【Pixie】妖精と五つの遺跡
●
古来からイングランドを中心にひっそりと暮らしてきた妖精たちは、文明の進歩に押し出されるようにして住処を移し続けてきた。
あるときは海辺の岩穴。あるときは住戸の屋根裏。あるときは森の木のうろ。またあるときは船の板下。
こうして流れ流れて住処を変え、姿形も変えてきた彼らはやがて日本という国に流れ着いた。
「……その日本の人間はほとんど裸足でな。偉い人なぞは『ちょんまげ』とやらをしておった。ワシのひいひいじいさんはそのまげをつまむのが好きだったと」
「じーちゃんもうその話はいーよー! 遺跡の話をしてよー!」
日本の山奥に存在する妖精の住処。どんぐりが枕に見えるほど小さな子供が足をばたばたさせて言った。
髪は美しくウェーブがかかり、ケシの花びらが冠のように輪を作っている。
容姿は少女のようではあるが、この種族に性別はない。
人間が観測した瞬間から容姿が決まると言われ、この子供を観測したのは山で花を摘んでいた少女であったがために、このような容姿をしている。
彼らは妖精。ピクシーと呼ばれる種族である。
髭をもてあそぶ老人風のピクシーは低くうなった。
「しかしのう。あれは人間と……」
「人間とピクシーが仲良しだった頃に作った五つの遺跡。最奥に眠るお宝はボクら一族が失ったすっごい力がこもった道具。うーん、すてきー!」
話さずとも既に暗記しているようだ。老人風のピクシーは言葉を止めてため息をついた。
「しかし遺跡には近づいてはならんぞ。人間にもじゃ。特に今の人間はワシらを見ると捕まえて喰うそうじゃ。電気を流して遊ぶとも言われておる」
「まっさかー!」
少女風のピクシーはどんぐりを抱えて足をぴーんと伸ばした。
そのままゆっくりと空へ舞い上がる。
タンポポの綿毛が飛ぶように、ピクシーもまた空へふんわり浮かぶことができるのだ。
「人間なんて恐くないって。ボクが確かめてくるよ! まっててねー!」
「こら、またんかい! ほびゃあ!?」
追いかけようとする老人風のピクシーだが、腰がぐきっと鳴ってぶっ倒れた。
「ぎっくりごしじゃ……トホホ」
飛び去っていく少女風のピクシーを見上げ、老人風のピクシーはため息をついた。
「何も危険がなければよいがのう」
●
久方 万里(nCL2000005)が語ったのは、そうしたピクシーの会話風景であった。
「と、こんな風に話していたんだけど、この後少女風のピクシーは隔者につかまってしまうの。それを阻止して欲しいの」
ここはF.i.V.Eの会議室。覚者が集められ、説明を受けていた。
「隔者は全部で五人。全員が械の因子で土業。フリーの妖ハンターで、戦闘力はソコソコなの。偶然見つけたピクシーをオモチャにして遊ぼうと考えてるみたい」
万里はシャドウボクシングのフォームで言った。
「そんなの許せないよね! やっつけて助けてあげなきゃ! 遺跡のことに興味があるなら、聞いてみてもいいかもね!」
古来からイングランドを中心にひっそりと暮らしてきた妖精たちは、文明の進歩に押し出されるようにして住処を移し続けてきた。
あるときは海辺の岩穴。あるときは住戸の屋根裏。あるときは森の木のうろ。またあるときは船の板下。
こうして流れ流れて住処を変え、姿形も変えてきた彼らはやがて日本という国に流れ着いた。
「……その日本の人間はほとんど裸足でな。偉い人なぞは『ちょんまげ』とやらをしておった。ワシのひいひいじいさんはそのまげをつまむのが好きだったと」
「じーちゃんもうその話はいーよー! 遺跡の話をしてよー!」
日本の山奥に存在する妖精の住処。どんぐりが枕に見えるほど小さな子供が足をばたばたさせて言った。
髪は美しくウェーブがかかり、ケシの花びらが冠のように輪を作っている。
容姿は少女のようではあるが、この種族に性別はない。
人間が観測した瞬間から容姿が決まると言われ、この子供を観測したのは山で花を摘んでいた少女であったがために、このような容姿をしている。
彼らは妖精。ピクシーと呼ばれる種族である。
髭をもてあそぶ老人風のピクシーは低くうなった。
「しかしのう。あれは人間と……」
「人間とピクシーが仲良しだった頃に作った五つの遺跡。最奥に眠るお宝はボクら一族が失ったすっごい力がこもった道具。うーん、すてきー!」
話さずとも既に暗記しているようだ。老人風のピクシーは言葉を止めてため息をついた。
「しかし遺跡には近づいてはならんぞ。人間にもじゃ。特に今の人間はワシらを見ると捕まえて喰うそうじゃ。電気を流して遊ぶとも言われておる」
「まっさかー!」
少女風のピクシーはどんぐりを抱えて足をぴーんと伸ばした。
そのままゆっくりと空へ舞い上がる。
タンポポの綿毛が飛ぶように、ピクシーもまた空へふんわり浮かぶことができるのだ。
「人間なんて恐くないって。ボクが確かめてくるよ! まっててねー!」
「こら、またんかい! ほびゃあ!?」
追いかけようとする老人風のピクシーだが、腰がぐきっと鳴ってぶっ倒れた。
「ぎっくりごしじゃ……トホホ」
飛び去っていく少女風のピクシーを見上げ、老人風のピクシーはため息をついた。
「何も危険がなければよいがのう」
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久方 万里(nCL2000005)が語ったのは、そうしたピクシーの会話風景であった。
「と、こんな風に話していたんだけど、この後少女風のピクシーは隔者につかまってしまうの。それを阻止して欲しいの」
ここはF.i.V.Eの会議室。覚者が集められ、説明を受けていた。
「隔者は全部で五人。全員が械の因子で土業。フリーの妖ハンターで、戦闘力はソコソコなの。偶然見つけたピクシーをオモチャにして遊ぼうと考えてるみたい」
万里はシャドウボクシングのフォームで言った。
「そんなの許せないよね! やっつけて助けてあげなきゃ! 遺跡のことに興味があるなら、聞いてみてもいいかもね!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ピクシーを助ける
2.(できれば)ピクシーと仲良くなる
3.なし
2.(できれば)ピクシーと仲良くなる
3.なし
●隔者
ピクシーを捕まえる集団です。
既につかまって瓶に詰められてしまっているところからスタートとなります。その場に駆けつけ、彼らを倒して瓶を奪いましょう。
械の因子、土業。レベル15前後。合計5人。
場所は森。
●少女風のピクシー
ピクシー。
F.i.V.E的には『古妖』にカテゴライズされます。
ふわふわ浮かぶ能力がある他は、特によくわかっていません。
サイズはリカちゃん人形程度。ふりふりした子供服を着て、花びらを冠みたいにつけています。
古代の遺跡を探険するのが夢で、協力してくれる人間を探しています。(メタいこというと遺跡探索がシリーズの主な目的です)
ただし観測された時点で名前がついていないので、このピクシーには呼び名が存在していません。
相談して決めてあげると、今後呼びやすくなるでしょう。
●シリーズの公開予定
一月に一回程度のスパンでシリーズが進行します。
大体、月の最終週くらいにオープニングを公開する予定です。ゲーム全体のペースも影響してくるのでズレることもあると思われます。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年05月09日
2016年05月09日
■メイン参加者 8人■

●ピクシー救出作戦
天野 澄香(CL2000194)は森上空を静かに飛行していた。
陽光の照り返しでよくは見えないが、森の中に複数の男性が集合しているのがわかる。
「できれば近づきたいですけど……」
飛行音や枝葉の音が相手に聞こえてしまうとまずい。澄香は戦闘開始まで≪送受心・改≫の知らせを待った。
一方その頃。
「古妖を捕まえてオモチャにしようなんて、とんでもない考えですね」
森の中を、『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)は身を低くして進んでいた。
「本当、おもてなしの精神はどこへいってしまったのかしら……おっと」
≪鋭聴力≫をすまして進む『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)が、小さく手を上げて理央たちを止めた。敵の集団が近いようだ。
ここからは黙って進んだ方がいいだろう。
『二兎の救い手』明石 ミュエル(CL2000172)は≪送受心・改≫をアクティブにして心の声で会話を始めた。
『酷い人たち、だね。絶対、助けてあげなきゃ』
『ワシらは逆側から回り込む。そっちは頼んだぞ』
『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)は『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)と『鴟梟』谷崎・結唯(CL2000305)を引き連れて回り込むコースへ進んだ。
≪木の心≫と≪超直観≫で相手が逃走するであろうコースを割り出したのだ。
結唯は相変わらず面倒くさそうにしているが、いちいちちょっかいをかける樹香ではない。話題を元のものにシフトする。
『金儲けや技術利用でなくオモチャにするとはとんだ趣味じゃのう、連中は』
『そんなことをするから人間が誤解されてしまうんだ。しっかりお仕置きしてやらんとな』
『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)はできる限り気配を殺しながら、目標へと迫っていく。
さて一方で、男たちはピクシーを入れた瓶をじろじろと眺めていた。
「ゲヘヘ、遺跡探索に来てみたらとんだ拾いものだぜ」
「この子に色んな服を着せて遊ぼうぜ」
「お人形ハウスを押し入れから出さないとナァ!」
「ヒャッハー!」
「さあベルトポーチに入れて帰ろうぜ!」
男たちがピクシーの入った瓶をベルトポーチの中に入れた瞬間、どこからともなく水の竜が突撃してきた。
「うひゃああ!?」
泡を食った男たちに、ゲイルが神具を腕に装着して飛びかかっていく。
「樹香!」
「うむ……!」
同じく茂みから飛び出した樹香が、周囲の位置関係を一瞬で把握。
手にした薙刀で倒れた男のベルトポーチを切り裂いた。
「まずい、妖精が!」
慌てて瓶をキャッチしようとする男だったが、枝葉を突き破って急降下してきた澄香が素早く串状のトゲを放った。
脇腹に刺さったトゲから途端に大量のツタが伸びて腕の動きを制限する。
ピクシーの入った瓶は空中をくるくる回って飛んだ。
中のピクシーは状況がわからず目を回している。
キャッチしようと手を伸ばす澄香。が、しかし。澄香の腹部に回し蹴りが炸裂した。
樹幹に叩き付けられる澄香。
回転した瓶は男の手の上に乗る。
「邪魔が入った、俺はこいつを持って逃げるぜ」
「逃がしません!」
ラーラは両手で素早く魔方陣を描くと、いつものおまじないを詠唱し始める。
周囲に熱い石炭が無数に現われた。
「『良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を…イオ・ブルチャーレ!』」
「させるか!」
男が立ち塞がり、ラーラの激しい砲撃を受け止める。大量に吹き上がる炎の柱。
そんな光景を尻目に男は瓶を持って逃げ……ようとするが、そのルートは予想済みだ。理央と結唯が二箇所から同時に飛び出し、行く手を阻む。
結唯は二本の刀を同時に抜いて男の腕を切断。
腕ごと飛んでいく瓶。
咄嗟に繰り出した蹴りを刀で受ける。常人ならすねから切断されている筈の足は鋼のように硬い。結唯は瓶の回収を他人に任せ、相手の撃破に集中した。
相手の側面に回り込みながら切りつけ、回転しながら背後に回って更に切りつける。
踊るように相手を一週すると、刀を逆手に握って突き刺した。
崩れ落ちる男。
一方で、理央は瓶の回収に走る。
「瓶を!」
「させるか!」
瓶めがけて走る理央。向かいから駆け込んでくる男。
理央は牽制のために水のエネルギーをクナイに纏わせて投擲。
男はそれを顔の前でキャッチ。
ダメージをカット。だがそれでいい。理央は一瞬だけ生まれた隙をついて瓶をダイビングキャッチ。
転がるように瓶を守りにかかる――が、足下の地面が急速に隆起。強制的にひっくり返された。
千切れたベルトポーチを持った男が、ポーチを鞭のようにしならせて叩き付けてくる。
絶妙なコントロールで瓶だけを狙った打撃は、理央の手から瓶を跳ね上げた。手を伸ばす男。
「そこ!」
横合いから放たれた水龍牙になぎ倒された。
「瓶をお願い!」
御菓子はすぐさま次の攻撃を構えつつ、ミュエルに目配せした。
「んっ……!」
ミュエルは落下する瓶をスライディングしつつキャッチ。
「ヒャッハー幼女ダー!」
両手両足を広げてダイブしてくる男。
ミュエルはどん引きしたが、そのばから転がってプレスを回避。
四つん這いのまま食らいつこうする男に、至近距離で棘散舞を投げつけた。
急速に伸びたツタで地面に押しつけられる男。
ミュエルは瓶を開けて開放しようとしたが、かなり硬く蓋が固定されていたようで開かない。
そうこうしている間に、腕を切断された男が血まみれで突撃してきた。
まだ息があったのだ。死ぬ気のタックルは蓋を開けようとしていたミュエルを突き飛ばすに充分だった。思わず手から離れた瓶を取ろうと、別の男がジャンプする。
と同時にゲイルもジャンプ。
バスケットボールのファーストトスのように手を伸ばしあう二人……だが、キャッチしたのはどちらでもなかった。
なぜなら横合いから突き出た男の隆槍と樹香の地烈が炸裂し、二人を突き飛ばしたからだ。
地面へすとんと落ちる瓶。
樹香と男はにらみ合い、瓶を中心にゆっくりと円周移動を始めた。
今更な説明になるが、男たちを取り囲むように強襲した結果、相手を逃がす心配は無くなったが、その反面ブロック効果に頼れなくなった。
そんなわけで現在、瓶を巡っての乱戦状態である。
樹香は瓶へ飛びつく――と見せかけて、相手の足下に棘散舞を設置。相手の足をとって転倒させる。男の方も隆槍を発動させて樹幹を転倒させ、瓶にギリギリ手が届かない位置にお互いうつ伏せに倒れた。
「くっ……!」
匍匐で距離を伸ばして瓶を掴みにかかる樹香。瓶に指の先端が触れた――瞬間。
「ヒャッハー!」
四つん這いで突っ込んできた男が異様に広い顎でもって瓶を咥え、かっさらっていった。
そのまま逃げていくかと思われたが、地面と水平に飛行した澄香がすぐそばまで接近。
直接なぐりつけるのではなく、あえて毒の霧を散布。
思い切り吸い込んでしまった男ははき出すように瓶を離した。
その瓶を掴んで緊急制動。
すぐさま上空に飛んで逃げれば安全だ。そう考えた澄香は直角軌道で上空へ飛行開始。
地面から5メートル離れたその途端、横から強烈なフライングエルボーを食らった。ジャンプ攻撃によって追いつかれてしまったのだ。
瓶に直撃してはいけないと庇ったからか、直撃したのは澄香のほうだ。
バランスを崩し、螺旋を描くような軌道で木の枝へ突っ込む澄香。
その反動で手から瓶が転げ落ちていく。
瓶は枝の上をレールのように転がっていき、凹凸で撥ねて空中へ躍り出た。
「もらったぁー!」
樹幹を蹴って飛びつく男――を。
「させません!」
魔法の砲撃で撃墜するラーラ。
一拍遅れてジャンプしようとするゲイル――を。
「シャオラー!」
ドロップキックで撃墜する男。
更に一拍遅れて飛びつくヒャッハー――を。
「……」
刀を二本まとめて突き刺して強制固定する結唯。
そうして落下した瓶を地面スレスレの位置ですくいあげるようにキャッチした理央は、それを胸に抱えてダッシュ。
イメージとしてはラグビーの逃げ切りフォームだ。
相手も似たようなことを考えたようで、理央の腰に飛びつくようにタックルしてくる。
屈強な男性が腰にタックルしてくるなんて経験しない(してもらっては困る)理央はおもわず転倒。
そこへ血を吐きながらヒャッハーがダイブ。
更に別の男がダイブ。
団子状になってしまってはピンチだ。
理央は瓶を転がすようにパスを出した。
「お願いします!」
「はい!」
受け取ったのはラーラだ。
それを追いかけようとタックルを仕掛ける男――だが、ラーラも二の轍は踏まない。タックルを受ける直前にさらなるパスを出した。パスを受け取ったのはそう。
「逃げ切ってみせる!」
ゲイルである。
片手でキャッチし、糸で素早く固定。そのまま逃げ切りのダッシュを開始する。
追いかけるべく走り出す男たち。
が、それを阻止すべく回り込む御菓子。
「水でも被って、反省しなさい!」
御菓子は水の竜を作り出すと、向かってくる男たちを追い返すように解き放った。
「はにゃーん!?」
思い切り転倒する男たち。
そんな男たちの枕元にかがみ込むミュエル。
「ごめん、ね」
ミュエルはファ○リーズめいた霧吹きを構えると、相手の顔にぷしゅーと吹き付けた。
「は……ハックシュ!?」
なんかよくわかんない花粉によってくしゃみがとまらなくなる男たち。
うーんと唸って再び顔を上げる……と。
理央やラーラたちが彼らを囲んで腕組みしていた。
「まだやりますか?」
「……はは」
半笑いでお手上げする男たちであった。
●
男たちはどうやらこの周辺に存在するという古代遺跡を探しにやってきた遺跡ハンターだったようだ。
『生きたお人形さん遊びがしたくて仕方なかったんです』と言って土下座した彼らは、ティッシュで鼻をかみながら去って行った。
とはいえ得たものはある。男たちの持っていた古い地図だ。
巻物に記された地図はかなり大雑把ではあったものの、宝の地図よろしくおおまかな位置が分かるようになっていた。
男たちが冒険に出るには十分な素材である。
さておき。
「恐かったね。もう、大丈夫、だよ……」
ミュエルによって瓶から出されたピクシーは、しばらくよろよろとしてから木陰にぺたんと座り込んだ。
「うひー。すっごい目にあったー。たすかったー」
酷い目にあった割にはピクシーは落ち着いているようだ。ミュエルの≪マイナスイオン≫が効いているのだろう。
この段階で分かったことだが、会話に送受心は必要ないようだ。
ピクシーはとても小さい音量で『ピケピケ』と喋っているが、不思議と相手が何を言っているのか分かるのだ。
結唯はこれを『脳内に字幕が表示されるよう』と考えた。
ちなみに結唯は色々考えていたし言いたいこともあったが、言うと確実に空気を悪くしそうだったから黙っていた。
そもそもお喋りは嫌いである。めんどいし。
結唯のそんな空気を察した理央が、咳払いをして語り始めた。
「少し休憩しますか?」
「よかったらお菓子でも」
澄香がポケットからクッキーを取り出す。あれだけ乱闘していてよく砕けなかったなと思ったが、どうやらアテンドの中に収納していたようである。
「あーどうもごていねいにー」
ピクシーはとてもいい加減にお礼を言ってからクッキーを手に取った。
座布団にして座れるくらいのクッキーを両手に抱え、がりがり食べ始めるピクシー。
「えっと……意外と元気なんですね」
「もももふももむももむもむ」
「飲み込んでからでいいですか?」
ああこれ、相手がちゃんと発音できないとこっちもわからないんだな。などと思いつつ続きを促す理央。
クッキーをがつがついきすぎて胸につかえたらしくトントンしはじめたので、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出した。
このまま渡したら水浴び状態なので、ボトルの蓋をお椀代わりにして渡す。ピクシーはそれを抱えてぐびぐびいった。
「ぷはー、おかまいなーくー」
またもいい加減に対応するピクシーである。
他人から出されたものを平気で飲む辺り、かなり危険意識の薄いコのようだ。
ピクシー全体がそうなのか、このコ特有の性格なのか、数を見ていない彼女たちには分かりかねる。
「と、ところで」
女の子ばっかりでキャッキャしていた場である。それゆえ入りずらそうにしていたゲイルがそそっと会話に混じってきた。
「俺はゲイル・レオンハートという者だ。こっちは……」
一通り仲間の名前を紹介してから、ゲイルはピクシーに水を向ける。
「聞くところによると、ピクシーは個別の名前を持たずに生まれてくるそうだ。お前に名前はあるか?」
「もへ? もむむも?」
「飲み込んでから」
「んぐんぐ……ないけど? 呼ばれることないしね」
「では、僭越ながら……」
ゲイルはちょっと照れくさそうに言った。
「名前をつけてみるというのは、どうだろうか」
「候補はこの四つです!」
すごい速さで間に割り込んでくる澄香。
予め用意したであろうメモには『コクリコちゃん』『ヒナちゃん』『ポポちゃん』『ふわりん』の四つが書いてある。
「ワシのお勧めは、ヒナちゃんじゃ!」
同じくシュインと割り込んでくる樹香。
「…………」
ゲイルは『ピコって名前を考えていたのに』とか想いながら、若い娘たちに譲るようにスッと後退した。
拾ってきた子犬の名前を決めるときに最終的に権利をゆずるお父さんの感覚に近い。
ピクシーは暫く名前の文字を見つめ、うーんと腕組みして悩み始めた。
もしかして文字が読めないのかとも思ったが、どうやらそんなことはないらしく……ピクシーはこう言った。
「ぜんぶじゃダメ?」
「ぜん……ぶ?」
首を傾げるピクシー。
首を傾げるミュエル。
「だってイイじゃん、名前沢山あるとかスゴイじゃん?」
ピクシーはふんわり浮遊して、両手両足をばたばたさせて『すごいじゃんのポーズ』をとった。
「本人がそう言うなら、それでもいいんですが……」
ラーラが困った顔で御菓子を見た。御菓子はなんかすごい目でピクシーを見ている……のでそっと目をそらした。反らした先が結唯だったが、なんか『話をさっさと進めてくれ』の目をしていたので更に目をそらした。
これは自分で進めないとまずそうだ。
「えっと、こんなところでどうしたんですか? なにかお探しものでも」
「おおっ、そうだ!」
『おおそうだ』のポーズで身体ごとふりかえるピクシー。
「あんね、私ね、この辺にあるっていう古代遺跡を冒険したいんだよ! 人間と一緒でないと進めないすっごい仕掛けがあるらしいんだ。ワクワクするだろー! するだろー!」
『するだろ』のポーズで鼻先まで飛んでくるピクシー。
ラーラはやや顔を引きながら笑った。
「遺跡ですか。すごく興味があります」
「だろー!」
「わくわくっていうか」
「だろー!」
「もしかしなくても、この地図を頼りに行けば良いのでは?」
理央はそう言って、先程男たちが落としていった地図を開いた。
『それだそれだそれに決まってるよーやだーもー』とか言いながらテンションを上げるピクシー。
理央もようやく話したい話題にシフトしたなという感じで安堵した……その途端。
「も、もう我慢できない!」
御菓子が謎のオーラを放って飛び込んできた。
なんか背後にヒャッハーの幻影が浮かんでいた気もした。
「コクリコちゃんコクリコちゃん! 妖精さんの音楽が知りたいの! どんな歌を歌うの? どんな楽器を奏でて、どんな踊りをするの!? それでねそれでね、ハアハア!」
聞きたいことがありすぎてダムが決壊したようだ。
「え、こ、こうとか?」
ピクシーもピクシーで先端のとがった枝の上でつま先立ちになってくるくるする踊りを見せ始めるもんだから御菓子のテンションはマックスを超えた。顔を真っ赤にして頭をわしゃわしゃやりながら『グレートハイランドオオオ!』とか謎の奇声をあげていた。
このままだと止まらなさそうなので、羽交い締めにして引きはがしておくラーラ。
落ち着かせるために香水の瓶を鼻先にシュッとやるミュエル。
「…………」
そんな一連の様子を眺めながら、結唯とゲイルはこれから始まる冒険の空気を感じていた。
拾った地図には古い文字でこうある。
『無限樹の遺跡』
天野 澄香(CL2000194)は森上空を静かに飛行していた。
陽光の照り返しでよくは見えないが、森の中に複数の男性が集合しているのがわかる。
「できれば近づきたいですけど……」
飛行音や枝葉の音が相手に聞こえてしまうとまずい。澄香は戦闘開始まで≪送受心・改≫の知らせを待った。
一方その頃。
「古妖を捕まえてオモチャにしようなんて、とんでもない考えですね」
森の中を、『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)は身を低くして進んでいた。
「本当、おもてなしの精神はどこへいってしまったのかしら……おっと」
≪鋭聴力≫をすまして進む『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)が、小さく手を上げて理央たちを止めた。敵の集団が近いようだ。
ここからは黙って進んだ方がいいだろう。
『二兎の救い手』明石 ミュエル(CL2000172)は≪送受心・改≫をアクティブにして心の声で会話を始めた。
『酷い人たち、だね。絶対、助けてあげなきゃ』
『ワシらは逆側から回り込む。そっちは頼んだぞ』
『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)は『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)と『鴟梟』谷崎・結唯(CL2000305)を引き連れて回り込むコースへ進んだ。
≪木の心≫と≪超直観≫で相手が逃走するであろうコースを割り出したのだ。
結唯は相変わらず面倒くさそうにしているが、いちいちちょっかいをかける樹香ではない。話題を元のものにシフトする。
『金儲けや技術利用でなくオモチャにするとはとんだ趣味じゃのう、連中は』
『そんなことをするから人間が誤解されてしまうんだ。しっかりお仕置きしてやらんとな』
『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)はできる限り気配を殺しながら、目標へと迫っていく。
さて一方で、男たちはピクシーを入れた瓶をじろじろと眺めていた。
「ゲヘヘ、遺跡探索に来てみたらとんだ拾いものだぜ」
「この子に色んな服を着せて遊ぼうぜ」
「お人形ハウスを押し入れから出さないとナァ!」
「ヒャッハー!」
「さあベルトポーチに入れて帰ろうぜ!」
男たちがピクシーの入った瓶をベルトポーチの中に入れた瞬間、どこからともなく水の竜が突撃してきた。
「うひゃああ!?」
泡を食った男たちに、ゲイルが神具を腕に装着して飛びかかっていく。
「樹香!」
「うむ……!」
同じく茂みから飛び出した樹香が、周囲の位置関係を一瞬で把握。
手にした薙刀で倒れた男のベルトポーチを切り裂いた。
「まずい、妖精が!」
慌てて瓶をキャッチしようとする男だったが、枝葉を突き破って急降下してきた澄香が素早く串状のトゲを放った。
脇腹に刺さったトゲから途端に大量のツタが伸びて腕の動きを制限する。
ピクシーの入った瓶は空中をくるくる回って飛んだ。
中のピクシーは状況がわからず目を回している。
キャッチしようと手を伸ばす澄香。が、しかし。澄香の腹部に回し蹴りが炸裂した。
樹幹に叩き付けられる澄香。
回転した瓶は男の手の上に乗る。
「邪魔が入った、俺はこいつを持って逃げるぜ」
「逃がしません!」
ラーラは両手で素早く魔方陣を描くと、いつものおまじないを詠唱し始める。
周囲に熱い石炭が無数に現われた。
「『良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を…イオ・ブルチャーレ!』」
「させるか!」
男が立ち塞がり、ラーラの激しい砲撃を受け止める。大量に吹き上がる炎の柱。
そんな光景を尻目に男は瓶を持って逃げ……ようとするが、そのルートは予想済みだ。理央と結唯が二箇所から同時に飛び出し、行く手を阻む。
結唯は二本の刀を同時に抜いて男の腕を切断。
腕ごと飛んでいく瓶。
咄嗟に繰り出した蹴りを刀で受ける。常人ならすねから切断されている筈の足は鋼のように硬い。結唯は瓶の回収を他人に任せ、相手の撃破に集中した。
相手の側面に回り込みながら切りつけ、回転しながら背後に回って更に切りつける。
踊るように相手を一週すると、刀を逆手に握って突き刺した。
崩れ落ちる男。
一方で、理央は瓶の回収に走る。
「瓶を!」
「させるか!」
瓶めがけて走る理央。向かいから駆け込んでくる男。
理央は牽制のために水のエネルギーをクナイに纏わせて投擲。
男はそれを顔の前でキャッチ。
ダメージをカット。だがそれでいい。理央は一瞬だけ生まれた隙をついて瓶をダイビングキャッチ。
転がるように瓶を守りにかかる――が、足下の地面が急速に隆起。強制的にひっくり返された。
千切れたベルトポーチを持った男が、ポーチを鞭のようにしならせて叩き付けてくる。
絶妙なコントロールで瓶だけを狙った打撃は、理央の手から瓶を跳ね上げた。手を伸ばす男。
「そこ!」
横合いから放たれた水龍牙になぎ倒された。
「瓶をお願い!」
御菓子はすぐさま次の攻撃を構えつつ、ミュエルに目配せした。
「んっ……!」
ミュエルは落下する瓶をスライディングしつつキャッチ。
「ヒャッハー幼女ダー!」
両手両足を広げてダイブしてくる男。
ミュエルはどん引きしたが、そのばから転がってプレスを回避。
四つん這いのまま食らいつこうする男に、至近距離で棘散舞を投げつけた。
急速に伸びたツタで地面に押しつけられる男。
ミュエルは瓶を開けて開放しようとしたが、かなり硬く蓋が固定されていたようで開かない。
そうこうしている間に、腕を切断された男が血まみれで突撃してきた。
まだ息があったのだ。死ぬ気のタックルは蓋を開けようとしていたミュエルを突き飛ばすに充分だった。思わず手から離れた瓶を取ろうと、別の男がジャンプする。
と同時にゲイルもジャンプ。
バスケットボールのファーストトスのように手を伸ばしあう二人……だが、キャッチしたのはどちらでもなかった。
なぜなら横合いから突き出た男の隆槍と樹香の地烈が炸裂し、二人を突き飛ばしたからだ。
地面へすとんと落ちる瓶。
樹香と男はにらみ合い、瓶を中心にゆっくりと円周移動を始めた。
今更な説明になるが、男たちを取り囲むように強襲した結果、相手を逃がす心配は無くなったが、その反面ブロック効果に頼れなくなった。
そんなわけで現在、瓶を巡っての乱戦状態である。
樹香は瓶へ飛びつく――と見せかけて、相手の足下に棘散舞を設置。相手の足をとって転倒させる。男の方も隆槍を発動させて樹幹を転倒させ、瓶にギリギリ手が届かない位置にお互いうつ伏せに倒れた。
「くっ……!」
匍匐で距離を伸ばして瓶を掴みにかかる樹香。瓶に指の先端が触れた――瞬間。
「ヒャッハー!」
四つん這いで突っ込んできた男が異様に広い顎でもって瓶を咥え、かっさらっていった。
そのまま逃げていくかと思われたが、地面と水平に飛行した澄香がすぐそばまで接近。
直接なぐりつけるのではなく、あえて毒の霧を散布。
思い切り吸い込んでしまった男ははき出すように瓶を離した。
その瓶を掴んで緊急制動。
すぐさま上空に飛んで逃げれば安全だ。そう考えた澄香は直角軌道で上空へ飛行開始。
地面から5メートル離れたその途端、横から強烈なフライングエルボーを食らった。ジャンプ攻撃によって追いつかれてしまったのだ。
瓶に直撃してはいけないと庇ったからか、直撃したのは澄香のほうだ。
バランスを崩し、螺旋を描くような軌道で木の枝へ突っ込む澄香。
その反動で手から瓶が転げ落ちていく。
瓶は枝の上をレールのように転がっていき、凹凸で撥ねて空中へ躍り出た。
「もらったぁー!」
樹幹を蹴って飛びつく男――を。
「させません!」
魔法の砲撃で撃墜するラーラ。
一拍遅れてジャンプしようとするゲイル――を。
「シャオラー!」
ドロップキックで撃墜する男。
更に一拍遅れて飛びつくヒャッハー――を。
「……」
刀を二本まとめて突き刺して強制固定する結唯。
そうして落下した瓶を地面スレスレの位置ですくいあげるようにキャッチした理央は、それを胸に抱えてダッシュ。
イメージとしてはラグビーの逃げ切りフォームだ。
相手も似たようなことを考えたようで、理央の腰に飛びつくようにタックルしてくる。
屈強な男性が腰にタックルしてくるなんて経験しない(してもらっては困る)理央はおもわず転倒。
そこへ血を吐きながらヒャッハーがダイブ。
更に別の男がダイブ。
団子状になってしまってはピンチだ。
理央は瓶を転がすようにパスを出した。
「お願いします!」
「はい!」
受け取ったのはラーラだ。
それを追いかけようとタックルを仕掛ける男――だが、ラーラも二の轍は踏まない。タックルを受ける直前にさらなるパスを出した。パスを受け取ったのはそう。
「逃げ切ってみせる!」
ゲイルである。
片手でキャッチし、糸で素早く固定。そのまま逃げ切りのダッシュを開始する。
追いかけるべく走り出す男たち。
が、それを阻止すべく回り込む御菓子。
「水でも被って、反省しなさい!」
御菓子は水の竜を作り出すと、向かってくる男たちを追い返すように解き放った。
「はにゃーん!?」
思い切り転倒する男たち。
そんな男たちの枕元にかがみ込むミュエル。
「ごめん、ね」
ミュエルはファ○リーズめいた霧吹きを構えると、相手の顔にぷしゅーと吹き付けた。
「は……ハックシュ!?」
なんかよくわかんない花粉によってくしゃみがとまらなくなる男たち。
うーんと唸って再び顔を上げる……と。
理央やラーラたちが彼らを囲んで腕組みしていた。
「まだやりますか?」
「……はは」
半笑いでお手上げする男たちであった。
●
男たちはどうやらこの周辺に存在するという古代遺跡を探しにやってきた遺跡ハンターだったようだ。
『生きたお人形さん遊びがしたくて仕方なかったんです』と言って土下座した彼らは、ティッシュで鼻をかみながら去って行った。
とはいえ得たものはある。男たちの持っていた古い地図だ。
巻物に記された地図はかなり大雑把ではあったものの、宝の地図よろしくおおまかな位置が分かるようになっていた。
男たちが冒険に出るには十分な素材である。
さておき。
「恐かったね。もう、大丈夫、だよ……」
ミュエルによって瓶から出されたピクシーは、しばらくよろよろとしてから木陰にぺたんと座り込んだ。
「うひー。すっごい目にあったー。たすかったー」
酷い目にあった割にはピクシーは落ち着いているようだ。ミュエルの≪マイナスイオン≫が効いているのだろう。
この段階で分かったことだが、会話に送受心は必要ないようだ。
ピクシーはとても小さい音量で『ピケピケ』と喋っているが、不思議と相手が何を言っているのか分かるのだ。
結唯はこれを『脳内に字幕が表示されるよう』と考えた。
ちなみに結唯は色々考えていたし言いたいこともあったが、言うと確実に空気を悪くしそうだったから黙っていた。
そもそもお喋りは嫌いである。めんどいし。
結唯のそんな空気を察した理央が、咳払いをして語り始めた。
「少し休憩しますか?」
「よかったらお菓子でも」
澄香がポケットからクッキーを取り出す。あれだけ乱闘していてよく砕けなかったなと思ったが、どうやらアテンドの中に収納していたようである。
「あーどうもごていねいにー」
ピクシーはとてもいい加減にお礼を言ってからクッキーを手に取った。
座布団にして座れるくらいのクッキーを両手に抱え、がりがり食べ始めるピクシー。
「えっと……意外と元気なんですね」
「もももふももむももむもむ」
「飲み込んでからでいいですか?」
ああこれ、相手がちゃんと発音できないとこっちもわからないんだな。などと思いつつ続きを促す理央。
クッキーをがつがついきすぎて胸につかえたらしくトントンしはじめたので、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出した。
このまま渡したら水浴び状態なので、ボトルの蓋をお椀代わりにして渡す。ピクシーはそれを抱えてぐびぐびいった。
「ぷはー、おかまいなーくー」
またもいい加減に対応するピクシーである。
他人から出されたものを平気で飲む辺り、かなり危険意識の薄いコのようだ。
ピクシー全体がそうなのか、このコ特有の性格なのか、数を見ていない彼女たちには分かりかねる。
「と、ところで」
女の子ばっかりでキャッキャしていた場である。それゆえ入りずらそうにしていたゲイルがそそっと会話に混じってきた。
「俺はゲイル・レオンハートという者だ。こっちは……」
一通り仲間の名前を紹介してから、ゲイルはピクシーに水を向ける。
「聞くところによると、ピクシーは個別の名前を持たずに生まれてくるそうだ。お前に名前はあるか?」
「もへ? もむむも?」
「飲み込んでから」
「んぐんぐ……ないけど? 呼ばれることないしね」
「では、僭越ながら……」
ゲイルはちょっと照れくさそうに言った。
「名前をつけてみるというのは、どうだろうか」
「候補はこの四つです!」
すごい速さで間に割り込んでくる澄香。
予め用意したであろうメモには『コクリコちゃん』『ヒナちゃん』『ポポちゃん』『ふわりん』の四つが書いてある。
「ワシのお勧めは、ヒナちゃんじゃ!」
同じくシュインと割り込んでくる樹香。
「…………」
ゲイルは『ピコって名前を考えていたのに』とか想いながら、若い娘たちに譲るようにスッと後退した。
拾ってきた子犬の名前を決めるときに最終的に権利をゆずるお父さんの感覚に近い。
ピクシーは暫く名前の文字を見つめ、うーんと腕組みして悩み始めた。
もしかして文字が読めないのかとも思ったが、どうやらそんなことはないらしく……ピクシーはこう言った。
「ぜんぶじゃダメ?」
「ぜん……ぶ?」
首を傾げるピクシー。
首を傾げるミュエル。
「だってイイじゃん、名前沢山あるとかスゴイじゃん?」
ピクシーはふんわり浮遊して、両手両足をばたばたさせて『すごいじゃんのポーズ』をとった。
「本人がそう言うなら、それでもいいんですが……」
ラーラが困った顔で御菓子を見た。御菓子はなんかすごい目でピクシーを見ている……のでそっと目をそらした。反らした先が結唯だったが、なんか『話をさっさと進めてくれ』の目をしていたので更に目をそらした。
これは自分で進めないとまずそうだ。
「えっと、こんなところでどうしたんですか? なにかお探しものでも」
「おおっ、そうだ!」
『おおそうだ』のポーズで身体ごとふりかえるピクシー。
「あんね、私ね、この辺にあるっていう古代遺跡を冒険したいんだよ! 人間と一緒でないと進めないすっごい仕掛けがあるらしいんだ。ワクワクするだろー! するだろー!」
『するだろ』のポーズで鼻先まで飛んでくるピクシー。
ラーラはやや顔を引きながら笑った。
「遺跡ですか。すごく興味があります」
「だろー!」
「わくわくっていうか」
「だろー!」
「もしかしなくても、この地図を頼りに行けば良いのでは?」
理央はそう言って、先程男たちが落としていった地図を開いた。
『それだそれだそれに決まってるよーやだーもー』とか言いながらテンションを上げるピクシー。
理央もようやく話したい話題にシフトしたなという感じで安堵した……その途端。
「も、もう我慢できない!」
御菓子が謎のオーラを放って飛び込んできた。
なんか背後にヒャッハーの幻影が浮かんでいた気もした。
「コクリコちゃんコクリコちゃん! 妖精さんの音楽が知りたいの! どんな歌を歌うの? どんな楽器を奏でて、どんな踊りをするの!? それでねそれでね、ハアハア!」
聞きたいことがありすぎてダムが決壊したようだ。
「え、こ、こうとか?」
ピクシーもピクシーで先端のとがった枝の上でつま先立ちになってくるくるする踊りを見せ始めるもんだから御菓子のテンションはマックスを超えた。顔を真っ赤にして頭をわしゃわしゃやりながら『グレートハイランドオオオ!』とか謎の奇声をあげていた。
このままだと止まらなさそうなので、羽交い締めにして引きはがしておくラーラ。
落ち着かせるために香水の瓶を鼻先にシュッとやるミュエル。
「…………」
そんな一連の様子を眺めながら、結唯とゲイルはこれから始まる冒険の空気を感じていた。
拾った地図には古い文字でこうある。
『無限樹の遺跡』
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
