とある人身売買組織の末路
【攫ウ者達】とある人身売買組織の末路


●チーム内の抗争……?
 夜。とある廃工場。
 そこは、『テイク』を名乗る組織の一時的な根城だ。
「くそっ!」
 パンチパーマの男は、思いっきり空の木箱を蹴飛ばす。それは派手に音を立てて崩れてしまった。
 その場には、坊主、でかっ鼻。さらに、配下の姿も数人いる。
 彼らはアジトを追われ、今は誰も使わぬ廃工場へと身を潜める羽目になっていた。
 アジトを襲撃された際、パンチ以外は別の用事などで難を逃れている。他は皆、襲撃してきた『F.i.V.E.』という連中に捕らえられてしまった。
「でもよ、どーすんだこれから」
「商品は売っぱらっちまったが、活動するにもこの人数じゃ……」
 坊主にでかっ鼻が見回す。チームメンバーは10人余り。円滑に進んでいた商品調達も、これから先、厳しくなることは目に見えている。
 ただ、チームは半壊こそしているが、完全に潰されたわけではない。
「当然、また人を増やして組織をもりあ……げ……?」
 そこで、パンチの首筋に飛苦無が突き刺さる。さらに、胸に頭。そいつはそのまま卒倒してしまう。すでに、パンチは息をしてはいなかった。
「んだ、てめぇ!?」
 坊主が声を荒げて攻撃した主を睨みつける。それを行ったのは、あろうことか部下の1人だった。
「そのざまじゃ、またメンバーを見捨てるのがオチだよ」
 そいつは事も無げに遺体から飛苦無を引き抜き、こう言い放つ。
 確かに、床に転がるパンチは、過去2度、チームメンバーを見捨てて現場から逃げている。彼が実質的に仕切っている状況に、疑問を抱くメンバーは少なからずいた。
「なんだ、お前は……?」
 その筆頭、坊主は様子がおかしい配下へと大槌を構える。
「……来客らしいね」
 そこで工場の扉を音を立てて開き、駆けこんできたのは、『F.i.V.E.』の覚者達。
 彼らは、前回取り逃した『テイク』のメンバーの確保に来たのだが。もう1つ、気になっていることがあった。
「なぜ、ここにいる。……霧山・譲」
 覚者達に呼びかけられたその男は、微笑を浮かべていた。

●内部崩壊……?
 少し、それから、時を遡る。
 『F.i.V.E.』の会議室に集まった覚者達。『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)はその姿を確認して、任務について説明を始める。
「『テイク』の残党を発見したのじゃ」
 以前、彼らのアジトを突き止めてとある覚者チームが乗り込み、制圧に成功したのだが、その際、数人の構成員の行方が知れなかった。今回発見に至ったのは、捕らえたメンバーからの供述によるところが大きい。
 早速、この制圧をと覚者達は考える。野放しにしておけば、また別の覚者が人身売買の為に捕らえられてしまうからだ。
「ただの……パンチは殺されてしまうのじゃ。部下らしき者の手によっての」
 覚者が駆けつけたときには、パンチはもう間に合わない。
 内部崩壊でも起きているのか。何が起きているのかまでは、けいも把握ができないそうだ。
「その配下がある男にそっくりなのじゃ」
 百鬼襲撃の際、黎明という組織に属し、百鬼の一人として襲撃してきた男と似ていると語る。
 それは……。複数人の覚者達が反応した。けいは額に皺を寄せ、少し言葉を溜めてからこう続ける。
「霧山・譲、じゃの」
 自分達を、覚者を裏切り、『F.i.V.E.』を襲ってきた男。そいつに似ているとけいは語るが、何せけいは直接の面識がない。似ているだけで、赤の他人という可能性も否めないのだ。
「ともあれ、この配下……Aと仮称するがの。そちらの対処は程ほどにしておいて、あくまで配下Aを除いた『テイク』メンバーの制圧を頼みたいのじゃ」
 せいぜい、配下Aの素性を探る程度に留めておきたい。2つのことを一度に行おうとすれば、どちらかも失敗する可能性も高くなる。今回は『テイク』制圧に重点を置いて行動を頼みたい。まして、配下Aが本当に霧山であるならば、その能力は底が知れないのだから。
 最後にその場所だが、奈良県の住宅地外れにある廃工場へ、『テイク』のメンバーは夜になると集まるという。全員が集まった地点で配下Aの謀反が始まるようだ。覚者達の突入はその直後となるだろう。
「以上じゃの。……決して無理はせぬようにな」
 最後に、けいは覚者達へとそう釘を刺したのだった。


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:難
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.坊主、でかっ鼻の撃破。生死は問わない。
2.配下Aの素性を探る。
3.なし
 初めましての方も、どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。
 シリーズ完結編ですが、なにやら内部抗争が……。
 ともあれ、隔者の撃破を願います。

●状況
 奈良県某所にある、住宅地から少し離れた廃工場。宵の口くらいの時間に突入することとなります。
 内部はかなりのスペースがあるため、戦うのには気になりません。
 突入口は正面の1つと裏口左右に1つずつ。工場上部を囲むように、横に細長い窓がついておりますが、窓はすべてガラスが入っておらず、役目を果たしていません。
 壁際には設備の残骸があり、上部の窓へと容易に登ることが可能です。
 窓に至る場所はいくつもありますので、逃げようとする配下Aを捕らえるのは困難でしょう。
 なお、『商品』と隔者達が称する覚者は、この場には一人もいません。すでに別の誰かに売り払ってしまったようです。

●敵
○隔者……11名。(パンチ、配下Aを含まず)
 チーム『テイク』を名乗る人攫い集団。全員男性。
 その目的は、人身売買であることが判明しています。
 リーダーはおらず、『パンチ』が実質的に取り仕切っているようでしたが、
 OPですでに、『パンチ』は絶命しております。
 配下Aを狙う者も一部いますが、
 基本は仲間を捕らわれた恨みか、『F.i.V.E.』覚者を狙ってきます。

・仮称、坊主、スキンヘッドの男。械×土、大鎚、『琴富士』を使用。
・仮称、でかっ鼻、鼻の大きな男。獣(羊)×土、片手斧、『隆神槍』を使用。
 彼らは戦闘開始直後、中衛に位置しています。

・配下、9名。いずれも隔者。
 ナックルや大鎚を持って、切りかかってくるチンピラどもです。
 全員、壱式スキルのみ使用する程度の能力です。
 6人が前衛、3人が中衛に位置しております。

○謎の男
・配下A(仮称)……暦×天、飛苦無(麻痺)、後衛。
 かなりの力を持っているようです。
 『《紅蓮ノ五麟》燃える街の中心』他で出現した霧山・譲と思われますが、
 本当に同一人物かどうか、目的などは不明です。
 『F.i.V.E.』の覚者の姿を確認したAは、この場から逃げ出そうとします。
 『テイク』メンバーもまた、彼を襲おうとしますが、
 ほぼ間違いなく返り討ちに合ってしまいます。

・男B(仮称)……彩×木、飛苦無、刀、前衛。
 正体不明の男です。
 配下Aがなかなか戦場から離れられない場合のみ、介入してきます。
 Aに比べれば力は劣りますが、かなりの手練です。


 それでは、今回も楽しんでいただければ幸いです。よろしくお願いいたします!
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年06月30日

■メイン参加者 8人■

『マジシャンガール』
茨田・凜(CL2000438)
『星唄う魔女』
秋津洲 いのり(CL2000268)
『歪を見る眼』
葦原 赤貴(CL2001019)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)

●裏切る男の正体は……?
 奈良県住宅地の外れを目指す『F.i.V.E.』の覚者達。
「やっとアジト判明か! この間逃がしちまった奴いるからな、今度こそ逃がさねーようにしねーと!」
「またこの方達は人身売買を……今回はちょっと状況が複雑ですが、犯罪の芽はここで摘み取ってしまわなければなりませんね」
 意気込む『一級ムードメーカー』成瀬 翔(CL2000063)の隣で、『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は、人身売買組織『テイク』の撲滅を誓う。これ以上、悲劇に遭う人が増えぬ為にも。
「なんか内部分裂してるっぽいけど関係ねー! 全員とっ捕まえる!!」
 色々と込み入った状況だが、翔は大声で気合を入れていたようだ。
 意気揚々と語るメンバーのそばには、神妙な面持ちのメンバーの姿がある。
「なんかいろいろあるみたいだけど、きっちり落とし前つけさせるんよ」
 大詰めを迎える今回の事件は、『F.i.V.E.』の仲間である静音が誘拐されそうになった1件がきっかけだ。茨田・凜(CL2000438)は仲間が危険な目に遭った事を忘れてはいない。
 そして、このタイミングにおいて、事件をかき乱す男が出現するという。
「霧山・譲って、前に妹が戦った事のある百鬼の人か」
「全く、大詰めだって言うのに。引っ掻き回してくれるわね……!」
 『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)が口にした名前は、『テイク』を裏切るとされる、仮称配下Aとされる男だ。それを聞き、『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は静かに怒りを燃え上がらせる。
「『テイク』を追いかけていたら、ユズルに当たるだなんて。世の中、何がどう繋がっているか分からない物ね」
 この男に浅からぬ因縁を持つエメレンツィア。だからこそ、彼女は冷静にこの依頼に当たろうとしている。
「しかし、何でまた『テイク』に……?」
 亮平は考える。何者かの追っ手から逃れる為の隠れ蓑として、所属していたのか。あるいは……。
 交戦経験のある妹より、『霧山は本心がわかりにくいひと』と亮平は言われている。考えても、面識の相手の目的は分からない。その確認は面識あるエメレンツィア、凜、葦原 赤貴(CL2001019)に任せ、隔者の討伐と捕縛に意欲を見せた。
「ウィーッス、話の展開とも敵組織ともなーんも関わり無いアタシが参上~☆」
 そこで、空気を読んでか読まずか、声を上げたのは国生 かりん(CL2001391)である。仲間達の視線を集める中、彼女はお気楽な口調で続ける。
「ヘーキヘーキ! アタシってば人生はナメきってっけど、仕事はナメずにちゃんとやるから!」
 いわゆるコギャル系のかりん。妙に露出が高すぎる服装と、あまり役に立たなさそうなスマートフォンがトレードマークである。
「まぁさー、アレだよねー。人身売買とかでヒトのこと売るのは、あんま良くないとアタシ思います! そーゆーのはちゃんと同意の上で、お互いギブアンドテイクの精神で!」
 ピリピリしかけたムードも、かりんのおかけでどことなく解き解された感もある。
「たとえアタシみたいなの相手でも、ムリヤリってのは絶対ダメだかんね! かりんちゃんとのお約束!」
 そんな彼女も現場が近づけば、気を引き締めていたようだ。
「今回はヤバそうなヤマだから、ギャグもお色気シーンも無し! シリアスに行くよ~!」
 気づけば、『テイク』の残党が根城としている廃工場が見えてきた。メンバー達は手はず通り、突入準備に当たるのである。

●今度こそ逃走は許さずに
「そのざまじゃ、またメンバーを見捨てるのがオチだよ」
 廃工場内では、配下Aがパンチに飛苦無を投げつけて倒したところだった。突然の出来事に、『テイク』のメンバー達が固まってしまう。
 ここへ、新たな勢力、『F.i.V.E.』の覚者達が廃工場へと乗り込む。
 廃工場の入り口は、3箇所。正面と裏口左右だ。メンバーはこれらに分かれ、亮平の送受心でタイミングを合わせて突入していく……!
 正面の扉を開き、いち早く駆け込んだのは、赤貴。突入直前に鋭聴力で耳をすまして内部の会話を伺っていた彼は、すぐさま津波のような炎を巻き起こし、『テイク』のメンバーを飲み込んでいく。
 全力で放った攻撃ではあったが、それで倒れるほど、柔な隔者がこの場にいないことも赤貴は知っている。
「逃げようとする者から、殺す」
 体に火傷を追う『テイク』のメンバーの逃走を阻止する為に、赤貴は静かに、それでいて通る声でその場の隔者達へと呼びかけた。
「ちっ、このクソ忙しい時に……!」
 苛立つスキンヘッドの坊主。でかっ鼻も嘆息しつつ、構えを取る。『テイク』の下っ端どもも新手の覚者達を威嚇してきた。
 だが、後方からも覚者がやってくる。
「今度こそ! 全員お縄にしてやる! 覚悟しろよ!!」
 駆け込んで大声を上げたのは、覚醒して大人の姿となった翔だ。
 透視で内部の状況を探っていた彼は、仲間の合図で裏口右手から工場内部に入り、すぐさま術式を展開して隔者全員へと光の粒を降らし、攻撃を仕掛けていく。
 その後ろのかりんも、『テイク』の中で弐式スキルを行使する坊主、それにでかっ鼻を狙い、拳大の大きさの火炎弾を飛ばす。それは近場にいた配下の体へと命中し、燃え上がった。
 裏口左手からも、亮平、『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268) が突入してきていた。
 亮平も『テイク』のメンバーを一網打尽にしようと、気の弾丸を敵陣目がけて掃射していく。
 後ろのいのりも覚醒して大人の女性へと姿を変えていた。彼女はちらりと足元を見る。そこには、飛苦無で頭、首、胸を貫かれ、すでに躯と化したパンチの姿があった。
「やはり、間に合いませんでしたか」
 いのりは残念そうに呟きつつ、敵へと絡みつく霧を発生させていく。
 幾度か、彼女もこのパンチと交戦していた。彼が覚者を商品として捕らえ、売買していたのは事実。だが、いのりは、パンチが死んでいいとは全く思わなかった。生きてその罪を償ってほしかったと考える。
「パンチさん……悪い人でしたけど、しっかり生きて罪を償ってほしかったですが」
 英霊の力を引き出し、自身の力を高めていたラーラもそれを見て呟く。
 そんな思いを込めて、いのりは残る『テイク』のメンバーに呼びかける。
「もう、貴方達の活動も御仕舞ですわ! 大人しくお縄につきなさいませ!」
 赤貴もいのりに合わせるように、坊主、でかっ鼻を指差して告げる。
「そいつらの捕縛に協力すれば、上に助命要請してやる」
 だが、いのりと赤貴の言葉に、隔者達は逆に怒りを露わにしていた。
「よくも仲間を……!」
「攻撃しといてぬけぬけと、くらえええ!」
 そいつらは手にする槌や、ナックルをはめた拳で直接、覚者達へと殴りかかってくる。
「抵抗するようなら、仕方ありませんわ」
 いのりは嘆息しつつ、冥王の杖を握り締めてその先端を隔者へと向けるのだった。

●配下Aの目論見は……
 一方で、所属員3人に囲まれる仮称配下A。しかし、エメレンツィアにはその顔は忘れようはずもなく。
「……やはり、本当にキリヤマ・ユズルね」
「ああ、そうだよ」
 余裕を崩さぬ配下A、いや、霧山・譲。幾度も合間見えているエメレンツィアは見間違うはずもない。
「いつからここに居たの?」
「今日が初めてだよ」
 エメレンツィアは『テイク』と4度対しているが、これまで霧山の姿は1度もなかった。
「内部抗争って、また裏切ってるん? そのうち、逆に自分が切られる側になるんよ、……ゆず君」
 凜もまたできる限り感情を抑え、平静さを装いながらも声をかける。霧山はそれに首を振った。
「切られる? 逆だよ、僕は使えない組織に見切りをつけに来たんだよ」
「どこのどいつだ、てめぇ」
 忌々しそうに霧山へ尋ねる『テイク』のメンバー。
 それに、溜息をつく霧山は苦無を投げ飛ばし、自身を囲む下っ端をあっさりと倒してしまった。

 そばでは、『テイク』メンバーと覚者の交戦が始まっていた。
 片手斧を操るでかっ鼻は、非常に大きな岩槍を地面から突き出してくる。それを翔が受けながらも、工場の上部に雷雲を発生させて雷を落下させた。
 でかっ鼻を狙うのはもちろんだが、彼は霧山をも狙っていた。パンチを殺した奴に一矢報いたいと考えていたのだ。
 かりんも戦いに集中し、弐式スキル使いの坊主、でかっ鼻を狙い、地面より炎の柱を立ち上らせる。配下が立ち塞がって邪魔をしてくるが、それはそれで配下を1体倒していたようだ。
 ラーラは戦いの中でも、スキルを駆使し、態勢を崩さぬように、そして、敵の動きに変化がないかと戦場を注視する。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 魔法使いの姿に変わっていたラーラは大きく叫び、煌炎の書を広げて術式を展開しようとする。
 ラーラは赤貴が使っていた炎を自らもと考えていたのだが、スキルのセットにトラブルがあったらしい。この為、ラーラは雷を敵陣に落とすことで対処し、攻撃を行う。
 坊主は全身を鋼のように降下させ、手にする大鎚を叩きつけてくる。
「おらぁ、食らえええ!」
 坊主の攻撃に注意して対処を行う赤貴。その猛攻を受け止めながらも、奥にいる霧山が気になる様子だ。視線を一度向け、赤貴は本人であることを確認する。
(まだ、あの術式に対応はできないだろうからな……)
 彼は一度、霧山によって重い傷を負わされている。
 ただ、今回の作戦において、霧山の対処に時間を使う気はなかったが、それでも炎の波を巻き起こして、霧山を含めた敵全体を飲み込んでいく。しかしながら、霧山は大きく跳躍して炎を避けていたようだ。
 亮平はいのりと協力しつつ、戦いを繰り広げていた。できる限り弐式スキルの2人を射程にいれようと、亮平は位置を調整しつつ烈波を放ってその体力を削いでいく。タフな連中だが、それでも少しずつ疲れを見せてきていたようだ。
 その最中、設備の残骸に飛び乗っていた霧山へ、いのりが問いかける。
「百鬼がどうしてこんな所に? まさか、子供達を構成員にしようとでも?」
「百鬼にいたのは、仕事だからだよ。紫雨は信用ならないからね」
 聞きたいことと答えはずれていたが、いのりは眉をひそめる。彼はそもそも、百鬼の構成員ですらないのか。
 はさらに高い場所へ、霧山は登っていく。上部の窓枠から逃げる気だ。
「ハイハイお帰りはこちら~!」
 かりんもそれを追おうとはしない。彼女はただ、『テイク』メンバーに炎を浴びせかけるのみだ。
「っつ、やっぱり分散したのは面倒よね。今助けるわ!」
 仲間に癒しの霧を振りまきつつ、エメレンツィアは霧山へと皮肉を込めて言い放つ。
「ふん……、アナタだって部下に任せて逃げていたのに。同属嫌悪かしらね?」
「百鬼に僕の部下なんていないよ」
 元々、百鬼の隊長として、霧山が所属していたという情報もあった。今回と同じような形で百鬼を裏切ったのか。いまいち話が見えないが……。
 メンバー達は霧山を放置しつつも、奇襲にも気を払う。もう1人男が現れるという可能性が資料にて示唆されていたからだ。
「次は、どこで遊ぶんだ?」
 赤貴が攻撃の手を止め、鋭い視線を霧山に投げかける。
 オマエは追われる側で、オレは死ぬまで諦めない。
 今届くだけの力はないが、いずれ喰らいつく。楽しみにしておけ。
 ……そう、殺意と共に眼光に込めて。
「さあ、できれば表に出なくないからね。僕は……」
 霧山は窓枠へと手をかけ、廃工場の外へと去っていった。
「また会いましょう、ユズル」
「またそのうち、会えそうな気がするんよ」
 エメレンツィア、凜は去った男の背中へと言葉を投げかけた後、その場の隔者の対処へと戻っていくのだった。

●人身売買組織の最後
 残るは、『テイク』のメンバーのみ。それも霧山がパンチと配下3人を倒し、覚者達がさらに配下の数を減らしている。
 そんな状況だからこそ、挟撃する覚者達はとりわけ敵の逃走に注意を払う。弐式使い2人を逃がせば、『テイク』が再編されるのは目に見えているのだ。
 亮平が鷹の目で注視する敵へ、翔が雷を叩き落とす。
「こいつらだけは絶対に逃がさねー」
 配下が減っていたこともあり、坊主、でかっ鼻に雷が叩き落とされる。さらに、いのりが隔者全員へと光の粒を降らした。
「ヤキが周ったもんだぜ……!」
 劣勢を自覚する坊主は、壊滅しかけた『テイク』をなんとか存続させねばと逃走のタイミングを図りながら、土行スキルで応戦を続けて来ていた。
 全身を硬化させて大槌を叩きつける一撃は広範囲に渡る上、威力も高く、覚者の体力を大きく削る。
 凜も敵の攻撃を食らって大怪我しないようにと立ち回りつつ、仲間が倒れぬように、強化、回復などサポートに当たる。
「……イオ・ブルチャーレ!」
 そこで、ラーラが炎の塊を連弾で飛ばす。これで配下は最後。残るは坊主とでかっ鼻のみだ。
 かりんはでかっ鼻へと接敵し、熱圧縮した空気を叩き込んで吹き飛ばす。やはり、逃げようとしていたのか、そいつは工場の設備へと登り出していたのだ。
「お前らは……逃がすわけにはいかねーんだよ!」
 そこで、翔が波動弾を飛ばす。それを浴びたでかっ鼻がついに気絶し、落下して倒れてしまった。
「残るは、あなただけです」
 ラーラは立っていた坊主へ言い放つ。設備に登れそうな経路は完全ブロックし、その逃走すらもシャットアウトする。
「アナタ達の罪は、この女帝自ら裁いてあげるわ!」
 空気中の水分を、荒波として叩きつけるエメレンツィア。さらに、赤貴が豪腕の一撃で坊主の体を殴りつける。
「ぐはっ……」
 吐血した坊主だが、まだ倒れない。亮平が最後に気の弾丸を浴びせかけると、ついに坊主は意識を失って地面へと崩れ落ちた。
 意識を取り戻す配下がちらほらいたが、いのりがそいつらへと呼びかける。
「もう諦めて、投降なさいませ!」
 それに、隔者達はついに武器を捨て、両手を上げたのだった。

●1つの区切りであるものの……
 残念ながら、霧山によって数人の命を奪われはしたが、生きている『テイク』のメンバーは全員、亮平の用意したロープで捕獲した。
「これでもう、攫われる人はいなくなりますわね」
 今はその解決を喜びたいといのりが笑顔で語り、安堵する。霧山を逃がしはしたが、目的は達成したのだから。
 凜が改めてパンチに近づくと、すでに体が冷たくなってきていた。凜はそのポケットなどを探るが、本人確認できそうな物が財布から見つかっただけだった。
「覚者を買う奴……。そいつらを何とか突き止められねーかな」
 翔は工場内を捜索するが、ほぼ何も情報は得られなかった。できれば、攫われた人が売られた先を知っておきたかったのだが……。
 それは、亮平も同じだ。
「このカーヴァ生体工学研究所ってのは、何なのかな」
 彼は『テイク』のアジトで発見した領収書に書かれていた組織名の1つを読み上げ、聴取しようとする。
 だが、坊主も、でかっ鼻も、口を閉ざす。亮平は最終手段として、隔者達へと関節技を仕掛けていく。
「ぐああああ、待て……!」
 タップするでかっ鼻は少しずつ口を開き、いくつかの組織について供述を始めたようだ。
 もう1つ、エメレンツィアが弐式使いに尋ねる。
「ユズルはいつから加入していたのかしら」
「……知らねぇ。いつの間にか、ヤツは下っ端と入れ替わってやがった」
 坊主がそう漏らす。これについては、隠す必要すらないと考えたのだろう。
 亮平も、霧山が七星剣や百鬼と関わりがあったかどうか尋ねるが。彼らは本当に何も知らない隔者達だったようだ。
「……『テイク』にも、上部組織とかあるのかしら」
 エメレンツィアがそんな推測を立てる。死んだパンチが知っていたかもしれないが、リーダー不在という『テイク』。彼らは単なる末端組織の可能性も高い。
 霧山の素性は完全には分からなかった。情報が断片的過ぎて確定情報とはならないが。別の何かの為に動いているのは間違いない。
 もう少し、霧山を留めることができたなら。更なる情報が得られただろうか。『テイク』のメンバー撃破を優先させた為とはいえ、この当たりは歯痒いところだ。
 翔が守護使役の力を借りて付近の偵察を行ったが、すでに霧山の姿を確認することができなかった。
 それを聞いたエメレンツィアは、小さくその背を振るわせる。
「……ユズル。次に会ったときは、今度こそ逃がさないわよ!」
 静まる工場内に、そんな彼女の声が響き渡ったのだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

リプレイをお届けいたします。

皆様の活躍もあり、
『テイク』の生存メンバーは鎮圧に至りました。
これで、『テイク』が活動することはもうないでしょう。

ただ、逃げ出した霧山が気になります。
その素性を完全に把握することはかないませんでしたが、
断片的に見えたものがあったかと思います。

ともあれ、お疲れ様でした。
ゆっくりお休みくださいませ。




 
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