河童以前
●
「それほど緊張する必要はないですよ~?」
夢見・久方 真由美(nCL2000003)は、集まった覚者に柔らかな笑みを浮かべる。
「今回はまず慣れていただくのが主眼なので~、低級な妖しの討伐だけですから~」
つまり経験をつめば、そればかりではないことが言外に示唆されている。
とりあえず、これしきのことで躊躇しているようではこの先が思いやられるということだ。
「皆さんが気をつけなくてはいけないことは~、『「FiVE」という組織については一般に口外する事は基本的に控える』ってことだけです~。『FiVEの者ですが~』とか『FiVEの方から来ました』とか言わないで下さいね~。後、変身のバング台詞に組み込むのもなしですよ~。どこで誰が聞いているかわかりませんから~」
本気か冗談か全然分からない。
とにかく、いずこからか現れ、いずこへか消える、通りすがりの誰かさんで押し通せといわれているのだ。
●
「それでは、妖しについてお話しますね~。分類――生物系、物質系、心霊系、自然系の四つに大きく分類されるんですけど~、みなさんには生物系を担当してもらいます~」
『突然変異で尋常では無い力を持った動植物。もしくはその死体等。比較的素早いものが多い。集団で行動する場合が多いが極希に強い個体が単独で行動する場合も』
すでに周知されているマニュアルの中身が、改めて資料で示された。
「今回は~、集団で行動してます~。弱いですけど、数がいるってことですね~。数の暴力って言葉もあるので、そこは気をつけてくださいね~」
それで。と、真由美は言葉を切った。
「識別名は『カッパイゼン』です~」
ちょっと嬉しそうに言う真由美に、覚者は首をかしげた。それ、どこで音節を切るんだ。
「「カッパ・イゼン」です! 素体は、カエルの卵です~。 こうなが~くつながったロープみたいなのがうごうごです。太さは、このくらいでしょうか~」
と、真由美はOKサインを出した。直径三センチ。
「それが、たくさん~。群体が四つです~。 締め上げて~、死んだら、どろどろに溶かされて、じゅるじゅるされちゃいます~。つかまった状態で大声で叫ぶと危ないですよ~」
それ、なんて触手。というか、なぜカッパ。
「河童って、尻子玉というのを抜くんですって~」
イヤナヨカン。
「このカッパイゼン、弱ってくるとおしりをなでてきます~」
きゃ。とか言ってるが、照れてない。
「そうすると、元気が出るみたいですね~。尻子玉は抜かないので、カッパイゼンです~。おしりなでられたら、弱ってきた証拠ですので、攻撃のバロメーターに最適です~」
積極的に活用してくださいね~。と言う夢見に、ややめまいを感じる。
「場所は、山の中の大きな池です。直径15メートルくらいでしょうか~。池のふちから2メートル辺りの浅いところに、ばらばらにいます。今後の餌場が重ならないようにしてるんですね~。池のほとりは5メートルくらい。ぐちゃぐちゃの土なので、足元、気をつけてください~。それ以上離れると、私くらいの背の草が密生してますので、戦場には不向きです~」
池のふち2メートルが「カッパイゼン行動範囲」、そこから同心円状に5メートル巾の地面「泥地」、それ以上は「草密生地」と模式図が添付されていた。
覚者は、いってらっしゃい~という真由美に頷き、現場の近畿地方某所に出動した。
「それほど緊張する必要はないですよ~?」
夢見・久方 真由美(nCL2000003)は、集まった覚者に柔らかな笑みを浮かべる。
「今回はまず慣れていただくのが主眼なので~、低級な妖しの討伐だけですから~」
つまり経験をつめば、そればかりではないことが言外に示唆されている。
とりあえず、これしきのことで躊躇しているようではこの先が思いやられるということだ。
「皆さんが気をつけなくてはいけないことは~、『「FiVE」という組織については一般に口外する事は基本的に控える』ってことだけです~。『FiVEの者ですが~』とか『FiVEの方から来ました』とか言わないで下さいね~。後、変身のバング台詞に組み込むのもなしですよ~。どこで誰が聞いているかわかりませんから~」
本気か冗談か全然分からない。
とにかく、いずこからか現れ、いずこへか消える、通りすがりの誰かさんで押し通せといわれているのだ。
●
「それでは、妖しについてお話しますね~。分類――生物系、物質系、心霊系、自然系の四つに大きく分類されるんですけど~、みなさんには生物系を担当してもらいます~」
『突然変異で尋常では無い力を持った動植物。もしくはその死体等。比較的素早いものが多い。集団で行動する場合が多いが極希に強い個体が単独で行動する場合も』
すでに周知されているマニュアルの中身が、改めて資料で示された。
「今回は~、集団で行動してます~。弱いですけど、数がいるってことですね~。数の暴力って言葉もあるので、そこは気をつけてくださいね~」
それで。と、真由美は言葉を切った。
「識別名は『カッパイゼン』です~」
ちょっと嬉しそうに言う真由美に、覚者は首をかしげた。それ、どこで音節を切るんだ。
「「カッパ・イゼン」です! 素体は、カエルの卵です~。 こうなが~くつながったロープみたいなのがうごうごです。太さは、このくらいでしょうか~」
と、真由美はOKサインを出した。直径三センチ。
「それが、たくさん~。群体が四つです~。 締め上げて~、死んだら、どろどろに溶かされて、じゅるじゅるされちゃいます~。つかまった状態で大声で叫ぶと危ないですよ~」
それ、なんて触手。というか、なぜカッパ。
「河童って、尻子玉というのを抜くんですって~」
イヤナヨカン。
「このカッパイゼン、弱ってくるとおしりをなでてきます~」
きゃ。とか言ってるが、照れてない。
「そうすると、元気が出るみたいですね~。尻子玉は抜かないので、カッパイゼンです~。おしりなでられたら、弱ってきた証拠ですので、攻撃のバロメーターに最適です~」
積極的に活用してくださいね~。と言う夢見に、ややめまいを感じる。
「場所は、山の中の大きな池です。直径15メートルくらいでしょうか~。池のふちから2メートル辺りの浅いところに、ばらばらにいます。今後の餌場が重ならないようにしてるんですね~。池のほとりは5メートルくらい。ぐちゃぐちゃの土なので、足元、気をつけてください~。それ以上離れると、私くらいの背の草が密生してますので、戦場には不向きです~」
池のふち2メートルが「カッパイゼン行動範囲」、そこから同心円状に5メートル巾の地面「泥地」、それ以上は「草密生地」と模式図が添付されていた。
覚者は、いってらっしゃい~という真由美に頷き、現場の近畿地方某所に出動した。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.カッパイゼンの全滅
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
田奈アガサです。よろしくお願いいたします。
具合悪くなったら、おしりをなでてくるカエルの卵をぶちぶちするお仕事です。かんたん!
妖し・生物系「カッパイゼン」×4
*レベル1です。
*ロープ型カエルの卵の妖しです。群体で四体扱いです。
*からめとられると動きにくくなるので、回避、攻撃、移動にペナルティがつきます。
*おしりをなでられると、覚者の体力が減り、カッパイゼンの体力が回復します。回避可能です。動きが変わるので、注意してみていれば分かります。
場所:近畿地方・某県・人跡絶えた山の水辺
*曇りです。昼間なので、明るさに問題はありません。
*直径15メートル四方の池です。浅いので沈むほど深くはありません。(最大深部で水深1.2メートル)
カッパイゼンは、池のふちから2メートルの浅瀬に散開しています。
*湿地帯なので、足元はぐちゃぐちゃですし、大変もろくなっています。
それなりの準備をしていかないと、命中、移動、回避にペナルティが生じます。
*視界に問題がないのは池の周囲5メートルです。それ以上池から離れると背の高い草が密生し、視界が通らなくなります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
0LP[+予約0LP]
0LP[+予約0LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年08月17日
2015年08月17日
■メイン参加者 8人■

●
女子供の水遊び。
知らないものが見たら、そんな感じの覚者一行。
平均年齢がかろうじて15前後だ。
(河童以前! なんかちょっと気持ち悪そうな感じだけど、初依頼だしがんばっちゃおう!)
小松原・花梨(CL2000096)は、うっかり鼻をひくつかせてしまったせいでコケと両生類特有の生臭さと瘴気の混じり合った臭いに尻尾も垂れ気味だ。
「あうぁ~。ここ絶対変なのがいるよ~」
好奇心、獣憑[戌]を殺す。
(さあ、ワタシのサクセスストーリーのオープニングよ! テイキューのアヤカシ退治なんて、ラクショーでこなして見せるんだから!)
ここまで見事なフラグをぶち上げる『デブリフロウズ』那須川・夏実(CL2000197)は、ある意味期待の新人だ。
慢心は敵。自分が天敵。わきまえた小学四年生である。
(初仕事ですから緊張しますね。若様が一緒と言うのが少しばかり救いですけども……)
虎岩 加奈(CL2000398)が少し目線を上げると、ブラウンの髪に紺色の瞳。尊大さが見える整った顔立ちの七条・成明(CL2000734)が歩いている。
口元が動いているのは、(まったく、何故僕がこんな泥だらけの所に……)と言っているに違いない。
歩き方に若干の迷いが見受けられる。
ぬかるんだ足元を気になさっておいでだ。
それもほんの数歩のこと。通常の歩き方に戻った。
(ま、これは黙っておきましょう。調子に乗られても困ります)
「ともあれ頑張っていきましょうか」
(体良く楽だというお仕事に潜り込めたのです。こういう仕事で楽に実績を稼いで、目指すは週休六日生活ですよ)
橡・槐(CL2000732)のスポーツ用車椅子、実は車輪は回っていない。
泥にはまっては、移動に支障をきたすためちょっと早いが守護使役が【ふわふわ】させているのだ。
「河童以前……あの見た目でお尻を触ろうとしてくるとか気合入っているよね……」
それを気合といっていいのか、『凛の雫花』宇賀神・慈雨(CL2000259)
「妖って不思議な習性というか、どうやって生命活動を維持してるのか分からないような個体もいるのね、勉強になったのよ」
生命の環から外れた妖に常識は通用しない。
(今回が初めての任務。緊張するし、気持ち悪い敵も怖いけれど立派な覚者になるために頑張るわよ)
『普通の女の子』新田・恵梨香(CL2000015)の頬は少しばかり高潮している。
(仲間の助言や提案は積極的に聞き入れて、息を合わせて戦う。チームワークが大切よ)
「数は……4体。夢見さんが言っていた通り。位置は、ほぼ東西南北にきれいに分散しているわ」
「遥夜も帰ってきました~。池の形はこんな感じで、場所はここら辺です~」
上からの俯瞰図と遠視によって、資格情報はほぼ共有された。
「なるべくみんなが攻撃するのと同じ個体を攻撃して、少しでも早く数を減らす事を目指す。のがいいと思うんだけど――」
周囲を見回す恵梨香に、花梨が応える。
「 ボクは前衛で戦闘! 最初は池には入らないで遠距離攻撃のある人の攻撃で敵を誘い出せるかを見守るよ~!」
まず、相手がどんな攻撃をするのか分からなければ近寄るのは危険だ。
「じゃあ、まず遠距離攻撃からかな」
「作戦はっ」
夏実が顔から円陣に突っ込んだ。
「 1、池の縁から射撃武器所持者が水面を撃って刺激して誘き寄せ。2、それで無理なら飛行からの誘き寄せ→囮の順に試す
3、誘き寄せれたら戦闘開始よ!」
ドヤ顔小学四年生。
「もう少しいろいろできるようになったら……試行錯誤を繰り返すとしましょうかねえ」
ツインテイルにゴシックロリータの女子高生と見えるが、男子大学生、御堂 那岐(CL2000692)、女装の目的・現世利益だが、本当にかわいいので『僕の心を裏切ったな』されないことを切に祈る。
「とりあえずはカッパイゼンを見つけたら纏霧で行動を阻害しておきますよう」
霧の細かい水滴に敵の動きを阻害させる天行は、まだ自分達の能力を実戦で使うことに慣れていない覚者には強い味方だ。
慈雨の黒い小さな翼がピコピコ動く。
「草密生地辺りに布陣するの。低空飛行で視界を維持出来そうなら草むらの中、難しそうならその手前位に移動するの」
草むらは密生しているので、体をねじ込むにも視界を確保するのも無理そうだ。回避が出来ない。
「漸くの初任務だなんだ、僕の力を存分に見せてやろうじゃないか」
成明の隣では、浮遊系守護使役・大歳が浮かんでいる。
守護使役を駆使した空中砲台が成明、自らの翼を駆使した移動砲台が慈雨と那岐だ。
「あ、レギンス履いてるし問題ないけれど、下から見ないでね?」
慈雨の言葉に、視線が自然に成明に集中する。
男子はもう一人いるが、那岐は上空だし、スカートだし、というより、那岐にもアンダーが見えないように気を遣ってほしい。世界の平和のために。
とにかく、一見女の中に男が一人に見えるのは、スカートめくりの危険さに気がついたが開き直るのにあと一年。13歳の成明だけなのだ。
「――恥じらいながら体重を乗せた右ストレートで沈みたくなければ」
慈雨の言葉が更に続く。
成明は潔白だが、著しく顔色が悪くなる。
嘘だ。体重のほかに翼での加速が乗るんだ。
乙女の恥じらいは時として物理に換算されるのだ。
そういうものなのだ。
「そんなことはしない」
加奈の視線が向いている。高貴なるものの義務。
少女メイドさんが見てる。成明君は高潔なご主人様です。
「さすがです、若様」
●
戦いの気配が、覚者を変える。
人を獣へ。翼を飾りではなく実用に適したものに。最強の自分を人生の中から顕現させ、魂の軌跡を追憶し、その色味を変えさせる。
例え見た目に変わりはなくとも、何かが切り替わるのだ。
ぬかるみの上では、学校指定靴で恵梨香が尋常ではない三半規管を駆使して足元を確保していた。
千鳥足など恵梨香は一生経験することはあるまい。
今まで意識していなかった身中の炎に目を向け、燃え上がらせる。
自分は炎の業を抱いているのだと素直に意識できるほど、指の先まで炎の熱が染みとおる。
慈雨の黒い羽根は基部を肩口に移行し、大きく翼を広げる。
那岐の 黒い羽根は基部を背の中ほどにずらし、幾度か羽ばたく。
成明の茶の髪と紺の瞳は、洗い流されたような金と青に変わる。
夏実の赤茶の髪と灰の瞳は、夜闇を吸ったような黒に変わる。
加奈の十の心はそのままに、その手足は伸び、体は丸みを帯び、色香をこぼす十八の姿に。
槐の十七の心はそのままに、手足は縮み、まだ自分で歩けた頃の十の姿に戻る。この姿なら、車椅子を解いて自分で動くことが出来るのだ。
先ほどまでとは異なる仲間の姿に、姿は変わることのない恵梨香と花梨はそれでも互いの中の気配が代わっていることに気がついた。
それはおのおの震えている。
水面を揺らし、ざぶりと立つ水音。
ぬらぬらとした粘液がぼちゃぼちゃ水面に落ちる。
無数の鎌首をもたげる蛇の群れと錯覚しそうな命の連なりが池の四方に姿を現した。
突然変異で、生まれる前の命は生まれるための闘争を始める。
数えることも難儀な数が全て孵化したら、この池の中で始まるのは共存か闘争か。
あるいは、各地に拡散していくのかもしれない。
簡単な仕事だから。
夢見はそう言っていた。
しくじったらどうなるのか。
答えは簡単だ。
世界の状況は悪化する。
しくじりは、それに抵抗できない者を脅かす。
いかなる理由だろうがF.i.V.Eに名を連ね、仕事を請けた以上、これは命を懸けて果たすべき義務だ。
「まずは小手調べ、です」
加奈から放たれた指弾は、微細な波動を繰り返し手近な触手をうがつ。
四方に散っていた触手の向きが、音を立てて覚者に向かった。
ジャブジャブと水音を立てて、それは動いてくる。
水の底がにごっている。触手が蠕動しているのだ。
「キヒヒ、楽しくいきましょうよう」
那岐の手中の圧縮された空気が、撃ち出される。
ぼひゅっと、丸い穴が触手の束をうがった。
更に、成明の術符が千切れかけた部分を切り込み、慈雨の攻撃もそれを追う。
千切れた触手は、見る間に干からびて水面に枯葉のように浮いた。
戦力の分散は愚の骨頂。
一体一体確実にみんなで始末していこうと、夏実は全員に言い含めた。
(頭真っ白の奴にまで言い聞かせる!)
さすがに戦場に向かう足と覚悟を持たぬものを戦わせるのは無理だろうが、心意気は見上げたものだ。
手に握った古き一族の祖神にあやかった杖を握り、生い茂る草の前に立つ。
草を手すり代わりにと思ってつかんでみたが、ぐよんとしなりかえって返って足をとられる。
(成功のためにはリスクをおわなくちゃね!)
神具の靴をおろすくらいしか足場対策は出来なかった。
戦闘で信頼できるのは、自分の肉体と選び上げた装備と心を通わせた守護使役だけだ。それ以外は、精々工夫の域を脱しない。
「妖を生で見るのは実際初めてですが、動画で見るよりキモイですね……」
槐の語尾がかすれて消える。
飛んできたカエルの卵の連なりの前に、車椅子の車輪を変形させた双の盾を構える。
(浮遊を生かして、足元をすくわれないように――)
人の歩く速さが精一杯の「浮遊」では、覚者の通常戦闘速度についてはこられない。
構えた盾ごとからめとられた槐は自分の体と触手の間に盾を押し込み隙間をつくろうともがく。
彼女の守護使役・ぞんでも懸命に自らの能力を駆使しようとするが、妖しの攻撃を振り払うほどの威力はそもそもない。
あくまでふわふわであり、ぶんぶんではない。
「お巡りさんこの人です! 人じゃないのです!?」
カエルの卵(たくさん)です。
「うぅぅ……カエルの卵もちょっと苦手だけど、それが大きくなって絡み付いてくるなんて……」
花梨は、拳を握り締めた。
「槐さんをはなせぇ!」
猛り狂う獣の一撃。
常任には捕捉出来ない位置からの強烈な横薙ぎにカエルの卵は飛び散った。
ばらばらと槐を戒めていた卵はぬかるみに落ちて朽ちていく。
「大丈――のわぁぁぁぁぁ!」
花梨の制服のお尻にぺっとりと連なるカエルの卵。
もぞもぞうごめいている。おまわりさん、あいつらです。
しかし、これからこういうのをどうにかするのは花梨たちなのだ。
この業界筋の皆さんから、「F.i.V.Eの皆さん、あいつらです」と言われる存在にならねばならないのだ。
歯を食いしばって、苦無を振り下ろす。
潰れて、ぶちゃっとか言う。泣いてない。
声にならない咆哮が、打撃の上に乗るだけだ。
花梨の悲鳴に、犠牲者に同情している暇など有らばこそ。
「ひゃんっ! お尻触っちゃダメぇ!」
恵梨香の悲鳴。
見える範囲の触手にどこどことハンドガンから炎が撃ち出される。
キジも鳴かずば撃たれまい。どこ触られたか言わなければバレもするまい。
しかし、そうせずに入られない、それが反射行動。
「尻をなでられたくらいで大げさな反応をするんじゃない、戦闘中だぞまったく」
成明君こそわかっていない。
この妖はカッパイゼンなのだ。
根幹は、河童なのだ。成長したら尻子玉を抜かれるのだ。
そして尻に手を突っ込まれて尻子玉を抜かれるのは、男なのだ。尻子玉がなんなのかってそんな憶測、全年齢では言えない。
つまりカッパイゼンは――
「――――!!」
成明君も差別も区別もしない。
きゃあもぎゃあも言わない。だって男の子だもん。さっき大見得切っちゃったもん。
池から空中に伸びる触手――じゃなかったカエルの卵の連なり――を、無言で駆けつけた加奈の刀が切り飛ばした。
「若様」
18歳の加奈さんに13歳の成明さん。
お姉さんな風貌に光るあどけない瞳が向けられる。
「大丈夫だ。問題ない。これも果たすべき責務の一環だ」
敵の攻撃を受けたことであって、お尻なでられたことではない。テストに出る。
「そいつ、弱ってるからフルボッコ! ヘンタイ死すべしよ!」
掲げられた杖から、清らかな水。
「ホクトシンクンの名の元に、死と苦よ疾く去れ!カイキ!」
夏実が精神的ダメージと一緒に前衛の身体的ダメージを癒す。
顔が青ざめているのは体力が消耗しているからであって、お尻を触られたからではない。
「はい。那須川、大丈夫? 回復、私もいるからね」
効率的に、満遍なく癒しは振りまかれるべきだ。
そして負担も、癒して全員に分散されるべきだ。
慈雨は、傷を癒す水薬を練成し、夏実が直したものとかぶらないように確認して散布する。
草を薙ぐがごとく刈られて芥と化すカッパイゼン。
「高度、高めにとらせてもらうね」
那岐がほんのちょっと高く浮いた。五十歩百歩だった。
生命の危機にさらされたカッパイゼンの生存本能が女装男子大学生を襲う!
●
「ひゃあああっ!? こ、このヘンタイ! タマゴタマゴタマゴ!オシリナデリムシ!」
涙目になったりすることもありました。
「若様、お怪我は?」
「ない!」
「不自然に後ろに回りこむ、あるいは伸びてくると言った動きをしてくるでしょうし、比較的気付きやすいとは思いますけどね」
加奈が、言外にちゃんと避けろって言ってる。
「ガードいたします」
貴重な回復役でもありますからね。
だんだん要領は分かってきた。
「浄化物質散布! 両生類の卵は実際薬物浸透に弱いのですよ」
前衛の目からハイライトが消えだした。
槐は、最もカッパイゼンの洗礼を受けた。
図らずも、槐に絡みついたカッパイゼンをたこ殴りにするのを、四度繰り返したのだ。
一度目は偶然。二度目で有効性を理解し、三度目で意図的に。
四度目は、これで最後と口々に言い合った。
盾を背後に回してお尻を防御する手並みも、最終的には動きに迷いがなくなった。
炎の弾が最後のカッパイゼンを焼き切る頃には、上空にいたもの達さえ泥はねとぬるぬるの洗礼を受けていた。
戦場で自分だけきれいでいようなんて考えは甘い。
「他に異常がないか一応調べてまいりました。大丈夫のようです」
「仕事キッチリがワタシのシンジョーだもの!」
行き届いた小学生。
「若様、帰りましょう」
微笑む少女メイド。
このまま止め絵で、エンディングが流れるのだ。
と、誰もが思っていた。
「卵でぬるぬるになってしまったので――」
槐の言葉に、成明は頷きかけた。
(早く帰って風呂に入るとしよう)
花梨も頷きかけた。
(銭湯とか入って帰っちゃだめかな……?)
恵梨香も頷きかけた。
(泥と一緒に気持ち悪いのも流しにシャワーでも浴びて帰りたいわね)
「――池で泳いでから帰るのですよ」
槐はそう言い放った。
君、足が動かないんじゃないのか。古式泳法か。
というか、そんなにつらかったの!?
生臭さは幾分マシになったが、それでも遊泳に適した池ではない。
浅いし。
入水はやめてね!?
キヒヒ。と、那岐が声を上げて笑った。
槐の説得に、戦闘の四倍時間を要した。
女子供の水遊び。
知らないものが見たら、そんな感じの覚者一行。
平均年齢がかろうじて15前後だ。
(河童以前! なんかちょっと気持ち悪そうな感じだけど、初依頼だしがんばっちゃおう!)
小松原・花梨(CL2000096)は、うっかり鼻をひくつかせてしまったせいでコケと両生類特有の生臭さと瘴気の混じり合った臭いに尻尾も垂れ気味だ。
「あうぁ~。ここ絶対変なのがいるよ~」
好奇心、獣憑[戌]を殺す。
(さあ、ワタシのサクセスストーリーのオープニングよ! テイキューのアヤカシ退治なんて、ラクショーでこなして見せるんだから!)
ここまで見事なフラグをぶち上げる『デブリフロウズ』那須川・夏実(CL2000197)は、ある意味期待の新人だ。
慢心は敵。自分が天敵。わきまえた小学四年生である。
(初仕事ですから緊張しますね。若様が一緒と言うのが少しばかり救いですけども……)
虎岩 加奈(CL2000398)が少し目線を上げると、ブラウンの髪に紺色の瞳。尊大さが見える整った顔立ちの七条・成明(CL2000734)が歩いている。
口元が動いているのは、(まったく、何故僕がこんな泥だらけの所に……)と言っているに違いない。
歩き方に若干の迷いが見受けられる。
ぬかるんだ足元を気になさっておいでだ。
それもほんの数歩のこと。通常の歩き方に戻った。
(ま、これは黙っておきましょう。調子に乗られても困ります)
「ともあれ頑張っていきましょうか」
(体良く楽だというお仕事に潜り込めたのです。こういう仕事で楽に実績を稼いで、目指すは週休六日生活ですよ)
橡・槐(CL2000732)のスポーツ用車椅子、実は車輪は回っていない。
泥にはまっては、移動に支障をきたすためちょっと早いが守護使役が【ふわふわ】させているのだ。
「河童以前……あの見た目でお尻を触ろうとしてくるとか気合入っているよね……」
それを気合といっていいのか、『凛の雫花』宇賀神・慈雨(CL2000259)
「妖って不思議な習性というか、どうやって生命活動を維持してるのか分からないような個体もいるのね、勉強になったのよ」
生命の環から外れた妖に常識は通用しない。
(今回が初めての任務。緊張するし、気持ち悪い敵も怖いけれど立派な覚者になるために頑張るわよ)
『普通の女の子』新田・恵梨香(CL2000015)の頬は少しばかり高潮している。
(仲間の助言や提案は積極的に聞き入れて、息を合わせて戦う。チームワークが大切よ)
「数は……4体。夢見さんが言っていた通り。位置は、ほぼ東西南北にきれいに分散しているわ」
「遥夜も帰ってきました~。池の形はこんな感じで、場所はここら辺です~」
上からの俯瞰図と遠視によって、資格情報はほぼ共有された。
「なるべくみんなが攻撃するのと同じ個体を攻撃して、少しでも早く数を減らす事を目指す。のがいいと思うんだけど――」
周囲を見回す恵梨香に、花梨が応える。
「 ボクは前衛で戦闘! 最初は池には入らないで遠距離攻撃のある人の攻撃で敵を誘い出せるかを見守るよ~!」
まず、相手がどんな攻撃をするのか分からなければ近寄るのは危険だ。
「じゃあ、まず遠距離攻撃からかな」
「作戦はっ」
夏実が顔から円陣に突っ込んだ。
「 1、池の縁から射撃武器所持者が水面を撃って刺激して誘き寄せ。2、それで無理なら飛行からの誘き寄せ→囮の順に試す
3、誘き寄せれたら戦闘開始よ!」
ドヤ顔小学四年生。
「もう少しいろいろできるようになったら……試行錯誤を繰り返すとしましょうかねえ」
ツインテイルにゴシックロリータの女子高生と見えるが、男子大学生、御堂 那岐(CL2000692)、女装の目的・現世利益だが、本当にかわいいので『僕の心を裏切ったな』されないことを切に祈る。
「とりあえずはカッパイゼンを見つけたら纏霧で行動を阻害しておきますよう」
霧の細かい水滴に敵の動きを阻害させる天行は、まだ自分達の能力を実戦で使うことに慣れていない覚者には強い味方だ。
慈雨の黒い小さな翼がピコピコ動く。
「草密生地辺りに布陣するの。低空飛行で視界を維持出来そうなら草むらの中、難しそうならその手前位に移動するの」
草むらは密生しているので、体をねじ込むにも視界を確保するのも無理そうだ。回避が出来ない。
「漸くの初任務だなんだ、僕の力を存分に見せてやろうじゃないか」
成明の隣では、浮遊系守護使役・大歳が浮かんでいる。
守護使役を駆使した空中砲台が成明、自らの翼を駆使した移動砲台が慈雨と那岐だ。
「あ、レギンス履いてるし問題ないけれど、下から見ないでね?」
慈雨の言葉に、視線が自然に成明に集中する。
男子はもう一人いるが、那岐は上空だし、スカートだし、というより、那岐にもアンダーが見えないように気を遣ってほしい。世界の平和のために。
とにかく、一見女の中に男が一人に見えるのは、スカートめくりの危険さに気がついたが開き直るのにあと一年。13歳の成明だけなのだ。
「――恥じらいながら体重を乗せた右ストレートで沈みたくなければ」
慈雨の言葉が更に続く。
成明は潔白だが、著しく顔色が悪くなる。
嘘だ。体重のほかに翼での加速が乗るんだ。
乙女の恥じらいは時として物理に換算されるのだ。
そういうものなのだ。
「そんなことはしない」
加奈の視線が向いている。高貴なるものの義務。
少女メイドさんが見てる。成明君は高潔なご主人様です。
「さすがです、若様」
●
戦いの気配が、覚者を変える。
人を獣へ。翼を飾りではなく実用に適したものに。最強の自分を人生の中から顕現させ、魂の軌跡を追憶し、その色味を変えさせる。
例え見た目に変わりはなくとも、何かが切り替わるのだ。
ぬかるみの上では、学校指定靴で恵梨香が尋常ではない三半規管を駆使して足元を確保していた。
千鳥足など恵梨香は一生経験することはあるまい。
今まで意識していなかった身中の炎に目を向け、燃え上がらせる。
自分は炎の業を抱いているのだと素直に意識できるほど、指の先まで炎の熱が染みとおる。
慈雨の黒い羽根は基部を肩口に移行し、大きく翼を広げる。
那岐の 黒い羽根は基部を背の中ほどにずらし、幾度か羽ばたく。
成明の茶の髪と紺の瞳は、洗い流されたような金と青に変わる。
夏実の赤茶の髪と灰の瞳は、夜闇を吸ったような黒に変わる。
加奈の十の心はそのままに、その手足は伸び、体は丸みを帯び、色香をこぼす十八の姿に。
槐の十七の心はそのままに、手足は縮み、まだ自分で歩けた頃の十の姿に戻る。この姿なら、車椅子を解いて自分で動くことが出来るのだ。
先ほどまでとは異なる仲間の姿に、姿は変わることのない恵梨香と花梨はそれでも互いの中の気配が代わっていることに気がついた。
それはおのおの震えている。
水面を揺らし、ざぶりと立つ水音。
ぬらぬらとした粘液がぼちゃぼちゃ水面に落ちる。
無数の鎌首をもたげる蛇の群れと錯覚しそうな命の連なりが池の四方に姿を現した。
突然変異で、生まれる前の命は生まれるための闘争を始める。
数えることも難儀な数が全て孵化したら、この池の中で始まるのは共存か闘争か。
あるいは、各地に拡散していくのかもしれない。
簡単な仕事だから。
夢見はそう言っていた。
しくじったらどうなるのか。
答えは簡単だ。
世界の状況は悪化する。
しくじりは、それに抵抗できない者を脅かす。
いかなる理由だろうがF.i.V.Eに名を連ね、仕事を請けた以上、これは命を懸けて果たすべき義務だ。
「まずは小手調べ、です」
加奈から放たれた指弾は、微細な波動を繰り返し手近な触手をうがつ。
四方に散っていた触手の向きが、音を立てて覚者に向かった。
ジャブジャブと水音を立てて、それは動いてくる。
水の底がにごっている。触手が蠕動しているのだ。
「キヒヒ、楽しくいきましょうよう」
那岐の手中の圧縮された空気が、撃ち出される。
ぼひゅっと、丸い穴が触手の束をうがった。
更に、成明の術符が千切れかけた部分を切り込み、慈雨の攻撃もそれを追う。
千切れた触手は、見る間に干からびて水面に枯葉のように浮いた。
戦力の分散は愚の骨頂。
一体一体確実にみんなで始末していこうと、夏実は全員に言い含めた。
(頭真っ白の奴にまで言い聞かせる!)
さすがに戦場に向かう足と覚悟を持たぬものを戦わせるのは無理だろうが、心意気は見上げたものだ。
手に握った古き一族の祖神にあやかった杖を握り、生い茂る草の前に立つ。
草を手すり代わりにと思ってつかんでみたが、ぐよんとしなりかえって返って足をとられる。
(成功のためにはリスクをおわなくちゃね!)
神具の靴をおろすくらいしか足場対策は出来なかった。
戦闘で信頼できるのは、自分の肉体と選び上げた装備と心を通わせた守護使役だけだ。それ以外は、精々工夫の域を脱しない。
「妖を生で見るのは実際初めてですが、動画で見るよりキモイですね……」
槐の語尾がかすれて消える。
飛んできたカエルの卵の連なりの前に、車椅子の車輪を変形させた双の盾を構える。
(浮遊を生かして、足元をすくわれないように――)
人の歩く速さが精一杯の「浮遊」では、覚者の通常戦闘速度についてはこられない。
構えた盾ごとからめとられた槐は自分の体と触手の間に盾を押し込み隙間をつくろうともがく。
彼女の守護使役・ぞんでも懸命に自らの能力を駆使しようとするが、妖しの攻撃を振り払うほどの威力はそもそもない。
あくまでふわふわであり、ぶんぶんではない。
「お巡りさんこの人です! 人じゃないのです!?」
カエルの卵(たくさん)です。
「うぅぅ……カエルの卵もちょっと苦手だけど、それが大きくなって絡み付いてくるなんて……」
花梨は、拳を握り締めた。
「槐さんをはなせぇ!」
猛り狂う獣の一撃。
常任には捕捉出来ない位置からの強烈な横薙ぎにカエルの卵は飛び散った。
ばらばらと槐を戒めていた卵はぬかるみに落ちて朽ちていく。
「大丈――のわぁぁぁぁぁ!」
花梨の制服のお尻にぺっとりと連なるカエルの卵。
もぞもぞうごめいている。おまわりさん、あいつらです。
しかし、これからこういうのをどうにかするのは花梨たちなのだ。
この業界筋の皆さんから、「F.i.V.Eの皆さん、あいつらです」と言われる存在にならねばならないのだ。
歯を食いしばって、苦無を振り下ろす。
潰れて、ぶちゃっとか言う。泣いてない。
声にならない咆哮が、打撃の上に乗るだけだ。
花梨の悲鳴に、犠牲者に同情している暇など有らばこそ。
「ひゃんっ! お尻触っちゃダメぇ!」
恵梨香の悲鳴。
見える範囲の触手にどこどことハンドガンから炎が撃ち出される。
キジも鳴かずば撃たれまい。どこ触られたか言わなければバレもするまい。
しかし、そうせずに入られない、それが反射行動。
「尻をなでられたくらいで大げさな反応をするんじゃない、戦闘中だぞまったく」
成明君こそわかっていない。
この妖はカッパイゼンなのだ。
根幹は、河童なのだ。成長したら尻子玉を抜かれるのだ。
そして尻に手を突っ込まれて尻子玉を抜かれるのは、男なのだ。尻子玉がなんなのかってそんな憶測、全年齢では言えない。
つまりカッパイゼンは――
「――――!!」
成明君も差別も区別もしない。
きゃあもぎゃあも言わない。だって男の子だもん。さっき大見得切っちゃったもん。
池から空中に伸びる触手――じゃなかったカエルの卵の連なり――を、無言で駆けつけた加奈の刀が切り飛ばした。
「若様」
18歳の加奈さんに13歳の成明さん。
お姉さんな風貌に光るあどけない瞳が向けられる。
「大丈夫だ。問題ない。これも果たすべき責務の一環だ」
敵の攻撃を受けたことであって、お尻なでられたことではない。テストに出る。
「そいつ、弱ってるからフルボッコ! ヘンタイ死すべしよ!」
掲げられた杖から、清らかな水。
「ホクトシンクンの名の元に、死と苦よ疾く去れ!カイキ!」
夏実が精神的ダメージと一緒に前衛の身体的ダメージを癒す。
顔が青ざめているのは体力が消耗しているからであって、お尻を触られたからではない。
「はい。那須川、大丈夫? 回復、私もいるからね」
効率的に、満遍なく癒しは振りまかれるべきだ。
そして負担も、癒して全員に分散されるべきだ。
慈雨は、傷を癒す水薬を練成し、夏実が直したものとかぶらないように確認して散布する。
草を薙ぐがごとく刈られて芥と化すカッパイゼン。
「高度、高めにとらせてもらうね」
那岐がほんのちょっと高く浮いた。五十歩百歩だった。
生命の危機にさらされたカッパイゼンの生存本能が女装男子大学生を襲う!
●
「ひゃあああっ!? こ、このヘンタイ! タマゴタマゴタマゴ!オシリナデリムシ!」
涙目になったりすることもありました。
「若様、お怪我は?」
「ない!」
「不自然に後ろに回りこむ、あるいは伸びてくると言った動きをしてくるでしょうし、比較的気付きやすいとは思いますけどね」
加奈が、言外にちゃんと避けろって言ってる。
「ガードいたします」
貴重な回復役でもありますからね。
だんだん要領は分かってきた。
「浄化物質散布! 両生類の卵は実際薬物浸透に弱いのですよ」
前衛の目からハイライトが消えだした。
槐は、最もカッパイゼンの洗礼を受けた。
図らずも、槐に絡みついたカッパイゼンをたこ殴りにするのを、四度繰り返したのだ。
一度目は偶然。二度目で有効性を理解し、三度目で意図的に。
四度目は、これで最後と口々に言い合った。
盾を背後に回してお尻を防御する手並みも、最終的には動きに迷いがなくなった。
炎の弾が最後のカッパイゼンを焼き切る頃には、上空にいたもの達さえ泥はねとぬるぬるの洗礼を受けていた。
戦場で自分だけきれいでいようなんて考えは甘い。
「他に異常がないか一応調べてまいりました。大丈夫のようです」
「仕事キッチリがワタシのシンジョーだもの!」
行き届いた小学生。
「若様、帰りましょう」
微笑む少女メイド。
このまま止め絵で、エンディングが流れるのだ。
と、誰もが思っていた。
「卵でぬるぬるになってしまったので――」
槐の言葉に、成明は頷きかけた。
(早く帰って風呂に入るとしよう)
花梨も頷きかけた。
(銭湯とか入って帰っちゃだめかな……?)
恵梨香も頷きかけた。
(泥と一緒に気持ち悪いのも流しにシャワーでも浴びて帰りたいわね)
「――池で泳いでから帰るのですよ」
槐はそう言い放った。
君、足が動かないんじゃないのか。古式泳法か。
というか、そんなにつらかったの!?
生臭さは幾分マシになったが、それでも遊泳に適した池ではない。
浅いし。
入水はやめてね!?
キヒヒ。と、那岐が声を上げて笑った。
槐の説得に、戦闘の四倍時間を要した。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
