≪体育祭≫マーチ・チェンジ・ダンス!
●
体育祭である。
学校外部の一般人も参加できる汗を流してなんぼの一大イベント。
手に手を取って一丸となって楽しむ、これが肝。
「参加種目は、マーチでよろしいですか?」
メンインブラック張りの黒づくめで、グラウンドを縦横無尽に歩き回る行進だ。
途中で列が増減したり、扇や風車を作ったりするので、高い位置からの観覧希望者が続出する人気競技。
もちろん、マンモス校なので参加者は膨大。
通常歩行速度なので、一般人でも大丈夫。
首都圏ラッシュアワーのダイヤグラムのごとく、決められた地点を決められたタイミングで通過すれば絶対にぶつからない。
成功時の達成感は底知れないだろう。
その周囲のトラック部分をマーチングバンドが演奏しながら先導し、一般の未就学児童を抱っこしてグラウンドを一周するコーナーがあったりする。
目玉は、それを目隠しにフィナーレに向けて行われる早着替え。
黒づくめを脱ぎ捨て、はっちゃける。
ポロリしないように、コスチュームは黒づくめの下に着ておくことをお勧めされている。暑いけど。
友達同士で合わせ衣装するグループも当然ありだ。
フィナーレは、申請したグループごとに30秒与えられる。
他よりいかに目立つか。
「無個性からの脱却」
隣を歩くあいつを出し抜け!
体育祭である。
学校外部の一般人も参加できる汗を流してなんぼの一大イベント。
手に手を取って一丸となって楽しむ、これが肝。
「参加種目は、マーチでよろしいですか?」
メンインブラック張りの黒づくめで、グラウンドを縦横無尽に歩き回る行進だ。
途中で列が増減したり、扇や風車を作ったりするので、高い位置からの観覧希望者が続出する人気競技。
もちろん、マンモス校なので参加者は膨大。
通常歩行速度なので、一般人でも大丈夫。
首都圏ラッシュアワーのダイヤグラムのごとく、決められた地点を決められたタイミングで通過すれば絶対にぶつからない。
成功時の達成感は底知れないだろう。
その周囲のトラック部分をマーチングバンドが演奏しながら先導し、一般の未就学児童を抱っこしてグラウンドを一周するコーナーがあったりする。
目玉は、それを目隠しにフィナーレに向けて行われる早着替え。
黒づくめを脱ぎ捨て、はっちゃける。
ポロリしないように、コスチュームは黒づくめの下に着ておくことをお勧めされている。暑いけど。
友達同士で合わせ衣装するグループも当然ありだ。
フィナーレは、申請したグループごとに30秒与えられる。
他よりいかに目立つか。
「無個性からの脱却」
隣を歩くあいつを出し抜け!

■シナリオ詳細
■成功条件
1.体育祭を楽しむ!
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
田奈アガサでございます。
*黒づくめは支給されますよ。パッと見スーツのナイロンつなぎなので、脱ぐのは楽ちん。丸めれば手のひらサイズです。
*コスチュームはプレイングに書いてくださいね。記述がないと学校指定の体育着になります。
*集団行動演技中は、手ぶらでなくてはいけません。
つなぎの下に余裕がありますので、あらかじめ着込んでいるのが定番です。
忘れんぼさんのコスチュームや集団行動に持ち込めない大掛かりな着ぐるみをグラウンド外から投げ渡す光景も毎年ありますが、その場合着替えが大変なのでお友達同士で協力し合うといいです。
*回想シーン、アリです。
つらかった練習シーン、みんなの心が一つになったあの瞬間が一瞬で脳裏を駆け巡ったのが描写されます。
(1)参加者
集団行動→お着換え→ダンスをする人。
どこに重点を置くかは、あなたしだいです。
集団行動時、秩序ある動きに心血注いでもよし、よろめいた誰かをカバーするもよし。
徹夜でコスチューム縫った夕べを思い出したり、ダンスでかつて膝に矢を受けたことを不安に思っても構いません。
(2)体育祭実行委員
アナウンスしたり、実況したり、脱ぎ棄てられた黒づくめ回収したりする縁の下の力持ちです。
トラブルシューティングは大事ですよね。
準備段階のことを思い出し涙をぬぐうのも青春です。
(3)マーチングバンド
参加者が着替えている間、トラックを周回して目隠しする役です。
楽器パートはプレイングに書いてくださいね。
(4)チャイルドエスコート
一般の未就学児と手をつないだりして、マーチングバンドに続いてトラックを一周するお仕事です。
ちっちゃい子は、制御不能になりやすいのでいろいろ対策するといいと思うます。
参加者のそばを通れるので、コスチュームを安全に渡すならこのポジションです。
(5)観覧者
暑苦しく声援を送ってくれていいのよ。
クラッカーや大きな音が出るものの類は、ちっちゃい子がびっくりしてしまうのでご遠慮ください。
拾えるところは頑張って拾いますので、よろしくお願いしまっす!
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
6日
6日
参加費
50LP
50LP
参加人数
18/30
18/30
公開日
2016年07月05日
2016年07月05日
■メイン参加者 18人■

●
「ナンだこの……」
息継ぎ。
「マーチだか早着替えだかチビッコふれあい競争だかよーわからん競技! 『無個性からの脱却』っつーか無秩序なカンジですけど! アタシがツッコミ回るってどんだけだよ!」
国生 かりん(CL2001391)の指摘は、もう三人くらい空に叫んだ。
「なんで俺が体育祭の実行委員に……」
自問自答しちゃう人も、三人くらいいた。
東雲 梛(CL2001410)の自己回答。答えは自分の中にある。
(転校してきたばかりだから皆と仲良くなる一環ってなんだよ――まぁ、確かに実行委員で仲良い奴できたけど、めんどうなのはかわらない)
「次のプログラムは、『無個性からの脱却』 今年も趣向を凝らしております。皆さん、盛大な拍手を!」
アナウンスは校庭に響き渡り、黒の三つ揃い風つなぎに身を包んだ集団が、ざっざっざっと足音にいささかの狂いもなく校庭を縦横無尽に闊歩する。
「集団行動、よくTVで見ますけど自分がやる事になるとは思いませんでした」
天野 澄香(CL2000194)の脳裏に、走馬燈が展開する。
(練習は厳しかったです。私は背が低いですから歩幅が皆さんと合わなくて)
それでも仲間が励ましてくれた!
「でも頑張りました、ええ、もの凄く頑張りましたとも! 絶対に格好良く決めてみせますよ!」
脇すれすれを通り過ぎても、全速力で歩いてくる相手に真っ向から突進していく。
向こうからくる仲間を信じる!
周囲の人間を意識しながら、的確に動く。
それが、きっと役に立つ日が来る。
「正面モニターをご覧ください」
梛のアナウンスは続く。
「市松模様から千鳥格子、青海波、風車、渦潮と隊列が変化いたします。最後の花火をお楽しみください」
密集した黒ずくめ太刀がその場にしゃがむ。
しゅるるるる……と、校庭に響く花火の打ち上げ音。
パアンとはじける音とともに、生徒たちは大きく飛び上がった。
「そーれ! イチ、ニ、サン!」
ホイッスルに続いて、高らかな小太鼓の連打。
入場門から、マーチングバンドがトラックに入ってきた。
●
ちょっと時間をさかのぼる。集団行動が市松模様の辺りだ。
マーチングバンド部が手取り足取り教えてくれて、一緒に参加もしてくれる、「今からでも入部してくれていいのよ?」という下心満載体制でお送りしております!
だから――
「実際の指揮はガチな人がやってくれるから、お姉ちゃんはそれっぽく棒と愛想を振りまわしててくれればいいんだよ☆」
――という葛葉・あかり(CL2000714)ちゃんは正しいんですよ、若干腰が引けてる葛葉・かがり(CL2000737)さん!
(ウチ運動神経が全体的に壊滅してるって言うか……そやかて、笙やひちりき持ち込むわけにもなあ……)
バトン持って、不安で下がり気味眉の女子生徒、この種目の醍醐味です。
「マーチングバンドの服装! いいよね! かっこいいよね! 軍服+スカートみたいなの、憧れだったんだよー!」
あかりの下心。
「二人の格好もカワイイよお、うふふ。巻き込んだ甲斐があったよー」
那須川・夏実(CL2000197)は、含み笑いしているあかりを気づかわしげに見ている。
(あかりのはそれにしたって重そうんだけど、アレってヘーキなのかしら……)
あかりの担当はスーザフォン。金属チューブのたすきを肩からかけ、頭がずっぽり入りそうな朝顔状のラッパが頭の上で満開。あまりの重量に、金管なのに強化プラスチックへの材料変更が進められた代物である。夏実の心配は無理もない。
一方、その前を歩く予定の守衛野 鈴鳴(CL2000222)は、危なげない。
「カラーガードとして、皆さんを先導し、彩りを添えさせてもらいます!」
カラーとは、旗のことだ。
いかに美しく旗を振り回すか、視覚芸術的なパートになる。
「ふぁぁぁぁ……!」
楠瀬 ことこ(CL2000498) は、感嘆の声を上げた。
「鈴鳴ちゃん、かわいいかっこいい。私よりずっと人気のアイドルになれるよー!」
(旗回したりするのって難しそうだけど、あんなにきれいに振れるんだなぁ)
しゅぴんっと空気を斬るように旋回する学校旗。
「もう、アイドルだなんて大げさですよ……それに皆さんも、すごく似合ってますっ」
金属の鍵盤が縦に並ぶ鉄琴の一種、ベルリラをセットしたことこは、にぱっと笑った。
「意外と重たいんだーこれが。振り回したら鈍器だよねっ」
急速旋回されて、わき腹に食い込んだら泣ける。
「ヤマトくんもいつもと違う雰囲気だけど、似合ってるし。金管って肺活量いるのに、流石だなー」
黒崎 ヤマト(CL2001083)の手には、トランペット。
「ことこも鈴鳴も衣装可愛いな。よく似合ってる! ベルリラってけっこう持ち続けるのってのきついんだよなー。こ……」
この時、ヤマトの脳裏にピキンと走るものがあった。
舌の上には、「ことこ、意外と力持ちなんだなっ」という素直な感想という名の言葉の弾丸装填済み。
それを喉の奥に飲み下す。
「旗手はマーチの華だよな。鈴鳴の旗遣いはほんとすっげー! 格好いい!」
「マーチング、出発します。整列!」
部員さん達に促され、指揮者の一歩が踏み出された。
オープニングの小太鼓の連打の中に、夏実もいる。
(腰の前に吊ってるからかしら、アンガイ重く感じないのね……教わった叩き方もそんな難しくないし、これならシッパイする心配はないわね!)
鈴鳴は、フラッグを堂々と構え、行進の旗印に。
すぐ後ろを歩く指揮者がシックな装いな分、華やかだ。
何よりも鈴鳴が笑顔を忘れずにいるのがおおきい。
旗手やバトンの一人や二人は顔がこわばっている。
(鼓笛隊に合わせて、いちに、いちに……)
かがりも、ここまでちゃんと来ている。
練習の時より格段にできている。火事場のなんとやら。
(水平回し! 八の字回し!)
無理っぽそうならしなくていいと言われた大技が脳裏をよぎる。行けそうな気がする。
(そして必殺、片手十字月面宙返)
滑った。
「ぎゃん!?」
右側頭部に衝撃。
ころころと転げていくバトン。
(はよ拾って列に戻らな……)
「ちょっとちょっとダイジョー……っ!」
「ブ」のタイミングで、夏実がバトンを踏んだ。
「ギャン!?」
それでも夏実は小太鼓をかばい切りました。
このままでは、後方がドミノ倒しの大惨事!
「……転んだ? 転んだ音がするよ!? ふたりともダイジョーブー!?」
転んだ=身内と断じるあかりの思考回路。
「あっ、楽器重くて大きいから足元が見えない!」
下向いたら管、上見たらのしかかる朝顔。
最後尾からの悪夢。
とっさにヤマトはトランペットを吹き鳴らす。
(しっかり肺に息溜めて演奏だ! みんなに合わせて、リズムに乗せて、そこに動きをつけて演出!)
これは、ドッキリ演出! アクシデントじゃない!
振り返る鈴鳴。
それが演出であるというように、鈴鳴は茶目っ気たっぷりに観衆にウインクして見せた。
フラッグを片手でくるくる回し、その場でターンし、後続に進むべき指揮者の背中を指し示す。
トラック内外に控えていた実行委員が速やかに転んだ者を立たせ、何事もなかったように列が復元し、退場門に吸い込まれていく。
「今の……凝った演出でしたね」
芝生にレジャーシートを敷いて、応援していた御白 小唄(CL2001173) が、ふわあと息をついた。
(こうやってみんな一丸となってるのってすごいなあ……)
「小唄さんは、踊らなくていいのですか?」
コップにお茶を注ぎながら、クー・ルルーヴ(CL2000403)は小唄に問う。
「小唄さんが全種目に出ると思っていたので」
「僕? 僕はああいうのは得意じゃなくって。それに、他の競技も出れるの全部出てるから、ここはちょっと休憩です」
差し出されたお茶を一気飲みして、クーに返すと、受け取ったコップにさらに注ぐとくーが口をつけた。
(これって、間接キスとかそういうやつ……!?)
13歳思春期として、赤面せざるを得ない。
「水筒が一つしか無いので、コップが共用になるのはすみません」
年上の人は分かっているのかいないのか。
「まだ時間があるなら、もう少し休憩していきませんか? 膝を貸しますから」
ぽんぽんとお膝の提供を申し出られる。
わかっているのか。
「え、と……じゃあ、お言葉に甘えて……」
ここで否と言っては、男子の恥。男気テストに出る。
「あら、小さな子が来ましたね」
ダンスが終わっても休んでてくださっていいですからね。と、クーは微笑んだ。
●
「入場門から、未就学児のよい子達がー、お兄さんお姉さんと一緒に元気に行進です! 大きな手拍子をお願いします!」
校庭の視線は、在校生と手をつないで歩くよたちた歩くお子様の喜怒哀楽に釘付けだ。
もちろん、子供は天使であるが、鬼でもある。
よく知らない誰かと、おかーさんから離れて、人がいっぱいいるところを、歩いて来いというのだ。
機嫌よく歩いているのはごく一部。
コースを外れる、しゃがみ込む、泣きわめく、走り出す、叫び出す。のが、ほとんどだ。
それを在校生があやしながら歩くのも、障害物競走的に喜ばれる種目だ。
「ほら、手を振ってくれてるよ」
百目木 縁(CL2001271)がいうと、自分と手をつないだ男の子がママーとトラックの外に手を振る。
トラックの外の母親は、子供に手を振りつつ、縁に会釈した。口は、よろしくお願いします。と、動いている。
都会の大型校に転校してきて、いささかの気後れもなかったといえばうそになる。
人が大勢いるところは、やっぱり苦手だ。
だけど、子供を思う母の気持ちは変わらない。
(普段自分はあまり笑わない方だけど――)
縁の口元には、自然に笑顔が浮かんでいた。
「みんなー! 私についてきてね」!
(さぁ、可愛いみんなと一緒に、楽しむぞー!)
鐡之蔵 禊(CL2000029) の腰に、すねこすりぐるみ。
(興味を持ってもらえるかな?)
ぬいぐるみー。かわいー。ぴこぴこー。
後ろからぞろぞろついて来て、ぬいぐるみに触ろうとする。
むしり取られたら、誰がそれを持つかバトルロイヤルが始まりそうな勢いだ。
気持ち早足。
ちょちょちょっと寄ってくる子供たち。
ちょっとゆっくり。
そろそろと伸ばされる手。つかもうとする指が触れるか触れないかで、また早足。
キャーッと上がる子供の歓声。
それを繰り返し、お母さんアヒルよろしく、禊はたくさんの子供を引き連れてゴールした。
三島 椿(CL2000061)は、果敢だった。
彼女の選択は、一番わんぱくそうな子だった。
全力失踪(誤字ニアラズ)するぜ!と、顔に書いてある。
「良かったら手を繋いで歩いても良い? ――みんなで楽しくまわろうね」
もう片方に不安そうな子を連れた椿の手を振り払おうとする手。
びくともしない。わんぱく小僧は大きく瞬きをする。
「みんなが好きな歌とかあるかしら? 良かったら教えて」
退場門をくぐるとあっけなく放される手。その手のひらに飴が乗せられた。
「お疲れ様。大変だったけど、なんだか私まで元気をもらったような気がするわ――子供は好きなのよね。微笑ましいわ」
●
トラック中央では、ダンス班のお着換え進行中。
マーチングバンドとチャイルドエスコートは、お着換えを凝視させない対策でもあるのだ。
たいていは黒つなぎの下に着こんでいる。
かりんも、一瞬でお着換え終了だ。
「伝説の 紺 色 ブ ル マ ー !」
(昔はこんなドスケベな服装で体育やってたってんだからスゲーわ)
30年くらい前は、普通だったんだぜ。
(ちょっと動いたらパンツはみ出そう! フツーに見られるよりはずいなコレ!)
それが乙女に恥じらいを刷り込んでたんだよ。たぶん!
より、大掛かりなものを考える者もいる。
演技の切れ目に、観客席から、ダンスの衣装が投げ入れられる。それをうまくキャッチできるかもポイントだ。
金髪のナイスミドルがいそいそ着込んだのは、アラスカンマラミュートを模した着ぐるみだった。
(愛犬のナハトたんの可愛さを詰め込んでこれでもかと詰め込んで作り上げた自慢の一着だぞ)
ナハトたんへの愛を糧にして、エアートラックスからのズールスピンで締め、「わん!」と得意げにしてみる。
(これは――スタイリッシュ三べん回ってワン!)
観客は、罰ゲームか、親戚の子のリクエストに真摯に応えたのだろうと好意的に解釈した。
安全策としては、チャイルドエスコートする仲間から穏便に受け取る手がある。
がんばってね。と、椿から笑顔で渡されたそれに、阿久津 ほのか(CL2001276)は笑顔でこたえ、仲間に素早く配布する。
脱がれた衣装は、大きな袋を持った実行委員によって絶賛回収中である。
目立たないように姿勢を低くし、ついでにごみを拾い、準備ができたチームを確認しては随時アナウンスする。
ふと目線を上げた梛と観客のおばあちゃんの目が合った。
「縁の下の力持ちの頑張り屋さんだねえ」
(まじめっていうなああああ!)
叫ぶわけにもいかず、ぶっきらぼうに会釈すると、目の前のチームが準備完了している。
「いけるか?」
「はい!」
誠の鉢巻ききりりと締めて、揃いのさらし、黒の短パンを着た藤 壱縷(CL2001386) 澄香、ほのか、工藤・奏空(CL2000955) の四人は、互いを見かわすと、大きく返事をした。
浅葱色の羽織が、大きく広げられるのに歓声が上がった。
しゅるりと腕が通される。
たっぷり練習したよさこいが流れてくる。
(私のような者でもここの体育祭、参加できるのですねぇ……なんだか新鮮です!)
「ふふ……」
天賦の才か、見知らぬ観客から飛んでくる応援の声に、自然笑いがこぼれる。
(折角のこの雰囲気……楽しむのも良いですよ、ね?)
集団行動で温まった分、澄香の手足はよく伸びる。
(幼い頃の夢を思い出しますね。今は違う夢を追ってるけど、今このひとときは昔に戻ってアイドル目指してみましょうか) 羽織を大きく広げて旋回するパートで、ほのかの目がぐるんぐるんになってしまった。
仲間の顔がわずかにひきつってるのがゆよゆよに見える。
(あ~、私の守護使役のぷわ~んと同じ目になっちゃう~)
パアンと、ほっぺに一喝。
「正気ですよ~」
うなずいて、前列に飛び出した奏空の顔はきりりと引き締まっている。
(F.i.V.E.と新選組ってなんだか似てるなって。新選組も京都を拠点にして治安維持の為に戦ってたんでしょ)
手拍子しながら見守ってくれる観客の笑顔が奏空には嬉しい。
(なんだか、そんな想いを重ねる気持ちで踊るんだ! この街は俺達が守るよ! って見にきてくれた街の人達にその想いが伝わるといいな)
かつてこの地にあった組織は悲しい最期を迎えたけれど、F.i.V.E.の面々は、街の人に愛されますように。
そんな祈りを込めて、たくさんの拍手とともに演技はお開きになった。
「ナンだこの……」
息継ぎ。
「マーチだか早着替えだかチビッコふれあい競争だかよーわからん競技! 『無個性からの脱却』っつーか無秩序なカンジですけど! アタシがツッコミ回るってどんだけだよ!」
国生 かりん(CL2001391)の指摘は、もう三人くらい空に叫んだ。
「なんで俺が体育祭の実行委員に……」
自問自答しちゃう人も、三人くらいいた。
東雲 梛(CL2001410)の自己回答。答えは自分の中にある。
(転校してきたばかりだから皆と仲良くなる一環ってなんだよ――まぁ、確かに実行委員で仲良い奴できたけど、めんどうなのはかわらない)
「次のプログラムは、『無個性からの脱却』 今年も趣向を凝らしております。皆さん、盛大な拍手を!」
アナウンスは校庭に響き渡り、黒の三つ揃い風つなぎに身を包んだ集団が、ざっざっざっと足音にいささかの狂いもなく校庭を縦横無尽に闊歩する。
「集団行動、よくTVで見ますけど自分がやる事になるとは思いませんでした」
天野 澄香(CL2000194)の脳裏に、走馬燈が展開する。
(練習は厳しかったです。私は背が低いですから歩幅が皆さんと合わなくて)
それでも仲間が励ましてくれた!
「でも頑張りました、ええ、もの凄く頑張りましたとも! 絶対に格好良く決めてみせますよ!」
脇すれすれを通り過ぎても、全速力で歩いてくる相手に真っ向から突進していく。
向こうからくる仲間を信じる!
周囲の人間を意識しながら、的確に動く。
それが、きっと役に立つ日が来る。
「正面モニターをご覧ください」
梛のアナウンスは続く。
「市松模様から千鳥格子、青海波、風車、渦潮と隊列が変化いたします。最後の花火をお楽しみください」
密集した黒ずくめ太刀がその場にしゃがむ。
しゅるるるる……と、校庭に響く花火の打ち上げ音。
パアンとはじける音とともに、生徒たちは大きく飛び上がった。
「そーれ! イチ、ニ、サン!」
ホイッスルに続いて、高らかな小太鼓の連打。
入場門から、マーチングバンドがトラックに入ってきた。
●
ちょっと時間をさかのぼる。集団行動が市松模様の辺りだ。
マーチングバンド部が手取り足取り教えてくれて、一緒に参加もしてくれる、「今からでも入部してくれていいのよ?」という下心満載体制でお送りしております!
だから――
「実際の指揮はガチな人がやってくれるから、お姉ちゃんはそれっぽく棒と愛想を振りまわしててくれればいいんだよ☆」
――という葛葉・あかり(CL2000714)ちゃんは正しいんですよ、若干腰が引けてる葛葉・かがり(CL2000737)さん!
(ウチ運動神経が全体的に壊滅してるって言うか……そやかて、笙やひちりき持ち込むわけにもなあ……)
バトン持って、不安で下がり気味眉の女子生徒、この種目の醍醐味です。
「マーチングバンドの服装! いいよね! かっこいいよね! 軍服+スカートみたいなの、憧れだったんだよー!」
あかりの下心。
「二人の格好もカワイイよお、うふふ。巻き込んだ甲斐があったよー」
那須川・夏実(CL2000197)は、含み笑いしているあかりを気づかわしげに見ている。
(あかりのはそれにしたって重そうんだけど、アレってヘーキなのかしら……)
あかりの担当はスーザフォン。金属チューブのたすきを肩からかけ、頭がずっぽり入りそうな朝顔状のラッパが頭の上で満開。あまりの重量に、金管なのに強化プラスチックへの材料変更が進められた代物である。夏実の心配は無理もない。
一方、その前を歩く予定の守衛野 鈴鳴(CL2000222)は、危なげない。
「カラーガードとして、皆さんを先導し、彩りを添えさせてもらいます!」
カラーとは、旗のことだ。
いかに美しく旗を振り回すか、視覚芸術的なパートになる。
「ふぁぁぁぁ……!」
楠瀬 ことこ(CL2000498) は、感嘆の声を上げた。
「鈴鳴ちゃん、かわいいかっこいい。私よりずっと人気のアイドルになれるよー!」
(旗回したりするのって難しそうだけど、あんなにきれいに振れるんだなぁ)
しゅぴんっと空気を斬るように旋回する学校旗。
「もう、アイドルだなんて大げさですよ……それに皆さんも、すごく似合ってますっ」
金属の鍵盤が縦に並ぶ鉄琴の一種、ベルリラをセットしたことこは、にぱっと笑った。
「意外と重たいんだーこれが。振り回したら鈍器だよねっ」
急速旋回されて、わき腹に食い込んだら泣ける。
「ヤマトくんもいつもと違う雰囲気だけど、似合ってるし。金管って肺活量いるのに、流石だなー」
黒崎 ヤマト(CL2001083)の手には、トランペット。
「ことこも鈴鳴も衣装可愛いな。よく似合ってる! ベルリラってけっこう持ち続けるのってのきついんだよなー。こ……」
この時、ヤマトの脳裏にピキンと走るものがあった。
舌の上には、「ことこ、意外と力持ちなんだなっ」という素直な感想という名の言葉の弾丸装填済み。
それを喉の奥に飲み下す。
「旗手はマーチの華だよな。鈴鳴の旗遣いはほんとすっげー! 格好いい!」
「マーチング、出発します。整列!」
部員さん達に促され、指揮者の一歩が踏み出された。
オープニングの小太鼓の連打の中に、夏実もいる。
(腰の前に吊ってるからかしら、アンガイ重く感じないのね……教わった叩き方もそんな難しくないし、これならシッパイする心配はないわね!)
鈴鳴は、フラッグを堂々と構え、行進の旗印に。
すぐ後ろを歩く指揮者がシックな装いな分、華やかだ。
何よりも鈴鳴が笑顔を忘れずにいるのがおおきい。
旗手やバトンの一人や二人は顔がこわばっている。
(鼓笛隊に合わせて、いちに、いちに……)
かがりも、ここまでちゃんと来ている。
練習の時より格段にできている。火事場のなんとやら。
(水平回し! 八の字回し!)
無理っぽそうならしなくていいと言われた大技が脳裏をよぎる。行けそうな気がする。
(そして必殺、片手十字月面宙返)
滑った。
「ぎゃん!?」
右側頭部に衝撃。
ころころと転げていくバトン。
(はよ拾って列に戻らな……)
「ちょっとちょっとダイジョー……っ!」
「ブ」のタイミングで、夏実がバトンを踏んだ。
「ギャン!?」
それでも夏実は小太鼓をかばい切りました。
このままでは、後方がドミノ倒しの大惨事!
「……転んだ? 転んだ音がするよ!? ふたりともダイジョーブー!?」
転んだ=身内と断じるあかりの思考回路。
「あっ、楽器重くて大きいから足元が見えない!」
下向いたら管、上見たらのしかかる朝顔。
最後尾からの悪夢。
とっさにヤマトはトランペットを吹き鳴らす。
(しっかり肺に息溜めて演奏だ! みんなに合わせて、リズムに乗せて、そこに動きをつけて演出!)
これは、ドッキリ演出! アクシデントじゃない!
振り返る鈴鳴。
それが演出であるというように、鈴鳴は茶目っ気たっぷりに観衆にウインクして見せた。
フラッグを片手でくるくる回し、その場でターンし、後続に進むべき指揮者の背中を指し示す。
トラック内外に控えていた実行委員が速やかに転んだ者を立たせ、何事もなかったように列が復元し、退場門に吸い込まれていく。
「今の……凝った演出でしたね」
芝生にレジャーシートを敷いて、応援していた御白 小唄(CL2001173) が、ふわあと息をついた。
(こうやってみんな一丸となってるのってすごいなあ……)
「小唄さんは、踊らなくていいのですか?」
コップにお茶を注ぎながら、クー・ルルーヴ(CL2000403)は小唄に問う。
「小唄さんが全種目に出ると思っていたので」
「僕? 僕はああいうのは得意じゃなくって。それに、他の競技も出れるの全部出てるから、ここはちょっと休憩です」
差し出されたお茶を一気飲みして、クーに返すと、受け取ったコップにさらに注ぐとくーが口をつけた。
(これって、間接キスとかそういうやつ……!?)
13歳思春期として、赤面せざるを得ない。
「水筒が一つしか無いので、コップが共用になるのはすみません」
年上の人は分かっているのかいないのか。
「まだ時間があるなら、もう少し休憩していきませんか? 膝を貸しますから」
ぽんぽんとお膝の提供を申し出られる。
わかっているのか。
「え、と……じゃあ、お言葉に甘えて……」
ここで否と言っては、男子の恥。男気テストに出る。
「あら、小さな子が来ましたね」
ダンスが終わっても休んでてくださっていいですからね。と、クーは微笑んだ。
●
「入場門から、未就学児のよい子達がー、お兄さんお姉さんと一緒に元気に行進です! 大きな手拍子をお願いします!」
校庭の視線は、在校生と手をつないで歩くよたちた歩くお子様の喜怒哀楽に釘付けだ。
もちろん、子供は天使であるが、鬼でもある。
よく知らない誰かと、おかーさんから離れて、人がいっぱいいるところを、歩いて来いというのだ。
機嫌よく歩いているのはごく一部。
コースを外れる、しゃがみ込む、泣きわめく、走り出す、叫び出す。のが、ほとんどだ。
それを在校生があやしながら歩くのも、障害物競走的に喜ばれる種目だ。
「ほら、手を振ってくれてるよ」
百目木 縁(CL2001271)がいうと、自分と手をつないだ男の子がママーとトラックの外に手を振る。
トラックの外の母親は、子供に手を振りつつ、縁に会釈した。口は、よろしくお願いします。と、動いている。
都会の大型校に転校してきて、いささかの気後れもなかったといえばうそになる。
人が大勢いるところは、やっぱり苦手だ。
だけど、子供を思う母の気持ちは変わらない。
(普段自分はあまり笑わない方だけど――)
縁の口元には、自然に笑顔が浮かんでいた。
「みんなー! 私についてきてね」!
(さぁ、可愛いみんなと一緒に、楽しむぞー!)
鐡之蔵 禊(CL2000029) の腰に、すねこすりぐるみ。
(興味を持ってもらえるかな?)
ぬいぐるみー。かわいー。ぴこぴこー。
後ろからぞろぞろついて来て、ぬいぐるみに触ろうとする。
むしり取られたら、誰がそれを持つかバトルロイヤルが始まりそうな勢いだ。
気持ち早足。
ちょちょちょっと寄ってくる子供たち。
ちょっとゆっくり。
そろそろと伸ばされる手。つかもうとする指が触れるか触れないかで、また早足。
キャーッと上がる子供の歓声。
それを繰り返し、お母さんアヒルよろしく、禊はたくさんの子供を引き連れてゴールした。
三島 椿(CL2000061)は、果敢だった。
彼女の選択は、一番わんぱくそうな子だった。
全力失踪(誤字ニアラズ)するぜ!と、顔に書いてある。
「良かったら手を繋いで歩いても良い? ――みんなで楽しくまわろうね」
もう片方に不安そうな子を連れた椿の手を振り払おうとする手。
びくともしない。わんぱく小僧は大きく瞬きをする。
「みんなが好きな歌とかあるかしら? 良かったら教えて」
退場門をくぐるとあっけなく放される手。その手のひらに飴が乗せられた。
「お疲れ様。大変だったけど、なんだか私まで元気をもらったような気がするわ――子供は好きなのよね。微笑ましいわ」
●
トラック中央では、ダンス班のお着換え進行中。
マーチングバンドとチャイルドエスコートは、お着換えを凝視させない対策でもあるのだ。
たいていは黒つなぎの下に着こんでいる。
かりんも、一瞬でお着換え終了だ。
「伝説の 紺 色 ブ ル マ ー !」
(昔はこんなドスケベな服装で体育やってたってんだからスゲーわ)
30年くらい前は、普通だったんだぜ。
(ちょっと動いたらパンツはみ出そう! フツーに見られるよりはずいなコレ!)
それが乙女に恥じらいを刷り込んでたんだよ。たぶん!
より、大掛かりなものを考える者もいる。
演技の切れ目に、観客席から、ダンスの衣装が投げ入れられる。それをうまくキャッチできるかもポイントだ。
金髪のナイスミドルがいそいそ着込んだのは、アラスカンマラミュートを模した着ぐるみだった。
(愛犬のナハトたんの可愛さを詰め込んでこれでもかと詰め込んで作り上げた自慢の一着だぞ)
ナハトたんへの愛を糧にして、エアートラックスからのズールスピンで締め、「わん!」と得意げにしてみる。
(これは――スタイリッシュ三べん回ってワン!)
観客は、罰ゲームか、親戚の子のリクエストに真摯に応えたのだろうと好意的に解釈した。
安全策としては、チャイルドエスコートする仲間から穏便に受け取る手がある。
がんばってね。と、椿から笑顔で渡されたそれに、阿久津 ほのか(CL2001276)は笑顔でこたえ、仲間に素早く配布する。
脱がれた衣装は、大きな袋を持った実行委員によって絶賛回収中である。
目立たないように姿勢を低くし、ついでにごみを拾い、準備ができたチームを確認しては随時アナウンスする。
ふと目線を上げた梛と観客のおばあちゃんの目が合った。
「縁の下の力持ちの頑張り屋さんだねえ」
(まじめっていうなああああ!)
叫ぶわけにもいかず、ぶっきらぼうに会釈すると、目の前のチームが準備完了している。
「いけるか?」
「はい!」
誠の鉢巻ききりりと締めて、揃いのさらし、黒の短パンを着た藤 壱縷(CL2001386) 澄香、ほのか、工藤・奏空(CL2000955) の四人は、互いを見かわすと、大きく返事をした。
浅葱色の羽織が、大きく広げられるのに歓声が上がった。
しゅるりと腕が通される。
たっぷり練習したよさこいが流れてくる。
(私のような者でもここの体育祭、参加できるのですねぇ……なんだか新鮮です!)
「ふふ……」
天賦の才か、見知らぬ観客から飛んでくる応援の声に、自然笑いがこぼれる。
(折角のこの雰囲気……楽しむのも良いですよ、ね?)
集団行動で温まった分、澄香の手足はよく伸びる。
(幼い頃の夢を思い出しますね。今は違う夢を追ってるけど、今このひとときは昔に戻ってアイドル目指してみましょうか) 羽織を大きく広げて旋回するパートで、ほのかの目がぐるんぐるんになってしまった。
仲間の顔がわずかにひきつってるのがゆよゆよに見える。
(あ~、私の守護使役のぷわ~んと同じ目になっちゃう~)
パアンと、ほっぺに一喝。
「正気ですよ~」
うなずいて、前列に飛び出した奏空の顔はきりりと引き締まっている。
(F.i.V.E.と新選組ってなんだか似てるなって。新選組も京都を拠点にして治安維持の為に戦ってたんでしょ)
手拍子しながら見守ってくれる観客の笑顔が奏空には嬉しい。
(なんだか、そんな想いを重ねる気持ちで踊るんだ! この街は俺達が守るよ! って見にきてくれた街の人達にその想いが伝わるといいな)
かつてこの地にあった組織は悲しい最期を迎えたけれど、F.i.V.E.の面々は、街の人に愛されますように。
そんな祈りを込めて、たくさんの拍手とともに演技はお開きになった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
