<ヒノマル陸軍>ロマン兵器コンペティション
●
「えー、開発者はハラスエ。所属はヒノマル陸軍第七兵器研究所。今からコンペに向けた兵器の説明をする」
眼帯をつけた白衣の老人が画面に映っていた。一般的なビデオカメラで撮影されているらしい。
「第一、『ショットガントレット』」
博士は鉛色の金属製手袋を身につけた。ガントレットといえば鎧の一パーツだが、剣や盾を持つための構造ではない。インパクト部分がシェル構造になった金属製パンチンググローブだ。
「これは安全装置を外し、ファイティングモードで勢いよく拳を振り抜くと――」
自動車の事故実験などに使う人形に、博士は10メートルほど距離をあけたままパンチ動作をした。
すると拳側面から弾が発射され、拡散。人形が散弾銃で撃たれたようにはじけた。
「このように格闘武器でありながら射撃性能をもつ。勿論直接殴りつければ相手は散弾の面圧力によって吹き飛ぶだろう」
画面が切り替わる。
「第二、『ECスナイパーライフル』」
博士が手に持ったのはウッドストックかつボルトアクションタイプの旧式ライフルだ。
「ECはエンチャンテッド。つまり発射時に魔力付与を行なうスナイパーライフルだ。試しに撃つと――」
人形を狙って一発。
すると電撃を纏った弾が人形に着弾。周囲の人形を伴って破壊された。
「遠距離方特殊攻撃用武器だが、その形状を戦闘に特化させた形と言えるだろう。旧式のボルトアクションタイプで魔力付与の衝撃でかなり弾がそれるから、有効射程は短い。といっても、覚者戦闘の有効射程は元々短いがな」
現実的な話をするなら、いくら一キロ先まで弾が飛ぶからといって狙った場所に当てるにはとてつもない訓練を必要とするし、いざ打つには長く集中する時間を要するのだ。
またも画面が切り替わる。
「第三、『YGグレネードランチャー』」
博士は一般的な単発式グレネードランチャーを翳した。
グレネードランチャーとは文字通りグレネード(爆弾)を遠くへ山なりに発射する道具だ。
「YGは妖力ガスの略だ。この管の中だけで育つ古妖性ウィルスを弾に伝染させて放つ仕組みになっている。見た目には少し分かりづらいが――」
先程と同じ人形に向けて放つ。
着弾地点から青紫色のモヤのようなものが広がり、人形を包んでいく。物理的な変化は見られない。
「あのガスは猛毒だ。恐ろしい病気にかかる。『病的概念』のウィルスなので人外存在にも有効だろう。だがこれはむしろ、対一般人。それも憤怒者に向けて開発した意図が大きい。神秘性の病気は一般的な術式によるキュアが行なえるが、覚者を味方に持たない憤怒者は回復手段を持たない。最低でも、残り一生を病院で過ごすことになるだろう」
最後にホワイトボードの前に立つ博士が映った。
「以上の三点にはそれぞれ弱点があり、ショットガントレットは装弾数が三発しかないので頻繁にリロードを要すること。ECスナイパーライフルはスナイパーライフルとしての有効性をあえて殺していること。YGグレネードランチャーは弾のチャージを日頃から行なう必要があることだ。これらの理由を残したのは、『カッコイイから』だ」
ボードにそれぞれ書き付け、博士は振り返った。
「以上の三点を今度のロマン武器コンペにかける。追加の資料映像は現在注目の武装覚者傭兵組織『ファイヴ』との交戦記録である。お楽しみに」
●
「……という映像が、よりによってうちに送られてきたんだ」
久方 相馬(nCL2000004)は困った顔でモニターの電源を落とした。
「一応、『指定した場所に来て戦ってくれないとひどいぞ』といった旨の手紙が添えられていて、とりようによっては無視したり奇襲をかけたりすればよそで人的被害を出すぞともとれるんだが……ここまで丁寧に用意したヤツがだまし討ちをするとは思えない」
敵であるこちらを『気持ちよく』かつ『仕方なく』参加させるための口実とみていいだろう。
「こちらも、敵が得るであろう今後の戦力を測ることができる。乗って置いて損はないだろう」
指定したのは妖によって廃墟化した街だ。
そこで9対6の覚者戦闘を行ないたいらしい。
「あとだな、こちらが勝ったら……」
もしや、と思う覚者たちに、相馬は言った。
「コンペにかけるロマン武器のひとつをくれるらしい」
「……くれる?」
かくして、ヒノマル陸軍チームとの奇妙な戦いが幕を開けたのだった。
「えー、開発者はハラスエ。所属はヒノマル陸軍第七兵器研究所。今からコンペに向けた兵器の説明をする」
眼帯をつけた白衣の老人が画面に映っていた。一般的なビデオカメラで撮影されているらしい。
「第一、『ショットガントレット』」
博士は鉛色の金属製手袋を身につけた。ガントレットといえば鎧の一パーツだが、剣や盾を持つための構造ではない。インパクト部分がシェル構造になった金属製パンチンググローブだ。
「これは安全装置を外し、ファイティングモードで勢いよく拳を振り抜くと――」
自動車の事故実験などに使う人形に、博士は10メートルほど距離をあけたままパンチ動作をした。
すると拳側面から弾が発射され、拡散。人形が散弾銃で撃たれたようにはじけた。
「このように格闘武器でありながら射撃性能をもつ。勿論直接殴りつければ相手は散弾の面圧力によって吹き飛ぶだろう」
画面が切り替わる。
「第二、『ECスナイパーライフル』」
博士が手に持ったのはウッドストックかつボルトアクションタイプの旧式ライフルだ。
「ECはエンチャンテッド。つまり発射時に魔力付与を行なうスナイパーライフルだ。試しに撃つと――」
人形を狙って一発。
すると電撃を纏った弾が人形に着弾。周囲の人形を伴って破壊された。
「遠距離方特殊攻撃用武器だが、その形状を戦闘に特化させた形と言えるだろう。旧式のボルトアクションタイプで魔力付与の衝撃でかなり弾がそれるから、有効射程は短い。といっても、覚者戦闘の有効射程は元々短いがな」
現実的な話をするなら、いくら一キロ先まで弾が飛ぶからといって狙った場所に当てるにはとてつもない訓練を必要とするし、いざ打つには長く集中する時間を要するのだ。
またも画面が切り替わる。
「第三、『YGグレネードランチャー』」
博士は一般的な単発式グレネードランチャーを翳した。
グレネードランチャーとは文字通りグレネード(爆弾)を遠くへ山なりに発射する道具だ。
「YGは妖力ガスの略だ。この管の中だけで育つ古妖性ウィルスを弾に伝染させて放つ仕組みになっている。見た目には少し分かりづらいが――」
先程と同じ人形に向けて放つ。
着弾地点から青紫色のモヤのようなものが広がり、人形を包んでいく。物理的な変化は見られない。
「あのガスは猛毒だ。恐ろしい病気にかかる。『病的概念』のウィルスなので人外存在にも有効だろう。だがこれはむしろ、対一般人。それも憤怒者に向けて開発した意図が大きい。神秘性の病気は一般的な術式によるキュアが行なえるが、覚者を味方に持たない憤怒者は回復手段を持たない。最低でも、残り一生を病院で過ごすことになるだろう」
最後にホワイトボードの前に立つ博士が映った。
「以上の三点にはそれぞれ弱点があり、ショットガントレットは装弾数が三発しかないので頻繁にリロードを要すること。ECスナイパーライフルはスナイパーライフルとしての有効性をあえて殺していること。YGグレネードランチャーは弾のチャージを日頃から行なう必要があることだ。これらの理由を残したのは、『カッコイイから』だ」
ボードにそれぞれ書き付け、博士は振り返った。
「以上の三点を今度のロマン武器コンペにかける。追加の資料映像は現在注目の武装覚者傭兵組織『ファイヴ』との交戦記録である。お楽しみに」
●
「……という映像が、よりによってうちに送られてきたんだ」
久方 相馬(nCL2000004)は困った顔でモニターの電源を落とした。
「一応、『指定した場所に来て戦ってくれないとひどいぞ』といった旨の手紙が添えられていて、とりようによっては無視したり奇襲をかけたりすればよそで人的被害を出すぞともとれるんだが……ここまで丁寧に用意したヤツがだまし討ちをするとは思えない」
敵であるこちらを『気持ちよく』かつ『仕方なく』参加させるための口実とみていいだろう。
「こちらも、敵が得るであろう今後の戦力を測ることができる。乗って置いて損はないだろう」
指定したのは妖によって廃墟化した街だ。
そこで9対6の覚者戦闘を行ないたいらしい。
「あとだな、こちらが勝ったら……」
もしや、と思う覚者たちに、相馬は言った。
「コンペにかけるロマン武器のひとつをくれるらしい」
「……くれる?」
かくして、ヒノマル陸軍チームとの奇妙な戦いが幕を開けたのだった。
■シナリオ詳細
■成功条件
1.ヒノマル陸軍兵器実験チームと戦闘する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
ハラスエ博士の部隊と戦闘を行なうことが目的です。
勝っても負けてもよそに被害が行くわけでは無いので、戦闘をした時点で依頼は成功扱いになります。
(逆に言うと、試合をぶちこわしにしたり、武器を奪ったり、戦闘を放棄したりすると失敗扱いになります)
余談ですが前に霊子強化服を開発したゴウハラ博士とは違う人です。ライバルです。
●戦闘のルール
向こうはあくまで資料映像を目的としているので、以下のルールを求めています。
・両者を殺さないこと。また捕縛もしないこと。
・戦闘不能者が半数を超えた側の負けとすること。
・戦闘フィールド外を使用しないこと。
・お互いを尾行ないしはそれにあたる行為に及ばないこと。
●戦場
廃墟を利用した仮設訓練場が舞台となります。
最大でも三階建てまでのオフィスビル群。
数少ない二車線道路。
民家はなし。
ごく一般的な商業地区です。
●相手チームのスペック
兵器実用実験のために組織された部隊です。
メールで送られてきたスペックは以下の通り。(名前は仮名)
・アルファ:暦・火行。前衛担当。
・ベータ:現・火行。前衛担当。
・デルタ:獣・土行。状況に応じて味方をガード。
→上記三名はショットガントレットを装備
・ガンマ:翼・水行。後衛回復担当。
・イプシロン:現・木行。中衛で攻撃と回復を両立。
→上記二名はYGグレネードを装備
・ゼータ:現・天行。後衛砲撃支援担当。
→上記一名はECスナイパーライフルを装備。
レベル平均20。全員命数復活あり。
尚、相手に対する戦闘外調査行動はAAAによってし尽くされているので、これ以上得るものはないでしょう。
●勝利報酬
戦闘に勝った場合、『よりよい映像、もしくはよりよい発見』が得られた方1名に、三つの内から望みのロマン武器を一つ貰えます。
三つのうちどれを指定するかはEXプレイングに書き込んでください。
ちなみに、貰った武器をファイヴの研究部に預けて量産して貰うこともできなくはないですが、そのためには依頼約2~3回分の実戦研究とその間における所属覚者1チーム分の協力が必要になります。そっちにシフトしたい場合は、そうEXプレイングに記載して下さい。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
9/9
公開日
2016年07月31日
2016年07月31日
■メイン参加者 9人■
●ゴウハラ博士『テスト要求の本当の意味に気づくか否かで今後の対応を決める』
動いていない自動販売機の影に隠れ、『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は銃のグリップを握り込んだ。
「ロマンで敵が倒せるのなら構いませんが、武器に求められるのは信頼性だ」
下に向け、いつでも飛び出せるように構えている。
場所は市街地フィールドの中でも数少ない二車線道路。放置された車両や自動販売機。周囲の建造物などいざとなれば飛び込める遮蔽物が多いことから、この場所に留まって戦闘をすることに決めていた。
「遊び心があるのはいいことですよ。伸びしろとなりますから」
『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)がかすれて声で言った。
見上げると鳥系守護使役ズィムィリクが上空から周囲をぐるぐると見回している。
同じくそれを見上げ、匍匐姿勢から立ち直る『ゴシップ探偵』風祭・誘輔(CL2001092)。
「ま、新兵器はロマンだよな」
「敵チームが途中で散開したようです」
「バラバラに攻めてくるつもりでしょうか。それなら各個撃破で済むんですが」
誡女の横にはりつく形で襲撃に備える『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。
とはいえ、そう簡単な話とは思えない。
密集した驚異的な敵戦力にちょっとずつ味方を投入するような馬鹿の集いであれば、京都もあそこまで壊されなかったろう。
半日もせずに地域を制圧するなど並の覚者組織にはできない。ファイヴが撃退できたのは百人規模の覚者が投入されることを彼らが想定していなかったからに他ならなかった。
そんな彼らが戦力を温存するような活動をとっている意味を考えると、後が恐ろしい。
建物の裏に身を隠し、接近を待つ『黒百合』諏訪 奈那美(CL2001411)。
「兵器は戦いを変えます。銃は弱者の戦闘力を平均かし、強者の行動力を拡張する……数を揃えられる集団なら十分な有効性が得られるでしょう。そういった意味では、ECスナイパーライフルは魅力ですね」
「私はその……ショットガントレットが、素敵だなって」
後ろから顔を覗かせる三峯・由愛(CL2000629)。
「こう、打ち切ったら薬莢排出と冷却をする機能があったりなんて、ロマンのある武器ならそういうギミックがあって欲しいですっ。リロード方法はどんなでしょう。カードリッジでしょうか、それともスピードローダーのような道具を使って弾倉へ効率的な……はっ」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)の視線を受けて、ぱっと両手を挙げる由愛。
「すみません……つい……」
「べつにいいけどさっ」
奏空は機嫌が悪そうだ。
「ファイヴはあいつらのお手軽なんでも屋じゃないぞっていうんだ! でも脅しもかかってるし、癪だけど、仕方なく相手してやるんだよ!」
「は、はあ……」
「建前」
異常なほど気だるげな様子で、深緋・久作(CL2001453)が壁にもたれかかっていた。
「何事にも建前は必要なのでしょうか。ロマンに媚びが見え隠れするようなもの、で……」
視線は壁に向かっている。嫌なことがあったのかと思って、奏空たちは少し前のことを思い返してはっとした。
試合開始前、そういえばこんなことがあった。
久作が札束の入った茶封筒を出してこう言ったのだ。
「私が勝ったら100万渡すので篭手をください。前の博士はくれなかったので。度量の差を示す良い機会かと」
ハラスエ博士はそれを受けて、きわめて困った顔をした。
「SG07を買うにはもう一桁必要だ。九割引には応じられん」
ということである。
久作はあまり納得しない顔で引き下がった。
さておき。そんなこんなで、今に至るわけである。
「なあ皆、俺は大事なことを確認しそびれていた」
『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)が急に声を上げた。
真剣な目で振り返る仲間たちに、懐良は真剣な目で言った。
「アルファからゼータの六人……あの中で誰が女性なんだ」
「……」
「いや、全員女性ということにしよう。なんならオレが触って確かめるしかない、ないよな!?」
口を塞ごうかなと思った矢先、誡女が小さく合図を出した。
「囲まれています。道路の前後に四名確認」
「チッ、留まりすぎた……!」
こちらへアルファたちが走ってくるのが見えている。
狭い路地に追い詰められたら不利だ。誘輔は道路にあえて飛び出すと、腕を機関銃にチェンジ。一方へ掃射をしかけると、続けざまに反対方向にも掃射。
システム的にはこれで列攻撃一回分となるが、今回の状況的な不利から命中率が若干下がる扱いである。
一方で誡女はていさつ状態を中断。戦闘行動に移ると術式を展開。由愛にハンドサインを送った。
アルファとベータが前衛。イプシロンが中衛。加えてデルタも中衛。
頷く由愛。由愛としては3人以上を巻き込める場合に迷霧をかける予定だったが、誡女の作戦に乗って置いたほうが効率的だと判断したようだ。
合図で同時に道路に飛び出すと、前後同時に迷霧を展開した。
タイミング的にはそれよりやや先んじた形でアルファたちのショットガントレットが放たれる。
散弾のサンドアタックに晒される誘輔。
敵戦力の把握ができていない敵チームは、まず最初に目に付いた誘輔に集中放火することにしたようだ。
「いってぇ! 回復、頼む!」
「少し待って貰えますか」
奈那美が張り付いているビルの上階を確認しながらわずかに建物から身を覗かせる。
癒しの滴を練り上げると、100ミリリットル瓶に詰めて誘輔に投げた。
高速で飛んできた瓶を親指だけで開き、一気に煽る誘輔。
「そのまま上見とけ、さっきの話覚えてるよな!」
「ええ……」
さっきというのは約10分前のことだ。
誘輔が匍匐移動しながら奈那美に語っていたところによると。
『ECスナイパーライフルを装備したゼータは恐らく高所から狙ってる。見通しがいいからな。不意打ちに警戒しろ』
スナイパーライフルと銘打っておきつつも神具的有効射程距離がハンドガンと変わらないというあの銃だが、建物の上階から狙うことも勿論可能だ。
足場ペナルティ無しで見通しのよい場所をとれるのだから、確かに狙い目だろう。
その一方で、久作と奏空は道路に飛び出し、敵を押しのける作業に移っていた。
攻撃目標はベータ、アルファ、イプシロンだ。
丁度前衛に出ているベータが一番狙いやすい。
久作はカトラスを握って突撃。
ショットガンを『かわさずに』突っ切ると、至近距離から斬撃を繰り出した。
身を翻し、反対側のアルファにも牽制射撃。
そうしている間に距離を詰めた奏空がベータに斬撃を加えた。
ベータは二人の斬撃をガントレットで防御。両手装備だ。
だが奏空は構わずもう一本の刀を繰り出した。
ベータのタクティカルスーツを切り裂く。
「自分はデルタを抑えます」
そこへ千陽が飛び込み、地面に向けてスタンピングアタック。
その場にいたベータとデルタが軽く吹き飛ばされた。
「抑えるって。そんなことできるのか? まあいいや任せた! 俺は俺の役目を果たす!」
懐良は刀を抜くと、目をギラリと光らせた。
「まずは最初の二人だ。アルファとベータは……!?」
囲まれた状況とはいえ、ここはチェスボードでは無い。常に全員がめまぐるしく動き回る覚者の戦場である。懐良はベータとガンマの間をすり抜けるように走ると、ベータの胸から脇腹にかけて斬撃を加え、更に自販機を蹴ってターン。自動車を踏み台にジャンプし、誘輔たちを飛び越えてからアルファの胸元めがけて大上段から斬撃を叩き込んだ。
「……くうっ!」
割と一方的に攻撃を加えたはずなのに、自分が膝を突く懐良。
奏空が慌てて振り返った。
「どうした!」
「両方……男だった……!」
唇を噛んで震える懐良。
こいつ未来に生きてんな、という顔で視線を戻す奏空。
「なにをやってるんですかっ。撃ちます、伏せてください!」
ラーラがあえて郵便ポストに飛び乗り、魔方陣を展開。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
手のひらを中心として無数に開いた小規模魔方陣の群れから、次々に大量の炎弾が発射される。
直撃を受け、吹き飛んでいくベータ。
そんな彼を庇うべく、デルタが間に割り込んだ。
ガントレットをガード姿勢で構えてである。
「味方ガードは、邪魔させて貰います!」
千陽は飛び込み蹴りでガンマを吹き飛ばしにかかる。
が、ガンマは一メートルほどノックバックしただけで衝撃をずらして対応。
この瞬間、千陽の脳裏にあるアイデアが浮かんだ。
我々は今まで、ノックバックというものを雑に扱い過ぎては居なかったろうか。
うまく使えば相手のカバーリングを妨害できるかもしれない。だが相手もカラーコーンではない。簡単には妨害させてくれないだろう。
(この方向性で戦術研究を進めれば、画期的な発見があるかもしれませんね……)
今日の戦いはその布石だ。千陽は諦めずに妨害を続けた。
●ハラスエ博士『傭兵団に戦争交渉が行なえるとは思えん。地元ヤクザ同様に武力制圧すべきでは?』
「皆さん、回復をっ」
由愛は走りながら演舞を使用。味方にかかったいくつかのBSを解除しながら細い路地を走っていた。
その一方で、奈那美が腰のホルダーから瓶を複数取り出して次々に治癒飲料を作成。ダメージをおった仲間に投げ渡していく。
それを受け取って、誡女は小さく息をついた。
一度復活したベータへの集中攻撃だが、カバーリングに入ったデルタと集中回復によってしのぐガンマによって大きく阻害された。
更には見通しの良い場所に陣取ったゼータとYGグレネードランチャーによる遊撃をはかるイプシロンの攻撃も馬鹿に出来ないもので、途中から回復にシフトした誡女や由愛、そして最初から回復に専念していた奈那美の努力がなければ防衛ラインは早々に崩壊していただろう。
そんなこんなで。
一度陣を下げ、少し狭い道路へと撤退したラーラたちは味方の回復をはかりながら状況を分析し直していた。
「あの武器ですが、私たちの使う銃器系神具同様リロードに時間はかからないようですね」
「あとカートリッジ式でしたねっ」
テンションの異なるラーラと由愛がそれぞれ目を合わせる。ぷるぷると首を振る由愛。
「相手が通常攻撃を行なわないので基本射程は分かりませんでしたが、武器の使い方次第で応用は利くようです」
「そのようですね……」
小さく頷く誡女。
「『グレネードは遠距離の列攻撃武器。放たれたグレネードの打ち返しやリカバーは効果が見られません。そういった所は流石に兵器開発者といったところかと』」
「他に気づいたことなどは?」
首を傾げる奈那美に、懐良がそっと手を上げた。
「……」
指名したくないという顔で指をさすと、懐良は目を光らせた。
「ゼータとイプシロン。あとガンマは女性だ」
「……」
分かっていた。が、それだけではなかった。
「あと、ショットガントレットに吹き飛ばしの性能があるようだが、あれは陣形を乱すだけであって隊列は変わらない」
「……ん? なに? どうちがうんだそれ」
奏空が一瞬聞き流しそうになって振り返った。
「陣形は、まあいわゆる囲んだり突破したりという昔からある兵法の――」
「いやそこじゃなくて」
「前衛が中~後衛に強制チェンジされるわけではない。列や貫通というのはあくまで戦闘での動き方や役割に対応したものであって、将棋盤のように綺麗に横一列や縦一列に並ぶわけじゃないんだ。極端な話サークル陣形をとっても外周だけ前衛で中身が後衛という……」
「ややこしい」
「だが飲み込んでくれ。いざというときに間違えると命取りになる」
「とにかく。彼らの武器もある意味では普通の神具武器ということですか……」
広い道路に出た。戦場を移しても、やはり戦いやすい場所がよい。
すると待ち構えていたかのようにゼータが建物の二階から射撃を仕掛けてきた。着弾地点を中心に電撃が走るが、ビデオで見たものとは威力が違う。おそらく天行のスキル攻撃だ。
ラーラは魔導書の封印を解いて狙いをつける……と見せかけて、後ろから追い詰めようと襲ってきたアルファめがけて発射。
ベータが庇われている今、どちらかといえばアルファ側の方が落としやすいからだ。
敵から繰り出されたショットガントレットの攻撃をこらえながら奏空が突撃。
「負けてたまるかー!」
こちらの狙いはベータ。デルタに庇われているとはいえ、貫通攻撃なら通用する。
「くらえー!」
「男のロマンをわかれ!」
そこに乗じて突撃を仕掛ける懐良。
二人のパンチが激しい衝撃の波となってデルタとベータを襲う。
トドメを刺すチャンスだ。しかし庇われている対象への攻撃は難しい。
そこで、千陽はあるひらめきを形にすることにした。
暫く狙いを定めに定め、ここぞというタイミングでの大震をしかけたのだ。
地面に手を添え、まるで全速走行中の戦車を下面から爆破崩壊させるかのごとく慎重に、ベストなタイミングで術式を発動させる。
すると、きわめて的確にヒットした衝撃にデルタが転倒。ガードが一時的に解除された。
(成功……したとはいえ、まだ勘違いが多く混ざっていますね。より多くの人と共に研究をする必要があるでしょう)
「――」
久作は凄まじい速度でベータへの距離を詰めると、拳を腹に叩き込み、流れるような斬撃によってベータを地に沈めた。
そしてくるりと身を翻し、アルファへと狙いを定めた。
「お伝えください。あの人は『生き様に回復が追いつかなかった』そうですから……私が代わりに、たたき落としに参りますと」
その後の展開をまとめよう。
ベータ撃破に次いで、残りのメンバーで一気にアルファの攻略にシフト。
ガードを破られた敵チームは勢いに押される形でメイン火力の半数を失い、回復の維持によってチャンスを伺おうとするもそれを押し切る形でイプシロンを撃破。
その時点での戦闘不能者数はヒノマル側3人。ファイヴ側2人。
ファイヴチームの勝利と言う形で幕を閉じた。
気になる賞品の行き先だが、ハラスエ博士は(地味に結構な人数を使って撮影していたらしい)ビデオ映像をなんども再生しながら悩みに悩んで決めたようだ。
「どれも甲乙つけがたい所だが、今回は彼女にあげることにしよう。あと百万はいらん」
そう言って、新品のショットガントレットの入ったケースを久作に手渡した。
渡してからその場にいるメンバーを見回す。
「またこういうこと、やりたいか?」
千景から順番に。
「ヒノマル陸軍となれ合いをするつもりはありません」
「それより愛が欲しい」
「『手数が増えるならありかと』」
「無用な被害が出ないなら穏便に、その……」
「相手の武器を見ておけるのはいい機会です」
「自軍で試せばいいものを、意図がわかりませんでしたね。そういう意味では、どちらとも」
「いいように利用されてんのは癪だ」
「私は別にどちらなりと」
「だから言ってんだろ! ファイヴはお前らのお手軽便利屋じゃないんだぞ! いい加減にしろよ!」
一通り聞いて、ハラスエ博士は『まあ、そうなるな』と呟いた。
「ならもう一つ質問いいか。京都に水爆かますのと、本拠地にいっせーのせで責め込み合ってボスを最初に倒した方が勝ちのゲームとどっちがいい」
「は? 意味わかんねーこと言――むぐ!?」
意見に噛みつこうとした奏空の口を、誡女が手で塞いだ。
ハラスエの言う二つには大きな違いがある。多くの人はこの二つを混同するが、上位の管理者が違いを知らないと人類が滅亡する。そういう大事な差である。
「『お答えしかねます』」
「まあ、そうなるな」
ハラスエは話はそこまでという風に、撤収を始めた。
久作に渡された兵器はそのままファイヴに預けられ、量産化のために研究開発が始まることになる。
動いていない自動販売機の影に隠れ、『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は銃のグリップを握り込んだ。
「ロマンで敵が倒せるのなら構いませんが、武器に求められるのは信頼性だ」
下に向け、いつでも飛び出せるように構えている。
場所は市街地フィールドの中でも数少ない二車線道路。放置された車両や自動販売機。周囲の建造物などいざとなれば飛び込める遮蔽物が多いことから、この場所に留まって戦闘をすることに決めていた。
「遊び心があるのはいいことですよ。伸びしろとなりますから」
『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)がかすれて声で言った。
見上げると鳥系守護使役ズィムィリクが上空から周囲をぐるぐると見回している。
同じくそれを見上げ、匍匐姿勢から立ち直る『ゴシップ探偵』風祭・誘輔(CL2001092)。
「ま、新兵器はロマンだよな」
「敵チームが途中で散開したようです」
「バラバラに攻めてくるつもりでしょうか。それなら各個撃破で済むんですが」
誡女の横にはりつく形で襲撃に備える『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。
とはいえ、そう簡単な話とは思えない。
密集した驚異的な敵戦力にちょっとずつ味方を投入するような馬鹿の集いであれば、京都もあそこまで壊されなかったろう。
半日もせずに地域を制圧するなど並の覚者組織にはできない。ファイヴが撃退できたのは百人規模の覚者が投入されることを彼らが想定していなかったからに他ならなかった。
そんな彼らが戦力を温存するような活動をとっている意味を考えると、後が恐ろしい。
建物の裏に身を隠し、接近を待つ『黒百合』諏訪 奈那美(CL2001411)。
「兵器は戦いを変えます。銃は弱者の戦闘力を平均かし、強者の行動力を拡張する……数を揃えられる集団なら十分な有効性が得られるでしょう。そういった意味では、ECスナイパーライフルは魅力ですね」
「私はその……ショットガントレットが、素敵だなって」
後ろから顔を覗かせる三峯・由愛(CL2000629)。
「こう、打ち切ったら薬莢排出と冷却をする機能があったりなんて、ロマンのある武器ならそういうギミックがあって欲しいですっ。リロード方法はどんなでしょう。カードリッジでしょうか、それともスピードローダーのような道具を使って弾倉へ効率的な……はっ」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)の視線を受けて、ぱっと両手を挙げる由愛。
「すみません……つい……」
「べつにいいけどさっ」
奏空は機嫌が悪そうだ。
「ファイヴはあいつらのお手軽なんでも屋じゃないぞっていうんだ! でも脅しもかかってるし、癪だけど、仕方なく相手してやるんだよ!」
「は、はあ……」
「建前」
異常なほど気だるげな様子で、深緋・久作(CL2001453)が壁にもたれかかっていた。
「何事にも建前は必要なのでしょうか。ロマンに媚びが見え隠れするようなもの、で……」
視線は壁に向かっている。嫌なことがあったのかと思って、奏空たちは少し前のことを思い返してはっとした。
試合開始前、そういえばこんなことがあった。
久作が札束の入った茶封筒を出してこう言ったのだ。
「私が勝ったら100万渡すので篭手をください。前の博士はくれなかったので。度量の差を示す良い機会かと」
ハラスエ博士はそれを受けて、きわめて困った顔をした。
「SG07を買うにはもう一桁必要だ。九割引には応じられん」
ということである。
久作はあまり納得しない顔で引き下がった。
さておき。そんなこんなで、今に至るわけである。
「なあ皆、俺は大事なことを確認しそびれていた」
『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)が急に声を上げた。
真剣な目で振り返る仲間たちに、懐良は真剣な目で言った。
「アルファからゼータの六人……あの中で誰が女性なんだ」
「……」
「いや、全員女性ということにしよう。なんならオレが触って確かめるしかない、ないよな!?」
口を塞ごうかなと思った矢先、誡女が小さく合図を出した。
「囲まれています。道路の前後に四名確認」
「チッ、留まりすぎた……!」
こちらへアルファたちが走ってくるのが見えている。
狭い路地に追い詰められたら不利だ。誘輔は道路にあえて飛び出すと、腕を機関銃にチェンジ。一方へ掃射をしかけると、続けざまに反対方向にも掃射。
システム的にはこれで列攻撃一回分となるが、今回の状況的な不利から命中率が若干下がる扱いである。
一方で誡女はていさつ状態を中断。戦闘行動に移ると術式を展開。由愛にハンドサインを送った。
アルファとベータが前衛。イプシロンが中衛。加えてデルタも中衛。
頷く由愛。由愛としては3人以上を巻き込める場合に迷霧をかける予定だったが、誡女の作戦に乗って置いたほうが効率的だと判断したようだ。
合図で同時に道路に飛び出すと、前後同時に迷霧を展開した。
タイミング的にはそれよりやや先んじた形でアルファたちのショットガントレットが放たれる。
散弾のサンドアタックに晒される誘輔。
敵戦力の把握ができていない敵チームは、まず最初に目に付いた誘輔に集中放火することにしたようだ。
「いってぇ! 回復、頼む!」
「少し待って貰えますか」
奈那美が張り付いているビルの上階を確認しながらわずかに建物から身を覗かせる。
癒しの滴を練り上げると、100ミリリットル瓶に詰めて誘輔に投げた。
高速で飛んできた瓶を親指だけで開き、一気に煽る誘輔。
「そのまま上見とけ、さっきの話覚えてるよな!」
「ええ……」
さっきというのは約10分前のことだ。
誘輔が匍匐移動しながら奈那美に語っていたところによると。
『ECスナイパーライフルを装備したゼータは恐らく高所から狙ってる。見通しがいいからな。不意打ちに警戒しろ』
スナイパーライフルと銘打っておきつつも神具的有効射程距離がハンドガンと変わらないというあの銃だが、建物の上階から狙うことも勿論可能だ。
足場ペナルティ無しで見通しのよい場所をとれるのだから、確かに狙い目だろう。
その一方で、久作と奏空は道路に飛び出し、敵を押しのける作業に移っていた。
攻撃目標はベータ、アルファ、イプシロンだ。
丁度前衛に出ているベータが一番狙いやすい。
久作はカトラスを握って突撃。
ショットガンを『かわさずに』突っ切ると、至近距離から斬撃を繰り出した。
身を翻し、反対側のアルファにも牽制射撃。
そうしている間に距離を詰めた奏空がベータに斬撃を加えた。
ベータは二人の斬撃をガントレットで防御。両手装備だ。
だが奏空は構わずもう一本の刀を繰り出した。
ベータのタクティカルスーツを切り裂く。
「自分はデルタを抑えます」
そこへ千陽が飛び込み、地面に向けてスタンピングアタック。
その場にいたベータとデルタが軽く吹き飛ばされた。
「抑えるって。そんなことできるのか? まあいいや任せた! 俺は俺の役目を果たす!」
懐良は刀を抜くと、目をギラリと光らせた。
「まずは最初の二人だ。アルファとベータは……!?」
囲まれた状況とはいえ、ここはチェスボードでは無い。常に全員がめまぐるしく動き回る覚者の戦場である。懐良はベータとガンマの間をすり抜けるように走ると、ベータの胸から脇腹にかけて斬撃を加え、更に自販機を蹴ってターン。自動車を踏み台にジャンプし、誘輔たちを飛び越えてからアルファの胸元めがけて大上段から斬撃を叩き込んだ。
「……くうっ!」
割と一方的に攻撃を加えたはずなのに、自分が膝を突く懐良。
奏空が慌てて振り返った。
「どうした!」
「両方……男だった……!」
唇を噛んで震える懐良。
こいつ未来に生きてんな、という顔で視線を戻す奏空。
「なにをやってるんですかっ。撃ちます、伏せてください!」
ラーラがあえて郵便ポストに飛び乗り、魔方陣を展開。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
手のひらを中心として無数に開いた小規模魔方陣の群れから、次々に大量の炎弾が発射される。
直撃を受け、吹き飛んでいくベータ。
そんな彼を庇うべく、デルタが間に割り込んだ。
ガントレットをガード姿勢で構えてである。
「味方ガードは、邪魔させて貰います!」
千陽は飛び込み蹴りでガンマを吹き飛ばしにかかる。
が、ガンマは一メートルほどノックバックしただけで衝撃をずらして対応。
この瞬間、千陽の脳裏にあるアイデアが浮かんだ。
我々は今まで、ノックバックというものを雑に扱い過ぎては居なかったろうか。
うまく使えば相手のカバーリングを妨害できるかもしれない。だが相手もカラーコーンではない。簡単には妨害させてくれないだろう。
(この方向性で戦術研究を進めれば、画期的な発見があるかもしれませんね……)
今日の戦いはその布石だ。千陽は諦めずに妨害を続けた。
●ハラスエ博士『傭兵団に戦争交渉が行なえるとは思えん。地元ヤクザ同様に武力制圧すべきでは?』
「皆さん、回復をっ」
由愛は走りながら演舞を使用。味方にかかったいくつかのBSを解除しながら細い路地を走っていた。
その一方で、奈那美が腰のホルダーから瓶を複数取り出して次々に治癒飲料を作成。ダメージをおった仲間に投げ渡していく。
それを受け取って、誡女は小さく息をついた。
一度復活したベータへの集中攻撃だが、カバーリングに入ったデルタと集中回復によってしのぐガンマによって大きく阻害された。
更には見通しの良い場所に陣取ったゼータとYGグレネードランチャーによる遊撃をはかるイプシロンの攻撃も馬鹿に出来ないもので、途中から回復にシフトした誡女や由愛、そして最初から回復に専念していた奈那美の努力がなければ防衛ラインは早々に崩壊していただろう。
そんなこんなで。
一度陣を下げ、少し狭い道路へと撤退したラーラたちは味方の回復をはかりながら状況を分析し直していた。
「あの武器ですが、私たちの使う銃器系神具同様リロードに時間はかからないようですね」
「あとカートリッジ式でしたねっ」
テンションの異なるラーラと由愛がそれぞれ目を合わせる。ぷるぷると首を振る由愛。
「相手が通常攻撃を行なわないので基本射程は分かりませんでしたが、武器の使い方次第で応用は利くようです」
「そのようですね……」
小さく頷く誡女。
「『グレネードは遠距離の列攻撃武器。放たれたグレネードの打ち返しやリカバーは効果が見られません。そういった所は流石に兵器開発者といったところかと』」
「他に気づいたことなどは?」
首を傾げる奈那美に、懐良がそっと手を上げた。
「……」
指名したくないという顔で指をさすと、懐良は目を光らせた。
「ゼータとイプシロン。あとガンマは女性だ」
「……」
分かっていた。が、それだけではなかった。
「あと、ショットガントレットに吹き飛ばしの性能があるようだが、あれは陣形を乱すだけであって隊列は変わらない」
「……ん? なに? どうちがうんだそれ」
奏空が一瞬聞き流しそうになって振り返った。
「陣形は、まあいわゆる囲んだり突破したりという昔からある兵法の――」
「いやそこじゃなくて」
「前衛が中~後衛に強制チェンジされるわけではない。列や貫通というのはあくまで戦闘での動き方や役割に対応したものであって、将棋盤のように綺麗に横一列や縦一列に並ぶわけじゃないんだ。極端な話サークル陣形をとっても外周だけ前衛で中身が後衛という……」
「ややこしい」
「だが飲み込んでくれ。いざというときに間違えると命取りになる」
「とにかく。彼らの武器もある意味では普通の神具武器ということですか……」
広い道路に出た。戦場を移しても、やはり戦いやすい場所がよい。
すると待ち構えていたかのようにゼータが建物の二階から射撃を仕掛けてきた。着弾地点を中心に電撃が走るが、ビデオで見たものとは威力が違う。おそらく天行のスキル攻撃だ。
ラーラは魔導書の封印を解いて狙いをつける……と見せかけて、後ろから追い詰めようと襲ってきたアルファめがけて発射。
ベータが庇われている今、どちらかといえばアルファ側の方が落としやすいからだ。
敵から繰り出されたショットガントレットの攻撃をこらえながら奏空が突撃。
「負けてたまるかー!」
こちらの狙いはベータ。デルタに庇われているとはいえ、貫通攻撃なら通用する。
「くらえー!」
「男のロマンをわかれ!」
そこに乗じて突撃を仕掛ける懐良。
二人のパンチが激しい衝撃の波となってデルタとベータを襲う。
トドメを刺すチャンスだ。しかし庇われている対象への攻撃は難しい。
そこで、千陽はあるひらめきを形にすることにした。
暫く狙いを定めに定め、ここぞというタイミングでの大震をしかけたのだ。
地面に手を添え、まるで全速走行中の戦車を下面から爆破崩壊させるかのごとく慎重に、ベストなタイミングで術式を発動させる。
すると、きわめて的確にヒットした衝撃にデルタが転倒。ガードが一時的に解除された。
(成功……したとはいえ、まだ勘違いが多く混ざっていますね。より多くの人と共に研究をする必要があるでしょう)
「――」
久作は凄まじい速度でベータへの距離を詰めると、拳を腹に叩き込み、流れるような斬撃によってベータを地に沈めた。
そしてくるりと身を翻し、アルファへと狙いを定めた。
「お伝えください。あの人は『生き様に回復が追いつかなかった』そうですから……私が代わりに、たたき落としに参りますと」
その後の展開をまとめよう。
ベータ撃破に次いで、残りのメンバーで一気にアルファの攻略にシフト。
ガードを破られた敵チームは勢いに押される形でメイン火力の半数を失い、回復の維持によってチャンスを伺おうとするもそれを押し切る形でイプシロンを撃破。
その時点での戦闘不能者数はヒノマル側3人。ファイヴ側2人。
ファイヴチームの勝利と言う形で幕を閉じた。
気になる賞品の行き先だが、ハラスエ博士は(地味に結構な人数を使って撮影していたらしい)ビデオ映像をなんども再生しながら悩みに悩んで決めたようだ。
「どれも甲乙つけがたい所だが、今回は彼女にあげることにしよう。あと百万はいらん」
そう言って、新品のショットガントレットの入ったケースを久作に手渡した。
渡してからその場にいるメンバーを見回す。
「またこういうこと、やりたいか?」
千景から順番に。
「ヒノマル陸軍となれ合いをするつもりはありません」
「それより愛が欲しい」
「『手数が増えるならありかと』」
「無用な被害が出ないなら穏便に、その……」
「相手の武器を見ておけるのはいい機会です」
「自軍で試せばいいものを、意図がわかりませんでしたね。そういう意味では、どちらとも」
「いいように利用されてんのは癪だ」
「私は別にどちらなりと」
「だから言ってんだろ! ファイヴはお前らのお手軽便利屋じゃないんだぞ! いい加減にしろよ!」
一通り聞いて、ハラスエ博士は『まあ、そうなるな』と呟いた。
「ならもう一つ質問いいか。京都に水爆かますのと、本拠地にいっせーのせで責め込み合ってボスを最初に倒した方が勝ちのゲームとどっちがいい」
「は? 意味わかんねーこと言――むぐ!?」
意見に噛みつこうとした奏空の口を、誡女が手で塞いだ。
ハラスエの言う二つには大きな違いがある。多くの人はこの二つを混同するが、上位の管理者が違いを知らないと人類が滅亡する。そういう大事な差である。
「『お答えしかねます』」
「まあ、そうなるな」
ハラスエは話はそこまでという風に、撤収を始めた。
久作に渡された兵器はそのままファイヴに預けられ、量産化のために研究開発が始まることになる。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし








