河童。或いは、森の奥の合戦。
●真夜中の胡瓜泥棒
山間の、空気と水の美しさを自慢としている小さな村。特産品は胡瓜であった。
特に、6月から9月にかけてこの村で採れる胡瓜は、他所のそれとは比べ物にならないくらいに美味であり、この村の農家の主な収入源でもある。
だが、しかし……。
連日振り続けた雨があがったある日、ある農家の畑から胡瓜が半分ほど消えていた。
被害に遭ったのはその農家だけだったが、翌日も、その翌日も、毎日毎日、村中の畑から胡瓜が消え続けた。
そして四日目、とある畑で奇妙な足跡が発見された。
それは、水鳥に似た足跡だ。水かきと、鋭い爪があるのが足跡から分かる。
だが、サイズが水鳥に比べて明らかに大きかった。
人と同程度、中にはそれよりも大きなものもある。
村中で、足跡の正体は河童だと噂されはじめた頃、ついにそれは見つかった。
連続する胡瓜泥棒に辟易した、村の若者たちが、夜回り中に見つけた。
月の無い夜、畑の中で、胡瓜畑に身を隠すようにして移動する、奇妙な影。背には甲羅、長い腕と、腕に比べると短く、そして太い脚。
人のそれとは違う、緑がかった肌の色が懐中電灯の光に浮き上がる。
「げっ……。見つかった」
と、掠れた声でそう呟いて。
その奇妙な生物……否、河童は畑から数本の胡瓜をもぎ取って、そのままダッシュで森の方へと逃げていった。
驚きを隠せない若者たちは、それを追うことも出来ないでいる。
森の中には、川が流れているはずだ。恐らく河童は、そこへ向かったのだろう。
その夜。
これ以上胡瓜を盗まれては、村の農家は生きていくことは出来ない。
そう判断した村人たちは、若者を中心に、猟銃や農具を武器として河童狩りを執行することに決めたのだった……。
●河童の挑戦状
「かっぱかっぱらったらった……あれ?」
なんて、鼻歌を口ずさみながら久方 万里(nCL2000005)が会議室へとやって来た。
会議室に集まった数名の仲間を見回して、えへん、と薄い胸を張る。
「今回のターゲットは、村の近くに住んでいる河童達だよ☆ 最近、この森へやって来た流浪の群れだね。場所も見つけてあるし、実はお話も取り付けています!」
すごいでしょっ☆ と、威張って見せる万里は、続けて折りたたまれた和紙を懐から取り出した。
どうやら手紙のようだ。
会議室の全員に手紙の内容が見えるように、それを広げて掲げた。
『話は分かった。
我々に危険が迫っていることも承知した。
けれど、我々はこの森から立ち退くつもりはない。
村人たちが攻めてくるのなら、一戦交える心つもりである。
それを否と言うのなら、お前達がかかってこい。
お互い、同じ数だけの代表を出して、決闘といこうじゃないか。
我々が負けた場合、そちらの要求を全面的の飲もう』
と、手紙には記載されている。意外に達筆。書いたのは、河童のうちの誰かだろうか。
「というわけで、河童達の集落で、河童達と決闘をして貰います。お互いに無益な殺生は無し。事故ってあるから、大怪我しても恨まないこと、って感じかな☆」
と、なんとも雑な説明であった。
仲間達のなんとも言えない微妙な視線を受け、万里は慌てて説明を補足する。
「えぇと、一応同じ人数同士の直接対決って感じかな。戦闘のルールは特になし。場所は森の中にある河童達の村の中。あちこちに土俵があるみたいだけど、河童達の趣味かな?」
河童達の集落は決して広くはない。都合20体ほどの群れのようだ。
「河童達は、ノックバック、二連撃、減速の状態異常を付与する攻撃を得意とするみたい。基本的には近接戦闘だけど、割と素早く動くし、跳躍力もあるみたいね。接近戦には慣れているよ」
河童達の中には、体の大きな者もいるようだ。
また、同族故か連携を取るのも得意である。
「まぁ、命がけの戦いってわけじゃないけど、油断したら大怪我するかもね☆ 負けたら、河童VS村人の戦争が始まっちゃうから、なんとしても河童達を負かして、森から出て行ってもらおう」
それじゃあ行ってらっしゃい。
そういって万里は、会議室を後にした。
山間の、空気と水の美しさを自慢としている小さな村。特産品は胡瓜であった。
特に、6月から9月にかけてこの村で採れる胡瓜は、他所のそれとは比べ物にならないくらいに美味であり、この村の農家の主な収入源でもある。
だが、しかし……。
連日振り続けた雨があがったある日、ある農家の畑から胡瓜が半分ほど消えていた。
被害に遭ったのはその農家だけだったが、翌日も、その翌日も、毎日毎日、村中の畑から胡瓜が消え続けた。
そして四日目、とある畑で奇妙な足跡が発見された。
それは、水鳥に似た足跡だ。水かきと、鋭い爪があるのが足跡から分かる。
だが、サイズが水鳥に比べて明らかに大きかった。
人と同程度、中にはそれよりも大きなものもある。
村中で、足跡の正体は河童だと噂されはじめた頃、ついにそれは見つかった。
連続する胡瓜泥棒に辟易した、村の若者たちが、夜回り中に見つけた。
月の無い夜、畑の中で、胡瓜畑に身を隠すようにして移動する、奇妙な影。背には甲羅、長い腕と、腕に比べると短く、そして太い脚。
人のそれとは違う、緑がかった肌の色が懐中電灯の光に浮き上がる。
「げっ……。見つかった」
と、掠れた声でそう呟いて。
その奇妙な生物……否、河童は畑から数本の胡瓜をもぎ取って、そのままダッシュで森の方へと逃げていった。
驚きを隠せない若者たちは、それを追うことも出来ないでいる。
森の中には、川が流れているはずだ。恐らく河童は、そこへ向かったのだろう。
その夜。
これ以上胡瓜を盗まれては、村の農家は生きていくことは出来ない。
そう判断した村人たちは、若者を中心に、猟銃や農具を武器として河童狩りを執行することに決めたのだった……。
●河童の挑戦状
「かっぱかっぱらったらった……あれ?」
なんて、鼻歌を口ずさみながら久方 万里(nCL2000005)が会議室へとやって来た。
会議室に集まった数名の仲間を見回して、えへん、と薄い胸を張る。
「今回のターゲットは、村の近くに住んでいる河童達だよ☆ 最近、この森へやって来た流浪の群れだね。場所も見つけてあるし、実はお話も取り付けています!」
すごいでしょっ☆ と、威張って見せる万里は、続けて折りたたまれた和紙を懐から取り出した。
どうやら手紙のようだ。
会議室の全員に手紙の内容が見えるように、それを広げて掲げた。
『話は分かった。
我々に危険が迫っていることも承知した。
けれど、我々はこの森から立ち退くつもりはない。
村人たちが攻めてくるのなら、一戦交える心つもりである。
それを否と言うのなら、お前達がかかってこい。
お互い、同じ数だけの代表を出して、決闘といこうじゃないか。
我々が負けた場合、そちらの要求を全面的の飲もう』
と、手紙には記載されている。意外に達筆。書いたのは、河童のうちの誰かだろうか。
「というわけで、河童達の集落で、河童達と決闘をして貰います。お互いに無益な殺生は無し。事故ってあるから、大怪我しても恨まないこと、って感じかな☆」
と、なんとも雑な説明であった。
仲間達のなんとも言えない微妙な視線を受け、万里は慌てて説明を補足する。
「えぇと、一応同じ人数同士の直接対決って感じかな。戦闘のルールは特になし。場所は森の中にある河童達の村の中。あちこちに土俵があるみたいだけど、河童達の趣味かな?」
河童達の集落は決して広くはない。都合20体ほどの群れのようだ。
「河童達は、ノックバック、二連撃、減速の状態異常を付与する攻撃を得意とするみたい。基本的には近接戦闘だけど、割と素早く動くし、跳躍力もあるみたいね。接近戦には慣れているよ」
河童達の中には、体の大きな者もいるようだ。
また、同族故か連携を取るのも得意である。
「まぁ、命がけの戦いってわけじゃないけど、油断したら大怪我するかもね☆ 負けたら、河童VS村人の戦争が始まっちゃうから、なんとしても河童達を負かして、森から出て行ってもらおう」
それじゃあ行ってらっしゃい。
そういって万里は、会議室を後にした。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.河童達との合戦に勝利すること
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
今回は、胡瓜を盗む河童達との合戦任務となります。
河童達を負かして、森から出て行ってもらうのが目的となります。
それでは、以下詳細。
●場所
空気と水が綺麗な森の一角。川辺にある河童の集落。
河童達は家を建てないが、川辺や森の中には河童の造った土俵が無数に存在している。
地の利は河童にあると思って行動した方がいいだろう。
川辺は障害物が少なく、足場も安定しているが、水辺である為か河童達に有利。
森の中は、障害物が多く足場が不安定。河童達とはほぼ互角の条件で戦えるだろう。
距離にして、河童の集落の半径500メートル前後が主な戦場となる。
●ターゲット
古妖(河童)×4~8
身長160~210ほどの河童達。群れから選出された選りすぐりの精鋭である。
緑がかった肌と、甲羅。手足の指の間には水かき。頭の皿には水が満ちている。
頭の水をひっくり返しても、暫くは活動できる程度には元気。
長い腕と、太く短い脚が特徴で、接近戦、特に相撲を得意としている。
武器を使うという文化はないようだが、場合によってはこちらの真似をして武器戦闘を行うこともあるかもしれない。
【河童流格闘術】→物近単[減速][二連撃]
それぞれが得意とする近接戦闘。河童流とは言うものの、完全に我流である。
【誇りの一撃】→物近単[ノックB]
渾身の張り手や、打撃。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年07月09日
2016年07月09日
■メイン参加者 8人■

●河童の集落
森の奥、川辺に集う無数の河童。円形に並んだ河童達の輪の中で、8名の男女と8匹の河童が相対していた。
『んじゃあ、合戦といこうじゃねぇの!』
引き締まった体躯を持つ、若い河童がそう告げる。周囲に集った他の河童達が歓声を上げた。
腰の刀を引き抜いて、『天剣の巫女』宮川・エミリ(CL2000045)が告げる。
「殺しはしませんが、理解して貰うまでは少々痛い目を見て頂きます」
河童達とF.i.V.E.の面々はある賭けをしていた。F.i.V.E.が勝てば、河童達はこちらの指示に従うこと、河童達が勝てば今まで通りこの森で自由に暮らすこと。
協議の結果、合戦の開始は集落のある川辺で行うこととなった。
円陣を組んでいた河童達が、思い思いに散っていく。戦いの邪魔にならないように、という配慮だろう。
広い川辺の東西に分かれ、合戦開始の合図を待つ。
「私達が、この勝負に、勝ったら、貴方達には、胡瓜の栽培を、手伝ってもらいますよ」
そう呟いて『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)は岩の鎧を身に纏った。
両陣営の準備が完了したのを確認し、1匹の河童が鐘を手に立ちあがる。
『では、はじめよう!』
かぁん、と。
小気味の良い鐘の音が、合戦の開始を告げた。
●合戦、河童集落
奇声を上げて、数体の河童が駆け出した。砂を蹴り上げ、地面を滑るように迫ってくる。
河童を迎え打つように、『一級ムードメーカー』成瀬 翔(CL2000063)と『燃焼系ギャル』国生 かりん(CL2001391)が跳び出した。
「FIVEの成瀬翔、ただいま見参!」
「川辺だろーが海辺だろーがアタシの火はそう簡単にゃ消せやしねーかんね!」
片手をビシッと、まっすぐに前へ突き出す翔と、3本指を立てた所謂ギャルピースを構えるかりん。2人がポーズを決めるとその背後で大きな爆音と共に炎が爆ぜる。
ポージング爆破。ダメージには繋がらない奇妙なスキルだが、川辺で暮らし炎や爆音に縁のない生活を送っていた河童達には有効だったようだ。跳び出した4匹の河童は「うぉお!」と驚きの声をあげ、踏鞴を踏んで隊列を崩す。
「今回は河童の自業自得な感じよね~。けど、村人達とやり合ったらどっちが勝つにしても死者が出かねないか。それじゃ、死者を出さないために頑張りますか」
「うむ。ワシ等が負ければ、今度は村とカッパの、殺し合いに成りかねぬ。それだけは、絶対に防がねばならぬ」
エルフィリア・ハイランド(CL2000613)と『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)が跳び出した。エルフィリアが両手をひらりと翻すと、掌から零れた花弁が宙を舞う。花弁から香る甘い香りが、河童達の身体能力を弱体化させた。
自身の身に起きた異常に困惑している河童の眼前に、樹香が滑り込み薙刀を振るった。
咄嗟に回避や防御の姿勢をとった河童達を、数体纏めて地面に転がす。
後列に控えていた河童が左右へ別れる。2匹は川へ、1匹は森へと駆け込み、もう1匹はまっすぐに樹香へと接近。薙刀を振り上げた姿勢のままでは回避も防御も間に合わない。
片腕を引き、掌打の体勢をとったまま河童は駆ける。
「負けたら全て要求を飲む、とても単純で解りやすいわねぇ♪ 嫌いじゃないわよん♪ なら、せめてあなた達の土俵で戦っちゃおうかしらねん♪」
薙刀の下を潜り抜け、倒れた河童の甲羅を蹴って『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)は跳んだ。刀を地面に突き刺し、鋭い蹴りの三連撃を河童へと叩き込む。
『ぐっ! 見かけによらず重い蹴り!』
輪廻の蹴りをまともにうけながら、河童は掌打を放つ。
大きな掌で放たれる、加速のついた一撃が輪廻の身体を大きく後方へと弾き飛ばした。
川底を泳ぎ、F.i.V.E.陣営後方へと回り込んだ2匹の河童が水飛沫と共に跳び出した。
水の抵抗などないかのように、水中を自在に泳ぎ、此処まで来たのだ。
相対するのは、二刀を構えた『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)だ。
「さぁ、来たぞ! 相手になるよ!」
刀をまっすぐ天へと向ける。空中に渦巻く黒雲から、地上へ向けて雷が放たれた。落雷は、川から飛び出したばかりの河童達を直撃。2匹の河童を、再び水中へと叩き込んだ。
落雷によって蒸発した川の水が、奏空の視界を白く包む霧と化す。
霧の中を抜け、よろめく河童が奏空の眼前へと駆け込んだ。
片方は、ブレイクダンスのような姿勢で奏空の足元をすくい上げる。
もう片方は、バランスを崩した奏空の胸に鋭い拳の二連撃を叩き込んだ。
「うわぁ!」
川辺に倒れ込んだ奏空を庇うように、土の鎧を纏った祇澄が前へ出る。
2体の河童による連撃を、その場に留まり受け続ける祇澄だが、着実に土の鎧は砕かれていく。
飛び散った土塊が降り注ぐ中、祇澄はその場に膝を突く。好機と見たか、河童は大きく腕を引き、渾身の一撃を放つ姿勢を整えた。
しかし、次の瞬間、祇澄の足元から巨大な岩が土を押しのけ姿を現す。
「私達が、この勝負に、勝ったら、貴方達には、胡瓜の栽培を、手伝ってもらいますよ」
土の鎧に覆われた拳で、巨岩を砕く祇澄。飛び散った岩石が、河童の全身を打ちのめす。
その間に立ちあがった奏空が、祇澄の背を蹴って河童達の間へと斬り込んで行った。左右に振るった二刀を、河童はその頑丈な甲羅と頭の皿で受け止めて見せる。
「要はお互いがお互いを理解し、共に気持ちよく暮らしていければいいわけです」
森の中へと駆け込んだ河童を追ったエミリは、土俵の上で河童と対峙している。
川辺から十数メートルほど奥へ入った場所で河童に追いついたエミリは、河童によって土俵の上へと誘導されたのだ。刀を下段に構え、河童の出方を窺う。
二メートルを超す巨大な河童だ。身体中に刻まれた傷跡が、エミリに威圧感を与える。
「その為には、あなた達もやはり労働をし、その成果として胡瓜を頂く等、これからの古妖の生き方は変わるべきだと思います。お互いに痛い目を見るのはやはり嫌なものでしょう?」
そう告げるエミリを一瞥し、河童は可笑しそうに笑う。
『俺達河童は、同族同士で殺しあいなんて滅多にしない。人間はどうだ? 昔から今まで、同族同士で殺しあっていると聞く。肌の色の違い程度でいがみ合うような連中が、見た目の違う俺達を受け入れてくれると思うか?』
話しは終わりだ、と河童は低く腰を降ろした。土俵の上で相撲を取る姿勢だ。地面に拳を突き、前傾姿勢。エミリが刀を構えたと見るや、力強く地面を蹴って、弾丸のように跳び出した。
「くっ!」
加速の付いたぶちかましを、エミリは紙一重で回避する。回避した勢いそのままに、体を捻って河童目がけて刀の一撃。河童はそれを甲羅で受け止め、エミリの脇へと掌打を叩き込んだ。
肺の空気が押し出され、一瞬視界が白に染まる。
唇を噛みしめ、意識を繋ぎエミリは後退。追ってくる河童の眼前に、刀の切っ先を突きつける。
河童は避けない。僅かに顔を逸らすことで、直撃を避けて距離を詰める。刀に頬を切り裂かれながらも、一瞬たりともエミリからは視線を外さなかった。
二度めのぶちかましがエミリの胸に直撃。
弾き飛ばされながらも、エミリは刀を振るい河童の胸に2発連続で斬撃を叩き込んだ。
土俵際ギリギリで踏み止まったエミリは、呼吸を整える暇もなく刀を構える。河童はそれを楽しげに眺めていた。
『お前、いい奴だな』
土俵の上で戦っているとはいえ、これは相撲ではないのだ。河童に合わせて、エミリが土俵から降りない理由はない。
土俵に敷かれた縄の存在と、知識としてある相撲のルールが、エミリを土俵内に留まらせていた。
つまるところ……。
土俵から出たら負け、と無意識に体が認識してしまうのだった。
「キュウリ欲しいなら村のためにちっとは働きなさいなっての。アタシですら欲しいモンあったらごくたまにはバイトすっぞコラ!」
醒の炎の身体能力を強化したかりんが地面をひと蹴り。かりんの足元から、火炎の柱が噴き上がる。
「そうそう。泥棒はダメだろ。きゅうりが欲しけりゃ働けよ!」
火柱に怯んだ河童達へ向け、翔は雷獣を放つ。放電しながら疾駆する雷獣を、河童は2体がかりで押し止め、その顔面に拳を叩きこむことで打ち消して見せた。
無傷とはいかなかったようで、河童達の腕は焼けている。痛みに顔をしかめつつも、何処か楽しげに河童は雄叫びをあげている。
「うおっ! なにすんだ、放せって!」
『おう、すぐに放してやるぜ』
近くにいたかりんの身体を持ち上げると、それを力任せに翔目がけて投げつけた。
「うぁっ!」
「わわっ!」
縺れあって倒れるかりんと翔を一瞥し、河童は笑う。
楽しくて仕方ないとでも言うように。
「こう直接攻めるにはアタシは非力なんだけどね~。その分、手数で攻めさせて貰うけど!」
突風の如き加速をもって、エルフィリアは河童達の間を駆け抜ける。鋭く振った鞭が、河童の腕や脚を強かに打ちのめす。
ダメージこそ大きくはないものの、鞭による連打は少しずつ、しかし確実に河童達の体力をすり減らしていく。
「檜山樹香、ここにありじゃよ。さあ、ひとつ気合いをいれて往くとしようぞ」
エルフィリアに気をとられた河童の眼前に、樹香が迫る。名乗りと共に、地上から空へ向け、薙刀が一閃。河童はそれを後退して回避すると、逆に薙刀を掴んで見せた。
『おぉら!』
薙刀ごと樹香の身体を引き付ける。カウンター気味に樹香の胸へと拳を叩き込む。咳き込みながら、樹香の身体は後方へと弾き飛ばされた。口の端から血が零れる。
『次はお前だ!』
1匹の河童が、エルフィリアの放った鞭を掴むと、それを強く引っ張った。バランスを崩したエルフィリアの懐へ別の河童が潜り込む。
『すばしっこいのは苦手なんだ』
エルフィリアの腹部を河童が殴りつけようとしたその瞬間。
「面白い戦い方をするのねん♪ 格闘を得意とする身としてはやっぱり気になっちゃうのよねん♪」
体から蒸気を燻らせながら、輪廻が間に割り込んだ。灼熱化による身体強化によって、輪廻は河童の拳を叩き、逸らすことでエルフィリアへの直撃を防ぐ。
河童の側頭部目がけ、輪廻は鋭く拳を放った。目にも止まらぬ三連撃を、河童は仰向けに地面に寝転がることで回避してみせた。
そのまま甲羅を支点にして、回転。
足刀で、エルフィリアと輪廻を牽制。二人が河童から離れたところで「あらよっ」と一言、立ちあがった。ブレイクダンスのような動きをする身軽な河童だ。
そのまま高く、頭上へ跳んだ。
エルフィリアの鞭が、輪廻の放った水弾が、跳んだ河童へ命中するが、意にも介さず河童は素早く空中で姿勢を反転。川に跳び込むかのようなポーズで、輪廻目がけて降って来た。
重力による加速に、全体重を乗せたヘッドバットが輪廻の眉間に激突する。
「い、ったぁぁぃ!」
『強烈だろっ!』
輪廻も河童も、頭を強く打ったせいか、ふらふらとよろめき足取りは覚束ないようだ。
●夕暮れ。そして、合戦の終わり。
森の中、土俵の上でエミリの刀と河童の掌打が打ち交わされる。鍛え上げられた河童の皮膚は、エミリの刃をそうやすやすとは通さない。
力で押す河童と、刀の鋭さと斬撃の速度で応戦するエミリ。一進一退の攻防を続けていた両者だが、お互いに満身創痍。
「そちらにはそちらの事情があるのでしょうが、種族を超えて、思いやる心が大切だと思いますよ」
『そういうのは勝ってからにしてくれや』
荒い呼吸を繰り返す河童とエミリ。一瞬の静寂。呼吸も、木々のざわめきも止まり、無音。
ざっ、と。
土を蹴る音。駆け出したのは河童であった。呼吸を止めて、一瞬でエミリとの間合いを詰める。
渾身の張り手が放たれた、その瞬間。
「水中から炙り出すのに使う予定だったのですが」
2人の間に黒雲が集まる。次いで、轟音と共に落雷。飛び散った土石が視界を塞ぐ。僅かに怯んだ河童の真横をエミリが駆け抜ける。
自身のダメージを最小限に、様子を窺いながらMPを温存して立ちまわっていたエミリが、ここに来て攻勢に全力を傾けた。
擦れ違い様に河童の鳩尾と首裏に打ち込んだ二連撃が、河童の意識を刈り取った。
「勝負が終われば、私達もあなた達にこれ以上干渉することもありません。勿論、この場所がもう嫌なら我々FIVEの村にどうぞ」
そう告げて、エミリは土俵に背を預け、座り込んだ。
2体の河童を相手取る奏空と祇澄は、戦闘を優勢に進めていた。
しかし、接近戦を得意とする河童達に懐へ潜られたことと、すぐ傍に川があることが災いし、勝負を決められないでいる。
「その皿を、乾かして、差し上げます!」
祇澄の右腕が鋼鉄へと変わる。河童の打撃に合わせ、その頬目がけてカウンター気味に拳を叩き込んだ。
河童の拳が祇澄の頬へ、祇澄の拳が河童の頬へと直撃した。両者大きくよろめいて、踏鞴を踏む。にやり、と河童が笑った気がした。
祇澄の背筋に寒気が走る。下手をすれば大怪我、一歩間違えれば死んでしまうような真剣勝負の中、河童は楽しそうに笑っているのだ。
反射的に、祇澄は再度鋼の拳を突き出した。
河童の放った拳と、祇澄の拳が交差。再度互いに殴り合い、そこから先は打撃の応酬。
血と汗の飛び散る殴り合いを横目に見ながら、奏空は後退。それを追って、もう1体の河童が前へ出る。
「俺は……人と古妖が共存できる世の中が増えればいいなって思ってる」
『俺達は、自由に生きたいと思ってる。人間は俺達の住む場所を自由に奪って行くだろ?』
「だったら、ファイブ村へおいでよ。もちろん労働は必要だけどね」
『俺達に勝ったら、長老にでも言ってくれ。なに、半数以上倒せば、そっちの勝ちだ!』
奏空の放った二連撃を、地面に伏せて河童は回避。腕の力だけで逆立ちすると、そのまま奏空の顎を蹴り上げた。
奏空の身体が宙へ浮く。河童はその場で宙返り。真下からアッパーを放つが、奏空はそれを刀の柄で受け止めた。ギシ、と骨の軋む音。痛みに思わず腕を引いた河童の両肩に、刀による二連撃を叩きこむ。河童の肩が切り裂かれ血が飛び散った。
河童は笑う。奏空は、引きつった笑みを返す。肩を切られた河童は、鋭い足刀を奏空の脚へと叩き込んだ。奏空は地面に膝を突いた。奏空の側頭部目がけ、河童の蹴りが打ちこまれた。
奏空は、地面に伏せてそれを回避。河童の足元をすくいあげるように刀を一振り。
河童と奏空は、踊るように前後しながら蹴りと斬撃を打ち合っていた。血が飛び散る。地面が抉れ、土が飛び散る。激しく打ち合いながら、いつ終わるとも分からない戦いを続ける。
もうすぐ、日が暮れる。西の空が赤く染まる。山の向こうへ沈む夕日に照らされて、輪廻はゆらりと体を揺らす。輪廻目がけて、飛び蹴りを放った河童の脚を、輪廻は片手でするりと受け流した。
驚愕に目を見開く河童。他者を魅了する蠱惑的な笑みを浮かべ、輪廻は河童の腹部、胸、喉元に鋭い手刀の三連撃を叩き込んだ。
白目を剥き河童は地面に倒れ込む。
「楽しかったわ。ありがとねん♪」
河童達の動きが、目に見えて鈍くなる。
毒に痺れ、負荷や弱体。エルフィリアの付与する状態異常のオンパレードが、着実に河童達の戦力を削いでいく。一撃のダメージこそ低いが、長期戦になればなるほどにアドバンテージを稼げる。それがエルフィリアの戦略だ。
河童達が、自分の身に起こった異変に気付き始めた頃、翔とかりんは好機と見て前へ跳び出す。
「ここで河童達に勝利すれば文句もないでしょ」
エルフィリアが、滑るようにして戦線から離脱する。河童達の左右から、翔とかりんが挟み打ちをかけた。左右からの同時攻撃に、どちらへ注意を向ければいいか分からず、河童達は混乱している。
「人に迷惑掛けなきゃ共存できると思うんだよな」
翔の放った雷獣が、河童達の身体を貫いた。感電し痙攣する河童達に、かりんが追撃。雷獣が駆け抜け、放電と共に消えていく。
雷獣が消えると同時に、かりんが駆け出した。
河童達の間をすり抜けるようにしながら、地面に封魔針を突き刺し、空中に呪符をばら撒いていく。河童達の動きをまねて、踊るように跳びはね、地面を転がり、腕の力だけで跳ね上がる。そうして一直線に河童達の間を駆け抜けると、パチンと指を鳴らしてみせた。
「尻小玉のほうは取んないの?」
瞬間、火炎の柱が空へと昇る。
火柱が消えると河童達の目前には、大きく薙刀を振りかぶった樹香の姿。
くすり、と小さく微笑んで樹香は一歩、踏み出した。
「これで終わりじゃな、お前様方。存分に戦えたろう?」
渾身の力を持って、下段から上段へ向け切り上げる。
河童達は、一人、また一人とその場に倒れ込む。
日が沈み、夜が訪れた。5体の河童が地に伏したその時、再度川辺に、大きな鐘の音が鳴り響く。
『村人と交渉してくれていたみたいだが、生憎と俺達は人間があまり好きじゃない。ファイブ村と言ったか? そこへ行こうと思うよ』
傷を負った者の治療を終え、河童達の話しあう。
正当な条件での勝負だったためか、河童達の中に文句を言う者は誰も居なかった。
その日のうちに、河童達は川辺を後にする。それを見送り、F.i.V.Eの面々もまた事情を説明する為に村へと引き返していく。
夜が終わり、朝が来る。
胡瓜の盗まれることのない、久方ぶりの朝が。
森の奥、川辺に集う無数の河童。円形に並んだ河童達の輪の中で、8名の男女と8匹の河童が相対していた。
『んじゃあ、合戦といこうじゃねぇの!』
引き締まった体躯を持つ、若い河童がそう告げる。周囲に集った他の河童達が歓声を上げた。
腰の刀を引き抜いて、『天剣の巫女』宮川・エミリ(CL2000045)が告げる。
「殺しはしませんが、理解して貰うまでは少々痛い目を見て頂きます」
河童達とF.i.V.E.の面々はある賭けをしていた。F.i.V.E.が勝てば、河童達はこちらの指示に従うこと、河童達が勝てば今まで通りこの森で自由に暮らすこと。
協議の結果、合戦の開始は集落のある川辺で行うこととなった。
円陣を組んでいた河童達が、思い思いに散っていく。戦いの邪魔にならないように、という配慮だろう。
広い川辺の東西に分かれ、合戦開始の合図を待つ。
「私達が、この勝負に、勝ったら、貴方達には、胡瓜の栽培を、手伝ってもらいますよ」
そう呟いて『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)は岩の鎧を身に纏った。
両陣営の準備が完了したのを確認し、1匹の河童が鐘を手に立ちあがる。
『では、はじめよう!』
かぁん、と。
小気味の良い鐘の音が、合戦の開始を告げた。
●合戦、河童集落
奇声を上げて、数体の河童が駆け出した。砂を蹴り上げ、地面を滑るように迫ってくる。
河童を迎え打つように、『一級ムードメーカー』成瀬 翔(CL2000063)と『燃焼系ギャル』国生 かりん(CL2001391)が跳び出した。
「FIVEの成瀬翔、ただいま見参!」
「川辺だろーが海辺だろーがアタシの火はそう簡単にゃ消せやしねーかんね!」
片手をビシッと、まっすぐに前へ突き出す翔と、3本指を立てた所謂ギャルピースを構えるかりん。2人がポーズを決めるとその背後で大きな爆音と共に炎が爆ぜる。
ポージング爆破。ダメージには繋がらない奇妙なスキルだが、川辺で暮らし炎や爆音に縁のない生活を送っていた河童達には有効だったようだ。跳び出した4匹の河童は「うぉお!」と驚きの声をあげ、踏鞴を踏んで隊列を崩す。
「今回は河童の自業自得な感じよね~。けど、村人達とやり合ったらどっちが勝つにしても死者が出かねないか。それじゃ、死者を出さないために頑張りますか」
「うむ。ワシ等が負ければ、今度は村とカッパの、殺し合いに成りかねぬ。それだけは、絶対に防がねばならぬ」
エルフィリア・ハイランド(CL2000613)と『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)が跳び出した。エルフィリアが両手をひらりと翻すと、掌から零れた花弁が宙を舞う。花弁から香る甘い香りが、河童達の身体能力を弱体化させた。
自身の身に起きた異常に困惑している河童の眼前に、樹香が滑り込み薙刀を振るった。
咄嗟に回避や防御の姿勢をとった河童達を、数体纏めて地面に転がす。
後列に控えていた河童が左右へ別れる。2匹は川へ、1匹は森へと駆け込み、もう1匹はまっすぐに樹香へと接近。薙刀を振り上げた姿勢のままでは回避も防御も間に合わない。
片腕を引き、掌打の体勢をとったまま河童は駆ける。
「負けたら全て要求を飲む、とても単純で解りやすいわねぇ♪ 嫌いじゃないわよん♪ なら、せめてあなた達の土俵で戦っちゃおうかしらねん♪」
薙刀の下を潜り抜け、倒れた河童の甲羅を蹴って『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)は跳んだ。刀を地面に突き刺し、鋭い蹴りの三連撃を河童へと叩き込む。
『ぐっ! 見かけによらず重い蹴り!』
輪廻の蹴りをまともにうけながら、河童は掌打を放つ。
大きな掌で放たれる、加速のついた一撃が輪廻の身体を大きく後方へと弾き飛ばした。
川底を泳ぎ、F.i.V.E.陣営後方へと回り込んだ2匹の河童が水飛沫と共に跳び出した。
水の抵抗などないかのように、水中を自在に泳ぎ、此処まで来たのだ。
相対するのは、二刀を構えた『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)だ。
「さぁ、来たぞ! 相手になるよ!」
刀をまっすぐ天へと向ける。空中に渦巻く黒雲から、地上へ向けて雷が放たれた。落雷は、川から飛び出したばかりの河童達を直撃。2匹の河童を、再び水中へと叩き込んだ。
落雷によって蒸発した川の水が、奏空の視界を白く包む霧と化す。
霧の中を抜け、よろめく河童が奏空の眼前へと駆け込んだ。
片方は、ブレイクダンスのような姿勢で奏空の足元をすくい上げる。
もう片方は、バランスを崩した奏空の胸に鋭い拳の二連撃を叩き込んだ。
「うわぁ!」
川辺に倒れ込んだ奏空を庇うように、土の鎧を纏った祇澄が前へ出る。
2体の河童による連撃を、その場に留まり受け続ける祇澄だが、着実に土の鎧は砕かれていく。
飛び散った土塊が降り注ぐ中、祇澄はその場に膝を突く。好機と見たか、河童は大きく腕を引き、渾身の一撃を放つ姿勢を整えた。
しかし、次の瞬間、祇澄の足元から巨大な岩が土を押しのけ姿を現す。
「私達が、この勝負に、勝ったら、貴方達には、胡瓜の栽培を、手伝ってもらいますよ」
土の鎧に覆われた拳で、巨岩を砕く祇澄。飛び散った岩石が、河童の全身を打ちのめす。
その間に立ちあがった奏空が、祇澄の背を蹴って河童達の間へと斬り込んで行った。左右に振るった二刀を、河童はその頑丈な甲羅と頭の皿で受け止めて見せる。
「要はお互いがお互いを理解し、共に気持ちよく暮らしていければいいわけです」
森の中へと駆け込んだ河童を追ったエミリは、土俵の上で河童と対峙している。
川辺から十数メートルほど奥へ入った場所で河童に追いついたエミリは、河童によって土俵の上へと誘導されたのだ。刀を下段に構え、河童の出方を窺う。
二メートルを超す巨大な河童だ。身体中に刻まれた傷跡が、エミリに威圧感を与える。
「その為には、あなた達もやはり労働をし、その成果として胡瓜を頂く等、これからの古妖の生き方は変わるべきだと思います。お互いに痛い目を見るのはやはり嫌なものでしょう?」
そう告げるエミリを一瞥し、河童は可笑しそうに笑う。
『俺達河童は、同族同士で殺しあいなんて滅多にしない。人間はどうだ? 昔から今まで、同族同士で殺しあっていると聞く。肌の色の違い程度でいがみ合うような連中が、見た目の違う俺達を受け入れてくれると思うか?』
話しは終わりだ、と河童は低く腰を降ろした。土俵の上で相撲を取る姿勢だ。地面に拳を突き、前傾姿勢。エミリが刀を構えたと見るや、力強く地面を蹴って、弾丸のように跳び出した。
「くっ!」
加速の付いたぶちかましを、エミリは紙一重で回避する。回避した勢いそのままに、体を捻って河童目がけて刀の一撃。河童はそれを甲羅で受け止め、エミリの脇へと掌打を叩き込んだ。
肺の空気が押し出され、一瞬視界が白に染まる。
唇を噛みしめ、意識を繋ぎエミリは後退。追ってくる河童の眼前に、刀の切っ先を突きつける。
河童は避けない。僅かに顔を逸らすことで、直撃を避けて距離を詰める。刀に頬を切り裂かれながらも、一瞬たりともエミリからは視線を外さなかった。
二度めのぶちかましがエミリの胸に直撃。
弾き飛ばされながらも、エミリは刀を振るい河童の胸に2発連続で斬撃を叩き込んだ。
土俵際ギリギリで踏み止まったエミリは、呼吸を整える暇もなく刀を構える。河童はそれを楽しげに眺めていた。
『お前、いい奴だな』
土俵の上で戦っているとはいえ、これは相撲ではないのだ。河童に合わせて、エミリが土俵から降りない理由はない。
土俵に敷かれた縄の存在と、知識としてある相撲のルールが、エミリを土俵内に留まらせていた。
つまるところ……。
土俵から出たら負け、と無意識に体が認識してしまうのだった。
「キュウリ欲しいなら村のためにちっとは働きなさいなっての。アタシですら欲しいモンあったらごくたまにはバイトすっぞコラ!」
醒の炎の身体能力を強化したかりんが地面をひと蹴り。かりんの足元から、火炎の柱が噴き上がる。
「そうそう。泥棒はダメだろ。きゅうりが欲しけりゃ働けよ!」
火柱に怯んだ河童達へ向け、翔は雷獣を放つ。放電しながら疾駆する雷獣を、河童は2体がかりで押し止め、その顔面に拳を叩きこむことで打ち消して見せた。
無傷とはいかなかったようで、河童達の腕は焼けている。痛みに顔をしかめつつも、何処か楽しげに河童は雄叫びをあげている。
「うおっ! なにすんだ、放せって!」
『おう、すぐに放してやるぜ』
近くにいたかりんの身体を持ち上げると、それを力任せに翔目がけて投げつけた。
「うぁっ!」
「わわっ!」
縺れあって倒れるかりんと翔を一瞥し、河童は笑う。
楽しくて仕方ないとでも言うように。
「こう直接攻めるにはアタシは非力なんだけどね~。その分、手数で攻めさせて貰うけど!」
突風の如き加速をもって、エルフィリアは河童達の間を駆け抜ける。鋭く振った鞭が、河童の腕や脚を強かに打ちのめす。
ダメージこそ大きくはないものの、鞭による連打は少しずつ、しかし確実に河童達の体力をすり減らしていく。
「檜山樹香、ここにありじゃよ。さあ、ひとつ気合いをいれて往くとしようぞ」
エルフィリアに気をとられた河童の眼前に、樹香が迫る。名乗りと共に、地上から空へ向け、薙刀が一閃。河童はそれを後退して回避すると、逆に薙刀を掴んで見せた。
『おぉら!』
薙刀ごと樹香の身体を引き付ける。カウンター気味に樹香の胸へと拳を叩き込む。咳き込みながら、樹香の身体は後方へと弾き飛ばされた。口の端から血が零れる。
『次はお前だ!』
1匹の河童が、エルフィリアの放った鞭を掴むと、それを強く引っ張った。バランスを崩したエルフィリアの懐へ別の河童が潜り込む。
『すばしっこいのは苦手なんだ』
エルフィリアの腹部を河童が殴りつけようとしたその瞬間。
「面白い戦い方をするのねん♪ 格闘を得意とする身としてはやっぱり気になっちゃうのよねん♪」
体から蒸気を燻らせながら、輪廻が間に割り込んだ。灼熱化による身体強化によって、輪廻は河童の拳を叩き、逸らすことでエルフィリアへの直撃を防ぐ。
河童の側頭部目がけ、輪廻は鋭く拳を放った。目にも止まらぬ三連撃を、河童は仰向けに地面に寝転がることで回避してみせた。
そのまま甲羅を支点にして、回転。
足刀で、エルフィリアと輪廻を牽制。二人が河童から離れたところで「あらよっ」と一言、立ちあがった。ブレイクダンスのような動きをする身軽な河童だ。
そのまま高く、頭上へ跳んだ。
エルフィリアの鞭が、輪廻の放った水弾が、跳んだ河童へ命中するが、意にも介さず河童は素早く空中で姿勢を反転。川に跳び込むかのようなポーズで、輪廻目がけて降って来た。
重力による加速に、全体重を乗せたヘッドバットが輪廻の眉間に激突する。
「い、ったぁぁぃ!」
『強烈だろっ!』
輪廻も河童も、頭を強く打ったせいか、ふらふらとよろめき足取りは覚束ないようだ。
●夕暮れ。そして、合戦の終わり。
森の中、土俵の上でエミリの刀と河童の掌打が打ち交わされる。鍛え上げられた河童の皮膚は、エミリの刃をそうやすやすとは通さない。
力で押す河童と、刀の鋭さと斬撃の速度で応戦するエミリ。一進一退の攻防を続けていた両者だが、お互いに満身創痍。
「そちらにはそちらの事情があるのでしょうが、種族を超えて、思いやる心が大切だと思いますよ」
『そういうのは勝ってからにしてくれや』
荒い呼吸を繰り返す河童とエミリ。一瞬の静寂。呼吸も、木々のざわめきも止まり、無音。
ざっ、と。
土を蹴る音。駆け出したのは河童であった。呼吸を止めて、一瞬でエミリとの間合いを詰める。
渾身の張り手が放たれた、その瞬間。
「水中から炙り出すのに使う予定だったのですが」
2人の間に黒雲が集まる。次いで、轟音と共に落雷。飛び散った土石が視界を塞ぐ。僅かに怯んだ河童の真横をエミリが駆け抜ける。
自身のダメージを最小限に、様子を窺いながらMPを温存して立ちまわっていたエミリが、ここに来て攻勢に全力を傾けた。
擦れ違い様に河童の鳩尾と首裏に打ち込んだ二連撃が、河童の意識を刈り取った。
「勝負が終われば、私達もあなた達にこれ以上干渉することもありません。勿論、この場所がもう嫌なら我々FIVEの村にどうぞ」
そう告げて、エミリは土俵に背を預け、座り込んだ。
2体の河童を相手取る奏空と祇澄は、戦闘を優勢に進めていた。
しかし、接近戦を得意とする河童達に懐へ潜られたことと、すぐ傍に川があることが災いし、勝負を決められないでいる。
「その皿を、乾かして、差し上げます!」
祇澄の右腕が鋼鉄へと変わる。河童の打撃に合わせ、その頬目がけてカウンター気味に拳を叩き込んだ。
河童の拳が祇澄の頬へ、祇澄の拳が河童の頬へと直撃した。両者大きくよろめいて、踏鞴を踏む。にやり、と河童が笑った気がした。
祇澄の背筋に寒気が走る。下手をすれば大怪我、一歩間違えれば死んでしまうような真剣勝負の中、河童は楽しそうに笑っているのだ。
反射的に、祇澄は再度鋼の拳を突き出した。
河童の放った拳と、祇澄の拳が交差。再度互いに殴り合い、そこから先は打撃の応酬。
血と汗の飛び散る殴り合いを横目に見ながら、奏空は後退。それを追って、もう1体の河童が前へ出る。
「俺は……人と古妖が共存できる世の中が増えればいいなって思ってる」
『俺達は、自由に生きたいと思ってる。人間は俺達の住む場所を自由に奪って行くだろ?』
「だったら、ファイブ村へおいでよ。もちろん労働は必要だけどね」
『俺達に勝ったら、長老にでも言ってくれ。なに、半数以上倒せば、そっちの勝ちだ!』
奏空の放った二連撃を、地面に伏せて河童は回避。腕の力だけで逆立ちすると、そのまま奏空の顎を蹴り上げた。
奏空の身体が宙へ浮く。河童はその場で宙返り。真下からアッパーを放つが、奏空はそれを刀の柄で受け止めた。ギシ、と骨の軋む音。痛みに思わず腕を引いた河童の両肩に、刀による二連撃を叩きこむ。河童の肩が切り裂かれ血が飛び散った。
河童は笑う。奏空は、引きつった笑みを返す。肩を切られた河童は、鋭い足刀を奏空の脚へと叩き込んだ。奏空は地面に膝を突いた。奏空の側頭部目がけ、河童の蹴りが打ちこまれた。
奏空は、地面に伏せてそれを回避。河童の足元をすくいあげるように刀を一振り。
河童と奏空は、踊るように前後しながら蹴りと斬撃を打ち合っていた。血が飛び散る。地面が抉れ、土が飛び散る。激しく打ち合いながら、いつ終わるとも分からない戦いを続ける。
もうすぐ、日が暮れる。西の空が赤く染まる。山の向こうへ沈む夕日に照らされて、輪廻はゆらりと体を揺らす。輪廻目がけて、飛び蹴りを放った河童の脚を、輪廻は片手でするりと受け流した。
驚愕に目を見開く河童。他者を魅了する蠱惑的な笑みを浮かべ、輪廻は河童の腹部、胸、喉元に鋭い手刀の三連撃を叩き込んだ。
白目を剥き河童は地面に倒れ込む。
「楽しかったわ。ありがとねん♪」
河童達の動きが、目に見えて鈍くなる。
毒に痺れ、負荷や弱体。エルフィリアの付与する状態異常のオンパレードが、着実に河童達の戦力を削いでいく。一撃のダメージこそ低いが、長期戦になればなるほどにアドバンテージを稼げる。それがエルフィリアの戦略だ。
河童達が、自分の身に起こった異変に気付き始めた頃、翔とかりんは好機と見て前へ跳び出す。
「ここで河童達に勝利すれば文句もないでしょ」
エルフィリアが、滑るようにして戦線から離脱する。河童達の左右から、翔とかりんが挟み打ちをかけた。左右からの同時攻撃に、どちらへ注意を向ければいいか分からず、河童達は混乱している。
「人に迷惑掛けなきゃ共存できると思うんだよな」
翔の放った雷獣が、河童達の身体を貫いた。感電し痙攣する河童達に、かりんが追撃。雷獣が駆け抜け、放電と共に消えていく。
雷獣が消えると同時に、かりんが駆け出した。
河童達の間をすり抜けるようにしながら、地面に封魔針を突き刺し、空中に呪符をばら撒いていく。河童達の動きをまねて、踊るように跳びはね、地面を転がり、腕の力だけで跳ね上がる。そうして一直線に河童達の間を駆け抜けると、パチンと指を鳴らしてみせた。
「尻小玉のほうは取んないの?」
瞬間、火炎の柱が空へと昇る。
火柱が消えると河童達の目前には、大きく薙刀を振りかぶった樹香の姿。
くすり、と小さく微笑んで樹香は一歩、踏み出した。
「これで終わりじゃな、お前様方。存分に戦えたろう?」
渾身の力を持って、下段から上段へ向け切り上げる。
河童達は、一人、また一人とその場に倒れ込む。
日が沈み、夜が訪れた。5体の河童が地に伏したその時、再度川辺に、大きな鐘の音が鳴り響く。
『村人と交渉してくれていたみたいだが、生憎と俺達は人間があまり好きじゃない。ファイブ村と言ったか? そこへ行こうと思うよ』
傷を負った者の治療を終え、河童達の話しあう。
正当な条件での勝負だったためか、河童達の中に文句を言う者は誰も居なかった。
その日のうちに、河童達は川辺を後にする。それを見送り、F.i.V.Eの面々もまた事情を説明する為に村へと引き返していく。
夜が終わり、朝が来る。
胡瓜の盗まれることのない、久方ぶりの朝が。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
