絵画の住人。或いは、画霊の世界。
絵画の住人。或いは、画霊の世界。


●命を削って
 一週間、飲まず食わず。カンバスに向かって、筆を走らせ続けたその女性は、絵を描き上げると同時に息絶えた。
 遺体は、訊ねて来た家族によってすぐに葬儀に出され、彼女の住んでいたボロ家の片づけが始まった。
 けれど、片づけは一向に進まない。彼女が亡くなった部屋に入ると、決まって皆、体調が優れなくなり身動きが取れなくなるのである。
 油絵の具の飛び散った、お世辞にも綺麗とはいえない部屋だ。部屋の中央に置かれたカンバスには、夕焼けと、小さな港町が描かれている。
 丘の上から、海と港街を見下ろした構図。丘には、女性のシルエット。
 その女性のシルエットが、不気味に揺らいで見える、と部屋に入って絵を覗いたものは皆一様にそう口にした。このまま部屋に入って行けば、絵の中に吸い込まれてしまいそうだった、とも。
 3人目が部屋の片づけを辞退し逃げ出してからは、誰もその部屋へ近づくものはなくなった。
『あの娘の絵は、画霊になったのよ』
 と、そう言うものも中には居る。
 彼女の掻いた、その一枚の絵は誰に観られることもなく、誰のものにもならず、家が朽ちてしまうまでそこに在り続けるのだろう……と、そう噂されはじめた。
 だが、数日も経たないうちにその噂はF.i.V.E.の耳に入ることになる。

●画霊の世界
 はいはーい、と元気のよい声。
 会議室へ飛び込んできたのは久方 万里(nCL2000005)だ。
 数枚の写真をモニターに映し、万里は告げる。
「ちょっと妙な案件ね。絵は新しいみたいだけど、絵に取り憑いたのは古妖(画霊)みたいね。部屋に入ると同時に画霊の能力で[負荷]の状態異常が付与されるから、気を付けて」
 とはいえ、部屋に入らねば画霊と相対することはできない。
 例え、建て物ごと燃やすなりしたところで画霊の取り憑いた絵は終えてなくなったりしないという。
「絵に近づけば、いつの間にか絵の中の世界へ取りこまれるらしいからね♪ そこからが本番」
 絵の中の世界は、夕暮れの港街。並んだ家屋の間に人はおらず、また日が暮れることもない。
 絵に描かれている範囲から外に出ることはできない。見えない壁があるかのように、何かに阻まれそれ以上先へは進めない。見えない壁の先は、真白い世界。ただ永遠に広がっている。
 街中を、女性の影が駆けまわる。
 時折、こちらへ向けて攻撃を仕掛けて来ることもあるだろう。
「毒、麻痺、ノックバック、負荷などの状態異常を仕掛けて来るそうだよ。今回の目的は、画霊を戦闘不能にしてこの絵から追い出すこと。或いは、画霊を討伐してしまうこと。やり方は任せるけど、まずは画霊を捕まえないとね」
 朱に染まる海。立ち並ぶ家屋。狭い通路に、赤い空。丘までの道のりは、なだらかな昇り坂。丘の上にはなにもなく、女性の影が掻かれているだけ。
 その影も、自由に街中を歩きまわっている。
「無事に帰って来てね。画霊が居なくなってしまえば、皆も絵から出て来られる筈だから」
 行ってらっしゃい、とそう言って。
 万里は仲間達を送り出す。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:病み月
■成功条件
1.画霊の撃退、或いは、討伐
2.なし
3.なし
こんばんは、病み月です。
今回は、絵の中の世界で女性の姿をした画霊と一戦交えるお話です。
それでは、以下詳細。

●場所
絵の中の世界。夕方の港街。立ち並ぶ建て物と狭い道が特徴。常に夕方であり、人気はない。
既に絵として完成された世界であるため、建て物や道を破壊しても、短時間で修復される。
絵に描かれていない範囲には出られない。
絵の中を、画霊は自由奔放に歩き回っている。

●ターゲット
古妖(画霊)
絵に取り憑く古妖。重い入れの強い絵に惹かれやすいようだ。
気に入った絵に取り憑き、長期間絵の中に居座る傾向にある。また、絵の周辺に異常を巻き起こす。
今回は絵に近づいた人間に[負荷]の状態異常を付与、絵に吸い込む。
人間が好きではないようで、人を見かけると逃げ出す。
また、絵の具を使った攻撃をしかけることもある。
言葉が通じるかは不明。
【インタリオ】→特遠列[毒][負荷]
空間に一閃、亀裂を入れる。
【アッサンブラージュ】→特遠単[ノックB][麻痺]
赤系統の絵の具で対象を弾き飛ばし、絵と同化させる。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/8
公開日
2016年07月25日

■メイン参加者 4人■

『月下の白』
白枝 遥(CL2000500)
『希望を照らす灯』
七海 灯(CL2000579)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)

●絵画の住人
 一瞬の眩暈。暗転する視界。体が重い。色の戻る視界に、跳び込むのは朱。
 潮の香り。立ち並ぶ家屋。朱に染まる空。
 黄昏時。
 つい、一瞬前まではある画家の暮らしていた、一件家の一室にいたはずなのに。
 ここは、部屋に残された一枚の絵画。夕暮れ時の港街が描かれた、その絵の中だ。
「わあ、時間があれば昔からの疑問が解決できそうなのに。ずばり、絵の中で食事をしたら味や満足は得られるのか? すごく気になる……」
 空を、道を、建て物の壁を見回して『月下の白』白枝 遥(CL2000500)は瞳をきらきらと輝かせた。
 見たことも無いような鮮やかな朱色。美しすぎるほど、美しい夕焼け。
「同じ芸術家として、自分の作品がいじられるのは悲しいことです……何とか画霊さんにはこの作品から出てもらわないといけません……」
 ざり、と。
 建て物の壁を一撫でして『音楽教師』向日葵 御菓子(CL2000429)は溜め息を零す。僅かばかりの憂いを含み、視線を伏せた。
「誰もいない夕暮れの港町…なんだか懐かしい景色ですね」
 丘を見上げて、『希望峰』七海 灯(CL2000579)はそう呟いた。
 街中、港、丘の上。画霊の居場所は分からない。
 とりあえず、画霊の影を探して、歩きはじめようとした、その時だ。
「あ、あれ……」
 と、『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)が建て物の影を指さした。
 建て物の影に紛れこむようにして、そこには一人、女性の影が立っていた。

●画霊追走
影。文字通り、画霊の姿は影だった。
漆黒を塗り固めたような真黒い体のラインや、些細な仕草から、辛うじてそれが女性の影だと判断できる。どうやら画霊は、絵画の世界への侵入者たちを観察しているようだった。
 無言のまま、くるりと画霊は踵を返す。
 流れるような動作で、路地の間へと駆け込んで行った。
「二手に分かれよう。僕は七海さんとだね」
「わたしはお姉ちゃんとペアを組んで追いかけています」
 遥と結鹿は、軽く手を打ち合わせると左右に別れる。御菓子と灯もそれに続いた。結鹿と御菓子はまっすぐに画霊を追いかける。
 一方、低空飛行で滑るように移動する遥と、それに付いていく灯は大きく建て物を迂回して、反対側から画霊の進路を塞ぐつもりのようだった。
 画霊を追って路地裏へ跳び込む結鹿と御菓子。暫く先に画霊の背が見える。
「あなたは何を受け取ったの?」
 御菓子は、声を張り上げ画霊に向けて呼びかける。画霊は僅かにこちらを振り返ると、大きく腕を振るった。
 ガリリ、と何かが削れる音。
 結鹿と御菓子の目の前で、空間に一閃、傷が入る。
 空間と共に、2人の胸から胴にかけて、一閃の亀裂が走る。一瞬の激痛と、体にかかる負荷。傷口から体内に侵入してくる毒が、体力を奪う。
「くっ……待って!」
 地面に膝を突きながら、結鹿は腕を前へと突き出す。画霊の周囲に高密度の濃霧が発生し、その身を覆い包んだ。濃霧を体にこびり付かせたまま、画霊は路地裏から表通りへと駆け出した。
「後を追いましょう」
 しとしと、と。
 淡い燐光を纏い、水滴が滴る。
 結鹿を、次いで自身を雫で濡らす。体の重さと、毒素が抜けていく。状態異常の回復。
 二人が立ち上がる頃には、空間の亀裂はいつの間にか消えていた。

 表通りに跳び出した画霊の頭上から、翼を広げた遥が迫る。風を切り裂き、急降下。経典を片手に、くすりと笑う。空気中の水分を、眼前に集め、それを撃ち出す。
 空から津波が降ってくる。
 そんな異常事態に、画霊は慌てた素振りを見せる。
 体を地面に投げだして、津波を避けた画霊の前に、灯が立ちはだかる。
「ラーニングを試みます」
 ひゅん、と風切音。
 画霊の目の前で、地面を削る鎖鎌。
 画霊は地面を小さく叩く。夕陽の朱色が、地面から浮きあがる。絵具を弾丸に変え、それを灯へと撃ち込んだ。灯は、素早く鎖鎌を手元に引き戻すと、絵具を防ぐ。
 しかし、数が多い。防ぎきれなかった絵具が、灯の腹部や肩を撃ち抜いた。
 弾ける朱色。衝撃が、灯の身体を背後へと吹き飛ばす。
 飛び散った朱色が、灯の身体を地面へと塗り固める。
「うっ……くっ! なんですかこれ」
 戸惑い、もがく灯だが、暫くは自力で動けそうになかった。
 灯を一瞥し、画霊は駆ける。空中から迫る遥に向けて、画霊は絵具の弾丸を放った。先に灯がそれを受けたのを見ていた遥は、追走を止めて、急停止。反転し、空中にて身を翻し、絵具の弾丸を回避した。
 その隙に、画霊は急ぎ、海の方へと逃げて行った。

 画霊の後を追いかけ、結鹿と御菓子は船着き場へと辿り着いた。
 海と夕日を背に、画霊は船着き場に立っている。画霊自身が影のようなものだからだろうか。彼女に影は存在しない。
 そのまま、いつまでも見ていたくなるような美しい光景。
 思わず、結鹿と御菓子は立ち止まり、夕陽と女性を眺めていた。
 だが……。
 いつまでも、こうしている訳にはいかない。
「このままだとこの絵は呪われているってひと言で片づけられてしまう、同じ芸術家として、それは看過できないし、したくない」
 結鹿をその場に留め、御菓子は一歩、前へ出た。
 身構える画霊。だが、こちらに敵意がないことを理解したのか、すぐさま攻撃してきたり、逃げ出したりする様子はなかった。
「あなたがもし、この絵の作者さんから何か感じた、伝えられたのなら教えてほしい」
 ゆっくり。
 さらに一歩、前へ出た。
 びくり、と肩を震わせる画霊。片手を大きく背後へ引いて、すぐにでも攻勢に移れる姿勢をとった。
 ここが限界。
 そう感じた御菓子は、脚を止め敵意はないことを示すよう、両手を頭の横へと上げる。
「すべてをかなえるとはいえないけれど、かなえるべく動くことはできる」
 どうかしら? と、問うたその時。
 画霊が動いた。
『---…………!!』
 声にならない叫びと共に、大きく腕を振り抜いた。
 放たれた無数の弾丸。空の朱色を削って作った、絵具の弾丸が御菓子を襲う。
 絵具に撃ち抜かれ、御菓子は地面を転がった。身体中に付着した朱色が、御菓子の身体を地面に塗り固めた。
 絵具の弾丸を撃ち出すと共に、画霊は駆け出す。
 海から街へと、逃げ出した。
「結鹿ちゃんっ!」
「頑張ります!」
 呼び出した霧で、画霊を包む。画霊の動きが目に見えて鈍る。
 画霊を追いかける結鹿だが、その眼前の空間に亀裂が走る。がりり、と絵具が削れる音。一瞬の激痛。結鹿は地面に倒れ込んだ。
 その隙に、画霊は街へと逃げこんだ。
 狭い街だ。とはいえここは、画霊の庭とも呼ぶべき絵の中。地の利は画霊にある。一度見失ってしまえば、再度見つけ出すのに苦労する。
 その為に……。
「さぁ、お仕事、かな?」
「画霊を丘へと追い込みます」
 遥と灯は、海へ出ずにこうして街で待機していたのだ。

 低空飛行で、遥が画霊を追いかける。
 地面すれすれへと沈みこみ、或いは上空へと跳び上がり、付かず離れず画霊を追いたてて行く。
 画霊の真横を走るのは灯だ。
 画霊が湧き道へ逃げ込まないよう、鎖鎌で牽制をかける。
 風を切る鎖鎌が、画霊の足元を掬い上げた。画霊は空中へ跳び上がると、腕を一閃。空間を削り、灯の身動きを封じようと試みる。
 しかし……。
「それも、先ほど見ましたから」
 たたん、と軽い足音。大きく数歩後退しながら、灯は鎖鎌を手元へと引き戻した。
 画霊の技は、海辺での交戦を見ていれば理解できた。ラーニングを用いて、射程や効果も理解済み。絵の中の世界であることが前提の技なので、真似できる気はしないが、回避なら可能だ。
 確実に、とはいかないが。
「こうして、隙を見つけることくらいは出来る」
 翼を広げ、急加速した遥が画霊の背後へと追いついた。
 遥の伸ばした腕を、画霊は払いのけ、駆け出した。空間を削るり、遥の追撃を牽制する。
 遥と灯は、再度画霊の追走を開始。
 向かう先は、丘の上。
 この絵の終着点にして、本来、女性の影が掻きこまれていた場所だ。

 街を抜け、丘を駆け上がり、そして画霊は辿り着く。
 丘の上。朱色に染まった街と海が見下ろせる、その場所へ。
「何も伝えることもなく、人目に、人の評価も受けることもなく、処分や封印はわたしは望まないし、作者さんも本意ではないでしょう? 画霊さんもそうはおもわない?」
 丘の上から、夕陽に染まる街を見降ろし御菓子は呟く。
 遥と灯が画霊をここへと追い詰めているその間に、御菓子と結鹿は丘の上へと先回りしていた。
 遮蔽物の多い街中での戦闘は、地の利に優れた画霊に有利。それならば、遮るものがなにも無い丘の上での戦闘に持ち込もうと、ここまで画霊を追いたてた。
 不自然にならないよう誘導して来たので、それなりにダメージを受けてしまったが、それは画霊も同じこと。
 御菓子の隣に並ぶ結鹿が、刀を構え土の鎧を身に纏う。
『……』
 数歩後ずさり、踵を返す画霊だが、背後からは遥と灯が追いついて来た。
 前後を阻まれ、逃げ場はない。
「さぁ、話を聞いてもらいますよ」
 と、結鹿は言う。
 画霊が、降参の意思を示すならばそれで良し。そうでないのなら、戦闘の後、無理矢理にでも話を聞いてもらうだけだ。
 暫し、沈黙。
 耳が痛くなるような静寂が、その場に満ちた。
 やがて。
 意を決したのか、画霊は大きく、遥と灯に向け腕を振った。
 空間が削れる。遥は翼を広げ急上昇。胴を削られた灯が痛みに顔をしかめながらも、鎖鎌を投げつける。
 空気を切り裂きながら、鎖鎌は大きく旋回し画霊を襲う。
「人間が好きではないのに、人間の想いが強い絵に惹かれる画霊。人間を見かけると逃げ出すのに、人間を絵に吸い込む画霊。もしかしたら人間に興味があるのかも知れません」
 鎖を引っ張り、鎖鎌の軌道を修正。画霊の足元を薙ぎ払う。
 画霊は、その場で跳躍し鎖鎌を回避した。そこへすかさず、急降下した遥と、背後から駆け寄る御菓子が駆け寄って行く。
 御菓子の放った波動弾が、画霊の背中を撃ち抜いた。
 バランスを崩し、倒れ込みながらも画霊は頭上から襲いかかる遥へ向け、絵具の弾丸を放つ。
「絵具なら、水で打ち消すことはできないだろうか」
 空気中の水分を集め、呼び出した荒波が地上へ降り注ぐ。
 画霊の放った絵具の大半は、荒波に打ち消され溶けて消えた。
 消し飛ばすことが叶わなかった弾丸が、遥の翼を掠めた。空中で体勢を崩した遥が、地上へと落ちる。
 遥を庇うように、結鹿が画霊の眼前へと駆け込んだ。
 結鹿が刀を振るより速く、画霊は再び絵具の弾丸を放つ。
「うあぁぁ!!」
 至近距離から無数の弾丸を浴びた結鹿は、大きく背後へと弾き飛ばされ、地面へと塗り固められた。身動きのとれなくなった結鹿は、拘束から逃れようともがくが、画霊の攻撃の方が早い。
 ガリリ、と空間の削れる音。
 地面に塗り固められた結鹿の胸から喉にかけて、空間が削れる。激痛と共に、結鹿は意識を手放した。
 地面に崩れ落ち、結鹿はそのままピクリとも動かない。
 すでに意識を失った結鹿は敵ではないと判断したのか、画霊はターゲットを遥へと移すべく視線を巡らせた。
 だが、次の瞬間。
「お互い、攻撃的に過ぎますね」
 降り注ぐ、淡い燐光。仲間達の傷を癒す。
 すでに意識を失っている結鹿が、戦線に復帰するこは叶わないだろうが、遥と灯は幾分か元気を取り戻したようだ。
 鎮魂歌、だろうか。
 癒しの雫を降り注がせる、ヴィオラの音色。それを奏でるは御菓子。
 一瞬。
 ヴィオラの音色に聞き惚れるかのように、画霊の動きが止まった。

●残すもの
「画家の彼女は何を思って命を削ってまでこの絵を描き上げたのでしょうね」
 命を使い切り、この絵を完成させた女性画家のことを想い、灯は僅かに表情を曇らせた。
「ふふ、でもこんな風に描いた世界で遊べるのは、楽しいね」
 空から地上へ。圧縮した空気の弾丸を放つ遥は、夕焼けに染まる街を一瞥し、微笑んで見せた。
 ヴィオラの音色が響き渡る。
 鎖鎌による、目にも止まらぬ三連撃が、画霊の胸を切り裂いた。
 大きく仰け反った画霊の額を、空気の弾丸が撃ち抜く。
 その瞬間。
 画霊の身体を覆っていた影が、夕陽に溶けて消えて行く。
 画霊の姿が消える直前、影の中から女性の姿が浮かび上がった。その姿は、事前に渡された資料で見た、この絵の作者である女性のものだ。
 小さく、笑い。
 作者の姿をとった画霊は、消えて行く。
『忘れないで。私の描いた、この風景を』
 消え去る寸前、画霊は確かにそう言った。

「画霊は消えてしまったけれど、この絵はFiVE村に置くことはできないでしょうか」
 そう呟いて、灯は絵画の表面を優しく撫でた。
 画霊が消え去ると同時に、一行はもとの部屋へと戻っていた。目の前には、一枚の絵。夕焼けに染まる海と街、それを丘から見下ろす女性の影。
「画霊。貴女は、どんな思い、どんな感情、どんな声に呼ばれたの?」
 答えはない。
 忘れないで、と最後に言った一言だけが耳に残る。
 命をかけて描き上げた絵。
 作者の想いに惹かれ、この絵の美しさを伝えるために、画霊はこの絵に取り憑いたのだと想像する。
 この絵の美しさを、肌身に感じて、覚えてもらうために、画霊は人々を絵の中へと取り込もうとしたのではないだろうか。
 なんて。
 いくら考えたところで、答えは出ない。
「帰りましょう」
 遥は絵をイーゼルから取り上げて、手近な布でそれを包む。
 絵が見えなくなる、その瞬間まで、結鹿は黙ってそれを見つめていた。 
   

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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