≪悪・獣・跋・扈≫安全な補給態勢を!
●補給部隊の護衛を
奈良県で起きた動物系妖の退治で覚者達は、多くの成果を上げてきた。
その最中、鳴海 蕾花(CL2001006)の調査がきっかけとなって、奈良盆地山中に妖の一大コミュニティが発見された。
これを放置すれば人里に現れ、大きな被害をもたらすだろう。第三次妖討伐抗争後、落ち着きつつある状況がまた混乱に戻ってしまうのは明白だ。
そこで、『F.i.V.E.』とAAAは、大規模な妖掃討作戦を発動することになる……。
『F.i.V.E.』の会議室へとやってきた覚者達。
そこには、『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)と、AAAの制服を着た男が1人ソファに座っていた。
「鬼頭だ。よろしく頼む」
「AAAの三等殿じゃな。この度行われる作戦について、協力を申し出てきたのじゃ」
奈良県内で急増している動物系妖の出現。これは、奈良盆地の山中には動物系妖『牙王(きばおう)』をリーダーとするコミュニティ『群狼』によるものだ。
山中に収まり切らなくなったものが溢れ出てきた結果、事件が乱発していたのだろう。もちろん、妖と成り果てた事もあり、本能的に人間を襲いたいこともあったのかもしれない。
「『牙王』は非常に強力な相手だ。ランクは4。知性も持っている」
狼が変異した妖で、人間を喰い殺すことを何よりの喜びとする残虐な性質の持ち主だ。
部下に対しても力で支配しようとする所はあるが、反面自分に従うものは見捨てない側面も持っている。仮に『群狼』の妖が覚者にやられようものなら、同じように血を流させない限り止まることは無いという気質を持つようだ。
その場合、策に頼るよりは力押しを好む。ごり押しで報復を行うことだろう。
「そんな『牙王』は人間の里への攻撃を計画して、妖を集めていたようだ」
鬼頭は説明を続ける。『牙王』はそんな中、『F.i.V.E.』の事件予知能力が強化されたこと。そして、彼の想定以上にコミュニティが大きくなったことが要因で、『群狼』の体制が整わぬまま、戦いを始めざるを得なくなったようだ。
「むろん、放置すれば、近場の里は塵も残さぬレベルで蹂躙されてしまうじゃろうな」
夢見のけいが言えば、それはほぼ起こりうる未来の話。これを事前に止める必要がある。
「『牙王』は別部隊に任せたい。こちらは主に補給を行うこととなるのだが……」
鬼頭の懸念通り、人が集まれば、狙われる可能性が高くなる。鬼頭の指揮する補給部隊に妖の群れがやってくるようなのだ。
「こちらに100体ほどの妖の群れが襲ってくる。基本的には弱い妖が多いが、中にはランク2の個体が数体混じっているようだ。これを撃破し、決戦に臨むメンバーが安全に補給できるよう態勢を整えたい」
幸い、AAAの戦闘部隊に助力を頼むことができる。だが、補給部隊に詰めているのは1小隊、10人程度でしかない。もちろん、全員非覚者である。
また、補給部隊を行う者達は基本、非戦闘員だ。彼らを守りながら戦う必要があるだろう。
「我々が頼みたいことは以上だ。辛い戦いとなるが、よろしく頼む」
「うむ、難しいかもしれぬが、無理はせぬようにな」
鬼頭に続き、けいもまた、覚者達を気遣って労いの言葉をかけるのだった。
奈良県で起きた動物系妖の退治で覚者達は、多くの成果を上げてきた。
その最中、鳴海 蕾花(CL2001006)の調査がきっかけとなって、奈良盆地山中に妖の一大コミュニティが発見された。
これを放置すれば人里に現れ、大きな被害をもたらすだろう。第三次妖討伐抗争後、落ち着きつつある状況がまた混乱に戻ってしまうのは明白だ。
そこで、『F.i.V.E.』とAAAは、大規模な妖掃討作戦を発動することになる……。
『F.i.V.E.』の会議室へとやってきた覚者達。
そこには、『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)と、AAAの制服を着た男が1人ソファに座っていた。
「鬼頭だ。よろしく頼む」
「AAAの三等殿じゃな。この度行われる作戦について、協力を申し出てきたのじゃ」
奈良県内で急増している動物系妖の出現。これは、奈良盆地の山中には動物系妖『牙王(きばおう)』をリーダーとするコミュニティ『群狼』によるものだ。
山中に収まり切らなくなったものが溢れ出てきた結果、事件が乱発していたのだろう。もちろん、妖と成り果てた事もあり、本能的に人間を襲いたいこともあったのかもしれない。
「『牙王』は非常に強力な相手だ。ランクは4。知性も持っている」
狼が変異した妖で、人間を喰い殺すことを何よりの喜びとする残虐な性質の持ち主だ。
部下に対しても力で支配しようとする所はあるが、反面自分に従うものは見捨てない側面も持っている。仮に『群狼』の妖が覚者にやられようものなら、同じように血を流させない限り止まることは無いという気質を持つようだ。
その場合、策に頼るよりは力押しを好む。ごり押しで報復を行うことだろう。
「そんな『牙王』は人間の里への攻撃を計画して、妖を集めていたようだ」
鬼頭は説明を続ける。『牙王』はそんな中、『F.i.V.E.』の事件予知能力が強化されたこと。そして、彼の想定以上にコミュニティが大きくなったことが要因で、『群狼』の体制が整わぬまま、戦いを始めざるを得なくなったようだ。
「むろん、放置すれば、近場の里は塵も残さぬレベルで蹂躙されてしまうじゃろうな」
夢見のけいが言えば、それはほぼ起こりうる未来の話。これを事前に止める必要がある。
「『牙王』は別部隊に任せたい。こちらは主に補給を行うこととなるのだが……」
鬼頭の懸念通り、人が集まれば、狙われる可能性が高くなる。鬼頭の指揮する補給部隊に妖の群れがやってくるようなのだ。
「こちらに100体ほどの妖の群れが襲ってくる。基本的には弱い妖が多いが、中にはランク2の個体が数体混じっているようだ。これを撃破し、決戦に臨むメンバーが安全に補給できるよう態勢を整えたい」
幸い、AAAの戦闘部隊に助力を頼むことができる。だが、補給部隊に詰めているのは1小隊、10人程度でしかない。もちろん、全員非覚者である。
また、補給部隊を行う者達は基本、非戦闘員だ。彼らを守りながら戦う必要があるだろう。
「我々が頼みたいことは以上だ。辛い戦いとなるが、よろしく頼む」
「うむ、難しいかもしれぬが、無理はせぬようにな」
鬼頭に続き、けいもまた、覚者達を気遣って労いの言葉をかけるのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.補給部隊の護衛。
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。
奈良県における妖掃討作戦において、
補給部隊を狙う妖の群れの討伐を願います。
●敵……妖の群れ100体ほど。
○下位動物系妖……100体弱。
狼、鹿、犬、猫、鳥、猪、鼠、亀、狸、様々な動物が混在しています。
基本的にはそれぞれの動物のごく普通の見た目に準じています。
そのほとんどがランク1で、
噛み付き、体当たりなど、単体攻撃を主としております。
BSは時に、出血、毒、痺れが飛んできます。
同じ個体が2種以上のBSを使うことはありません。
個々で戦う分にそれほど苦にはならないでしょうが、
何せ物量で攻めてきますので、
布陣などを態勢を固めねばなりません。
○上位動物系妖……3体。
一部ランク2の力を持つ敵が存在します。
総じて他の個体よりも体躯は大きいですが、
様々な動物が入り混じっているので、
多少の対策は必要でしょう。
・烏……1.5メートルほどある、白く大きなカラス。
強襲……物近単・二連・流血
羽根……特遠単・特攻プラス
自己強化……特遠自・物理、特殊の攻防プラス、命中回避マイナス
・猪……4メートルもの巨大なイノシシ。
体当たり……物近単[貫3・100・70・30]
牙……物近単・出血
いななき……特全・弱体
・狼……2.5メートルほどある、黒く大きなオオカミ。
噛み付き……物近単・出血
咆哮……特遠列[貫2・100・50]・混乱
体当たり……物近単
●AAA……鬼頭三等が指揮を執っている補給部隊です。
盆地の平原に陣取っております。
敵に備えられるよう、開けた場所におり、
木々など遮る物は周囲にはありません。
○戦闘部隊……1小隊10名。
ライフル、機関銃で武装しております。
○補給部隊……20名。銃弾の補給や食料、回復などに当たっています。
1ターンこちらに立ち寄ることで、
体力、気力がほんの少しですが回復することができます。
ただ、その間、戦闘行動は一切とることができません。
●重要な備考
≪悪・獣・跋・扈≫のシナリオ成否状況により、奈良盆地の状況が決定します。
これ等の判定は基本的に『難易度が高いシナリオの成否程』重視されますが、『成否に関わらず戦況も加味して』判定されます。
総合的な判定となります。予め御了承下さい。
それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年07月14日
2016年07月14日
■メイン参加者 8人■

●補給部隊を襲う大量の妖
奈良県奈良盆地。
そこは今、妖の気配で溢れている。強い力を近場で感じることはないが、有象無象というべきか。力こそさほど強くはないものの、かなりの数の妖が近づいているのを肌で感じることができる。
この場には、本作戦に臨むメンバーを支援する為、鬼頭三等率いるAAA補給部隊が詰めている。『F.i.V.E.』の覚者はそれを支援する為にこの場へとやってきている。
「やれやれ」
八重霞 頼蔵(CL2000693)は嘆息する。物量で力押しとは、実に愚直な戦法だと。
「しかし、詰りは下策を用いない王道でもあるという事。策も力も、必要十分の数の前には虚しいだけだ」
「質より量、実際有効よね。最も、相手が量に対応出来なければ、だけど」
『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)はそれを認めながらも、その考え方は現代において少し時代遅れなのではないかと考える。大妖などは最たる例だ。
「ふん……奇襲でも仕掛ける気でいたのでしょうけど。人間をあまり舐めないで貰いたいわね」
あからさまに気に入らないと、『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)顔を顰める。妖の思い通りにはさせないと、彼女は表情だけでもそう訴えていた。
そこで、『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)がふと口にする。
「補給部隊を狙うとか、妖の方にも頭いい奴がいるんかな」
後ろには、傷つくメンバーを癒すべく、補給の為に準備を進めるAAAのスタッフの姿がある。ほぼ全員が非覚者であるが、『F.i.V.E.』の覚者達を支援すべくできる限りのことをしてくれている。
「補給部隊は戦いの要……決戦を有利に進める為には、何としても守りきらなくてはなりません」
「決戦で不利にならない為にも、補給部隊を守らないとですね」
『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)はこの人々を危険にさらすわけにはいかないと語る。天野 澄香(CL2000194)もその為に、微力ながら力の限り頑張ると告げた。
(補給部隊が狙われたのが本当に、『人間』を襲っただけなのか。それとも、『補給』の概念を理解しているのか……)
『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)の脳裏にそんな考えが過ぎる。
もしも、後者であるならば……。彼女はそこで、考えるのを止めた。 自身の悪い癖を自覚した事もあるが、少しずつ、こちらへと地響きが近づいていたからだ。
まだ、妖がこちらへ到着するには若干の時間がある。その間に、メンバー達は敵の布陣の確認。そして、こちらの布陣を固め、気持ちを整える。
どうやら、敵は四方から仕掛けてくるわけではない。前方からやってくる大軍のみ。良くも悪くも獣の集団といったところか。
まず、覚者達は敵の布陣を確認する。一方のみから来るというのを確認したエメレンツィア。ただ、多方面から攻め入られる可能性は否定できない為、補給部隊を取り囲むようにして布陣していく。
翔は提案したのは、全体攻撃が使えるメンバーを補給部隊の周囲に展開すること。全体攻撃は、彼を含め、ありす、ラーラ、エメレンツィアが所持している。
この4人を頂点とし、前方の左右にありすと翔、前方の穴を塞ぐように頼蔵と誡女がいる。
頼蔵は相手の数に辟易としながらも襟を正し、気持ちを切り替える。その上で、彼は仲間達の取る布陣を確認し、臨機応変に立ち回ろうと考えていた。
『……奇襲を仕掛けてくる可能性は、考えておきましょう』
かすれた声で仲間にそう促す誡女。敵は正面突破を仕掛けてきているが、隙をついた包囲攻撃の可能性もまだ完全には否めない。彼女は後方も警戒していたようだ。
ありすの提案などもあり、敵が進行してくる方向に布陣を固めるべく、その後ろに渚と澄香、間にAAAの部隊を挟んで、後方にラーラとエメレンツィア。ラーラと渚は距離を開かないようにと補給部隊から見て左翼にいることにしていた。
その布陣を聞いたのは、AAAの部隊を率いる、鬼頭三等だ。
「主に補給部隊に近づく妖、飛行する妖の対処。了解した。諸君の検討を祈る」
『連絡は、こっちのが分かりやすいよな、澄香姉ちゃん』
『ええ、気遣いありがとう、翔くん』
偵察をしていた守護使役の空丸。一緒に空を飛びつつ周囲の状況を確認していた澄香は、いとこでもある翔からの声を聞き、それに賛同していた。
ある程度敵の布陣を調べた澄香は地面へと降りたち、不安がる補給部隊へと声をかける。
「必ず守りますから、安心して下さいね」
その言葉は、これ以上なく部隊員を元気付けていたようだ。
さて、近づいてくる妖の大群。三角形のような布陣で固まり、攻めて来る。先頭は小型の妖が占めていたが、中央には巨大な黒い狼の姿が見える。事前の調べで、後方の左右に巨大な猪と白い烏がいることは調査済みだ。
「なんつー数だよ」
「うわー……、こんなにたくさんの妖相手にするの初めてかも」
「……これは困った、はは。精々磨り潰されん様に気張るとしようか」
翔、『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)はその妖の数に唖然としてしまう。頼蔵もさすがに乾いた笑いを浮かべていた。
(……ふむ、肉食動物と草食動物が共存している得がたい光景ですね)
誡女はそんな中でも唯一冷静に、妖の群れを見ていた。確かに、狼や犬、猫といった肉食系のものから、鼠、狸といった雑食系、さらに鹿などの草食系が紛れている。そういった意味では、妖の力とはいえ、珍しい光景と言えるだろう。
「これは全力でやるしかねーな!」
翔はその数に臆するどころか、意気揚々と覚醒して大人の姿となり、構えを取った。そして、敵が射程に入るのを確認し……。
「みんな纏めて、星の餌食にしてやるぜ!」
翔は空から星のように光の粒を降り注がせ、敵陣へと落とす。それは、広範囲に渡り、牽制の一撃ともなった。
だが、獣達はそれに怯むことなく、一直線に人間達の下へと走ってくる。
「……だけど、大丈夫。私には哀の迷ひ家さんから託された力があります」
ラーラはそうして、戦闘準備を整える。澄香も仲間へと香りを振りまき、治癒力を高めようと動いていた。
その間に、妖は疾走してくる。すでに覚者達の眼前にまで迫ってきていた。
●始まる混戦
人間に向けて攻めてくる妖達。
前面でやってくる犬、猫、猪といった、比較的足の速いものが噛み付き、体当たりを繰り出してくる。
それらの攻撃に対し、誡女は粘りつくような霧を発していく。敵の身体能力を下げた後は、彼女は直接、『双刀・鎬』によって手前の妖へと切り込んでいき、その体に痺れを与えていく。
仲間達は自身の力を高めようと、動く。エメレンツィア、ラーラは英霊の力によって己の力を高めていき、渚は械の因子の力で自身の防御を強化する。
「動物を攻撃するのってちょっと気が引けるけど、仕方ないよね……」
渚はやや戸惑いを見せるが、それで妖となった動物達が止まるわけではないし、倒さねばこちらがやられるだけ。彼女は仕方なく、敵陣へと攻め入る。
光の粒を敵陣へと降り注がせ続ける翔。続き、灼熱化したありすは手前に炎を呼び起こす。
「纏めて焼き払ってあげるわ!」
ありすの声に合わせて炎は大きく広がり、まるで津波のように燃え広がって敵群を飲み込んでいく。これがラーラの言っていた託された力。覚者達も好んでこのスキルを行使する。
それによって、徐々に燃え尽き、あるいは倒れる動物が出始めていたが、まだ1割にも満たない。敵は物量によって前線を突破してくる。
「どれだけ雁首並べようと、全てこの女帝の前に跪かせてあげるわ!」
回復を考えていた後方のエメレンツィア。まだ仲間の被弾が少ないと判断した彼女は、大量の水を呼び寄せて敵陣に浴びせかけた。
とにかく、攻撃を。渚は前方に攻め入り、地を抉るような起動を描きつつ攻撃する。その際の攻撃は注射器。しかしながら、彼女はそれを鈍器として目の前の妖を殴りつけていく。
妖となったことで、動物達は狂ったように人間へと噛み付いてくる。澄香はそれを哀れみの表情で見つめた。
「可哀相……、今、楽にしてあげますからね……」
澄香は前に出て、前面に出てきた獣達の口、仲間が与えた傷口などを狙い、妖の体内へと液体を流し込む。それは危険植物から分泌される毒を、さらに凝縮したもの。その毒に侵された妖は徐々に弱っていく。
その弱った敵を見定め、頼蔵がハンドガンの引き金を引く。銃弾に撃ち抜かれたその動物は大きく跳ねてから地面に転がった。
「一匹だけ、されど一匹だ。確実に数を減らしていこうか」
彼はまた、狙うべき敵を探して妖を見回す。
そこで、後ろから広がる炎が妖を襲う。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
それは、ラーラが呼び起こしたものだ。チーム内でも特殊攻撃に長けた彼女の炎は敵軍を飲み込み、幾体もの動物を燃やし尽くす。
だが、多少の攻撃では妖の大群は止まらない。
妖の大軍と覚者の戦いは続く。
戦いの中でも、翔を介して送受心・改で情報をやり取りしつつ、覚者達は戦いを進めていた。
徐々に妖は減るが、それでも倒れたのは2~3割。比較的体力のなさそうな鼠などの小動物や、真っ先に突っ走ってきた猪などが地面に転がる。
仲間達の全体攻撃によるところも大きいのだが、誡女はエネミースキャンを試み、群れの大多数を占めるランク1の妖に与えるダメージを確認する。それにより、彼女は仲間へと特定的に過剰攻撃を与えぬようにと配慮していた。
ありすが幾度目かの召炎波を放つ。気力はまだ持ちそうだが、多すぎる敵が前線を突破して次々に後ろへとやってくる。
「そっち抜けたわ、よろしく!」
敵が一方向から攻めて来ているおかげで、ありすは周囲を見回す余裕もある。だからこそ、自分達を抜いて後方に攻め入る敵がいることを仲間に主張した。
だが、後方のラーラがそれを許さず、更なる炎の波を大勢の妖へと浴びせかけ、黒焦げにしてしまう。
引いては押し潰される、絡め手の類は無い。攻撃こそは最大の護りと頼蔵は考える。彼は近づいてきた敵へ、炎の柱で妖を焼いて火傷を負わせ、隣の妖を完全に燃やし尽くしてしまう。
「単純な削り合いになるが、それもまた面白い」
これだけの物量となれば、消耗戦となるのは避けられない。妖を全部倒すのが先か、あるいは……。
しかしながら、いつまで続くとも分からぬ妖の攻め。それに危機感を募らせる隊員もAAAの中にいないわけではない。
「大丈夫だよ。私が守ってあげるから。何にも心配することなんてないんだよ」
渚がそんな隊員へと声をかけながらも、襲い来る敵を抑える。彼女はその上で、仲間の疲弊状況を確認しつつ、自身の生命力を光の鳥に変えて飛ばす。
元気付けられたAAAの部隊は、覚者達の事前の依頼通りに空を飛ぶ鳥の妖を狙い、ライフル銃や機関銃で応戦してくれていた。一発で落ちるほどに妖は弱くはないが、銃弾を浴び続ければ、そいつらもぽとり、ぽとりと地面へ落ちていく。彼らの援護射撃は、非常に心強い。
エメレンツィアも戦いが進むことで、回復をメインに動く。渚が単体の回復メインで動いていたこともあり、彼女は癒しの霧を振りまき、仲間達全体の傷を癒そうとしていたようだ。
(それにしても、妖を率いる存在が本当にいるとはね)
回復に当たりながら、エメレンツィアは思う。今回の妖の大軍は、自然発生的な、所謂災害にも似たようなものだと考えていた。
(全ての妖が本格的に組織だって動かれたら、たまったものじゃないわね)
今回の1件が、『牙王』の影響だけであるならばいいのだが……。
●群れに潜む強力な獣
妖は半分くらいにまで減っただろうか。
「ふぅ……何て多さよ。ホントうんざりするわね」
炎の波をさらに放つありすは息をつく。だが、彼女はそんな中、小型の妖に紛れて疾走してくる黒く大きな狼を見た。
「いたわ、狼!」
事前の話では、こいつの咆哮は相手を惑わすのだという。先ほど、前衛メンバーが惑わされかけていた為、仲間から一度距離をとっていたありすだ。こいつだけはいち早く撃破せねばならない。
澄香もそれに気づき、ちらりと後ろの補給部隊に視線を向けた。
「絶対に守ると誓ったのですもの。誰も傷つけさせません!」
少しでも、妖の注意が補給部隊から外れるように。彼女はそう願って狼のいる敵前衛へと毒の液体を飛ばす。
ラーラも炎の波を放つ。だが、彼女は狼を狙ったわけではない。多数の妖の中に狼がいたまでのこと。
「オオオオォォォォゥゥゥ……」
そこで、叫ぶ狼。広範囲に揺さぶるその声に、覚者達は脳を揺さぶられるような感覚を覚える。
しかし、渚、エメレンツィアが素早く、混乱し始めた仲間へと癒しを施す。それもあり、誡女、頼蔵は我を取り戻し、仕掛けていく。
だが、かなりの回数、覚者達の炎を浴びているはず。攻撃を繰り返すうち、程なく狼の息が荒くなり始めた。
「これで終わりよ! 消し炭になりなさい!」
アリスはその黒狼の頭目がけて拳大の火球を二連撃で飛ばす。頭を燃え上がらせた狼が苦しそうにもがいた後、地を這った。
他の敵を狙っていた翔は、狼が倒れたことに少しだけ悔しがる。あの咆哮の威力、相手を惑わす力があったなら、どれだけ今後の活動にプラスになったろうか、と。
ようやく敵の数が減り、ついに敵軍の最後尾が見えてきた。
その両端に、巨大な猪、そして、白い烏の姿がある。
かなり長いこと戦ってはいるが、AAAの部隊とてそれだけで倒れるほど柔な部隊ではない。覚者の善戦に応え、後ろにまで攻め入ってきた妖を銃弾で撃ち抜き、倒して行く。
ラーラは攻撃手段を召雷へと替えていた。横一列に並ぶような布陣となっていれば、こちらの方が効率的と判断していたのだ。
仲間達の疲弊はかなりのもの。誡女も時に体力、気力回復のサポートを挟みつつ、敵へと弱体化の霧を振りまく。
そんな中、烏へと向かった澄香。敵は己の力を高めた後、彼女へと襲い掛かって流血させる。流れ出る血に危機感を覚える澄香だが、渚がしっかりと状態を見てくれていて、生命力が込められた光の鳥を飛ばしてくれた。
飛行しながらの戦いは決して利点ばかりではない。攻撃を喰らえば、それだけで墜落の危険が高まる。
ただ、それは敵とて同じこと。彼女は直接、そいつへと毒液を流し込む。
もだえ苦しむ白い烏。体内に毒が回っていたが、それ以上にそのショックに耐え切れず、地面へと頭から落ちて行ったのだった。
ここまでくれば、あと一息。残る敵はもう10数体にまで減っていた。
しかしながら、依然として巨大な猪が襲い来る。こちらへといなないてくるのも面倒だが、体躯を生かした体当たりはかなり後ろにまで及び、時にAAAの部隊まで痛めつけてくるのだ。
ともあれ、こいつの始末を。頼蔵は猪と、そのそばにいる鹿や狸へと燃え盛る炎を巻き上げる。彼はただ、自身の決めたルーチン通りに攻撃を繰り返す。
ただ、長引く戦いで、頼蔵の気力もそろそろ尽きつつある。尤も、なくなったなら拳銃で撃つのみだが。
とはいえ、猪もまた、幾度となく覚者達が放つ炎を浴びている。覚者に近づいてきたときにはかなり消耗していたのだ。
「いくぜ!」
構えを取った翔が雷雲を呼び起こし、巨大な猪と周辺の妖へと雷を落とす。
「ブヒイイイイイイイイイッ!」
一段と高い声でいなないた猪。そいつもついに横倒しになって崩れ落ちる。
翔が無事だったことを確認し、澄香はほっと胸を撫で下ろしていた。
あらかた攻めてくる妖を討伐した覚者達は、ようやく一息つく。残っていた妖はほぼほぼ、AAAの部隊が始末したようだ。
エメレンツィアはさらに仲間へと癒しを振り撒いていく。まだ先は長い。これから、『牙王』らの決戦に臨むメンバーだっているのだ。
休んでばかりもいられない。補給地点を確保した覚者達は、さらなる戦いへと赴いていく……。
奈良県奈良盆地。
そこは今、妖の気配で溢れている。強い力を近場で感じることはないが、有象無象というべきか。力こそさほど強くはないものの、かなりの数の妖が近づいているのを肌で感じることができる。
この場には、本作戦に臨むメンバーを支援する為、鬼頭三等率いるAAA補給部隊が詰めている。『F.i.V.E.』の覚者はそれを支援する為にこの場へとやってきている。
「やれやれ」
八重霞 頼蔵(CL2000693)は嘆息する。物量で力押しとは、実に愚直な戦法だと。
「しかし、詰りは下策を用いない王道でもあるという事。策も力も、必要十分の数の前には虚しいだけだ」
「質より量、実際有効よね。最も、相手が量に対応出来なければ、だけど」
『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)はそれを認めながらも、その考え方は現代において少し時代遅れなのではないかと考える。大妖などは最たる例だ。
「ふん……奇襲でも仕掛ける気でいたのでしょうけど。人間をあまり舐めないで貰いたいわね」
あからさまに気に入らないと、『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)顔を顰める。妖の思い通りにはさせないと、彼女は表情だけでもそう訴えていた。
そこで、『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)がふと口にする。
「補給部隊を狙うとか、妖の方にも頭いい奴がいるんかな」
後ろには、傷つくメンバーを癒すべく、補給の為に準備を進めるAAAのスタッフの姿がある。ほぼ全員が非覚者であるが、『F.i.V.E.』の覚者達を支援すべくできる限りのことをしてくれている。
「補給部隊は戦いの要……決戦を有利に進める為には、何としても守りきらなくてはなりません」
「決戦で不利にならない為にも、補給部隊を守らないとですね」
『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)はこの人々を危険にさらすわけにはいかないと語る。天野 澄香(CL2000194)もその為に、微力ながら力の限り頑張ると告げた。
(補給部隊が狙われたのが本当に、『人間』を襲っただけなのか。それとも、『補給』の概念を理解しているのか……)
『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)の脳裏にそんな考えが過ぎる。
もしも、後者であるならば……。彼女はそこで、考えるのを止めた。 自身の悪い癖を自覚した事もあるが、少しずつ、こちらへと地響きが近づいていたからだ。
まだ、妖がこちらへ到着するには若干の時間がある。その間に、メンバー達は敵の布陣の確認。そして、こちらの布陣を固め、気持ちを整える。
どうやら、敵は四方から仕掛けてくるわけではない。前方からやってくる大軍のみ。良くも悪くも獣の集団といったところか。
まず、覚者達は敵の布陣を確認する。一方のみから来るというのを確認したエメレンツィア。ただ、多方面から攻め入られる可能性は否定できない為、補給部隊を取り囲むようにして布陣していく。
翔は提案したのは、全体攻撃が使えるメンバーを補給部隊の周囲に展開すること。全体攻撃は、彼を含め、ありす、ラーラ、エメレンツィアが所持している。
この4人を頂点とし、前方の左右にありすと翔、前方の穴を塞ぐように頼蔵と誡女がいる。
頼蔵は相手の数に辟易としながらも襟を正し、気持ちを切り替える。その上で、彼は仲間達の取る布陣を確認し、臨機応変に立ち回ろうと考えていた。
『……奇襲を仕掛けてくる可能性は、考えておきましょう』
かすれた声で仲間にそう促す誡女。敵は正面突破を仕掛けてきているが、隙をついた包囲攻撃の可能性もまだ完全には否めない。彼女は後方も警戒していたようだ。
ありすの提案などもあり、敵が進行してくる方向に布陣を固めるべく、その後ろに渚と澄香、間にAAAの部隊を挟んで、後方にラーラとエメレンツィア。ラーラと渚は距離を開かないようにと補給部隊から見て左翼にいることにしていた。
その布陣を聞いたのは、AAAの部隊を率いる、鬼頭三等だ。
「主に補給部隊に近づく妖、飛行する妖の対処。了解した。諸君の検討を祈る」
『連絡は、こっちのが分かりやすいよな、澄香姉ちゃん』
『ええ、気遣いありがとう、翔くん』
偵察をしていた守護使役の空丸。一緒に空を飛びつつ周囲の状況を確認していた澄香は、いとこでもある翔からの声を聞き、それに賛同していた。
ある程度敵の布陣を調べた澄香は地面へと降りたち、不安がる補給部隊へと声をかける。
「必ず守りますから、安心して下さいね」
その言葉は、これ以上なく部隊員を元気付けていたようだ。
さて、近づいてくる妖の大群。三角形のような布陣で固まり、攻めて来る。先頭は小型の妖が占めていたが、中央には巨大な黒い狼の姿が見える。事前の調べで、後方の左右に巨大な猪と白い烏がいることは調査済みだ。
「なんつー数だよ」
「うわー……、こんなにたくさんの妖相手にするの初めてかも」
「……これは困った、はは。精々磨り潰されん様に気張るとしようか」
翔、『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)はその妖の数に唖然としてしまう。頼蔵もさすがに乾いた笑いを浮かべていた。
(……ふむ、肉食動物と草食動物が共存している得がたい光景ですね)
誡女はそんな中でも唯一冷静に、妖の群れを見ていた。確かに、狼や犬、猫といった肉食系のものから、鼠、狸といった雑食系、さらに鹿などの草食系が紛れている。そういった意味では、妖の力とはいえ、珍しい光景と言えるだろう。
「これは全力でやるしかねーな!」
翔はその数に臆するどころか、意気揚々と覚醒して大人の姿となり、構えを取った。そして、敵が射程に入るのを確認し……。
「みんな纏めて、星の餌食にしてやるぜ!」
翔は空から星のように光の粒を降り注がせ、敵陣へと落とす。それは、広範囲に渡り、牽制の一撃ともなった。
だが、獣達はそれに怯むことなく、一直線に人間達の下へと走ってくる。
「……だけど、大丈夫。私には哀の迷ひ家さんから託された力があります」
ラーラはそうして、戦闘準備を整える。澄香も仲間へと香りを振りまき、治癒力を高めようと動いていた。
その間に、妖は疾走してくる。すでに覚者達の眼前にまで迫ってきていた。
●始まる混戦
人間に向けて攻めてくる妖達。
前面でやってくる犬、猫、猪といった、比較的足の速いものが噛み付き、体当たりを繰り出してくる。
それらの攻撃に対し、誡女は粘りつくような霧を発していく。敵の身体能力を下げた後は、彼女は直接、『双刀・鎬』によって手前の妖へと切り込んでいき、その体に痺れを与えていく。
仲間達は自身の力を高めようと、動く。エメレンツィア、ラーラは英霊の力によって己の力を高めていき、渚は械の因子の力で自身の防御を強化する。
「動物を攻撃するのってちょっと気が引けるけど、仕方ないよね……」
渚はやや戸惑いを見せるが、それで妖となった動物達が止まるわけではないし、倒さねばこちらがやられるだけ。彼女は仕方なく、敵陣へと攻め入る。
光の粒を敵陣へと降り注がせ続ける翔。続き、灼熱化したありすは手前に炎を呼び起こす。
「纏めて焼き払ってあげるわ!」
ありすの声に合わせて炎は大きく広がり、まるで津波のように燃え広がって敵群を飲み込んでいく。これがラーラの言っていた託された力。覚者達も好んでこのスキルを行使する。
それによって、徐々に燃え尽き、あるいは倒れる動物が出始めていたが、まだ1割にも満たない。敵は物量によって前線を突破してくる。
「どれだけ雁首並べようと、全てこの女帝の前に跪かせてあげるわ!」
回復を考えていた後方のエメレンツィア。まだ仲間の被弾が少ないと判断した彼女は、大量の水を呼び寄せて敵陣に浴びせかけた。
とにかく、攻撃を。渚は前方に攻め入り、地を抉るような起動を描きつつ攻撃する。その際の攻撃は注射器。しかしながら、彼女はそれを鈍器として目の前の妖を殴りつけていく。
妖となったことで、動物達は狂ったように人間へと噛み付いてくる。澄香はそれを哀れみの表情で見つめた。
「可哀相……、今、楽にしてあげますからね……」
澄香は前に出て、前面に出てきた獣達の口、仲間が与えた傷口などを狙い、妖の体内へと液体を流し込む。それは危険植物から分泌される毒を、さらに凝縮したもの。その毒に侵された妖は徐々に弱っていく。
その弱った敵を見定め、頼蔵がハンドガンの引き金を引く。銃弾に撃ち抜かれたその動物は大きく跳ねてから地面に転がった。
「一匹だけ、されど一匹だ。確実に数を減らしていこうか」
彼はまた、狙うべき敵を探して妖を見回す。
そこで、後ろから広がる炎が妖を襲う。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
それは、ラーラが呼び起こしたものだ。チーム内でも特殊攻撃に長けた彼女の炎は敵軍を飲み込み、幾体もの動物を燃やし尽くす。
だが、多少の攻撃では妖の大群は止まらない。
妖の大軍と覚者の戦いは続く。
戦いの中でも、翔を介して送受心・改で情報をやり取りしつつ、覚者達は戦いを進めていた。
徐々に妖は減るが、それでも倒れたのは2~3割。比較的体力のなさそうな鼠などの小動物や、真っ先に突っ走ってきた猪などが地面に転がる。
仲間達の全体攻撃によるところも大きいのだが、誡女はエネミースキャンを試み、群れの大多数を占めるランク1の妖に与えるダメージを確認する。それにより、彼女は仲間へと特定的に過剰攻撃を与えぬようにと配慮していた。
ありすが幾度目かの召炎波を放つ。気力はまだ持ちそうだが、多すぎる敵が前線を突破して次々に後ろへとやってくる。
「そっち抜けたわ、よろしく!」
敵が一方向から攻めて来ているおかげで、ありすは周囲を見回す余裕もある。だからこそ、自分達を抜いて後方に攻め入る敵がいることを仲間に主張した。
だが、後方のラーラがそれを許さず、更なる炎の波を大勢の妖へと浴びせかけ、黒焦げにしてしまう。
引いては押し潰される、絡め手の類は無い。攻撃こそは最大の護りと頼蔵は考える。彼は近づいてきた敵へ、炎の柱で妖を焼いて火傷を負わせ、隣の妖を完全に燃やし尽くしてしまう。
「単純な削り合いになるが、それもまた面白い」
これだけの物量となれば、消耗戦となるのは避けられない。妖を全部倒すのが先か、あるいは……。
しかしながら、いつまで続くとも分からぬ妖の攻め。それに危機感を募らせる隊員もAAAの中にいないわけではない。
「大丈夫だよ。私が守ってあげるから。何にも心配することなんてないんだよ」
渚がそんな隊員へと声をかけながらも、襲い来る敵を抑える。彼女はその上で、仲間の疲弊状況を確認しつつ、自身の生命力を光の鳥に変えて飛ばす。
元気付けられたAAAの部隊は、覚者達の事前の依頼通りに空を飛ぶ鳥の妖を狙い、ライフル銃や機関銃で応戦してくれていた。一発で落ちるほどに妖は弱くはないが、銃弾を浴び続ければ、そいつらもぽとり、ぽとりと地面へ落ちていく。彼らの援護射撃は、非常に心強い。
エメレンツィアも戦いが進むことで、回復をメインに動く。渚が単体の回復メインで動いていたこともあり、彼女は癒しの霧を振りまき、仲間達全体の傷を癒そうとしていたようだ。
(それにしても、妖を率いる存在が本当にいるとはね)
回復に当たりながら、エメレンツィアは思う。今回の妖の大軍は、自然発生的な、所謂災害にも似たようなものだと考えていた。
(全ての妖が本格的に組織だって動かれたら、たまったものじゃないわね)
今回の1件が、『牙王』の影響だけであるならばいいのだが……。
●群れに潜む強力な獣
妖は半分くらいにまで減っただろうか。
「ふぅ……何て多さよ。ホントうんざりするわね」
炎の波をさらに放つありすは息をつく。だが、彼女はそんな中、小型の妖に紛れて疾走してくる黒く大きな狼を見た。
「いたわ、狼!」
事前の話では、こいつの咆哮は相手を惑わすのだという。先ほど、前衛メンバーが惑わされかけていた為、仲間から一度距離をとっていたありすだ。こいつだけはいち早く撃破せねばならない。
澄香もそれに気づき、ちらりと後ろの補給部隊に視線を向けた。
「絶対に守ると誓ったのですもの。誰も傷つけさせません!」
少しでも、妖の注意が補給部隊から外れるように。彼女はそう願って狼のいる敵前衛へと毒の液体を飛ばす。
ラーラも炎の波を放つ。だが、彼女は狼を狙ったわけではない。多数の妖の中に狼がいたまでのこと。
「オオオオォォォォゥゥゥ……」
そこで、叫ぶ狼。広範囲に揺さぶるその声に、覚者達は脳を揺さぶられるような感覚を覚える。
しかし、渚、エメレンツィアが素早く、混乱し始めた仲間へと癒しを施す。それもあり、誡女、頼蔵は我を取り戻し、仕掛けていく。
だが、かなりの回数、覚者達の炎を浴びているはず。攻撃を繰り返すうち、程なく狼の息が荒くなり始めた。
「これで終わりよ! 消し炭になりなさい!」
アリスはその黒狼の頭目がけて拳大の火球を二連撃で飛ばす。頭を燃え上がらせた狼が苦しそうにもがいた後、地を這った。
他の敵を狙っていた翔は、狼が倒れたことに少しだけ悔しがる。あの咆哮の威力、相手を惑わす力があったなら、どれだけ今後の活動にプラスになったろうか、と。
ようやく敵の数が減り、ついに敵軍の最後尾が見えてきた。
その両端に、巨大な猪、そして、白い烏の姿がある。
かなり長いこと戦ってはいるが、AAAの部隊とてそれだけで倒れるほど柔な部隊ではない。覚者の善戦に応え、後ろにまで攻め入ってきた妖を銃弾で撃ち抜き、倒して行く。
ラーラは攻撃手段を召雷へと替えていた。横一列に並ぶような布陣となっていれば、こちらの方が効率的と判断していたのだ。
仲間達の疲弊はかなりのもの。誡女も時に体力、気力回復のサポートを挟みつつ、敵へと弱体化の霧を振りまく。
そんな中、烏へと向かった澄香。敵は己の力を高めた後、彼女へと襲い掛かって流血させる。流れ出る血に危機感を覚える澄香だが、渚がしっかりと状態を見てくれていて、生命力が込められた光の鳥を飛ばしてくれた。
飛行しながらの戦いは決して利点ばかりではない。攻撃を喰らえば、それだけで墜落の危険が高まる。
ただ、それは敵とて同じこと。彼女は直接、そいつへと毒液を流し込む。
もだえ苦しむ白い烏。体内に毒が回っていたが、それ以上にそのショックに耐え切れず、地面へと頭から落ちて行ったのだった。
ここまでくれば、あと一息。残る敵はもう10数体にまで減っていた。
しかしながら、依然として巨大な猪が襲い来る。こちらへといなないてくるのも面倒だが、体躯を生かした体当たりはかなり後ろにまで及び、時にAAAの部隊まで痛めつけてくるのだ。
ともあれ、こいつの始末を。頼蔵は猪と、そのそばにいる鹿や狸へと燃え盛る炎を巻き上げる。彼はただ、自身の決めたルーチン通りに攻撃を繰り返す。
ただ、長引く戦いで、頼蔵の気力もそろそろ尽きつつある。尤も、なくなったなら拳銃で撃つのみだが。
とはいえ、猪もまた、幾度となく覚者達が放つ炎を浴びている。覚者に近づいてきたときにはかなり消耗していたのだ。
「いくぜ!」
構えを取った翔が雷雲を呼び起こし、巨大な猪と周辺の妖へと雷を落とす。
「ブヒイイイイイイイイイッ!」
一段と高い声でいなないた猪。そいつもついに横倒しになって崩れ落ちる。
翔が無事だったことを確認し、澄香はほっと胸を撫で下ろしていた。
あらかた攻めてくる妖を討伐した覚者達は、ようやく一息つく。残っていた妖はほぼほぼ、AAAの部隊が始末したようだ。
エメレンツィアはさらに仲間へと癒しを振り撒いていく。まだ先は長い。これから、『牙王』らの決戦に臨むメンバーだっているのだ。
休んでばかりもいられない。補給地点を確保した覚者達は、さらなる戦いへと赴いていく……。

■あとがき■
リプレイ、公開いたします。
敵の大軍を相手に、
本当にお疲れ様でした。
この戦いは前哨戦にしか過ぎませんが、
皆様のおかげで、
補給部隊が無事活動できる土台を作ることができました。
MVPは、
偵察、布陣、戦況の伝達、
そして、攻撃など、
広きにわたって活躍していたあなたへ。
今回は参加していただき、
本当にありがとうございました!
敵の大軍を相手に、
本当にお疲れ様でした。
この戦いは前哨戦にしか過ぎませんが、
皆様のおかげで、
補給部隊が無事活動できる土台を作ることができました。
MVPは、
偵察、布陣、戦況の伝達、
そして、攻撃など、
広きにわたって活躍していたあなたへ。
今回は参加していただき、
本当にありがとうございました!
