骨女。或いは、夏の始め、夜に踊る。
●骨と踊る
蒸し暑い夜。夏と雨の気配。じめ、っとした空気と、土の臭い。墓場の臭い。
田舎の、半ば山に埋もれて存在するような古い墓だ。名前も彫られていないような無縁仏も無数に存在する。歴史を遡れば、数百年も前からここは墓地だった。
いまや、訪れる者も滅多にいない、そんな墓所。
だから、だろうか。
雨で緩んだ地面を割って、着物姿の骸骨が姿を現す。ボロ切れのような着物を着た、恐らく女の骨だろう。ゆっくり、ゆっくり……その骨、古妖(骨女)は冷たく暗い土の中から、夏の気配が間近に迫る、真夜中の墓所へと現れた。
カタカタと、肉の無い顔を不気味に揺らし……。
骨女は歩く。
ゆっくり、ゆったり。
数百メートル先にある、小さな小さな村へと向かって。
まるで踊りを踊るかのように。
腕を虚空へゆったり伸ばし、火の玉と、数体の骸骨を引き連れて。
●悲しみの中、訪れる
老人が一人、亡くなった。
既に高齢だった。御歳100を超えての大往生。
小さな村だが、通夜には村中の人々が集う。この村でも一番歴史の古い、村の者皆から尊敬の念を抱かれるような、そんな老人だった。
通夜の席には1人の老婆。なくなった老人の、妹だ。
目を閉じ、小さな体をピンと伸ばしてじっとしている。
粛々と、悲しみに包まれた通夜が進んで行く。
そんな中。
「とっ……! 遠くの山に、人魂が見える!」
表に居た参列者の中から、悲鳴のような声が聞こえた。
通夜の場が、ざわめきに包まれる。不安に表情を曇らせる者、恐怖に半ば狂乱する者と、様々だが老婆だけは変わらずに、目を閉じじっとしている。
少しずつ、距離が縮まるにつれて人魂の近くに人影が見えるようになると、なおのこと。
通夜の場は、阿鼻叫喚に包まれた。混乱の最中、老婆は呟く。
「お迎えに来たんよ」
老婆の声は、誰の耳にも届かない。
逃げまどう人々の誰かが、提灯を落とした。地面に落ちた提灯から、炎が燃え広がっていく。それが混乱に拍車をかける。このままでは、怪我人や、果ては死人が増えるのも時間の問題だ。
恐怖と炎は、人から冷静な判断力を失わせる。
だから、助けがいる。
その場へ至り、冷静に、迅速に動ける、誰かの助けが。
●ミッションスタート
「はいはーい♪ 皆こんにちは。早速だけど、今回はちょっと田舎の方へ遠出して来てもらいたいのね♪」
会議室へ飛びこむなり、久方 万里(nCL2000005)はそう告げた。
モニターに映ったのは、田舎の御屋敷。通夜の最中で、大勢の人が集っている。屋敷の庭にある納屋から煙が上がっているのが窺える。火事だ。
さらに屋敷から幾分か離れた道路の上に、人魂と骸骨が4体。
火事と、骸骨達に恐れ慄き、屋敷に集った人々は混乱している。右へ左へとうろたえ、悲鳴を上げ、蜂の巣を突いたような大騒ぎである。
「まずは騒ぎの収拾と、一般人の避難が優先かなー? 骨女たちに敵意があるかは分からないけど、戦闘になった時にまきこんじゃったら可哀そうだもんね」
納屋の火も消してきてね、と万里は告げる。
万里から手渡された資料には、骨女たちの映りの悪い写真と、現場までの地図が記載されていた。
「通夜のタイミングで現れたことに何か理由があるのかな? 分からないけど、相手は古妖。十分に注意してね」
と、そう言って。
万里は、仲間達を送り出すのだった。
蒸し暑い夜。夏と雨の気配。じめ、っとした空気と、土の臭い。墓場の臭い。
田舎の、半ば山に埋もれて存在するような古い墓だ。名前も彫られていないような無縁仏も無数に存在する。歴史を遡れば、数百年も前からここは墓地だった。
いまや、訪れる者も滅多にいない、そんな墓所。
だから、だろうか。
雨で緩んだ地面を割って、着物姿の骸骨が姿を現す。ボロ切れのような着物を着た、恐らく女の骨だろう。ゆっくり、ゆっくり……その骨、古妖(骨女)は冷たく暗い土の中から、夏の気配が間近に迫る、真夜中の墓所へと現れた。
カタカタと、肉の無い顔を不気味に揺らし……。
骨女は歩く。
ゆっくり、ゆったり。
数百メートル先にある、小さな小さな村へと向かって。
まるで踊りを踊るかのように。
腕を虚空へゆったり伸ばし、火の玉と、数体の骸骨を引き連れて。
●悲しみの中、訪れる
老人が一人、亡くなった。
既に高齢だった。御歳100を超えての大往生。
小さな村だが、通夜には村中の人々が集う。この村でも一番歴史の古い、村の者皆から尊敬の念を抱かれるような、そんな老人だった。
通夜の席には1人の老婆。なくなった老人の、妹だ。
目を閉じ、小さな体をピンと伸ばしてじっとしている。
粛々と、悲しみに包まれた通夜が進んで行く。
そんな中。
「とっ……! 遠くの山に、人魂が見える!」
表に居た参列者の中から、悲鳴のような声が聞こえた。
通夜の場が、ざわめきに包まれる。不安に表情を曇らせる者、恐怖に半ば狂乱する者と、様々だが老婆だけは変わらずに、目を閉じじっとしている。
少しずつ、距離が縮まるにつれて人魂の近くに人影が見えるようになると、なおのこと。
通夜の場は、阿鼻叫喚に包まれた。混乱の最中、老婆は呟く。
「お迎えに来たんよ」
老婆の声は、誰の耳にも届かない。
逃げまどう人々の誰かが、提灯を落とした。地面に落ちた提灯から、炎が燃え広がっていく。それが混乱に拍車をかける。このままでは、怪我人や、果ては死人が増えるのも時間の問題だ。
恐怖と炎は、人から冷静な判断力を失わせる。
だから、助けがいる。
その場へ至り、冷静に、迅速に動ける、誰かの助けが。
●ミッションスタート
「はいはーい♪ 皆こんにちは。早速だけど、今回はちょっと田舎の方へ遠出して来てもらいたいのね♪」
会議室へ飛びこむなり、久方 万里(nCL2000005)はそう告げた。
モニターに映ったのは、田舎の御屋敷。通夜の最中で、大勢の人が集っている。屋敷の庭にある納屋から煙が上がっているのが窺える。火事だ。
さらに屋敷から幾分か離れた道路の上に、人魂と骸骨が4体。
火事と、骸骨達に恐れ慄き、屋敷に集った人々は混乱している。右へ左へとうろたえ、悲鳴を上げ、蜂の巣を突いたような大騒ぎである。
「まずは騒ぎの収拾と、一般人の避難が優先かなー? 骨女たちに敵意があるかは分からないけど、戦闘になった時にまきこんじゃったら可哀そうだもんね」
納屋の火も消してきてね、と万里は告げる。
万里から手渡された資料には、骨女たちの映りの悪い写真と、現場までの地図が記載されていた。
「通夜のタイミングで現れたことに何か理由があるのかな? 分からないけど、相手は古妖。十分に注意してね」
と、そう言って。
万里は、仲間達を送り出すのだった。
■シナリオ詳細
■成功条件
1.混乱の収拾
2.骨女の撃退
3.なし
2.骨女の撃退
3.なし
今回は、小さな村で行われる通夜の最中に現れた古妖の話。
現場へ駆け付け、人命救助と古妖の相手をお願いします。
では、以下詳細。
●場所
真夜中。雨の気配漂う、蒸し暑い夜。
墓所から村の御屋敷までの数百メートル。すでに半ばまで進んでいる。
舗装もされていない狭い道路。左右は田んぼや畑に囲まれていて、ほぼ一本道。
屋敷周辺には数十人からなる村人が集まっている。現在狂乱状態。屋敷の納屋では火事が起きている。
騒ぎたてる村人たちを避難させないと、そのうち怪我人が出るだろう。
●ターゲット
古妖(骨女)×1
ぼろぼろの着物を纏った女性の骨。
何かしらの目的があって、墓所から姿を現したようだ。
歩みは遅いが、砕かれても体のパーツを繋ぎ直すことができるので、打たれ強い。
【髑髏砲】→物遠単[不運][呪縛]
腕を射出し、対象に掴みかかる
【人魂砲】→特遠列[不安][防御無視]
人魂を射出し、対象周辺を炎で包む
古妖(骸骨)×3
骨女に従って歩く、人骨。3体での連携を得意としている。
お互いの身体や、周囲の農具などを武器として扱うこともある。
【骸骨闘方】→物近単[出血][麻痺]
近接格闘。武士のような動きをする
骨女たちは、1体につき1つ、人魂を連れている。
何かしらの目的があって、この場に姿を現したようだが……。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年07月01日
2016年07月01日
■メイン参加者 8人■
●混乱の最中、迫る骸
通夜の最中、現れた骨女とその他3体の骸骨達。混乱する屋敷では、納屋で火災が発生し、人々は悲鳴をあげ右往左往。その間も、骨女達は屋敷へと進んで来ている。
火事の規模はますます大きくなり、それに比例して騒ぎも大きくなっていた。
ただ一人、遺体の傍に座った老婆だけ、背筋を伸ばして目を閉じ、じっとしている。
「落ち着いてっ! いい大人が慌てないで!」
騒ぎの中、『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)の叫びが屋敷中に木霊した。たった一人の少女の一喝が、ほんの僅かな静寂を生む。
火の燃える音が耳に痛い。熱気に髪を舞い踊らせながら、燃えさかる納屋の前に立つ結鹿。
「あんたは……。いや、あんたらは?」
と、参列者の一人がそう問いかける。
「皆さん、落ち着いてください!F.I.V.E.です。私達が来たからにはもう大丈夫ですよ。私達の仲間が時間を稼いでますし、火事だってちゃんと消しますからね」
「俺達が火事も古妖も対処しますので落ち着いて避難してください」
屋敷の門の外側では『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)と『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が一般人の誘導にあたる。
老人、女子供を優先して逃がす中『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)は、男衆を指揮し納屋の消火に取りかかる。混乱する男共ではそこまで役に立つものでもないが、それでも人手が必要な程度には火事の勢いは増している。
「相手側の事情が分かれば必ずしも戦う必要はないかもしれないね」
空気中の水気を操り、納屋の周囲を霧で覆う。
鎮火までに時間はかかるだろうが、ひとまずはこれ以上火事が拡大することはないだろう。
●夜道の迎撃戦
「こんばんは、骨女サン。今宵はとても素敵な夜ね。少しお話しない? 時間はそんなに取らせないわ」
夜道に並ぶ4人の男女。骨女と骸骨達は足を止め、カカカと骨を鳴らす。
表情や態度からは骨女達がこちらに敵意を抱いているか否かは判断できない。『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)は困ったような表情を浮かべ、懐に忍ばせた呪符に手を伸ばすか否か悩んでいる。
「まぁ、一筋縄でいくとは思ってないしな。古妖と人なんてこれだけ近くで生活してるんだ色々あって当然だろ」
夜道が明るく照らされる。東雲 梛(CL2001410)の守護使役(まもり)の能力によるものだ。まもりの頭を撫でながら、梛は清廉香を使用し、味方の自然治癒力を高める。
「……出来るならやりあいたくはないものだ」
「今回はあくまで、この骨女の真意を探ることを目的としますので、そこは各調査班にお任せします」
骨女達の様子を見守る『天狗の娘』鞍馬・翔子(CL2001349)と『天剣の巫女』宮川・エミリ(CL2000045)は、視線を交差させるとそれぞれの武器に手を伸ばした。
万が一の強襲に備えて、迎撃姿勢を整える。
警戒したように、骸骨達が数歩前に出て、近くに落ちていた農具や案山子を引き抜いた。カカカと骨を鳴らすばかりで、骨女達から返事はない。
張りつめた緊張感に冷や汗が流れる。
その時だ。
『こっちに来るなぁ!』
なんて叫び声と共に、骨女目がけて石が投げつけられた。拳大の石が、骨女の頭蓋骨を僅かに削る。
石を投げたのは、混乱の最中、屋敷から抜け出して来た一人の若者だった。
若者の存在を確認し、骸骨達が動き始める。鎌を振り上げ、案山子を構え、鋤を突き出し駆け出した。
若者は、骸骨達の殺気を感じ、踵を返して逃げ出していく。それを追いかける骸骨の前に、梛、翔子、エミリが立ちはだかった。
攻撃したのは人間で、こちらに非があるとは言え、このまま黙って若者の命が失われるのを見ているわけにはいかない。
「おっと! 行かせねぇぜ!」
駆け出した骸骨の横腹に体当たりをかました梛が、骸骨ともつれ合うようにして地面を転がる。倒れた梛に向けて、別の骸骨が鎌を叩きつけるが、間に割って入ったエミリの刀がそれを受け止めた。
「あなた達の目的がはっきりするまで、私はただ、足止めするのみ、です」
「まぁひとまずは、丸く治めるためにがんばらんとな」
圧縮した空気の弾丸を、骸骨の足元へと撃ち込み、翔子は1人後衛へと下がる。
本来ならば話しあいで解決したかったのだが、なし崩し的に戦闘が始まってしまった。こうなっては、もう、黙って話しを聞いてくれはしないだろう。
倒さず、倒されず、ここから先へは進ませず。
「骨女サン……有名なトコでは牡丹灯篭の骸骨よね。男と愛し合った女が実は骸骨だった、って言うお話。この骨女サンはどうなのかしら」
掌の上に炎を灯し、ありすは数歩、後ろへ下がった。視線はまっすぐ、未だ動きのない骨女へと向いている。
膠着した戦場に、一迅の生ぬるい風が吹く。
骨女と骸骨達の連れている人魂が、ボウと音を立てて燃え上がった。
「慌てず騒がず移動してください!人魂の方向と反対に進めば安全ですよ。暗いですから足元に注意してくださいね」
逃げ遅れた老婦人を見送り、ラーラは小さく溜め息を零す。奏空は、周囲をぐるりと確認し、老婆を残して屋敷に居た一般人は全員避難したことを確認。
「避難誘導は、こんなもんでいいかな?」
背後を見やると、結鹿と理央はまだ消火活動中だった。老婆は相変わらず、目を閉じて遺体の傍に座ったまま。他の一般人は皆、避難済み。
その場を二人に任せ、ラーラと奏空は戦場へと駆ける。
納屋の周囲を水気が覆う。炎が完全に鎮火したことを確認し、理央はほっと溜め息を零す。
「やっと消えたね。さて、亡くなったお爺さんに交霊術を試してみましょうか」
「わたしはお婆さんに話を聞いてみますね」
そう言って、結鹿は屋敷の方へと駆けていく。
交霊術の準備を整えながら、理央もそれに続いた。
理央が部屋に入ると、すでに結鹿は老婆に話しかけている最中だった。
「おばあちゃん、山から来るものが何か知っているの? わたしでよかったら、教えてください」
結鹿が問いかけると、老婆はゆっくりと目を開けた。
『骨女達か? 大昔から、この村にいて私の一族の誰かが死ぬと、あぁして迎えに来るんだよ。いいもんか、悪いもんかは分からないけどね』
その話に耳を傾けながら、理央は老人の遺体に対して交霊術を試みる。
理央の呼びかけに応えた老人の話も、老婆のしたそれと同じものだった。
「おばあちゃんは、山から来るものにどうしてあげたいと思ってる? それってわたしでもできることかな?」
『……別にどうも。ただ叶うなら、目的と、魂の行き先を聞いてみたいね』
「有益な情報はないけど、悪意があるのかも分からないね。人的被害等の村やボク等に不利益が被らないなら骨女達を戦闘で撃退せず、古妖には目的を達して貰ってお帰り願うよ」
行ってきます! と結鹿は老婆に向かって声をかけ、理央の並んで歩き始める。
向かう先は夜道の向こう。仲間達の戦う戦場へ。
案山子が突き出される。僅かに送れて鋤が振り下ろされ、それを回避したと思ったら今度は足元をすくうように鎌が降り抜かれた。
梛、翔子、エミリの3人はそれを回避し、時に受け止めながら少しずつ後退していく。
骸骨達は、どうも戦闘慣れしているようだ。それも、複数人同時に相手をする、乱戦に。
絶え間ない連続攻撃。不用意に踏み込まず、隙を見せない。骸骨の誰かが攻撃した瞬間、それをカバーするように別の骸骨が攻撃を繋げる。
「仕方ない……。……恨むなら恨め、愛するものではなく、今からお前達を倒す、この私をな」
これ以上は裁き切れないと判断し、翔子が攻勢に転じる。
圧縮した空気の弾丸を、先頭に立つ骸骨へと撃ち込んだ。よろめき、その場に倒れ込む骸骨。その頭を蹴って、エミリが跳んだ。
上段から振り下ろされる刀の一撃。
骸骨はそれを、鋤を掲げて受け止める。
「冷静に見極めたいと思いますが、死んだらそれも叶いませんので」
「……だな」
第三の目を開眼させ、梛も攻勢に転じようとしたその時。
「うぁあ!!」
悲鳴とともに、ありすが炎に包まれた。
ありすを助けに、梛が走る。
地面を滑り、倒れたありすの身体を抱き上げ、田んぼへと転がりこんだ。先ほどまでありすの居た場所を、骨女の腕が通過。
追撃しようと体を反転させた骨女の眼前を、炎の弾丸が通過する。炎を放ったのはラーラだ。
ラーラを追い越し、奏空も戦線に加わる。
日本の刀を振り抜いて、骸骨達を牽制。
夜道の向こうから、結鹿と理央が走ってくるのも見える。
骨女に相対するのは、ラーラ、梛、ありすの三人。骨女の連れていた人魂が激しく燃え上がる。
骸骨の連撃を、エミリが裁く。エミリの死角から放たれた鎌による一撃は、奏空の刀が受け流した。
僅かに生じた一瞬の隙を突いて、翔子は空気の弾丸を放つ。空気の弾丸を受けた案山子が、半ばほどからへし折れた。
飛び散る木端の雨の中を、戦場へ辿り着いた結鹿が駆け抜けた。
刀による一閃が、骸骨の腕を切りあげる。鋤を取り落とし、骸骨は後退。
「待たせたね。回復はボクに任せて」
淡い燐光と飛び散る水滴。理央の回復術が、仲間達の傷を癒す。
骨女の放つ炎を回避しながらありすが叫ぶ。
「ま、正直アタシは親古妖派だから、好きにさせてあげたいんだけど。そのお爺さんの家族とか、悲しむんじゃないかしら。それで、お爺さんは幸せになれるかしらね? アナタだけの人じゃないのよ、やっぱり。あきらめて……くれない?」
骨女の足元へ、火炎弾を撃ち込み牽制。
骨女を傷つけないよう、無意識のうちに命中させてしまうことを避けてしまっている。
だが、飛び散った火の粉と土で、骨女の視界を塞ぐことはできる。
一瞬の隙をついて、骨女の左側へラーラが回り込む。
「怖くない怖くない……怖いと思うから怖くなるんです」
連続して放たれた拳大の火球が、骨女の脇腹を撃ち抜く。大きくよろけた骨女だが、踏鞴を踏みながら人魂を撃ち出した。
人魂は、ラーラの眼前で弾け、ラーラの身体を火炎で包みこんだ。
「悪意がないって分かったなら、爺さんの遺体は俺達が届けるけど? この通りパニックになってたからな他の人。お互い悪くない提案だと思うけど?」
生命力が凝縮された雫が降り注ぐ。
梛は仲間へ治療を施しつつ、骨女を観察していた。骨女と同じく人魂を連れている自分なら、骨女の使う人魂砲を理解できるのではないか、と考えているのだ。
「不安になるのも、防御できないのも炎以外に霊的な力を媒介にしてるからと推理します。再現には様々な炎スキルの扱いだけでなく、霊的存在と交流する術が必要なのではないでしょうか?」
梛と同様に、人魂砲をラーニングしていたラーラも、自分なりの考察を述べる。
次々と撃ち込まれる火炎弾に視界を塞がれ、骨女は動きを封じられている。
「そろそろ回復も必要ないかな?」
そう呟いて、理央はゆっくり右腕を前へと突き出した。僅かな燐光と共に、最前列で戦っている骸骨の眉間目がけ、水弾を撃ち出した。
放たれた水弾は、仲間達の間をすり抜け、骸骨の額を撃ち抜いた。
砕けた骨片が飛び散る中、奏空が骸骨の足元を2本の刀で掬い上げた。
「なんだか敵意は感じても悪意は感じないんだよね。俺はなるべくは戦いたくないんだけどな」
交霊術を試した結果、奏空が感じ取った人魂の想いは『命令。必要。実行』の3つだった。骸骨達の感情は希薄なようで、それ以上のことは思念は感じ取れない。
バランスを崩した骸骨が、地面に倒れ込む。
倒れた骸骨の頭上を跳び超えて、2体目の骸骨が前へ出る。力任せに振り下ろされた鋤による一撃を、結鹿が受け止める。
骸骨の身体に、濃霧が纏わり付いた。
岩の鎧を身に纏い、紫鋼塞により防御力を底上げした結鹿は刀を掲げて鋤の一撃を受けきった。
「聞く耳を持たないようですね。話を聞いて欲しくば倒してから、でしょうか」
「一見相容れぬものたちに見えても、お互いに理解があれば、歩み寄る事は不可能ではない。……そうであって欲しいと願うのだが」
するり、と骸骨の懐に潜り込んだ翔子は、骸骨の身体へ毒を流し込む。
毒に侵された骸骨は、体力を奪われながらも鋤を振るい続けた。翔子は、最後に残った骸骨から毒に侵された骸骨を引き離すべく、後退。
結鹿はその場に留まり、ちらちらと骨女の方を見ている。
「行っておいでよ。こっちはボク達に任せてさ」
その背を押したのは理央だった。
理央に促され、結鹿は駆け出す。老婆の言葉を、仲間達へ伝えるために。
それを追って、田んぼから引き抜いた木の杭を手に、最後に残った骸骨が走る。
だが……。
「あなた達の真意を私に見せてみなさい……。あなた達は、何をしたいの?」
姿勢を低く、地面を滑るように疾走するエミリが、骸骨の正面に回り込んだ。
骸骨が杭を突き出す。
エミリはそれを刀で捌く。
肉薄した状態からの激しい打ち合いが始まった。
●届け言の葉
「人魂を撃って炎をまき散らすのか……。いけるか?」
連れている自身の人魂へと視線を向け、梛は目を閉じる。思い浮かべるのは骨女の人魂砲。けれど、梛の連れた人魂はぴくりとも動かない。
「やっぱ無理か」
第3の目を開眼させ、魔光を放つ。
放たれた光線が、骨女の放った右腕を射抜き、地面へと叩き落した。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
「荒事にはしたくないんだけど。そっちがそのつもりなら仕方ないわ」
左右から放たれた火炎弾。ラーラとありすが同時に放った火焔連弾が骨女の周囲を炎で囲む。
骨女の目的が分からない以上、止めを刺すか否か、一瞬の躊躇いが生じる。
交霊術を試すべきか悩むラーラに先んじて、ありすは唇と強く引き結び、鋭い視線を骨女へと向け、言葉を紡ぐ。手には呪符。炎が灯る、トドメの一撃。
「やるからには灰一つ残さず焼き尽くしてあげるわ」
ありすが呪符を放つ、その寸前。
「待って下さい!」
そう叫んで、結鹿が骨女の前へと割り込んだ。
「待って下さい。骨女さんとお話させてください! お婆さんが言っていました。お婆さんの一族で誰かが亡くなると、骨女さんが迎えに来るって! 何のために来るのかと、魂の行き先を聞いてみたいんだそうです!」
これ以上戦いを続ける必要はない、と。
両腕を限界まで広げ、結鹿は叫んだ。
結鹿へ向け、人魂砲を放とうとしていた骨女も、動きを止める。
静寂。
やがて、ゆっくりと骨女は両腕を降ろし、自身の連れた人魂を指さした。
それを見て、結鹿は首を傾げる。
はっ、とした表情を浮かべ、ラーラは静かに目を閉じた。対象は人魂。
4人の見ている目の前で、人魂はゆっくりと人の姿へと変わって行った。
それは美しい女性だった。
白い着物を着て、黒い髪を風に踊らせている。
「この方は、亡くなったおじいさんの奥さんだそうです。骨女さんに頼んで、おじいさんを迎えに来たみたいですね。おじいさんの一族は、死後もこの土地を守るためにその魂は山へと迎えられるのだそうです。骨女さんは、一族最初の当主だった女性で、お迎えの役割を担っているのだとか」
つまるところ……。
骨女達にとって、武器を手に道を塞ぐF.I.V.E.の面々は、目的不明の他所者で、お役目を邪魔する敵に他ならなかったのである。
「あぁ、そういうこと……。骨女サンは奥さんじゃなかったのね」
骨女の正体は、老人の妻だと思いこんでいたありすは、勘違いに頬を朱に染める。
もっとも彼女の考察は、当たらずとも遠からず、といった所ではあったわけだが。
いつの間にか、骸骨たちも動きを止めていた。
骨女が、カカカと骨を鳴らして何事か指示すると骸骨達はゆっくり反転、山へ向かって帰って行く。
骨女の周囲を囲んでいた炎もすでに消えている。
骨女を先頭に、8人は老婆と老人の魂が待つ屋敷へと、歩いて行った。
『そうか……。兄の魂も、御先祖様の魂も、全部この村を守ってくれているのか。そりゃあ、良かった』
結鹿から話を聞いた老婆は、骨女に向け深く頭を下げる。
『でしたら、お願いします。兄の魂を、お願いします。これからも、わしらを守ってください。義姉さんも、ありがとう。迎えに来てくれたんだね』
一粒。
涙が零れ、畳を濡らす。
老人の遺体から、青白い人魂が浮かび上がった。それは、骨女の連れていた人魂と寄り添うようにして、空中を舞う。
骨女は、老婆に向けて静かに頭を下げると、2つの人魂を伴い山へと戻って行く。
その姿が見えなくなるまで、8人はその背を見送っていた。
「悪い古妖ばかりでは、ないのですね」
「そうみたいだな。……丸く収まれば、私はそれをただ見守るだけさ」
エミリーと翔子は、小さな声で言葉を交わし遠ざかる人魂を目で追った。
通夜の最中、現れた骨女とその他3体の骸骨達。混乱する屋敷では、納屋で火災が発生し、人々は悲鳴をあげ右往左往。その間も、骨女達は屋敷へと進んで来ている。
火事の規模はますます大きくなり、それに比例して騒ぎも大きくなっていた。
ただ一人、遺体の傍に座った老婆だけ、背筋を伸ばして目を閉じ、じっとしている。
「落ち着いてっ! いい大人が慌てないで!」
騒ぎの中、『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)の叫びが屋敷中に木霊した。たった一人の少女の一喝が、ほんの僅かな静寂を生む。
火の燃える音が耳に痛い。熱気に髪を舞い踊らせながら、燃えさかる納屋の前に立つ結鹿。
「あんたは……。いや、あんたらは?」
と、参列者の一人がそう問いかける。
「皆さん、落ち着いてください!F.I.V.E.です。私達が来たからにはもう大丈夫ですよ。私達の仲間が時間を稼いでますし、火事だってちゃんと消しますからね」
「俺達が火事も古妖も対処しますので落ち着いて避難してください」
屋敷の門の外側では『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)と『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が一般人の誘導にあたる。
老人、女子供を優先して逃がす中『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)は、男衆を指揮し納屋の消火に取りかかる。混乱する男共ではそこまで役に立つものでもないが、それでも人手が必要な程度には火事の勢いは増している。
「相手側の事情が分かれば必ずしも戦う必要はないかもしれないね」
空気中の水気を操り、納屋の周囲を霧で覆う。
鎮火までに時間はかかるだろうが、ひとまずはこれ以上火事が拡大することはないだろう。
●夜道の迎撃戦
「こんばんは、骨女サン。今宵はとても素敵な夜ね。少しお話しない? 時間はそんなに取らせないわ」
夜道に並ぶ4人の男女。骨女と骸骨達は足を止め、カカカと骨を鳴らす。
表情や態度からは骨女達がこちらに敵意を抱いているか否かは判断できない。『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)は困ったような表情を浮かべ、懐に忍ばせた呪符に手を伸ばすか否か悩んでいる。
「まぁ、一筋縄でいくとは思ってないしな。古妖と人なんてこれだけ近くで生活してるんだ色々あって当然だろ」
夜道が明るく照らされる。東雲 梛(CL2001410)の守護使役(まもり)の能力によるものだ。まもりの頭を撫でながら、梛は清廉香を使用し、味方の自然治癒力を高める。
「……出来るならやりあいたくはないものだ」
「今回はあくまで、この骨女の真意を探ることを目的としますので、そこは各調査班にお任せします」
骨女達の様子を見守る『天狗の娘』鞍馬・翔子(CL2001349)と『天剣の巫女』宮川・エミリ(CL2000045)は、視線を交差させるとそれぞれの武器に手を伸ばした。
万が一の強襲に備えて、迎撃姿勢を整える。
警戒したように、骸骨達が数歩前に出て、近くに落ちていた農具や案山子を引き抜いた。カカカと骨を鳴らすばかりで、骨女達から返事はない。
張りつめた緊張感に冷や汗が流れる。
その時だ。
『こっちに来るなぁ!』
なんて叫び声と共に、骨女目がけて石が投げつけられた。拳大の石が、骨女の頭蓋骨を僅かに削る。
石を投げたのは、混乱の最中、屋敷から抜け出して来た一人の若者だった。
若者の存在を確認し、骸骨達が動き始める。鎌を振り上げ、案山子を構え、鋤を突き出し駆け出した。
若者は、骸骨達の殺気を感じ、踵を返して逃げ出していく。それを追いかける骸骨の前に、梛、翔子、エミリが立ちはだかった。
攻撃したのは人間で、こちらに非があるとは言え、このまま黙って若者の命が失われるのを見ているわけにはいかない。
「おっと! 行かせねぇぜ!」
駆け出した骸骨の横腹に体当たりをかました梛が、骸骨ともつれ合うようにして地面を転がる。倒れた梛に向けて、別の骸骨が鎌を叩きつけるが、間に割って入ったエミリの刀がそれを受け止めた。
「あなた達の目的がはっきりするまで、私はただ、足止めするのみ、です」
「まぁひとまずは、丸く治めるためにがんばらんとな」
圧縮した空気の弾丸を、骸骨の足元へと撃ち込み、翔子は1人後衛へと下がる。
本来ならば話しあいで解決したかったのだが、なし崩し的に戦闘が始まってしまった。こうなっては、もう、黙って話しを聞いてくれはしないだろう。
倒さず、倒されず、ここから先へは進ませず。
「骨女サン……有名なトコでは牡丹灯篭の骸骨よね。男と愛し合った女が実は骸骨だった、って言うお話。この骨女サンはどうなのかしら」
掌の上に炎を灯し、ありすは数歩、後ろへ下がった。視線はまっすぐ、未だ動きのない骨女へと向いている。
膠着した戦場に、一迅の生ぬるい風が吹く。
骨女と骸骨達の連れている人魂が、ボウと音を立てて燃え上がった。
「慌てず騒がず移動してください!人魂の方向と反対に進めば安全ですよ。暗いですから足元に注意してくださいね」
逃げ遅れた老婦人を見送り、ラーラは小さく溜め息を零す。奏空は、周囲をぐるりと確認し、老婆を残して屋敷に居た一般人は全員避難したことを確認。
「避難誘導は、こんなもんでいいかな?」
背後を見やると、結鹿と理央はまだ消火活動中だった。老婆は相変わらず、目を閉じて遺体の傍に座ったまま。他の一般人は皆、避難済み。
その場を二人に任せ、ラーラと奏空は戦場へと駆ける。
納屋の周囲を水気が覆う。炎が完全に鎮火したことを確認し、理央はほっと溜め息を零す。
「やっと消えたね。さて、亡くなったお爺さんに交霊術を試してみましょうか」
「わたしはお婆さんに話を聞いてみますね」
そう言って、結鹿は屋敷の方へと駆けていく。
交霊術の準備を整えながら、理央もそれに続いた。
理央が部屋に入ると、すでに結鹿は老婆に話しかけている最中だった。
「おばあちゃん、山から来るものが何か知っているの? わたしでよかったら、教えてください」
結鹿が問いかけると、老婆はゆっくりと目を開けた。
『骨女達か? 大昔から、この村にいて私の一族の誰かが死ぬと、あぁして迎えに来るんだよ。いいもんか、悪いもんかは分からないけどね』
その話に耳を傾けながら、理央は老人の遺体に対して交霊術を試みる。
理央の呼びかけに応えた老人の話も、老婆のしたそれと同じものだった。
「おばあちゃんは、山から来るものにどうしてあげたいと思ってる? それってわたしでもできることかな?」
『……別にどうも。ただ叶うなら、目的と、魂の行き先を聞いてみたいね』
「有益な情報はないけど、悪意があるのかも分からないね。人的被害等の村やボク等に不利益が被らないなら骨女達を戦闘で撃退せず、古妖には目的を達して貰ってお帰り願うよ」
行ってきます! と結鹿は老婆に向かって声をかけ、理央の並んで歩き始める。
向かう先は夜道の向こう。仲間達の戦う戦場へ。
案山子が突き出される。僅かに送れて鋤が振り下ろされ、それを回避したと思ったら今度は足元をすくうように鎌が降り抜かれた。
梛、翔子、エミリの3人はそれを回避し、時に受け止めながら少しずつ後退していく。
骸骨達は、どうも戦闘慣れしているようだ。それも、複数人同時に相手をする、乱戦に。
絶え間ない連続攻撃。不用意に踏み込まず、隙を見せない。骸骨の誰かが攻撃した瞬間、それをカバーするように別の骸骨が攻撃を繋げる。
「仕方ない……。……恨むなら恨め、愛するものではなく、今からお前達を倒す、この私をな」
これ以上は裁き切れないと判断し、翔子が攻勢に転じる。
圧縮した空気の弾丸を、先頭に立つ骸骨へと撃ち込んだ。よろめき、その場に倒れ込む骸骨。その頭を蹴って、エミリが跳んだ。
上段から振り下ろされる刀の一撃。
骸骨はそれを、鋤を掲げて受け止める。
「冷静に見極めたいと思いますが、死んだらそれも叶いませんので」
「……だな」
第三の目を開眼させ、梛も攻勢に転じようとしたその時。
「うぁあ!!」
悲鳴とともに、ありすが炎に包まれた。
ありすを助けに、梛が走る。
地面を滑り、倒れたありすの身体を抱き上げ、田んぼへと転がりこんだ。先ほどまでありすの居た場所を、骨女の腕が通過。
追撃しようと体を反転させた骨女の眼前を、炎の弾丸が通過する。炎を放ったのはラーラだ。
ラーラを追い越し、奏空も戦線に加わる。
日本の刀を振り抜いて、骸骨達を牽制。
夜道の向こうから、結鹿と理央が走ってくるのも見える。
骨女に相対するのは、ラーラ、梛、ありすの三人。骨女の連れていた人魂が激しく燃え上がる。
骸骨の連撃を、エミリが裁く。エミリの死角から放たれた鎌による一撃は、奏空の刀が受け流した。
僅かに生じた一瞬の隙を突いて、翔子は空気の弾丸を放つ。空気の弾丸を受けた案山子が、半ばほどからへし折れた。
飛び散る木端の雨の中を、戦場へ辿り着いた結鹿が駆け抜けた。
刀による一閃が、骸骨の腕を切りあげる。鋤を取り落とし、骸骨は後退。
「待たせたね。回復はボクに任せて」
淡い燐光と飛び散る水滴。理央の回復術が、仲間達の傷を癒す。
骨女の放つ炎を回避しながらありすが叫ぶ。
「ま、正直アタシは親古妖派だから、好きにさせてあげたいんだけど。そのお爺さんの家族とか、悲しむんじゃないかしら。それで、お爺さんは幸せになれるかしらね? アナタだけの人じゃないのよ、やっぱり。あきらめて……くれない?」
骨女の足元へ、火炎弾を撃ち込み牽制。
骨女を傷つけないよう、無意識のうちに命中させてしまうことを避けてしまっている。
だが、飛び散った火の粉と土で、骨女の視界を塞ぐことはできる。
一瞬の隙をついて、骨女の左側へラーラが回り込む。
「怖くない怖くない……怖いと思うから怖くなるんです」
連続して放たれた拳大の火球が、骨女の脇腹を撃ち抜く。大きくよろけた骨女だが、踏鞴を踏みながら人魂を撃ち出した。
人魂は、ラーラの眼前で弾け、ラーラの身体を火炎で包みこんだ。
「悪意がないって分かったなら、爺さんの遺体は俺達が届けるけど? この通りパニックになってたからな他の人。お互い悪くない提案だと思うけど?」
生命力が凝縮された雫が降り注ぐ。
梛は仲間へ治療を施しつつ、骨女を観察していた。骨女と同じく人魂を連れている自分なら、骨女の使う人魂砲を理解できるのではないか、と考えているのだ。
「不安になるのも、防御できないのも炎以外に霊的な力を媒介にしてるからと推理します。再現には様々な炎スキルの扱いだけでなく、霊的存在と交流する術が必要なのではないでしょうか?」
梛と同様に、人魂砲をラーニングしていたラーラも、自分なりの考察を述べる。
次々と撃ち込まれる火炎弾に視界を塞がれ、骨女は動きを封じられている。
「そろそろ回復も必要ないかな?」
そう呟いて、理央はゆっくり右腕を前へと突き出した。僅かな燐光と共に、最前列で戦っている骸骨の眉間目がけ、水弾を撃ち出した。
放たれた水弾は、仲間達の間をすり抜け、骸骨の額を撃ち抜いた。
砕けた骨片が飛び散る中、奏空が骸骨の足元を2本の刀で掬い上げた。
「なんだか敵意は感じても悪意は感じないんだよね。俺はなるべくは戦いたくないんだけどな」
交霊術を試した結果、奏空が感じ取った人魂の想いは『命令。必要。実行』の3つだった。骸骨達の感情は希薄なようで、それ以上のことは思念は感じ取れない。
バランスを崩した骸骨が、地面に倒れ込む。
倒れた骸骨の頭上を跳び超えて、2体目の骸骨が前へ出る。力任せに振り下ろされた鋤による一撃を、結鹿が受け止める。
骸骨の身体に、濃霧が纏わり付いた。
岩の鎧を身に纏い、紫鋼塞により防御力を底上げした結鹿は刀を掲げて鋤の一撃を受けきった。
「聞く耳を持たないようですね。話を聞いて欲しくば倒してから、でしょうか」
「一見相容れぬものたちに見えても、お互いに理解があれば、歩み寄る事は不可能ではない。……そうであって欲しいと願うのだが」
するり、と骸骨の懐に潜り込んだ翔子は、骸骨の身体へ毒を流し込む。
毒に侵された骸骨は、体力を奪われながらも鋤を振るい続けた。翔子は、最後に残った骸骨から毒に侵された骸骨を引き離すべく、後退。
結鹿はその場に留まり、ちらちらと骨女の方を見ている。
「行っておいでよ。こっちはボク達に任せてさ」
その背を押したのは理央だった。
理央に促され、結鹿は駆け出す。老婆の言葉を、仲間達へ伝えるために。
それを追って、田んぼから引き抜いた木の杭を手に、最後に残った骸骨が走る。
だが……。
「あなた達の真意を私に見せてみなさい……。あなた達は、何をしたいの?」
姿勢を低く、地面を滑るように疾走するエミリが、骸骨の正面に回り込んだ。
骸骨が杭を突き出す。
エミリはそれを刀で捌く。
肉薄した状態からの激しい打ち合いが始まった。
●届け言の葉
「人魂を撃って炎をまき散らすのか……。いけるか?」
連れている自身の人魂へと視線を向け、梛は目を閉じる。思い浮かべるのは骨女の人魂砲。けれど、梛の連れた人魂はぴくりとも動かない。
「やっぱ無理か」
第3の目を開眼させ、魔光を放つ。
放たれた光線が、骨女の放った右腕を射抜き、地面へと叩き落した。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
「荒事にはしたくないんだけど。そっちがそのつもりなら仕方ないわ」
左右から放たれた火炎弾。ラーラとありすが同時に放った火焔連弾が骨女の周囲を炎で囲む。
骨女の目的が分からない以上、止めを刺すか否か、一瞬の躊躇いが生じる。
交霊術を試すべきか悩むラーラに先んじて、ありすは唇と強く引き結び、鋭い視線を骨女へと向け、言葉を紡ぐ。手には呪符。炎が灯る、トドメの一撃。
「やるからには灰一つ残さず焼き尽くしてあげるわ」
ありすが呪符を放つ、その寸前。
「待って下さい!」
そう叫んで、結鹿が骨女の前へと割り込んだ。
「待って下さい。骨女さんとお話させてください! お婆さんが言っていました。お婆さんの一族で誰かが亡くなると、骨女さんが迎えに来るって! 何のために来るのかと、魂の行き先を聞いてみたいんだそうです!」
これ以上戦いを続ける必要はない、と。
両腕を限界まで広げ、結鹿は叫んだ。
結鹿へ向け、人魂砲を放とうとしていた骨女も、動きを止める。
静寂。
やがて、ゆっくりと骨女は両腕を降ろし、自身の連れた人魂を指さした。
それを見て、結鹿は首を傾げる。
はっ、とした表情を浮かべ、ラーラは静かに目を閉じた。対象は人魂。
4人の見ている目の前で、人魂はゆっくりと人の姿へと変わって行った。
それは美しい女性だった。
白い着物を着て、黒い髪を風に踊らせている。
「この方は、亡くなったおじいさんの奥さんだそうです。骨女さんに頼んで、おじいさんを迎えに来たみたいですね。おじいさんの一族は、死後もこの土地を守るためにその魂は山へと迎えられるのだそうです。骨女さんは、一族最初の当主だった女性で、お迎えの役割を担っているのだとか」
つまるところ……。
骨女達にとって、武器を手に道を塞ぐF.I.V.E.の面々は、目的不明の他所者で、お役目を邪魔する敵に他ならなかったのである。
「あぁ、そういうこと……。骨女サンは奥さんじゃなかったのね」
骨女の正体は、老人の妻だと思いこんでいたありすは、勘違いに頬を朱に染める。
もっとも彼女の考察は、当たらずとも遠からず、といった所ではあったわけだが。
いつの間にか、骸骨たちも動きを止めていた。
骨女が、カカカと骨を鳴らして何事か指示すると骸骨達はゆっくり反転、山へ向かって帰って行く。
骨女の周囲を囲んでいた炎もすでに消えている。
骨女を先頭に、8人は老婆と老人の魂が待つ屋敷へと、歩いて行った。
『そうか……。兄の魂も、御先祖様の魂も、全部この村を守ってくれているのか。そりゃあ、良かった』
結鹿から話を聞いた老婆は、骨女に向け深く頭を下げる。
『でしたら、お願いします。兄の魂を、お願いします。これからも、わしらを守ってください。義姉さんも、ありがとう。迎えに来てくれたんだね』
一粒。
涙が零れ、畳を濡らす。
老人の遺体から、青白い人魂が浮かび上がった。それは、骨女の連れていた人魂と寄り添うようにして、空中を舞う。
骨女は、老婆に向けて静かに頭を下げると、2つの人魂を伴い山へと戻って行く。
その姿が見えなくなるまで、8人はその背を見送っていた。
「悪い古妖ばかりでは、ないのですね」
「そうみたいだな。……丸く収まれば、私はそれをただ見守るだけさ」
エミリーと翔子は、小さな声で言葉を交わし遠ざかる人魂を目で追った。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし








