夜霞、月に輝けば
夜霞、月に輝けば



 月のきれいな夜でした。
 暗い、暗い夜道を、ただ一つの明かりがてらす道路で、私は泣きながら歩いていたのです。
 ささいなキッカケの、小さな家出でした。
 理由も覚えていないほど、お母さんとケンカをして。
 目を赤くしながら、私は何も持たず、明るい家を飛び出したのです。
 こんなありふれた行きちがい、たった一言ですんだはずなのに。
「ヤだな」。自分に向けてそう呟いて。私はまるで知らない道を、とぼとぼと歩いていました。
 その時、ふわり、と。銀の色が。

 ――なに?

 気付けば、そこは町からはなれたせまい草原。
 家々の明かりを、視界のはしっこに映すだけのその場所で。きらきら光る銀色の霧が、小さな野原を満たしていました。
 ただ、月の光にかがやいたセカイの美しさに、私は見とれているばかりで。
 ……だから、それに気付くことがおくれてしまって。

 ――あ、れ。

 口から零れる、たくさんのあかいろ。
 息も出来なくて、でも苦しくなんか全然無くて。
 ゆっくりと倒れ込む私は、そのまま突然の眠気におそわれて、体も動かすことが出来なくなりました。
 見えたセカイすら赤色ににじんでいくのを見て、ようやく私は、ああ、死んじゃうんだと理解できました。
 それでも、不思議と怖くはありませんでした。
 強い眠気が痛みも、苦しみも無くしてくれて。
 きらきらの霧は、こんな私の心をなぐさめてくれて。だから。
 ……ああ、でも、けれど。

 ――ごめんなさい、いえなかったな。

 ただ、それだけを言葉に乗せて。
 私は、そうと目をつむりました。


「は~い、みんな、集まってくれてありがとう」
 集まった覚者の一同を前に、久方 真由美(nCL2000003)は微笑みを浮かべながら手元の資料を見遣る。
「今回の目的は、自然系妖の退治になります。ランクは1で、気を抜かなければ負けることは無い相手だと思うわ」
 言いながら自身の資料を覚者の一同に見せる真由美。
 予め覚者全員の目に通るよう、大きく印刷された情報欄には、幻想的な輝きを放つ銀色の霧が映っていた。
「見た目は綺麗な妖だけど、気を付けてね。
 この霧、能動的な能力は何も持たないけど、自分の周囲にいる人達に色んな状態異常を付与したり、行動を阻害することに長けているの」
 真由美が語るところに因ると、この妖は自身と接敵している対象総てに強制的な睡眠と毒効果をもたらし続け、じわじわと相手を弱らせていく性質を持つとのことだ。
 無論即座に倒せば問題ない話だが、自然系妖の常として物理耐性の高い今回の敵は、其れに加えて一般的な妖よりも並はずれた耐久力を誇るのだという。
「妖は互いを引きつけ合う性質を持つ以上、長期戦は成る可く控えたいところね。みんなの作戦に期待するわ」
 それと。そう言って、真由美は一葉の写真を再び覚者達に差し出した。
 映っているのは小学校低学年程度であろう少女の姿だ。快活な笑みを浮かべて友人達と遊んでいるその姿を見て、覚者達は再び視線を夢見へと戻す。
「戦場となる場所に、彼女が現れるらしいのよ。
 原因は親子喧嘩。夜は妖が現れて危ない、なんてことも忘れて家出しちゃったのね」
 苦笑混じりに、真由美は覚者達へと手を振りながら言った。
「余程戦闘が長引かない限り、その子はみんなの戦闘後にやって来ると思うわ。
 親御さんも心配しているだろうし、ちゃんとお説教をしてからお家に帰してあげてね」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:田辺正彦
■成功条件
1.自然系妖の討伐
2.『少女』の生存
3.なし
STの田辺です。
アラタナル第一作となります。どうぞ宜しくお願いいたします。
以下、シナリオ詳細。

場所:
住宅街から少し離れた空き地。地面には雑草のみで、障害物等は存在しません。

敵:
『月霞』
ランク1、自然系妖です。数は一体。
遠隔対象複数へ[痺れ]BSと[毒]BSを付与する霧をまとわりつかせ、スリップダメージで対象を弱らせていきます。
物理耐性は総じて高く、更に耐久力も並大抵ではないため、短時間で倒すには工夫が必要でしょう。

その他:
『少女』
親との喧嘩の末、妖の危険性も考えず夜中に家出した少女です。小学生。
戦闘から長時間が経過した場合、この少女が現れる事になります。長期戦で堅実に倒す作戦の場合、彼女への対応は有った方が良いと思われます。
因みに、親子喧嘩の原因は「友達みんなが持ってるキャラクターグッズが欲しい」です。
OP文章に有るとおり、自分の我が儘が原因であることは理解しているので、後は参加者の皆さんで背中を押してあげてください。



それでは、参加をお待ちしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(3モルげっと♪)
相談日数
5日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年09月08日

■メイン参加者 8人■

『黒い靄を一部解析せし者』
梶浦 恵(CL2000944)
『星唄う魔女』
秋津洲 いのり(CL2000268)
『Overdrive』
片桐・美久(CL2001026)


 ――さく、と小さな足音がする。
 背丈の低い雑草が靴と擦れる音。風もない月の夜、その音はやけに大きく聞こえた気がして。
「親と喧嘩の末の家出、か。
 なかなか思い切りがいいというか、向こう見ずというか……」
 困ったように笑いながら、指崎 まこと(CL2000087)を始めとする覚者達の前には――今なお広がり続ける、銀色の霞。
「喧嘩なんて、出来る内が華ですよ。……とは言え、仲違えしたまま命を落とすなると話が違ってしまいますが」
「無論。例え小さな少女であろうと、尊い命。
 妖にもどのような理由があれど、見逃すわけにはいきません」
 まことの言葉に続き、彼の前に出た『Overdrive』片桐・美久(CL2001026)と『菊花羅刹』九鬼 菊(CL2000999)が各々の得物を構えれば、対面する妖もそれに気付いたかのように、その霞を彼らの側へと緩やかに広げていく。
 ――月霞。予見の夢見からそう名付けられた妖は、其処に敵意もなく、害意もなく、唯妖としての本能、人間の殲滅が為に、相見えた彼らへとその身に取り込もうと揺れ動く。
 が、それよりも早く。
 「霧だってよ! あれだよなー光化学スモッグとかPM何とかだとか身体に悪そうだもんなー」
「……まあ、アレがどういったものかは兎も角、発生原因は気になる所ね」
 ヂリ、という摩擦音。
 実体のない霧を、妖として裂いた男女。笑う不死川 苦役(CL2000720)と笑わぬ梶浦 恵(CL2000944)が、誰よりも早く其処に一矢を放った。
 知性すらも無いように見える妖は、けれど、其処に現れた覚者達に――確かな害意を差し向けた。
「………………っ」
 ランク1の妖には基本的に知性がない。
 剥き出しの本能だからこそ発される純粋な殺意に、実戦経験の乏しい三峯・由愛(CL2000629)はその身を刹那、強張らせるが。
「いのり達が素早く妖を倒さなければ、家族を失う方が出るかもしれませんのね」
 身に秘めた由愛の決意を、代弁する者が居た。
「いのりと同じように」。その言葉だけは口の中で呟いて、『誇り高き姫君』秋津洲 いのり(CL2000268)はあどけない面持ちに毅然とした意志を浮かべ、緩やかにその体躯を覚醒させていく。
「無論だ。此処で退く道理などあるものか」
 応ずるように告げて、大振りの木刀を握りしめた『星夜霞』赤鈴 炫矢(CL2000267)もまた、その表情には幾許の迷いもない。
 自らの背後――戦場から町に面する部分を、僅かに見遣る。
 戦闘の後、或いは長引いた戦闘の最中で現れると予見された一般人の少女の姿は、戦闘直前の今では当然見えるはずもない。
 そして、そのまま終わらなくてはならない。
 戦いもなく、唯居あわせた八人の男女へと家出娘が相対し、説得の後に家に帰る。これは、件の彼女にとってただそれだけの話でなくてはならないのだ。
 もし仮に、そんなありふれた終わりを望まぬ存在が居たとしても。
「……被害は一切出さない。怪異よ、僕等が御相手しよう!」
 叫びと共に、両者はその動きを加速させる。
 銀霞の元、その戦いは始まりを告げた。


 一手を叩き込んだのは美久だった。
 範囲に広がる霧そのものが敵と在るならば、その命中範囲は非常に広い。霧の直前に至って構えたスリングショットを打ち出せば、其れは面白いように銀の中空に穴を開け、奇矯な摩擦音を響かせる。
「成程、聞いたとおりに硬い相手ですが……」
 ――『通し方』は、一つだけじゃない。
 それまで一つの大きな流れを保っていた霧が、突如として揺らぎ始める。
 非薬・鈴蘭。草毒を込めた弾丸は其の体内で静かに散らばり、実体を持たぬ妖にすらその効果を示し始めていた。
 次いで、翠閃。
 醒の炎を湛えた炫矢が声無く吼えると共に放つ炎撃。薙いだ剣は霧を一瞬燃え上がらせる、が。
「……予想、以上に」
 握った拳が、徐々に開く。
 やがて、頽れる身体。状態異常のみを対抗手段とする妖は、それ故に少ない手札の効果を凡そ確実なものとして覚者達にもたらしていく。
 麻痺に苦しめられるのは彼だけではない。前衛に立つ者達の半数以上は一手を敵に通し終えた後、一度は必ず膝を着くほどの効果を与えられ続けている。
 与えられる毒が微細に過ぎずとも、それは単体ならばの話。
 行動を阻害され続けた上で蓄積したダメージは、確実に覚者達へと危機を振りまくのだろう。
 ――それを、覚者達が許すのであれば。
「聞いていたとおりですね。……秋津洲さん?」
「ええ! 皆さん、お力添えいたしますの!」
 問う恵。応えるいのり。
 手番毎に交代する二人の回復手は、そうして霧に相克する浄化の大気を収束させた。
 演舞・舞衣と名付けられた異能は確実にと言えずとも、霧に囚われた仲間達を立ち上がらせる一助となっている。
「ほらほら、僕はこっちだよ!」
 挑発じみた言葉を叫び、エアブリットを撃ち込むまこと。
 空中を泳ぐ翼人は対象を散らすために他と離れた位置取りを心がけていた。複数対象を同時に取る妖にとってそれが純然たる脅威かと問われれば難しいところではあるが――
「……絶対に」
 響く、涼やかな声音。
 言葉と同時に着弾した圧縮空気は妖を確かに穿ち、其れはこれまでの攻撃よりもより多くの体躯――霧を散らせていた。
「罪もない女の子が殺されるなんて、許すわけにはいきません」
 銀の霧を纏う真白の霧。
 由愛の振るう異能によってその防御を崩された妖は、自身と同様実体のない拘束を振り払おうと不規則に広がり、或いは狭まる。
 同時に、術者である彼女自身にも危害は及ぶ。或いは身を固まらせ、或いは身を巣くう毒に血を零しながら、それでも、膝を折ることだけは。
「やっぱ自然系は面白くねー。殴ってる感じしねー……し!
 どっかに何かこう……弱点みてーなコアみてーなモンとかねーの!?」
 続く戦闘。覚者達が速攻を心がけていたと言え、元より長期戦を覚悟していた状況下。
 鉄パイプに偽装した刀を振るう苦役がボヤき混じりに蔓の鞭を振るって霧を削いでいくが、霧が止む気配は未だ見えない。
 戦闘開始時より幾分にもその範囲を狭めた妖では在るが、致命打と呼べるものは未だ与えることが出来ていない。
 倒すことは出来るだろう。けれど、それは何時になれば?
 或いは、夢見が予見した被害者の少女が現れるより後に――
「……大丈夫、未だ彼女の気配は無いようです」
 一同の危惧を読み取ったかのように、菊がよびよせた守護使役……『うめ』の反応を伺って告げる。
 件の少女の匂い自体を知らずとも、人気のないこの場所では覚者以外の匂いを警戒させれば接近を察知できる。
 戦場より距離を取らせた場所にて定期的に自らの使役と軽い応答を交わす菊と同じように、上空から戦場周囲を見渡せるまこともまた、小さな首肯を以て菊の言葉に確証を持たせた。
 最も、其れは当座の危機を回避するだけの材料だ。
 時と共に疲労と消耗は積み重なる。毒に侵された体力は元より、何よりも氣力が。
 速攻を念頭に置いて行動した覚者達が故に、妖はその死を急速に近づかせて居り、同時に覚者達の異能はその頻度を落とし始めていた。
 美久や由愛など、元来の氣力が少なかった者はその傾向が特に如実に表れていた。既に異能を伴わぬ純粋な攻撃に頼る者も現れ始めた中、回復に回る後衛の二人は填気により前衛陣の継戦能力をどうにか保たせている。
 容易ではない状況。それでも、と。
「いのりは……いのりは秋津洲家の銘と誇りにかけて、月霞、貴方を滅ぼしますわ!」
 決意は止まない。意志は、止まらない。
 嗚呼、先に言われた。独りごちて苦笑する炫矢は、身を纏う霧を振り払う。
「風を撫でるように、火の粉一欠の真奥を捉えるが如く――」
 言葉と共に、頭の刺青がその髪を強く照らし、あたかもその色を変えたかの如く緑髪に彩る。
 霧が、震えた。
 人間の死を本能とする妖が、その時確かに、殺戮よりも逃避を優先しようとしたのだ。
 けれど、しかし。
「……十天とは正義の組織ですが、同時に何かの悪なのです」
 それは許されない。
 妖の逃走。その果てが何を導くかを知っているから、九鬼 菊はそれを許さない。
「実体なき霞であろうとも、害意あらばただ討つべし!」
「さあ来い、霧よ。僕は明確に君の悪だ――!」
 鎌が裂いた。木刀が薙いだ。
 氣力もなく、故に純粋なる膂力のみの二撃。
 避けることなど叶う道理もない。終ぞ霧散していく霧に、誰かが安堵して、
 ――その意識の間隙を、生き延びた妖は見逃さない。
「っ、未だ……!」
 霧というよりも、靄と呼ぶに相応しいほど縮んだ妖は、叶う限りの早さを以て、覚者達から遠ざかろうと動いた。
 否、動こうとした。
「中途半端に眠ったり痺れたり毒ったせいで疲れてるんだよなー……」
 たん、と。
 何気なく歩くような動作で、苦役は靄の直ぐ傍にぴたりと付いて。
「ま、コイツで一段落ってことで」
 気怠げな笑みと共に、緩慢に振るった刀が、終ぞ妖を滅ぼした。


 嫌いだったのは、自分でした。
 益体もない我が儘で好きな家族を困らせて、それを謝ることも出来ない身勝手さが、ただただ嫌だったんです。
 ただ、一言。
 それを告げればきっと、お母さんは許してくれるのに。
 答えも知りながら、それを選べないのは何故だったんだろう。
 ――或いは、選ばせてくれる誰かの声を、待っていたのでしょうか。
「……あれ」
 訥、と声が漏れる。
 家を飛び出し、ふらついていた私は、いつの間にか小さな草原にたどり着いていました。
 雲もない月の下、其処にいたのは年も性別もバラバラな、八人の男女。
 中には、自分とそう年の変わらない人も居て、当惑を隠せなかったけれど。
「こんな時間にどうなさったの?」
 言って、三つ編みの女の子が、私に声を掛けてきました。
 何と言葉を返すか、逡巡している内に、金髪の少年が手を差し伸べながら、続いて言葉を掛けてきて。
「なんだか悩んでるみたいだけど、よかったら話してみない?」
 一目でわかるパジャマ姿に、適当に履いたブカブカの靴。そして泣きはらした眼。
 今更の風体に少しだけ恥ずかしくなった私は、けれど何の気まぐれか、その言葉に小さく頷きます。
 伸ばされた手を取ったとき、不思議と違和感や警戒心は解けていました。

 思っていたことを全て話しました。
 自分の我が儘、逃げ出した弱さ。そして謝ることが出来ない自らへの疑問。
「欲しいモノねー……まー友達と仲間はずれが嫌ってのは解るけどさ。
 すっげー身も蓋もない言い方しちゃうなら小中学生の時の友達とか大人になったら誰も会わないって」
「……まあ、そうした意見は別にしても」
 からからと笑う男性。苦役と名乗った男の人の言葉に眼を白黒させる私へ、何処か疲れた表情で彼の言葉を遮ったのは美久と言う男の子でした。
「謝れる相手が側にいるんです、意地を張らずに素直に気持ちを伝えることをお勧めします。
 世の中、いつ、何が、どこで起きるかわからないんですから……後悔は、したくないでしょう?」
 僅か、目を逸らしながら、美久さんは私に語ります。
 何処か乞うようにも聞こえた思いに、少し、私は言葉を詰まらせて。
「……でも」
 未だ、恐かったんです。
 家路を踏み出そうとする足は、未だ、強張ったまま。
 暴言を吐いて、言うことも聞かずに家出して。そんな事をした自分を、既にお母さんは嫌って居るんじゃないかと。
 仮定に過ぎない。それでも、怖い。
 怯える私の顔を見遣りながら、先の三つ編みの少女――いのりと言ったその子は、苦笑と共に言葉を投げかけました。
「……いのりは、羨ましいと思います。
 いのりはもう、喧嘩する事も出来ませんから。喧嘩できるご両親がいらっしゃる貴方が、本当に――」
 首に掛けたペンダントを握りながら、いのりさんは哀しそうに、それでも微笑みながら。
「貴女の大好きなお母様と喧嘩をしたまま家に帰らずにいるのは、貴女の事を大好きなお母様を心配させる事になりますよ?」
 そうして、少ししゃがんで私と目線を合わせた淡い緑髪の女性、恵。
 表情に変化はなく、それでも柔らかな声音を以て語りかけたその人は、今また泣きそうな私へ、さとすように話してくれて。
「お腹も空いてきているでしょう? きっとお母様は、貴女の好きなものを用意して待ってくれている筈ですよ。」
「……待ってて、くれてるかな」
 ――雲もない草原に、温かい雨が降る。
「嫌いにならないで、くれてるかな」
「……なりませんよ。なる筈が、ありません」
 俯いたまま、身を震わせる私の頭を、柔らかに撫でる人が居ました。
 由愛と自らを呼んだ金眼の女の人へ、私は知らず、縋るようにその視線を見上げて。対する由愛さんも微笑みを返してくれました。
「お父さんとも、お母さんとも……きっと、これからもたくさん喧嘩するかもしれません。
 だからと言って、それっきりの喧嘩別れなんてしちゃダメです」
 約束ですよ? そう言った由愛に、私はこくりと頷いて、そうして皆に頭を下げました。
「ありがとう、ございました。
 私、帰ります。帰って……あやまります」
 その言葉に、誰もが、安堵の表情を浮かべてくれました。
「なら、僕もお母さんとのお話を応援しよう。まずは夜に飛び出したことを、ごめんなさいと、言わないとね」
 炫矢、と。そう名乗っていた銀色の髪の青年が、私に微笑みかけてくれて。
「こんな遅くでは、怖いものが出るかもしれない。そうと決めたら早く帰ろう」
「……じゃあ、これは僕からのプレゼント」
 炫矢さんの言葉に頷くよりも早く、私の身体を抱えた金の髪の少年――まことさんが、ふわりとその身を『浮かべていき』、
「え――――――」


「あの、無闇にそうやって因子の力を見せるのは……」
「まーまー、後で打ち上げ、奢るからさ」
「あ。じゃあ俺賛成」
「……あのですね」
 まことと苦役の言葉にこめかみを押さえつつ、菊は小さくため息を吐く。
 菊の言うとおり、覚者の力は乱用すべきものではない。それは隔者の存在と何ら変わらないものであるから。
 けれど――、と。
 見上げた七名の覚者達の視線の先には、月の光を一身に浴びて、驚きと喜びを顔に浮かべる少女の表情。 
「……ミント、後でお願いね」
 記憶を吸い取る守護使役に淡々と頼む恵の言葉に、他の面々も心配を無くし、空を舞う二人の姿を見つめ続ける。
「……帰るべき場所があるというのは、とても幸せなことです、ね」
「ええ。だから、どうか……」
 由愛の言葉に、応ずる菊も、眩しいものを見るような目で、此方に降りゆく彼女へと、聞こえないように呟いた。
「どうか、家族でお幸せに」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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