ふわふわヒツジとびりびりヒツジ
●ふわふわびりびり
これは、ある古妖と妖の間に生まれたすれ違いの物語である。
「んめー!」
まあるいボディにピンクの毛皮。ちまちまあんよのヒツジさんがいた。
ヒツジさんといっても殆ど綿飴みたいなシルエットをしていて、まあるい毛皮から顔だけちょこんと覗いている不思議生物だ。
この子は古妖『ふわふわ』。
精神的に疲れた人々のもとに現われてはふわふわな抱き心地で眠りにつかせ、日々の疲れを忘れさせる妖怪である。
しかしそんなふわふわにも悩みがあった。
妖被害のあおりを受けて仲間が急激に減っていることだ。
疲れている人は過酷な場所にこそ多い。そういった所に仲間が行くたび、襲われる人間を庇ったり巻き込まれたりといった形でふわふわは命を落とすのだ。
やがてひとりぼっちになってしまったふわふわは、広大な廃ゴルフ場の真ん中でお空を眺めて過ごしていた。
そんな時。
「ギメェ……」
真っ黒な毛皮をしたヒツジさんが現われた。
「んめえ!」
仲間がやってきたと思ったふわふわは目を輝かせて駆け寄っていく。
だがしかし。
「ギメエッ!」
それは仲間のふわふわではなく、まして古妖でもなかった。
人類の敵にして妖、『ビリビリ』だったのだ。
相手を外敵と判断したビリビリの放つ電撃が、ふわふわを襲う。
ふわふわの命ははかなく散る……筈だった。
●未来を変える力となれ
「このように、古妖『ふわふわ』は妖の攻撃によって死んでしまう運命にあります。けれどそれは未来の出来事。変えることができるんです」
久方 真由美(nCL2000003)はそのように説明してから、作戦の説明に移った。
ふわふわとビリビリの遭遇までには時間がある。
よって、『ふわふわを足止めし続けるチーム』と『ビリビリを倒すチーム』の二手にわけて活動し、接触を阻止するのだ。
「ふわふわは疲れていそうな人間を見ると身体をくっつけて安らぎと眠りを与えようとします。そうでなくても、しがみついたり持て成したりすることで足止めができるでしょう」
その間に別チームがビリビリを倒すわけだが……。
「ビリビリはその名の通り電撃を使って人間を攻撃してきます。具体的な攻撃方法は身体から帯電した毛玉を発射してぶつけるというもので、これには痺れの効果があります。工夫次第ではうまく避けることもできるでしょう」
最後に、という風にまとめた資料をデスクに置く真由美。
「人々の安らぎを守ってきた古妖が傷つくことは見過ごせません。どうか皆さんの力を貸してください。お願いします」
これは、ある古妖と妖の間に生まれたすれ違いの物語である。
「んめー!」
まあるいボディにピンクの毛皮。ちまちまあんよのヒツジさんがいた。
ヒツジさんといっても殆ど綿飴みたいなシルエットをしていて、まあるい毛皮から顔だけちょこんと覗いている不思議生物だ。
この子は古妖『ふわふわ』。
精神的に疲れた人々のもとに現われてはふわふわな抱き心地で眠りにつかせ、日々の疲れを忘れさせる妖怪である。
しかしそんなふわふわにも悩みがあった。
妖被害のあおりを受けて仲間が急激に減っていることだ。
疲れている人は過酷な場所にこそ多い。そういった所に仲間が行くたび、襲われる人間を庇ったり巻き込まれたりといった形でふわふわは命を落とすのだ。
やがてひとりぼっちになってしまったふわふわは、広大な廃ゴルフ場の真ん中でお空を眺めて過ごしていた。
そんな時。
「ギメェ……」
真っ黒な毛皮をしたヒツジさんが現われた。
「んめえ!」
仲間がやってきたと思ったふわふわは目を輝かせて駆け寄っていく。
だがしかし。
「ギメエッ!」
それは仲間のふわふわではなく、まして古妖でもなかった。
人類の敵にして妖、『ビリビリ』だったのだ。
相手を外敵と判断したビリビリの放つ電撃が、ふわふわを襲う。
ふわふわの命ははかなく散る……筈だった。
●未来を変える力となれ
「このように、古妖『ふわふわ』は妖の攻撃によって死んでしまう運命にあります。けれどそれは未来の出来事。変えることができるんです」
久方 真由美(nCL2000003)はそのように説明してから、作戦の説明に移った。
ふわふわとビリビリの遭遇までには時間がある。
よって、『ふわふわを足止めし続けるチーム』と『ビリビリを倒すチーム』の二手にわけて活動し、接触を阻止するのだ。
「ふわふわは疲れていそうな人間を見ると身体をくっつけて安らぎと眠りを与えようとします。そうでなくても、しがみついたり持て成したりすることで足止めができるでしょう」
その間に別チームがビリビリを倒すわけだが……。
「ビリビリはその名の通り電撃を使って人間を攻撃してきます。具体的な攻撃方法は身体から帯電した毛玉を発射してぶつけるというもので、これには痺れの効果があります。工夫次第ではうまく避けることもできるでしょう」
最後に、という風にまとめた資料をデスクに置く真由美。
「人々の安らぎを守ってきた古妖が傷つくことは見過ごせません。どうか皆さんの力を貸してください。お願いします」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ふわふわの生存
2.ビリビリの消滅(撃破)
3.なし
2.ビリビリの消滅(撃破)
3.なし
現場は広いゴルフ場です。ふわふわはその中央、ビリビリは端っこに出現しています。(それぞれ一体ずつです)
それぞれの現場に皆さんが現われた所から状況開始となります。
ふわふわは安らぎを守る古妖です。
疲れた人を見かけるとくっついて癒やそうとします。
癒やした後でも、もてなしてあげれば多少は付き合ってくれるでしょう。
もてなし方も色々ありますが、基本的にはお菓子やご飯です。
ビリビリはランク1生物系妖です。
毛玉を発射して相手に帯電攻撃をしかけます。この毛玉は無限に出てきますが、毛を刈り続けることで毛玉の発射が難しくなる傾向にあるようです。
また発射された毛玉をどうかわすかプレイングに書くことで回避補正に相応のボーナスが加わります。
一応BSとして【痺れ】がついていますが、状況的に見て100%ヒットはあまりしないので気にしなくて大丈夫でしょう。
●補足
どちらか最低一人でもいれば人数配分はどのくらいの比率でも構いません。最悪5対1でも回るように調整します。『こっちがいいなあ』くらいの気持ちで選択して下さい。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年09月23日
2016年09月23日
■メイン参加者 6人■

●びりびりヒツジ
ゴルフ場の周囲を覆う森林地帯を、真っ黒な妖が歩いていた。
今回問題となっている妖、びりびりヒツジである。
その一方で、『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)が茂みの向こうから様子をうかがっていた。
「みつけた、あれがビリビリちゃんかなぁ」
「間違いない。もふもふヒツジに近づかないように押さえなければな」
一緒に様子を伺う斎 義弘(CL2001487)。
ふと見ると、奈南がしょんぼりした顔をしていた。
「……どうした?」
「ビリビリちゃんも、少し可哀想なのだ。ふわふわちゃんと、お友達になりたかったんじゃないかなぁ」
瞬きする義弘。妖に同情する人も珍しい。
考えてみれば奈南はこれがファイブでの初仕事か……。
「皐月、残念だがあのランクの妖にはそこまでの思考力はないんだ。どころか、近づく者を無差別に殺傷してしまう。それは人にも、もしかしたら妖自身にも悲しいことなのかもしれない」
古妖と妖の区別について教えるのは、また今度でいいだろう。
義弘はそこまで考えて、茂みから身を露わにした。
「ギメッ!?」
敵の出現に慌てた様子で広い場所へと駆け出すびりびりヒツジ。
すると、森林地帯を出た所で大辻・想良(CL2001476)が待ち構えていた。
「これ以上は行かせません」
腰のホルダーからラミネート加工されたカードを一枚取り出すと、手首の動きだけで投擲。カードに描かれた魔術式に応じて真空が出現し、びりびりヒツジへと襲いかかった。
「ギメッ!」
咄嗟に飛び退くびりびりヒツジ。カーブしたカードが僅かに毛皮を削っていく。
その一方で奈南と義弘が飛び出し、びりびりヒツジを囲むように立ち塞がった。
「ギメ……」
囲まれたことに気づいたが、びりびりヒツジは不利を感じることもなかった。
素早く前後反転すると、身体から無数の毛玉を発射。
スパークする毛玉が飛来するが、奈南は負けじと手を翳した。
「ワワン、あれなのだ!」
空中の守護使役が取り出したホッケースティックを回転しながらキャッチ。
「『いっせーそーしゃ』だよぉ!」
反動でフルスイングをかけると、スティックに纏わせたエネルギーを放射状に解き放った。
いくつかの毛玉にエネルギーの波がぶつかり、空中で爆ぜさせていく。
とはいえ全てとはいかない。
義弘は割り込むように前へ出ると、握り込んだメイスに炎を纏わせた。
「毛玉は焼き切るに限る!」
大上段からの大ぶりで繰り出した炎に巻き込まれて炭と化す毛玉たち。
それでもまだ焼き切れない分は盾を翳して受け止めた。
多少しびれは来るが、耐えられないほどじゃない。
「これなら、行けるな」
義弘はメイスをいまいちど握り直し、びりびりヒツジへと駆けだした。
●もふもふヒツジ
想良たちが戦闘に入った丁度その頃。
篁・三十三(CL2001480)はサングラス越しに太陽を眺めていた。
「『ふわふわ』……精神的に人を癒やす古妖ですか」
眼鏡のつるをつまんでうつむく『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)。
「人々の安らぎを守り時には自分を盾にして守る古妖……」
顔を両手で覆う『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)。
「疲れた人々に安らぎと眠りを与えてくれるひつじさん……」
三人は同時に深い息をついた。
サングラスを外す三十三。
「こんな存在が妖に滅ぼされてしまうのを、黙ってみては居られませんね」
「そう――ふわもこはまもる!」
なんか理央の精神年齢が軽く五歳くらい下がった。
「しっかり足止めしなければ。何が何でも、守らねば!」
三人は同じ空を見上げ、ついーっと視線を下ろしてもふもふヒツジを見つめた。
なんか、心が一つになった瞬間だった。
「んー……」
それまで目を瞑っていたもふもふヒツジが薄目をあけて、空を見上げてまばたきを二つした。
「んめー!」
「もふもふうううううううううううう!」
理央の精神年齢が急に10歳くらい下がった。
三頭身になった理央がわぁーいとかいいながら走り出す。
バンザイポーズでお花のオーラを出しながらスローモーションで草原を走って行く理央。
ジャンプしてもふもふヒツジの横っ腹に飛びつくと、顔をうずめて左右にぐいんぐいん振り始めた。
このときに発した理央の声を言語化するのはとても難しい。
なんか『おふぉふぉふぉふぉふぉ』と『いひゃひゃひゃひゃひゃ』の中間くらいの声が出ていたと思って頂きたい。
よほど最近嫌なことでもあったのか、とんでもないぶっ壊れっぷりである。
だがこれこそがもふもふヒツジさんの真骨頂。
日頃疲れている人ほどもふもふに甘えてしまいたくなるのだ。
「くっ……!」
声をかけて移動をやめさせようとした三十三にも例外ではない。
こう、なんていうか、嫌な思い出とかつらい現実とか、そういうものをはき出したくなっちゃう衝動に目を背けた。
あとつぶらな瞳をぱちくりさせながらこっちを見る姿にムネキュンしていた。
「い、いえ……」
自分を誤魔化すようにサングラスをかけなおす三十三。
ここで精神年齢を10歳落とすわけにはいかないのだ。
女性であり割と未成年の理央がもふもふに甘えるだけにしておかねばなら――。
「うおおおおおおもふもふううううううう!」
ゲイルが精神年齢を40歳くらい落としてきた。
三頭身になったゲイルがうわーいとかいいながらもふもふヒツジにジャンプする。
顔がもうそれまでのゲイルじゃなかった。顔文字で言うと『(=ω=)』な感じになっていた。だれだこのひとは。
ぽふんともふもふヒツジの背中にうずもれるゲイル。
そのままの姿勢で急に語り始めた。
「俺は疲れているんだ。肉体的にも精神的にもだ。けれどふわふわは俺に安らぎを与えてくれる。お日様の光を沢山浴びたお布団のように俺を優しく包み込んでくれスヤァ……」
なんか幸せそうな顔で眠り始めたゲイル。
理央ももふもふヒツジに抱きついたまますぴーすぴーし始めていた。
で、肝心のもふもふヒツジはといえば、二人を起こさないようにその場に両手を折って座り込み、何も考えてないかのように目をぱちくりしていた。
「…………」
サングラスをかけたまま、その場で棒立ちになる三十三。
どうしよう、自分も行った方がいいのだろうか。
そういうわけにもいくまいて。
いやしかし……。
しばし、三十三はその場から動かなかった。
●びりびりバトル
両者対照的な展開を見せる廃ゴルフ場。
こちらはびりびりサイド。
「びりびりちゃんだって、ホントはこんなことしたくないはずなのだ!」
えいえいってホッケースティックを振り回す奈南。
飛来する毛玉はなんとかたたき落とせるが、落とすのに精一杯で近づくに近づけない。
さっきからそんな状態が続いていた。
奈南もビギナー覚者である。烈波も五発ちょっと打てばもうヘロヘロだ。
「皐月さん、大丈夫ですか。これを飲んで……」
想良は自らの精神力をミネラルウォーターのボトル内に溶かし込むと、ぜーぜー言ってる奈南に差し出した。
「ありがとぉ……でもこのまま続けてたらびりびりちゃんに近づけないよねぇ」
「確かに……おっと!」
想良は自分めがけて飛んでくる毛玉にカードを投射。
真空を纏ったカードが毛玉に突き刺さり、ちょっとした空気爆発を起こした。
周囲の毛玉がちょっぴりあおられたが、あまりよい防御にはなっていないようだ。
「攻撃スキルを防御に用いるというのは、あまり悪くないアイデアではあるんだが……防御一辺倒になってしまうのは考えていなかったな」
これが実地経験というものか。
義弘は額の汗をぬぐって、飛来する毛玉を盾で弾いた。
弾くといってもぶつかった時点で電気ショックが走るのでびりびりと痛いことこの上ない。
流石にコンセントに指つっこんだ時みたいなヤバい電撃は走ってこないが、いつまでもくらっていたら身体がもたないだろう。
「よし……俺が盾になって近づく。奈南はそれを利用して回り込み、想良は回り込む隙を作るために援護射撃だ。できるか!?」
「がんばるよぉ!」
ホッケースティックを両手で握ってガッツポーズする奈南。
作戦開始。
義弘は頷くと、メイスを赤く加熱させながらじりじりと、びりびりヒツジへと前進し始めた。
飛来する毛玉は最大限盾で受けつつ、できるだけ広範囲にメイスを振り込んで後ろに流れるのを防ぐ。
力学的なハナシはさておいて、義弘を大きな柱と見立てた場合、彼の周囲をかすった毛皮は奈南を挟み込むように当たる可能性がある。なのである程度スピードを保ちつつ、義弘の背後に人間大のエアポケットを生むつもりで動かねばならない。
その動きを補助してくれたのは想良の貼り付けたカードだった。
義弘の盾にびっしりと張り付いたカードが毛玉の電気ショックをある程度吸収してくれているのだ。静電気除去パッドのようなものを想像してくれてかまわない。
「スピードを上げるぞ、準備!」
頷く奈南と想良。
義弘は急速にスピードを上げ、身体にぶつかる毛玉を我慢してそのままびりびりヒツジに体当たりをしかけた。
「今だ!」
「はい……!」
義弘を遮蔽物にして毛玉をさけていた想良が、彼から見て左側へとダッシュ。
ホルダーからカードを無数に取り出すと、それらを一斉に投擲した。
空中で発動した魔術式が地場を生み、それぞれが激しくスパーク。
びりびりヒツジの毛玉とぶつかり合い、空中で相殺現象を起こした。
むきになって想良へと第二波を放とうとするびりびりヒツジだが、それこそが待ち望んだ隙であった。
「奈南!」
「ホームランでるかなぁ、わくわく!」
右側へと飛び出た奈南がホッケースティックにエネルギーを伝達。
フルスイングでもってびりびりヒツジに叩き付けた。
「ギメェ!?」
スイングをくらったヒツジはもんどりうって倒れ、ころころ転がった後足をじたばたさせ、ぺたんと脱力。
そのまましおしおと消滅を始めた。
「びりびりちゃん!」
駆け寄る奈南。
言いたいことは色々あるが、時間が無い。頭の中を早回しにした。
「電気のお風呂とか発電所のひととか仲良くできるかもだしびりびりちゃんがふれあえる場所あるかもだから、お友達できるよぉ!」
一瞬何言ってるのかわからないくらいの早回しだったが、びりびりヒツジはめをぱちくりさせたあと……。
「ぎめぇ」
といって、力尽きた。
――と、ここで終わりでは無いのがこの世界のいいところ。
「おや、これは……?」
想良は異変に気づいて奈南へと駆け寄った。
びりびりヒツジは力尽きたが、その元となった生物。要するに『黒毛の羊さん』がその場に横たわっていたのだ。
羊さんは目をぱっちりと開け、ゆっくりと起き上がると奈南に頭をこすりつけはじめた。
「びりびりちゃん……」
「妖じゃあ、ないんだよな」
近づいて触ってみる義弘。
静電気はありそうだったが、妖のように人を傷付ける生き物じゃない。
「そうだった。妖は元になったものが必ずあるんだが……生物系妖は生きたまま妖から元に戻るケースがある。死んでしまっているケースも多いらしいが」
「……」
想良は義弘の話を聞いて、もう一度(元)びりびりヒツジを見つめた。
手を当ててみると、生き物のぬくもりと鼓動が伝わってくる。
「ふわふわは、ひとりきりじゃなくなりますね」
●ふわふわばとる
「ふわふわは天使なんじゃないか」
「もふー」
「全身でもってこの幸せを感じまくろう」
「もふもふー」
「激しい戦いの日々が俺たちには待っているから」
「もふー」
「過酷な日々を生き抜くために」
「もふふー」
「ここで英気を養っておく……あ、アップルパイ食べるか」
「んめー!」
ゲイルがバスケットから取り出したアップルパイをはむはむ食べるもふもふヒツジ。
理央に至ってはもう言語能力すら失ってもふもふの虜と化していた。
もうっ、プレイングを『もふもふ』で300字くらい埋めちゃって、お母さんちゃんと引いときますからねっ!
「ところで、この後の話なんですが……」
サングラスをしたまま一定の距離を保ち続ける三十三。
完全にゆるきゃらみたくなった理央をよそにして、ゲイルがキリッとした顔で振り向いた。
「安心してくれ。俺はファイヴ村の動物園を管理している男だ。アマゾネスたちにリーダーと呼ばれている」
「でも今月行きませんでしたよね」
「みんな優秀だから、二ヶ月くらい放置しても大丈夫だ」
動物園の開園は遅れるけど……さておき。
折角だから説明しておこう。
ファイヴ村とは妖で滅びた廃村をあらゆる意味で清掃し、八人くらいのファイヴ覚者が知恵と努力で画期的な市町村へと進化させた村々の総称である。ちなみに現行シリーズである。
古妖や人間の移住を広く認めていて、依頼で出会った古妖の移住にも積極的だ。詳しいことは、管理者の人がちゃんとまとめてくれているのでブリーフィングルームとか見て欲しい。
「なるほど……」
ふわふわを軽くなでる三十三。
「では、普通のヒツジも受け入れられますね」
「えっ」
振り返ると、奈南が黒いヒツジさんと一緒に歩いてくるのが見えた。
傷だらけの義弘と想良も一緒だ。
「おお、この現象は……!」
「はい。どうやら生きたまま救出できたようです」
「んめー!」
もふもふヒツジは、黒いヒツジさんを仲間だと思って駆け寄った。
黒いヒツジさんはふわふわでもなくまして古妖でもなかったが。
「ぎめー!」
もふもふヒツジにゴッと頭をぶつけた後、黒いヒツジさんは頬をすりよせた。
「めえ!」
ふたりのヒツジが振り返る。奈南やゲイルたちにお礼を言ったように、彼らには思えた。
ゴルフ場の周囲を覆う森林地帯を、真っ黒な妖が歩いていた。
今回問題となっている妖、びりびりヒツジである。
その一方で、『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)が茂みの向こうから様子をうかがっていた。
「みつけた、あれがビリビリちゃんかなぁ」
「間違いない。もふもふヒツジに近づかないように押さえなければな」
一緒に様子を伺う斎 義弘(CL2001487)。
ふと見ると、奈南がしょんぼりした顔をしていた。
「……どうした?」
「ビリビリちゃんも、少し可哀想なのだ。ふわふわちゃんと、お友達になりたかったんじゃないかなぁ」
瞬きする義弘。妖に同情する人も珍しい。
考えてみれば奈南はこれがファイブでの初仕事か……。
「皐月、残念だがあのランクの妖にはそこまでの思考力はないんだ。どころか、近づく者を無差別に殺傷してしまう。それは人にも、もしかしたら妖自身にも悲しいことなのかもしれない」
古妖と妖の区別について教えるのは、また今度でいいだろう。
義弘はそこまで考えて、茂みから身を露わにした。
「ギメッ!?」
敵の出現に慌てた様子で広い場所へと駆け出すびりびりヒツジ。
すると、森林地帯を出た所で大辻・想良(CL2001476)が待ち構えていた。
「これ以上は行かせません」
腰のホルダーからラミネート加工されたカードを一枚取り出すと、手首の動きだけで投擲。カードに描かれた魔術式に応じて真空が出現し、びりびりヒツジへと襲いかかった。
「ギメッ!」
咄嗟に飛び退くびりびりヒツジ。カーブしたカードが僅かに毛皮を削っていく。
その一方で奈南と義弘が飛び出し、びりびりヒツジを囲むように立ち塞がった。
「ギメ……」
囲まれたことに気づいたが、びりびりヒツジは不利を感じることもなかった。
素早く前後反転すると、身体から無数の毛玉を発射。
スパークする毛玉が飛来するが、奈南は負けじと手を翳した。
「ワワン、あれなのだ!」
空中の守護使役が取り出したホッケースティックを回転しながらキャッチ。
「『いっせーそーしゃ』だよぉ!」
反動でフルスイングをかけると、スティックに纏わせたエネルギーを放射状に解き放った。
いくつかの毛玉にエネルギーの波がぶつかり、空中で爆ぜさせていく。
とはいえ全てとはいかない。
義弘は割り込むように前へ出ると、握り込んだメイスに炎を纏わせた。
「毛玉は焼き切るに限る!」
大上段からの大ぶりで繰り出した炎に巻き込まれて炭と化す毛玉たち。
それでもまだ焼き切れない分は盾を翳して受け止めた。
多少しびれは来るが、耐えられないほどじゃない。
「これなら、行けるな」
義弘はメイスをいまいちど握り直し、びりびりヒツジへと駆けだした。
●もふもふヒツジ
想良たちが戦闘に入った丁度その頃。
篁・三十三(CL2001480)はサングラス越しに太陽を眺めていた。
「『ふわふわ』……精神的に人を癒やす古妖ですか」
眼鏡のつるをつまんでうつむく『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)。
「人々の安らぎを守り時には自分を盾にして守る古妖……」
顔を両手で覆う『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)。
「疲れた人々に安らぎと眠りを与えてくれるひつじさん……」
三人は同時に深い息をついた。
サングラスを外す三十三。
「こんな存在が妖に滅ぼされてしまうのを、黙ってみては居られませんね」
「そう――ふわもこはまもる!」
なんか理央の精神年齢が軽く五歳くらい下がった。
「しっかり足止めしなければ。何が何でも、守らねば!」
三人は同じ空を見上げ、ついーっと視線を下ろしてもふもふヒツジを見つめた。
なんか、心が一つになった瞬間だった。
「んー……」
それまで目を瞑っていたもふもふヒツジが薄目をあけて、空を見上げてまばたきを二つした。
「んめー!」
「もふもふうううううううううううう!」
理央の精神年齢が急に10歳くらい下がった。
三頭身になった理央がわぁーいとかいいながら走り出す。
バンザイポーズでお花のオーラを出しながらスローモーションで草原を走って行く理央。
ジャンプしてもふもふヒツジの横っ腹に飛びつくと、顔をうずめて左右にぐいんぐいん振り始めた。
このときに発した理央の声を言語化するのはとても難しい。
なんか『おふぉふぉふぉふぉふぉ』と『いひゃひゃひゃひゃひゃ』の中間くらいの声が出ていたと思って頂きたい。
よほど最近嫌なことでもあったのか、とんでもないぶっ壊れっぷりである。
だがこれこそがもふもふヒツジさんの真骨頂。
日頃疲れている人ほどもふもふに甘えてしまいたくなるのだ。
「くっ……!」
声をかけて移動をやめさせようとした三十三にも例外ではない。
こう、なんていうか、嫌な思い出とかつらい現実とか、そういうものをはき出したくなっちゃう衝動に目を背けた。
あとつぶらな瞳をぱちくりさせながらこっちを見る姿にムネキュンしていた。
「い、いえ……」
自分を誤魔化すようにサングラスをかけなおす三十三。
ここで精神年齢を10歳落とすわけにはいかないのだ。
女性であり割と未成年の理央がもふもふに甘えるだけにしておかねばなら――。
「うおおおおおおもふもふううううううう!」
ゲイルが精神年齢を40歳くらい落としてきた。
三頭身になったゲイルがうわーいとかいいながらもふもふヒツジにジャンプする。
顔がもうそれまでのゲイルじゃなかった。顔文字で言うと『(=ω=)』な感じになっていた。だれだこのひとは。
ぽふんともふもふヒツジの背中にうずもれるゲイル。
そのままの姿勢で急に語り始めた。
「俺は疲れているんだ。肉体的にも精神的にもだ。けれどふわふわは俺に安らぎを与えてくれる。お日様の光を沢山浴びたお布団のように俺を優しく包み込んでくれスヤァ……」
なんか幸せそうな顔で眠り始めたゲイル。
理央ももふもふヒツジに抱きついたまますぴーすぴーし始めていた。
で、肝心のもふもふヒツジはといえば、二人を起こさないようにその場に両手を折って座り込み、何も考えてないかのように目をぱちくりしていた。
「…………」
サングラスをかけたまま、その場で棒立ちになる三十三。
どうしよう、自分も行った方がいいのだろうか。
そういうわけにもいくまいて。
いやしかし……。
しばし、三十三はその場から動かなかった。
●びりびりバトル
両者対照的な展開を見せる廃ゴルフ場。
こちらはびりびりサイド。
「びりびりちゃんだって、ホントはこんなことしたくないはずなのだ!」
えいえいってホッケースティックを振り回す奈南。
飛来する毛玉はなんとかたたき落とせるが、落とすのに精一杯で近づくに近づけない。
さっきからそんな状態が続いていた。
奈南もビギナー覚者である。烈波も五発ちょっと打てばもうヘロヘロだ。
「皐月さん、大丈夫ですか。これを飲んで……」
想良は自らの精神力をミネラルウォーターのボトル内に溶かし込むと、ぜーぜー言ってる奈南に差し出した。
「ありがとぉ……でもこのまま続けてたらびりびりちゃんに近づけないよねぇ」
「確かに……おっと!」
想良は自分めがけて飛んでくる毛玉にカードを投射。
真空を纏ったカードが毛玉に突き刺さり、ちょっとした空気爆発を起こした。
周囲の毛玉がちょっぴりあおられたが、あまりよい防御にはなっていないようだ。
「攻撃スキルを防御に用いるというのは、あまり悪くないアイデアではあるんだが……防御一辺倒になってしまうのは考えていなかったな」
これが実地経験というものか。
義弘は額の汗をぬぐって、飛来する毛玉を盾で弾いた。
弾くといってもぶつかった時点で電気ショックが走るのでびりびりと痛いことこの上ない。
流石にコンセントに指つっこんだ時みたいなヤバい電撃は走ってこないが、いつまでもくらっていたら身体がもたないだろう。
「よし……俺が盾になって近づく。奈南はそれを利用して回り込み、想良は回り込む隙を作るために援護射撃だ。できるか!?」
「がんばるよぉ!」
ホッケースティックを両手で握ってガッツポーズする奈南。
作戦開始。
義弘は頷くと、メイスを赤く加熱させながらじりじりと、びりびりヒツジへと前進し始めた。
飛来する毛玉は最大限盾で受けつつ、できるだけ広範囲にメイスを振り込んで後ろに流れるのを防ぐ。
力学的なハナシはさておいて、義弘を大きな柱と見立てた場合、彼の周囲をかすった毛皮は奈南を挟み込むように当たる可能性がある。なのである程度スピードを保ちつつ、義弘の背後に人間大のエアポケットを生むつもりで動かねばならない。
その動きを補助してくれたのは想良の貼り付けたカードだった。
義弘の盾にびっしりと張り付いたカードが毛玉の電気ショックをある程度吸収してくれているのだ。静電気除去パッドのようなものを想像してくれてかまわない。
「スピードを上げるぞ、準備!」
頷く奈南と想良。
義弘は急速にスピードを上げ、身体にぶつかる毛玉を我慢してそのままびりびりヒツジに体当たりをしかけた。
「今だ!」
「はい……!」
義弘を遮蔽物にして毛玉をさけていた想良が、彼から見て左側へとダッシュ。
ホルダーからカードを無数に取り出すと、それらを一斉に投擲した。
空中で発動した魔術式が地場を生み、それぞれが激しくスパーク。
びりびりヒツジの毛玉とぶつかり合い、空中で相殺現象を起こした。
むきになって想良へと第二波を放とうとするびりびりヒツジだが、それこそが待ち望んだ隙であった。
「奈南!」
「ホームランでるかなぁ、わくわく!」
右側へと飛び出た奈南がホッケースティックにエネルギーを伝達。
フルスイングでもってびりびりヒツジに叩き付けた。
「ギメェ!?」
スイングをくらったヒツジはもんどりうって倒れ、ころころ転がった後足をじたばたさせ、ぺたんと脱力。
そのまましおしおと消滅を始めた。
「びりびりちゃん!」
駆け寄る奈南。
言いたいことは色々あるが、時間が無い。頭の中を早回しにした。
「電気のお風呂とか発電所のひととか仲良くできるかもだしびりびりちゃんがふれあえる場所あるかもだから、お友達できるよぉ!」
一瞬何言ってるのかわからないくらいの早回しだったが、びりびりヒツジはめをぱちくりさせたあと……。
「ぎめぇ」
といって、力尽きた。
――と、ここで終わりでは無いのがこの世界のいいところ。
「おや、これは……?」
想良は異変に気づいて奈南へと駆け寄った。
びりびりヒツジは力尽きたが、その元となった生物。要するに『黒毛の羊さん』がその場に横たわっていたのだ。
羊さんは目をぱっちりと開け、ゆっくりと起き上がると奈南に頭をこすりつけはじめた。
「びりびりちゃん……」
「妖じゃあ、ないんだよな」
近づいて触ってみる義弘。
静電気はありそうだったが、妖のように人を傷付ける生き物じゃない。
「そうだった。妖は元になったものが必ずあるんだが……生物系妖は生きたまま妖から元に戻るケースがある。死んでしまっているケースも多いらしいが」
「……」
想良は義弘の話を聞いて、もう一度(元)びりびりヒツジを見つめた。
手を当ててみると、生き物のぬくもりと鼓動が伝わってくる。
「ふわふわは、ひとりきりじゃなくなりますね」
●ふわふわばとる
「ふわふわは天使なんじゃないか」
「もふー」
「全身でもってこの幸せを感じまくろう」
「もふもふー」
「激しい戦いの日々が俺たちには待っているから」
「もふー」
「過酷な日々を生き抜くために」
「もふふー」
「ここで英気を養っておく……あ、アップルパイ食べるか」
「んめー!」
ゲイルがバスケットから取り出したアップルパイをはむはむ食べるもふもふヒツジ。
理央に至ってはもう言語能力すら失ってもふもふの虜と化していた。
もうっ、プレイングを『もふもふ』で300字くらい埋めちゃって、お母さんちゃんと引いときますからねっ!
「ところで、この後の話なんですが……」
サングラスをしたまま一定の距離を保ち続ける三十三。
完全にゆるきゃらみたくなった理央をよそにして、ゲイルがキリッとした顔で振り向いた。
「安心してくれ。俺はファイヴ村の動物園を管理している男だ。アマゾネスたちにリーダーと呼ばれている」
「でも今月行きませんでしたよね」
「みんな優秀だから、二ヶ月くらい放置しても大丈夫だ」
動物園の開園は遅れるけど……さておき。
折角だから説明しておこう。
ファイヴ村とは妖で滅びた廃村をあらゆる意味で清掃し、八人くらいのファイヴ覚者が知恵と努力で画期的な市町村へと進化させた村々の総称である。ちなみに現行シリーズである。
古妖や人間の移住を広く認めていて、依頼で出会った古妖の移住にも積極的だ。詳しいことは、管理者の人がちゃんとまとめてくれているのでブリーフィングルームとか見て欲しい。
「なるほど……」
ふわふわを軽くなでる三十三。
「では、普通のヒツジも受け入れられますね」
「えっ」
振り返ると、奈南が黒いヒツジさんと一緒に歩いてくるのが見えた。
傷だらけの義弘と想良も一緒だ。
「おお、この現象は……!」
「はい。どうやら生きたまま救出できたようです」
「んめー!」
もふもふヒツジは、黒いヒツジさんを仲間だと思って駆け寄った。
黒いヒツジさんはふわふわでもなくまして古妖でもなかったが。
「ぎめー!」
もふもふヒツジにゴッと頭をぶつけた後、黒いヒツジさんは頬をすりよせた。
「めえ!」
ふたりのヒツジが振り返る。奈南やゲイルたちにお礼を言ったように、彼らには思えた。
