≪百・獣・進・撃≫三つ首の巨獣が咆哮せし時
≪百・獣・進・撃≫三つ首の巨獣が咆哮せし時



「ゴオオオオオ!」
「ガアアアアア!」
「ギイイイイイ!」
 三種の獣の雄叫びが、遠方まで木霊する。
 ランク4の生物系妖。
 三つ首の巨大な狼。この尋常ならざる化け物の名前はミカゲといった。
「――――――――!!!!」
 地鳴りのような遠吠えに反応し。
 多くの獣達が、ミカゲの元へと寄ってくる。
 小型のものから、大型のものまで。鼠から獅子まで。多種多様。
 まさに百獣。
 その一体一体が妖であり、中にはランク3の凶悪な者達もいた。この軍勢は、全て三つ首の巨獣の手下達であった。
 忠誠を示すように、皆が皆、頭を垂れる。
「オオオオオオオ!」
 ミカゲが、空に向かって吠えたてる。
 これは手下達への命令の合図。
『殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せー!』
『喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえー!』
『王がため王がため王がため王がため王がため王がため王がため王がため王がためー!』
 三つ首の獣の絶叫は、そのような意味を持っていた。
 共鳴するように、獣達は叫びをあげる。
 やがて、それが止むと散り散りになって、妖達が人里の方へと向かっていく。もちろん、強固な意志を持って命令を遂行せんとしているのだ。
 殺す。
 喰らう。
 王がため。
 爛々と暴悪に瞳を光らせて、疾走する手下達の背を満足げに見送り。
 ミカゲは反対方向に踵を返した。
 王の座を賭けて……自らの王に、また命掛けで挑むために。


「くっ。こいつら、どこから現れたの!?」
 AAAの部隊長。
 桜井小鹿は、この事態に困惑していた。
「皆さん、慌てずに!」
「妖は我々が引き付けます!」
「こちらの方から逃げて!」
 耳をつんざく人々の悲鳴。
 小鹿の部下達は必死に、一般人の避難誘導を行っていた。
 つい先程まで、ここは皆の憩いの広場の筈だった。そこに突如、妖達が次々と襲来。無差別に人を襲い始めたのだった。
「シャァアア!」
「っ!」
 山猫の姿をした妖達が、小鹿へと氷塊を飛ばしてくる。
 ぎりぎりで名前通りの小さな身体が反応。氷が頬をかすめて眼鏡が飛ぶが。構っている暇はない。この辺りにいる部隊は、自分達だけなのだ。何としても妖を撃退しなくてはならない。
 だが、市民を守りながらの戦闘は困難であり。
 更に戦況は加速度的に悪化する。
「ダアアアアアアアアアアアアァアア!」
「桜井隊長! ランク3が現れました!」
 炎を纏った虎の妖。
 その紅蓮の爪が、容赦なく振るわれる。
「……カゲ! ミカゲ! ……王! 王!!」
「何だっていうの、こいつら!」


「最近、奈良県内で動物系妖の出現が急増している。その状況を重く見たAAAからF.i.V.E.に協力要請があった」
 中 恭介(nCL2000002)は、覚者達に説明を開始する。
 その声には緊迫感が満ちていた。
「それに関連して、今回とある事件が夢見によって予知されている。奈良県の街中の広場で、妖達が無差別に人を襲い始めるようだ」
 相手は山猫姿のランク1の妖が十体。
 そして、ランク3の虎の妖が一体。
 近くを警戒にあたっていたAAAの部隊が懸命に対処しようとするのだが。
 市民を守りながらの戦闘に加えて、他からの応援が期待できないことから、このままでは相当な被害がでてしまいかねない。
 事態は深刻だ。
「AAAから協力要請があったこともあるが、F.i.V.E.としても妖による犠牲を看過することはできない。君達には、現場の部隊と共に妖を迎撃してもらいたい」
 今回の件以外でも、奈良県では多くの事件が起こってしまっている。
 妖が暴れるのは本能的なものと目されるが、狭い範囲で頻発することに違和感はある。何かしらの動きがあるかも知れない以上、相応の警戒は必要だろう。
「夢見の話では、今回の事件に関して言えばミカゲというランク4の妖が絡んでいるようだが……詳細は不明だ。とにかく全容がはっきりしていない」
 正体不明の妖達。
 決して油断はできない。
「全ては君達一人一人の行動にかかっている。妖の侵攻を食い止めるためにも、よろしく頼む」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:睦月師走
■成功条件
1.妖の撃退
2.なし
3.なし
 今回は、≪百・獣・進・撃≫という話に関連するシナリオとなります。

■妖
 街中に現れて、人を襲い出す妖達。
 標的は無差別であり、向かってくる者がいるならそちらを優先します。 

・ランク1 十体
 山猫の姿をした生物系妖。
 氷の技を使う。火関係の攻撃が弱点。

(主な戦闘方法)
 噛み付き  A:物近単
 氷塊    A:特遠単【凍傷】

・ランク3 一体
 虎の姿をした生物系妖。
 炎の技を使う。水関係の攻撃が弱点。

(主な戦闘方法)
 炎の爪   A:特近単 【火傷】
 火炎弾   A:特遠列 【火傷】
 炎の衣  回避+ 速度+ 物攻+ 特攻+ 効果継続:10ターン HPチャージ

■ミカゲ
 ランク4:生物系妖。
 三つ首の狼の姿をした巨獣。
 詳細は不明。
 現場には現れませんが、今回の妖達はミカゲの命を受けて暴れている模様。

■AAA隊員五人
 現場付近を警戒していた、AAAの部隊。
 隊長は、桜井小鹿。(24歳・女性)
 全員が天行の使い手。
 襲撃してきた妖達を迎撃せんとし、ランク1の妖の相手を優先的に行おうとします。FiVEの覚者達が協力を頼めば、戦闘方針も協調してくれます。

■現場
 奈良県のとある街中。
 人が集まる広場に、妖達が現れます。AAAの小鹿達が一般人の避難と、妖の相手をして引き付けようとしています。
 覚者達が介入するタイミングは、まさに戦闘が始まろうとしている頃です。
 
 よろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
公開日
2016年06月08日

■メイン参加者 10人■

『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『天使の卵』
栗落花 渚(CL2001360)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『むっつり彼女』
嵐山 絢音(CL2001409)
『たぶん探偵』
三上・千常(CL2000688)
『戦場を舞う猫』
鳴海 蕾花(CL2001006)


「FiVEだ、助太刀に来たぜ!」
 『一級ムードメーカー』成瀬 翔(CL2000063)の呼びかけに、AAAの隊員達は歓声をあげた。
「FiVE! ありがたい!!」
 覚者達が参入した戦場は、妖と一般人とAAAとが入り乱れ。
 血の匂いと、悲鳴が充満していた。
「そっち、3人手を貸してくれ。残った2人は避難誘導任せる。ランク1の山猫を、一人一体確実に、逃がさないように確実に引き付けといてくれ!」 
「わ、分かりました。役割の分担ですね」
「山猫が片付いたら虎はオレらに任せてくれ。一般人の方頼むな!」
 AAA部隊隊長の小鹿が頷く。
 そのまま翔は、脣星落霜で全体攻撃。
「ほら、山猫共! お前達の敵はこっちだ!」
 煽って妖の意識をこっちに向けさせつつ、ランク1の一体を確実にブロックして他へ行かないように抑えておく。
「シャー!」
 山猫達は牙を剥いて、突如現れた覚者達の方へと向かっていく。
 鋭角に尖った氷の塊が、一匹一匹から放たれて礫の雨嵐が降り注いだ。
「今回は敵の数が多いし、自然治癒力を高めてBS対策させて貰うよ」
 『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)は、AAAの者達含めて清廉珀香を展開。
 戦闘では中衛で立ち回り、今回は攻撃重視で各種回復は最低限に収める。
「炎を活性化させて――そのまま攻撃に活用させるわ」
 嵐山 絢音(CL2001409)は、初手に醒の炎を使用。
 まずは前衛に出て、ブロック人員となって群がる敵へと刀を一閃させる。
「無差別に人を狙う妖の注意をなるべく引くわ」
 特にランク1の妖を中心に。
「私の実力的にランク3の相手は荷が重過ぎると思うしそちらは他の担当にお任せするわ。AAAの部隊は民間人の避難誘導を中心に状況次第で1人か2人ぐらいは戦闘に加勢してもらえると助かるわ」
「AAAの皆さん、妖の注意は私たちが引きつけます。サポートよろしくお願いします」
「隊長、我々が避難誘導を行います」
「では、私達はこのままFiVEを援護します」
 AAAが避難誘導を続け。
 覚者達を戦闘面では、列攻撃やMP回復などで補助する。
 その横で『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は、錬覇法を使用。音を立てず。しのびあしで移動して、火の術式の準備をする。山猫の妖達は天敵たる炎の気配に、身を構えた。
「炎の攻撃が効きやすい相手……私の出番みたいですね。街への被害を最小限に留めるため、最初から最大出力でいきます」
 中衛からランク1を多く射程に収める位置を意識。
 召炎波の炎が津波のように押し寄せて、妖達を飲み込んでいった。
「ギャアア!」
 氷を吐く山猫達は、今までにないほど苦しげに呻きをあげる。
 その様子を、桂木・日那乃(CL2000941)は翼をはためかせて上空から見やった。
(AAAのひと、3人くらいにも妖の相手手伝ってもらって。妖、それぞれに攻撃して気を引いてる間に、残りのAAAのひとに避難誘導してもらう、みたいだから。わたしは最初は、ランク1妖にスキルのエアブリットで攻撃して。気を引いておく、ね。わたしたちが広場に最初に着いた位置から一番遠くにいるの、狙うといいかも?)
 空気を圧縮して思い切り、撃ち出す。
 狙い通り、一番遠くにいた山猫の鼻先に命中して出鼻をくじく。
「飛行スキルで飛んで近づいたら。逃げるひとたちの邪魔しなくて早く近づける、かも、だから」
 できたら、送受信・改使って避難誘導の手伝いもする。
 ふつうに叫んだら声届かないひとがいるかもしれないし。
 ちょっと高く飛んで、見えるひとたちに送受信・改で伝えれば聞こえる、と思うから。
「こちらに避難して下さい!」
「落ち着いて!」
 言うことはAAAのひとと同じでいいと思う。
(あ、でも、ランク3が現れる位置とか方向とか分かってるなら。そっちは行かせないようにしたほうがいいかも。AAAのひとにも伝えておいたほうがいいかも)
 そう思い至り。
 日那乃は急ぎ、隊長の小鹿へと送心を行う。
『そっちはダメ。ランク3が現れるから』
「ランク3!? りょ、了解です! 皆さん、そちらには近付かないで!!」
 まさに間一髪。
 小鹿が叫んで、人波を制した瞬間。
「ダアアアアアアアアアアアアァアア!」
 風をきって大型の獣が、広場へと舞い降りた。
 炎を纏った爪が、空気を熱して大きく大地を抉る。
「みなさん、慌てずに誘導にしたがって動いてください。こういう時ほど、冷静な行動が必要なんです。親御さんはお子さんの手を放さないで、若い人は高齢な方を助けてあげてください」
 『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)は、避難する人に声かけながら戦場に進んでいく。
「わたし達が虎を相手します。今のうちに皆さんを安全なところにお願いします」
 『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)は駆けつけながら。そういって立ち止まることなく虎の姿の妖に対峙した。
「直接恨みがあるわけではないですが、いかなる理由があろうと人を襲う以上あなたを退治します」
 宣言すると。
 蒼龍を抜いて構える。
「そうです。人を襲った理由は問いません、訊いたところでそれを許すわけもないのですから」
 相手はランク3。
 しなやかな体躯の猛獣が、じろりと殺気を漲らせた。
「ミカゲ! 王!! オオオオオオ!」
「街にいる皆さん、私たちがこの子達の相手してる間に安全なところへ!」
 危険予知で、危険箇所がないか確認。
 中学女子制服に赤十字の腕章が目立つ。『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)は、機化硬で身を固めてランク3に接敵する位置を意識、ブロックにより足止めする。
(ランク4? 王? まさかこいつが大妖って奴なのか。まぁいいさ、立ち向かう相手を優先的に襲ってくれるってわかっているなら。それだけで気が楽ってものだしね)
 味方が一般人の避難およびランク1を片付けてる間、ランク3の抑えは自分がやる。
「こい、化物。あたしが相手だ」
「ゴオオオオオオオオオ!!!」
 『戦場を舞う猫』鳴海 蕾花(CL2001006)は、一人でも多く退避させられるためにも。少しでも長く持ちこたえるためにも天駆を使用する。何度でも掛け直して、飛燕を見舞い続けた。
「苦しいだろうが、頼む」
 『たぶん探偵』三上・千常(CL2000688)はランク3を相手にする味方に、蒼鋼壁を施していく。AAA覚者達が負傷者の救助をしているのを横目で確認してから――最悪市民を見捨てることも進言するつもりだった。
(ここで俺らが返り討ちにあったらそれこそ最悪だ)


「あなたに人を襲う理由があるように見えませんが、何があなたを駆り立てているのでしょうね……」
 問うというわけでもなく、誰に言うでもなく。
 御菓子は、ランク3の妖と後列から対し。味方の負傷具合によって、癒しの滴、癒しの霧、潤しの雨を使い分ける。
(この街に、これほどの妖が襲うには理由が見当たらないです。何が起きてるんだろう?)
 結鹿も疑問を覚えるが、今は戦いに意識を集中する。
 虎が炎を纏い攻め込んでくるのを、蔵王・戒、紫鋼塞、錬覇法を使って耐え。
(回復はお姉ちゃんに任せて、何の心配もないので、迷うことなく――)
 前列から下がることなく戦う。
 纏霧と迷霧で霧を発生させて、敵への行動阻害を行った。
「ランク1にランク3、合わせて11体も……これは骨が折れそうかも」
 渚は回復を優先。
 体力が低下した者へと命力翼賛を施し、火傷や凍傷を負った仲間を癒力活性で癒す。
「依頼だし、やらなきゃやられる……って感じだから仕方ないけど、動物の形してる妖と戦うのってなれないよね。ちょっとだけ可哀相な気がして」
 攻撃時に、主に相手をするのはランク3。
 対象を含む隊列へと地烈を見舞う。跳ね上がるような連撃が、山猫と虎をとらえた。
「オオオオオオ!」
「ニャン公。よそ見するんじゃないよ!」
 炎を操る虎の戦意が、渚や結鹿に向く。
 すかさず蕾花はそこへ割り込み。炎の一撃から仲間を庇い、注意をひく。
「あたしと競争しようじゃない」
 不敵に言い放ち。
 疾風斬りで風が駆け抜けるがごとく、取り巻きごと斬り裂く。そして、ふと。AAAが一般人を避難させている姿が目に止まった。
「……相手は戦う気のある奴らをまっさきに狙ってくるから気をつけな」
 ぶっちゃけAAAの連中にはいい感情がないから対応は他に任せる。
 庇いはするが。
(全部で11体。なんでこんなたくさん、いっぺんに? いや、考えるのは後か。とにかく一般人もAAAも助ける!)
 ランク1の山猫集団を相手取る側も、奮戦している。
 翔は雷獣を放ち、貫通で巻き込めそうな敵にはB.O.T.の弾幕を張った。
「妖の大量発生に加えて知性が見え隠れする動き。夢見が察知したミカゲが指揮してるとなれば、ランク4の妖は一体現れるだけで大きな災厄になりかねないな」
 理央は狙いを定め。
 火柱で敵前衛を纏めて焼き払う。
「夢見の情報だと火関係の攻撃が弱点と聞いたけど、単純に火行で大丈夫かな?」
 攻撃してから、観察してみるが。
 山猫達は大打撃を受け、何匹かはそのまま身体が消滅する。
「大丈夫みたいだね。AAAの人は填気で援護してくれるかな?」
「任せて下さい」
 要望を出して、自分は攻撃や補助掛け直しを優先。
 回復が間に合わないときは臨機応変に、潤しの滴と潤しの雨を使った。
「ミカゲ……百獣の王の座を狙う妖ですか。ランク4の妖ってどれくらいの強さなんでしょう? 今回は幸いにも戦わなくて大丈夫みたいですが」
 ラーラも火行の技で、次々と敵を墜としていく。
 山猫相手にその炎の攻撃力は如何なく発揮されて成果をあげていた。
「……何気にこういう強力な相手って初めてだなぁ。まぁ精々死なない程度に頑張って行きますかね……」
 千常は基本的にサポートに専念。
 ランク3担当への補助が済んだので、今度は他の者に蒼鋼壁を撒く。また戦闘と並行し常に第六感で怪我人や不意打ちなど周辺を警戒。違和感を感じたら透視を使い――
「茂みに山猫が潜んでいる。注意してくれるかい」
 原因把握。
 必要なサポートを味方に呼び掛ける。
「被害が出るなら消す」
 仲間の声に応え日那乃が、一般人を襲おうとした妖の噛み付きをガード。
 怪我した者を、水行のスキルで回復させる。
(妖がいっぱい。ほかのと同じ? うしろに強い妖? でも、ひとを襲うのと、線路を壊すのはちょっと違う、かも? うしろにいるのも違う? ほかにも強い妖、いる?)
 妖達と対しながらも疑問は尽きない。
 それは、絢音も同じだ。
(ここ最近の奈良県内の妖の様子は尋常じゃないわね。何より不可解なのが、多勢で組織的に動いている割には部隊間の連携が全然取れてないことだわ。その点はファイヴも人のことを言えたクチじゃないけど……ともかく、効率的な襲撃に見えて実際には効率が滅茶苦茶なのが気になるわね)
 炎の力を活性化させた肉体。
 黒服黒色の少女は、多勢を相手に刃を振るう。
「……まあ、そんなことを兵隊の私が気にしたところで意味無いわね。敵の真意を測ることなんてAAAやファイヴの偉い人や目立つ人の仕事よ」
 疾風斬りで敵列を斬りつけ。
 飛燕で目の前の相手を二連撃。気を抜けばやられるのは、こちらだ。
「桜井隊長、一般人の避難は大方終わりました!」
「分かりました。これより本格的にFiVEと共闘します」
 覚者達が押さえていた甲斐もあり、避難誘導は上手くいったようだった。
 AAAがランク1の妖へと雷撃を降らせ、FiVEの面々のサポートもこなしてくれる。これにより、山猫達との戦いは次第に優勢へと傾いた。
 一方。
「ドオオオオオ!」
「大きな虎さん、悪いけど、そっちは行かせてあげられないよ」
 ランク3を主に相手どっていた面子の消耗が激しい。
 機化硬を掛け直して、烈波を放ち。敵を懸命に足止めする渚も、そこかしこに傷をつくっていた。
「格好つかないが、一旦下がる」
 常に前に出ていた蕾花も。
 度重なる負傷によって、中衛へと下がるのを余儀なくされた。
「長くは持たん、頼むぞ」
 戦列が崩れたかけたところに千常が、自分に蒼鋼壁を掛けて交代。
 少しでも長く壁役としての役目を保ち、味方を癒しの滴で回復させる。
「王! ……ミカゲ!!」
 そこに容赦のない炎の嵐が、ランク3から発生。
 人のみならず、広場そのものが炎に包まれる。それは山猫達をも苦しめた。
(なんか虎が「ミカゲ」って言ってるような? 「王」って王様の事だよな。そいつがこいつらの親玉ってことか。ランク3が言う事聞くってどんだけ強いんだろうな)
 相手をしていた一体を撃ち抜き。
 翔はランク3戦への応援に駆け付け味方をガード。敵との間に入る。
『ミカゲってなんだ?』
『ミカゲ……牙……王に……挑む……人間……殺す、殺す、喰らう、喰らう!』
 送受心・改での思念を試すと。
 無秩序な妖の敵意が、雪崩こむ。
「来るなら来てみろ。どんだけ強かろうが絶対に倒してやる!」
 渾身の雷撃で返礼。
 その火力は、虎の全身を焼き。その四肢を痺れあがらせた。


「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 守護使役ペスカの持つ鍵で魔導書の封印を解く。
 これは、本気を出すときの合図。
 ラーラの火焔連弾が唸りをあげ。激しい炎が舞い踊り、最後の山猫を消し炭へと変えた。
「これでランク1は全滅。ランク3を抑えている味方の加勢に向かうわ」
 こちらもこちらで、相当体力を削られているが。 
 錬覇法を使って、絢音は一息吐き。そのまま、炎撃を虎の妖へと叩き付けにかかった。
「こっちは水関連の攻撃が弱点だったね」
 理央も錬覇法で自己強化し。また清廉珀香を展開。
 そして、水礫を相手の毛皮がない部分――眼や口を狙って精確に命中させた。
「ゴオオ!?」
 炎を宿した虎は、苦しそうに身をよじる。
 その片目は、完全に潰れ――更に日那乃が追い撃ちをかけた。
「水礫で攻撃してみる、けど」
 水行の技に、敵は苦しむ。
 その隙に中衛の位置で、体力とBSの回復を行い。あとは列に並ばないように気をつけた。ランク1を相手にしていた覚者達が続々と合流し、苦戦していたランク3との戦いも光明が見え始める。
「火を操るのでしたら、水がお嫌いなんでしょう?」
「ッ!」
 ここにきて、会心の氷巖華。
 ずっと臆することなく敵に向かい続けた結鹿の一撃が、敵の炎をも凍りつかせる。そのまま一気呵成に太刀の斬撃を繰り出す。
「水の攻撃じゃないけど……体術だってそれなりには通用するよね?」
 回復に攻撃にと。
 全てを出しきった渚は、それでも物理攻撃で攻める。そこにAAAが、絶妙なタイミングで全員にMP回復を行ってくれた。
「やれる事を、やるだけだ」
 千常は術符を手に、隊列を組み直す時間を捻出する。
 その体は強化してなお、激戦により既にボロボロになっていた。
「水行結構いるし、回復は任せる」
 翔は火傷や凍傷を負った味方に演舞・舞音。
 そこから雷獣を撃ち続け。妖はそれを避けようとして――身体が痺れの硬直により直撃を受けた。
(それにしても、今回のケースを見ると『……カゲ! ミカゲ! ……王! 王!!』と妖がいってますし、妖にもかれらなりの階級があるんですよね。天使も、悪魔も、人間も、妖も階級の上下があるだなんて……なんだか世知がない世の中なんですね……)
 御菓子は深想水でBS対策、超純水で味方の自然治癒強化をし味方を支え続けた。
 その上で、機を見て。水龍牙で虎の妖を攻撃。神秘の力を込められた水竜を、ランク3へとぶつけた。
「ゴォ……オオオオオオ!!」
「目には目を猫には猫、か」
 回復した蕾花は、再度最前線で妖へと向かい合う。
 虎の妖は弱点の水行を受け続け、集中砲火にさらされ。それでも、殺意の炎で反撃してくる。一瞬も気を抜けず。後衛にダメージを通さぬように、真っ向から敵を止める。
「もう少しっ。FiVEを援護して!」
「はいっ」
 小鹿が部隊を懸命に指揮し。
 AAAは覚者達だけでは穴が出来る部分を埋めた。
「これは、ラーニングする暇もありませんね」
 ラーラは自分の炎関連スキルと比較、観察して再現を目指していたのだが。
 さすがにそこまでの余裕はない。
 死闘は続き――そして。
「ここまで、ですね」
 結鹿の蒼龍が、敵を貫く。
 致命打を受けたランク3は、ついに巨体を地に倒した。
「何か言い残したいことはありませんか?」
 奈良で起きている一連の状態に関連がないか、何かの手がかりが得られないか。
 きき出せればと、問う。
 それに、妖は。
「――牙王」
 と。
 呟き、静かに息を引き取った。

「あー……疲れ、た……」
 千常は近場の建物に寄り掛かり煙草に火をつけ一服。
 激戦によって、広場は目も当てられぬ状況だ。
(仮にランク4が出てくるようならあたしが殿になる。ここで友軍や味方に死なれたらたまったもんじゃないからね)
 蕾花は油断せずに、気を張る。
 AAAの部隊長、小鹿は覚者達に敬礼した。
「ご協力感謝します。あなた達がいなければ、もっと被害が出ていたでしょう」
「時間が許せば、ミニコンサートでもやってあげたいところです」
「あ、それ良いですね」
 御菓子の提案に、女隊長は笑って場を用意してくれた。
 負傷した者達が集まる場所。潤しの雨、深想水、超純水を明るい曲の中に含めて奏でる。その音は、優しくどこまでも広がっていった。
(わたしは心まで癒すことは出来ないでしょう……でも、わずかでもわたしの音色に心落ち着かせていただければ幸いです)

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 ご参加ありがとうございました。
 奈良県の妖襲撃事件が続き。ランク4のミカゲがけしかけた妖達も、進撃してきました。ここで手下がF.i.V.Eに阻止されたことで、ミカゲはまた怒り狂っていることでしょう。
 
 いつか、ミカゲ本人が覚者達と相対することになるのかなあと思いつつ。
 この一連の事件の動向を、睦月もどうなるかと注目中です。




 
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