絶対零度の女
●
「あー、雪那ちゃん雪那ちゃんー。早く会いたいなー」
高校二年生。
夏山悟は浮かれていた。苦節、十七年。浮いた話もほとんどなかったが、最近になって初めて彼女ができたのだ。ついつい、頬も緩んでしまうというものだ。
「また、だらしない顔して……」
そんな様子の幼馴染を見つけて、冬川緑は呆れたように声を掛ける。
近所に住む悟と緑は、兄妹のように育った仲だった。
「どうしたの? 気持ちの悪い笑顔を浮かべちゃって」
「おー、緑! 聞いてくれ、聞いてくれ! 何とな、俺はこれから彼女とデートなんだ! 今は、その待ち合わせ中!」
「……ふーん」
嫌味も通じない相手に、少女は何となく面白くない。
胸の奥がちくりと痛んだ。
「あ、来た! 雪那ちゃん!」
「遅れちゃって、ごめんね。悟君」
悟は恋人の姿を認めると、勢いよく手を振る。
現れたのは絶世の美人だった。人間離れした美貌とスタイル。お伽噺に出てくるお姫様のような雰囲気に、同性の緑すら息を呑む。
「あら、確かこちらは悟君のお友達の緑さん。こんにちはー」
「……どうも、悟とは偶然ここで会ったの」
この優雅に礼をする美女が、悟の恋人である雪那という女性だった。
本当、怖いくらいの美しさ。
「雪那ちゃん、これプレゼント!」
「まあ、嬉しい。悟君、いつもありがとうね」
悟は興奮したように、持っていた紙袋を手渡す。
幼馴染がいつもいつも高価な品を、無理して贈っているのを緑は知っていた。いや、別に雪那が無理矢理ねだったわけではない。
ない……のだが。
どうも、この美人は相手に気付かれないように。巧妙に貢がせているように思えてならないときがあった。
(考え過ぎ……かしらね。いつも一緒だった悟に、突然彼女なんてできたものだから……)
嫉妬しているのかもしれない。
認めるのは、癪だけど。幼馴染としては、こういう時には素直に祝福してあげるべきだろう。
「じゃあ、私はこれで……二人とも楽しんできて」
なるべく平静を装って、緑はその場を離れようとする。
すると、雪那は悠然と微笑んだ。
「あ、緑さん。今度、三人で遊びません?」
「三人って……この三人で?」
「ええ。私、緑さんとはもっと仲良くなりたかったんです。近いうちに新規オープンした、遊園地に行く予定なんですけど。そのときに、どうですか?」
その笑顔はとても綺麗で。
綺麗過ぎて、どこか薄気味悪い。
「悟は……それで良いの?」
「ああ。雪那ちゃんが、そう言うなら俺は何だってオッケーさ!」
「そう……分かった。考えとく」
呑気な悟の反応に苛立ちながら、緑は今度こそ二人の傍から去る。
正直、これ以上この場にいたくなかった。
(ふふ。可愛い子ね。そんな子から、男を略奪するのって……快感!)
緑の背中を。
雪那は――人間を装う雪女は、愉快に見送る。
彼女の正体は、人をたぶらかすのを好む古妖。男に貢がせるだけ貢がせ……最終的には氷漬けにしてしまうという行為を繰り返していた。
(さて。悟君にも飽きてきたところだし、次のデートで決めましょうか。その様を、緑ちゃんにも見せつけてあげれば……うふふ。今から楽しみだわ)
雪女は、悟と腕を組みながら胸中でほくそ笑む。
●
「幼馴染って良いですよね……そして、雪女って怖いですよね」
しみじみと、息を吐いてから。
久方 真由美(nCL2000003)が、覚者達に今回の依頼の内容を説明する。
「今回は古妖の事件です。雪那という名の雪女が、高校生の夏山悟さんをたぶらかそうとしています。皆さんにお願いしたいのは、その阻止となります」
雪那と悟、そして緑は新規オープンした遊園地へと行くことになっている。
その遊園地内で、雪那は事を起こそうとしているようだ。覚者達も現場に乗り込み、雪女を撃退して欲しい、と真由美は言う。
ちなみに、この雪女の弱点は火に関係するものだ。
「遊園地で三人は一緒に行動しています。夏山さんと、冬川さん、そして周りの一般人を何とか古妖から遠ざけてから戦うのが望ましいのですが……」
そこで、真由美は困ったように頭を振る。
「ただ、夏山さんは雪女に骨抜きの状態です。こちらの言う事を素直に聞いてくれるとも、思えません。逆に冬川さんの方ならば、話を聞いてくれそうですね」
雪女の近くに、いるのは危険だ。
どうにか、悟を引き離す必要があるのだが。難しいところだ。
「夏山さん、そして冬川さんのためにも。犠牲を出さず、古妖の撃退をお願いします。皆さんなら、出来ると信じています。健闘をお祈りしますね」
「あー、雪那ちゃん雪那ちゃんー。早く会いたいなー」
高校二年生。
夏山悟は浮かれていた。苦節、十七年。浮いた話もほとんどなかったが、最近になって初めて彼女ができたのだ。ついつい、頬も緩んでしまうというものだ。
「また、だらしない顔して……」
そんな様子の幼馴染を見つけて、冬川緑は呆れたように声を掛ける。
近所に住む悟と緑は、兄妹のように育った仲だった。
「どうしたの? 気持ちの悪い笑顔を浮かべちゃって」
「おー、緑! 聞いてくれ、聞いてくれ! 何とな、俺はこれから彼女とデートなんだ! 今は、その待ち合わせ中!」
「……ふーん」
嫌味も通じない相手に、少女は何となく面白くない。
胸の奥がちくりと痛んだ。
「あ、来た! 雪那ちゃん!」
「遅れちゃって、ごめんね。悟君」
悟は恋人の姿を認めると、勢いよく手を振る。
現れたのは絶世の美人だった。人間離れした美貌とスタイル。お伽噺に出てくるお姫様のような雰囲気に、同性の緑すら息を呑む。
「あら、確かこちらは悟君のお友達の緑さん。こんにちはー」
「……どうも、悟とは偶然ここで会ったの」
この優雅に礼をする美女が、悟の恋人である雪那という女性だった。
本当、怖いくらいの美しさ。
「雪那ちゃん、これプレゼント!」
「まあ、嬉しい。悟君、いつもありがとうね」
悟は興奮したように、持っていた紙袋を手渡す。
幼馴染がいつもいつも高価な品を、無理して贈っているのを緑は知っていた。いや、別に雪那が無理矢理ねだったわけではない。
ない……のだが。
どうも、この美人は相手に気付かれないように。巧妙に貢がせているように思えてならないときがあった。
(考え過ぎ……かしらね。いつも一緒だった悟に、突然彼女なんてできたものだから……)
嫉妬しているのかもしれない。
認めるのは、癪だけど。幼馴染としては、こういう時には素直に祝福してあげるべきだろう。
「じゃあ、私はこれで……二人とも楽しんできて」
なるべく平静を装って、緑はその場を離れようとする。
すると、雪那は悠然と微笑んだ。
「あ、緑さん。今度、三人で遊びません?」
「三人って……この三人で?」
「ええ。私、緑さんとはもっと仲良くなりたかったんです。近いうちに新規オープンした、遊園地に行く予定なんですけど。そのときに、どうですか?」
その笑顔はとても綺麗で。
綺麗過ぎて、どこか薄気味悪い。
「悟は……それで良いの?」
「ああ。雪那ちゃんが、そう言うなら俺は何だってオッケーさ!」
「そう……分かった。考えとく」
呑気な悟の反応に苛立ちながら、緑は今度こそ二人の傍から去る。
正直、これ以上この場にいたくなかった。
(ふふ。可愛い子ね。そんな子から、男を略奪するのって……快感!)
緑の背中を。
雪那は――人間を装う雪女は、愉快に見送る。
彼女の正体は、人をたぶらかすのを好む古妖。男に貢がせるだけ貢がせ……最終的には氷漬けにしてしまうという行為を繰り返していた。
(さて。悟君にも飽きてきたところだし、次のデートで決めましょうか。その様を、緑ちゃんにも見せつけてあげれば……うふふ。今から楽しみだわ)
雪女は、悟と腕を組みながら胸中でほくそ笑む。
●
「幼馴染って良いですよね……そして、雪女って怖いですよね」
しみじみと、息を吐いてから。
久方 真由美(nCL2000003)が、覚者達に今回の依頼の内容を説明する。
「今回は古妖の事件です。雪那という名の雪女が、高校生の夏山悟さんをたぶらかそうとしています。皆さんにお願いしたいのは、その阻止となります」
雪那と悟、そして緑は新規オープンした遊園地へと行くことになっている。
その遊園地内で、雪那は事を起こそうとしているようだ。覚者達も現場に乗り込み、雪女を撃退して欲しい、と真由美は言う。
ちなみに、この雪女の弱点は火に関係するものだ。
「遊園地で三人は一緒に行動しています。夏山さんと、冬川さん、そして周りの一般人を何とか古妖から遠ざけてから戦うのが望ましいのですが……」
そこで、真由美は困ったように頭を振る。
「ただ、夏山さんは雪女に骨抜きの状態です。こちらの言う事を素直に聞いてくれるとも、思えません。逆に冬川さんの方ならば、話を聞いてくれそうですね」
雪女の近くに、いるのは危険だ。
どうにか、悟を引き離す必要があるのだが。難しいところだ。
「夏山さん、そして冬川さんのためにも。犠牲を出さず、古妖の撃退をお願いします。皆さんなら、出来ると信じています。健闘をお祈りしますね」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.古妖の撃退
2.夏山悟、冬川緑の生存
3.なし
2.夏山悟、冬川緑の生存
3.なし
■雪那
雪女の古妖です。
甘え上手な美女。
人間の振りをして、好みの男を大勢たぶらかし自らに貢がせています。そして骨抜きにした男は、最終的に氷漬けにしてコレクションするという性質を持ちます。今は夏山悟を、誘惑中です。ちなみに、男を女から略奪するのも大好き。
弱点は、火に関係する攻撃。
(主な戦闘方法)
氷の息吹 A:特遠列 【凍傷】
氷塊 A:特遠単[貫3][貫:100%,60%,30%] 【凍傷】
絶対零度 A:特遠列 【凍傷】【致命】
■夏山悟
高校二年生の一般人。
お人好しで鈍感な性格。
今まで、ちゃんと異性と付き合った経験がなく、現在雪女の雪那と付き合っていることで相当に浮かれています。相手が古妖とは、露ほどとも知らず。
基本的に雪那の言葉を疑う気が、最初からありません。
■冬川緑
夏山悟の幼馴染。高校二年生の一般人。
勘が鋭い、しっかり者。
彼女が出来て浮かれている悟を、心配しています。雪那に得体のしれないものを感じており、嫌な予感がしていますが。それは自分が嫉妬しているからではないかと、半信半疑な状態です。
■現場
夏山悟、冬川緑、そして雪那が遊園地に遊びに出かけています。
この最中に雪那は、夏山悟を氷漬けにしてしまおうとしています。
戦闘になった場合、雪那が悟や緑を盾にしたり、あるいは襲う可能性があり。何とか、二人を切り離して古妖を撃破する必要があります。
ただし、覚者達が説明しても、夏山悟は雪那に骨抜きにされているので、基本的にそちらの方を信じてしまう可能性が高いです。
また、遊園地内は、他にも多くの客が訪れています。
遊園地の施設としては、定番のアトラクションが揃っています。
よろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年05月15日
2016年05月15日
■メイン参加者 8人■

●
『――からお越しの、冬川緑様。お呼び出しを申し上げます』
賑わう遊園地内に、アナウンスが流れる。
言うまでもなく、覚者達がスタッフに呼び出しを頼んだものだ。
(さて、狙い通り動いてくれればいいけど)
いつでも仕掛けられるように10m程度距離を置き。
同族把握で雪女の存在を常に感じ取りながら、様子をうかがっていた『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)は冬川緑が連れ二人から離れていくのを確認する。
(二人きりになったとしても、まあ雪女の性格からすればすぐ仕掛ける事は無いでしょう)
雪女と、夏山悟。
二人はいかにも仲睦ましく腕を組んで、笑い合っていた。
「くそぅ……くそぅ!! キュアッキュアな青春を過ごしやがって……許すまじ……っ」
不死川 苦役(CL2000720)達も透視を含めて監視をしているが。
呪詛が漏れ出す。
「やれやれ……面倒な作戦になってしまったな……」
一方、冬川緑を待つ間。
『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)は、深々と息を吐く。
(提案したのは俺だがまさか演技の役目が俺に来るとはな……)
これからのことを考えると、少し頭が痛い。
「仕方ない、提案した手前、しっかりこなす事にしよう」
気をとりなす両慈。
『アフェッツオーソは触れられない』御巫・夜一(CL2000867)も頷いた。
「きっと夏山くんも自分の恋人が古妖だなんて思っても居ないんだろうな。馬に蹴られたくはないが人の命がかかっているなら頑張るしかないか」
ファイヴである事も包み隠さず話し、自分と夜一を男友達や先輩等の知り合いとして雪那達に紹介を頼む。そして雪那から引き離して貰う協力を仰ぐ。
これが、覚者達のプランだった。
「あの、放送を聞いて来たんですけど……あなた達は?」
冬川緑が、覚者達の元を訪れ。
さっそく、『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)が口火を切った。
「聞いたことねぇか? F.i.V.E.って組織の話を。俺らはそれだ」
「F.i.V.E.って、あの……覚者組織の?」
事情を話す。
冬川緑の表情は急速に真剣味を帯びた。
「――と言うわけで、口裏を合わせて欲しい」
両慈が概要を説明すると、緑は顔を上げ。
決意の色をのぞかせる。
「正直、まだ完全には信じられませんが……悟が危ないなら。協力します」
その眼差しは、覚者達を前にしても物怖じ一つしていない。
これなら大丈夫そうだと、打ち合わせ通りに皆は動き出した。
●
(緑さんを仲間が説得してる間は雪女さんたちをつけるです。なんでかって夏山さんがいざ氷漬けにされそうになったとき庇えるようにです!)
『赤ずきん』坂上・御羽(CL2001318)、は幻視で人魂を隠し。雪女を同族把握でびびっと探して、気合を入れて張っていた……のだが。
「悟君。ちょっとじっとしていて」
「何?」
雪那がそっと、悟に手を伸ばすのを見て。
(夏山さん、危ないです!)
反射的に駆けだし。
雪女が――
「ゴミがついていたわよ」
「うん、ありがとう」
悟の肩についていた、木の葉を払う。
勢い余って御羽は、二人の前に堂々と姿を現してしまった。
「あら、お嬢ちゃん。どうかしたの?」
雪那と悟の視線。
ここで慌ててはいけない。慌てず騒がず。
「金髪で、刺青してて、いつも顔が怖くて、女好きで、でもでも、いっぱいお話ししてくれるおにーさんと一緒に来たです。でも……はぐれちゃって」
迷子だと言い張る。
「まあ、それは大変」
「僕達も探すのを手伝おうか?」
二人は、あっさりと信じた。
こういうときガキでよかったとおもいます!
「うんうん、一人で平気です。それじゃ」
何とか、事なきを得て距離をとると。そこには、金髪で、刺青してて、いつも顔が怖くて、女好きで、でもでも、いっぱいお話ししてくれるおにーさん……らしい刀嗣が来ていた。
「トージ!」
「危ないところだったな、坂上」
「ゆーえんちで、ことを起こすのはいけないのです! ゆーえんちは、楽しいところなのです。だから、早く終わらせてトージと遊ぶのです!」
刀嗣は顔をしかめる。
嫌いではないが、手のかかる面倒くさいガキだ。
「ね、トージ! あれ、怖い顔してる。おやつはさんびゃくえんまでの約束守りますから!!」
「天明達が昔の男のふりをして夏山を雪女から距離を取らせる。それも駄目なら恋人同士の振りして雪女の気を引く奴がいるかだが……」
「トージとみうは、こいびとなのです! トージぎゅーしてほしいのです!」
ちなみに、期待はしていない。
(もしかして坂上のそりゃあ、恋人同士の振りしてんのか? この猿芝居に付き合うのか……?)
最悪、そうなる可能性もある。
が。
「調子に乗るな。俺はそれを認めた訳じゃねぇからな」
これが最大限の譲歩だ……
(保護対象と標的に接触するのを見守るわけだが。誰かも知れない人間が何人も様子を伺っていると、流石に怪しまれるかも知れんな)
ふむ。
と、こちらも見守る一人たる八重霞 頼蔵(CL2000693)は着替えて準備していた。
(然らば、化けるとしよう。何、特別何かをしようという話ではない。清掃スタッフに扮するというだけの話、目標の近場をうろうろしても多少なら誤魔化せるだろう)
箒とチリトリを持って、掃除をしている振りをして人混みにまぎれる。
『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)も、いつでもスタッフや客を装った仲間と協力できるように神経を研ぎ澄ませた。
(雪那がこちらのメンバー2人に興味を持ち、すぐに緑の目の前で悟を氷漬けにする可能性がある。そんな動きをすぐにでも察知したら――)
覚者達はさりげなく、雪那と悟の動きを警戒と監視をする。
「悟、お待たせ」
「おー、どうだった……というか、その人達は?」
緑が戻ってきたのに手を挙げて。
両慈と夜一と連れているのに、悟は首を傾げた。
(夏山サンの引き離しに失敗したのを確信したら、諏訪サンとは別方向から飛び掛って圧撃を雪女に打ち込んでやるわ)
その裏では、ありすも集中を開始する。
緑が悟へと二人を紹介するのを観察しながら。
「ああ、私の知り合いの先輩なの。アナウンスで呼び出してくれてね」
「うんうん」
緑の両親に不幸があり。
電話を掛けても繋がらなかったが行き先は知っていたので直接伝えに来たと台本通りに話す。
「で、命に別状は無いので帰りにでも病院に寄ってやれと……伝えに来たわけさ」
「なるほど。おじさんとおばさんに、大事がなくて良かったな、緑!」
「え……ええ」
両慈の説明に、悟は人の良さそうな反応を見せる。
緑の肩を、何度もぽんぽん叩いた。
「それで、この後は俺達も用事が無いから。どうせなら一緒にと思ったんだが」
「緑の先輩達なら、大歓迎です」
悟は気軽に両慈、夜一と握手する。
対して、雪那は僅かに目を細めた。
「知り合いの先輩、ねえ」
「うん? 雪那ちゃん、どうかした?」
「……いいえ。賑やかになって嬉しいわ」
五人は、揃って遊園地内を回り始める。
雑談に花を咲かせ。覚者二人は積極的に話しかけて気を引く。
「二人の出会いは天明の学友の妹の紹介だったんだけど。夏山くんと、雪那さんはどこで出会ったの?」
「それはですね。急いでいた悟君が朝の通学中に、私にぶつかって」
「あー。その話は、勘弁してよー」
両慈とは大学の先輩後輩設定の夜一、馴れ初めや思い出話等を聞いてフォローした。
あとは両慈と緑の嘘話。
「夏祭りは必ず一緒だったね。クリスマスとかのイベント事はプレゼント悩んでたけど、楽しそうだったし。本当、仲良かったよ」
「へえ! 緑が」
「ちょっと意外かも」
悟と雪那は興味津々な様子。
緑は複雑そうな表情を、頑張って隠していた。
「御巫さんは、彼女いないんですか?」
「オレ? オレは今恋人は居ないな。でも雪那さん可愛いから夏山くんが羨ましいな」
これは割と素の発言であった。
「あらあら、お上手ですこと」
「いや、俺もそう思うよ。まあでも、俺は冬川の方が好みだけどな」
天明両慈。
クールで無愛想なクーデレ。内心は勘弁だが演技は割と似合っていた。
「やべぇ! 惚れた! 今のは惚れた! アレあの雪女落ちただろ!? 3人とも結婚おめっとさん!!」
接触組を見て。
遠くから苦役が先程から妙な感想を抱いているが。まあ、それはともかく。
「ほほう」
何故だか、雪女より食いついてくる悟。
目がきらきらと輝いている。
「天明さん!」
「?」
「緑のこと、よろしくお願いします。ちょっとガサツだけど、いい奴なんです」
「……」
「幸せにしてやって下さい! 泣かせちゃ嫌ですよ!」
ぎゅっと、覚者の手を取って懇願してくる。
恐ろしく真剣だった。これには、両慈も咄嗟にどう答えたものか苦慮する。
「いや……あのね、悟」
「ふふ、悟君らしいわね」
緑がおろおろと、雪女は微笑ましそうに見守る。
ある意味、チームワークの良い三人である。
「……少し落ち着いて。ジュースでも買ってこようか」
「あ、それなら私が行きます」
「そうだね。じゃあ、夏山くん。冬川さんを手伝ってくれるかな」
何とか軌道修正をして、二人を遠のかせる方向に持っていく。
だが、当の悟は……
「え。それなら、天明さんと緑が行けば」
などと要らん気をつかい始めた。
(無難に事が推移していれば其れでよし……誘導の一押しが足りないなら)
そこへさっさかと掃除しながら頼蔵が悟に近付く。
雪女には晒さぬようにさりげなしの魔眼で。
『折角なのだから、付き合ってあげては』
と、考えを後押しする形で催眠状態に誘う。
強制するよりも、心が振れた方向に持っていくほうが易かろう。
「おにゃのこに男の子を離脱させる時になったら結界使用して周辺からの人払いだな」
同時に苦役が、結界を張り。
一般人を退かせるように取り計らう。
「悟?」
「……仕方ない。雪那ちゃん、ちょっと行ってくるから待ってて」
「ええ、分かったわ」
催眠にかかった悟が緑を連れて行くのを、雪那は儚げに微笑んで見送った。
そして――
「で、二人を私から離して。何の用かしら……覚者さん?」
凍えるような声色。
それを受けて、両慈は味方に合図を送る。
曰く、攻撃開始。
「夏山くん、冬川さん頼んだぞ」
夜一は二人を背に隠して、古妖へと相対する。
初手土纏で強化。雪那の進行を妨害した。
「悪いが二人は追わせない」
趣向に口出しする気はないが。
末路を知ってしまった身としては捨て置けない。待機していた仲間達も一斉に飛び出す。
「へえ、恋の逆キューピットってわけ?」
雪女は妖艶に口を吊り上げた。
思わず、背筋がぞっとするほどの美貌。周囲の空気が、急激に低下。不自然な吹雪が覚者達に襲いかかる。
「ふはは! リア充爆発するどころか氷漬けだった! いいぞもっとやれ!って言いたい所だけど、それはそれで困るんだよねー。だって俺のメシの種になんないもん。仕方ないね、思春期真っ盛りの青き春を過ごす少年君に世の中のショギョームジョーを知って貰うのと、悪者退治、しっますっかねー」
苦役は清廉香と錬覇法をまずは使って、吹雪に耐える。
続いて、刀嗣と御羽が躍りかかった。
「あら、あなたはさっきの……お兄さんが見つかったのかしら? でも、その子より私と遊ぶ?」
「ま、あのちんちくりんのガキよりはお前の方が良い身体してるな」
「ト、トージが、雪女さんに、盗られてしまうのです……」
四つん這いでしくしく泣く御羽を尻目に。
刀嗣は、こんなクソ女に演技でも長いこと愛想を振りまくのは御免だとばかりに。
「あぁ、でも駄目だな。テメェは臭すぎる。コイツぁメスブタの臭いだ」
言葉と共に圧撃をぶちかまし。
悟達から距離を取らせる。
「熱っ! ……なかなか口の悪いお兄さんね、お嬢ちゃん?」
敵の凍える殺気。
御羽も泣いている場合ではないと、スイッチを切り替える。
「さっきは騙して悪かったわね。でも、ここから本気でいくわよ」
人格が変わったようにキリッと。
大人の女性の口調へと変わる。
「悪い狼は雪女ね」
「ふふ、本性を現したわね、性悪女」
ありすは集中を重ねた破眼光を雪女に打ち込む。
第三の目から、渾身の光線を煌めき。敵へと呪いを轟かせる。
「性悪女って、失礼しちゃうわ」
「男を誑かし、奪い去る。何ともイメージ通りの雪女っぷりだ。これが昔話ならば新しい氷像が増えて終るのだろうが・・・━━そうお決まり結末ばかりでは面白くあるまい?」
頼蔵は相手の氷に、炎撃で応戦。
一般人を人質に取られないように、経路を身体で塞ぐ。
(……威力は低いが……もう一度破眼光を)
ツバメも呪いを付与せんとする。
雪女は端正な顔をしかめた。
「面倒ね、さっさと氷つきなさい」
「そうはさせない」
両慈は演舞・清爽で全体を底上げ。
潤しの雨や深想水で、体力とバッドステータスの回復を最優先に動く。
「貴女の、邪魔をします」
夜一は隆槍と琴桜を主軸に攻撃。
古の妖に敬意を払い、いざ……! 強打撃を繰り出して、何度でも立ち塞がる。弱点の炎は使えないが、確実にダメージを蓄積させる。
「頸椎なり眼球なり、ま、人型なら急所も似た所なんじゃね」
苦役は指捻撃で、急所を狙う。
刀嗣は灼熱化して飛燕。ありすは呪いが効いているうちに炎柱を出現させる。
「……雪女。アタシにとっては天敵ね。まあ向こうにとっても好ましくないんじゃないかしらね。古妖といえど、相容れない相手はやっぱりいるわよ、アタシだって。何よりアイツら性格悪いし」
「相手がクソ女でもモテねぇやつならこんなしょうもねぇ罠にも引っかかっちまうのか。あんま浮かれてっと本当に大事なもんまで見落としちまうもんだがな」
「あなた達……本当に好き勝手言ってくれるわね」
覚者と古妖は、激戦を繰り広げる。
頼蔵やツバメは身体を張って、氷撃を受け止めた。
「まぁ私は壁くらいにしかならないが、なれば其れとして働こう」
「貫通攻撃は届かせない」
白狼の刃が、氷の塊を叩き斬る。
御羽は一般人への警告をしながら戦う。
「お逃げなさい! 妖怪よ!!」
「忙しいわね、お嬢ちゃん」
「雪女! 貴方の行為は褒められたものではない。悔い改めなさい。そんな事、続けたって貴方の心がどんどんシコメになるだけよ」
高らかに、言い放ち。
破眼光を叩きこむ。
「人の心を弄んで、一体、何が楽しいというの。もといた場所では寂しかったの?」
「寂しい? 私が……?」
意外なところを突かれたように。
雪女は演技抜きでキョトンとする。
「隙あり」
氷の技を見切ろうとしていた夜一は。
好機を逃さず。すれ違いざまにナイフを一閃、古妖は身をよじった。
「……寂しいか。確かにね……私は……」
絶対零度。
暗く沈んだ雪女から、壮絶な死の冷気が蔓延し。全てを凍りつかせ――
「雪那……ちゃん?」
「悟……君っ?」
棒立ちとなった悟と目が合い。
雪女は氷解する。
「すいません。悟が胸騒ぎがするって、止められなくって……」
後ろでは、緑が肩で息をしている。
この事態、一番に動いたのはツバメだった。韋駄天足ですり抜ける様に走り込み、悟を攫う。白狼の柄で、鳩尾を撃ちすぐに気絶させる。
「悟!?」
「気絶させただけ。大丈夫だ」
安心させるように緑に言い含め、急いで距離を取る。
刀嗣は前衛でブロックして、攻撃範囲外になるまで吹き飛ばし。苦役は香仇花で弱体付与した。
「行かせないからな」
「ふはっ! 趣味悪い香水よか良い匂いだろ?」
突然、動きが悪くなった雪女は。
悶え苦しむ。
「さと、る……君……何だか熱い……熱いわ」
「熱い? 心地いいじゃない。生きてる証よ。むしろアンタは冷たすぎて死んでるみたいで気味悪いわ」
アリスは他の一般人を巻き込まないように留意しながら。
敵の苦手とする炎を叩きこみ。
「人の恋路を邪魔するヤツは、馬に蹴らせる前に燃やし尽くすわ!」
一喝。
全霊を込めた炎を相手へとぶつける。
火行の真骨頂たる極大の炎が、炸裂して渦巻き。古妖を飲み込む。
「……っ! 人の恋路ね……いいわ、悟君はお返しするわ……とりあえずはね」
巻き上がる爆炎に紛れて。
古妖が姿をくらませる。煙が引いた後に残ったのは、覚者達と緑。
あとはその膝で気絶している悟のみだった。
「そこのに感謝しとけよー? じゃねーと今頃おっ死んでるだろーし。いやいや! 脳内スィーツなのも程ほどにしてくんないと俺困るなー。アレが人間に見えてるの? 現実見えてないなら眼科行った方が良いんじゃね?」
呑気に眠っている相手に。
苦役が苦言を呈する。夜一とツバメも。
「お節介かもしれないがちゃんと冬川さんにお礼を言うんだぞ? 彼女の協力が無ければ上手くいかなかったのだから」
「緑は勇気を出し、悟を助ける様に協力してくれて、ありがとう。そして悟には、辛い思い出になってしまったな。辛く、悲しくなったなら、側に居てくれる緑に話すといい……」
二人に助言と。
感謝と謝罪を。
「あの、色々ありがとうございましたっ」
「……想いが燃えるのはこれから、かしらね?」
二人の邪魔をしても悪いし。
頭を下げる緑をちらりと見てから、ありす達はスタッフに報告して早めに撤収する。
「トージ、あっちからアイスの香りがするですよ!」
「テメェはいつも食い物の事ばっかだな」
約二名を除いて。
麗らかな陽気は、行楽日和で。確かに雪のように冷たいアイスが欲しくなるほどだった。
『――からお越しの、冬川緑様。お呼び出しを申し上げます』
賑わう遊園地内に、アナウンスが流れる。
言うまでもなく、覚者達がスタッフに呼び出しを頼んだものだ。
(さて、狙い通り動いてくれればいいけど)
いつでも仕掛けられるように10m程度距離を置き。
同族把握で雪女の存在を常に感じ取りながら、様子をうかがっていた『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)は冬川緑が連れ二人から離れていくのを確認する。
(二人きりになったとしても、まあ雪女の性格からすればすぐ仕掛ける事は無いでしょう)
雪女と、夏山悟。
二人はいかにも仲睦ましく腕を組んで、笑い合っていた。
「くそぅ……くそぅ!! キュアッキュアな青春を過ごしやがって……許すまじ……っ」
不死川 苦役(CL2000720)達も透視を含めて監視をしているが。
呪詛が漏れ出す。
「やれやれ……面倒な作戦になってしまったな……」
一方、冬川緑を待つ間。
『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)は、深々と息を吐く。
(提案したのは俺だがまさか演技の役目が俺に来るとはな……)
これからのことを考えると、少し頭が痛い。
「仕方ない、提案した手前、しっかりこなす事にしよう」
気をとりなす両慈。
『アフェッツオーソは触れられない』御巫・夜一(CL2000867)も頷いた。
「きっと夏山くんも自分の恋人が古妖だなんて思っても居ないんだろうな。馬に蹴られたくはないが人の命がかかっているなら頑張るしかないか」
ファイヴである事も包み隠さず話し、自分と夜一を男友達や先輩等の知り合いとして雪那達に紹介を頼む。そして雪那から引き離して貰う協力を仰ぐ。
これが、覚者達のプランだった。
「あの、放送を聞いて来たんですけど……あなた達は?」
冬川緑が、覚者達の元を訪れ。
さっそく、『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)が口火を切った。
「聞いたことねぇか? F.i.V.E.って組織の話を。俺らはそれだ」
「F.i.V.E.って、あの……覚者組織の?」
事情を話す。
冬川緑の表情は急速に真剣味を帯びた。
「――と言うわけで、口裏を合わせて欲しい」
両慈が概要を説明すると、緑は顔を上げ。
決意の色をのぞかせる。
「正直、まだ完全には信じられませんが……悟が危ないなら。協力します」
その眼差しは、覚者達を前にしても物怖じ一つしていない。
これなら大丈夫そうだと、打ち合わせ通りに皆は動き出した。
●
(緑さんを仲間が説得してる間は雪女さんたちをつけるです。なんでかって夏山さんがいざ氷漬けにされそうになったとき庇えるようにです!)
『赤ずきん』坂上・御羽(CL2001318)、は幻視で人魂を隠し。雪女を同族把握でびびっと探して、気合を入れて張っていた……のだが。
「悟君。ちょっとじっとしていて」
「何?」
雪那がそっと、悟に手を伸ばすのを見て。
(夏山さん、危ないです!)
反射的に駆けだし。
雪女が――
「ゴミがついていたわよ」
「うん、ありがとう」
悟の肩についていた、木の葉を払う。
勢い余って御羽は、二人の前に堂々と姿を現してしまった。
「あら、お嬢ちゃん。どうかしたの?」
雪那と悟の視線。
ここで慌ててはいけない。慌てず騒がず。
「金髪で、刺青してて、いつも顔が怖くて、女好きで、でもでも、いっぱいお話ししてくれるおにーさんと一緒に来たです。でも……はぐれちゃって」
迷子だと言い張る。
「まあ、それは大変」
「僕達も探すのを手伝おうか?」
二人は、あっさりと信じた。
こういうときガキでよかったとおもいます!
「うんうん、一人で平気です。それじゃ」
何とか、事なきを得て距離をとると。そこには、金髪で、刺青してて、いつも顔が怖くて、女好きで、でもでも、いっぱいお話ししてくれるおにーさん……らしい刀嗣が来ていた。
「トージ!」
「危ないところだったな、坂上」
「ゆーえんちで、ことを起こすのはいけないのです! ゆーえんちは、楽しいところなのです。だから、早く終わらせてトージと遊ぶのです!」
刀嗣は顔をしかめる。
嫌いではないが、手のかかる面倒くさいガキだ。
「ね、トージ! あれ、怖い顔してる。おやつはさんびゃくえんまでの約束守りますから!!」
「天明達が昔の男のふりをして夏山を雪女から距離を取らせる。それも駄目なら恋人同士の振りして雪女の気を引く奴がいるかだが……」
「トージとみうは、こいびとなのです! トージぎゅーしてほしいのです!」
ちなみに、期待はしていない。
(もしかして坂上のそりゃあ、恋人同士の振りしてんのか? この猿芝居に付き合うのか……?)
最悪、そうなる可能性もある。
が。
「調子に乗るな。俺はそれを認めた訳じゃねぇからな」
これが最大限の譲歩だ……
(保護対象と標的に接触するのを見守るわけだが。誰かも知れない人間が何人も様子を伺っていると、流石に怪しまれるかも知れんな)
ふむ。
と、こちらも見守る一人たる八重霞 頼蔵(CL2000693)は着替えて準備していた。
(然らば、化けるとしよう。何、特別何かをしようという話ではない。清掃スタッフに扮するというだけの話、目標の近場をうろうろしても多少なら誤魔化せるだろう)
箒とチリトリを持って、掃除をしている振りをして人混みにまぎれる。
『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)も、いつでもスタッフや客を装った仲間と協力できるように神経を研ぎ澄ませた。
(雪那がこちらのメンバー2人に興味を持ち、すぐに緑の目の前で悟を氷漬けにする可能性がある。そんな動きをすぐにでも察知したら――)
覚者達はさりげなく、雪那と悟の動きを警戒と監視をする。
「悟、お待たせ」
「おー、どうだった……というか、その人達は?」
緑が戻ってきたのに手を挙げて。
両慈と夜一と連れているのに、悟は首を傾げた。
(夏山サンの引き離しに失敗したのを確信したら、諏訪サンとは別方向から飛び掛って圧撃を雪女に打ち込んでやるわ)
その裏では、ありすも集中を開始する。
緑が悟へと二人を紹介するのを観察しながら。
「ああ、私の知り合いの先輩なの。アナウンスで呼び出してくれてね」
「うんうん」
緑の両親に不幸があり。
電話を掛けても繋がらなかったが行き先は知っていたので直接伝えに来たと台本通りに話す。
「で、命に別状は無いので帰りにでも病院に寄ってやれと……伝えに来たわけさ」
「なるほど。おじさんとおばさんに、大事がなくて良かったな、緑!」
「え……ええ」
両慈の説明に、悟は人の良さそうな反応を見せる。
緑の肩を、何度もぽんぽん叩いた。
「それで、この後は俺達も用事が無いから。どうせなら一緒にと思ったんだが」
「緑の先輩達なら、大歓迎です」
悟は気軽に両慈、夜一と握手する。
対して、雪那は僅かに目を細めた。
「知り合いの先輩、ねえ」
「うん? 雪那ちゃん、どうかした?」
「……いいえ。賑やかになって嬉しいわ」
五人は、揃って遊園地内を回り始める。
雑談に花を咲かせ。覚者二人は積極的に話しかけて気を引く。
「二人の出会いは天明の学友の妹の紹介だったんだけど。夏山くんと、雪那さんはどこで出会ったの?」
「それはですね。急いでいた悟君が朝の通学中に、私にぶつかって」
「あー。その話は、勘弁してよー」
両慈とは大学の先輩後輩設定の夜一、馴れ初めや思い出話等を聞いてフォローした。
あとは両慈と緑の嘘話。
「夏祭りは必ず一緒だったね。クリスマスとかのイベント事はプレゼント悩んでたけど、楽しそうだったし。本当、仲良かったよ」
「へえ! 緑が」
「ちょっと意外かも」
悟と雪那は興味津々な様子。
緑は複雑そうな表情を、頑張って隠していた。
「御巫さんは、彼女いないんですか?」
「オレ? オレは今恋人は居ないな。でも雪那さん可愛いから夏山くんが羨ましいな」
これは割と素の発言であった。
「あらあら、お上手ですこと」
「いや、俺もそう思うよ。まあでも、俺は冬川の方が好みだけどな」
天明両慈。
クールで無愛想なクーデレ。内心は勘弁だが演技は割と似合っていた。
「やべぇ! 惚れた! 今のは惚れた! アレあの雪女落ちただろ!? 3人とも結婚おめっとさん!!」
接触組を見て。
遠くから苦役が先程から妙な感想を抱いているが。まあ、それはともかく。
「ほほう」
何故だか、雪女より食いついてくる悟。
目がきらきらと輝いている。
「天明さん!」
「?」
「緑のこと、よろしくお願いします。ちょっとガサツだけど、いい奴なんです」
「……」
「幸せにしてやって下さい! 泣かせちゃ嫌ですよ!」
ぎゅっと、覚者の手を取って懇願してくる。
恐ろしく真剣だった。これには、両慈も咄嗟にどう答えたものか苦慮する。
「いや……あのね、悟」
「ふふ、悟君らしいわね」
緑がおろおろと、雪女は微笑ましそうに見守る。
ある意味、チームワークの良い三人である。
「……少し落ち着いて。ジュースでも買ってこようか」
「あ、それなら私が行きます」
「そうだね。じゃあ、夏山くん。冬川さんを手伝ってくれるかな」
何とか軌道修正をして、二人を遠のかせる方向に持っていく。
だが、当の悟は……
「え。それなら、天明さんと緑が行けば」
などと要らん気をつかい始めた。
(無難に事が推移していれば其れでよし……誘導の一押しが足りないなら)
そこへさっさかと掃除しながら頼蔵が悟に近付く。
雪女には晒さぬようにさりげなしの魔眼で。
『折角なのだから、付き合ってあげては』
と、考えを後押しする形で催眠状態に誘う。
強制するよりも、心が振れた方向に持っていくほうが易かろう。
「おにゃのこに男の子を離脱させる時になったら結界使用して周辺からの人払いだな」
同時に苦役が、結界を張り。
一般人を退かせるように取り計らう。
「悟?」
「……仕方ない。雪那ちゃん、ちょっと行ってくるから待ってて」
「ええ、分かったわ」
催眠にかかった悟が緑を連れて行くのを、雪那は儚げに微笑んで見送った。
そして――
「で、二人を私から離して。何の用かしら……覚者さん?」
凍えるような声色。
それを受けて、両慈は味方に合図を送る。
曰く、攻撃開始。
「夏山くん、冬川さん頼んだぞ」
夜一は二人を背に隠して、古妖へと相対する。
初手土纏で強化。雪那の進行を妨害した。
「悪いが二人は追わせない」
趣向に口出しする気はないが。
末路を知ってしまった身としては捨て置けない。待機していた仲間達も一斉に飛び出す。
「へえ、恋の逆キューピットってわけ?」
雪女は妖艶に口を吊り上げた。
思わず、背筋がぞっとするほどの美貌。周囲の空気が、急激に低下。不自然な吹雪が覚者達に襲いかかる。
「ふはは! リア充爆発するどころか氷漬けだった! いいぞもっとやれ!って言いたい所だけど、それはそれで困るんだよねー。だって俺のメシの種になんないもん。仕方ないね、思春期真っ盛りの青き春を過ごす少年君に世の中のショギョームジョーを知って貰うのと、悪者退治、しっますっかねー」
苦役は清廉香と錬覇法をまずは使って、吹雪に耐える。
続いて、刀嗣と御羽が躍りかかった。
「あら、あなたはさっきの……お兄さんが見つかったのかしら? でも、その子より私と遊ぶ?」
「ま、あのちんちくりんのガキよりはお前の方が良い身体してるな」
「ト、トージが、雪女さんに、盗られてしまうのです……」
四つん這いでしくしく泣く御羽を尻目に。
刀嗣は、こんなクソ女に演技でも長いこと愛想を振りまくのは御免だとばかりに。
「あぁ、でも駄目だな。テメェは臭すぎる。コイツぁメスブタの臭いだ」
言葉と共に圧撃をぶちかまし。
悟達から距離を取らせる。
「熱っ! ……なかなか口の悪いお兄さんね、お嬢ちゃん?」
敵の凍える殺気。
御羽も泣いている場合ではないと、スイッチを切り替える。
「さっきは騙して悪かったわね。でも、ここから本気でいくわよ」
人格が変わったようにキリッと。
大人の女性の口調へと変わる。
「悪い狼は雪女ね」
「ふふ、本性を現したわね、性悪女」
ありすは集中を重ねた破眼光を雪女に打ち込む。
第三の目から、渾身の光線を煌めき。敵へと呪いを轟かせる。
「性悪女って、失礼しちゃうわ」
「男を誑かし、奪い去る。何ともイメージ通りの雪女っぷりだ。これが昔話ならば新しい氷像が増えて終るのだろうが・・・━━そうお決まり結末ばかりでは面白くあるまい?」
頼蔵は相手の氷に、炎撃で応戦。
一般人を人質に取られないように、経路を身体で塞ぐ。
(……威力は低いが……もう一度破眼光を)
ツバメも呪いを付与せんとする。
雪女は端正な顔をしかめた。
「面倒ね、さっさと氷つきなさい」
「そうはさせない」
両慈は演舞・清爽で全体を底上げ。
潤しの雨や深想水で、体力とバッドステータスの回復を最優先に動く。
「貴女の、邪魔をします」
夜一は隆槍と琴桜を主軸に攻撃。
古の妖に敬意を払い、いざ……! 強打撃を繰り出して、何度でも立ち塞がる。弱点の炎は使えないが、確実にダメージを蓄積させる。
「頸椎なり眼球なり、ま、人型なら急所も似た所なんじゃね」
苦役は指捻撃で、急所を狙う。
刀嗣は灼熱化して飛燕。ありすは呪いが効いているうちに炎柱を出現させる。
「……雪女。アタシにとっては天敵ね。まあ向こうにとっても好ましくないんじゃないかしらね。古妖といえど、相容れない相手はやっぱりいるわよ、アタシだって。何よりアイツら性格悪いし」
「相手がクソ女でもモテねぇやつならこんなしょうもねぇ罠にも引っかかっちまうのか。あんま浮かれてっと本当に大事なもんまで見落としちまうもんだがな」
「あなた達……本当に好き勝手言ってくれるわね」
覚者と古妖は、激戦を繰り広げる。
頼蔵やツバメは身体を張って、氷撃を受け止めた。
「まぁ私は壁くらいにしかならないが、なれば其れとして働こう」
「貫通攻撃は届かせない」
白狼の刃が、氷の塊を叩き斬る。
御羽は一般人への警告をしながら戦う。
「お逃げなさい! 妖怪よ!!」
「忙しいわね、お嬢ちゃん」
「雪女! 貴方の行為は褒められたものではない。悔い改めなさい。そんな事、続けたって貴方の心がどんどんシコメになるだけよ」
高らかに、言い放ち。
破眼光を叩きこむ。
「人の心を弄んで、一体、何が楽しいというの。もといた場所では寂しかったの?」
「寂しい? 私が……?」
意外なところを突かれたように。
雪女は演技抜きでキョトンとする。
「隙あり」
氷の技を見切ろうとしていた夜一は。
好機を逃さず。すれ違いざまにナイフを一閃、古妖は身をよじった。
「……寂しいか。確かにね……私は……」
絶対零度。
暗く沈んだ雪女から、壮絶な死の冷気が蔓延し。全てを凍りつかせ――
「雪那……ちゃん?」
「悟……君っ?」
棒立ちとなった悟と目が合い。
雪女は氷解する。
「すいません。悟が胸騒ぎがするって、止められなくって……」
後ろでは、緑が肩で息をしている。
この事態、一番に動いたのはツバメだった。韋駄天足ですり抜ける様に走り込み、悟を攫う。白狼の柄で、鳩尾を撃ちすぐに気絶させる。
「悟!?」
「気絶させただけ。大丈夫だ」
安心させるように緑に言い含め、急いで距離を取る。
刀嗣は前衛でブロックして、攻撃範囲外になるまで吹き飛ばし。苦役は香仇花で弱体付与した。
「行かせないからな」
「ふはっ! 趣味悪い香水よか良い匂いだろ?」
突然、動きが悪くなった雪女は。
悶え苦しむ。
「さと、る……君……何だか熱い……熱いわ」
「熱い? 心地いいじゃない。生きてる証よ。むしろアンタは冷たすぎて死んでるみたいで気味悪いわ」
アリスは他の一般人を巻き込まないように留意しながら。
敵の苦手とする炎を叩きこみ。
「人の恋路を邪魔するヤツは、馬に蹴らせる前に燃やし尽くすわ!」
一喝。
全霊を込めた炎を相手へとぶつける。
火行の真骨頂たる極大の炎が、炸裂して渦巻き。古妖を飲み込む。
「……っ! 人の恋路ね……いいわ、悟君はお返しするわ……とりあえずはね」
巻き上がる爆炎に紛れて。
古妖が姿をくらませる。煙が引いた後に残ったのは、覚者達と緑。
あとはその膝で気絶している悟のみだった。
「そこのに感謝しとけよー? じゃねーと今頃おっ死んでるだろーし。いやいや! 脳内スィーツなのも程ほどにしてくんないと俺困るなー。アレが人間に見えてるの? 現実見えてないなら眼科行った方が良いんじゃね?」
呑気に眠っている相手に。
苦役が苦言を呈する。夜一とツバメも。
「お節介かもしれないがちゃんと冬川さんにお礼を言うんだぞ? 彼女の協力が無ければ上手くいかなかったのだから」
「緑は勇気を出し、悟を助ける様に協力してくれて、ありがとう。そして悟には、辛い思い出になってしまったな。辛く、悲しくなったなら、側に居てくれる緑に話すといい……」
二人に助言と。
感謝と謝罪を。
「あの、色々ありがとうございましたっ」
「……想いが燃えるのはこれから、かしらね?」
二人の邪魔をしても悪いし。
頭を下げる緑をちらりと見てから、ありす達はスタッフに報告して早めに撤収する。
「トージ、あっちからアイスの香りがするですよ!」
「テメェはいつも食い物の事ばっかだな」
約二名を除いて。
麗らかな陽気は、行楽日和で。確かに雪のように冷たいアイスが欲しくなるほどだった。

■あとがき■
このシナリオの結果は、雪那は撃退。
夏山悟と冬川緑の両名は、無事に生存ということになりました。
何やら想うところがあったのか、本気を出す前に撤退した雪那。今回のことで、少し懲りた……かも? あるいは、また何かしでかすかもしれません。
それでは、ご参加ありがとうございました。
夏山悟と冬川緑の両名は、無事に生存ということになりました。
何やら想うところがあったのか、本気を出す前に撤退した雪那。今回のことで、少し懲りた……かも? あるいは、また何かしでかすかもしれません。
それでは、ご参加ありがとうございました。
