≪百・獣・進・撃≫300秒耐久ミッション
●桜井沿線防衛作戦
山から現われた妖の群れがJR桜井線の鉄道を破壊しようと押し寄せている。
これを走行中の避難用列車が通過するまでの300秒間、防衛する必要がある。
●妖の足音
「AAAから協力要請がありました。ただちに現地へ向かい、作戦に参加してください」
蒼紫 四五九番(nCL2000137)は淡々とした口調で説明した。
奈良県で動物系妖が頻出している。AAAの手に余るこの状況に、ファイヴへの協力要請が発生したのだ。
その状況というのが、妖の集団による鉄道への破壊行動であるという。
「鉄道を破壊する妖自体は珍しくありませんが、これが大量かつ局地的に発生しているということに、ただならぬ事態だと判断したのでしょう。違和感、とも言えますが」
もしこのまま侵攻が進めばライフラインが喪われ、妖は人里へ容易に攻撃できるようになってしまうだろう。
「今回受けて頂く任務はこちらになります」
蒼紫は示した資料に、こう付け加えた。
「失敗した場合、百人単位で死者が出ます」
JR桜井線のあるポイントが作戦エリアだ。
山側から進行してくる無数の妖が鉄道の破壊をもくろんでいる。
鉄道に到達されれば、妖は自爆能力によって即座に破壊するだろう。
この線路はAAAによって一時的に仮設されたもので、里から避難する人々が乗っている。これが通り過ぎる5分間(30ターン)さえ耐え斬れれば勝利となるのだ。
一匹たりとも到達させずに全て撃破することが、今回の任務となる。
「攻撃をしかけているのは亀型の動物系妖です。群れで移動し、攻撃力は低いものの撃破時に爆発するため攻撃と回復のタイミングが重要になるでしょう。あとは、よろしくお願いします」
山から現われた妖の群れがJR桜井線の鉄道を破壊しようと押し寄せている。
これを走行中の避難用列車が通過するまでの300秒間、防衛する必要がある。
●妖の足音
「AAAから協力要請がありました。ただちに現地へ向かい、作戦に参加してください」
蒼紫 四五九番(nCL2000137)は淡々とした口調で説明した。
奈良県で動物系妖が頻出している。AAAの手に余るこの状況に、ファイヴへの協力要請が発生したのだ。
その状況というのが、妖の集団による鉄道への破壊行動であるという。
「鉄道を破壊する妖自体は珍しくありませんが、これが大量かつ局地的に発生しているということに、ただならぬ事態だと判断したのでしょう。違和感、とも言えますが」
もしこのまま侵攻が進めばライフラインが喪われ、妖は人里へ容易に攻撃できるようになってしまうだろう。
「今回受けて頂く任務はこちらになります」
蒼紫は示した資料に、こう付け加えた。
「失敗した場合、百人単位で死者が出ます」
JR桜井線のあるポイントが作戦エリアだ。
山側から進行してくる無数の妖が鉄道の破壊をもくろんでいる。
鉄道に到達されれば、妖は自爆能力によって即座に破壊するだろう。
この線路はAAAによって一時的に仮設されたもので、里から避難する人々が乗っている。これが通り過ぎる5分間(30ターン)さえ耐え斬れれば勝利となるのだ。
一匹たりとも到達させずに全て撃破することが、今回の任務となる。
「攻撃をしかけているのは亀型の動物系妖です。群れで移動し、攻撃力は低いものの撃破時に爆発するため攻撃と回復のタイミングが重要になるでしょう。あとは、よろしくお願いします」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の進行を30ターン阻むこと
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●依頼目的
鉄道の死守
妖が一匹でも鉄道に到達したら失敗となります
ただし防衛ラインはかなり前のほうに敷いているので、味方が全滅したりわざと無視しない限りは防衛ラインを抜かれることはないでしょう。
●敵の情報
動物系妖。亀型。数は『たくさん』。
こちらは5分が経過した段階で応援が到着するので、敵が残っていても実質クリアとなります。
ただし亀の方はこちらを無視してずんずん線路のほうへ進んでいくので、どのみち攻撃によって撃破しなくてはなりません。
動きはさほど速くないですが、物特両方に対して防御力が高く、戦闘不能時に近列に対して高いノックバック攻撃を行なう『自爆準備』という自己付与スキルを有しています。
撃破のタイミングが連続すると連続ダメージをうけてうっかり前衛壊滅という事態もありうるので、タイミングずらしを工夫しましょう。
また、数が多すぎるためおそらく≪ブロック≫が足りません。ポジションに拘らずにいきましょう。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
9/9
公開日
2016年06月04日
2016年06月04日
■メイン参加者 9人■

●物言わぬ進軍
翼を広げた『月下の白』白枝 遥(CL2000500)は、眼下の光景に目を細めた。
見渡す限り続く妖の列。
やがて来るというAAAの攻撃部隊にかかればこれもしのげるかもしれないが、到着まではまだ、僅かに足りない。
その五分間をしのぎきることが、彼らの役目である。
「絶対に一匹も通さないよ」
決意も新たに降下。着地すると、左右を『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)と『二兎の救い手』明石 ミュエル(CL2000172)が固めていた。
「数は多い自爆はする。しかも正面から止めるしかないとは……さしずめ四枚落ちって所だな。それにしてもあの亀は自分から進んで鉄道を破壊しようってのか? ランク1の知能じゃ無理があるだろ」
「……こないだの、嫌な予感。こういうこと、だったんだね」
頷くミュエル。人類に対する本能的な殺意があるという部分を覗けばランク1の妖は昆虫レベルの判断力しか持たない。いわばこれは蜂の大群が急に特定の人工設備の破壊をもくろむようなもの。ありえない動きだ。
その例えからするなら……。
桂木・日那乃(CL2000941)が虚空を見上げて言った。
「上位、存在……」
鉄道を破壊することで人類にダメージを与えようとするレベルの知能を持った存在が裏に存在することを示唆していた。
「大妖出現の前兆だったりするのかな」
ぽつりと言った『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)に、ミュエルたちは注目した。
気をそぐように合成音声を鳴らす『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)。
『発生原因を考えるのは後にしましょう。まずはこの五分……食い止められるかです』
「……」
強く頷く水蓮寺 静護(CL2000471)。
「失敗した場合の死者があまりに多すぎる。気を引き締めてかかるぞ」
「全部燃やしちゃっていいのよね? 嫌になるけど、仕方ない……!」
指をこすって火花を起こす『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)。
「いくわよ、ゆる」
「あら、ちょっと厳しいくらいが遣り甲斐あるものよ」
『おっぱい天使』シルフィア・カレード(CL2000215)は胸元に下げていた眼鏡を抜くと、片手で装着した。
「有効射程距離に侵入を確認。始めましょ」
●
「的が多くて狙うに困らないわね。一気に行くわ!」
ありすはフィンガースナップをきかせると、指先にともした炎を膨らませた。
右から左へ薙ぎ払うように火を放つ。
「燃えてしまいなさい!」
「続けていくぞ……」
奏空が逆手持ちした双刀を交差させ、間にびりびりと電流を発生させる。
「くらいやがれ!」
交差斬撃。虚空を斬った刀は電撃の弧を描き、接近する亀の群れへと襲いかかった。
炎と雷が螺旋状に混じり合い、大蛇のようにうねっていく。
「どうっ!?」
ありすが目をやったのは後方のシルフィアだ。
シルフィアは眼鏡に指を添え、じっと亀たちの様子を観察していた。
義高も目をこらすが、顔をしかめるばかりだ。
「甲羅を被ってるせいで中の動きが全くわからねえ。エネミースキャンに頼るしかねえな……」
「用意してきて正解だったわね」
シルフィアは瞬きをすると、日那乃をレシーバーにして全員にスキャンデータの送心を行なった。
「今の二人の攻撃をもう一度しかけたら倒せる程度ね。防御力が思ったより高いわ。通常攻撃は威力をかなり削られるから注意して」
「自爆攻撃の方はどうだ」
「不完全だわ。夢見の話じゃ付与スキルらしいし、既にアクティブ状態になっているみたいだけど……爆発するところを観察すればあるいは」
「仕方ねえ、やるか!」
義高は斧を虚空から取り出すと、肩に担いで突撃した。
強化効果の重複ルールを考えて自分への付与は蔵王だけにして、まずは手近な一体を狙いにかかる。
「一匹ずつたたきつぶすんじゃあ追いつかねえ。まずはこうだ!」
ゴルフスイングのフォームで亀を攻撃。がきんという音と共に亀が数十センチほど後退した。
「って、重いうえに硬ぇな。思ったより吹っ飛ばねえ」
「傾斜角よ」
シルフィアは自分の胸元を手で撫でつつ言った。
「甲羅の丸みで衝撃を逃がしているの。そうでなくても、ノックバック効果のある攻撃でもない限りは効果的な投げ飛ばしはできないでしょうね。薪割り式に打っていって」
「ホントかよ、面倒くせえ連中だな!」
亀を薪割り式に斧で叩く義高。彼のそばで、誡女が地面に刀を突き立てた。
「ンッ……迷霧を放ちます。後に攻撃をして下さい。その経過をスキャンでの観察を」
「「了解!」」
誡女が霧を派生させ、亀たちに絡みつかせていく。目を光らせるシルフィア。
「対象9割にバステ付与を確認。マーキングしたから比較対象にして。……それにしても、恐ろしくよく当たるわね。回避力が低いのかしら」
誡女が狙ったのは虚弱効果だ。防御全般の低下に加え、攻撃力も低下する。
もし爆発の威力が固定ダメージでなく攻撃力依存だった場合、被害を軽減することができるのだ。
「それじゃあ早速……」
「俺は弱った方を狙う。そっちは頼むぞ」
遥と静護がそれぞれ動き出した。
空気の弾を練って乱射する遥。
ある程度回転をかけて撃ってはいるが、亀の構造上仰角をとりずらい。すくい上げるにも、ゴルフスイングで打ち飛ばそうとした義高同様相当なパワーを要するだろう。それだけのパワーで殴った頃には相手は死んでいるので、現実的な考えではない。
「ひっくり返して足だけ止めようと思ったけど、普通に戦った方が効率的だね」
「そのようだ」
静護は弓に矢をつがえ、勢いよく亀へ発射。
矢は途中で巨大な水の竜となり、亀たちへと襲いかかった。
はじめは通常攻撃で実力を伺おうと考えていた静護だが、シルフィアがスキャンに全力集中したおかげでその手間を省くことができたのだ。
遥の空圧弾と静護の水龍牙。それぞれの攻撃によって甲羅ごと破壊された亀たちはたちまち爆発。
前衛をはっていた義高に巻き込んで地面ごと吹き飛んだ。
吹き飛ばされてくる義高へ即座に潤しの滴をかける日那乃。
シルフィアから送られてきたスキャンデータを拡散送心しつつ呟いた。
「威力、が、明らかに、違う」
「爆発の威力が攻撃力に依存してるのね。それに……」
「爆発する寸前に飛び退こうとしたが間に合わなかった。こりゃどういうことだ」
「効果範囲外、つまり中衛移行へ下がる必要があるけど、それには1ターンを要するわ。仮にその余裕があったとしてもこの数では仲間でブロッキングできないからどのみち逃げ切れなかったでしょうね」
「ほんとに面倒くせえな!」
「下がって」
日那乃が自分の手首を後ろ側へ回すジェスチャーをした。
亀の進行が深くなり、後衛から回復を続けていた日那乃のエリアにまで浸食してきたのだ。
直接攻撃してはこないものの、溜めれば溜めるほど一度のダメージが大きくなる。
そして回復が間に合わないくらいのペースで撃破しなければならなくなったら、その時点で『積み』だ。
できるかぎり防御力の高いメンバーでトドメを差し即座に回復していきたい。
「けど……」
ミュエルはそこまでの計算を指折りでしてから、はたと気づいた。
今のところ回復に集中してくれている日那乃だけでは30ターンもたない。
防衛力の高い今回のメンバーには、『回復役の交代』という普段ではあまりしない戦術が求められているのだ。
「いざとなったら、アタシも……」
亀の群れに、無数に用意した香水入りの小瓶を投げつけていく。
香水の香りにやられた亀たちは次々に力尽き、爆発を始める。
地面ごと吹き飛ぶ感覚をなんとか脚部のローラーでこらえながら、ミュエルはこれからの時間を考えた。
あと四分。
思った以上に、時間は長い。
途中経過について語ろう。
無数にいる敵の体力を個別に細かく判断しながら全体の統率をとり続けるのは、普通なら無理だ。彼らはチェスの駒のごとく棒立ちしていないし、次の手を考えるまで待ってくれるような相手はいない。
必然的に倒せる敵からとにかく倒し、うっかり連続した爆発を引き起こしてしまってそのリカバリーのために数人がかりで回復を行ない、そうしている間に後衛エリアにまで敵が浸透。ポジションチェンジをしている暇はないので攻撃を加え、回復担当がダメージをうける係にシフトしていくというかなりきわまった状況に……。
ならなかった。
全くならなかった。
理由はシルフィアが戦闘そっちのけで全敵性個体のスキャンに集中していたからだ。片手間に行なうスキャンはそれはそれで効果があるが、集中して行なうと当然のように精度も上がる。彼らはシルフィアがスキャンした敵の残存体力と虚弱効果の有無を頼りに、一回の回復で補えるギリギリのラインを実に20ターン近く維持することに成功していた。
シルフィアのデータを受け取って皆に流す係が、回復を主に担当する日那乃だというのも効果的だった。
判断に迷う時でも一瞬早く動けることで、全体回復と単体回復を器用に使い分けることができたからだ。
更には連発したとして10ターンしかもたない潤しの雨も、奏空が途中から填気による気力回復に集中したおかげで連発することができた。
結果。高い回復力を維持したままありすの火柱やミュエルの仇華浸香などの強力な列攻撃スキルでテンポ良く処理することができていた。
ミュエルの仇華浸香も途中で氣力が尽きてくるので深緑鞭による単体攻撃にシフト。虚弱状態の付与は誡女に任せることとした。誡女も合間合間に双刀で攻撃していたが、防御が硬く出血効果の付与だけに留まると知ってからはBS付与に集中している。
またよく観察したことで亀の行動パターンが分かってきた。
『戦闘圏内に入る→自爆準備開始』で1ターン。『敵ブロックを抜けて中~後へ浸透』にもう1ターン。『敵後衛もすり抜けて鉄道へ進行』でもう1ターンという計3ターンで構成されている。
3ターン以上放置するとこちらも敵をせき止めながら徐々に下がることになり、敵総数の増加を招くことになる。
撃破に最適なタイムは一列1~2ターン。それ以上かけると最後の最後でバーストしてしまうということが分かったのだ。
ここで活躍してくるのが遥や義高による単体攻撃である。
列攻撃でテンポ良く倒そうとしても、微妙な個体差や乱数効果によってちらほら残る亀が現われる。
そこへもう一発列攻撃というのはあまりに効率が悪いし、手番も喰う。確実に当てられて確実に撃破できる単体攻撃が、このとき必要になってくるのだ。
義高も遥も、攻撃が必要ないときは味方への防御術式付与や回復にあたることができるので、無駄なく戦線を維持できる。
こうして20ターンを過ぎ、25ターンを過ぎ、ようやく遠くにAAA攻撃部隊の影が見えるまでになってきた。
「もう一息です。ンッ……折角ですから派手に行きましょうか」
一度咳払いをしてから、誡女は改めて迷霧を発動。
亀たちを一気に虚弱状態に落とし込む。
「もう一踏ん張り、頑張ろう!」
遥も地面に手を当て、氷の槍を生成。
亀たちめがけて一気に発射した。無数の亀を貫き、連続した爆発を起こす。
そこへ追い打ちをかけるのが静護たちだ。
「まさかここまで余裕をもって戦えるとはな。長い五分だったが、安心できた」
弓に術式を込めた矢をつがえる静護。
「けどあの妖たち、自分自身を爆弾にするなんて何考えて生まれたのかしら」
指の炎天空に掲げ大きく膨らませるありす。
「ちょっとは分かるよ。痛いのは今だけだ。終わったらもう痛くなくなる。けど妖と俺が違うのは……」
奏空は一度刀をしまって、印を結んで暗雲を発生させた。
「誰かを悲しませたくないっていう理由だ!」
静護の水とありすの炎、更に奏空の雷が天空で混じり合い、驚くほど巨大な竜となって亀たちへと突撃した。
地面を爆砕しながら荒れ狂うエネルギーの渦。
立て続けに亀が爆発を起こすが、日那乃は黙って虚空を撫でた。
回復空間が広がり、爆発にたいしてカウンターヒールをしかけていく。
派手にやり過ぎたので足りない分は出るが、大丈夫だ。
「後は、よろしく……ね」
ミュエルが地面に手をつけ、エネルギーの大樹を生成。残った爆発の威力を無力化するレベルの風圧を発生させた。
最後に一匹だけ残った亀がよたよたと前進しようとするが、義高が頭を押さえて斧を振り上げる。
今度はあえてのゴルフスイング。
「先生さんよ、最後くらいは一発頼むぜ!」
強烈なスイングが亀を襲い、僅かに身体を浮かせる。
「んっ」
そこへ、シルフィアは投げキスをひとつ放った。
甘い空気が弾丸となって飛び、亀を貫通。
きびすを返した義高の背後で爆発四散したのだった。
「たまには、こういう空気も吸っておくものね……なんて」
シルフィアは眼鏡を外し、フレームに髪をからませた。
避難する住民の列車がはるか後方で通り過ぎていくのが見えた。
その後、完璧な装備を調えて到着したAAAの攻撃部隊は交代制で一晩にわたる攻撃と補給を行ない、妖による線路攻撃を阻止した。
『犠牲は、出さずに済みましたね』
撤収するワゴン車の中、合成音声で述べる誡女。
ミュエルが胸をなで下ろして頷いた。
「ちゃんと、守れた……ね」
「でも、この、妖、いままで、どこに、いたん、だろう?」
日那乃が遠ざかる現場を眺めて言った。
「キナ臭ぇよな。なんか裏がありそうだぜ」
「後で周辺を調べてみようか」
義高と奏空が今後のことについて話している。
シルフィアはそんな空気の中、遠くの民家で洗濯物が干されているのを発見した。
あれがあのままならいい。
慌てて帰ってきた住人がホコリまみれの洗濯物を取り込んでげんなりすればいい。
それが日常というものだ。
あれが焼けただれ、瓦礫に埋もれた姿を見るよりずっといい。
同じことを考えていたのだろうか。静護も同じ方向をじっと見つめていた。
「みんな。お疲れ様」
当たり前のように言う遥に、静護は頷く。
ありすも背もたれに身体を預けて、半眼で言った。
「ホットチョコレート、飲みたいわ」
かくして住民の避難は完了。
仮設線路すら維持した状態での、大勝利である。
翼を広げた『月下の白』白枝 遥(CL2000500)は、眼下の光景に目を細めた。
見渡す限り続く妖の列。
やがて来るというAAAの攻撃部隊にかかればこれもしのげるかもしれないが、到着まではまだ、僅かに足りない。
その五分間をしのぎきることが、彼らの役目である。
「絶対に一匹も通さないよ」
決意も新たに降下。着地すると、左右を『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)と『二兎の救い手』明石 ミュエル(CL2000172)が固めていた。
「数は多い自爆はする。しかも正面から止めるしかないとは……さしずめ四枚落ちって所だな。それにしてもあの亀は自分から進んで鉄道を破壊しようってのか? ランク1の知能じゃ無理があるだろ」
「……こないだの、嫌な予感。こういうこと、だったんだね」
頷くミュエル。人類に対する本能的な殺意があるという部分を覗けばランク1の妖は昆虫レベルの判断力しか持たない。いわばこれは蜂の大群が急に特定の人工設備の破壊をもくろむようなもの。ありえない動きだ。
その例えからするなら……。
桂木・日那乃(CL2000941)が虚空を見上げて言った。
「上位、存在……」
鉄道を破壊することで人類にダメージを与えようとするレベルの知能を持った存在が裏に存在することを示唆していた。
「大妖出現の前兆だったりするのかな」
ぽつりと言った『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)に、ミュエルたちは注目した。
気をそぐように合成音声を鳴らす『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)。
『発生原因を考えるのは後にしましょう。まずはこの五分……食い止められるかです』
「……」
強く頷く水蓮寺 静護(CL2000471)。
「失敗した場合の死者があまりに多すぎる。気を引き締めてかかるぞ」
「全部燃やしちゃっていいのよね? 嫌になるけど、仕方ない……!」
指をこすって火花を起こす『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)。
「いくわよ、ゆる」
「あら、ちょっと厳しいくらいが遣り甲斐あるものよ」
『おっぱい天使』シルフィア・カレード(CL2000215)は胸元に下げていた眼鏡を抜くと、片手で装着した。
「有効射程距離に侵入を確認。始めましょ」
●
「的が多くて狙うに困らないわね。一気に行くわ!」
ありすはフィンガースナップをきかせると、指先にともした炎を膨らませた。
右から左へ薙ぎ払うように火を放つ。
「燃えてしまいなさい!」
「続けていくぞ……」
奏空が逆手持ちした双刀を交差させ、間にびりびりと電流を発生させる。
「くらいやがれ!」
交差斬撃。虚空を斬った刀は電撃の弧を描き、接近する亀の群れへと襲いかかった。
炎と雷が螺旋状に混じり合い、大蛇のようにうねっていく。
「どうっ!?」
ありすが目をやったのは後方のシルフィアだ。
シルフィアは眼鏡に指を添え、じっと亀たちの様子を観察していた。
義高も目をこらすが、顔をしかめるばかりだ。
「甲羅を被ってるせいで中の動きが全くわからねえ。エネミースキャンに頼るしかねえな……」
「用意してきて正解だったわね」
シルフィアは瞬きをすると、日那乃をレシーバーにして全員にスキャンデータの送心を行なった。
「今の二人の攻撃をもう一度しかけたら倒せる程度ね。防御力が思ったより高いわ。通常攻撃は威力をかなり削られるから注意して」
「自爆攻撃の方はどうだ」
「不完全だわ。夢見の話じゃ付与スキルらしいし、既にアクティブ状態になっているみたいだけど……爆発するところを観察すればあるいは」
「仕方ねえ、やるか!」
義高は斧を虚空から取り出すと、肩に担いで突撃した。
強化効果の重複ルールを考えて自分への付与は蔵王だけにして、まずは手近な一体を狙いにかかる。
「一匹ずつたたきつぶすんじゃあ追いつかねえ。まずはこうだ!」
ゴルフスイングのフォームで亀を攻撃。がきんという音と共に亀が数十センチほど後退した。
「って、重いうえに硬ぇな。思ったより吹っ飛ばねえ」
「傾斜角よ」
シルフィアは自分の胸元を手で撫でつつ言った。
「甲羅の丸みで衝撃を逃がしているの。そうでなくても、ノックバック効果のある攻撃でもない限りは効果的な投げ飛ばしはできないでしょうね。薪割り式に打っていって」
「ホントかよ、面倒くせえ連中だな!」
亀を薪割り式に斧で叩く義高。彼のそばで、誡女が地面に刀を突き立てた。
「ンッ……迷霧を放ちます。後に攻撃をして下さい。その経過をスキャンでの観察を」
「「了解!」」
誡女が霧を派生させ、亀たちに絡みつかせていく。目を光らせるシルフィア。
「対象9割にバステ付与を確認。マーキングしたから比較対象にして。……それにしても、恐ろしくよく当たるわね。回避力が低いのかしら」
誡女が狙ったのは虚弱効果だ。防御全般の低下に加え、攻撃力も低下する。
もし爆発の威力が固定ダメージでなく攻撃力依存だった場合、被害を軽減することができるのだ。
「それじゃあ早速……」
「俺は弱った方を狙う。そっちは頼むぞ」
遥と静護がそれぞれ動き出した。
空気の弾を練って乱射する遥。
ある程度回転をかけて撃ってはいるが、亀の構造上仰角をとりずらい。すくい上げるにも、ゴルフスイングで打ち飛ばそうとした義高同様相当なパワーを要するだろう。それだけのパワーで殴った頃には相手は死んでいるので、現実的な考えではない。
「ひっくり返して足だけ止めようと思ったけど、普通に戦った方が効率的だね」
「そのようだ」
静護は弓に矢をつがえ、勢いよく亀へ発射。
矢は途中で巨大な水の竜となり、亀たちへと襲いかかった。
はじめは通常攻撃で実力を伺おうと考えていた静護だが、シルフィアがスキャンに全力集中したおかげでその手間を省くことができたのだ。
遥の空圧弾と静護の水龍牙。それぞれの攻撃によって甲羅ごと破壊された亀たちはたちまち爆発。
前衛をはっていた義高に巻き込んで地面ごと吹き飛んだ。
吹き飛ばされてくる義高へ即座に潤しの滴をかける日那乃。
シルフィアから送られてきたスキャンデータを拡散送心しつつ呟いた。
「威力、が、明らかに、違う」
「爆発の威力が攻撃力に依存してるのね。それに……」
「爆発する寸前に飛び退こうとしたが間に合わなかった。こりゃどういうことだ」
「効果範囲外、つまり中衛移行へ下がる必要があるけど、それには1ターンを要するわ。仮にその余裕があったとしてもこの数では仲間でブロッキングできないからどのみち逃げ切れなかったでしょうね」
「ほんとに面倒くせえな!」
「下がって」
日那乃が自分の手首を後ろ側へ回すジェスチャーをした。
亀の進行が深くなり、後衛から回復を続けていた日那乃のエリアにまで浸食してきたのだ。
直接攻撃してはこないものの、溜めれば溜めるほど一度のダメージが大きくなる。
そして回復が間に合わないくらいのペースで撃破しなければならなくなったら、その時点で『積み』だ。
できるかぎり防御力の高いメンバーでトドメを差し即座に回復していきたい。
「けど……」
ミュエルはそこまでの計算を指折りでしてから、はたと気づいた。
今のところ回復に集中してくれている日那乃だけでは30ターンもたない。
防衛力の高い今回のメンバーには、『回復役の交代』という普段ではあまりしない戦術が求められているのだ。
「いざとなったら、アタシも……」
亀の群れに、無数に用意した香水入りの小瓶を投げつけていく。
香水の香りにやられた亀たちは次々に力尽き、爆発を始める。
地面ごと吹き飛ぶ感覚をなんとか脚部のローラーでこらえながら、ミュエルはこれからの時間を考えた。
あと四分。
思った以上に、時間は長い。
途中経過について語ろう。
無数にいる敵の体力を個別に細かく判断しながら全体の統率をとり続けるのは、普通なら無理だ。彼らはチェスの駒のごとく棒立ちしていないし、次の手を考えるまで待ってくれるような相手はいない。
必然的に倒せる敵からとにかく倒し、うっかり連続した爆発を引き起こしてしまってそのリカバリーのために数人がかりで回復を行ない、そうしている間に後衛エリアにまで敵が浸透。ポジションチェンジをしている暇はないので攻撃を加え、回復担当がダメージをうける係にシフトしていくというかなりきわまった状況に……。
ならなかった。
全くならなかった。
理由はシルフィアが戦闘そっちのけで全敵性個体のスキャンに集中していたからだ。片手間に行なうスキャンはそれはそれで効果があるが、集中して行なうと当然のように精度も上がる。彼らはシルフィアがスキャンした敵の残存体力と虚弱効果の有無を頼りに、一回の回復で補えるギリギリのラインを実に20ターン近く維持することに成功していた。
シルフィアのデータを受け取って皆に流す係が、回復を主に担当する日那乃だというのも効果的だった。
判断に迷う時でも一瞬早く動けることで、全体回復と単体回復を器用に使い分けることができたからだ。
更には連発したとして10ターンしかもたない潤しの雨も、奏空が途中から填気による気力回復に集中したおかげで連発することができた。
結果。高い回復力を維持したままありすの火柱やミュエルの仇華浸香などの強力な列攻撃スキルでテンポ良く処理することができていた。
ミュエルの仇華浸香も途中で氣力が尽きてくるので深緑鞭による単体攻撃にシフト。虚弱状態の付与は誡女に任せることとした。誡女も合間合間に双刀で攻撃していたが、防御が硬く出血効果の付与だけに留まると知ってからはBS付与に集中している。
またよく観察したことで亀の行動パターンが分かってきた。
『戦闘圏内に入る→自爆準備開始』で1ターン。『敵ブロックを抜けて中~後へ浸透』にもう1ターン。『敵後衛もすり抜けて鉄道へ進行』でもう1ターンという計3ターンで構成されている。
3ターン以上放置するとこちらも敵をせき止めながら徐々に下がることになり、敵総数の増加を招くことになる。
撃破に最適なタイムは一列1~2ターン。それ以上かけると最後の最後でバーストしてしまうということが分かったのだ。
ここで活躍してくるのが遥や義高による単体攻撃である。
列攻撃でテンポ良く倒そうとしても、微妙な個体差や乱数効果によってちらほら残る亀が現われる。
そこへもう一発列攻撃というのはあまりに効率が悪いし、手番も喰う。確実に当てられて確実に撃破できる単体攻撃が、このとき必要になってくるのだ。
義高も遥も、攻撃が必要ないときは味方への防御術式付与や回復にあたることができるので、無駄なく戦線を維持できる。
こうして20ターンを過ぎ、25ターンを過ぎ、ようやく遠くにAAA攻撃部隊の影が見えるまでになってきた。
「もう一息です。ンッ……折角ですから派手に行きましょうか」
一度咳払いをしてから、誡女は改めて迷霧を発動。
亀たちを一気に虚弱状態に落とし込む。
「もう一踏ん張り、頑張ろう!」
遥も地面に手を当て、氷の槍を生成。
亀たちめがけて一気に発射した。無数の亀を貫き、連続した爆発を起こす。
そこへ追い打ちをかけるのが静護たちだ。
「まさかここまで余裕をもって戦えるとはな。長い五分だったが、安心できた」
弓に術式を込めた矢をつがえる静護。
「けどあの妖たち、自分自身を爆弾にするなんて何考えて生まれたのかしら」
指の炎天空に掲げ大きく膨らませるありす。
「ちょっとは分かるよ。痛いのは今だけだ。終わったらもう痛くなくなる。けど妖と俺が違うのは……」
奏空は一度刀をしまって、印を結んで暗雲を発生させた。
「誰かを悲しませたくないっていう理由だ!」
静護の水とありすの炎、更に奏空の雷が天空で混じり合い、驚くほど巨大な竜となって亀たちへと突撃した。
地面を爆砕しながら荒れ狂うエネルギーの渦。
立て続けに亀が爆発を起こすが、日那乃は黙って虚空を撫でた。
回復空間が広がり、爆発にたいしてカウンターヒールをしかけていく。
派手にやり過ぎたので足りない分は出るが、大丈夫だ。
「後は、よろしく……ね」
ミュエルが地面に手をつけ、エネルギーの大樹を生成。残った爆発の威力を無力化するレベルの風圧を発生させた。
最後に一匹だけ残った亀がよたよたと前進しようとするが、義高が頭を押さえて斧を振り上げる。
今度はあえてのゴルフスイング。
「先生さんよ、最後くらいは一発頼むぜ!」
強烈なスイングが亀を襲い、僅かに身体を浮かせる。
「んっ」
そこへ、シルフィアは投げキスをひとつ放った。
甘い空気が弾丸となって飛び、亀を貫通。
きびすを返した義高の背後で爆発四散したのだった。
「たまには、こういう空気も吸っておくものね……なんて」
シルフィアは眼鏡を外し、フレームに髪をからませた。
避難する住民の列車がはるか後方で通り過ぎていくのが見えた。
その後、完璧な装備を調えて到着したAAAの攻撃部隊は交代制で一晩にわたる攻撃と補給を行ない、妖による線路攻撃を阻止した。
『犠牲は、出さずに済みましたね』
撤収するワゴン車の中、合成音声で述べる誡女。
ミュエルが胸をなで下ろして頷いた。
「ちゃんと、守れた……ね」
「でも、この、妖、いままで、どこに、いたん、だろう?」
日那乃が遠ざかる現場を眺めて言った。
「キナ臭ぇよな。なんか裏がありそうだぜ」
「後で周辺を調べてみようか」
義高と奏空が今後のことについて話している。
シルフィアはそんな空気の中、遠くの民家で洗濯物が干されているのを発見した。
あれがあのままならいい。
慌てて帰ってきた住人がホコリまみれの洗濯物を取り込んでげんなりすればいい。
それが日常というものだ。
あれが焼けただれ、瓦礫に埋もれた姿を見るよりずっといい。
同じことを考えていたのだろうか。静護も同じ方向をじっと見つめていた。
「みんな。お疲れ様」
当たり前のように言う遥に、静護は頷く。
ありすも背もたれに身体を預けて、半眼で言った。
「ホットチョコレート、飲みたいわ」
かくして住民の避難は完了。
仮設線路すら維持した状態での、大勝利である。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
