蛍の庭
蛍の庭


●知ってるかい?
『其処』はね、穴場なんだ――。
 誰かが言った、噂を拾い上げたら案外そこかしこで同じことを聞いた。
「なぁんだ、皆知ってるのかな?」
 でも人里を少し離れた所だから、行くのは少し勇気がいる。
 特に少年と呼ばれる部類等には。
「お父さん、僕見てみたいんだ。」
 何度かお願いして、3回目で漸く首を縦に振ってくれた。
 やった、あの場所へ行ける。

 朝はラジオ体操。
 昼は時に山へ昆虫採集に、時に海へ泳ぎに行ったり。
 夜は花火を見たり点けたりして遊んだ。兎に角遊びきった。
 でももう一つだけ夏の思い出、欲しいんだ。

●ようこそ
『其処』は大きな大きな水たまりだった。
 林を抜けた先にある開けた場所、ススキが生い茂る土の大地に薄く広がる水の膜。
 遠くで蛙の声に、気の早い蜻蛉も飛んでいた……そんな、自然に囲まれた天然の庭。
 思わず裸足で入ったら調度良い心地よさだった。
 もう日が暮れる時間でも、やはり夏の夜は暑いから。
 軽く走るだけでパシャパシャと小気味の良い音と水飛沫が涼し気だ。
 だけど父に怒られた。静かにしないと来ないよ。と。
「ごめんなさい、お父さん」
 早く来ないかな。あのキラキラした灯達。
 カブトムシも好きだけど、僕ね初めて見るんだ。テレビの中じゃない、あの輝き。
「――あ!見て、お父さん!」
 指差す先、一筋の灯がゆるりと流れていく。
 少年は瞳を星空に負けないくらいに輝かせて、一目散に駆け出して行った。

 ただ同時に、浅い水の中を這うように少年を追う細長い影達も在った。

●蛍の庭
「万里ちゃんも蛍を自分の目で見てみたい!」
 集まった覚者達の前で突然久方 万里(nCL2000005)は手を合わせて眼を輝かせた。
 曰く、夢見である彼女はその夢の中で光り輝く無数の蛍の群れが飛び交う光景を見たんだそうな。
「沢山ね、飛び交っててすっごくすっごく綺麗だったの!」
 彼女が見たのは人里から少し離れた場所にある広い土の大地。
 溜池が近くにあるのか、溢れる水が薄く流れて常に水浸し……といった場所らしい。
「其処は知る人ぞ知る蛍の名所なんだよ!」
 びしっと人差し指を突きつけるも、すぐに少しだけ力なく手を下ろす。
「でも……妖が住み着いちゃったみたい。大きな蛇の姿をした妖が、4匹いるんだよ」
 万里が見た限りでは夜にやってくる親子以外に人の気配はないそうだ。
 蛇達は薄い湖の中を動きまわり、少年を背後から襲ったと元気のない声が付け足した。
 どうやら油断している人間を狙い攻撃するようだ。
「今から行けば日が暮れるちょっと前にはたどり着けると思うの。親子が来る前に、やっつけちゃって!」
 元気を取り戻した万里がびしっと再び気合を入れた声をかける。
 勿論万が一、一般人に出会っても自分達が『F.i.V.E.』であることは内緒にしてほしいと言う事も念を押す。

「あ、そうだ。場所はね柔らかい土に水も冷たくて気持ちいいし、裸足になってもいいかも!」
 それからそれから、と万里は嬉しそうな笑顔をめいっぱいその顔に浮かばせた。
「無事に仕事終えられたら、ちょっとだけ蛍見られるかも?もし見られたら、お土産話万里ちゃんに聞かせてね!」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:緑歌
■成功条件
1.妖4体の討伐。
2.親子が無事であること。
3.なし
ごきげんよう緑歌です。
蛍はまだテレビでしか見たことありません。
以下詳細。

▼場所
林の中にある開けた場所をイメージして下さい。
ススキがもっさり、所々ちょっと視界の邪魔だなー程度に生えてます。
然し広々としているので立ち回りは自由にできそうです。
足元は深くても足首が浸かる程度の水が張ってます。
土は柔らいのでレインブーツでも、裸足でもお好みで戦場へどうぞ。

時刻は日暮れ前。少しずつ薄暗くなってきます。
最初はまだ辺りを確認できますが戦闘が長引くと徐々に暗くなり、明かりが必要になります。

▼敵詳細
妖:生物系『大水蛇』×4 ランク1
2m位で黒と土色の斑模様をしています。
最初は隠れており、獲物を襲うタイミングを狙っています。

「巻き付く」近接、単体、痺れのバッドステータス付き。
「噛み付く」近接、単体、毒のバッドステータス付き。

▼蛍
敵を順調に倒すことが出来れば、最後に少しだけ蛍鑑賞をすることができます。
然し戦闘>蛍の為、可能なら程度にお考え下さい。

良い夜になれる事を願っております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年09月10日

■メイン参加者 8人■

『涼風豊四季』
鈴白 秋人(CL2000565)
『ワイルドキャット』
猫屋敷 真央(CL2000247)
『ただ護るためだけに』
瑠璃垣 悠(CL2000866)
『調停者』
九段 笹雪(CL2000517)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『一縷乃』
冷泉 椿姫(CL2000364)
『allegoric sheep』
イニス・オブレーデン(CL2000250)
『サイクロプス』
多々良 宗助(CL2000711)

●日暮れ前に
 空が茜色に染まっていく。
 夕暮れに夏の香りが未だ色濃い。吹き抜ける風は緩やかに『allegoric sheep』イニス・オブレーデン(CL2000250)を通り抜けた。
(これが、日本の夏空)
 紺の瞳を瞼に隠して一息つけば羊角にかかる柔らかな銀髪もふわり。
「こういう景色は初めてか? それと蛍なー……俺も最近見てねぇなぁ」
 イニスの隣で靴を脱ぐ『サイクロプス』多々良 宗助(CL2000711)が片眼を緩ませ明るく笑う。
 田舎のばあちゃん家で見たっきりかもしんねぇなとぼやけば『ただ護るためだけに』瑠璃垣 悠(CL2000866)は体格の良い男を見上げた。
「私も、小さい頃家族と一緒に見に行ったのを、今でも覚えてる……」
 それはとっても綺麗で良い思い出と、ぼんやりした表情の中でも暖かい彩が浮かんでいた。
 傍で『ワイルドキャット』猫屋敷 真央(CL2000247)が白い猫耳がぴんと立たせそわそわ、二人の話を聞いていたようで視界に入ってくる。
「にゃ! ……あっ、ち、違います! えとその私の実家もすごく田舎にありましたけど……流石に蛍さんはいませんでしたね」
 羨ましかったのかその声に残念そうな色が濃く、またこれからの期待に先を眺める2つの黒曜色が更に輝いた。
 彼女達もまたするりと靴下を脱ぎ去り、きちんと靴の中にしまっている。
 同じように靴を揃え置いた『Mignon d’or』明石 ミュエル(CL2000172)の脚は特徴的な球体関節フォルムが見えていた。
 付喪の因子で作られた脚を撫でながら、仲間達の言葉を聞き物思いに耽る。
「アタシの、地元にも……妖が出るからって、封鎖されちゃった」
 観光スポットだった故郷の光景と、今回夢見が教えてくれた噺が少しだけ重なる。
 舞台はもう眼前。戦い慣れない不安を表情に落とせば、「大丈夫」と優しい声が降ってきた。
「俺達でちゃんと此処を護ろう。……ピヨ、頼んだぞ」
 ミュエルを励ました鈴白 秋人(CL2000565)が次に己の守護使役へ告げると丸い鳥が小さな翼を羽ばたかせ飛んで行く。
 後を追うように悠の繭、宗助の玉鋼も上空へ。3匹の小鳥が螺旋を描き上空を旋回。
 飛空の余波で秋人が纏う浴衣が僅かに揺れ、細身の体に映えるもその中性的な顔と冷静な眼差しは唯眼前を見つめていた。
「出来ることなら、偵察が親子を発見する前に敵を倒して……一緒に蛍を見られたらいいな」
 素足で土の大地を踏みしめる『一縷乃』冷泉 椿姫(CL2000364)が顔を上げると、彼女もその手へ抱くように己の守護使役を呼び出す。
 伽羅――そう呼ばれた竜の子がふぅっと小さな炎を吐き出せば淡い光源が皆の姿をより鮮明に照らしていた。
 炎のゆらめきに照らされる少し先の水辺。その中に、此度狙うべき敵が居る。
「昔から、蛇を見てると体がむずむずするんだよね」
 ターゲットの名を口にする九段 笹雪(CL2000517)が緩い口調で何でかなー……と疑問符を口から逃した。
 直ぐに気持ちを切り替え、気合を入れなおせば傍らで浮かんでいたほろもほわり、灯を灯す。
 光源をまた一つ用意すれば沈みかけの太陽の世話に成らずとも、彼等の周りは明るそうだ。

 やがて彼等は足並み揃え歩き出す。
 その身に活性化する炎を宿し、痛覚を遮断し、己の前世――英霊の力を呼び覚ましまた一方では機の身体を硬質させたり土の鎧を纏い耐性を高める。
 平均感覚を鋭くさせた羊の蹄が薄い膜を張る水辺に踏み入ると小さな水紋が広がっていった。
 続いて仲間の数だけ波紋が広がり、揺らめきを描く。
 澄んだ水が裸足に調度良い心地よさと冷静さを招いた。土の柔らかさは踏み込むに邪魔にはならないだろう。
 親子と蛍を護る為。庭の中へと、進んで行った。

●機を待つのは
 彼等がとったのは、陣形を組み待ち構えること。
 小気味良い水音が何度か響き、真央と笹雪、椿姫が中央で固まると残りの仲間達が周囲を囲うように布陣した。
 全員が位置に付けば、椿姫は長い髪を静かに撫で払う。
 先程迄黒かった髪は鮮やかな空色へと様を変え、輝く緑の瞳がゆるり開かれるとその視界へ小鳥が一匹舞い降りてくる。
「ピヨ、どうし――」
 秋人が尋ねる声と、ピヨが翼で指し示す先。そして反対方向で玉鋼が旋回する先を凝視した宗助が「居たぜ!」と叫ぶのは同時だった。
 人成らざる者達の波紋が大きく広がる。綺麗に四方に分れた模様を魅せ、その主達が姿を表した。
 一般的な蛇とは言い難い長さ。身を伸ばせば覚者達の目線かそれ以上の位置にすらなってみせる。
「……まさに怪物ですね」
 本物の妖を目の当たりにしてイニスが呟く。特徴的な褐色の長耳に蛇達の威嚇音が耳障りに響いた。
 現実が怖くないと言えば嘘になる。然しそれを上回る知的好奇心に突き動かされブレードと書物を持つ手に力を込めた。
 傍にて悠も無言で盾を構える。先程迄の淡い雰囲気を内に秘め、黒い瞳に宿すは一心の決意。
「始めましょう、皆さん。絶対に、守らなきゃ……!」
 冷静な言葉に、自らに言い聞かせる独り言が重なる。
 自分達が戦うことで繋がる未来が其処に在るから。

「まずは、あの蛇から……」
 蜂蜜蜂の名を冠したニードルを構えたミュエルが眼前の一匹へ突撃する。
 車輪と化した脚が水飛沫を上げ距離を詰めると的確に細身の獲物を突き刺した。
「私も行きますよ!」
 ミュエルが飛び出た隙間から真央も駆け出した。同じ目標へ一気に飛びつき猫手と成った両手を振り翳す。
 獣の如く軽やかに身を捻ると同時に繰り出す斬撃、息つく間もない連撃が斑の身体を引き裂いた。
 友人との連携にミュエルの表情も和らぐ。戦いは未だ慣れないが今日は心強い人達が側に居る。それは強く彼女を安心させていた。
 傷を負い体制を崩しながらも牙を向く水蛇に笹雪が少しだけ擽ったそうな顔をする。
「やっぱりむずむず……ううん、忘れなきゃ。夏休み最後の思い出は蛍狩りで〆たいからね!」
 先に攻撃した二人の隙間を狙い、放たれた笹雪の人形代が飛んでいく。
 合わされたのは92FSーVertecの照準。静かに狙いすました椿姫の手は迷わず引き金を引き、人形が傷付けた跡を貫いた。
「ごめんね。……人が殺されてしまう前に、やらなきゃいけないの」
 崩れ落ちていく一匹へ捧げた弔いは銃口からの細い煙。
「よし、まずは一匹。目標の短期決戦、順調だな」
 結果を確認するのも一瞬で済ませ、秋人は直ぐ様正面の敵へと向き直る。彼の姿は戦う前と違い、大人びてまるで女性と見紛う長き髪を揺らしていた。
 己が武器と構えたトンファーを携え水張りの地を蹴る。水飛沫と浴衣を遊ばせる様がまるで舞うような刹那、懐に飛び込み一撃を繰り出す。
 確かな手応えは在った。だが蛇も確実に獲物を……秋人を狙っていた。
 ぎりぎりと細長の身体でトンファーを持つ腕を絡めとる。痛み分けと言わんばかりに両者に苦しげな色が顔に映る。
 痺れを伴う激痛は、されど長くは続かなかった。秋人のすぐ近くから伸びた植物の蔓が強かに、確実に蛇を打ち払う。
「成る程、木行の力はこう使うのですね……大丈夫ですか?」
 イニスが持つ書物から深緑の鞭が具現化し、その威力に感嘆の言葉を漏らした後気遣うように仲間を見やる。腕の痺れを感じているも、未だ戦えそうだ。
 だがその一瞬、羊の耳が跳ねる。近くでもう一匹がススキの間を縫い槍のように飛び出してきた。
 斑の牙が襲いかかるも食らいついたのは立ち塞がった強き盾の少女。土の鎧を纏う悠の左手に狂牙が食い込むも強固な身体と意思に綻びはない。
「私の盾で皆を守ります!」
「言うねぇ、俺も負けてられねぇな!」
 大男が振り回すのも見事な大鎚。豪快に振り上げた右手が手負いの蛇を地に叩きつける。
 衝撃で辺りに水滴が跳ね上がり、それは火の灯を受けてキラキラと乱反射した。
「俺の筋肉に不可能はない! 一丁上がり!」
 宗助が咆え雫が水辺に戻っても、豪腕に潰された蛇が起き上がる事はなかった。

●戦う理由
 最後に動いた一匹はガッツポーズで締めている宗助に飛びかかる。
「おっ、俺に来たか。いいぜ全力で攻撃してこいや!」
 俺に任せろと言わんばかりに敵と対峙すれば遠慮無く変化部位の右脚へ絡み付く。急いで真央が猫手を捻り鉤爪で蛇を捕らえ引き剥がした。
「大丈夫ですかにゃ……っ!?」
 慌て過ぎて耳と尻尾が総立ち、語尾がどもるも当の本人は痺れた脚を軽く叩いてなんのその気楽に笑っていた。
 悠に噛み付いていた方はミュエルが伸ばした蔓の鞭に叩き落とされ水面が大きく揺れ跳ねる。
「アタシも……みんなの事、守りたい……」
「そうですね。無事に仲間同士で蛍を見たいから」
 同意を告げる椿姫の手から癒しの滴が秋人に零れ落ちる。痺れはまだ癒えないものの、痛みが和らいで行くのを感じ体制を立て直す。
 彼もまた拙い動きで何とか水行の力を具現化し、悠の盾手に滴を零した。
 覚者達、否仲間達の気遣う連携に僅か少女は普段の表情を見せて礼を短く告げる。
「それじゃあそろそろ……決めないとね!」
 大きな三つ編みを二つ揺らし、鮮やかな金を湛えた笹雪の瞳がゆるり獲物を見定める。
 吹き飛ばされた敵達は丁度並んだ位置。気の抜けた雰囲気は一旦身を潜め、古簪を握る手がするりするりと空を切る。
 パリ、と僅かな光が指先と簪を走ったかと思えば一気に二匹纏めて雷撃をお見舞いした。
 悲鳴を上げるように身を撓らせる一体へ、その懐に飛び込んだのは未の獣憑。
「まだ、この『力』を知りたいんです」
 呟く声と、疾風の如く敵を斬り裂いた剣の一閃はほぼ同時だったか。イリスの蹄が再びひんやりした水の感触を得た頃には既に一体を葬った後。
 その手に確かな『力』を感じ、銀髪の羊は眼を細める。
 辛うじて生き残った最後の蛇は鎌首をもたげ再度悠へと毒牙を振るうも、仲間のフォローを受けた盾に迷いは無い。
「何度来ても、同じ……。私はこの体で受け止める!」
 2メートルの蛇が体当たりするもその衝撃が数度波紋となって水面を駆け抜けるのみ。
 確りと裸足で地を踏み締め耐え切った少女は間髪をいれず、武器を振り上げ確実に水蛇の頭を打ち砕いた。

「レンゲさん、降りて食べて……」
 戦闘が終わり、残ったのは4体の蛇の亡骸達。
 ミュエルの守護使役は彼女の頭の上、お気に入りの場所で一房飛び出た金髪にじゃれつきながら頬張っていた。
 不思議な光景もつかの間、半分程食べてぽとりと残りを落とし蜂の子姿の幼体は満腹な顔をしている。
「流石に2メートルを食べきるのは大変だったかな?」
 元の黒髪、青眼に戻った椿姫が小首を傾げる。30センチの体躯には限界があったのだろう、けぷりと可愛らしい音が聞こえた。
「しゃーねぇな、それじゃとっとと隠して後処理はAAAに任せようぜ」
 言うが早く、宗助が残った蛇を掴んで林の奥へと運んでいく。真央と笹雪が手伝うと一緒に向かう間残ったミュエルとイニスは折角だからと浴衣を持ってきた。
「浴衣着る? なら、俺が着付け教えましょうか」
 数多のバイト経験を活かし、解りやすく自身も纏う着物の着こなし方を教えた秋人に礼を告げると二人は早速着替えに場を離れた。
 ススキの向こうで笹雪の「本当はあたし、結構蛇好きなほうなんだー」と気の抜けた言葉と相槌を討つ真央のやりとりを聞いていた悠の元へ、繭が戻ってきた。
「親子が、もうすぐ此処へ?」
 どうやら存分に、間に合った。
 気付けば空はすっかり夜色に塗り替えられ、星々の煌きが散りばめられていた。

●ようこそ、蛍の庭へ
「今晩は、良い夜ですね」
 駆け込んできた少年は先客の声に驚くも、すぐに人懐っこい笑みを浮かべて「こんばんは!」とご挨拶。
 元気な返事を貰い椿姫も微笑み返す。全て終わり、何食わぬ顔で彼等と逢えた事に安堵の表情も浮かべていた。
「皆で、蛍を、見に来たんです」
「偶々此処が、穴場だと知って」
 すぐ後から姿をみせた男性にも悠や秋人が丁寧に挨拶と、自分達の事を説明すれば穏やかな雰囲気の男性は優しい笑みを返してくれた。
 先程迄戦闘で騒がしかった水の庭も今や静かなもの。ともしびも消してひと時、星明かりだけが僅かに皆が其処に居ることを教えてくれる。
 暫しの静寂、そして――。
「……あっ。あそこ! 見てください!」
 真央が指差す先。一本のススキが不意に撓ればその先端がぼんやりと、然し夜に映える明るさを浮かばせる。
 一つの光がスイッチだったかのように、直ぐ様辺り一斉に無数の光が点灯していく。
「わぁ……蛍さんですよ、ぴかぴかしてますよ!」
 大興奮の真央の隣で、食い入る様に体操服から浴衣に着替えたミュエルも見つめている。
「綺麗……」
 それ以外の言葉が見つからないと、後は口を噤んで幻想的な光景を眺めていた。
 浮かんだ灯達は不規則に点滅し、飛び交う蛍を追うかのように光の尾を引き弧を描く。
 裸足を包む水面にも輝きは映りそれはまるで地面にも星空が広がっているかのようだった。
「風情というのでしょうか。日本の夏も知ることが出来て、嬉しいです」
 ゆったりと浴衣に着替え終えたイニスも再度庭へと足を踏み入り、光景を堪能する。
「お兄さん、角!」と楽しげな声を聞けば軽く首傾げ。少年が指差す先、一匹のホタルがイニスの角に止まり発光していた。
 飛んでいった際に気付くも追いかけるのは少年のみ。辿り着いたのは輝く笑みを浮かべる眼帯の男。
「楽しいかぁ少年!」
 元気な返事を聞き更に宗助は楽しげな笑顔を見せる。仲良くなったかと思えば小さい体を担いでより高い光景を見せてあげたりとすっかり馴染んでいた。
 そんな微笑ましい光景達を、笹雪は眺めて緩い笑みをひとつ。
 思ったよりもずっと強く光る蛍の輝き。今日の思い出は、親子だけでなく自分達にも忘れられないものとなっただろう。
(来年もここで見られるかな?)
 そしたら万里ちゃんも見に来られるかもしれないなと、未だ光り溢れる庭を眠たげな瞳で見つめていた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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