隣人を不幸と嘆き救い給う
隣人を不幸と嘆き救い給う


●たとえ話をしよう。
 例えば貴方の隣人が、常にバットやナイフを所持しているとしよう。
 そして最近、バットやナイフによる障害事件が多発しているとしよう。
 貴方はバットやナイフを持つ隣人をどう思う?

●力無き者から見た情勢
 先の京都襲撃や五麟市襲撃は、その詳細こそ伏せられたが民衆に大きな衝撃を与える。
 それは第三次妖討伐抗争敗退から疲弊したAAAが、本当に力を失ったと言う証左である。自分達の身を護る組織がなくなり、自分達の命は自分で守らなければならないという空気が生まれ始めたのだ。
 それは覚者に対する恐怖を加速させる。正体不明の『力』に怯える人達の行動は様々だ。ある人は武装して覚者を襲う憤怒者になり、ある人は祖国を離れて国外に移住する。ある人はお金を払い覚者の護衛を雇い、ある人は覚者に怯えながら身を潜めて生活する。もはや覚者と言う存在を無視して生きることは、この国では出来なくなっていた。
 さて、人の心を救うのはいつだって人の『心』だ。それは強い絆とも言える。家族、友人、恋人……そして自分と同じ考えを持つ『仲間』。その絆により、人はこのような不安な状況でも平静を保つことができるのだ。
 そしてその『仲間』意識を強く保つために組織が形成されるのも、世の常。
 その最たるは――宗教であった。
 
●エグゾルツィーズム(悪魔祓い)
「覚者の力は悪魔の力。彼らの不幸はその『力』を捨てることができないこと」
 白い肌のシスターは十字架の元、祈るように目の前の信者に告げる。その言葉を信者達は天上の歌を聴くように拝聴していた。
「彼らは『力』に怯える者がいる事を知らない。知っていても力を捨てる術を知らない。おお、何たる不幸。ゆえに我らは彼らを救う」
「『ゆえに我らは彼らを救う』」
 シスターの声を復唱する信者達。その声に熱はなく、しかし一言一句少しのずれもなく返される言葉には恐怖すら感じる。ある種の洗脳に似た、集団意識による精神操作を感じさせる。
「いざ行かん。我らの闘いはこの国の聖戦。悪魔の力を浄化するために」
「『悪魔の力を浄化するために』」
 迷いはない。それが覚者の殺害と知っても、迷いはない。
 なぜなら我らは同じ『仲間』なのだから。

●FiVE
「覚者夫妻が経営している養護施設が襲撃されます」
 久方 真由美(nCL2000003)は集まった覚者達に向けて、事件の説明を開始する。
「相手は憤怒者十名。神父や聖堂女の姿をした人達が施設を襲い、夫妻と覚者の子供を殺害します」
 あまりの行為に声も出ない覚者達。だがこれはまだ起きていない事件。今から向かえば止めることができる事だ。
 聞けば襲撃するのは憤怒者組織『イレブン』の一派であるという。確かに数の脅威こそあるが、憤怒者は覚醒していない一般人。戦闘面から見ればそれほど手間がかかる相手ではない――
「一人、注意が必要です。雪のような白い肌をしたシスター。この人だけは、別格です」
 真由美は憤怒者の一人を指して、注意するように覚者達に告げる。このシスターだけは、注意しろと。
「――たかが一般人と侮ると、戦局をひっくり返されてしまいます」
 真由美の言葉に息をのむ覚者達。それほどの実力を持っているという事か。
 どうあれ、憤怒者の殺戮を許すつもりはない。覚者達は未来を変えるために部屋を出た。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.養護施設の覚者殺害数を四名以下に留める。
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 全ては救われたいからこそ。

●敵情報
・憤怒者(×9)
 神父服&修道女服に身を包んだ男女です。男六人女性三人。
 薬物を服用しているのかそういう洗脳を受けているのかは不明ですが、魔眼などの精神操作系技能に一定の耐性があります。彼らから大元の組織につながる情報は、得ることができないと思ってください。
 個としての戦闘力は覚者に劣ります。また、憤怒者側の被害が一定数以上になれば撤退を考えます。
 拙作『その罪を、神は赦して清めよう』『十字架に『正義は何処?』と問いかける』に出ている者と同グループの存在ですが、それ以上の関連性はありません。倒すべき相手、の認識で問題ありません。
 
・神父(×6)
 近接型です。

 攻撃方法
 安全靴 物近単 ブーツ型の安全靴で蹴ってきます。
 毒針  特近単 指輪に仕込んだ毒針を突き刺してきます。〔痺れ〕〔毒〕〔ダメージ0〕


・修道服(×3)
 遠近双方こなします。

 攻撃方法
 吹き矢  物遠単 睡眠型の毒が含まれた矢を撃ちだしてきます。〔睡眠〕〔ダメージ0〕
 火炎放射 特近列 ライターとスプレー缶で炎を浴びせてきます。〔火傷〕


・リーダー(×1)
 白い肌を持つシスターです。見た目から日本人ではないとわかります。
 他の憤怒者に比べ、実力高めです。

 攻撃方法
 ナックル 物近列 鉄鋲のついた手袋で、乱打してきます。
 関節技  物近単 極まった瞬間に折る。〔弱体〕〔鈍化〕〔負荷〕
 強酸瓶  特遠列 強酸の入った瓶を投げつけます。〔火傷〕〔毒〕
 畏怖の香  P  怯えを生む化学物質と言語誘導と特殊な体捌きにより、包囲に隙を生みます。このキャラクターをブロックすることはできません。

●特殊ルール
・養護施設
 永原夫妻が経営する養護施設。子供は十二名で、その内覚者が五名です。合計で覚者は七名います。
 憤怒者は『夫妻』→『子供の覚者』の順番に殺していきます。施設内に入った憤怒者二人毎に、一ターンに一人の覚者が殺されます。これはPCの覚者数により、相殺されます。三人憤怒者が養護施設内に居ても、二人PCがいれば誰も殺されません。
 殺害の妨害は、行動に含みません。居るだけで牽制できると思ってください。

●場所情報
 京都市内にある養護施設前。時刻は昼。足場や広さなどは戦闘に影響しません。町中なので人の目はありますが、恐れて関わろうとしません。
 戦闘開始時、『神父(×6)』が中衛に。『シスター(×3)』『リーダー』が前衛に居ます。『養護施設』は敵後衛の場所にあります。
 基本的に皆様の初期位置は敵前衛から十メートル離れた地点からですが、プレイングや技能使用等によりPC覚者の初期位置を変更することができます。
 現場に急行するため、事前準備や付与などは不可とします。
 
 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年06月03日

■メイン参加者 8人■

『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)
『願いの花』
田中 倖(CL2001407)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)


「悪いが眠ってもらう」
 戦いの口火を切ったのは『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)の眠りの術だった。一陣の風が吹くと同時に、そこに含まれた眠りの粒子が憤怒者達を包むこむ。半数の憤怒者が睡魔に崩れ落ち、膝をつく。
「全く、力があるからこわいからぶっ殺すとか。あんたらもやってること過激派で同じでしょ!」
 自分の存在をアピールしながら『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)が戦場を走る。手にするのは愛刀『愛対生理論』。身体を低くして空気抵抗を押さえながら迫り、敵陣に入るや否や刀を振るった。
「ふん。汚らわしい」
 見下すような視線で憤怒者を見る『浄火』七十里・夏南(CL2000006)。呪符を包帯のように拳に撒き白い手袋をはめる。白い翼をはためかせて僅かに宙に浮いていた。秩序を乱す反社会行為を行う憤怒者。それを赦すつもりはない。視線が静かに語っていた。
「人のことを悪魔だの何だの好き勝手言いやがって」
 心外だ、とばかりに香月 凜音(CL2000495)はため息をつく。宗教に興味はないが、それでも自分達が悪しざまに言われるのはいい気分がしない。その思想の元で人を殺そうというのなら、それを捨ておく理由はなかった。
(……どうやら、この中にはいないようですね)
 田中 倖(CL2001407)は憤怒者達を見回して、自分が求める相手がいないことを確認した。当ては外れたが、それで踵を返すほど薄情ではない。FiVEの一員として、粛々と任務をこなすのみ。私情と公務は分けるのが事務員だ。
「施設の中の人達を殺さません」
 三角帽子に分厚い本。まさに魔女の姿で『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は憤怒者に挑む。誰一人殺させやしない。それを為すのは簡単ではないが、それでもやって見せる。
「またあの組織か……」
 華をあしらった薙刀を手にして『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)が憤怒者を見ながら、遠くない過去を思い出す。以前もかかわった宗教ベースの憤怒者組織。人殺しを正当化する組織を、看過するつもりはない。
「……ジヤヴォール」
 白い肌のシスターが、やってきた覚者達を見て静香に、しかしはっきりと呟く。声の質とそこに含まれる感情から、意味は分からないがいい呼び名ではないのは確かだ。
 憤怒者達は無感情に自分の持つ武器を手にする。覚者達もそれぞれに神具を構えて戦いに挑む。


 憤怒者の目的は養護施設内の覚者殲滅。
 それをさせないために覚者達は施設内と憤怒者の間に割り込もうとするが、当然憤怒者もそれをさせないように動く。六人の覚者と五人の憤怒者。突破できたのは亮平のみであった。このままでは寝ている憤怒者五人が全員起きれば、数の暴力で養護施設の人間は殺されてしまう。 
 そこに、
「すみません、遅れ、ました」
 大回りして裏口からやってきた『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)が裏口からやってくる。気配を消し、大回りして施設の裏口から入ってきたのだ。……裏口の鍵の修理費は、必要経費になるのか。そんなことを考えてながら。
「眠っている憤怒者が起きるまでに、どれだけ数を減らせるかが勝負だな」
「最悪の場合、私が飛んで施設に入るわ」
 作戦を再確認し、覚者達は動き出す。
「櫻火真陰流酒々井数多。あんたらのいう悪魔なら浄化してみなさい」
 数多は真っ直ぐにリーダーのシスターに向かう。刀を抜き放ち、高速で振るう。横に二閃、縦に一閃。瞬きの間に振るわれた刃の線は、近くの憤怒者を巻き込んだ。痛みにすら動じない憤怒者を見ながら、恐れることなく瞳に炎を宿す数多。
「私はあんたらみたいに徒党を組んで暴力を振るうやつらを、弱いなんて認めない」
「逆だ。弱いから徒党を組んだ。彼らを追い込んだのは覚者だ」
「ふざけんな! あんたこっちが名乗ったんだからそっちも名乗りなさいよ!」
「リーリヤ・グラシェヴィーナ・シュリャピナ」
 ダメ元で尋ねた質問に帰ってきた返答。数多が何かを言い返す前に、シスターの拳と同時に言葉が返ってくる。
「浄化しよう。惜しむべきは武装が不十分であることか」
「なー、アンタ。日本人じゃないんだろ? なんでわざわざこんなところに来たんだ?」
 その肌や名前などから導き出せる真実。凜音はそんなシスターに向けて問いかける。戦場を見回して、傷の深い相手を探る。水の源素を使って傷ついた仲間を癒しながら、意識だけをシスターに向けて問いかけていた。
「信仰の為。悪魔を浄化するためだ」
「アンタの大好きなカミサマとやらは、生き物を選別……差別してもいいって言ってるのかよ」
「そうすることで信徒が救われるのなら。それに滅ぼすのは生き物ではない。悪魔だ」
 迷うことなく言い放つシスターの言葉に、凜音は唸りをあげた。口で言って納得する相手ではないようだ。
「そうやって免罪符を得れば、人を殺していいとでもいうのか」
「その一方的な信仰で殺戮が起こるのは感心しないな」
 声に怒りを乗せて行成と亮平が憤怒者を攻め立てる。薙刀と言う長柄の武器を持つ行成と、ナイフとハンドガンと言う片手に収まる武器を持つ亮平。リーチが違う武器同士なのに、二人の連携は目を見張るものがあった。
 行成が薙刀を振るい憤怒者を大きく薙ぐ。その生まれた隙を埋めるように亮平が疾駆し、体勢を崩した憤怒者を組み伏した。そんな亮平に襲い掛かる憤怒者を行成の薙刀が吹き飛ばす。まるでそうなることが分かっていたかのよう立ち上がった亮平は、次の目標を探す。
「隣人は覚者、犯人は隔者……だが総じて同じ『武器を持つ者』か」
「そうだ。個人の善悪感などすぐに覆る。善意から振るわれる武器もある」
「そうだな。まさに今の貴方達のように」
 行成は神父服を着て暴れる憤怒者を見た。彼らはまさに『善意』で動いている。そうすることが正しいと信じている。そんな動きだ。
「殺さなければ殺される。現に悪魔による事件は増え続けている」
「覚者の力が悪魔の力だというなら、そっちの力は聖なる力だということになるのかな」
「当然だ。神の威光をもって、この地に住まう悪魔を討つ」
「この力が悪魔なら悪魔でいい。でも養護施設の子供達や夫妻を殺させるつもりはない」
 亮平は神具を強く握りしめ、悪魔祓いを名乗る組織に挑む。善悪に意味などない。大事なのは、自分がどうしたいのか。
「あんたのような狂人に悪魔呼ばわりされるとは心底心外だわ」
 嫌悪を隠そうともしない夏南の声。或いは狂人だからこそ、人を悪魔呼ばわりするのだろうか。どちらにせよ相いれない存在だ。冷静な様に見えて、その心は激しく高ぶっていた。養護施設の方は仲間に任せ、この怒りを憤怒者にぶつけるために夏南は動く。
 拳を強く握り、横なぎに払う。動作と同時に夏南の激情を具現化するかのように炎の柱が沸き上がる。天を突くとばかりに燃え上がった炎は憤怒者を焼き払い、すぐに消え去った。攻撃が終わったわけではない。それを示すように、夏南の瞳は鋭く敵を睨んでいた。
「人であることに拘りなんて無いけれど。むしろ天使と喩えて欲しいわね」
「傲慢だな。それも力に目覚めたがゆえか」
「徒党を組んで人を襲う組織が言えた言葉ではないと思いますよ」
 憤怒者の意見に言葉を返す倖。柔和な微笑みと共に返される言葉は、攻めるのではなく指摘するように優しく。その柔らかな笑みは好意的なそれではない。相手の刃を柔らかく包み込み、衝撃を消しさる毒気を消す笑み。
 ナックルの留め具をしっかり固定し、憤怒者の方の進んでいく倖。安全靴で蹴り上げてくる神父。その足の動きを受け止めるのではなく、横から力を加えて方向を逸らす。その微笑みのように力に対し力で抗するのではなく、柔らかく受け流す。
「所属組織の実績に貢献するのも、事務員としての業務の一部ですからね」
「組織……成程、噂のFiVEか。夢見の数が多いとは聞いていたが、こんな事件まで予知されるとはな」
「ええ。一人たりとも殺させはしません」
 魔導書をてにラーラが憤怒者達に宣告する。本を開けば熱気が広がり、緋が走る。魔女の力を解放しながら、心は真っ直ぐに。養護施設の人間は誰一人殺させやしないという決意を示すかのように、炎は強く明るく燃え上がる。
 前世との繋がりを強く持ちながら、魔導書をめくる。源素を体内で循環させながら、ゆっくりと天を指差した。指さす先に生まれる黒い雷雲。それは稲光を発すると同時に稲妻を生み、憤怒者達を薙ぎ払う。
「貴方達の好きにはさせません!」
「ええ。ここから先は、通しません!」
 目を覚ました憤怒者の前に立ちふさがる祇澄。雌雄一体の日本刀を手に、悠然と立ちふさがる。見た目は緩やかに見えるが、その内に秘めた気迫は真逆。煌めく夫婦の刃の如く、触れれば斬るぞと告げていた。
 夫婦刀の型は多種多様。片側で受けて、片側で攻める。時に夫婦同時に攻撃を受け、時に同時に攻める。一秒毎の状況に合わせて『最善』を選択し、そのときすでに体は動いている。祇澄は舞うように二刀を振るい、憤怒者の足を止めていた。
「やはり、人と人とは、争い合う、しかないの、でしょうか……?」
「人と人は愛し合える。だが、悪魔とは相いれない」
 静かに。だけどはっきりと告げられる拒絶。覚者の力を悪魔と断じ、受け入れることを拒否するシスター。そしてそれを受け入れた憤怒者達。
 息触れ合うほど近くに居るのに、両者の間に壁は確かに存在していた。


 憤怒者の目的は、施設の覚者の破壊だ。それを為す為に目を覚ました憤怒者は施設に殺到し、そちらに行かせないように立ち塞がる覚者へと攻撃が殺到した。
「まだ、倒れるわけには、いきません」
「殺させはしない……この身がどれだけ傷ついても」
「その教義に屈するつもりはない」
 養護施設の前に積極的に立ち塞がる祇澄、行成、亮平は憤怒者の攻撃を受けて命数を削られる。
 だが、その傷は無駄ではない。必死の献身もあって、憤怒者の数は少しずつ減り続けている。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 魔導書を開き炎を放つラーラ。その体は憤怒者達の攻撃を受け、傷だらけになっていた。命数を削りなんとか立っている状態だ。それでも退くつもりはないと瞳で継げて、源素を練り上げる。告げる言葉は高らかに戦場に響き渡り、業火はその意志の強さを示すように熱い。
「力あるのがヤバイってわりに、覚醒して間もない覚者を狙うのはなんでかしらね。七星剣とかそういうもっとやばいのには攻撃しないわけ?」
「貴方は新兵の訓練に猛獣を宛がうのが正しいというのか」
 数多の挑発に似た問いかけにさらりと返すシスター。それは覚者を倒す尖兵として憤怒者を鍛えていることを示していた。
「挑発を返しておこう、ササイ・アマタ。貴方の言う『ヤバイの』用の兵も育ちつつある。七星剣や……FiVE対策として」
「いつでも来なさい! 受けて立ってあげるわ!」
 交差する刀と拳。互いの血飛沫が夜に消える。
「イレブン……ついに牙を、剥きましたか」
 覚者に敵対する一般人組織。その名を告げる祇澄。源素の力を刀に宿し、憤怒者達を伏してゆく。個として覚者に劣る彼らだが、それを侮るつもりはない。
 彼らの数がもう少し多ければ、養護施設はひとたまりもなかっただろう。あるいは自分達の乱入を予測されていれば、倍以上の人員を伏兵として隠していただろう。そうなれば勝てただろうか? 殺戮を止められただろうか? ……頭を振って、祇澄は意識を切り替える。今はこの場を切り抜けなければ。
「どうでもいいわ。早く死になさい」
 不快を表情に示しながら、夏南が炎を放つ。その炎は既に倒れている憤怒者を焼こうと迫り――
「おおっと、危ない所でしたね」
 その直前で倖が憤怒者を引っ張り、炎の範囲から遠ざけた。そのまま夏南に向かい、笑みを浮かべて言葉をつづける。
「組織の体裁を保つのも、事務員のお仕事……ですので」
「殺して相手が逃げたくなれば、楽になるのに」
 生命に対する価値観の違い。夏南の根底にある『何か』が命を軽視させていた。
「逆ですよ。殺してしまえば向こうの暴力は加速する。歯止めが効かなくなれば、殺しあうしかなくなる」
「向こうは殺そうとしているのに?」
「だからこそです。相手と同じ手段を取れば、同じ穴の狢です。次は貴方が『殺そうとしているから』殺されてしまう」
 交差する夏南と倖の意見。沈黙は刹那。二人を現実に戻したのは、戦闘という環境だった。憤怒者と戦うために意識を戦いに向ける。
「覚者だろうが只の人だろうが、結局『持っているものを使う技量や心のあり方』じゃねーの?」
「その結果、力無き者が死ぬこともある。そうやって悪魔に殺された人や家族の前で、『相手は悪人だったから仕方ない』『でも俺達は善人だから信用しろ』というのか?」
 凜音の問いかけに対するリーダーの返答だ。にべもない答えは予想していたものではある。しかたねー、と肩をすくめた。
「それにしても『聖戦』っていい言葉だよな。どんな乱暴な行為も思想も、そう言っときゃいいもんな」
「言葉や説法で悪魔の力やそう言った事件が消えるのなら、幾らでもやろう。戦うしか悪魔を消せないから、そうするまでだ」
「俺からすれば、何を怖がっているのかと聞きたいぐらいだ」
 その会話に割り込む亮平。憤怒者を殺さぬように戦いながら、リーダーに問いかける。
「明日の朝、生きているかどうかだ」
「明日の朝?」
 問いかける亮平に言葉を返すシスター。
「今日という日は、明日に悪魔の気まぐれで消え去るかもしれない。お前達は私達の行為を殺戮と罵るが、悪魔に同じことをされた人もいる」
「自分達がされたから、殺していいというのか?」
「そうしなければ、明日の安心は得られない」
「身を守るため、というつもりか」
 言葉を挟んだのは行成だ。隔者による一般人への暴行。確かにそういう事件は無いわけではない。相手の目を見て、しっかりと言葉を告げる。
「だからと言って、この養護施設は関係ないだろう」
「成長すればいずれ人を殺すかもしれない」
「詭弁だ。不確定な予測で奪っていい命などない」
「その甘さが生んだのが『今』だ」
 言葉を重ねても、交差しない互いの言葉。それは人と覚者ゆえか。それとも他の要因か。
 互いの主張をぶつけながら、神具と武装が交差する。初手に憤怒者の動きを多く止めることができた事が、実質的な勝利につながっていた。その数が減れば、憤怒者の驚異の度合いも減ってくる。
「これ以上は、多勢に無勢、ですよ?」
「そのようだな。負けを認めよう」
 祇澄の言葉にリーダーのシスターは懐から小さな金属の缶を取り出し、地面に落とす。周囲を煙幕が広がり、鼻と網膜に強い刺激が走った。毒ではなさそうだが、目を開けるには厳しい状態だ。
 風が吹き、煙が晴れる。リーダーのシスターと数名の憤怒者は、煙のように消え去っていた。


 数名は逃がしたとはいえ、全ての憤怒者が逃げたわけではない。地に伏した七名の憤怒者をロープで縛りあげる亮平。全てに息があることを確認し、小さく安堵の息を吐く。
「人同士での差別なんざ、何も生まないってのにな」
 凜音は傷ついた仲間たちを癒しながら、ため息をつく。なぜ人は人を差別するのか。能力の有無が命を奪うほどの事なのか。とても理解はできなかった。
「すみません、すぐに、なおしますから」
 頭を下げながら祇澄が施設の片づけを始める。とりあえずは強引に突破した裏口の修理からか。FiVEに連絡して、修理業者を呼んでもらう。
「手伝うわ」
 清潔好きの夏南も養護施設の修繕に手を貸す。戦いにより大きく汚れた施設内を、手際よく清掃していく。
「誰も犠牲が無くて、よかったです」
 ラーラは養護施設内に犠牲者が出ていないことに安堵していた。初手に憤怒者の足止めをしたことが功を奏したのだろう。
「また、相対することがあるのだろうな……」
 ロープに縛られた憤怒者を見ながら、行成は呟いた。覚者を悪魔と見て殺害する組織。その牙が五麟市に、そしてFiVEに向く日がいつか来るのだろう。
(このまま戦い続ければ、いずれは……)
 言葉なく倖は自分が探している人物へと心を馳せていた。今回の闘いでは見つからなかった。だが、戦い続ける限りは会える可能性はある。
「ねえ、エグゾルツィーズムって言葉になんか心当たりはない?」
「イレブンの一組織で、ロシアの宗教組織……としか」
 数多は養護施設の人にシスターの属する組織の情報を聞いてみた。帰ってきた答えは、どちらかというと答え合わせに近い事。詳細は彼らも知らないという。
 FiVEの護送車が憤怒者を連行する。FiVEの覚者も随行の車に乗り込む形で、養護施設を後にした。


 例えば貴方の隣人が、常にバットやナイフを所持しているとしよう。
 そして最近バットやナイフによる障害事件が多発しているとしよう。
 それはもう、変えようのない事実なのだ。

 恐怖と共に隣人を疑い、関係に壁を作ることもできる。
 だが恐怖と共に隣人を疑い、それでも大丈夫と手を結ぶこともできる。
 こういった摩擦の後に結ばれた絆を、人は『信用』と呼ぶのだ。
 ――貴方は、隣人とどうありたい?

■シナリオ結果■

大成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

ST(まー、この構成なら全体攻撃が三回ぐらい飛んできても全滅はないか。命中90超えでも5割程で回避できるし。生存した憤怒者で施設内になだれ込めば、2人はいけるはず……)
覚者「「艶舞・寂夜で眠らせて一気に突破しまーす」」
ST「半分寝た……だと!?」
 大体こんな状況でした。ちくせう。

 ともあれお疲れ様です。ダメージを受けた方は、ゆっくり傷を癒してください。
 それではまた、五麟市で。




 
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