≪百・獣・進・撃≫白妙の翼
●『白妙の』サララ
ぴょんぴょんと、鳥の童女が舞っていた。正確に言えばヒヨコ。
柔らかく艶やかな羽毛が覆っていて、フォルムは丸く愛らしい。
本来ならばほんのりと金を帯びた、琥珀銀色の羽毛が今は深紅。
牙も爪も持たない弱い生き物が自分に向かって発した、サララという名前が彼女は気に入っていた。
響きが良いし、あの生き物のように難しい言葉は喋れないし発音もできないが、頭に浮かべるだけでもなかなか良い響きではないか。
ぶるりと身震いすれば、羽毛そのものから風が巻き起こり、べったりと付いた血糊が落ちる。
積み重なった死体の山から、比較的肉が残っているのを引っ張り出した。鋭い爪で肉を削ぎ、食べやすい大きさにして口に運ぶ。
おいしいな、おいしいな、と言いたいのかピヨピヨと鳴くサララ。
この生き物は、太ったものや痩せたものはおいしくないが引き締まった身体のものはとてもおいしい。
ハチの幼虫だとかカミキリムシの幼虫も大好きだが、この生き物の味を知ってしまえば、メインディッシュからおやつに格下げだ。
以前山に迷い込んできた、自分よりも小さい、この生き物の雛は柔らかくてもっとおいしかったなぁ……とあの味を思い出して涎を垂らしていたが、ふと我に返る。
そう、おいしいご飯に気を取られて忘れそうだったけど、自分は友達を手伝うためにこうしているんだった。
頑張って沢山狩りをすれば、離れて暮らしているママも誉めてくれるだろうか?
友達を手伝うために、もっとご飯を食べるために、識別名『香久山のサララ』は人里の方向へ飛び立とうとして――お腹がいっぱいで飛べないことに気付いた。
元々自分は、ママのような大きな翼でなく、体に対してだいぶ寸詰まりな翼しかないのだ。
暫く頑張って飛ぼうとしてみたが、どうにも腹が重くて飛べないので、諦めて走って人里へ降りていった。
●大食い幼鳥の討伐へ
「皆、集まってくれたね。凶暴な妖の討伐依頼。急ぎの案件だよ」
ジュヌヴィエーヴ・ベルナドット(nCL2000117)が、年甲斐もなく焦った顔で皆に告げる。
AAAから回されたのは、奈良県橿原市、香久山を根城にする鳥型妖の退治の依頼。
「その地にゆかりのある、ジャポーンの昔の女王になぞらえて、AAAが付けた識別名は『サララ』だよ。見た目はヒヨコと鳥の中間くらいの成長度。知能はさておき、人間で言えば10代始めくらいの精神年齢のようだねえ」
どうやらAAAが彼女の討伐に失敗して全滅したらしく、FiVEにお鉢が回ってきたようだ。
ジュヌヴィエーヴが見たのは、近くを走るJR桜井線、香久山駅の近辺で彼女が暴れる光景。
「……あまり見たくない光景だけどね、エコールの小さい子達もたくさん犠牲になる姿が見えたんだよ」
近くの小学校も彼女の襲撃を受け、少なくない数の子供が食い散らかされる。そんな惨劇。
「私の聞いた話だと、妖が暴れるのは本能的なもの、というじゃないかい?でも、ずっとナラでばかり頻発するのは何だか変じゃないかねえ?」
いぶかしむジュヌヴィエーヴだが、あまり引き留めてもいられない。覚者を見送るジュヌヴィエーヴが、彼ら彼女らに声をかけて見送る。
「皆、怪我のないように……どうか無事に帰ってきてねえ」
ぴょんぴょんと、鳥の童女が舞っていた。正確に言えばヒヨコ。
柔らかく艶やかな羽毛が覆っていて、フォルムは丸く愛らしい。
本来ならばほんのりと金を帯びた、琥珀銀色の羽毛が今は深紅。
牙も爪も持たない弱い生き物が自分に向かって発した、サララという名前が彼女は気に入っていた。
響きが良いし、あの生き物のように難しい言葉は喋れないし発音もできないが、頭に浮かべるだけでもなかなか良い響きではないか。
ぶるりと身震いすれば、羽毛そのものから風が巻き起こり、べったりと付いた血糊が落ちる。
積み重なった死体の山から、比較的肉が残っているのを引っ張り出した。鋭い爪で肉を削ぎ、食べやすい大きさにして口に運ぶ。
おいしいな、おいしいな、と言いたいのかピヨピヨと鳴くサララ。
この生き物は、太ったものや痩せたものはおいしくないが引き締まった身体のものはとてもおいしい。
ハチの幼虫だとかカミキリムシの幼虫も大好きだが、この生き物の味を知ってしまえば、メインディッシュからおやつに格下げだ。
以前山に迷い込んできた、自分よりも小さい、この生き物の雛は柔らかくてもっとおいしかったなぁ……とあの味を思い出して涎を垂らしていたが、ふと我に返る。
そう、おいしいご飯に気を取られて忘れそうだったけど、自分は友達を手伝うためにこうしているんだった。
頑張って沢山狩りをすれば、離れて暮らしているママも誉めてくれるだろうか?
友達を手伝うために、もっとご飯を食べるために、識別名『香久山のサララ』は人里の方向へ飛び立とうとして――お腹がいっぱいで飛べないことに気付いた。
元々自分は、ママのような大きな翼でなく、体に対してだいぶ寸詰まりな翼しかないのだ。
暫く頑張って飛ぼうとしてみたが、どうにも腹が重くて飛べないので、諦めて走って人里へ降りていった。
●大食い幼鳥の討伐へ
「皆、集まってくれたね。凶暴な妖の討伐依頼。急ぎの案件だよ」
ジュヌヴィエーヴ・ベルナドット(nCL2000117)が、年甲斐もなく焦った顔で皆に告げる。
AAAから回されたのは、奈良県橿原市、香久山を根城にする鳥型妖の退治の依頼。
「その地にゆかりのある、ジャポーンの昔の女王になぞらえて、AAAが付けた識別名は『サララ』だよ。見た目はヒヨコと鳥の中間くらいの成長度。知能はさておき、人間で言えば10代始めくらいの精神年齢のようだねえ」
どうやらAAAが彼女の討伐に失敗して全滅したらしく、FiVEにお鉢が回ってきたようだ。
ジュヌヴィエーヴが見たのは、近くを走るJR桜井線、香久山駅の近辺で彼女が暴れる光景。
「……あまり見たくない光景だけどね、エコールの小さい子達もたくさん犠牲になる姿が見えたんだよ」
近くの小学校も彼女の襲撃を受け、少なくない数の子供が食い散らかされる。そんな惨劇。
「私の聞いた話だと、妖が暴れるのは本能的なもの、というじゃないかい?でも、ずっとナラでばかり頻発するのは何だか変じゃないかねえ?」
いぶかしむジュヌヴィエーヴだが、あまり引き留めてもいられない。覚者を見送るジュヌヴィエーヴが、彼ら彼女らに声をかけて見送る。
「皆、怪我のないように……どうか無事に帰ってきてねえ」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.鳥系の妖『白妙のサララ』の討伐
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
お気が向かれましたらご参加どうぞよろしくお願いします。
●ロケーション
夕方、奈良県橿原市のJR桜井線、香久山駅近く
近辺には小学校や大型量販店等あり取り逃がすと危険です
路上での戦闘となりますが、遮蔽物等特にはありません
●『白妙のサララ』
知能はカラス並み、精神年齢は小学校高学年くらいな鳥系の妖。
ランクは3です。
見た目は150cmくらいのでかい鳥で、大人の羽根とヒヨコの羽毛が入り交じって生えています。
足の先は武器となる鋭い鉤爪が生えており、クチバシも鋭利です。
食い意地が張っており、好きな食べ物は第一に人間、二番目に虫(ハチノコやテッポウムシが特に)、第三に木の実
好きな食べ物を投げることで一回だけですが、気をそらすことができます
《ヒヨコタックル》閂通し相当。回転しながらクチバシと足の爪で攻撃してきます。
《羽根飛ばし》エアブリット相当です
《鳥脚カカト落とし》斬・二の構え相当。読んで字の通り
《おなかいっぱい》特遠自 攻:+30 防:+20 回避:-10 速度:-10
1ターン目から5ターン目まで常にかかっている状態になります
再使用はありません。6ターン目以降からサララは飛行可能になります
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年06月21日
2016年06月21日
■メイン参加者 6人■

●しろひよこ、まっかっかそーすぞえ
「ヒトの味を知った獣は、ヒトを襲うようになる、か。」
指崎 まこと(CL2000087) が、顎に手を当て考察する。それにしても、最近本当に妖が多い。
どちらにせよ、放置しておいていい対象ではない。サララには悪いが、討伐させてもらおうと決意を固める。
(ひよこ。ひよこか。)
(もふもふしたい。)
まことの後ろを歩く 『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)は頭の中に羽毛が侵食してきていた。ひよこの雌雄の判別方法も何故か気になるそうだが。
ちなみに彼にとって重要であるかは定かではないが、サララは雌である。
世の中、色んな趣味嗜好性癖が溢れているから、まあ不思議ではない。
肌も露わな妙齢の美女――『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)は、その横でやれやれねんとため息をつく。
「最近、この手の動物系の妖が増えてるみたいで危険とは聞いていたけど……本当に物騒ねぇん。ま、食欲と言う自分の欲に素直な点は全然好きよん」
だが、それを解消する為にに己や、己と同種族に敵意を向けられたり、食料として狙われて嬉しいわけはない。
「選んだ相手が悪く、迂闊だったって事で……覚悟して貰うわよん♪」
東雲 梛(CL2001410)もこの一連の事件はただ事ではないと感じたようだ。
「これだけ妖の出没する事件が続くって事は、明らかに妖達に何かあったって事じゃん?」
何か大きな力が働いているんだろうか、めんどくさくなりそうだとごちる。
『ギミックナイフ』切裂 ジャック(CL2001403) は、きな臭さと血の匂いに顔を歪める。
野生の妖が暴れているだけ、というわけではないだろう。そこは確実に断言できる。
そして、彼らは時を経ずして【彼女】と相対した。
駅近く、線路沿いの路上に、白い巨大羽毛玉が転がっている。
「ぴっぴぴ!ぴぴぴ!」
おなかいっぱい。嬉しそうに転がって――比喩ではなく本当に転がって進むサララが、目の前にいる。
「え、なにこれ……」
国生 かりん(CL2001391)は、サララの可愛さの無さに、失望したような表情を隠せない。
「うわー……この、可愛さ狙ってみたけど全ッ然可愛くないよーな残念な感じ……」
かりんの視点だと、適当なデザインの鳥をヒヨコっぽくしたような、売れないゆるキャラにありがちなデザインにしか見えない。何というか、村おこしに失敗したゆるキャラめいた外見に感じられるようだ。
最初に動き出したのは、ジャックだった。
「じゃあ、相談の通りにいっちょ行きますか!」
気勢と殺気に気付いたサララも、雛鳥なりにぴっ!と一声鳴いて答えた。
夏らしく、夕方でもまだ高い太陽の下、火蓋が切って落とされた。
●血まみれヒヨコロワイヤル
なんの妖か、元はどんな鳥だったのかいまいちわからないな。と呟いたのは先陣を切ったジャック。恐らくはヒヨコとニワトリの中間なのだろうか?それを彼が知る由は無いが……
悪いけど、と呟きながらまことはまず紫鋼塞、さらに蔵王で守りを固め、さらには最前線へ立つ輪廻へも紫鋼塞をかける。
「討伐させてもらうよ」
まことのエアブリットが、サララを貫く。
サララも応戦し、雛にしては鋭く大きい蹴爪を活かした蹴りを彼に叩き込む。
「悪いな。人間の都合で排除させて貰うんだ。妖は脅威だ、どうしようもない
これからこの妖によって傷つく人が出るよりは、今日俺らが傷つけられる側になり、それで終わった方がまだ平和だ」
本当は戦いたくないが、放っておけるほどジャックも『良い子』じゃない
「ごめんな」
謝る言葉と共に、彼の破眼光がサララに向けられる。サララは、生まれて初めて受けると言っていい、先程よりに大きな痛みに、ピヨッ!!と悲鳴を上げた。
「新しく新調した武器というのは、まだ馴染んでないけど……まぁ拳や蹴りも織り交ぜれば良いわよねん♪」
輪廻は色々と零れそうな服のまま、刀を大きく振るってサララを斬る。
見えてしまわないか、若干心配にもなる。懐良の熱い視線も注がれる。
かりんは憤っていた。小学校というのは、未来を担う子供たちが遊んだりして夢を育む健全な場所である。彼女は、そんな子供たちがそのまま妖鳥のエサとなるのを見過ごせるほど、非情な人間ではない。
「こんがり焼いて子供たちに大人気のフライドチキンにして給食に出してやろうかコラぁ!!」
「ぴぴぃ!!」
丸い体に負けない丸い目をさらに真ん丸くして、ビックリして縮こまるサララ。自分が喰うのは良くても、自分が喰われるのは御免ということだろうか?
サララは流石、腐っても妖、太っても鳥類といった感じで反撃し、輪廻の服がギチッという高い音と共に裂け、まことには体重の乗った嘴の一撃がお見舞いされる。
だが、梛の樹の雫や、ジャックの癒しの滴がすぐに齎され、前衛陣の痛みが引いていく。
こういった感じで殺意満々にサララとの応酬を繰り広げるFiVEの皆だが、一人だけ毛色の違う男がいた。
「さて、サララちゃん!」
ぴ?と身体ごと懐良の方を向いて向き直るサララ。
「人と共存共栄する気はないか?木の実だったら用意してやるので人には手を出すなよ!」
言葉通じるかしらねえし、と思いつつ試しに話しかけてみる。
……が、無論妖の、それも精神の幼い個体には通じない話だろう。
少しの間。沈黙を破るように突然、懐良が大胆に脱いだ。
勝利のための犠牲(……というのが、懐良の言い分だが)である。
あわよくば、自分が脱いだんだから、女性陣のセクシーショットを拝もう!というのは皆には絶対に内緒だ。
「……ふっ、オレは稀代の兵法家だ」
「ぴぃ~v」
サララが嬉しそうに反応して、ドテドテ(といっても、人間に比べればずっと早い)と駆け寄ってくる。
人間の雄は、恋愛感情を抱く相手ではない。どちらかといえば、「特上ローストビーフの塊が目の前に現れた!」といった感じだろうか。
「ぴ!」
「あだっ!痛い痛い痛い痛い!」
サララの嘴が懐良の上半身を強くつつく。詳細に言えば、虫っぽく見えなくもないところ。結構敏感なところ。
バシンとつつかれたせいで出血している。これは男でも女でも痛い。
「ちょっと!やめたげてよぉ!」
かりんの火炎弾がサララにヒットし、サララは懐良から離れた。
じんじんとして血がポタポタ落ちる胸を服で抑えつつ、懐良もかりんに続けるように飛燕を放って応戦する。
金切り声と共に、サララの白い羽が舞い散り、落ちる。
だが、それで黙っているサララでもなく、おいしそうないきもの――懐良を狙って、ボヨンとスーパーボールのように跳ねたかと思うと、蹴爪でのカカト落としを決めてきた。
フォルムからは想像しづらい猛攻に、先程突かれた痛みと合わせ、膝をつく懐良。命を削りながらも、もう一度立ち上がる。
猛攻の反撃を見舞いつつもやられっぱなしのサララ。
だが、お返しだと、唸るようにピヨピヨ鳴いたかと思うと、FiVEの皆が固まっている方向に向かって大タックル――サララの得意技(?)、ヒヨコタックルが繰り出される。
艶っぽい声と共に倒れた輪廻が、真ん前で感じた重みの感想を呟く。
「ちょっとエステが必要かしらぁん?」
「どんだけ腹に貯め込んでいるんだよっ!!重いぞデブ!」
梛とジャックの回復勢が、傷ついた仲間へ癒しの術をかける。
野生動物でここまで太れるのか、と疑問になるレベルで、サララは太い。
その体重を全部乗せた突撃は、相当な威力があったようだ。
だが、そのタックルの直後。
『むぐっ、ぎゅっ、びょええええええええええええ!!』
ちょうど、サララの《おなかいっぱい》の効果が切れる頃なのだが、サララはこれまた盛大に――ゲロを吐いた。
タックルで胃の中がシェイクされたのか、単に食いすぎなのかは分からない。
ダメージがあるようなものではないが、精神的にはかなりクるものがある。
前衛として相対していた輪廻やまことの足元に、とてもではないがお見せできないものが吐き出された。
噛み潰した芋虫に混じって、消化が終わってないような肉片も、胃液に交じっている……何の肉なのかは、正直考えたくない。
正直臭い。かなり臭い。
「うわっ!臭っ!」
かりんが思わず大声で叫ぶ。
肉の腐ったような匂いと、獣の匂いが混じったような悪臭である。虫も混じっていて、視覚的にはこの上なく最悪だ。
「うっ……ほーらほらほら、こっちこっち、君の好きなお肉だよー」
「ぴ!」
鼻をつまんだマコトが差し出した、目先の肉につられてノコノコと突進してくるサララ。だが、一口も食べられない。いいところで引っ込めてしまう。
「ほら!食べな!」
肉を引っ込めたマコトにむかついて突こうとしたが、サララの目の前をおいしそうなものが過ぎる。
梛が、先に拾っておいた木の実と虫入りのビニール袋を投げたのだ。
サララの吐瀉物から思いっきり目をそらしつつ、かりんは今ちょうど投げようとしていた木の実を捨てる。
その代わりに、スマホの術式アプリを起動して炎撃を叩き込む。
「匂い、つかないよね……」
叩き込んだ後、心配そうに自分の手を見るかりん。たとえ付いたとしても、FiVEの技術力で落とせるかは……正直分からない。
視界に入る、さまざまなおいしそうなもの(懐良含む)に、無いに等しい首をふりふりして目を丸くするサララ。
どのごちそうから食べたらいいか、分かったものではない。
一番おいしそうな懐良に飛びかかるが、前衛のまことと輪廻に阻まれる。
「ほらほら!それでも妖なのかな!?」
檄を飛ばすような、厳しい挑発をかけるまこと。イケメン看護師だからといって、優しい言葉をかけてもらえるとは限らないようだ。
サララには人間の美醜はよく分からないが、おいしそうに見えるのは、好もしい人間だからだろうか。単に、若くてそこそこ鍛えているからおいしそうなのかもしれないが。
「び!びびぃ!」
挑発と、もっとおいしそうな懐良への道を阻まれ怒ったサララの嘴や蹴爪の攻撃が、彼の細く小柄ながらも精悍さのある身体に吸い込まれる。
一度は倒れ伏すものの、負けじとすぐ立ち上がる。
「飛び上がる前に畳みかけるわよ!」
「よそ見しちゃダメよん♪」
かりんと輪廻、魅惑のFiVE美女の声と共に、飛ぼうとするサララのその動きが妨害される。さらには、輪廻の水礫やかりんの火炎弾がサララを叩いた。
特に、かりんの火炎弾は醒の炎を纏っており、かなりの一撃となった。
飛ぼうとしていた無防備な状態に撃ち込まれたせいか、相当な体力を奪われるサララ。
「び!」
「やぁん!」
力を振り絞るようなタックルが輪廻に向かって繰り出される。後ろに居る者も巻き添えだ。輪廻はしとげなく、力なくその場に座り込んだ。
梛の棘一閃がしたたかにサララを打つ。
「俺達と戦って少しはダイエットになったらしいけど、ここでお前は終わり。もう誰もお前に食べさせない」
「ぴ……」
よろよろと、転がったサララが立ち上がろうとするも、力なくその場に転がる。
「おしおきねん♪」
輪廻の水礫が、もう飛べないサララの身体へ吸い込まれる。さらに続けざまにジャックと梛の破眼光もストレートに通り……
妖、【白妙のサララ】は、ここで完璧に討伐されたのだった。
●日が沈み、月が出て
気が付けば、さっきまであんなに高く見えた太陽が昏く沈んでいる。
サララを埋葬した梛が、土饅頭に向かってぼそっと呟く
「お前、誰かに言われて動こうとしていたのか?」
まことは、近くにサララの餌場――犠牲者の遺体がある場所を探そうとしていた。彼らを探し出して埋葬したいと願ったのだが……
サララは山から降りてきた。どこかから湧いて出たわけではなく、幼生である雛だ。
親、多くの野生動物の例に当てはめるなら母親がどこかにいるのかもしれない。
だが、最近多発している妖と鉄道の一件についてはおぼろげながら掴めた。
おそらく親子どちらも、この一件、山の妖軍団の一員なのだろう。
人間の知性を持つ者らではないとはいえ、子供だけでそういったものにかかわるとは考えづらい。
サララは、親の意向に従い、影響下にある個体だったのだろう。
梛はサララが来た方角の樹木から、『木の心』で何か手掛かりはないかと探ってみたが、分かったのはサララが山の斜面を転がってやってきたことくらいである。
どうにも、サララがきたと思われる山の奥の森からは、嫌な予感がする。うまく言えないが、嫌な感じだ。
FiVEの皆が、京都に帰った後の夜遅く。
満月を背景に、大きな翼が広がった。
銀色の羽根に金色の瞳の、麗しい『山の女王』が、王女の死を察知し劈いたのを聞いたものは、誰もいなかった。
「ヒトの味を知った獣は、ヒトを襲うようになる、か。」
指崎 まこと(CL2000087) が、顎に手を当て考察する。それにしても、最近本当に妖が多い。
どちらにせよ、放置しておいていい対象ではない。サララには悪いが、討伐させてもらおうと決意を固める。
(ひよこ。ひよこか。)
(もふもふしたい。)
まことの後ろを歩く 『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)は頭の中に羽毛が侵食してきていた。ひよこの雌雄の判別方法も何故か気になるそうだが。
ちなみに彼にとって重要であるかは定かではないが、サララは雌である。
世の中、色んな趣味嗜好性癖が溢れているから、まあ不思議ではない。
肌も露わな妙齢の美女――『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)は、その横でやれやれねんとため息をつく。
「最近、この手の動物系の妖が増えてるみたいで危険とは聞いていたけど……本当に物騒ねぇん。ま、食欲と言う自分の欲に素直な点は全然好きよん」
だが、それを解消する為にに己や、己と同種族に敵意を向けられたり、食料として狙われて嬉しいわけはない。
「選んだ相手が悪く、迂闊だったって事で……覚悟して貰うわよん♪」
東雲 梛(CL2001410)もこの一連の事件はただ事ではないと感じたようだ。
「これだけ妖の出没する事件が続くって事は、明らかに妖達に何かあったって事じゃん?」
何か大きな力が働いているんだろうか、めんどくさくなりそうだとごちる。
『ギミックナイフ』切裂 ジャック(CL2001403) は、きな臭さと血の匂いに顔を歪める。
野生の妖が暴れているだけ、というわけではないだろう。そこは確実に断言できる。
そして、彼らは時を経ずして【彼女】と相対した。
駅近く、線路沿いの路上に、白い巨大羽毛玉が転がっている。
「ぴっぴぴ!ぴぴぴ!」
おなかいっぱい。嬉しそうに転がって――比喩ではなく本当に転がって進むサララが、目の前にいる。
「え、なにこれ……」
国生 かりん(CL2001391)は、サララの可愛さの無さに、失望したような表情を隠せない。
「うわー……この、可愛さ狙ってみたけど全ッ然可愛くないよーな残念な感じ……」
かりんの視点だと、適当なデザインの鳥をヒヨコっぽくしたような、売れないゆるキャラにありがちなデザインにしか見えない。何というか、村おこしに失敗したゆるキャラめいた外見に感じられるようだ。
最初に動き出したのは、ジャックだった。
「じゃあ、相談の通りにいっちょ行きますか!」
気勢と殺気に気付いたサララも、雛鳥なりにぴっ!と一声鳴いて答えた。
夏らしく、夕方でもまだ高い太陽の下、火蓋が切って落とされた。
●血まみれヒヨコロワイヤル
なんの妖か、元はどんな鳥だったのかいまいちわからないな。と呟いたのは先陣を切ったジャック。恐らくはヒヨコとニワトリの中間なのだろうか?それを彼が知る由は無いが……
悪いけど、と呟きながらまことはまず紫鋼塞、さらに蔵王で守りを固め、さらには最前線へ立つ輪廻へも紫鋼塞をかける。
「討伐させてもらうよ」
まことのエアブリットが、サララを貫く。
サララも応戦し、雛にしては鋭く大きい蹴爪を活かした蹴りを彼に叩き込む。
「悪いな。人間の都合で排除させて貰うんだ。妖は脅威だ、どうしようもない
これからこの妖によって傷つく人が出るよりは、今日俺らが傷つけられる側になり、それで終わった方がまだ平和だ」
本当は戦いたくないが、放っておけるほどジャックも『良い子』じゃない
「ごめんな」
謝る言葉と共に、彼の破眼光がサララに向けられる。サララは、生まれて初めて受けると言っていい、先程よりに大きな痛みに、ピヨッ!!と悲鳴を上げた。
「新しく新調した武器というのは、まだ馴染んでないけど……まぁ拳や蹴りも織り交ぜれば良いわよねん♪」
輪廻は色々と零れそうな服のまま、刀を大きく振るってサララを斬る。
見えてしまわないか、若干心配にもなる。懐良の熱い視線も注がれる。
かりんは憤っていた。小学校というのは、未来を担う子供たちが遊んだりして夢を育む健全な場所である。彼女は、そんな子供たちがそのまま妖鳥のエサとなるのを見過ごせるほど、非情な人間ではない。
「こんがり焼いて子供たちに大人気のフライドチキンにして給食に出してやろうかコラぁ!!」
「ぴぴぃ!!」
丸い体に負けない丸い目をさらに真ん丸くして、ビックリして縮こまるサララ。自分が喰うのは良くても、自分が喰われるのは御免ということだろうか?
サララは流石、腐っても妖、太っても鳥類といった感じで反撃し、輪廻の服がギチッという高い音と共に裂け、まことには体重の乗った嘴の一撃がお見舞いされる。
だが、梛の樹の雫や、ジャックの癒しの滴がすぐに齎され、前衛陣の痛みが引いていく。
こういった感じで殺意満々にサララとの応酬を繰り広げるFiVEの皆だが、一人だけ毛色の違う男がいた。
「さて、サララちゃん!」
ぴ?と身体ごと懐良の方を向いて向き直るサララ。
「人と共存共栄する気はないか?木の実だったら用意してやるので人には手を出すなよ!」
言葉通じるかしらねえし、と思いつつ試しに話しかけてみる。
……が、無論妖の、それも精神の幼い個体には通じない話だろう。
少しの間。沈黙を破るように突然、懐良が大胆に脱いだ。
勝利のための犠牲(……というのが、懐良の言い分だが)である。
あわよくば、自分が脱いだんだから、女性陣のセクシーショットを拝もう!というのは皆には絶対に内緒だ。
「……ふっ、オレは稀代の兵法家だ」
「ぴぃ~v」
サララが嬉しそうに反応して、ドテドテ(といっても、人間に比べればずっと早い)と駆け寄ってくる。
人間の雄は、恋愛感情を抱く相手ではない。どちらかといえば、「特上ローストビーフの塊が目の前に現れた!」といった感じだろうか。
「ぴ!」
「あだっ!痛い痛い痛い痛い!」
サララの嘴が懐良の上半身を強くつつく。詳細に言えば、虫っぽく見えなくもないところ。結構敏感なところ。
バシンとつつかれたせいで出血している。これは男でも女でも痛い。
「ちょっと!やめたげてよぉ!」
かりんの火炎弾がサララにヒットし、サララは懐良から離れた。
じんじんとして血がポタポタ落ちる胸を服で抑えつつ、懐良もかりんに続けるように飛燕を放って応戦する。
金切り声と共に、サララの白い羽が舞い散り、落ちる。
だが、それで黙っているサララでもなく、おいしそうないきもの――懐良を狙って、ボヨンとスーパーボールのように跳ねたかと思うと、蹴爪でのカカト落としを決めてきた。
フォルムからは想像しづらい猛攻に、先程突かれた痛みと合わせ、膝をつく懐良。命を削りながらも、もう一度立ち上がる。
猛攻の反撃を見舞いつつもやられっぱなしのサララ。
だが、お返しだと、唸るようにピヨピヨ鳴いたかと思うと、FiVEの皆が固まっている方向に向かって大タックル――サララの得意技(?)、ヒヨコタックルが繰り出される。
艶っぽい声と共に倒れた輪廻が、真ん前で感じた重みの感想を呟く。
「ちょっとエステが必要かしらぁん?」
「どんだけ腹に貯め込んでいるんだよっ!!重いぞデブ!」
梛とジャックの回復勢が、傷ついた仲間へ癒しの術をかける。
野生動物でここまで太れるのか、と疑問になるレベルで、サララは太い。
その体重を全部乗せた突撃は、相当な威力があったようだ。
だが、そのタックルの直後。
『むぐっ、ぎゅっ、びょええええええええええええ!!』
ちょうど、サララの《おなかいっぱい》の効果が切れる頃なのだが、サララはこれまた盛大に――ゲロを吐いた。
タックルで胃の中がシェイクされたのか、単に食いすぎなのかは分からない。
ダメージがあるようなものではないが、精神的にはかなりクるものがある。
前衛として相対していた輪廻やまことの足元に、とてもではないがお見せできないものが吐き出された。
噛み潰した芋虫に混じって、消化が終わってないような肉片も、胃液に交じっている……何の肉なのかは、正直考えたくない。
正直臭い。かなり臭い。
「うわっ!臭っ!」
かりんが思わず大声で叫ぶ。
肉の腐ったような匂いと、獣の匂いが混じったような悪臭である。虫も混じっていて、視覚的にはこの上なく最悪だ。
「うっ……ほーらほらほら、こっちこっち、君の好きなお肉だよー」
「ぴ!」
鼻をつまんだマコトが差し出した、目先の肉につられてノコノコと突進してくるサララ。だが、一口も食べられない。いいところで引っ込めてしまう。
「ほら!食べな!」
肉を引っ込めたマコトにむかついて突こうとしたが、サララの目の前をおいしそうなものが過ぎる。
梛が、先に拾っておいた木の実と虫入りのビニール袋を投げたのだ。
サララの吐瀉物から思いっきり目をそらしつつ、かりんは今ちょうど投げようとしていた木の実を捨てる。
その代わりに、スマホの術式アプリを起動して炎撃を叩き込む。
「匂い、つかないよね……」
叩き込んだ後、心配そうに自分の手を見るかりん。たとえ付いたとしても、FiVEの技術力で落とせるかは……正直分からない。
視界に入る、さまざまなおいしそうなもの(懐良含む)に、無いに等しい首をふりふりして目を丸くするサララ。
どのごちそうから食べたらいいか、分かったものではない。
一番おいしそうな懐良に飛びかかるが、前衛のまことと輪廻に阻まれる。
「ほらほら!それでも妖なのかな!?」
檄を飛ばすような、厳しい挑発をかけるまこと。イケメン看護師だからといって、優しい言葉をかけてもらえるとは限らないようだ。
サララには人間の美醜はよく分からないが、おいしそうに見えるのは、好もしい人間だからだろうか。単に、若くてそこそこ鍛えているからおいしそうなのかもしれないが。
「び!びびぃ!」
挑発と、もっとおいしそうな懐良への道を阻まれ怒ったサララの嘴や蹴爪の攻撃が、彼の細く小柄ながらも精悍さのある身体に吸い込まれる。
一度は倒れ伏すものの、負けじとすぐ立ち上がる。
「飛び上がる前に畳みかけるわよ!」
「よそ見しちゃダメよん♪」
かりんと輪廻、魅惑のFiVE美女の声と共に、飛ぼうとするサララのその動きが妨害される。さらには、輪廻の水礫やかりんの火炎弾がサララを叩いた。
特に、かりんの火炎弾は醒の炎を纏っており、かなりの一撃となった。
飛ぼうとしていた無防備な状態に撃ち込まれたせいか、相当な体力を奪われるサララ。
「び!」
「やぁん!」
力を振り絞るようなタックルが輪廻に向かって繰り出される。後ろに居る者も巻き添えだ。輪廻はしとげなく、力なくその場に座り込んだ。
梛の棘一閃がしたたかにサララを打つ。
「俺達と戦って少しはダイエットになったらしいけど、ここでお前は終わり。もう誰もお前に食べさせない」
「ぴ……」
よろよろと、転がったサララが立ち上がろうとするも、力なくその場に転がる。
「おしおきねん♪」
輪廻の水礫が、もう飛べないサララの身体へ吸い込まれる。さらに続けざまにジャックと梛の破眼光もストレートに通り……
妖、【白妙のサララ】は、ここで完璧に討伐されたのだった。
●日が沈み、月が出て
気が付けば、さっきまであんなに高く見えた太陽が昏く沈んでいる。
サララを埋葬した梛が、土饅頭に向かってぼそっと呟く
「お前、誰かに言われて動こうとしていたのか?」
まことは、近くにサララの餌場――犠牲者の遺体がある場所を探そうとしていた。彼らを探し出して埋葬したいと願ったのだが……
サララは山から降りてきた。どこかから湧いて出たわけではなく、幼生である雛だ。
親、多くの野生動物の例に当てはめるなら母親がどこかにいるのかもしれない。
だが、最近多発している妖と鉄道の一件についてはおぼろげながら掴めた。
おそらく親子どちらも、この一件、山の妖軍団の一員なのだろう。
人間の知性を持つ者らではないとはいえ、子供だけでそういったものにかかわるとは考えづらい。
サララは、親の意向に従い、影響下にある個体だったのだろう。
梛はサララが来た方角の樹木から、『木の心』で何か手掛かりはないかと探ってみたが、分かったのはサララが山の斜面を転がってやってきたことくらいである。
どうにも、サララがきたと思われる山の奥の森からは、嫌な予感がする。うまく言えないが、嫌な感じだ。
FiVEの皆が、京都に帰った後の夜遅く。
満月を背景に、大きな翼が広がった。
銀色の羽根に金色の瞳の、麗しい『山の女王』が、王女の死を察知し劈いたのを聞いたものは、誰もいなかった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
