≪禍時の百鬼≫腐った彼女の八つ当たり
≪禍時の百鬼≫腐った彼女の八つ当たり



「お前等、どうせ暇だろ。頼み事がある」
 『紅蓮轟龍』逢魔ヶ時 紫雨(nCL2000061)に呼び出された禍時の百鬼の青年2人は、「まぁ暇ですね」と頷く。
「奈良県のとある山中に桜が多く生息してンだ。そのうちの1本――枝垂桜なンだが、今でも咲いてるらしい」
「今でも?」
「もう5月ッスけど」
「今でも、咲いてる。……それ、調べて来い」
 命令は簡潔。チラリと鋭く見る赤に、青年2人は「御心のままに」とニンマリと笑った。
「何かあれば土産を持ち帰りますよ」
「他に情報あります?」
「なンでも、朝一に枝垂桜から滴る朝露を飲んだら長生き出来るとかで。朝はその露目当て、昼は花見客等がそれなりに居る」
「山の上だし夜に人は居ない、と。いつ『調べに』行くかはオレらに任せるって事ッスよね」
 頷いた紫雨に、しばらくの間を置いてから「あー」と青年達は左右に顔を背け合う。
「トルテが……寂しがってましたけど」
「五麟の時、行けなかったッスから」
「そりゃ悪ぃ事をした。トルテにゃ、襲撃の話を回さなかったからな。……そうだな、じゃ、3人で行ってこい」
 等閑に紫雨が手を振って、青年達は密かに溜め息をついた。
 ああ、と紫雨は付け加える。
「F.i.V.E.がいたら、穏便に済ませとけ。これ以上、百鬼が減るのは勘弁だ」
「…………まぁ」
 トルテが言う事を聞くなら、と2人は再び溜め息を吐いた。

 ピンポーン。
 マンションの一室。そのチャイムを鳴らす。
 出ない為、もう1回。
 それでも出ないので更にもう1回。
「寝てんのかな」
 ピンポーン、ピンポーン、ピンポンピンポンピンポン、ピポピポピポピポ……。
「――あぁ!?」
 バンッ!! と乱暴に開いた扉と共に、眉毛を吊り上げた女が憤怒の形相で出てきた。
「ちょっと! ウッセーんだけどッ!!」
 それ下着だろ? と言いたくなるような薄いワンピース姿の女がドアノブに手をかけたまま、こちらを睨んでいる。
「いや、寝てんのかと思って」
「そう思ったなら余計静かにしろよ」
「はいはいオジャマシマッス」
 1LDKの部屋。そのリビングには、漫画の原稿用紙が散らばっている。
「印刷所の締め切りが近いんだけど」
 原稿踏んだらコロス、と物騒な雰囲気を醸し出すトルテに、原稿の絵は見ぬようにしながら、つま先で部屋を横切り2人はソファに座った。
「あ、丁度良かった。2人でソファで絡んでみよっか。服脱がせ合いっことか弄り合いっことか。そのシーンが上手く描けなくて」
 ご冗談でしょ、と笑った2人は、彼女の目が本気である事とその視線の先に気付いて足を揃えて座り直す。早々に、話題を変えた。
「紫雨様から命が下った」
「……紫雨様から?」
「調査頼まれたッスよ」
 トンッ! と床を蹴った彼女の持つGペンが眼球に突き刺されようとするのを、セムラが彼女の手首を掴んで止める。
「な・ん・で、私が呼ばれねぇーんだよッ」
「知らねぇーよ」
 一触即発の雰囲気を一瞬で滲ませた2人に、ラスクが「まぁまぁ、喧嘩はよくないッス」と止めに入った。
「トルテにゃ悪ぃ事した、って言ってたッスよ。紫雨様」
 え、マジ? と途端に黒い尻尾を振り、機嫌が良くなる。
「さすがは紫雨様。――で? あんたら今日こそは紫雨様を押し倒せたのかよ。せめて壁ドンとか」
「阿呆か。殺されるわ」
 チッと舌打ちしソファから降りるトルテに、「今の台詞が呼ばれなかった理由を物語ってる」とセムラがラスクと視線を交わし合う。
「……視線と脳が、ヨコシマッス」
 小声で呟いたラスクと共に、調査の内容を説明した。
「――それで、どの時間帯にする?」
 その問いにニヤリと笑い、女はインクで汚れた指を鳴らす。
「モチロン昼間っしょ! ……人が1番多い」

 街を見下ろせる場所に、その大きな枝垂桜はあった。
 周りには、レジャーシートを広げ、桜の樹と景色を楽しむ人たち。
 その中心にある枝垂桜の幹を調べていたトルテは、セムラとラスクに「調べんのは任せた」と告げて振り返る。
 両手を広げ風を受けたトルテが、空を見上げキャハッと笑った。
「では幸運な者達、今この場に居る幸せを噛み締めなさい」
 晴天の空に、星が瞬く。無数に落ちてきた光が、花見客達を襲った。
「愛と希望を胸に、日本を混沌へ――」
 恍惚とした表情の少女は、強く吹く風に黒きスカートと尻尾を靡かせた。


「急行して頂ければ、彼女達3人が枝垂桜の樹を調べている間に、現場に到着出来ます」
 そう告げて、久方 真由美(nCL2000003)は集まった覚者達を見回す。
「ですが皆さんが花見客達を避難させると気付いた途端、トルテさんは攻撃を開始するでしょう。そうなったら、花見客の方達に被害を出す事になります。それは避けなくてはいけません。ですから――」
 言葉をきった真由美は、「えーっとですね」と言い難そうに困った微笑を浮かべた。
「攻撃を開始する前にトルテさんの気を強く惹く事が出来れば、その間にそっと一般人の方達を避難させる事が出来るのでは……と思うんです」
「つまり――彼女の漫画のネタになりそうな事をしろと?」
 覚者の1人が言えば、真由美は本当に申し訳なさそうに頷く。
「彼女の興味はその、同姓同士の恋愛のようで……。どうやら激しいものがお好みのようなんですけれど、人前でもありますし……ほどほどにで……彼女の興味を――」
 ――頑張って惹いて下さい。
「ああそうそう。上手くいって枝垂桜も調べ終わったら、お花見をする事も出来ますね。楽しそうですねー」
 ポン、と真由美が笑顔で手を叩く。
「……花見を餌に、無茶振りしたな……」
 そう、誰かが呟いた。


■シナリオ詳細
種別:通常(EX)
難易度:普通
担当ST:巳上倖愛襟
■成功条件
1.禍時の百鬼3人の撃退。
2.一般人の死者を出さない。
3.枝垂桜を調べる。
皆様こんにちは、巳上倖愛襟です。
花見に行けませんでした。宜しくお願いします。

今回は『禍時の百鬼』3人の一般人殺害を阻止して頂きます。

●現場と状況
晴天の昼間、山の中腹にある平坦な場所。街を見下ろせる広い空間です。
1本の大きな枝垂桜がぽつんとあり、その周りで8つのグループの一般人達がレジャーシートを敷いて花見と景色を楽しんでいます。
1つのグループにいるのは2人~5人。子供が3つのグループに1人ずついます。
皆様が到着するのは、「調べんのは任せた」とトルテが言い出す少し前です。トルテも樹を調べています。

枝垂桜の下にいるのは、トルテ達3人のみ。
トルテの気を惹く事が出来れば、セムラとラスクは樹の調査に集中していますので一般人を逃がす事が出来ます。
但し、静かに避難させなければ気付かれます。

送心など、直接心に伝える事が最良な一般人ばかりではないでしょう。
近付き小声で伝える、接触の仕方、言葉など、静かに避難させる色々な方法を考えてみて下さい。

●敵
『禍時の百鬼』隔者3人。
互いの事を本名ではなく、あだ名で呼び合っています。
セムラとラスクはF.i.V.E.がいたら穏便に済ませるよう、紫雨から言われています。皆さんがF.i.V.E.と判れば、退くようトルテを説得しながら、消極的に戦います。しばらく戦うと3人で撤退していきます。
但し3人のうち誰かが倒された場合、追跡があった場合は、セムラとラスクも本気を出し攻撃してきます。

○トルテ 20歳。 獣:猫(自称黒豹)の因子・天行
自称同人漫画家。BL(ボーイズラブ)大好き。GL(ガールズラブ)も好き。
『猛の一撃』・『脣星落霜』・『雷獣』のスキルを使用します。3人の中で1番強いです。

○セムラ 22歳。 彩の因子(紋様は首筋)・木行
『五識の彩』・『樹の雫』・『棘一閃』のスキルを使用します。
但し誰かが倒れた場合・追跡があった場合は、弐式のスキルも使用してきます。

○ラスク 19歳。 暦の因子・火行
『錬覇法』・『火柱』・『火炎弾』のスキルを使用します。
但し誰かが倒れた場合・追跡があった場合は、弐式のスキルも使用してきます。

●枝垂桜
山道から逸れている為、最近になりまだ咲いているのが発見されました。
長く咲き続けている事から、「朝一に滴る枝垂桜の朝露を飲むと長生き出来る」という噂がたっています。
異様に長く咲いているので、何か原因があるものと思われます。

●プレイング
今回は、トルテの気を惹く『囮』班と、花見客達を避難させる『避難』班に分かれて頂きます。
どちら側かを、プレイングにお書き下さい。両班とも、具体的な台詞や行動をお書き下さい。
※18禁に触れるものは、トルテは涎を垂らして喜びますが描写は出来ません。演技力を駆使し、人前で披露出来る範囲のものをお願いします。

また、戦闘と調査が終われば、花見を楽しんで頂けます。食品などを装備されている方は、それも楽しんで頂けます。

●相沢 悟(nCL2000145)
同行致します。『避難』側に回るつもりでいますが、作戦・指示があればそちらを優先して動きます。
何かあれば、プレイングでお願いします。
『B.O.T.』・『炎撃』・『火炎弾』・『醒の炎』・『送心』・『マイナスイオン』を活性化させています。


●『紅蓮轟龍』逢魔ヶ時 紫雨(nCL2000061)
リプレイには登場致しません。


以上です。
それでは、皆様とご縁があります事、楽しみにしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
150LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年05月23日

■メイン参加者 8人■



「ああ、相沢君なんで逃げるの?」
 女装して任務に挑む『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は、『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)の陰に隠れた相沢 悟(nCL2000145)に、ガガンッとショックを受ける。
「……ところで工藤、その格好はなんだ」
 腕を掴んでくる少年の思いをも代弁した両慈に、「ああ、これですか?」と奏空は己の服装を見下ろした。
「なんだか『男の娘』っていうジャンルがあるらしくって」
 そういうのも腐のレーダーにかかる場合もあると聞いたんです、と説明する。
「…………いや、意味があるのならば良い。ハッキリ言って異様なくらい似合っているぞ。お前は本当に男か?」
 言った両慈と勢い良く何度も頷く悟に、「これは褒め言葉と受け取っておこう」と思う事にした。
(しかし――何か俺は変な奴に憑かれてないか?)
 以前にもこの手の依頼が……と眉間に指先をあてる両慈は、「とりあえず」と自分を持ち直す。
 ――どんな依頼でも全力で当たるぞ、人の命が掛っているからな。

 見えてきた花見客達と枝垂桜、そしてトルテ達の姿に、赤祢 維摩(CL2000884)は一瞬足を止めた。
 エネミースキャンで状況と、避難中に彼女の注意を惹くのに最適だろう場所を探る。
 送受心を用いて仲間に伝え、すぐさま囮班達が行動を開始した。

「覚えてるか瑛月、俺達が初めて会った時の事」
 トルテの横――振り向かず彼女の視界に入る場所で、『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)は『相棒捜索中』瑛月・秋葉(CL2000181)を押し倒す。
 瑛月相手なら遠慮はいらねーと、手荒く地面へと押し付けた。
「急に昔話なんかしだしてどないしたん、風祭君」
 酔ったフリの秋葉は、大声で返して来ながらも余裕の笑みを崩さない。
「あん時の貸し、返してもらうぜ」
「だーから、貸したんはこっちの方やて」
 ――ってこれ本気で押し倒してへん!?
 口喧嘩しながら少し焦ったように目で訴えてくる秋葉が可愛い。いや間違えた可笑しい。
 肩口を強く握り、誘輔のもう一方の手が顎を捉えて上を向かせた。
「相棒探しなんざやめちまえよくだらねー」
「やめる訳……」
 答えた秋葉が、一瞬の間を置いて眉根を寄せた。
「――さっきから、何言うてるん?」
「テメエは俺だけを見てりゃいいんだ」
 言って。トルテがこちらを見ている視線を感じながら、彼女からはキスして見える角度で覆い被さった。
 おー、という声が、トルテから聞こえる。
「おい、どこ触……」
 やりすぎやアホ!? と小声の抗議にも、体をまさぐる手を止めない。
「真昼間から酔ってるん?」
 いや酔ってるよな、酔ってるんやろ、寧ろ酔っててくれ! とは、願いを籠めた叫び。
「……あんな、風祭君。お兄さんをあんま怒らせんといてぇな」
「くすぐってえって? ガマンしろ」
 そう低く囁いて上体を起こすと、上から秋葉を見下ろした。
「ああそうだ……折角だから俺の手袋口で脱がしてくれよ。――上手くできたらご褒美やるぜ、瑛月サン」
 手をフリフリと振って、『お兄さん』をからかうように笑ってやる。
「へぇ?」
 見上げる側はご免だと、思っているのはお互い様で。
 据わった目で笑った秋葉が持参していた懐中電灯の光で誘輔の目を眩ませ、あっという間に形勢逆転。
 上から見下ろし笑いながら、グイグイと片手を誘輔の口に押し当てた。
「その口黙らせたるから、あんさん僕の手袋脱がせや」
 いいから早うせぇ、と調子こいてるだろう言葉に、「これも仕事仕事」と念じ、誘輔は言われた通りにする。
 ――と、見せかけて。
 手袋を脱がす途中で指を噛んでやった。
「って痛っ!」
 だからこれはあくまで一環……と囁き説明しようとするのも、相手は聞いていない。
「ヌルい前戯だな、眠くなっちまう。テメエ如きのお粗末なテクで満足するかよ。ヤれるもんならヤッてみな」
 ピキ、と。僅かに顔を引き攣らせた秋葉の耳に、「そうだヤってやれ。ねじ込んでやれ。ヒィヒィ啼かせたれ」というトルテの声が聞こえていた。


 送受心・改で花見客達に大まかな説明を奏空がすれば、それに動揺し、キョドる者も出てくる。
 そういう人達から優先的に、すぐさま3人で手分けをし駆け寄って行った。
 子供のいる客達には奏空と、マイナスイオンを使用した悟が向かう。
 若い女性のいるグループには、両慈が行き誘導した。彼女達が騒ぎ出す声は、セムラとラスクに気付かれる危険もあるだろう。
 そして囮の演技は、なるべく今避難している花見客達が死角になる場所を選び、『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)と『イッパンジン』風織 歩人(CL2001003)が引き継いでいた。
「桜の花弁、綺麗ですね」
「ああ、本当だな」
 着流し姿のゲイルが枝垂桜に目を向ければ、「いえ、それもですけど」と着流しの胸元に描かれた花弁に歩人が指先で触れる。
「これが……」
 と眼鏡越しの青瞳を上げて、ゲイルと目が合うと歩人は照れて頬を染めた。
「すみません。俺、こういうの慣れてないんで……」
 俯き瞼を伏せたまま伝えれば、「俺もだ」とゲイルが答える。そうして耳元に唇を寄せ、「押し倒したり縛ったり」は流石に罪悪感が半端ない。するよりはされる方がマシだと伝えた。
「そんなの、俺だって――」
 顔を赤くして返せば、トルテの視線が突き刺さる。
「………………」
 どうやら、覚悟を決めなくてはいけないようだ。花見客達の命が、自分達の演技にかかっているのだから仕方がない。
(どうしてまたこんな依頼を受けてしまったのか……)
 頭痛い、と泣きたくなるのを堪え、歩人は胸倉を掴むようにゲイルの襟を握り突進した。
 縛るのは無理……と、思い切って押し倒す事にする。歩人が顔を埋め押せば、勢いよくゲイルが後ろへと倒れた。
「お、おいっ……!?」
 『流され受け』を演じるゲイルは、倒れた拍子にわざと着物の胸元を肌蹴させる。
「まずは一旦落ち着こう……な?」
 拒むように膝を立てて抵抗の素振りを見せながら、その拍子で着流しの裾をも肌蹴させた。
 揺れた尻尾に、思わず視線がゆく。
「ぁ……駄目だからな、尻尾だけは駄目だからな」
「――あ」
 そうかこれはあれだ。きっと、触ってくれよ、というアレに違いない。
 ポン、と手を打って。こんな感じ? ともふもふとした尻尾を撫でてみる。
「……ひっ!?」
 漏れたゲイルの声に、驚き歩人が手を離し固まった。
「あ、あの……」
「あー……尻尾、感じるんだよねぇ」
 解る解る、としゃがみガッツリかぶり付きで見ているトルテが頷く。
「あと耳もクるよねぇ」
 噛んでやりゃぁいいのに、そしたら大人しくなる。とレオンにとっては恐ろしい事を、頬杖を付きながらぶつぶつと言っている。
 ――えー……と。
 まだ惹き付けておいた方がいいのかな、と再び触れようとした歩人の手首を、ガッシとゲイルが掴んだ。
(花見を楽しんでいる一般人を傷つけさせるわけにはいかん。が、頑張って演技しなければ)
 しかし――。
 だがしかし。
「これ以上は本当にマズイから……!? もう勘弁してくれ……!」
 葛藤の末の本気の叫びが響く中、「年下攻めも悪くないな。年上受け、か」とトルテが呟いていた。

(普段涼しい顔で毒吐くムカつく赤祢くんが、困ったり焦ったりすんの?)
 ――超ウケる!
 『仲良く喧嘩します』四月一日 四月二日(CL2000588)は維摩で遊べるこの機会を、心より楽しみにしていた。
 しかしそこで、ハッと気付く。ようやく気付く。
(でもその為には……)
 はぁぁぁー、と大きな溜め息と共にゲンナリしている四月二日の腕を、隣の維摩が肘で小突いてきた。
「行くぞ」
 タイミングを見計らい、更に観光客達からトルテを離れさせる形で、維摩と四月二日が演技を開始する。
 演技とは言え、維摩は手を抜くつもりはなく。
「戯曲(ものがたり)で観客を夢中にさせる……って思えば、楽しそうじゃない?」
 小声で呟き肩を揺らした四月二日に、維摩は冷ややかな視線を向けた。
 『ユルダメ男とツンデレのケンカップル』設定は、ある意味いつもの彼等そのもので。
「付き合いきれん。勝手に悶えてろよ」
 吐き捨てるような物言いに、「ちょっと」と9cmの身長差を生かして四月二日が維摩を見下ろした。
「キミのその態度にも慣れたけど……もう少し素直になれば? それとも、そうでもしねえと、ホントのコト言っちゃいそうで、怖い?」
 維摩のネクタイに指を絡め、グイと引き寄せる。一瞬遅れて、維摩の体が四月二日にぶつかった。
 少々大きめの声を出したのは、トルテの気を惹くため。
「本当の事? ――頭に蛆でも沸いたか?」
 返す維摩の言葉にユルリ余裕の笑みを浮かべれば、突然頭突きが四月二日を襲った。
「……マジで素直じゃねえな!」
「ふん、虫唾が走る物言いする方が悪い」
 額を押さえ、それでも放さなかったもう片方の手で強くネクタイを握りなおす。トルテの視線を感じたが、それ程の熱意は感じない。
 普段の自分達過ぎて、激しいものが好きという彼女には、少し物足りなかったのかもしれない。
 送受心で維摩が避難の状況を尋ねれば、「もう少しです!」と奏空からの返事を受心する。
 つまり、何としてでももう少しトルテの気を惹いておく必要がある、という事だ。
「キミ今の状況分かってる?」
 演技を再開し、そう言ってきた四月二日と間近でガン付け合う。
「……っと」
 あれ、という間抜けな四月二日の声が聞こえて、視界が回った。
 綺麗な青空が一瞬視界に広がり、遅れて四月二日の顔が視界を覆う。維摩に言わせれば、「無様に」2人一緒に足を滑らせ転んだ。
 嫌そうに恥じるような表情を浮かべた維摩に、押し倒す形となった四月二日が「これ幸い」と馬乗りになってニヤリと笑った。
「できるんじゃねえか、そんな顔。……俺から伝えるかよ。お高くとまった君から言うのがイイんじゃん。言って ラクになっちゃえば?」
 覗き込むように見てきた四月二日から、彼のウェーブがかった天然の髪が垂れる。それを見上げる維摩に、「好きだ、って」と声には出さず口パクで伝えてきた。
 片手を、伸ばして。絞めるように四月二日の首を掴む。
(――正直この馬鹿を、敵より先に始末したい)
 そう思った。が、残念ながら力を込める前に、演技を続ける理性がまだ残っている。
「好きだと? ふん、馬鹿が自惚れるなよ。お前は俺の道具(モノ)にすぎん。道具にあるのは使えるかどうかだけだ」
 首筋を撫でるように手を放せば、ククッと顔を伏せて四月二日が笑った。
「……さて。俺たちの名演技はどうだったよ、お嬢さん?」
 四月二日が維摩の腕を引き立ち上がり、肩を竦めるようにして問いかける。
「ああ? 演技?」
 そこでトルテが周りを見回し「なんじゃこりゃーッ!」と絶叫した。


「よくもよくも、へったくそな演技でーッ! それもこれからだろってトコで止めやがってッ! ここは首絞めながらキスして『おいおいこんな状況なのに反応しちゃってんの? ここ』とかってトコだろがよ!」
 いやいやそのへったくそな演技にデバガメだったのあんたです。
 そう、突っ込みたい。
 怒り心頭な彼女の許に、ラスクとセムラが「どうしたッスか」「恥ずかしい事大声で叫ぶな」と駆け寄る。
「今からなら、何人かは殺れるよね?」
 駆け出そうとする彼女の前に奏空が両手を広げて立ち塞がり、トルテが「邪魔だガキ!」と叫んだ。
 工藤! と両慈が庇い立ち、言い放つ。
「俺の工藤に何をする!」
「って、天明さん、な、何するんですか……!? 俺の? 俺のって、俺のって? 俺、男ですってばー!!」
 ――俺のって何?
 思いっきり動揺した奏空に、「え、男?」とセムラがその格好を見て零す。
「ははぁーん、男の娘ってヤツ?」
 少し興味の湧いたらしいトルテに、両慈が奏空を抱き締める。小声で「花見客達が安全な場所に逃げるまでだ」と伝えた。
「なるほど」
 納得した奏空が大人しく腕の中に収まり、両慈が再び顔をトルテに向ける。
「確かに工藤はこんな格好をしているが男だ。だが工藤は俺の物だ、何の問題がある?」
「誰ひとり文句なんて言ってねーよ」
 トルテの突っ込みは無視して、両慈は優しく奏空の髪を撫でる。
「済まないな、こんな怖い想いをさせてしまって……後でその何倍も、嬉しくさせてやるからな……」
「……何倍も嬉しくさせるって、何スかね?」
「さあな?」
「そりゃ部屋に連れ込んで、ベッドで優しく啼かせ――」
 ラスク、セムラに続いたトルテの台詞に、「いやぁぁぁぁ」と思わず奏空がか細い悲鳴をあげる。
(ちょっと天明さん、演技リアルすぎません!?)
 泣きそうになりながら、「あ、相沢君、ヘルプ!」と抱き締められたまま悟へと手を伸ばした。
「工藤さん!?」
 悟も思わず手を伸べ返す。それを見て「ほーほー、三角関係か」とトルテがニンマリと笑った。
「カレの激しさを相談していくうちに後輩とも愛が芽生えて、だけどもう彼のテクなしじゃ俺……いや俺の体が、生きていけないの~ってヤツだな」
 うんうんと頷くトルテの言葉の合間に「もういいぞ」と維摩の送受心の言葉が聞こえる。それはつまり、花見客達が安全な場所まで逃げた頃合、という事であった。
 途端にパッ、と両慈が手を放す。
「期待を裏切って悪いが、全部演技だ」
 奏空は腕で目を擦りながら、「名探偵じゃなかったけど名演技でしたよ」と悟に慰めてもらっている。そして全員同時に覚醒した。
「俺達、F.i.V.E.なんだ」
 ゲイルがそう伝え退くように言えば、頷くセムラとラスク。その前で、トルテだけが「断る!」と言い放っていた。
「いやトルテ、紫雨様が――」
 言いかけたセムラの台詞を遮り叫ぶ。
「ああーん? 何言ってんだ。調査して情報持ち帰って、紫雨様からご褒美のちゅーしてもらいたくねぇのかよ、あんたは! 私はあんたらの為に、ゼッターこの命令を成功させるんだ! 『俺達頑張ったんで、ご褒美貰ってもバチ、当たんないですよね』って、あーんな事とかこーんな事とかして貰いたくねぇのかよ!」
「いや、して貰いたくない。というか、命は大事にしたい。ちなみにちゅーも有り得ない」
「ほんと、脳が腐ってるんス。残念なコなんス。恥ずかしいッス……」
 許してやってほしいッス、とラスクが覚者達に頭を下げる。
 それには、四月二日が友好的に手を振った。
「いいっていいって。……冷たい友達困らせようとして遊んで、俺も結構楽しかったし。欲を言うなら、もっとうろたえてくれたら笑えたんだケドなあ。――という訳で。穏便に済ませたいんで、このまま帰って欲しいんだケド」
 チラリと維摩に視線を流しなから言う四月二日に、「ふん」と維摩が冷ややかに鼻を鳴らした。
「満足したならさっさと帰れよ面倒だ。御蔭で馬鹿に付き合わされて散々だ。――狼狽えさせたいならせめて女に生まれ変わって出直せよ」
 最後の台詞は悪友とも言える男に放って、トルテを見据える。「撤退させる必要がなければ、禄でもない記憶ごとこの世から消したいところだがな」とは、心の中で付け加えた。
「あんなんで満足出来るかぁッ! とにかく、あんたらは邪魔!」
 トルテが手を掲げ、覚者達に輝く光の粒を降らせる。
 それを奏空とセムラが避け、奏空がすぐさまトルテへと雷獣を落とした。色々と心に食らったダメージは――心に残るかもしれないそれは、人命救助に来たF.i.V.E.の覚者たるもの、何とか気力でカバーする。
 まだちょっと、涙目ではあったが。
 その隣で両慈が演舞・清爽で仲間達の身体能力を上げていた。
 歩人が五織の彩でトルテに攻撃をし、悟が火炎弾をラスクに放つ。その間に誘輔と秋葉が『機化硬』で基礎耐性を高めていた。
 奏空が雷獣を落としセムラとラスクを攻撃すれば、「ナメんな」とトルテも雷獣で返し前衛達を攻撃する。
 威力の高いトルテの攻撃に鼻を鳴らして、維摩は『戦巫女之祝詞』を念じて四月二日に戦巫女の恩恵を与えた。
「体力馬鹿なら、精々暴れ回れよ」
 それには笑いながら、「キミってやっぱり言い方優しくないなあ」と四月二日が駆け抜けるようにセムラとラスクを狙う。しかしトルテがそれを邪魔し、後ろへは行かせなかった。
 ラスクを狙った歩人の『五織の彩』にもトルテが割り込む。
「トルテ、そろそろ退け」
 樹の雫で彼女を回復したセムラが言っても、聞こうとしない。
「そうッス。紫雨様のお言葉でもあるッス」
 仕方なく、ラスクが前衛達の足止めをするように地面へと火柱をたてた。
 しかしその言葉にも、トルテは首を縦に振らない。
 両慈の雷獣がセムラとラスクに落ち、トルテからの攻撃を受けた仲間達に、ゲイルが癒しの霧を発生させた。霧で優しく仲間達を包んでいきながら、しかし、と思う。
(人が居ない時間が分かっていながら、わざわざ人の一番多い時間を選ぶとは傍迷惑な奴らだ)
 それでも仲間達の事は、庇い合いながら戦っているらしい。そしてセムラとラスクは、明らかにこちらとやり合うつもりはないようだった。
 一瞬視線を交わし合った誘輔と秋葉が、同時に足を踏み出す。
 トルテの側面から誘輔が切り裂くような蹴りを放ち、反応したトルテが身を捻り交錯させた腕で受ける。ザザッと鋭い蹴りに後退った背後には、秋葉が待ち構えていた。
 ブレードがトルテの胴を狙い、振り下ろされる。しかし――寸前のところで刃が止まった。
「お嬢ちゃん達と争いにきたんやないし、あんまし手荒な真似したないわぁ」
 後ろの2人もそう思ってるみたいやし、とセムラとラスクを見遣り、視線をトルテに戻した。
「漫画のネタになるか知らんが、トルテちゃんが望むならおにーさんが一肌脱いだるから、今回は僕達F.i.V.E.にその枝垂桜譲ってくれへん?」
 笑顔で言った秋葉に、トルテが目を剝く。そして「ほぉぉ?」と口角を上げた。
「トルテ、ここまでた」
「今回は諦めるッス。紫雨様、怒ったりしないッスよ」
「……わかってる!」
 セムラとラスクの言葉に返すと途端に殺気を消して、ズイッと秋葉に顔を近づける。
「私が望むならってセリフ、忘れんな。しっかり憶えておくからな」
 トルテは満面の笑みで、ひたすら嬉しそうに笑う。
「顔はしっかり憶えた! いやー次会えるのスゲェ楽しみだな!」
 ビシリと秋葉の顔を指差し言って、上機嫌で背を向けた。
「じゃあ、またな!」
 3人の背中を見送る覚者達の耳には、いつまでもいつまでも、トルテの嬉しげな笑い声が響いていた。


 戦いが終われば、枝垂桜の朝露を調べる為、一夜を明かすことにする。
 皆で持ち寄った食べ物などを、広げた。
 「ま、朝までは時間があるし、花見を楽しむとしよう。弁当は作ってきたし、お菓子もある。飲み物も酒とかソフトドリンクとか持ってきてるから心配はいらないぞ」
 わー、と奏空と悟から拍手が起こる。
 弁当が手作りだと聞いて、悟が尊敬の眼差しを向ける。食べていいですか、と聞いて、口に頬張った。
「僕、自分で作っても美味しくなくて。今度機会があったら料理教えて欲しいです」
 凄く美味いねー、と奏空と笑顔を向け合い、おかずを食べた。
 歩人は、お菓子と去年貰ったかぼねこおやきを取り出して、口に運ぶ。
「……ん、おいしい」
 微笑みを浮かべ、「良かったらこれもどうぞ」と、仲間達の前に差し出した。
「じゃあ俺の古妖クッキーもぜひ」
 奏空が置いたその横に、悟も持ってきていたお菓子を置く。
 それぞれが持ち寄ったものでお腹を満たし、喉を潤していった。
「で、僕。自分等の演技で精一杯やったんと花見客等の避難が心配やったさかい、皆の演技見てへんねやわ。他の囮組はどんな事やったんやろか?」
「………………」
 秋葉の言葉に、皆が黙り込む。微妙な空気が流れる中、「口にしたくない」と、誰かがポツリと落とした。

 夜ともなれば、誘輔・秋葉・維摩・四月二日が持参した懐中電灯が役に立ってくれる。
 きっとお兄さん達お酒いっぱい飲むよね、と、中学生の少年2人は、少し離れた場所に陣取る。夜空を見上げ、色々な話しをした。
 時折交代で桜を調べに行き、懐中電灯の明かりを頼りに戻ってきた奏空が、「ふあぁっ」と大きな欠伸をしながら悟の隣に座る。
「普段だったらお泊りで調査って言ったらわーい! って感じなのに、胸騒ぎしかしないよ……」
 閉じようとする瞼を擦りながら言えば、「同感だ」と低い声が答えた。
「えっ!」
 驚き見返して、隣にいるのが両慈だと気付く。「間違った!」と慌てて立ち上がれば、「構わん」と声が返った。
「他の奴なら許さんが、お前なら安心だからな」
「そうですか?」
 じゃあ相沢君待ってるしもう少しだけ、と奏空は、両慈の隣に腰を下ろし直した。
「相沢君は、気にしないそうなんですよね。恋愛対象が女の子でも男の子でもいいんじゃない? って、そんな考え方みたいで」
 そうか、と返した両慈が間を置いて、「工藤。念の為、気をつけろよ」と言う。
 ブッと吹き出しそうになった奏空が、「気を付けるって何をですかー……」と返す。冗談なのかどうなのかすら解らないよー、と、すんすんと鼻を鳴らした。
「実際にホモが居たらどうするか?」
 怪訝な瞳で四月二日を見返した維摩は、「加減する必要もない」とあっさりと結論を出す。
「埋めて枝垂桜の栄養で十分だろう」
 デスヨネー、と返しながら酒を飲み、「容赦ないなあ」と四月二日が笑った。
「赤祢くん、酔っ払いの介抱はよろしく。慣れてるでしょ?」
 オールナイトで起きておくつもりだが、そんな風に言ってみる。
 こんな機会は滅多にない。困らせて遊びたい精神全開の四月二日のからかうような言葉に、維摩からは「飲みたいなら勝手に飲んでくたばってろよ」と素っ気ない返事。
「お前の寝床なんて、桜の下で十分だろう」
 赤祢くんらしいけど、と笑いながら、酔った勢いで口にする。
「でも、なんだかんだイイヤツだよな。キミのコト、人として気に入ってんのはホントだぜ」
 チロリ、と視線が返る。
「ふん、目までも壊れたか? もしくは熱でも出たか? ――多少使える道具なら優しく扱うのは当然だろう」
 相変わらず涼しい顔で毒を吐く維摩に、「多少使える道具、ねえ?」と笑いながら酒を煽る。やっぱり安心して、介護は任せる事にした。
「……ナニモナイデス……ナニモナイデスヨ……」
 寝相も悪くないし、寝言もひどくないです。誰にも迷惑かけません――。
「大丈夫です、何もないですきっと……」
 自分に言い聞かせるように唱えた歩人は、満天の星空の下、膝を抱えて顔を埋める。
「天の神様が悪戯心を宿さない限り……」
「ああっとな。大丈夫だ、心配はいらん。何かあったら守ってやるからな」
 背中を叩けば余計歩人が眠れなくなりそうなので、ゲイルは言葉だけで元気付けていた。
「あーヒデェ目にあった」
 酒を飲みながらぼやく誘輔は、それでも楽しそうに笑って嘯く。
「でもま、瑛月を見下ろす気分は悪くなかったな……」
 あー本当に、と隣で酒を嗜んでいた秋葉が、片手で額を押さえた。
「……囮とはいえ風祭君に見下ろされたんは一生の不覚や」
 心底言っているだろう男の顔を眺めて、誘輔は面白そうに酒を再び口に運んだ。


 朝陽が枝垂桜を照らしてゆけば、その眩しい姿を色んな角度から誘輔がカメラで撮ってゆく。
 確認するように見直してゆく今回の記録を、隣に立つ秋葉が覗いた。その顔が少しずつ赤らんでいっているのは、気のせいか。
「あー、桜の写真は後で提出しとくよ。他の囮ペアの写真は……焼き増しは有料で受けてやるぜ」
 ニヤリ笑った誘輔に、「そのカメラ……壊してしまいたい……」と、歩人が本気の声を出す。
「壊すな。修理費請求するぞ」
 カメラを遠ざけながらの誘輔の言葉に、「そうですよね」と歩人が落とした。
「カメラ……壊すと高いですから我慢します」
 ――本当はなくしてしまいたい……。
 顔を覆う歩人に、「解るよ。気持ちは痛い程解る」と、誘輔と秋葉以外が頷いた。
 その様子に、顔を見合わせた誘輔と秋葉が、一瞬の間を置いて笑い出す。
「あー、実は残念ながら絡みの写真は撮れなかったんだ。トルテに気付かれそうな雰囲気だったんでな。写真撮ってんのに気付かれても構わんが、避難してんのがバレたら足引っ張る事になるんで。今回は諦めてやったぜ」
 ゆすりのネタになると思ったのによー、と笑えば、「あれ? じゃあさっき顔が赤くなってたのは?」と四月二日が秋葉を見遣った。
「赤くなってた? 朝焼けのせいちゃうかなぁ?」
 首を傾げ、ニンマリと笑顔を浮かべた。
「まあとにかく、枝垂桜の写真だけ、あとでファイヴに提出しとくぜ」
「撮ってない……ですって?」
 ユラーリ、と俯き加減に立っていた歩人のめがねが、キラリと光る。
 誘輔さーん、と、地の底から響くような低い声が聞こえて、歩人が猛然とダッシュ!
「やめ……やめろ。カメラ壊れたらどうするんだ」
「ああ、そうてすね。カメラ……カメラを壊さないと……」
「待て待て、冷静になれ、やめろー!」
 枝垂桜の周りを走り回る2人を、しばらくの間、他の覚者達は笑いながら眺めていた。

「じゃあ枝垂桜の朝露の噂が本当か、調べるとしよか」
(敵さんも気になっとるみたいやし、ほんま長生き出るんかな?)
 それやったら嬉しいんやけどなあ、と秋葉が肩を竦める。
「単なる噂だろうが、調べてみるのも面白い」
 維摩が呟き、全員で枝垂桜に近付いた。
 他の仲間達が朝露を集めている間、誘輔とゲイルは桜の根元に寄っていく。
「桜の木の下にゃ死体が埋まってるとか言うしな。死体の精気吸って不思議な力を宿したんじゃねえか? なんて思って色々調べてみたが、それらしい事件は起きてなかったな。――ま、明るみに出てねえなら、調べても出てこないが」
 壊されなかったカメラを撫でながら誘輔が言えば、ゲイルが頷く。
「死体は遠慮したいが、根元に何か埋まってるかもとは、俺も思ったな」
 取り敢えず、とゲイルが根元付近を透視してみれば、桜の花弁が一枚、埋まっている。
 否――花弁にしては、一回り大きいようだ。
「………………」
 掘り起こしてみると、平たい石のような質感。
「勾玉……とか?」
 秋葉が呟けば、「幽霊の正体見たり枯れ尾花、だな」と誘輔も零した。
 風が吹き、桜の枝が大きく揺れる。
 途端、桜吹雪が舞った。
「花が散らなかった原因は、根元に埋まってたこれだったんですね」
 奏空が呟き、「じゃあ泊まる必要は――」と言いかけたのを、両慈が肩を叩き止めた。
「言わぬが花、だ」

 手に入れたのは、朝露と、花弁の形をした平べったい石。
「調べてもらったら、また返すからね」
 枝垂桜へとそう言って、覚者達はその場を後にした。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

お待たせを致しました。ご参加有難うございました。

MVPは、トルテを友好的に退かせる言葉を仰った秋葉さんに。
彼女の期待度は半端ないです。次、逢う事があればお気をつけを。ご愁傷様です。

囮の演技、皆様頑張って下さいました。お疲れ様でした。




 
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