【攫ウ者達】覚者を集める人攫い
●攫われた人々が連れ去られた場所は……
都市部の中にあるその場所は、巧妙に隠されていた。
建築工事中と見せかけて柵が備え付けられた土地。そこには、地下へと続く大きな竪穴に梯子が掛けられてある。底からは横穴が続いており、その奥には広い地下室が造られていた。
その中には、人相の悪い数人の男達が屯している。
「また1人、捕まえてきたぜ。獣憑きのガキだ」
見れば、手足を拘束され、猿ぐつわをかまされた小学生くらいの男の子が地面に転がされている。その少年のお尻の辺りからトカゲの尻尾が生えていた。この少年は辰の獣憑に違いない。
だが、ここにいる覚者はこの少年だけではない。屯す男達もまた、背中から翼を生やしていたり、腕や足の関節が球体となっていたりする。いずれも普通の人間ではない。能力に目覚めた覚者達だ。
その周りにある檻には、10数人の覚者達が捕らえられている。下は年端も行かぬ少年少女から、上は老人まで。いずれも、力に目覚めた覚者達だ。捕らえられた者達の体には多数の傷がついており、皆、憔悴しているのか、ぐったりとしてしまっている。
ゆっくりと近づくパンチパーマの男は、その小学生の少年を檻の中と放り込んでしまう。力任せに投げつけられた少年はもんどり打ち、ぶつかった檻の柵がきしんだ。
「少し待ってろ。しばらくすれば、お前達の新しい飼い主がやってくるだろうからな」
げへへと汚らしい笑い声を浮かべる隔者達。そいつらの姿に、捕らえられた覚者達はただただ身を震わせるのだった……。
●捕らわれの覚者
『F.i.V.E.』の会議室。
招集に応じた覚者達が向かうと、そこにはすでにけいと静音の姿があった。
「よく来てくれたのう」
ケイは腰掛けるよう覚者達に促す。メンバー達がソファーへと座る中、静音は立ったままで身を震わせている。
「私のことは気になさらず、菜花さんの話を……」
とはいえ、顔色の悪い彼女を放置するのも悪い。ならば、できるだけ早く、けいの話を聞こうという流れになる。
「うむ、人攫い組織のアジトが発見されたのじゃ」
以前、静音や、子供達が人攫いを行う隔者に攫われかけた事件があった。いずれの事件も参加した覚者のメンバーによって、誘拐を阻止している。
2度目の依頼の際に捕らえた隔者達は、『F.i.V.E.』にて拘留していたのだが、最近になって下っ端の男がついに口を開いたのだそうだ。
「その目的は、人身売買。覚者の売買を目的にした組織なのだそうじゃ」
チーム『テイク』と、彼らは名乗っているらしい。連れ去るという意味なのだろうが、なんとも捻りのない名前じゃとは、けいの感想である。
その活動実態についてはまだ詳しく分からないが、それによって活動資金を得ている下衆どもであるのは間違いない。
これを先に聞いていた静音。彼女も場合によっては、こうなっていたかもしれないと、怯えていたのだ。
「そいつらのアジトは、府内の都市部の工事現場にあるようじゃの」
京都府内某所に、人攫い達が活動するアジトがあるという。そこには、人知れず攫われた覚者達が捕らえられているのだ。
「すぐにでも向かいたいところじゃが、ちと突入は面倒じゃのう」
表向きは工事現場だ。無関係な者が入るのは難しい。下手に侵入しようとすれば、余計なトラブルを生む可能性もあるだろう。
侵入するならば、関係者が少なくなる夜間。それなら、相手の寝首をかける可能性も高い。慎重に侵入し、できるなら相手へと奇襲をかけて行きたい。
「工事現場に入れば、大きな穴が開いておる。梯子もあるが、飛行できるならば飛んで降りることも出来そうじゃな」
穴の底からはさらに2,30メートルほどの横穴があり、それを通り抜けると大きな地下室に出る。そこが隔者達のアジトだ。
「おそらく、襲撃のタイミングには隔者は地下室内に7人おるはずじゃ。そのうちの1人は、静音を襲った際にもおった『パンチ』で間違いなさそうじゃの」
だが、過去2度現れた『坊主』の姿はない。別の覚者を攫いに出かけているのか、それとも……。
けいは覚者達へと資料を配り、詳細は確認して欲しいと覚者達に告げる。
「私も助力いたしますわ」
静音もそっと手を挙げる。まだ、若干顔色は悪かったが、自身と同様に狙われ、捕らわれてしまった覚者を助けてあげたいと主張した。覚者達も手が多いほうがいいと、その申し出を受けることにする。
「敵のアジトに乗り込むのじゃ。何が起こるか分からぬ。油断せぬようにな」
最後に、けいはそう覚者達へと注意を促すのだった。
都市部の中にあるその場所は、巧妙に隠されていた。
建築工事中と見せかけて柵が備え付けられた土地。そこには、地下へと続く大きな竪穴に梯子が掛けられてある。底からは横穴が続いており、その奥には広い地下室が造られていた。
その中には、人相の悪い数人の男達が屯している。
「また1人、捕まえてきたぜ。獣憑きのガキだ」
見れば、手足を拘束され、猿ぐつわをかまされた小学生くらいの男の子が地面に転がされている。その少年のお尻の辺りからトカゲの尻尾が生えていた。この少年は辰の獣憑に違いない。
だが、ここにいる覚者はこの少年だけではない。屯す男達もまた、背中から翼を生やしていたり、腕や足の関節が球体となっていたりする。いずれも普通の人間ではない。能力に目覚めた覚者達だ。
その周りにある檻には、10数人の覚者達が捕らえられている。下は年端も行かぬ少年少女から、上は老人まで。いずれも、力に目覚めた覚者達だ。捕らえられた者達の体には多数の傷がついており、皆、憔悴しているのか、ぐったりとしてしまっている。
ゆっくりと近づくパンチパーマの男は、その小学生の少年を檻の中と放り込んでしまう。力任せに投げつけられた少年はもんどり打ち、ぶつかった檻の柵がきしんだ。
「少し待ってろ。しばらくすれば、お前達の新しい飼い主がやってくるだろうからな」
げへへと汚らしい笑い声を浮かべる隔者達。そいつらの姿に、捕らえられた覚者達はただただ身を震わせるのだった……。
●捕らわれの覚者
『F.i.V.E.』の会議室。
招集に応じた覚者達が向かうと、そこにはすでにけいと静音の姿があった。
「よく来てくれたのう」
ケイは腰掛けるよう覚者達に促す。メンバー達がソファーへと座る中、静音は立ったままで身を震わせている。
「私のことは気になさらず、菜花さんの話を……」
とはいえ、顔色の悪い彼女を放置するのも悪い。ならば、できるだけ早く、けいの話を聞こうという流れになる。
「うむ、人攫い組織のアジトが発見されたのじゃ」
以前、静音や、子供達が人攫いを行う隔者に攫われかけた事件があった。いずれの事件も参加した覚者のメンバーによって、誘拐を阻止している。
2度目の依頼の際に捕らえた隔者達は、『F.i.V.E.』にて拘留していたのだが、最近になって下っ端の男がついに口を開いたのだそうだ。
「その目的は、人身売買。覚者の売買を目的にした組織なのだそうじゃ」
チーム『テイク』と、彼らは名乗っているらしい。連れ去るという意味なのだろうが、なんとも捻りのない名前じゃとは、けいの感想である。
その活動実態についてはまだ詳しく分からないが、それによって活動資金を得ている下衆どもであるのは間違いない。
これを先に聞いていた静音。彼女も場合によっては、こうなっていたかもしれないと、怯えていたのだ。
「そいつらのアジトは、府内の都市部の工事現場にあるようじゃの」
京都府内某所に、人攫い達が活動するアジトがあるという。そこには、人知れず攫われた覚者達が捕らえられているのだ。
「すぐにでも向かいたいところじゃが、ちと突入は面倒じゃのう」
表向きは工事現場だ。無関係な者が入るのは難しい。下手に侵入しようとすれば、余計なトラブルを生む可能性もあるだろう。
侵入するならば、関係者が少なくなる夜間。それなら、相手の寝首をかける可能性も高い。慎重に侵入し、できるなら相手へと奇襲をかけて行きたい。
「工事現場に入れば、大きな穴が開いておる。梯子もあるが、飛行できるならば飛んで降りることも出来そうじゃな」
穴の底からはさらに2,30メートルほどの横穴があり、それを通り抜けると大きな地下室に出る。そこが隔者達のアジトだ。
「おそらく、襲撃のタイミングには隔者は地下室内に7人おるはずじゃ。そのうちの1人は、静音を襲った際にもおった『パンチ』で間違いなさそうじゃの」
だが、過去2度現れた『坊主』の姿はない。別の覚者を攫いに出かけているのか、それとも……。
けいは覚者達へと資料を配り、詳細は確認して欲しいと覚者達に告げる。
「私も助力いたしますわ」
静音もそっと手を挙げる。まだ、若干顔色は悪かったが、自身と同様に狙われ、捕らわれてしまった覚者を助けてあげたいと主張した。覚者達も手が多いほうがいいと、その申し出を受けることにする。
「敵のアジトに乗り込むのじゃ。何が起こるか分からぬ。油断せぬようにな」
最後に、けいはそう覚者達へと注意を促すのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.攫われた人々の保護
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。
ついに、人攫いの隔者達のアジトが発見されました。
そこに捕らえられた覚者達の解放を願います。
●敵
○隔者……7名。チーム『テイク』を名乗る人攫い集団。全員男性です。
その目的は、人身売買であることが判明しています。
リーダーはいませんが、『パンチ』が実質的に取り仕切っているようです。
・仮称、パンチ、パンチパーマの男。翼×火、ナックル、『豪炎撃』を使用。
・仮称、垂れ目、垂れ目の男。暦×水、ギター(楽器)、『潤しの滴』使用。
・仮称、タラコ、たらこ唇の男。械×木、鞭、『棘散舞』を使用。
以上3名は他にも壱式スキルも3つほど、また、ステルスと各因子の専用技能スキルを所持しています。
・配下、4名。(暦×水、彩×木、怪×天、現×水)
片手斧やを持って切りかかってくるチンピラどもです。いずれも壱式スキルのみ使用します。
なお、昼に襲撃の場合、地上部を含め、配下の数が10人ほど追加されますので、お勧めできません。
●状況
都市部の一角にある工事現場に掘られた大きな穴の底、
横穴を進んだ先にある地下室が
チーム『テイク』のアジトと思われる場所です。
地下室は20メートル四方、高さは5メートルほど。
部屋の中央が隔者達の活動領域ですが、
室内の隅に檻が点在している形です。
檻は30基ほどあり、空の檻もあります。
●NPC
○捕らわれの覚者達
合わせて13名。主に小学生以下の子供達です。
中には、ご老人も2人ほどおり、
彼らは、1人1つの檻に捕らわれています。
○河澄・静音
参加いたします。
基本的には自分で考えて行動しますが、
何かして欲しいことがありましたら、
プレイングにて指示を出していただければと思います。
前回の事件は
拙作『【攫ウ者達】狙われた翼人の少女』
『【攫ウ者達】新たな被害者』を
ご参照くださいませ。
OPでも簡単に内容には触れておりますので、
見ずとも問題はございません。
それでは、今回も楽しんでいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします!
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年06月02日
2016年06月02日
■メイン参加者 8人■

●鼠捕り
京都府某所。
『F.i.V.E.』の覚者達は、とある工事現場へとやってきていた。
「よーしっ! 一網打尽にしてやるぜ!」
『一級ムードメーカー』成瀬 翔(CL2000063)はようやく隔者のアジトが発見できたと知り、意気揚々と現場に姿を現す。
「人攫いとはまた、前時代的なのですねぇ……」
「人攫いの果ては、やっぱり人身売買だったわね」
敵の目的を知り、『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732)は嘆息する。『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)が言うように、隔者はさらった子供達を地下のアジトへと捕らえているらしい。
『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は真剣な表情でその現場を見つめる。
「何の為にこんなことを……ってずっと不思議でしたが、人身売買……許せません」
「いたいけな子供達を乱暴に扱うだなんて、許してはおけないわね」
その目的は分からないが、子供達が物のように扱われている状況にエメレンツィアが憤る。
「子供だけでなくお年寄りまで捕えて売り捌こうなど、悪行にも程がありますわ!」
「きっと、捕らえられた方々を救い出して見せますわ!」
「はい、必ず……」
この力は救いを求める人の為にと、『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268)も声を荒げる。『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)もまた、その為に力を尽くすと仲間達に告げる。
「静音さんはあんま無理しねーようにな。飛び出したりとかしちゃダメだからな」
ややもすれば無茶しそうに見える彼女を、翔が優しく嗜める。『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)も作戦方針として、仲間の中央で回復をと依頼していたようだ。
そんな中で、ラーラはふと不安を口にする。
「考えたくはないですが、既に売られてしまった方もいるのでしょうか……?」
「こういった事は需要側の方が配給する側よりも闇が大きいモノなのですが、まずは見えているところから手を着けていくしかないのです」
槐が仲間を諭すように語る。相手は袋の鼠だ。
「取りこぼしの無いよう参りませうか」
今から行うのは鼠捕り。1匹も逃さぬように、捕らえるのみだ。
そっと現場へ忍び込むメンバー達。
見た目は人気がない普通の工事現場に見えるが、掘削の為に開けられたにしては、その大きな穴は余りにも不自然だ。
できるかぎり明かりはつけず、メンバーは暗視を頼りにしつつ穴を降りていく。
先陣を切ったのは、翔。先に底へと降りたった彼は、続いて降りてくる仲間をサポートする。次にいのりも梯子で降りていたようだ。
暗視を持たないメンバーもいる。そんなメンバーには、葦原 赤貴(CL2001019)が使う蜘蛛糸で、仲間達と一緒に降ろすことにする。守護使役ぞんでのふわふわで浮いて降りようと考えた槐だったが、ふわふわは降下に向かないようで、彼女もまたその蜘蛛糸に捕まることにしていた。
人数的な都合もあり、赤貴は何回かに分けて仲間を降ろす。
「面白い体験ね」
予め覚醒変化し、深紅の髪になっていたエメレンツィアは興味深そうに降ろしてもらう。
ラーラが梯子を伝って降りる間、亮平が蜘蛛糸で降ろしてもらっていた。暗い足元は翔のサポートを受けていたようだ。
亮平は同時に、送受心・改を発動し、仲間内で伝達が出来るようにと気がける。出来るだけ、敵に気づかれないよう接近する為だ。
そうして穴の底に降り立ったメンバーは、すぐに横に続く穴を発見し、暗視持ちで前後を挟む形で進んでいく。
先頭の翔は通路上の敵も想定しつつ、注意して歩く。その指示に、ラーラや静音が従う。何が起こるか分からない。多少凸凹した通路。足が取られないようにとバランスをとり、足音が鳴らないようにと歩く。
同じく、暗い中を槐はついていく。いのりもその横で殿を務めつつ、守護使役ガルムの力で周囲をかぎ分けようとする。
アジトにいるはずの隔者の中に、これまで出てきた二式スキル使い、『坊主』がいないという話が気になるメンバー達。新手として現れる可能性も考え、後ろからの襲撃も気にしていたのだ。
とはいえ、何も起こることなく、アジトの扉までやってきた一行。
できる限り気配を抑えつつ、先頭の翔は中の様子を窺う。檻は情報の通り四隅に。そして、その中央に隔者達が集まる。亮平を解し、それを全員へと伝えた形だ。
エメレンツィアはそれを活かして脳内でシミュレーションを行い、出来る限り準備をと仲間に海のベールに包み込む。
同じく、ラーラも集中を、赤貴も英霊の力によって己の力を高めていた。
そうして、準備を整えたメンバー達は、翔の合図を待って……突入する。左右の扉をバーンと大きな音を立てて、翔と赤貴がそれぞれ開く。
「ヒーロー参上っ! 助けに来たぜ! みんなもう大丈夫だからな!」
翔は全力移動して奥右側の檻の前に立ち、敵の前に立ちはだかる。捕まる人々へ、彼は檻の奥で身を守るよう頼んでいた。
他のメンバーも、敵を包囲するように立ち回ろうとする。
「怖がらないで。お姉さん達がきっとそこから出してあげますから。しっかり身を守っていてください」
ぐったりとしている捕らわれの覚者達に、ラーラは眉を潜めてしまって。
(同じ覚者の力に目覚めた人達に、どうしてこんなことが出来るんですか……!)
「攫った方々は返していただきます!」
威風を伴ったいのりがこの場の隔者達に呼びかけつつ、回り込むメンバーのアシストを行う。
亮平が、鷹の目で捕らわれの覚者の確認をすると、部屋四隅にある檻の所々に覚者は点在して捕らえられていた。各所3人ずつ。左奥のみ4人が檻の中だ。
「てめぇらは!!」
だが、敵も覚者達の侵入をそうやすやすと受け入れてはくれない。敵は奥左側を封鎖するように布陣していく。残念ながら、その一角に捕らえられた人々が隔者の後ろに回ってしまった形だ。
赤貴はうまく回り込むことができず、苦虫を噛み砕いたような顔をする。奇襲してなおこの状況。敵の事実上のリーダー、パンチはなかなか頭が切れるようだ。
「また貴様らか」
「思ったより早かったな……」
『星狩り』一色・満月(CL2000044)の言葉に舌打ちするパンチ。メンバー達はそれに違和感を覚える。
「『テイク』、か」
隔者達の名前は確かそんな名前だった。力の弱い覚者を狙って売買。赤貴もまた不快な表情をする。
「そんなに人の売り買いが好きなら。オマエらを、挽肉にして精肉店に並べてやる」
赤貴も覚醒し、眼力で威圧する。前に出る隔者は片手斧を突き出してきた。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
覚醒したラーラは鍔広な大きな帽子を被り、魔道書を広げる。
「茶番もいい加減に飽いた。主らが終わらぬというのなら終わらせてやる。覚悟しろ」
満月は仲間と共に駆け出し、隔者へと立ち向かう。この場に捕らえられた覚者達の為に。
●人身売買組織『テイク』
隔者を倒す為、覚者達は先に仕掛ける。
「十天、一色・満月。少々手荒にいかせてもらうぞ」
手前にいる隔者を狙って満月は刀を抜き、地を這うような連撃を繰り出す。出来る限り、檻も巻き込むように狙って繰り出す斬撃。空の檻を破壊しつつ、手前の隔者を切り裂く。
天井のライトは灯ってはいるが、薄暗い地下室。槐は懐中電灯を点灯させ、視界を確保しながらも立ち振る舞う。
覚醒したことで10歳の姿へと戻った槐は、敵の周囲に眠りへと誘う空気を再現する。すると、ばたり、ばたりと倒れる隔者。手前の2人と、垂れ目が眠りへと落ちて倒れ行く。したりと槐はドヤ顔をした。ちなみに、捕まる覚者達が『F.i.V.E.』覚者の登場に興奮する様子はない。よほど憔悴していたのだろう。
同じく覚醒して、やや露出高めの魔女っ子スタイルになったいのりは、隔者達へと絡みつく霧を纏わせて身体能力を下げていく。
一方の隔者達は半数が眠りについてしまうが、銘々の武器を手にして襲い来る。
パンチパーマの男が前面に立ち、拳に豪炎を纏わせて攻撃を仕掛け、さらにタラコくちびるの男が種を投げつけ、前に立つメンバー満月、翔を攻め立ててくる。
その際、こちらの囲いの外で捕まったままの覚者達を気にかけ、いのりは出来る限り彼らを背にして戦う。
「十天、葦原 赤貴。社会の屑共を、絶望と苦痛に塗れさせ、殺す」
視線鋭く、赤貴は大剣『燦然たる銀光の残滓』で隔者を叩き斬ろうと動く。
狙うは水行。しかしながら、水行の隔者は全員後ろに立っている。その為、彼は手前のパンチ目掛けて刃を振り下ろす。
「オレ達子供の未来を奪う存在に、そこまで手をかけてやるんだ 感謝しろ」
それによって手傷を負うパンチ。そいつは舌打ちしつつ、ちらりと背後を見やっていた。
先手を打ったことで、『F.i.V.E.』の覚者達は優勢に戦いを進める。
「この人達は私達が解放して見せます」
事前に自身の力を高めていたラーラ。彼女はペスカの持つ鍵で魔道書の封印を解き、魔力を全開にして拳大の炎を連続して前方へと放つ。タラコくちびるの男にそれが命中し、火傷を負わせていたようだ。
そこで、眠っていた垂れ目が目覚める。依然、手前の配下は眠ったままだ。
その為、亮平もまた手前のタラコを狙い、ナイフに雷光を纏わせてその身体に痺れを走らせようとする。
それなりに自身の力に自信を持っていたらしい、隔者タラコ。だが、自身と同格以上の力を持つ覚者を相手に、その太い唇を歪ませながらも種を投げ飛ばし、拘束を図ろうとしてくる。
今度は赤貴が狙われ、縛り付けられる。それを見た静音は、出来る限り痛みを和らげようと癒しの滴を振り撒いていく。
「安心して、シズネ。貴方は私達が必ず守るわ」
こんな輩に、静音は渡さない。心の中でそう誓うエメレンツィアは静音へとウインクしつつ声をかけ、敵へと向き直る。
「ふん、慈悲は不要ね。覚悟なさい!」
彼女は空気中の成分を集め、荒波を呼び起こす。それらが前線に立つ隔者へと浴びせかかると、眠っていた覚者達をも目を覚ましてしまったようだ。
しかしながら、度重なる攻撃で、タラコがすでに息を荒くしてしまっている。
「子供とか年寄りとか弱い者ばっか狙いやがって、絶対に許さねーからな!」
覚醒して成人した姿に変貌した翔がタラコへと近づき、部屋の天井付近に雷雲を呼び起こし、雷を落としていく。それにより、タラコは口から煙を噴き、がっくりと地面へ倒れていった。
その後は、目を覚ました隔者を手前から落としていく覚者達。
赤貴は豪腕の一撃で後ろの水行の配下を狙う。それによって、手前の怪の因子持ちの配下をも薙ぎ倒すことが出来た。
赤貴は1体を倒したことを確認したが、敢えてとどめは刺さない。こいつらがまた新たな情報を握っている可能性もあり、また、残党狩りの際の人質に使える可能性があるからだ。
しかしながら、そこで怪しい動きをしていたのはパンチだ。
そいつは戦線から下がり、檻の当たりで何かを行っている。覚者達は、人質を取るのかと警戒していたのだが、どうやら、檻の錠を操作している様子はない。むしろ、檻自体を動かしている。
そこで、満月が手前の下っ端を切り伏せる。後方のその1体を倒すと、覚者達は後方へと攻めやすくなったのだが。
「ちっ、もっと早く売っぱらっとくんだったぜ……」
そう呟いたパンチは、地面の下へと姿を消す。満月はそのままそれを追おうとするが、穴はどうやら下水道に繋がっている。相手は翼人だ。おそらく、飛行して逃げさったのだろう。満月は苦々しい顔をしつつも残りの敵を相手することにする。
ただ、残る隔者達もまた、後退しつつ逃走を図っているようにも見える。
そうはさせじと翔が波動弾を飛ばすと、逃げようとした垂れ目へと命中した。
覚者達は攻撃の手を休めない。槐は定期的に眠りの空気を起こして隔者達を眠らせると、いのりは冥王の杖を振り上げ、光の粒を隔者どもへと振り注がせる。
ばたり、ばたりと配下は沈んでいく。どうやら、入り口から新手が訪れる可能性も低い。
これ幸いと、ラーラも眠気を堪える垂れ目へと火焔連弾を放っていく。
一見眠そうに見える垂れ目だが。そいつは構えるギターをかき鳴らし、直接音波を覚者達へと浴びせかけてくる。
(ああ、ホント許しがたい)
エメレンツィアは怒りを募らせる。こういう輩によって、可愛らしい子供達が、愛されて育つべき子供達が、あんなに傷つき、怯えてしまっているなんて。あまつさえ、商品として扱う『テイク』の連中を許すわけには行かない。
「貴方達の断罪はこの女帝が下すわ! 頭を垂れ、地にひれ伏しなさい!」
エメレンツィアはさらなる大波を宙で呼び起こし、垂れ目の身体を洗い流そうとする。
だが、そいつはそれに耐え切る。足を踏ん張り、己へと潤しの滴を振舞って体力の回復を図っていた。
だが、そいつ1人しか残っていない状況では、それは悪手でしかない。覚者達がそいつを無力化しようと攻撃を与え続け、さらに亮平が痺れを走らせる弾丸で垂れ目の体を撃ち抜く。
「ぐぅっ……」
がっくりとうなだれ、意識を失う垂れ目。
覚者達は、急いで下水道に逃げたパンチを負う。しかしながら、下水道は元々街に張り巡らされているもの。パンチを追跡するのはもはや困難だった。
●無事解放して……
パンチのみ逃してはしまったが、それ以外の隔者は全員生け捕ることができた。
「貴様ら、問うぞ。言わぬなら首を飛ばす、生きるか死ぬか取捨選択するんだな」
満月が『テイク』のメンバーへと問う。
「アンタたちは所詮、金を稼いでいるだけの隔者だ。だが、アンタ達から覚者を買っているバックがいるはずだ」
満月はそれを根元から断ち切りたいと考えている。それがいなくなれば、覚者を売ろうとするやからは消えるはず。……だが、それには情報が足りなさ過ぎる。
高能力者の2人は割りと観念した様子だったが、下っ端はそうもいかずに暴れる。その為、亮平がその脳天を殴りつけていた。
「……この位で済んでる内に、大人しくしろ」
黙り込む隔者達ではあったが、覚者の隙を見てこの場から逃げ出そうと画策していたようだ。もっとも、覚者達に見張られてそんな隙もなかったが。
「黒幕を暴露して報復されるのが怖いなら、『F.i.V.E.』が守る」
この日本、まだまだ人間の命が軽い。それに腹が立つと、満月はすらりと刀を抜いた。
「言え、言わねば切り殺すぞ。人間には血が多く詰まってるでな、どれくらいか見るのも悪くは無いだろう」
言わなければ……。満月がその刃を突きつけようとすると、下っ端どもが悲鳴を上げ、知らないと全力で首を振る。タラコや垂れ目はあさっての方向へと視線を逸らす。
それを確認し、満月は大きく溜息を吐き、刃を納めた。
「殺せるわけがないだろう」
それならせめてこの場を探索し、黒幕に繋がるものを探そうと満月は仲間に促した。
そして、この場に捕らえられていた覚者達。
赤貴は守護使役の力で鍵穴に変形をと考えたが、鍵穴に変形というのは難しい。
奇襲をかけたこともあり、さすがに『テイク』のメンバー達も鍵を回収する余裕はなかったようだ。覚者が捕らえられている檻1つ1つの錠前をメンバー達は外していく。
「もう大丈夫よ、怖かったわね」
エメレンツィアが声をかけると、解放した子供が泣き始めてしまう。
いのりも別側の檻を解放し子供達を外へと出し、やや衰弱している彼らへとお菓子を与える。挙って食べる子供達の中には傷つく者もいたため、翔や亮平が癒しの滴を振りまいて傷を癒していた。
その後、メンバー達は『テイク』のアジトを調べる。いのりは内部をカメラで撮影し、その上で捕まっていたご老人方などに『テイク』のメンバーが何を話していたかを聞く。
「抜け道をいくつか作ってあったのですね……」
槐は四隅の空の檻の下に下水道へ通じる通路があることを確認する。降りてきた縦穴なども気にしてはいたようだったが、こちらは不発に終わったらしい。
「おぬし達がかぎつける可能性を、あやつらは示唆しておったようじゃな」
どうやら、前回捕まったメンバーが口を割る可能性があると、ここに捕まっていた覚者のうち、商品価値の高い者を急いで運び出していたらしい。特に、若い女性、強い力を秘めた覚者の卵など……。
「そう……ですのね」
助け出すべき人達がこの場にいる人達だけでなかったことに、いのりは気を落としてしまう。
亮平が売買の際切られたと思われる領収書の一部を回収する。そこにいくつか、見慣れぬ組織の名を発見した。
「これは……」
果たしてこれが今後の捜査に繋がるかどうか……。確認する必要があるだろう。
ある程度調べ終えた後は、助け出した覚者達を連れ、元来た道を戻る。翔が先陣を切って守護使役のていさつを使い、周囲を警戒する。坊主の動向を気にしてではあったが、この状況に及んで、帰ってくるとはやや考えづらい。念の為といった所か。
ともあれ、作戦は成功と言える。こうして、人身売買組織『テイク』は事実上、ほぼ壊滅したのだった。
京都府某所。
『F.i.V.E.』の覚者達は、とある工事現場へとやってきていた。
「よーしっ! 一網打尽にしてやるぜ!」
『一級ムードメーカー』成瀬 翔(CL2000063)はようやく隔者のアジトが発見できたと知り、意気揚々と現場に姿を現す。
「人攫いとはまた、前時代的なのですねぇ……」
「人攫いの果ては、やっぱり人身売買だったわね」
敵の目的を知り、『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732)は嘆息する。『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)が言うように、隔者はさらった子供達を地下のアジトへと捕らえているらしい。
『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は真剣な表情でその現場を見つめる。
「何の為にこんなことを……ってずっと不思議でしたが、人身売買……許せません」
「いたいけな子供達を乱暴に扱うだなんて、許してはおけないわね」
その目的は分からないが、子供達が物のように扱われている状況にエメレンツィアが憤る。
「子供だけでなくお年寄りまで捕えて売り捌こうなど、悪行にも程がありますわ!」
「きっと、捕らえられた方々を救い出して見せますわ!」
「はい、必ず……」
この力は救いを求める人の為にと、『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268)も声を荒げる。『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)もまた、その為に力を尽くすと仲間達に告げる。
「静音さんはあんま無理しねーようにな。飛び出したりとかしちゃダメだからな」
ややもすれば無茶しそうに見える彼女を、翔が優しく嗜める。『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)も作戦方針として、仲間の中央で回復をと依頼していたようだ。
そんな中で、ラーラはふと不安を口にする。
「考えたくはないですが、既に売られてしまった方もいるのでしょうか……?」
「こういった事は需要側の方が配給する側よりも闇が大きいモノなのですが、まずは見えているところから手を着けていくしかないのです」
槐が仲間を諭すように語る。相手は袋の鼠だ。
「取りこぼしの無いよう参りませうか」
今から行うのは鼠捕り。1匹も逃さぬように、捕らえるのみだ。
そっと現場へ忍び込むメンバー達。
見た目は人気がない普通の工事現場に見えるが、掘削の為に開けられたにしては、その大きな穴は余りにも不自然だ。
できるかぎり明かりはつけず、メンバーは暗視を頼りにしつつ穴を降りていく。
先陣を切ったのは、翔。先に底へと降りたった彼は、続いて降りてくる仲間をサポートする。次にいのりも梯子で降りていたようだ。
暗視を持たないメンバーもいる。そんなメンバーには、葦原 赤貴(CL2001019)が使う蜘蛛糸で、仲間達と一緒に降ろすことにする。守護使役ぞんでのふわふわで浮いて降りようと考えた槐だったが、ふわふわは降下に向かないようで、彼女もまたその蜘蛛糸に捕まることにしていた。
人数的な都合もあり、赤貴は何回かに分けて仲間を降ろす。
「面白い体験ね」
予め覚醒変化し、深紅の髪になっていたエメレンツィアは興味深そうに降ろしてもらう。
ラーラが梯子を伝って降りる間、亮平が蜘蛛糸で降ろしてもらっていた。暗い足元は翔のサポートを受けていたようだ。
亮平は同時に、送受心・改を発動し、仲間内で伝達が出来るようにと気がける。出来るだけ、敵に気づかれないよう接近する為だ。
そうして穴の底に降り立ったメンバーは、すぐに横に続く穴を発見し、暗視持ちで前後を挟む形で進んでいく。
先頭の翔は通路上の敵も想定しつつ、注意して歩く。その指示に、ラーラや静音が従う。何が起こるか分からない。多少凸凹した通路。足が取られないようにとバランスをとり、足音が鳴らないようにと歩く。
同じく、暗い中を槐はついていく。いのりもその横で殿を務めつつ、守護使役ガルムの力で周囲をかぎ分けようとする。
アジトにいるはずの隔者の中に、これまで出てきた二式スキル使い、『坊主』がいないという話が気になるメンバー達。新手として現れる可能性も考え、後ろからの襲撃も気にしていたのだ。
とはいえ、何も起こることなく、アジトの扉までやってきた一行。
できる限り気配を抑えつつ、先頭の翔は中の様子を窺う。檻は情報の通り四隅に。そして、その中央に隔者達が集まる。亮平を解し、それを全員へと伝えた形だ。
エメレンツィアはそれを活かして脳内でシミュレーションを行い、出来る限り準備をと仲間に海のベールに包み込む。
同じく、ラーラも集中を、赤貴も英霊の力によって己の力を高めていた。
そうして、準備を整えたメンバー達は、翔の合図を待って……突入する。左右の扉をバーンと大きな音を立てて、翔と赤貴がそれぞれ開く。
「ヒーロー参上っ! 助けに来たぜ! みんなもう大丈夫だからな!」
翔は全力移動して奥右側の檻の前に立ち、敵の前に立ちはだかる。捕まる人々へ、彼は檻の奥で身を守るよう頼んでいた。
他のメンバーも、敵を包囲するように立ち回ろうとする。
「怖がらないで。お姉さん達がきっとそこから出してあげますから。しっかり身を守っていてください」
ぐったりとしている捕らわれの覚者達に、ラーラは眉を潜めてしまって。
(同じ覚者の力に目覚めた人達に、どうしてこんなことが出来るんですか……!)
「攫った方々は返していただきます!」
威風を伴ったいのりがこの場の隔者達に呼びかけつつ、回り込むメンバーのアシストを行う。
亮平が、鷹の目で捕らわれの覚者の確認をすると、部屋四隅にある檻の所々に覚者は点在して捕らえられていた。各所3人ずつ。左奥のみ4人が檻の中だ。
「てめぇらは!!」
だが、敵も覚者達の侵入をそうやすやすと受け入れてはくれない。敵は奥左側を封鎖するように布陣していく。残念ながら、その一角に捕らえられた人々が隔者の後ろに回ってしまった形だ。
赤貴はうまく回り込むことができず、苦虫を噛み砕いたような顔をする。奇襲してなおこの状況。敵の事実上のリーダー、パンチはなかなか頭が切れるようだ。
「また貴様らか」
「思ったより早かったな……」
『星狩り』一色・満月(CL2000044)の言葉に舌打ちするパンチ。メンバー達はそれに違和感を覚える。
「『テイク』、か」
隔者達の名前は確かそんな名前だった。力の弱い覚者を狙って売買。赤貴もまた不快な表情をする。
「そんなに人の売り買いが好きなら。オマエらを、挽肉にして精肉店に並べてやる」
赤貴も覚醒し、眼力で威圧する。前に出る隔者は片手斧を突き出してきた。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
覚醒したラーラは鍔広な大きな帽子を被り、魔道書を広げる。
「茶番もいい加減に飽いた。主らが終わらぬというのなら終わらせてやる。覚悟しろ」
満月は仲間と共に駆け出し、隔者へと立ち向かう。この場に捕らえられた覚者達の為に。
●人身売買組織『テイク』
隔者を倒す為、覚者達は先に仕掛ける。
「十天、一色・満月。少々手荒にいかせてもらうぞ」
手前にいる隔者を狙って満月は刀を抜き、地を這うような連撃を繰り出す。出来る限り、檻も巻き込むように狙って繰り出す斬撃。空の檻を破壊しつつ、手前の隔者を切り裂く。
天井のライトは灯ってはいるが、薄暗い地下室。槐は懐中電灯を点灯させ、視界を確保しながらも立ち振る舞う。
覚醒したことで10歳の姿へと戻った槐は、敵の周囲に眠りへと誘う空気を再現する。すると、ばたり、ばたりと倒れる隔者。手前の2人と、垂れ目が眠りへと落ちて倒れ行く。したりと槐はドヤ顔をした。ちなみに、捕まる覚者達が『F.i.V.E.』覚者の登場に興奮する様子はない。よほど憔悴していたのだろう。
同じく覚醒して、やや露出高めの魔女っ子スタイルになったいのりは、隔者達へと絡みつく霧を纏わせて身体能力を下げていく。
一方の隔者達は半数が眠りについてしまうが、銘々の武器を手にして襲い来る。
パンチパーマの男が前面に立ち、拳に豪炎を纏わせて攻撃を仕掛け、さらにタラコくちびるの男が種を投げつけ、前に立つメンバー満月、翔を攻め立ててくる。
その際、こちらの囲いの外で捕まったままの覚者達を気にかけ、いのりは出来る限り彼らを背にして戦う。
「十天、葦原 赤貴。社会の屑共を、絶望と苦痛に塗れさせ、殺す」
視線鋭く、赤貴は大剣『燦然たる銀光の残滓』で隔者を叩き斬ろうと動く。
狙うは水行。しかしながら、水行の隔者は全員後ろに立っている。その為、彼は手前のパンチ目掛けて刃を振り下ろす。
「オレ達子供の未来を奪う存在に、そこまで手をかけてやるんだ 感謝しろ」
それによって手傷を負うパンチ。そいつは舌打ちしつつ、ちらりと背後を見やっていた。
先手を打ったことで、『F.i.V.E.』の覚者達は優勢に戦いを進める。
「この人達は私達が解放して見せます」
事前に自身の力を高めていたラーラ。彼女はペスカの持つ鍵で魔道書の封印を解き、魔力を全開にして拳大の炎を連続して前方へと放つ。タラコくちびるの男にそれが命中し、火傷を負わせていたようだ。
そこで、眠っていた垂れ目が目覚める。依然、手前の配下は眠ったままだ。
その為、亮平もまた手前のタラコを狙い、ナイフに雷光を纏わせてその身体に痺れを走らせようとする。
それなりに自身の力に自信を持っていたらしい、隔者タラコ。だが、自身と同格以上の力を持つ覚者を相手に、その太い唇を歪ませながらも種を投げ飛ばし、拘束を図ろうとしてくる。
今度は赤貴が狙われ、縛り付けられる。それを見た静音は、出来る限り痛みを和らげようと癒しの滴を振り撒いていく。
「安心して、シズネ。貴方は私達が必ず守るわ」
こんな輩に、静音は渡さない。心の中でそう誓うエメレンツィアは静音へとウインクしつつ声をかけ、敵へと向き直る。
「ふん、慈悲は不要ね。覚悟なさい!」
彼女は空気中の成分を集め、荒波を呼び起こす。それらが前線に立つ隔者へと浴びせかかると、眠っていた覚者達をも目を覚ましてしまったようだ。
しかしながら、度重なる攻撃で、タラコがすでに息を荒くしてしまっている。
「子供とか年寄りとか弱い者ばっか狙いやがって、絶対に許さねーからな!」
覚醒して成人した姿に変貌した翔がタラコへと近づき、部屋の天井付近に雷雲を呼び起こし、雷を落としていく。それにより、タラコは口から煙を噴き、がっくりと地面へ倒れていった。
その後は、目を覚ました隔者を手前から落としていく覚者達。
赤貴は豪腕の一撃で後ろの水行の配下を狙う。それによって、手前の怪の因子持ちの配下をも薙ぎ倒すことが出来た。
赤貴は1体を倒したことを確認したが、敢えてとどめは刺さない。こいつらがまた新たな情報を握っている可能性もあり、また、残党狩りの際の人質に使える可能性があるからだ。
しかしながら、そこで怪しい動きをしていたのはパンチだ。
そいつは戦線から下がり、檻の当たりで何かを行っている。覚者達は、人質を取るのかと警戒していたのだが、どうやら、檻の錠を操作している様子はない。むしろ、檻自体を動かしている。
そこで、満月が手前の下っ端を切り伏せる。後方のその1体を倒すと、覚者達は後方へと攻めやすくなったのだが。
「ちっ、もっと早く売っぱらっとくんだったぜ……」
そう呟いたパンチは、地面の下へと姿を消す。満月はそのままそれを追おうとするが、穴はどうやら下水道に繋がっている。相手は翼人だ。おそらく、飛行して逃げさったのだろう。満月は苦々しい顔をしつつも残りの敵を相手することにする。
ただ、残る隔者達もまた、後退しつつ逃走を図っているようにも見える。
そうはさせじと翔が波動弾を飛ばすと、逃げようとした垂れ目へと命中した。
覚者達は攻撃の手を休めない。槐は定期的に眠りの空気を起こして隔者達を眠らせると、いのりは冥王の杖を振り上げ、光の粒を隔者どもへと振り注がせる。
ばたり、ばたりと配下は沈んでいく。どうやら、入り口から新手が訪れる可能性も低い。
これ幸いと、ラーラも眠気を堪える垂れ目へと火焔連弾を放っていく。
一見眠そうに見える垂れ目だが。そいつは構えるギターをかき鳴らし、直接音波を覚者達へと浴びせかけてくる。
(ああ、ホント許しがたい)
エメレンツィアは怒りを募らせる。こういう輩によって、可愛らしい子供達が、愛されて育つべき子供達が、あんなに傷つき、怯えてしまっているなんて。あまつさえ、商品として扱う『テイク』の連中を許すわけには行かない。
「貴方達の断罪はこの女帝が下すわ! 頭を垂れ、地にひれ伏しなさい!」
エメレンツィアはさらなる大波を宙で呼び起こし、垂れ目の身体を洗い流そうとする。
だが、そいつはそれに耐え切る。足を踏ん張り、己へと潤しの滴を振舞って体力の回復を図っていた。
だが、そいつ1人しか残っていない状況では、それは悪手でしかない。覚者達がそいつを無力化しようと攻撃を与え続け、さらに亮平が痺れを走らせる弾丸で垂れ目の体を撃ち抜く。
「ぐぅっ……」
がっくりとうなだれ、意識を失う垂れ目。
覚者達は、急いで下水道に逃げたパンチを負う。しかしながら、下水道は元々街に張り巡らされているもの。パンチを追跡するのはもはや困難だった。
●無事解放して……
パンチのみ逃してはしまったが、それ以外の隔者は全員生け捕ることができた。
「貴様ら、問うぞ。言わぬなら首を飛ばす、生きるか死ぬか取捨選択するんだな」
満月が『テイク』のメンバーへと問う。
「アンタたちは所詮、金を稼いでいるだけの隔者だ。だが、アンタ達から覚者を買っているバックがいるはずだ」
満月はそれを根元から断ち切りたいと考えている。それがいなくなれば、覚者を売ろうとするやからは消えるはず。……だが、それには情報が足りなさ過ぎる。
高能力者の2人は割りと観念した様子だったが、下っ端はそうもいかずに暴れる。その為、亮平がその脳天を殴りつけていた。
「……この位で済んでる内に、大人しくしろ」
黙り込む隔者達ではあったが、覚者の隙を見てこの場から逃げ出そうと画策していたようだ。もっとも、覚者達に見張られてそんな隙もなかったが。
「黒幕を暴露して報復されるのが怖いなら、『F.i.V.E.』が守る」
この日本、まだまだ人間の命が軽い。それに腹が立つと、満月はすらりと刀を抜いた。
「言え、言わねば切り殺すぞ。人間には血が多く詰まってるでな、どれくらいか見るのも悪くは無いだろう」
言わなければ……。満月がその刃を突きつけようとすると、下っ端どもが悲鳴を上げ、知らないと全力で首を振る。タラコや垂れ目はあさっての方向へと視線を逸らす。
それを確認し、満月は大きく溜息を吐き、刃を納めた。
「殺せるわけがないだろう」
それならせめてこの場を探索し、黒幕に繋がるものを探そうと満月は仲間に促した。
そして、この場に捕らえられていた覚者達。
赤貴は守護使役の力で鍵穴に変形をと考えたが、鍵穴に変形というのは難しい。
奇襲をかけたこともあり、さすがに『テイク』のメンバー達も鍵を回収する余裕はなかったようだ。覚者が捕らえられている檻1つ1つの錠前をメンバー達は外していく。
「もう大丈夫よ、怖かったわね」
エメレンツィアが声をかけると、解放した子供が泣き始めてしまう。
いのりも別側の檻を解放し子供達を外へと出し、やや衰弱している彼らへとお菓子を与える。挙って食べる子供達の中には傷つく者もいたため、翔や亮平が癒しの滴を振りまいて傷を癒していた。
その後、メンバー達は『テイク』のアジトを調べる。いのりは内部をカメラで撮影し、その上で捕まっていたご老人方などに『テイク』のメンバーが何を話していたかを聞く。
「抜け道をいくつか作ってあったのですね……」
槐は四隅の空の檻の下に下水道へ通じる通路があることを確認する。降りてきた縦穴なども気にしてはいたようだったが、こちらは不発に終わったらしい。
「おぬし達がかぎつける可能性を、あやつらは示唆しておったようじゃな」
どうやら、前回捕まったメンバーが口を割る可能性があると、ここに捕まっていた覚者のうち、商品価値の高い者を急いで運び出していたらしい。特に、若い女性、強い力を秘めた覚者の卵など……。
「そう……ですのね」
助け出すべき人達がこの場にいる人達だけでなかったことに、いのりは気を落としてしまう。
亮平が売買の際切られたと思われる領収書の一部を回収する。そこにいくつか、見慣れぬ組織の名を発見した。
「これは……」
果たしてこれが今後の捜査に繋がるかどうか……。確認する必要があるだろう。
ある程度調べ終えた後は、助け出した覚者達を連れ、元来た道を戻る。翔が先陣を切って守護使役のていさつを使い、周囲を警戒する。坊主の動向を気にしてではあったが、この状況に及んで、帰ってくるとはやや考えづらい。念の為といった所か。
ともあれ、作戦は成功と言える。こうして、人身売買組織『テイク』は事実上、ほぼ壊滅したのだった。
