遥の隣に並び、構えを取る。遥は一瞬戸惑うがそれを拒否はしなかった。『雷太鼓』に向かい真っ直ぐに拳を繰り出す遥。攻撃の間隙を突くように拳を繰り出す悠乃。次に相手がどう動くかを理解している者同士が繰り出せる息の合ったコンビネーション。
「これがオレのとっておきだ!」
「逃がさないわよ!」
「捌ききれねぇ、このあたいが……!」
「これで――」
「ちっ……!」
「――終わりだぁ!」
「っくしょ!」
 時に左右に、時に上下に。時に交互に、時に同時に。悠乃と遥の動きは水と炎の如く。柔と剛の如く。息の合った二人の拳を受けて『雷太鼓』が背中に土をつけた。隔者側の最大戦力が崩され、動揺が走る。
「おわ~。姐さん~」
「よそ見しとる余裕はあらへんよ!」
 焦る『バーガータイム』の命数を時雨の槍が削り取る。だが、七星剣の戦意はまだ途切れない。
「ここらで手打ちにしないか。俺達と戦う事で『気が済んだ』って事にして」
「ここの状況をひっくり返しても、一本踏鞴撃破の目的には既に戦力不足でしょう?」
 降伏勧告には頃合いか、と繰り出した凜音と悠乃。現状での決定権を持つ『水も滴る』佐伯の言は、以外にもノーだった。彼自身もここが潮時と分かっているにも拘わらず。
「メンツ?」
「いや、他のメンバーに火がついている」
『雷太鼓』を倒されたことにより、このまま負けてられないというムードが『拳華』を包んでいた。ま、仕方ないかと戦闘が続行される。
 とはいえ戦力差はFiVEが八名に対し、『拳華』が四名。しかも七星剣は四名中、攻撃できる人間が二人しかいない――
「佐伯さん、ボクも攻めますね」
「ああ、私も攻めよう」
 防御に徹していた『赤の武者鎧』と回復役の『水も滴る』が攻撃に転じる。とはいえ、その役割から戦力としては微々たるものだろう。二人に『首切りウサギ』や『バーガータイム』ほどの殲滅力はない。
 だがそれでも、スイッチ戦略でダメージを分散させていたFiVEの覚者の体力から無視はできない援軍である。
「ちっくしょー!」
「ま、修行にはなったかな」
「ふざけんな! こんなので負けてられっか!」
 遥、時雨、聖は七星剣の猛攻を受けて意識を失う。
「これはきついですねっ」
「流石は武闘派だね、でも――」
 浅葱と理央の二名が命数を削られるが、七星剣の猛攻はここまでだった。
「も~。やめろよ~」
 火力重視の『バーガータイム』が倒れれば、状況をひっくり返すほどの火力は七星剣にはない。『ジャングルの精霊』の毒と『赤の鎧武者』の手甲、そして『水の滴る』が放つ衝撃波は、残るFiVEの五名を排するには不十分な火力だった。
「アギルダ、負けない」
「僕も最後まで戦います!」
 それでも逃げぬと立ち尽くす『拳華』。そこにあるのは意地なのか、それとも戦いに対する執念なのか。
 その執念が既に命数を燃やしていた悠乃と、理央を護っていた浅葱を伏す。だが理央の生み出した水の龍が、隔者達に牙をむいた。この一撃で決める。その思いを乗せて術式を解き放った。
「ギリギリだけど、これでお終いだ」
 放たれた水流は『ジャングルの精霊』と『赤の鎧武者』の二名を飲み込み、その意識を刈り取った。

●戦い終わって
「どうしますか?」
「負けだ。一本蹈鞴は諦める」
 椿の勧告に対し、残った『水も滴る』は、手をあげて負けを認める。
 FiVEの方も戦闘可能な覚者は理央、椿、凜音の三名。負けることはないだろうが、肉体よりも術式を鍛えている三名だ。怪我を押さえる意味では、ここで戦闘を終わらせておく方が得なのは間違いない。
「もう喧嘩しないなら癒してやるよ」
 凜音を始めとして回復を行えるものは、戦闘不能の者を癒していく。敵味方関係なく癒していく。どうにか動けるようになった覚者と隔者。
「か、勝ったからには……乳勝負や……約束やで……」
「よくそんな状況で言えるなぁ……」
 立つのもやっとの状態で凜が『雷太鼓』に迫る。恥ずかしいけど仕方ねぇなぁ、という顔で男性の目の届かない所に移動する。判定役として数名の女性も付き添うことになった。
「どや! うちの勝ちや!」
「待って? 林さん何歳?」
「あたい? 今年で一六だぜ」
「一五歳でその大きさ……」
「将来性を判定に入れると、勝敗は変わってくるかもね」
「く……! 今現在はうちの勝ちや!」
「なあ、もうサラシ撒いていいか? あたい恥ずかしいんだけど」
 そんな会話の後に、女性陣が出てくる。男性陣は微妙な顔をしていた。
「そういえば『拳華』に槍使う人は居るん?」
「ええ、いますよ。『鯨銛』『香車』『妖槍宗正』あたりですかね」
 時雨の問いにあっさりメンバーの情報を渡す奧井。二つ名だけでは大したことはないという事もあるが、知られても問題ないという自信もある。
「次こそはぶちのめす! その太鼓をぶっ壊してやるからな!」
「そうだ! お前だってまだまだこんなもんじゃねえだろ!」
 再戦を求めて叫ぶ聖と遥。その言葉に来るなら来いとジェスチャーで返す『雷太鼓』。
「よし、再戦の約束に割符みたいなものを……よし、これでどうだ!」
 遥は偶然持っていたちょっとHな書籍『くっころころこみっくす』を千切って渡す。
「『どうだ!』じゃねーよ! 受け取れるか!」
「何!? オレと戦うのが嫌だっていうのか!?」
 再戦を拒否されて怒る遥。だが周りの反応は遥に冷たかった。
「うわ、鹿ノ島くんないわー」
「そこでそれはないですね」
「むしろなぜ持ってたのかがしりたいですねっ」
「くぅ、偶然だ! 決してそういう事ではなく!」
 叫ぶ遥の声は、空しく山に響き渡った。

 結果として、七星剣の一本蹈鞴襲撃を止めることができたFiVEの覚者達。
 街に被害は及ぶことなく、今日も平和な一日が訪れる。
 その平和こそがFiVEの最大の報酬であった――
 

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。
 文字数の関係で、七星剣命数消費描写は削ってます。

 このような結果になりました。
 一手間違えれば、形勢は逆転していたかも。それほどのギリギリ勝負でした。
 なお重傷などがないのは、この戦いが『殺し合う』というよりは『喧嘩』のイメージが強かったための判断です。
 
 ともあれお疲れさまでした。先ずはゆっくりと傷を癒してください。
 それではまた、五麟市で。




 
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