植物がえろく血を吸う五月の日
●山の古妖
樹木子。
多くの戦死者が発生した場所に生えた木が古妖化したもので、通りすがった人を襲いその血を吸うモノだ。
枝を伸ばして獲物を捕らえ、枝から血を吸う。抵抗する得物を大人しくさせるために四肢を捕らえ、体中に麻痺毒を練り込むという。
「いゃ、んっ、ひっ……ううん!」
山歩きで通りかかった乙女が枝に絡まられて、上ずった声をあげる。そしてそのまま彼女は古妖の餌食となってしまう。
だがこれはまだ起きていない未来。その前に古妖の前に趣退治することで塞ぐことのできる未来――
●FiVE
「つまりそういう事なんだ!」
興奮した久方 相馬(nCL2000004)は机をバン、と叩く。説明された覚者はドンびいていた。えー、これってあれだよね、しょくs――
「相手は樹木の古妖。数は三体。遠くに居ても枝を伸ばして捕らえてくるから気を付けてくれ。当然だが、老若男女関係なく枝葉は迫ってくるから」
「あ、はい」
何処に逃げても無駄なんですね。わかりました。
「人を襲う古妖。これを放置すれば一般人が犠牲になる。そうなる前に皆でなんとか倒してくれ! ああ、俺は力のない夢見! みんなに伝えるだけが精いっぱいだ。俺が手伝えたらなぁ!」
自分の無力に嘆く相馬。でもこれはあれだよね。自分は犠牲にならなくてよかったって顔だよね。
しかし相馬の言うことは事実である。このまま古妖に血を吸われてしまう犠牲者を、自己の都合で見過ごすわけにはいかない。
「ま、そんなわけでよろしく!」
元気よく覚者を送り出す相馬。全てを諦め、覚者達は現場に向かった。
樹木子。
多くの戦死者が発生した場所に生えた木が古妖化したもので、通りすがった人を襲いその血を吸うモノだ。
枝を伸ばして獲物を捕らえ、枝から血を吸う。抵抗する得物を大人しくさせるために四肢を捕らえ、体中に麻痺毒を練り込むという。
「いゃ、んっ、ひっ……ううん!」
山歩きで通りかかった乙女が枝に絡まられて、上ずった声をあげる。そしてそのまま彼女は古妖の餌食となってしまう。
だがこれはまだ起きていない未来。その前に古妖の前に趣退治することで塞ぐことのできる未来――
●FiVE
「つまりそういう事なんだ!」
興奮した久方 相馬(nCL2000004)は机をバン、と叩く。説明された覚者はドンびいていた。えー、これってあれだよね、しょくs――
「相手は樹木の古妖。数は三体。遠くに居ても枝を伸ばして捕らえてくるから気を付けてくれ。当然だが、老若男女関係なく枝葉は迫ってくるから」
「あ、はい」
何処に逃げても無駄なんですね。わかりました。
「人を襲う古妖。これを放置すれば一般人が犠牲になる。そうなる前に皆でなんとか倒してくれ! ああ、俺は力のない夢見! みんなに伝えるだけが精いっぱいだ。俺が手伝えたらなぁ!」
自分の無力に嘆く相馬。でもこれはあれだよね。自分は犠牲にならなくてよかったって顔だよね。
しかし相馬の言うことは事実である。このまま古妖に血を吸われてしまう犠牲者を、自己の都合で見過ごすわけにはいかない。
「ま、そんなわけでよろしく!」
元気よく覚者を送り出す相馬。全てを諦め、覚者達は現場に向かった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.古妖三体の討伐
2.しょくs……樹木子なんかにまけないっ
3.堕ちたりしない
2.しょくs……樹木子なんかにまけないっ
3.堕ちたりしない
まああれです。そういう依頼です。肩を抜いていきましょう。
●敵情報
樹木子(×3)
樹木型の古妖です。高さ6mぐらいの樹木で、木の幹に当たる部分に顔のような模様があります。会話などは可能ですが、説得は不可能です。
樹木と言っていますが、根を張っているわけではないので移動してきます。特定の攻撃(炎など)に弱いという事はありません。スペック的には難易度相応の古妖です。
攻撃方法
枝を伸ばす 物遠全 枝葉を伸ばし、動きを封じてきます。〔ダメージ0〕〔鈍化〕
血花の香り 特遠単 痺れるような花粉を飛ばしてきます。〔麻痺〕
吸血の枝葉 特遠列 犠牲者の血を吸い、体力を回復します。〔HP吸50〕
幹にある口 物近単 幹にある口のような穴に犠牲者を放り込み、丸呑みにします。
……まあ、いろいろ書いていますが基本はお察しの通りえちぃ依頼です。攻撃方法は雰囲気程度にお願いします。
なお、参加者全員が十二歳以下だった場合、紳士協定に従って通常の戦闘依頼となります。
●場所情報
山中にあるハイキングコースの休憩所。近くの林の中から樹木子はやってきます。
時刻は昼。地理条件が戦闘に不利になることはありません。OPで出てきた女性は、戦闘終了後ぐらいい現れますので、基本的に人払いは不要と思ってください。
戦闘開始時、樹木子三体が前衛に固まっている状態です。覚者との距離は十メートルほど。事前付与は一度だけ可能とします。
●備考
EXプレイング等に【覚悟完了】と書かれた方は容赦なく(全年齢の範囲内で)枝葉を伸ばさせて(暗喩)もらいます。逆に書かれていない方には、それなりに対応します。
依頼に参加した時点である程度の覚悟済みとは思いますが、どうしても避けてほしいことがある方はプレイング(EXでも可)に明記してください。考慮いたします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年05月23日
2016年05月23日
■メイン参加者 8人■

●
「樹木子……! 近年の創作って説もあったけど……ジツザイしたのね! ステキ!」
未知との遭遇にはしゃぐ『デブリフロウズ』那須川・夏実(CL2000197)。夢見から聞いた話を聞き、喜び勇んで参加した御年十才の少女である。樹木子との遭遇を前に、純粋な瞳がキラキラ輝いていた。
「植物が血を啜るって意外とよくある話よね~」
どこか嬉しそうにエルフィリア・ハイランド(CL2000613)は歩を進める。血液は生物学的に見ても栄養価が高く、それを吸う動植物は多い。さてさて今回の相手はどういった相手なのか。夢見の話を思い出しながら、笑みを浮かべる。
「食人植物とはまた穏やかじゃないものが出てきたものね」
困った顔をする春野 桜(CL2000257)。古妖の人に対する態度は様々である。実際に人を食う古妖も、珍しくはあるが皆無ではない。そう言った古妖に鉄槌を下すのも覚者の役目。山道を進みながら、古妖とどう戦うかに思いをはせる。
「人に悪さをする古妖、正義の祓魔師として見過ごす訳にはいかない!」
「人の夜の安寧のため、やらせて貰います」
「いくよ、かがり姉! ボクら姉妹が皆を護るんだ!」
「王城鎮護、南無八幡! 枯れ木のオバケなんかに……ぜったい、負けたりせえへん!」
と、戦う前から気合十分な『インヤンガールのインの方』葛葉・かがり(CL2000737)と『インヤンガールのヤンの方』葛葉・あかり(CL2000714)である。京都で古くから続く女系一族の二人。人に仇名す古妖は捨て置けぬと、戦いに対する意気込みは十分である。……若干あかりのほうがかがりの方を見て嬉しそうな顔をしていた。
「またなんだか嫌な予感しかしない仕事です……ね」
「大丈夫よ。おねえちゃんが守るから!」
そこはかとなく嫌な予感を感じている『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)と、それを励ます『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)。中学生同士のように見えるが、御菓子の方が十歳ほど年上なのだ。年長者として自信を無くす妹を励まそうと言葉をつづける御菓子。結鹿も姉の事を信用していないわけではないのだが、不安はぬぐえない。
「七星剣とか、新人類教会とか……そういうものに、立ち向かう勇気……アタシにはない、から……」
だからこういう事件は頑張る、と『二兎の救い手』明石 ミュエル(CL2000172)は気合を入れる。再度、気合を入れる。気合を入れ続ける。そうでもしないと、戦う前から心が折れてしまいそうだから。
八人の覚者は夢見が予知した場所に到着する。暫くすると、林の中から現れる古妖。木の幹に人の貌ような穴をあけ、枝を伸ばして迫ってくる。
樹木子。
それは覚者達の姿を認めたのか、ゆっくりと近づいてくる。言葉なく襲い掛かってくる樹木子。
勿論、黙ってやられる覚者ではない。神具を構え、古妖に立ち向かう。
●
「ところでかがり姉! FiVE神具班に特注して作らせた退魔スーツがあるんだ。おねえちゃんにも用意いておいたよ!」
「ええけど、いつのまにそんな……えー!? なんやこれ!?」
あかりが用意してたのは、白基調のぴちぴちボディスーツであった。姉妹であることもあり、サイズもピッタリである。
「う……あかりちゃん特注の衣装、めっちゃピチパツやん……。動き難いし、しめつけるー……ぎゃん!?」
繰り返すが、サイズはピッタリである。体のラインに沿って歪曲するスーツは、正に第二の肌と言わんばかりにかがりの体に張り付いている。あかりも同じ格好の為、不満は言えないでいた。
「ね、ねえあかり、アナタ達のその服……ええと、何て言うかその、ちょっとはしたな……あっ、ううん、なんでもないの……」
夏実はどこか控えめに意見しようとして、口をつぐんだ。陰陽道にもいろいろあるんだろう。
そんな一幕もありましたが、ともあれ戦闘開始である。
桜、ミュエル、結鹿を前衛に構え、中衛にエルフィリアとあかりが、後衛に御菓子と夏実とかがりを敷く正道的な戦闘陣形だ。前衛が古妖を止めながら攻撃し、中衛がバッドステータスを縁巻きながら攻撃し、後衛が回復に努める。
このまま勝てる。乙女達は確信したその時!
「きゃあ!」
「枝が足に絡まって!」
そんな感じで樹木子に捕まってしまう覚者達であった。
「ひゃあああああ!」
枝に足が絡まり、何とか逃れようとする結鹿。だが基本的な力は古妖の方が強いらしく、暴れても逃れられる様子はない。そして枝が結鹿の太もも付近に迫っていた時に足を動かし、スカートに枝が引っ掛かってしまう。そのまま暴れたため、あられのない姿をさらしてしまう。
「…………っ!」
そんな自分の姿に気づいたのか、顔を赤らめる結鹿。だが触s……枝の動きは止まらない。その恰好のまま全身を細い枝がなぞるように這いずり回る。そのたびに未成熟の体は震えるように反応してしまう。それが何を意味するかを自覚し、そんな自分を首を振って否定する。
「いやぁ……おねえちゃん、助けて……」
「わたしの可愛い妹を辱めるなんて……!」
弱々しく声をあげる結鹿を見て怒りがこみ上げる御菓子。しかし御菓子自身も捕まり、麻痺成分を含んだ花粉を嗅がされているため、身動き一つとれない。自分の大事な妹が古妖にいい様にされているというのに、助けるどころか指一つ動かすことができないのだ。怒りで血が上る御菓子だが、そんな彼女にも枝葉が伸びる。
「……っ、……っ」
悲鳴を上げる結鹿とは対象に、必死に声を押さえる御菓子。それは年長者としての矜持か、それとも愛する妹への気遣いか。だが状況は変わらず、愛する妹は目の前で古妖に弄ばれ続ける。それを見る事しかできない自分が歯がゆく、そして同じように体を触られる感覚だけが敏感に感じられるのだ。
「いい加減に……っ、し、ないと……、ぁ……」
「……これは……」
桜は樹木子に触られながら、昔の出来事を思い出していた。昔『奪われた』あの出来事を。その時に比べればマシとはいえ、樹木子が体を這いずり回るたびに、あの感覚が蘇ってくる。過去と、今。二重の責めに桜は必至に耐えていた。
(気持ちさえ強く持てば流される事も――、っ!)
首筋に突き刺さる枝。それが血を吸い上げるたびに、桜は激しく体を震わせていた。近くで見ている守護使役の『斎藤さん』を意識する。見守ってくれる恋人を。ちがう、これは生理現象だから、ああ、でもあなたには嘘がつけない、だけど信じて、私は貴方だけで斎藤さんが最高だから、でもこのままだと、おちる、いやだ、ゆるしてゆるしてゆるして。
「許してごめんなさいなんでもするから許してごめんなさい」
「思ってたのと……全然、違う……。もっと、苦しくて、痛いのかなって……予想してた、けど……」
体中を木々に絡まれて、脱力するミュエル。身体を固くしても感覚は残っているのか、探るように足を這いあがってくる枝の感覚を強く感じ取っていた。ふくらはぎから膝に、そして太ももに……嫌悪感を感じながら何もできずにいるミュエル。湧き上がる感覚の正体に気づきながら、必死に否定する。
「ち、力、入らないのは……麻痺毒のせい、だもん……!」
首を振り、必死に体を動かそうとするミュエル。だが枝が動くたび、血を吸われるたび、その動きは少しずつ緩慢になり、そして小さくなっていく。そして悶えるように激しく震える自分に気づく。自分自身の体が、自分で制御できない。そのまま流されそうになる自分に気づき、しかし逃れる術はなかった。
「こんなの……耐え、んっ……、る……堕ち、たりなんか、ぁ……しない……」
「ふふ、眼福だわ……」
エルフィリアは味方の覚者が乱れる様子を見て、静かに笑みを浮かべていた。戦いの流れとしては劣勢だが、この光景自体は素晴らしいものだ。しっかり見て、聞き、記憶の中に留めておこう。そんなエルフィリアにも迫る樹木子の枝葉。それに絡まれても、むしろ歓迎するように体を任せていた。
「あらあら、そっち系で楽しませてくれるの? それなら思う存分楽しんじゃうわよ」
人の手とは違う樹木の感覚が肌から伝わってくる。硬く鋭く、そして力を奪う香。花の香りに脱力している隙に突き刺さる枝。痛みはすぐに別の感覚に変わり、痺れるような震えが体を包む。そこから血を吸われるたびに、脱力感に似た感覚がエルフィリアの体を震わせる。人の手では無しえない未知の感覚。
「いいわ。これだけじゃないでしょう。もっと楽しませてち・ょ・う・だ・い」
「うわーっ。ふふ、これは作戦。肉薄して本体を滅する……骨を断つ的な何か!」
枝につかまったあかりは逆さづりにされながら、強気に言い放つ。手にしていたサーベルは地面に落ち、抵抗する術を失ってしまう。無手の状態であかりが行える行動は多くはない。だが、これも作戦通りとばかりに笑みを浮かべるあかり。そう、あかりは間違いなくこの結果を望んでいた。体を震わせながら、あかりの方を見る。
「これはマズ、助けておねえちゃ……ああっ。おねえちゃん、こっちに来て……はやくぅ……!」
枝葉がくすぐるようにあかりの体に触れる。柔らかい葉で敏感な個所をくすぐられるようにされれば、自信満々のあかりの表情も少しずつ惚けてくる。最初は苦痛に満ちた声だっがが、少しずつ艶の混じった吐息が混じりだす。枝が体の中に潜り込むたびにその声は大きくなる。それが演技ではないことは明白だ。
「あかりちゃん、今助けるからな!」
あかりの姉であるかがりは、その声に弾けるように駆けだす。大事な妹が古妖に捕まり、いいように扱われている。その事実に冷静でいられるかがりではなかった。妹を救いたいという強い思いは、しかし迫る枝葉により遮られる。焦りがあったのか、枝葉が四肢に絡まり宙に持ち上げられてしまう。
「うう、ぬるぬるする……めっちゃ恥ずかしい……」
身体を探るように進む枝。腕から方、そしてわき腹を進む細い枝の感覚。それは確実にかがりの体を刺激していく。逃れようにも動くことができず、ただ妹の視界内でいい様に弄られる。そんな自分が不甲斐なく、そして枝葉に反応してしまう自分が情けなくなる。だけど体はそんな自分を裏切るように、枝葉の動きに反応していく。
「なっちゃん、見たらあかん……いやや、見んといて」
「……? え? あれ……?」
唯一難を逃れた(拘束はされているけど)夏実は、仲間の覚者が樹木子に捕らわれて行われていることに戸惑っていた。っていうか樹木子ってこんな古妖だっけ? 確かに人間の血を吸っている。医学知識でそれはわかる。あとは蚊のように突き刺した瞬間に何か薬品みたいなのを入れて、痛みを緩和してるのもわかる。だけど、その。
「……なに、これ。キモチ悪い」
ドン引く夏実。卓越した視力と医療知識があるからこそ理解できる。覚者のバイタルは決して血を吸われて脱力しているのではなく、むしろアドレナリン分泌による興奮状態。血流が増加して顔が赤く染まり、興奮による吐息が荒々しい。何よりも熱にうなされたようにあげる声は、拒絶ではなくむしろ……。
「ヒドいヒドい多角的にヒドい! ふ、フケツだわ!?サイテー!」
十歳の少女が見たら色々トラウマな光景である。
覚者達も自らの状況は理解できるが、しかし古妖の力には逆らえない。そしてどうあっても体は反応してしまうのである。
山の中、古妖と覚者の接触(意味深)は続く。
●
「あかりちゃん、だめ、このままやと……ひゃん!」
かがりは大事な妹を助けようと何とか指だけを伸ばすが、到底届くものっではない。指はむなしく空を切り、その指すら枝に絡まれて動けなくなる。そのまま樹木子に引っ張られるように明かりから放されて、その目が絶望に染まっていく。
(ふふふふ。おねえちゃんのはしたないすがたとか泣き出しそうな顔がえろくて……!)
あかりはと言うと、そんなかがりの姿を見て背筋を震わせていた。古妖に体をまさぐられて、あられのない姿を晒す。そんな状況でも諦めず、しかし現実に絶望する顔。そんな姉の姿を見て悦ぶ(誤字にあらず)のは、姉への愛ゆえか。
「あら、全身を圧迫されるように、んん、せめられるのも、っ、いいかも」
樹木子の口の中に放りこまれたエルフィリアは、舌のような器官で包み込まれるようにされていた。枝葉が細く的確な線の責めならば、こちらは広く力強い面での責め。視界を奪われ上下すらわらかぬ状態のまままま、全方位から襲い掛かってくるぬめぬめした感覚。
「ぁ……。わたしがささえなきゃ、ん、いけないのに……っ!」
御菓子は古妖に為すがままにされる自分に、不甲斐なさを感じていた。幼い見た目ながら、その服の下は弾力のある胸を持つ御菓子。枝が体の中を動くたびにその胸が揺れる。極力声を押さえようと必死にこらえるが、こらえきれない分が少しずつ漏れてくる。
「いやだぁ……そこは、ぁぁ、いやだよぉ……」
樹木子が蠢くたびに、泣きじゃくる結鹿。古妖が枝を動かすたびに自分の意志に反して震えてしまう。麻痺して動くことができないのに、枝が体中をまさぐっている感覚だけが敏感に感じ取れてしまう。乙女の領域まであと3センチ、2センチ、1センチ……。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
古妖の動きにより体の中で湧き上がる熱。その熱に翻弄されながら、桜は今は亡き恋人に謝っていた。この熱の正体を知っている。この熱の意味を知っている。あの人以外ではこの熱を感じてはいけないのに。なのに熱は桜の中で湧き上がり、体を震わせていく。
「気に、しな、ぁ……い……こんなの……たいしたこと、ぅ……ない……」
樹木子に血を吸われるたびに、体をびくんと振るわせるミュエル。湧き上がる感覚はミュエルの心を溶かすよう。必死に抗うが、いつまで持つのだろうか。このまま樹木子に責められ続ければ、心はいつか溶けてしまう。そうなれば自分はどうなるのか……。
「確かに大腿採血って太くて採血しやすいけど……!」
夏実は樹木子が太ももに枝を刺して血を吸うのを見て、必死に医学知識で平静を保とうとしていた。仲間の太ももに絡みつき、動かぬように押さえ込んで血を吸う樹木子の姿。それは合理的なのだ。けしていやらしいわけではない。無いんだけど……その……。
「だめぇ、なのぉ、こんなの、知ったら!」
「好きな人が、ふぁ、いるのに……どうして……あぁ!」
「見ないで……お願い……見ないでぇ……!」
樹木子の動きに必死に抗う覚者達。心は悪辣な古妖の動きに抗いながら、しかし身体はそれを裏切ってしまう。そして――
●
なんやかんやあって樹木子から逃れた覚者達は、そのままの勢いで三体の樹木子を倒したのであった!
なんやかんやはなんやかんやです。
●
戦い終わり――
「こんなの樹木子じゃない。ウソよ……ウソ、ゼッタイウソだもん……」
まだ幼い夏実は伝承と現実の違いを見せつけられて、ショックを受けていた。ショックを受けたのは、どちらかと言うと捕らわれていた仲間の行動と言動だった気もするけど。三角座りをしてぶつぶつと自分の殻にこもっていた。
「なっちゃん……かわいそうに、怖かったな……」
そんな夏実を案ずるかがり。子供の心に傷を残してしまったことを恥じ、慰める。これで夏実の心の傷が消えるとは思えないが、それが少しでも緩和されれば……。
(危うく負けそうだった、ほぼ負けてた、いやボク的には大勝利だった)
あかりは樹木子との戦いを思い出しながら、拳を握っていた。そして草むらに隠してあるカメラの方を見る。網膜に焼きつけた姉の姿。それと同じものが写っているはずだ。後で回収しておかなくては。
「うん……もう大丈夫、だから……」
ミュエルもショックを受けているこのフォローに回っていた。今日の事は忘れよう。自分にも言い聞かせるように、そう言って優しく頭を撫でる。惨劇はもう終わったのだ。血を吸う古妖はもういない。
「もう、こんなお仕事いやです……」
座り込んで泣き出す結鹿。樹木子に触られた部分を自分でなぞりながら、傷の有無を確かめる。幸いにして身体に大きな怪我はなかったが、精神は大きく傷ついた。忘れようと心に誓うが、残念なことに報告書(リプレイ)は残るのである。
「木屑の一片すら残しませんよ、ええ」
倒れた樹木子に怒りの表情で迫る御菓子。殺意迸る瞳に慈悲はなく、古妖にこれから訪れる厄災を逃れる術はない。水の力を手のひらに集め、御菓子はゆっくりと古妖に近づいていく。妹を辱めた恨みが、いま炸裂する。
「あの時と同じ轍を踏まないように殺しましょうあははははは死ね」
同じく怒りのままに神具を振るう桜。殺意迸る瞳に慈悲はなく……いつもと同じのような気もするが、ともかく。斧を振りかぶり、笑いながら古妖に振り下ろす。激しい破壊音と桜の笑い声が山中に響き渡る。
「今回も楽しんだ楽しんだ。こういうのがもっと増えても良いのにな~」
妙につやつやした表情で、エルフィリアが伸びをする。楽しければそれでよし。そんなエルフィリアからすれば、今回の依頼は十分楽しめてよかったと言えよう。最後の願望がかなうか否かは、誰にもわからない。
帰り際、一人の女子とすれ違う。予知で襲われるはずの子だ。
最悪の悲劇は回避した。それを胸に覚者達は山を下りるのであった。
「樹木子……! 近年の創作って説もあったけど……ジツザイしたのね! ステキ!」
未知との遭遇にはしゃぐ『デブリフロウズ』那須川・夏実(CL2000197)。夢見から聞いた話を聞き、喜び勇んで参加した御年十才の少女である。樹木子との遭遇を前に、純粋な瞳がキラキラ輝いていた。
「植物が血を啜るって意外とよくある話よね~」
どこか嬉しそうにエルフィリア・ハイランド(CL2000613)は歩を進める。血液は生物学的に見ても栄養価が高く、それを吸う動植物は多い。さてさて今回の相手はどういった相手なのか。夢見の話を思い出しながら、笑みを浮かべる。
「食人植物とはまた穏やかじゃないものが出てきたものね」
困った顔をする春野 桜(CL2000257)。古妖の人に対する態度は様々である。実際に人を食う古妖も、珍しくはあるが皆無ではない。そう言った古妖に鉄槌を下すのも覚者の役目。山道を進みながら、古妖とどう戦うかに思いをはせる。
「人に悪さをする古妖、正義の祓魔師として見過ごす訳にはいかない!」
「人の夜の安寧のため、やらせて貰います」
「いくよ、かがり姉! ボクら姉妹が皆を護るんだ!」
「王城鎮護、南無八幡! 枯れ木のオバケなんかに……ぜったい、負けたりせえへん!」
と、戦う前から気合十分な『インヤンガールのインの方』葛葉・かがり(CL2000737)と『インヤンガールのヤンの方』葛葉・あかり(CL2000714)である。京都で古くから続く女系一族の二人。人に仇名す古妖は捨て置けぬと、戦いに対する意気込みは十分である。……若干あかりのほうがかがりの方を見て嬉しそうな顔をしていた。
「またなんだか嫌な予感しかしない仕事です……ね」
「大丈夫よ。おねえちゃんが守るから!」
そこはかとなく嫌な予感を感じている『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)と、それを励ます『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)。中学生同士のように見えるが、御菓子の方が十歳ほど年上なのだ。年長者として自信を無くす妹を励まそうと言葉をつづける御菓子。結鹿も姉の事を信用していないわけではないのだが、不安はぬぐえない。
「七星剣とか、新人類教会とか……そういうものに、立ち向かう勇気……アタシにはない、から……」
だからこういう事件は頑張る、と『二兎の救い手』明石 ミュエル(CL2000172)は気合を入れる。再度、気合を入れる。気合を入れ続ける。そうでもしないと、戦う前から心が折れてしまいそうだから。
八人の覚者は夢見が予知した場所に到着する。暫くすると、林の中から現れる古妖。木の幹に人の貌ような穴をあけ、枝を伸ばして迫ってくる。
樹木子。
それは覚者達の姿を認めたのか、ゆっくりと近づいてくる。言葉なく襲い掛かってくる樹木子。
勿論、黙ってやられる覚者ではない。神具を構え、古妖に立ち向かう。
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「ところでかがり姉! FiVE神具班に特注して作らせた退魔スーツがあるんだ。おねえちゃんにも用意いておいたよ!」
「ええけど、いつのまにそんな……えー!? なんやこれ!?」
あかりが用意してたのは、白基調のぴちぴちボディスーツであった。姉妹であることもあり、サイズもピッタリである。
「う……あかりちゃん特注の衣装、めっちゃピチパツやん……。動き難いし、しめつけるー……ぎゃん!?」
繰り返すが、サイズはピッタリである。体のラインに沿って歪曲するスーツは、正に第二の肌と言わんばかりにかがりの体に張り付いている。あかりも同じ格好の為、不満は言えないでいた。
「ね、ねえあかり、アナタ達のその服……ええと、何て言うかその、ちょっとはしたな……あっ、ううん、なんでもないの……」
夏実はどこか控えめに意見しようとして、口をつぐんだ。陰陽道にもいろいろあるんだろう。
そんな一幕もありましたが、ともあれ戦闘開始である。
桜、ミュエル、結鹿を前衛に構え、中衛にエルフィリアとあかりが、後衛に御菓子と夏実とかがりを敷く正道的な戦闘陣形だ。前衛が古妖を止めながら攻撃し、中衛がバッドステータスを縁巻きながら攻撃し、後衛が回復に努める。
このまま勝てる。乙女達は確信したその時!
「きゃあ!」
「枝が足に絡まって!」
そんな感じで樹木子に捕まってしまう覚者達であった。
「ひゃあああああ!」
枝に足が絡まり、何とか逃れようとする結鹿。だが基本的な力は古妖の方が強いらしく、暴れても逃れられる様子はない。そして枝が結鹿の太もも付近に迫っていた時に足を動かし、スカートに枝が引っ掛かってしまう。そのまま暴れたため、あられのない姿をさらしてしまう。
「…………っ!」
そんな自分の姿に気づいたのか、顔を赤らめる結鹿。だが触s……枝の動きは止まらない。その恰好のまま全身を細い枝がなぞるように這いずり回る。そのたびに未成熟の体は震えるように反応してしまう。それが何を意味するかを自覚し、そんな自分を首を振って否定する。
「いやぁ……おねえちゃん、助けて……」
「わたしの可愛い妹を辱めるなんて……!」
弱々しく声をあげる結鹿を見て怒りがこみ上げる御菓子。しかし御菓子自身も捕まり、麻痺成分を含んだ花粉を嗅がされているため、身動き一つとれない。自分の大事な妹が古妖にいい様にされているというのに、助けるどころか指一つ動かすことができないのだ。怒りで血が上る御菓子だが、そんな彼女にも枝葉が伸びる。
「……っ、……っ」
悲鳴を上げる結鹿とは対象に、必死に声を押さえる御菓子。それは年長者としての矜持か、それとも愛する妹への気遣いか。だが状況は変わらず、愛する妹は目の前で古妖に弄ばれ続ける。それを見る事しかできない自分が歯がゆく、そして同じように体を触られる感覚だけが敏感に感じられるのだ。
「いい加減に……っ、し、ないと……、ぁ……」
「……これは……」
桜は樹木子に触られながら、昔の出来事を思い出していた。昔『奪われた』あの出来事を。その時に比べればマシとはいえ、樹木子が体を這いずり回るたびに、あの感覚が蘇ってくる。過去と、今。二重の責めに桜は必至に耐えていた。
(気持ちさえ強く持てば流される事も――、っ!)
首筋に突き刺さる枝。それが血を吸い上げるたびに、桜は激しく体を震わせていた。近くで見ている守護使役の『斎藤さん』を意識する。見守ってくれる恋人を。ちがう、これは生理現象だから、ああ、でもあなたには嘘がつけない、だけど信じて、私は貴方だけで斎藤さんが最高だから、でもこのままだと、おちる、いやだ、ゆるしてゆるしてゆるして。
「許してごめんなさいなんでもするから許してごめんなさい」
「思ってたのと……全然、違う……。もっと、苦しくて、痛いのかなって……予想してた、けど……」
体中を木々に絡まれて、脱力するミュエル。身体を固くしても感覚は残っているのか、探るように足を這いあがってくる枝の感覚を強く感じ取っていた。ふくらはぎから膝に、そして太ももに……嫌悪感を感じながら何もできずにいるミュエル。湧き上がる感覚の正体に気づきながら、必死に否定する。
「ち、力、入らないのは……麻痺毒のせい、だもん……!」
首を振り、必死に体を動かそうとするミュエル。だが枝が動くたび、血を吸われるたび、その動きは少しずつ緩慢になり、そして小さくなっていく。そして悶えるように激しく震える自分に気づく。自分自身の体が、自分で制御できない。そのまま流されそうになる自分に気づき、しかし逃れる術はなかった。
「こんなの……耐え、んっ……、る……堕ち、たりなんか、ぁ……しない……」
「ふふ、眼福だわ……」
エルフィリアは味方の覚者が乱れる様子を見て、静かに笑みを浮かべていた。戦いの流れとしては劣勢だが、この光景自体は素晴らしいものだ。しっかり見て、聞き、記憶の中に留めておこう。そんなエルフィリアにも迫る樹木子の枝葉。それに絡まれても、むしろ歓迎するように体を任せていた。
「あらあら、そっち系で楽しませてくれるの? それなら思う存分楽しんじゃうわよ」
人の手とは違う樹木の感覚が肌から伝わってくる。硬く鋭く、そして力を奪う香。花の香りに脱力している隙に突き刺さる枝。痛みはすぐに別の感覚に変わり、痺れるような震えが体を包む。そこから血を吸われるたびに、脱力感に似た感覚がエルフィリアの体を震わせる。人の手では無しえない未知の感覚。
「いいわ。これだけじゃないでしょう。もっと楽しませてち・ょ・う・だ・い」
「うわーっ。ふふ、これは作戦。肉薄して本体を滅する……骨を断つ的な何か!」
枝につかまったあかりは逆さづりにされながら、強気に言い放つ。手にしていたサーベルは地面に落ち、抵抗する術を失ってしまう。無手の状態であかりが行える行動は多くはない。だが、これも作戦通りとばかりに笑みを浮かべるあかり。そう、あかりは間違いなくこの結果を望んでいた。体を震わせながら、あかりの方を見る。
「これはマズ、助けておねえちゃ……ああっ。おねえちゃん、こっちに来て……はやくぅ……!」
枝葉がくすぐるようにあかりの体に触れる。柔らかい葉で敏感な個所をくすぐられるようにされれば、自信満々のあかりの表情も少しずつ惚けてくる。最初は苦痛に満ちた声だっがが、少しずつ艶の混じった吐息が混じりだす。枝が体の中に潜り込むたびにその声は大きくなる。それが演技ではないことは明白だ。
「あかりちゃん、今助けるからな!」
あかりの姉であるかがりは、その声に弾けるように駆けだす。大事な妹が古妖に捕まり、いいように扱われている。その事実に冷静でいられるかがりではなかった。妹を救いたいという強い思いは、しかし迫る枝葉により遮られる。焦りがあったのか、枝葉が四肢に絡まり宙に持ち上げられてしまう。
「うう、ぬるぬるする……めっちゃ恥ずかしい……」
身体を探るように進む枝。腕から方、そしてわき腹を進む細い枝の感覚。それは確実にかがりの体を刺激していく。逃れようにも動くことができず、ただ妹の視界内でいい様に弄られる。そんな自分が不甲斐なく、そして枝葉に反応してしまう自分が情けなくなる。だけど体はそんな自分を裏切るように、枝葉の動きに反応していく。
「なっちゃん、見たらあかん……いやや、見んといて」
「……? え? あれ……?」
唯一難を逃れた(拘束はされているけど)夏実は、仲間の覚者が樹木子に捕らわれて行われていることに戸惑っていた。っていうか樹木子ってこんな古妖だっけ? 確かに人間の血を吸っている。医学知識でそれはわかる。あとは蚊のように突き刺した瞬間に何か薬品みたいなのを入れて、痛みを緩和してるのもわかる。だけど、その。
「……なに、これ。キモチ悪い」
ドン引く夏実。卓越した視力と医療知識があるからこそ理解できる。覚者のバイタルは決して血を吸われて脱力しているのではなく、むしろアドレナリン分泌による興奮状態。血流が増加して顔が赤く染まり、興奮による吐息が荒々しい。何よりも熱にうなされたようにあげる声は、拒絶ではなくむしろ……。
「ヒドいヒドい多角的にヒドい! ふ、フケツだわ!?サイテー!」
十歳の少女が見たら色々トラウマな光景である。
覚者達も自らの状況は理解できるが、しかし古妖の力には逆らえない。そしてどうあっても体は反応してしまうのである。
山の中、古妖と覚者の接触(意味深)は続く。
●
「あかりちゃん、だめ、このままやと……ひゃん!」
かがりは大事な妹を助けようと何とか指だけを伸ばすが、到底届くものっではない。指はむなしく空を切り、その指すら枝に絡まれて動けなくなる。そのまま樹木子に引っ張られるように明かりから放されて、その目が絶望に染まっていく。
(ふふふふ。おねえちゃんのはしたないすがたとか泣き出しそうな顔がえろくて……!)
あかりはと言うと、そんなかがりの姿を見て背筋を震わせていた。古妖に体をまさぐられて、あられのない姿を晒す。そんな状況でも諦めず、しかし現実に絶望する顔。そんな姉の姿を見て悦ぶ(誤字にあらず)のは、姉への愛ゆえか。
「あら、全身を圧迫されるように、んん、せめられるのも、っ、いいかも」
樹木子の口の中に放りこまれたエルフィリアは、舌のような器官で包み込まれるようにされていた。枝葉が細く的確な線の責めならば、こちらは広く力強い面での責め。視界を奪われ上下すらわらかぬ状態のまままま、全方位から襲い掛かってくるぬめぬめした感覚。
「ぁ……。わたしがささえなきゃ、ん、いけないのに……っ!」
御菓子は古妖に為すがままにされる自分に、不甲斐なさを感じていた。幼い見た目ながら、その服の下は弾力のある胸を持つ御菓子。枝が体の中を動くたびにその胸が揺れる。極力声を押さえようと必死にこらえるが、こらえきれない分が少しずつ漏れてくる。
「いやだぁ……そこは、ぁぁ、いやだよぉ……」
樹木子が蠢くたびに、泣きじゃくる結鹿。古妖が枝を動かすたびに自分の意志に反して震えてしまう。麻痺して動くことができないのに、枝が体中をまさぐっている感覚だけが敏感に感じ取れてしまう。乙女の領域まであと3センチ、2センチ、1センチ……。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
古妖の動きにより体の中で湧き上がる熱。その熱に翻弄されながら、桜は今は亡き恋人に謝っていた。この熱の正体を知っている。この熱の意味を知っている。あの人以外ではこの熱を感じてはいけないのに。なのに熱は桜の中で湧き上がり、体を震わせていく。
「気に、しな、ぁ……い……こんなの……たいしたこと、ぅ……ない……」
樹木子に血を吸われるたびに、体をびくんと振るわせるミュエル。湧き上がる感覚はミュエルの心を溶かすよう。必死に抗うが、いつまで持つのだろうか。このまま樹木子に責められ続ければ、心はいつか溶けてしまう。そうなれば自分はどうなるのか……。
「確かに大腿採血って太くて採血しやすいけど……!」
夏実は樹木子が太ももに枝を刺して血を吸うのを見て、必死に医学知識で平静を保とうとしていた。仲間の太ももに絡みつき、動かぬように押さえ込んで血を吸う樹木子の姿。それは合理的なのだ。けしていやらしいわけではない。無いんだけど……その……。
「だめぇ、なのぉ、こんなの、知ったら!」
「好きな人が、ふぁ、いるのに……どうして……あぁ!」
「見ないで……お願い……見ないでぇ……!」
樹木子の動きに必死に抗う覚者達。心は悪辣な古妖の動きに抗いながら、しかし身体はそれを裏切ってしまう。そして――
●
なんやかんやあって樹木子から逃れた覚者達は、そのままの勢いで三体の樹木子を倒したのであった!
なんやかんやはなんやかんやです。
●
戦い終わり――
「こんなの樹木子じゃない。ウソよ……ウソ、ゼッタイウソだもん……」
まだ幼い夏実は伝承と現実の違いを見せつけられて、ショックを受けていた。ショックを受けたのは、どちらかと言うと捕らわれていた仲間の行動と言動だった気もするけど。三角座りをしてぶつぶつと自分の殻にこもっていた。
「なっちゃん……かわいそうに、怖かったな……」
そんな夏実を案ずるかがり。子供の心に傷を残してしまったことを恥じ、慰める。これで夏実の心の傷が消えるとは思えないが、それが少しでも緩和されれば……。
(危うく負けそうだった、ほぼ負けてた、いやボク的には大勝利だった)
あかりは樹木子との戦いを思い出しながら、拳を握っていた。そして草むらに隠してあるカメラの方を見る。網膜に焼きつけた姉の姿。それと同じものが写っているはずだ。後で回収しておかなくては。
「うん……もう大丈夫、だから……」
ミュエルもショックを受けているこのフォローに回っていた。今日の事は忘れよう。自分にも言い聞かせるように、そう言って優しく頭を撫でる。惨劇はもう終わったのだ。血を吸う古妖はもういない。
「もう、こんなお仕事いやです……」
座り込んで泣き出す結鹿。樹木子に触られた部分を自分でなぞりながら、傷の有無を確かめる。幸いにして身体に大きな怪我はなかったが、精神は大きく傷ついた。忘れようと心に誓うが、残念なことに報告書(リプレイ)は残るのである。
「木屑の一片すら残しませんよ、ええ」
倒れた樹木子に怒りの表情で迫る御菓子。殺意迸る瞳に慈悲はなく、古妖にこれから訪れる厄災を逃れる術はない。水の力を手のひらに集め、御菓子はゆっくりと古妖に近づいていく。妹を辱めた恨みが、いま炸裂する。
「あの時と同じ轍を踏まないように殺しましょうあははははは死ね」
同じく怒りのままに神具を振るう桜。殺意迸る瞳に慈悲はなく……いつもと同じのような気もするが、ともかく。斧を振りかぶり、笑いながら古妖に振り下ろす。激しい破壊音と桜の笑い声が山中に響き渡る。
「今回も楽しんだ楽しんだ。こういうのがもっと増えても良いのにな~」
妙につやつやした表情で、エルフィリアが伸びをする。楽しければそれでよし。そんなエルフィリアからすれば、今回の依頼は十分楽しめてよかったと言えよう。最後の願望がかなうか否かは、誰にもわからない。
帰り際、一人の女子とすれ違う。予知で襲われるはずの子だ。
最悪の悲劇は回避した。それを胸に覚者達は山を下りるのであった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
セウト!
