毛玉ノスタルジア
毛玉ノスタルジア


●降り積もる時
 半ば朽ちた木造校舎の片隅で、彼らはそっと息を潜めていた。
 埃が積もった窓硝子から差す陽射しには、何処となく秋めいた気配が感じられて――そろそろ夏休みも終わる頃だけれど、この校舎を訪れるものは今は無い。
 ――ねえ、みんなはどこにいっちゃったのかな。
 そんな哀しげな囁きが、校舎の片隅から聞こえてきたような気がした。かつては此処に、元気な子供たちの声が響いていたものだけれど――既に廃校となった現在は、ただ時がゆっくりと学び舎を侵食していくばかりだった。
 静かに風が吹く屋上、誰もいないグラウンド。寂しげに佇む理科室の人体模型に、針の止まった時計。地面に転がった蝉の抜け殻が、無言で夏の終わりを告げている。
 ――ああ、もういちどみんなとあそびたいなあ。
 教室の隅で、ちいさな毛玉のような物体がころころと転がって。そこから覗くつぶらな瞳が、涙をこらえるようにぱちぱちと瞬きをした。

●廃校舎の戯れ
「皆に、ふわふわでまんまるな依頼でーす!」
 瞳を輝かせてF.i.V.E.の仲間たちに元気よく告げたのは、久方 万里(nCL2000005)。その表情は夏の陽光を思わせるように眩しく、依頼と言っても微笑ましい感じのものらしい――と皆は直ぐに察しが付いた。
「地方の山村に、廃校になった小学校があるんだけど……そこに古妖が住み着いちゃったみたいで。皆にはその古妖さんを、本来の住処に帰すお手伝いをして欲しいんだ!」
 ぐっと拳を握って万里は力説し、一呼吸置いてから依頼についての説明を始める。その古妖の名はケサランパサラン――色々と謎が多い存在なのだが、白い綿毛のような、或いは毛玉のような姿をしており、幸運をもたらす存在とも伝えられているらしい。
「でね、廃校に出るケサランパサランは、手のひらサイズでもふもふしてて、つぶらな瞳がキュートな古妖さんなのです!」
 本来は小学校の裏山を住処にしているようなのだが、好奇心旺盛な子たちが校舎に向かったまま帰ってこなくなってしまったらしい。その数はざっと20体ほど。ひとに危害を及ぼす存在ではなく、逆に事件に巻き込まれたら大変だとの判断から、F.i.V.E.の皆の力を貸して欲しいのだと万里は言う。
「どうもね、廃校になる前の校舎の賑わいが懐かしくなって、誰かと遊びたいって思ってるみたいなんだ。だから皆で小学校に向かって、古妖さんと思う存分戯れれば、満足して住処に帰ってくれると思う!」
 恐らく最初は人見知りしているかもしれないが、皆でわいわい騒いでいる内に興味を惹かれて姿を現すだろう。そうなればしめたもの――思う存分もふってなでなでしてあげれば、ケサランパサランは喜んでくれるはず。また白粉が好物だというから、差し入れしてあげるのもいいかもしれない。
「あ、でもひとつ注意して欲しいのが、ケサランパサランが臆病だっていうこと。いじめたりして危害を加えようとすると、直ぐに逃げてしまうから……そんな事はしないでね?」
 皆なら大丈夫だと思うけれど、と万里はくすりと微笑みつつ――校舎へ入る許可は貰っているから、心配しなくても大丈夫と付け足して。折角だから是非楽しんで来て欲しい、と皆の背中を押した。
「廃校になった校舎で過ごすのって、何だかワクワクするよね! 楽しい夏の思い出になるように、応援しているからね!」
 ――今を生きる子供たちと、嘗て子供だった大人たち。何処か郷愁を誘う校舎で、彼らは愛らしい異形と出会う。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:柚烏
■成功条件
1.古妖ケサランパサランを住処に帰す
2.なし
3.なし
 柚烏と申します。ふわふわでもこもこな存在が大好きで、きゅんとしてしまいます。今回はそんな古妖さんを、住処に帰してあげるお手伝いをお願いいたします。

●古妖ケサランパサラン×20
人恋しさから、住処の裏山から廃校になった小学校に住み着いてしまった古妖です。手のひらサイズの白毛玉に、かわいい瞳が付いた姿をしています。白粉が好物で、撫でられたりスキンシップをすると喜びます。ただし臆病な所もあり、危害を加えられそうな気配を感じると逃げ出してしまいます。

●廃校舎
時刻は昼頃、廃校になった木造の小学校が舞台です。ここにケサランパサランが潜伏しています。校舎の中でわいわいと楽しそうに遊んでいると、彼らは興味を惹かれて近づいてきます。そこで仲良くなって遊んであげて、彼らを満足させてあげてください。そうすると彼らは大人しく住処へ帰っていきます。

●その他
校舎でどんな事をしておびき出すかは自由です。折角の機会ですし、是非交流を深める感じで楽しんでください。

 ほのぼのちっく、ほんわかした雰囲気になると思います。たまには戦いの疲れを癒して、仲間や古妖たちと戯れてみてください。それではよろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年09月07日

■メイン参加者 8人■

『身体には自信があります』
明智 珠輝(CL2000634)
『楚々たる淑女』
結城 美剣(CL2000708)
『キャンディータイガー』
善哉 鼓虎(CL2000771)

●廃校舎の訪問者
 夏の終わりは、刻一刻と近づいてきていた。涼やかな気配を滲ませる風が、グラウンドの砂埃を巻き上げていって――木々の切れ間から零れる陽光も、何処か透き通った輝きを地上に投げかけている。
 その校舎は、既に廃校となっていた。夏休みを終えても、元気な子供たちがやって来ることはなかったけれど。今此処に、ひと恋しさに震える古妖と触れあうべく、時の止まった廃校舎へ足を踏み入れる者たちの姿が在ったのだ。
「ケサランパサランをもふるだけの簡単なお仕事です!!」
 おー、と元気よく拳を突き上げるのは『キャンディータイガー』善哉 鼓虎(CL2000771)。弾みでお菓子とジュースが入っていた袋がかさかさと揺れて、彼女は深紅の瞳を瞬きさせつつ慌てて首を振った。
「いやいやそんなこと思ってへんで? そんなことちっともおもっ」
 と、そんな鼓虎の熱弁は「ぶふっ」と言う吹き出しによって遮られる。其処には既にパーティグッズの鼻眼鏡を装着し、準備万端整った『今日も元気だド変態』明智 珠輝(CL2000634)の姿があったのだ。
「ちゃんとした依頼やねんけど、もふもふの誘惑が強かったんや……!」
 そんなご機嫌な珠輝の姿を、真正面から見るのは刺激が強すぎる。明後日の方向を見やりつつ、鼓虎は男泣きに――正真正銘女の子だけど――泣いた。
「そうですよね、わたしもケサランパサランをもふもふと触りたいです」
 凛とした相貌で鼓虎に頷くのは『楚々たる淑女』結城 美剣(CL2000708)だ。彼女はそれだけを楽しみに、今作戦に参加したと言っても過言ではない。
「ケサランパサラン……ふわふわでまんまるでつぶらな瞳なのですね」
 是非仲良くなってもふもふしたい、と上靫 梨緒(CL2000327)もまた、柔和な表情にほんのりと笑みを浮かべてこれから過ごす廃校舎を見上げた。
 ――此処に、ひと恋しさに住処から飛び出してしまった古妖――ケサランパサランが隠れているのだ。その姿は手のひらサイズのふわふわ毛玉のようで、つぶらな瞳がチャームポイントなのだとか。今回F.i.V.E.の皆に課せられた使命は、彼らを保護して安全に元の住処へ返してあげることだ。
「昔の賑やかさを懐かしみ、校舎の中でコロコロと寂しげに転がっているケサランパサランとか、そんなの放っておけるわけが……!!」
『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)の鋭いまなざしには、微かな憂いが秘められていて。戌の耳をぴんと反らしつつ、ゲイルは皆に確固たる口調で告げた。
「下手に何かの事件に巻き込まれても大変だから、今の内に元の住処に帰してあげなければな」
 そう、決して「もふもふできる、やった~」などと思っている訳ではないのだ。確かにふわもこアニマルは可愛いし、正義だとは思っているけれど。
「ふわふわ、まるまる……廃校舎で寂しく佇んでいるだなんて、想像するだけで私の胸はキュンと締め付けられます……!」
 芝居がかった調子で、仰々しく胸を押さえながら珠輝(鼻眼鏡装着)は哀しみに暮れていた。だからこそ、溢れる愛で以て彼ら古妖を救わねばならない。
「ぜひとも愛で、可愛がって差し上げたいですね……! いやですね、破廉恥な意味ではありませんよ、ふふ」
 含み笑いが何とも妖しいが、珠輝の熱意は皆にも伝わっていることだろう。そう、ケサランパサランは勿論だが、共に行く皆とも仲良くなりたいと彼は思っているのだ。
「うむ。ふわふわ、もふもふは余も好きだ」
 繊細な美貌、その見た目にそぐわぬ達観した表情を浮かべながら――由比 久永(CL2000540)は日傘を手に、ほぅと吐息を零した。
「昔を懐かしむというのは、人も古妖も変わらぬのだなぁ。共に遊んで満足してくれるのであれば、好きなだけ付き合うとしよう」
 ケサランパサランは誰かと遊びたいと思っているらしく、皆で楽しそうに遊んでいればふわりと姿を現すだろうとのこと。だから彼らは、教室のひとつを貸し切ってパーティーを開くことにしたのだ。
「ケサランパサラン、見つけるだけでも幸せになると聞くけれども……その子たちと楽しくお茶会ができるのならば、より幸せになれそうね」
 空の靴箱が並ぶ玄関を抜けて、『月々紅花』環 大和(CL2000477)は乾いた木のにおいが漂う廊下を歩いていく。皆の靴音がゆっくりと校舎に木霊する中、辿り着いたのは『3の2』のプレートが今も残る教室だった。
「さぁ! 楽しいパーティー始めましょ♪」
 弾むような『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)の声は、眠りについていた校舎に灯をともすかのよう。そして立て付けの悪くなっていた戸が、軋むようにからからと開いていって――彼らは今日という日を目一杯楽しむべく、早速パーティーの準備に取り掛かった。

●宴のはじまり
「さて、まずは教室のお掃除からね」
 掃除用具入れから箒を取り出した大和は、皆と協力して手際よく埃の積もった教室を綺麗にしていった。それから机と椅子を並べてテーブルを作り、御菓子がその上にテーブルクロスを広げて花を飾っていく。
「ふ、ふふ……私の手作りです」
 其処で珠輝が広げたのは、折り紙を切って輪っかにした飾りだった。まぁ、と御菓子は顔を綻ばせ、彼と一緒に壁をモールや折り紙で飾り付け、楽しい雰囲気を演出しようと腕を振るう。
「そうだ、学校での宴は黒板に落書きをするのが定番だと聞いたぞ」
 窓辺でカーテンのように揺れるのは、大和の飾り付けたレースの布で――其処から漏れる陽光に眩しそうに瞳を細めつつも、久永はチョークを片手に思うがまま絵を描いていった。
「……あ、皆さんの似顔絵、ですか……?」
「それとこっちは、動物……で合っているのでしょうか。その丸いのは、ケサランパサラン?」
 お菓子や飲み物を準備していた梨緒と美剣が、互いに顔を見合わせて小首をかしげる。フリーダムに筆を走らせた久永の絵は、よく言えば個性的なもので。ぶっちゃけて言うと上手いのか下手なのか判断のつけにくい、非常にシュールな作品であった。
「さて、準備は大体出来ただろうか」
 そうしている間にもゲイル達が食器を揃え、ちゃんとケサランパサラン20匹分の白粉も可愛いお皿に盛りつけた。梨緒や鼓虎も化粧品を持ち寄ってくれたので、きっと彼らも喜んでくれることだろう。
「……あと、このすねこすりのぬいぐるみも置いたらええかなーって思うんやけど……うち的にはすごい可愛いと思うねんけど、他の古妖のものを置いたらびっくりするかなー?」
 と、すねこすりぐるみを取り出して、もふもふと触り心地を確かめるのは鼓虎。そんな彼女に美剣と梨緒が「大丈夫!」とばかりに頷き、一緒になってぬいぐるみのもふもふを堪能している。
「それか安心して来てくれるか……まぁ、難しく考えるのはやめとこ」
 みんなで持ち寄ったお菓子や料理は、陶器の器に盛り付け直すだけで見違えるよう。いつもの見慣れた市販のスナック菓子も、まるで手作りのお菓子のように感じられて御菓子は瞳を輝かせた。
「ほら、雰囲気もあいまって、まるで特別なものに錯覚させるでしょ?」
 シルバートレイに乗せたティーポットを、優雅な手つきで給仕する御菓子の姿を見ていると、此処が廃校の教室なのだと忘れてしまう。こうして和やかな雰囲気を漂わせながら、彼らのパーティーは始まった。
「余興とかは俺はあまり得意な方じゃないから、その分お菓子に力を入れてきた」
 そう言ったゲイルが皆に切り分けるのは、上品な甘さを醸し出したアップルパイにスフレチーズケーキ。更に手軽に摘まめるクッキーの袋も開けて、香ばしい匂いが辺りに漂っていく。続いて「じゃーん」とばかりに美剣が、豪華三段重ねのお弁当を取り出した。
「おかず二段にごはん一段のてんこ盛りですよ。歌え踊れの大宴会ですね」
「美味しいです、ふふ……!」
 早速珠輝は料理に舌鼓をうってご満悦で――歓談も交えて盛り上がってきた所で、楽器を取り出した御菓子がアップテンポの曲を演奏して楽しい雰囲気を高めていく。ヴィオラやフルートなど数々の楽器を弾きこなす彼女の様子に、見事だと言うように久永が頷いた。
「ふふ、身体がうずいてきました。アドレナリン放出です……!」
 やがて曲に合わせて珠輝が軽やかに踊り出し、ご一緒に如何と差し伸べられた手を大和が取る。くるりくるりと優雅な舞を披露する彼女の姿へ、仲間たちの間から拍手が起こっていった。
「ふむ……よきかな」
 その様子を微笑ましく眺める久永は、ふと思い立って持ってきたお手玉をぽんぽんと回し始める。一人遊びは得意で、五個くらいなら簡単だと思ったのだが――おや、瞬きひとつの間に、何故かお手玉の数が増えたような。
「白い、毛玉……もしや?」
 ふわりと宙を舞うお手玉――否、しろいもふもふは、つぶらな瞳で此方を見つめていて。ころん、と可愛らしい音を立てて、校舎の暗がりから――天井裏から、或いは床の隙間から、幾つものまんまる毛玉が賑やかな宴に誘われて、次々に姿を現していく。
 あ、と梨緒の優しい瞳が、その時うっとりと細められた。
「……ケサランパサラン……!」

●もふもふ毛玉と戯れて
 わぁい、とはしゃぎながら、ケサランパサランたちは皆の机の上へ我先にと飛び込んでいった。どうやら一行の和やかな雰囲気にすっかり安心したらしく、一緒に遊んで欲しいと言うように潤んだ瞳で此方を見上げて来る。
(慌てず、騒がず、落ち着いて……)
 内心の喜びを穏やかな態度と表情とで隠しつつ、美剣はそっとケサランパサランを撫でてみた。途端に指先をくすぐる、ふわっとしつつもしっとりもふもふとした感触に、思わず美剣の凛とした相貌がふにゃりと緩みそうになる。
「撫でまくりやなー。よし、ならうちも……もふる!」
 もふもふむふもふ。撫でられるのが心地良いらしく、鼓虎の傍にはわらわらとケサランパサラン達が群がってきた。一方のゲイルは、そっと触れ合うところから始めている様子。一匹をそっと手のひらに乗せて、指でつついてみたりして優しく撫でる。
(もふもふタイムの始まりなのだ……!!)
 きゅー、と嬉しそうにぷるぷる震える毛玉さんの慣れ具合を確認した上で、ゲイルは己の着流しの懐の中へと、そっと彼らを導いていった。どうやら彼らは丁度良い住処だと思ったらしく、他のケサランパサランもよいしょと潜り込み、楽しそうにもぞもぞと身じろぎしているようだ。
(俺の懐の中で気持ちよさそうにしてるケサランパサラン……想像するだけで可愛すぎて堪らないな)
 ――思わず頬が緩んでしまうのも致し方ないと言うもの。鼓虎はこっそり「男の人と可愛いもんて萌える」とぐっと拳を握りしめ、ゲイルの守護使役の小梅も尻尾をぱたぱたさせて主人を見守っている。
「ふふ、寂しがりやさんなのね。一緒にパーティーを楽しみましょう?」
 と、中にはもじもじして中々輪の中に飛び込めない子もいるようだ。そんな彼へ、大和がぬいぐるみを近づけてぺこりとお辞儀をさせた。
「すねこすりのすりちゃんよ」
「私、ウサちゃん! 一緒に遊びましょう」
 お人形遊びなんて随分久しぶりだけど、子供の頃を思い出してとても楽しい。大和に続き、珠輝も白い兎のぬいぐるみを出し、裏声を駆使して腹話術のようにして操り出す。そうしている内に、人見知りをしていたケサランパサランもそろそろと近づいてきて。白粉を乗せた手で誘導する珠輝の元へ、彼はぴょんと飛び込んでいった。
「ふ、ふふ、怖くないですよー。どうか撫でさせてくださいね、ふふ」
 もふもふ、優しい手触りに包み込まれる珠輝は至福のときを味わい――大和の胸に飛び込んできたケサランパサランは、早速お皿に乗せられた白粉を食べ始めている。
(あら、なんだか毛のつやが増して、ちょっぴり大きくなったような?)
 流石、謎に満ちた古妖であると大和はしみじみ思いつつ。触ってもいいかと問う声に、ケサランパサランは嬉しそうにこくりと頷いた。
「本当に綺麗ね」
「……もふもふだなぁ……」
 隣では久永も、手招きに応じた子を抱きしめて存分にもふもふを堪能している。怯えさせないように、と極力注意を払っていたのだが、久永たちの心遣いはちゃんと彼らに伝わったようだ。もきゅ、と此方に身を委ねてくれる姿に、久永の胸を温かなものが満たしていく。
「かわい~かわいぃぃ~!」
 そして――差し出した手に乗っかったケサランパサランを抱きかかえ、すりすりと頬ずりをするのは御菓子。更にお腹らしき場所に顔をもふもふさせると、心地よい温かさが彼女を包み込んだ。ぽわん、と何時しか御菓子の頭にも一匹、ケサランパサランが乗っかって座り心地を堪能している。
「こうなったらもう、心を鷲掴みだよぉ。しかもくすぐったそうに幸せな声を上げるしぃ!」
「ええ、ケサランパサランさんがいっぱい楽しんでくれて、満足してくれたら嬉しいです」
 にっこりと頷く梨緒の元へも、心地よさそうにしているケサランパサランが殺到していた。撫でて、もふもふして、ふかふかして。暫くぶりのひととの触れ合いだったのだろう――本当に彼らは嬉しそうで、撫でられるたびに「もきゅー」と鳴いて飛び跳ねていた。
「萌えってこういうことなんだねぇ」
 ――しみじみと呟きながら、御菓子は思う。おいしいお茶に、楽しい音楽。そして笑顔が溢れれば、それが一番わたしが好きな風景で――愛する空気なのだと。

●再会の祈り
 やがてパーティーは名残惜しくもお開きとなり、皆はすっかり満足して大人しくなったケサランパサラン達を、住処の裏山まで見送ることにした。勿論、ちゃんと20匹全員居る。
「お別れするのは寂しいですが……ケサパサちゃん達が事件に巻き込まれたら大変ですものね」
 名残惜しそうに毛玉を撫でる珠輝に、梨緒と御菓子も頷くものの――お別れするのが寂しい気持ちは抑えられない。
「……一匹連れて帰りたいですけど……ダメですよね、やっぱり」
「古妖に対する目は厳しいだろうし、仲間を別れさせちゃかわいそうだよね……みんなといるほうが幸せだよね……」
 ざんねんだよぉぉぉぉ~っと、せめて御菓子は夕焼け空に向かって叫んで――やがて美剣や鼓虎の見守る中、山の奥へ向かってゆっくりとケサランパサラン達が進んでいった。またもふもふしたい、そんな願いを込めてゲイルが手を振り、大和も静かに彼らが帰っていくのを見つめる。
「世に出る妖があなた達のように優しい存在であれば、人と共存できるのにね」
 そんな彼女の手には、今日のパーティーのスケッチがあった。今日の思い出を何か形にして残せれば嬉しいと言った大和の為に、梨緒が描いてくれたものだ。
「……『さようなら』は少し寂しいか」
 ゆっくりと陽は沈み、やがて夏も終わるだろう。けれど再会の願いを託して、久永がぽつりと呟いた。
「なら……『またいつか』だな」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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