≪教化作戦≫教化された魂
●
新人類教会と呼ばれる組織がある。
表向きは覚者および覚者事件における被害者の保護を理念とし、その為に生活支援や養護施設の経営、関連企業への就職斡旋まで行っている。彼らは覚者を『新人類』と称して、手厚く保護する活動をしていた。
構成員の多くは源素を使えない普通の人で、宗主の指導の元に幅広い活動を行う宗教団体だ。
『新人類はその能力故に旧人類に恐れられ迫害されてもいる。彼らを守り育てる事が教会の使命の一つである』
『新人類を迫害する者達を許してはならない。教会は未来の平和のため自らの身命を賭して新人類の敵と戦うべし』
その理念の元に武装していることもあるが、構成員の多くは武装を持たないただの人である。
だが昨今、教会内は過激化する世情に合わせて武装を強化する『過激派』と、それを止めようとする『穏健派』に分裂してきていた。
そして一月某日。穏健派の『村瀬幸来』を過激派から保護するFiVE。
一時雌伏の時を過ごしていた新人類教会過激派だが、力を蓄えた過激派達がまた活動を開始する。
「見張り、交代の時間だぞ」
「分かった。今のところは、異常なしだ」
そこは、ただの廃工場に見えた。
だが、実際は新人類教会過激派の拠点の一つだ。中には、大量の武器が保管されており、戦闘員達が詰めている。
外で見張っていた数人が、中から出てきた仲間と定時連絡を交わす。
いつ敵が来ても、すぐに対応できるよう。厳戒態勢でぴりぴりした空気が漂っていた。
「気を抜くなよ。襲撃本番は近い」
「ああ、分かっている……ところで、あれの様子はどうだ?」
過激派達が声をひそめる。
あれ。
というのは、この廃工場の切り札的な戦力のことだった。
「ああ、よく教化されているよ。こちらのいう事なら、何でも聞くような仕上がりだ」
「そいつは、心強い。洗脳が上手くいったな」
「おい、洗脳じゃない。教化と言え、教化と」
教化。
それは、過激派達が使う隠語だった。
工場内の奥で、一人の少女がぶつぶつと呟く。
「……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
覚者にして、念入りな教化を受けた彼女の名前は、長谷川美和子と言う。
ただし、自分の名前すら今は虚ろになってしまっている。
「……命令通り動く……命令通りに殺す……それが全て全て全て全て……」
何度も何度も。
壊れた操り人形のように、覚者は歯ぎしりした。
●
「新人類教会が、本格的に動き始めました」
久方 真由美(nCL2000003)が、覚者達に依頼内容を説明する。
新人類教会は以前に、何度か覚者達と接触したことが組織だが。今回、武装を強化する過激派が、武力行為を開始したのだ。
「この新人類教会の過激派は、憤怒者をはじめとする敵対者の制圧と、その際に確保した人員を教会に連れ帰って洗脳し取り込もうとしています。そして、FiVEが保護した村瀬幸来さんを取り戻すという大義名分を掲げて、教会に反発する覚者、またはその関係者などを襲撃し始めています」
新人類教会は過激派と穏健派が存在している。
だが、穏健派のリーダー村瀬幸来が不在の間に、過激派の者達は権勢を振るうつもりのようだ。
「現在、多方の襲撃に向けて準備を行っている過激派ですが。その拠点の一つの情報が入っています。皆さんには、その拠点の制圧をお願いします」
拠点となっているのは、とある廃工場。
敵の戦力は覚者一人。一般戦闘員が二十人だ。
「相手の中に、一人の覚者が確認されていますが。彼女は自分の意志で、過激派に従っているわけではありません」
教会過激派による洗脳。
これを、教化と呼ぶ。
教会の覚者は数が少なく貴重な戦力であり。反発されると危険なため、例外なく教化……つまり洗脳されているのだという。
「過激派の襲撃を許せば、同じように洗脳される者が多く出てくるのは明白です。その前に、一つでも拠点を潰しておけば、それだけ被害も防げます。皆さんの、力をお貸しください」
新人類教会と呼ばれる組織がある。
表向きは覚者および覚者事件における被害者の保護を理念とし、その為に生活支援や養護施設の経営、関連企業への就職斡旋まで行っている。彼らは覚者を『新人類』と称して、手厚く保護する活動をしていた。
構成員の多くは源素を使えない普通の人で、宗主の指導の元に幅広い活動を行う宗教団体だ。
『新人類はその能力故に旧人類に恐れられ迫害されてもいる。彼らを守り育てる事が教会の使命の一つである』
『新人類を迫害する者達を許してはならない。教会は未来の平和のため自らの身命を賭して新人類の敵と戦うべし』
その理念の元に武装していることもあるが、構成員の多くは武装を持たないただの人である。
だが昨今、教会内は過激化する世情に合わせて武装を強化する『過激派』と、それを止めようとする『穏健派』に分裂してきていた。
そして一月某日。穏健派の『村瀬幸来』を過激派から保護するFiVE。
一時雌伏の時を過ごしていた新人類教会過激派だが、力を蓄えた過激派達がまた活動を開始する。
「見張り、交代の時間だぞ」
「分かった。今のところは、異常なしだ」
そこは、ただの廃工場に見えた。
だが、実際は新人類教会過激派の拠点の一つだ。中には、大量の武器が保管されており、戦闘員達が詰めている。
外で見張っていた数人が、中から出てきた仲間と定時連絡を交わす。
いつ敵が来ても、すぐに対応できるよう。厳戒態勢でぴりぴりした空気が漂っていた。
「気を抜くなよ。襲撃本番は近い」
「ああ、分かっている……ところで、あれの様子はどうだ?」
過激派達が声をひそめる。
あれ。
というのは、この廃工場の切り札的な戦力のことだった。
「ああ、よく教化されているよ。こちらのいう事なら、何でも聞くような仕上がりだ」
「そいつは、心強い。洗脳が上手くいったな」
「おい、洗脳じゃない。教化と言え、教化と」
教化。
それは、過激派達が使う隠語だった。
工場内の奥で、一人の少女がぶつぶつと呟く。
「……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
覚者にして、念入りな教化を受けた彼女の名前は、長谷川美和子と言う。
ただし、自分の名前すら今は虚ろになってしまっている。
「……命令通り動く……命令通りに殺す……それが全て全て全て全て……」
何度も何度も。
壊れた操り人形のように、覚者は歯ぎしりした。
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「新人類教会が、本格的に動き始めました」
久方 真由美(nCL2000003)が、覚者達に依頼内容を説明する。
新人類教会は以前に、何度か覚者達と接触したことが組織だが。今回、武装を強化する過激派が、武力行為を開始したのだ。
「この新人類教会の過激派は、憤怒者をはじめとする敵対者の制圧と、その際に確保した人員を教会に連れ帰って洗脳し取り込もうとしています。そして、FiVEが保護した村瀬幸来さんを取り戻すという大義名分を掲げて、教会に反発する覚者、またはその関係者などを襲撃し始めています」
新人類教会は過激派と穏健派が存在している。
だが、穏健派のリーダー村瀬幸来が不在の間に、過激派の者達は権勢を振るうつもりのようだ。
「現在、多方の襲撃に向けて準備を行っている過激派ですが。その拠点の一つの情報が入っています。皆さんには、その拠点の制圧をお願いします」
拠点となっているのは、とある廃工場。
敵の戦力は覚者一人。一般戦闘員が二十人だ。
「相手の中に、一人の覚者が確認されていますが。彼女は自分の意志で、過激派に従っているわけではありません」
教会過激派による洗脳。
これを、教化と呼ぶ。
教会の覚者は数が少なく貴重な戦力であり。反発されると危険なため、例外なく教化……つまり洗脳されているのだという。
「過激派の襲撃を許せば、同じように洗脳される者が多く出てくるのは明白です。その前に、一つでも拠点を潰しておけば、それだけ被害も防げます。皆さんの、力をお貸しください」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.新人類教会過激派の拠点制圧
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
新人類教会戦闘員、教化された覚者を戦闘不能にし、廃工場を利用した拠点を制圧するのが今回の目的となります。
■新人類教会戦闘員
新人類教会過激派の一般戦闘員が二十人。
数人が、外で交代で見張っており。あとは中で待機している状態です。
(主な戦闘方法)
ナイフ 物近単 〔出血〕〔毒〕〔痺れ〕
電磁警棒 物近単 〔鈍化〕〔弱体〕
機関銃 物遠列
■教化された覚者・長谷川美和子
新人類教会過激派に捕まり、洗脳されてしまった覚者。
十七歳の女性。
火行:機の因子の使い手。
憤怒者に迫害された過去があり、そこを念入りに突かれて教化された結果、新人類教会過激派の一般戦闘員達の命令なら何でも聞く操り人形のような状態になっています。
一般戦闘員達にとっては、切り札的な存在であり。本格的に戦闘が始まれば、最前線へと投入される駒として扱われます。
命令を遂行するためなら、自分が傷つくことも死ぬことも恐れない教化具合です。
彼女の場合、生半可なことでは洗脳は解けません。
■廃工場
新人類教会過激派の拠点の一つです。
大量の武器を、工場内に保有しています。このまま放っておけば、過激派に反対する覚者や一般人達を襲撃しようとしている模様。
周囲には民家などはなく、他に人気はありません。
判明している入口は正面に一つ。工場の周りは有刺鉄線で覆われています。また、入口近くには交代で見張りが数人立っています。
工場内は物資が入ったコンテナなどで入り組んでおり、障害物が多い状況です。
それでは、プレイングをお待ちしています。よろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
10/10
公開日
2016年05月03日
2016年05月03日
■メイン参加者 10人■

●
「どうも妖より人間のほうが物騒で、胸糞悪い案件を起こすことが多くて参るよなぁ」
見張りの目がこちらに向きそうになった瞬間には止まって、ステルスを使用。
『花屋装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)は、正面入り口の方へとゆっくりと近付いていく。
「新人類教会過激派ねぇ……以前のあの胸糞悪い屑共と対峙せねばならないとは……本当に気が滅入るよ。うん、さっさと駆除した方がいいんじゃないかな?」
『感情探究の道化師』葛野 泰葉(CL2001242)も、物質透過で有刺鉄線を通り抜けて、死角からの侵入を果たしていた。守護使役のしのびあしで背後まで、気づかれずに背後まで接近する。
工場の外に立つ相手は二人。
今の所、それ以外に人影は見当たらない。
「宗教で思考が染め上げられちゃってるひとたちって、面白くないのよね。みんな似たようなことしか言わないし、しないんだもの」
「所詮、覚者とそうでない人間が分かり合えっこないんだよ。現実はこんなものさ、まともな非覚醒者は死んじまったやつだけさ」
送受心・改で、先行した者達から人員配置などの連絡を受けた華神 悠乃(CL2000231)が、相互伝達をする。一緒に行動する『戦場を舞う猫』鳴海 蕾花(CL2001006)は、逃走用の車などがないかていさつを使用して周囲を調べた。
その間にも、敵と味方の距離は詰まる。
(さて、見張り相手に先手を打たしてもらおうか)
敵の無防備な後頭部を、泰葉が飛燕で殴り倒し。義高が手にしたギュスターブを、思い切り振り抜く。後続の者が突入しやすいように道を作るために。
『今だよ』
悠乃が送受心・改で合図を送り。
それに合わせて、他のメンバーも突入を開始する。
「な、何だ!」
「敵襲かッ?」
(誰も殺さない。怪我は目を瞑ってもらうとしても出来るだけダメージは与えたくはない)
御巫・夜一(CL2000867)が一気に仕掛ける。
仲間に不意を突かれてよろめく見張りに、飛苦無を投げ。ナイフを素早く向けた。見張りを倒して、入口への接近を狙う。
「正面に見張りがいるノナラ……正面から撃ち抜くマデデスネ!」
『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)が、速攻でB.O.T.を撃って攻撃。『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)も、醒の炎を使いながら後衛で続く。
「行くわよ、開眼!」
左手の手の平に第三の眼を宿し。
集中攻撃に火炎弾で加わった。炎の塊が乱舞する。見張り達は、抵抗らしい抵抗ができないまま抑えられていた。
「くっ、我々の導きを理解しない異教徒共が……」
「導くなどと上から目線の行き着く先が洗脳か。これだから、宗教はつきあいきれん」
「さて、いつも通り、お仕事開始と行こう」
葦原 赤貴(CL2001019)が、先制して出来た隙間を韋駄天足で駆け抜ける。指崎 まこと(CL2000087)は、自身に蔵王を使用し皆の盾とならんとする。敵の本隊が工場から出てくる前にと入り口付近でプレッシャーをかけにいった。
無理はしなくても、これで十分なはずだ。
(入口で騒ぎを起こして、相手が出てきたらそのまま戦う。出てこなかったら中に入る、みたいな感じ?)
桂木・日那乃(CL2000941)は、入口の方へ移動して中衛へとつく。回復役として状況によっては、後衛へと行くことも視野に入れる。
「どうした、騒がしいぞ」
「何があった?」
「覚者だ! 武装して、迎撃しろ!」
工場から、過激派の戦闘員が外へと出てくる。
鉢合わせした覚者達とぶつかり合う。事態は、乱戦の態をなしてきていた。
「覚者どもが! 好きにさせはせんぞ!」
「ちょっとこの辺で目を覚まして、客観視してもらった方がいいんじゃないかな。なんて、言っても聞かないからこの状況なんだろうけど。さて、判明している正面入り口へ向かおうか」
悠乃は初動の仕掛けをやってもらっているうちに天駆を使用。
入り口付近で敵が迎撃に動いたのを見やり、前衛まで行き参戦する。
「大型のバンが、横手に停めてあったよ」
「使用不能にしマスネ」
蕾花も合流して、ていさつの成果を伝言。
すぐにリーネがライフルでタイヤを狙撃。敵を誘うように騒ぎ、出入口の抑えることに努める。
「過激派の導きなぞ願い下げだ。社会に被害を出す前に潰されていろ」
赤貴も、車両等の、大量運搬可能な移動手段は特に優先して破壊。まず前衛に出て、蔵王を使ってから味方をガードしつつ。まとまった敵へと烈波を放つ。気の弾丸が相手のみならず、車体へも注がれた。
「ほらほら、どうしたの? 僕を倒さないと、ここからは逃げられないよ」
「ちっ!」
挑発し注目を集め、仲間の援護を。
突破を狙ってくる敵に対して、まことは紫鋼塞を張って反撃。
(やれやれ、一難さってまた一難か。ま、相手がどんな組織かなんてどうでもいいし、所詮やってる事はただのテロだ。平穏を望む人々を傷付ける、危険な集団がいるのなら。それを叩き潰し、皆を護る。ついでに、かわいそうな人がいるなら、助け出す。僕のやることは、それだけだ)
弾丸が跳ね返ったところで、更に大震での敵を吹き飛ばす。
味方の陣形が整うまで、粘る。
「被害が出るなら消、……したらダメ、ね」
日那乃は深想水や演舞・舞衣で、体力回復やバッドステータスの治癒を行う。
敵との交戦での傷は、体力の回復のほうが優先。中へ後ろへと移動して、皆の状態に合わせてリカバーした。
「命までは取らないから安心して燃えなさい」
生かしておかないといけないのが面倒ね、と。
ありすは胸中で呟いてから、炎柱でまとめて焼きにかかる。地面から火の粉舞う大柱が、渦を巻く。
「と、扉を閉めろ! 奴らを、中へ入れるな!」
外に出ていた五人が、覚者達に圧倒されるのを見とったのだろう。
過激派達は、急いで入口を閉める。見張りを拘束して地面に転がしてから、夜一達が固く閉ざされた出入口へと集まる。派手に立ち回って、敵を誘い出すように仕向けるつもりだったが。相手は籠城を選択したようだった。
「扉を吹き飛ばそうか?」
「いや、ここは俺が中から開けよう」
義高が物質透過で、するりと潜入して正面入り口を開放。
そこから、様子をうかがいつつ雪崩れ込む。工場内は巨大なコンテナにあふれ、視界が良いとはお世辞にも言えない。どこからか、敵の声が反響する。
「は、入って来たぞ! 全員、気をつけろ!」
「さてさて……屑共の掃討のお時間だ。さあ、道化に付き合ってくれ」
泰葉は乱戦に乗じて、影から相手へと接近する。
物質透過で障害物を無視して、第六感を研ぎ澄ませて進む。身を隠しながら人影を確認、背を預けたコンテナにそっと触れた。
(ああ、コンテナの中の物資も破壊しておくかな?)
掌に空気を圧縮し、強烈な熱を帯びる。
次の瞬間、圧撃によってコンテナが吹き飛び。待ち構えていた過激派の連中を押し潰した。
「ぐああああああ!」
「コ、コンテナが!」
悲鳴が上がり。
人が逃げ惑う。
そこを縫うように、飛燕が走り。豪炎撃を撃ち込む。影から影へと、暗殺者のごとき動きだった。
「逃亡を警戒してるひともいたし、ずっと待つわけにもね」
悠乃が、篭手の放つ闇を大きく解き放ち。
敵を次々となぎ払う。倉庫の金属扉等は、叩いて曲げて使用不能にしておいた。ハイバランサーを使って、障害物へと足をかけて変幻自在に踏破して機動力で相手を翻弄する。
「華神さん、危ないデス!」
そこにリーネの超直観が働く。
仲間に銃を向ける敵の影をとらえ。脚を狙って早撃ち。不殺を心掛けて、無力化する。
「ありがとう、ブルツェンスカさん」
「人の意志や心を踏み躙る様な行為は許せマセンネ! そんな事する人達には私が罰を与えマスネ!」
手を振る悠乃に応えるリーネはちょっとテンションが高いようだ。
それは、今回の相手に対する怒りに因るものか。蔵王・戒と紫鋼塞で防御を固めて盾なり、カウンター反射で敵陣へと飛び込んでいく。
「この、化け物どもが!」
「撃て撃て! 遠慮はいらん、蜂の巣にしてやれ!」
(覚者の事を受け入れると口で言っておきながら、結局こいつらもあたしらを人間だとは考えていない。内心ではあたしらを化物だと思ってる。所詮お前らも憤怒者だ。わかってる殺しはしない。けど五体満足では済ませるほどの加減はきかない)
敵の耳をつんざく発砲音をものともせず。
蕾花が天駆で室内を駆けめぐる。コンテナなどの物陰に隠れていないか天井ギリギリまで守護使役にていさつさせ。その情報を元に、弾丸の雨嵐をかいくぐり接敵したら、足の遅い者達へ疾風斬りを見舞う。
「手足の一つ、内臓の一つは誤差の範囲内!」
「っ!」
俊足の一撃に、戦闘員の身体が宙へと舞い。
コンクリートの地面に強かに打ち付けられて悶絶する。
「奥の方に、敵が隠れている、かも」
日那乃は空を飛んで、一番高いコンテナの上に乗っていた。
感情探査を使って、大まかにでも相手が工場の中のどの辺の位置に何人いるか判明すれば、中継してもらって皆に伝える。
「分かった、そちらは任せろ」
確実な制圧のために迅速に実行する。
仲間からの情報を受け。赤貴は対応に追われていた。周辺の敵を片付けると、蜘蛛糸を使ってコンテナを越えて近道。回り込んで、召炎波を浴びせた。
(俺としちゃ力はあるから恐れられるのは分かるが大人しく、社会の一員として暮らしたいだけなんだがなぁ……)
などと思いながらも。
義高は入り組んだコンテナの間で敵をステルスで待ち構えていた。
「くっ、覚者どもが……皆殺しにしてやる」
敵の一人が、近付いてきたところへタイミング良く。
「まったく人間のほうが凶悪って、まったくやんなるぜ」
「なっ!」
人にいない通路に引きずり込み。
各個撃破していく。隠密行動をとりんがら、進んでいった。傷の回復が必要な場合は、入口方面にいけば、仲間が誰かしらいる。
(彼らのしてきたことに関して思うことは多々ある。だがそれぞれの想いが違うのは人だから仕方ない)
誰一人逃がしはしない。
夜一は出入り口、それに近しい場所に警報空間を設定。敵全員の拘束と武器の破壊、または差し押さえをする。
「どけ! 覚者が!」
「我々の邪魔は許さんぞ!」
孤立、集中攻撃を回避するため声を掛け合い。
近付く敵に五織の彩で迎撃し、小手返しでいなして通さない。
(同じ人なのだから違うのだとも思うのだが。新人類だろうが旧人類だろうが同じ「人」なんだ。何故根本を見ないんだろう……)
鉄甲掌で気絶させた相手を、ガムテープで拘束しながらも。
複雑な疼きが、晴れることはなかった。敵の下劣な喚きが耳に届く。
「あいつだ! あの女を出せ!」
「こういう時のために、教化したんだろう!」
「言葉が変われば印象も変わるか。人の狡賢さは尊敬に値するな。まぁ嫌味だが」
●
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
意志を感じさせぬ虚ろな目。
長谷川美和子は、激しい炎を撒き散らした。その右腕は巨大な火炎放射器のような形に、変異している。
「ねぇ、君の名前は? なんでそんなに怒っているの?」
まことは彼女が向かってくると、そちらの対応に回る。
護りを固め、マイナスイオンを利用しながら声をかけた。
「……名前? 名前? 名前? ううう」
「そっか、ありがとう。辛かったんだよね、苦しかったんだよね。それをなんとかしたくて、頑張ってるんだよね」
美和子は、急に苦しみ出し。
灼熱した炎を覚者達へぶつける。それでも――十天、指崎まこと。いざ尋常に、勝負。回復を行いながら、語りかける。
「君は良い子だよ、君は悪くない。だからさ、無理に戦わなくてもいいんだ。辛いなら、苦しいなら。休んでいいんだよ?」
「うう……殺す殺す、それが、やるべきこと」
「さて、教化された覚者が居るらしいけど……ふむ、実に好ましい程の感情の発露だが……紛い物の感情は俺は好きじゃないなァ……」
という訳で大人しくさせる事にしようと。
泰葉の猛の一撃が、美和子に直撃する。洗脳された身体が揺れる。
「なあ、君はそれでいいのかい? 殺意だけ命令だけで動くお人形さんみたいな存在に甘んじていいのかい? どうせ殺意を滾らせるなら自分の意思を持て。あんたが憤怒者どもにやられた怒りは俺達に向けるべき感情ではないだろ? なあ、長谷川美和子。君の意思は、感情は、どうしたいんだ? 目を覚ましなよ、長谷川美和子。君はただの機械じゃない、立派な感情を持った一個の人間だろ?」
どっちにしろ。F.i.V.Eには連れて帰るけどね、とまでは。
口には出さなかったが。
「何をやっている! 我々の導きに従って早く覚者共を殺せ!」
「導くとか、そういうのいいんでー。一緒に歩めた方がいいよね?」
悠乃が、わめく戦闘員に拳を二連撃で打ち込み。
そのまま投げ飛ばす。命力分配で一息ついてから、ともしびで薄暗い工場内を照らす。
「ヒトモノカネ……お金はいいとして、人と物は止めないとね」
美和子のことは仲間に任せ。
掃討を続ける。
「ムアー! 本当にここの組織は洗脳大好きデスネ! ソシテ私はソノ洗脳というのは大嫌いデス!」
リーネも洗脳された覚者を助けたい思いは変わらない。
紫鋼塞を再度使い、先陣を切ってB.O.T.で視界を潰すような弾幕を張り続けた。
「……何なのよ、コイツ等。守ろうとしている対象のはずの覚者を洗脳して戦力として使うとか、自ら掲げたお題目すら守れないの? 覚者同士戦わせようとか、覚者を守るっていう言葉が聞いてあきれるわ。アンタ達の私利私欲の為に覚者を使わないでもらえるかしら!」
ありすは、辺り構わず召炎波で焼き払った。
資材の押収? 別に必要なわけじゃないんだし屑鉄でもいいでしょう?
障害物なんて気にしなければいい。
そして。
「ふん……人間相手にこれを使うことになるなんてね」
誰一人として逃がさない。
炎の津波でコンテナのみならず、敵をも大熱量で押し流す。
「くっ。ここはもう駄目だ! 施設を爆破しろ」
「させない、よ」
自棄になった過激派へと、日那乃が飛行で飛び込む。
このような場合にずっと備えていたのだ。エアブリットを炸裂させて、敵の動きを止め。赤貴が続いて、炎を這わせて自爆を阻止した。
(個々に手間をかけて、全体の制圧が滞ってはまずいからな)
赤貴は意図的なトドメは刺さない。
味方回復役のガードに専心して、遠距離攻撃による援護に留まる。ただ、意識して生かそうと思っていないのも事実だ。
(教会のやつらも長谷川も殺すつもりはない、もちろん敵を甘く見てるわけじゃないんだが、俺たちは力があっても、それに溺れたりしてないってとこは見せたいわけ)
一方、義高はそこは覚者の矜持ってやつかなと。
戦闘員がほぼ片付けると、体内を活性化させる。美和子の相手にするため、更に守りを固めて包囲する。
「殺殺殺……うう」
「ったく、やりづらいわね。早く目を覚ましなさい!」
ありすも覚者との戦いに加勢に入る。
放射器の腕から四方八方に炎を暴走させる美和子に、火炎弾と破眼光を打ち込み追い詰める。
(オレは家族にも友達にも恵まれたから今の生活があるが。何処かが違えば彼女と同じ道を歩んでいたかも知れない。逆を言えば彼女はオレと同じ道が歩ける可能性があるはずなんだ)
工場内は狭いから外へと誘導。
夜一は、他の戦闘員から美和子を離すようにずっと立ち回っていた。
「君は誰だ、君は、君の意思はそこにあるのか。君と同じ境遇の人がここにいるんだ。聞こえているなら武器を捨ててくれ。オレたちが君を守るから」
呼びかける。
願いをこめて。
「うう……うううう」
「バカが、こんな奴らを信用するからこうなるんだ。迫害を受けた時からもうわかっていたろ。仇はとってやるからな」
仲間の言葉に苦しむ同胞の炎から、蕾花は身を躱し。
洗脳された覚者へと、渾身の飛燕を思い切り叩きこむ。
(穏健派にいいように使われるようにしか思えないね。要は教会の悪事が表に出る前になんとかしろってことだろ。あたしはどっちも信用しない。工場内を写真に収めて新聞社に情報を流してやる)
真実は伝わらないだろうけど。
教会に打撃を与えられるはずだ、と信じて。
蕾花は気を失って倒れた美和子を……見下ろした。
「長谷川さん。教化されるのに薬とか使われるみたいだから。あとで深想水かけたら。洗脳、ちょっとは解けるのに役に立ったり、しな、い?」
日那乃は美和子の傍らで、看病する。
義高と赤貴はコンテナを物色していた。一応は書類漁りくらいしておく。
「コンテナの中身は押収させてもらう、これは持っていいものでないはずだからな。こいつはしかるべき処理が必要だからな」
「他拠点や重要武装、洗脳した者や手法の情報等ダメモトで、一つでもあれば御の字だ……と思っていたが。教化の方法は構成員でも知らされていないみたいだな」
戦闘の激しさにより、資料の類はほとんどが失われてしまったようだが。
唯一、それだけは判明する。
洗脳……教化については、内部でも謎が多いようだった。真実を知るのは、ほんの一握り。
跡形もない工場内に冷たい風が吹きこみ、焼け焦げたファイルのページがめくれる。覚者達は、我知らず身を震わせた。
「どうも妖より人間のほうが物騒で、胸糞悪い案件を起こすことが多くて参るよなぁ」
見張りの目がこちらに向きそうになった瞬間には止まって、ステルスを使用。
『花屋装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)は、正面入り口の方へとゆっくりと近付いていく。
「新人類教会過激派ねぇ……以前のあの胸糞悪い屑共と対峙せねばならないとは……本当に気が滅入るよ。うん、さっさと駆除した方がいいんじゃないかな?」
『感情探究の道化師』葛野 泰葉(CL2001242)も、物質透過で有刺鉄線を通り抜けて、死角からの侵入を果たしていた。守護使役のしのびあしで背後まで、気づかれずに背後まで接近する。
工場の外に立つ相手は二人。
今の所、それ以外に人影は見当たらない。
「宗教で思考が染め上げられちゃってるひとたちって、面白くないのよね。みんな似たようなことしか言わないし、しないんだもの」
「所詮、覚者とそうでない人間が分かり合えっこないんだよ。現実はこんなものさ、まともな非覚醒者は死んじまったやつだけさ」
送受心・改で、先行した者達から人員配置などの連絡を受けた華神 悠乃(CL2000231)が、相互伝達をする。一緒に行動する『戦場を舞う猫』鳴海 蕾花(CL2001006)は、逃走用の車などがないかていさつを使用して周囲を調べた。
その間にも、敵と味方の距離は詰まる。
(さて、見張り相手に先手を打たしてもらおうか)
敵の無防備な後頭部を、泰葉が飛燕で殴り倒し。義高が手にしたギュスターブを、思い切り振り抜く。後続の者が突入しやすいように道を作るために。
『今だよ』
悠乃が送受心・改で合図を送り。
それに合わせて、他のメンバーも突入を開始する。
「な、何だ!」
「敵襲かッ?」
(誰も殺さない。怪我は目を瞑ってもらうとしても出来るだけダメージは与えたくはない)
御巫・夜一(CL2000867)が一気に仕掛ける。
仲間に不意を突かれてよろめく見張りに、飛苦無を投げ。ナイフを素早く向けた。見張りを倒して、入口への接近を狙う。
「正面に見張りがいるノナラ……正面から撃ち抜くマデデスネ!」
『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)が、速攻でB.O.T.を撃って攻撃。『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)も、醒の炎を使いながら後衛で続く。
「行くわよ、開眼!」
左手の手の平に第三の眼を宿し。
集中攻撃に火炎弾で加わった。炎の塊が乱舞する。見張り達は、抵抗らしい抵抗ができないまま抑えられていた。
「くっ、我々の導きを理解しない異教徒共が……」
「導くなどと上から目線の行き着く先が洗脳か。これだから、宗教はつきあいきれん」
「さて、いつも通り、お仕事開始と行こう」
葦原 赤貴(CL2001019)が、先制して出来た隙間を韋駄天足で駆け抜ける。指崎 まこと(CL2000087)は、自身に蔵王を使用し皆の盾とならんとする。敵の本隊が工場から出てくる前にと入り口付近でプレッシャーをかけにいった。
無理はしなくても、これで十分なはずだ。
(入口で騒ぎを起こして、相手が出てきたらそのまま戦う。出てこなかったら中に入る、みたいな感じ?)
桂木・日那乃(CL2000941)は、入口の方へ移動して中衛へとつく。回復役として状況によっては、後衛へと行くことも視野に入れる。
「どうした、騒がしいぞ」
「何があった?」
「覚者だ! 武装して、迎撃しろ!」
工場から、過激派の戦闘員が外へと出てくる。
鉢合わせした覚者達とぶつかり合う。事態は、乱戦の態をなしてきていた。
「覚者どもが! 好きにさせはせんぞ!」
「ちょっとこの辺で目を覚まして、客観視してもらった方がいいんじゃないかな。なんて、言っても聞かないからこの状況なんだろうけど。さて、判明している正面入り口へ向かおうか」
悠乃は初動の仕掛けをやってもらっているうちに天駆を使用。
入り口付近で敵が迎撃に動いたのを見やり、前衛まで行き参戦する。
「大型のバンが、横手に停めてあったよ」
「使用不能にしマスネ」
蕾花も合流して、ていさつの成果を伝言。
すぐにリーネがライフルでタイヤを狙撃。敵を誘うように騒ぎ、出入口の抑えることに努める。
「過激派の導きなぞ願い下げだ。社会に被害を出す前に潰されていろ」
赤貴も、車両等の、大量運搬可能な移動手段は特に優先して破壊。まず前衛に出て、蔵王を使ってから味方をガードしつつ。まとまった敵へと烈波を放つ。気の弾丸が相手のみならず、車体へも注がれた。
「ほらほら、どうしたの? 僕を倒さないと、ここからは逃げられないよ」
「ちっ!」
挑発し注目を集め、仲間の援護を。
突破を狙ってくる敵に対して、まことは紫鋼塞を張って反撃。
(やれやれ、一難さってまた一難か。ま、相手がどんな組織かなんてどうでもいいし、所詮やってる事はただのテロだ。平穏を望む人々を傷付ける、危険な集団がいるのなら。それを叩き潰し、皆を護る。ついでに、かわいそうな人がいるなら、助け出す。僕のやることは、それだけだ)
弾丸が跳ね返ったところで、更に大震での敵を吹き飛ばす。
味方の陣形が整うまで、粘る。
「被害が出るなら消、……したらダメ、ね」
日那乃は深想水や演舞・舞衣で、体力回復やバッドステータスの治癒を行う。
敵との交戦での傷は、体力の回復のほうが優先。中へ後ろへと移動して、皆の状態に合わせてリカバーした。
「命までは取らないから安心して燃えなさい」
生かしておかないといけないのが面倒ね、と。
ありすは胸中で呟いてから、炎柱でまとめて焼きにかかる。地面から火の粉舞う大柱が、渦を巻く。
「と、扉を閉めろ! 奴らを、中へ入れるな!」
外に出ていた五人が、覚者達に圧倒されるのを見とったのだろう。
過激派達は、急いで入口を閉める。見張りを拘束して地面に転がしてから、夜一達が固く閉ざされた出入口へと集まる。派手に立ち回って、敵を誘い出すように仕向けるつもりだったが。相手は籠城を選択したようだった。
「扉を吹き飛ばそうか?」
「いや、ここは俺が中から開けよう」
義高が物質透過で、するりと潜入して正面入り口を開放。
そこから、様子をうかがいつつ雪崩れ込む。工場内は巨大なコンテナにあふれ、視界が良いとはお世辞にも言えない。どこからか、敵の声が反響する。
「は、入って来たぞ! 全員、気をつけろ!」
「さてさて……屑共の掃討のお時間だ。さあ、道化に付き合ってくれ」
泰葉は乱戦に乗じて、影から相手へと接近する。
物質透過で障害物を無視して、第六感を研ぎ澄ませて進む。身を隠しながら人影を確認、背を預けたコンテナにそっと触れた。
(ああ、コンテナの中の物資も破壊しておくかな?)
掌に空気を圧縮し、強烈な熱を帯びる。
次の瞬間、圧撃によってコンテナが吹き飛び。待ち構えていた過激派の連中を押し潰した。
「ぐああああああ!」
「コ、コンテナが!」
悲鳴が上がり。
人が逃げ惑う。
そこを縫うように、飛燕が走り。豪炎撃を撃ち込む。影から影へと、暗殺者のごとき動きだった。
「逃亡を警戒してるひともいたし、ずっと待つわけにもね」
悠乃が、篭手の放つ闇を大きく解き放ち。
敵を次々となぎ払う。倉庫の金属扉等は、叩いて曲げて使用不能にしておいた。ハイバランサーを使って、障害物へと足をかけて変幻自在に踏破して機動力で相手を翻弄する。
「華神さん、危ないデス!」
そこにリーネの超直観が働く。
仲間に銃を向ける敵の影をとらえ。脚を狙って早撃ち。不殺を心掛けて、無力化する。
「ありがとう、ブルツェンスカさん」
「人の意志や心を踏み躙る様な行為は許せマセンネ! そんな事する人達には私が罰を与えマスネ!」
手を振る悠乃に応えるリーネはちょっとテンションが高いようだ。
それは、今回の相手に対する怒りに因るものか。蔵王・戒と紫鋼塞で防御を固めて盾なり、カウンター反射で敵陣へと飛び込んでいく。
「この、化け物どもが!」
「撃て撃て! 遠慮はいらん、蜂の巣にしてやれ!」
(覚者の事を受け入れると口で言っておきながら、結局こいつらもあたしらを人間だとは考えていない。内心ではあたしらを化物だと思ってる。所詮お前らも憤怒者だ。わかってる殺しはしない。けど五体満足では済ませるほどの加減はきかない)
敵の耳をつんざく発砲音をものともせず。
蕾花が天駆で室内を駆けめぐる。コンテナなどの物陰に隠れていないか天井ギリギリまで守護使役にていさつさせ。その情報を元に、弾丸の雨嵐をかいくぐり接敵したら、足の遅い者達へ疾風斬りを見舞う。
「手足の一つ、内臓の一つは誤差の範囲内!」
「っ!」
俊足の一撃に、戦闘員の身体が宙へと舞い。
コンクリートの地面に強かに打ち付けられて悶絶する。
「奥の方に、敵が隠れている、かも」
日那乃は空を飛んで、一番高いコンテナの上に乗っていた。
感情探査を使って、大まかにでも相手が工場の中のどの辺の位置に何人いるか判明すれば、中継してもらって皆に伝える。
「分かった、そちらは任せろ」
確実な制圧のために迅速に実行する。
仲間からの情報を受け。赤貴は対応に追われていた。周辺の敵を片付けると、蜘蛛糸を使ってコンテナを越えて近道。回り込んで、召炎波を浴びせた。
(俺としちゃ力はあるから恐れられるのは分かるが大人しく、社会の一員として暮らしたいだけなんだがなぁ……)
などと思いながらも。
義高は入り組んだコンテナの間で敵をステルスで待ち構えていた。
「くっ、覚者どもが……皆殺しにしてやる」
敵の一人が、近付いてきたところへタイミング良く。
「まったく人間のほうが凶悪って、まったくやんなるぜ」
「なっ!」
人にいない通路に引きずり込み。
各個撃破していく。隠密行動をとりんがら、進んでいった。傷の回復が必要な場合は、入口方面にいけば、仲間が誰かしらいる。
(彼らのしてきたことに関して思うことは多々ある。だがそれぞれの想いが違うのは人だから仕方ない)
誰一人逃がしはしない。
夜一は出入り口、それに近しい場所に警報空間を設定。敵全員の拘束と武器の破壊、または差し押さえをする。
「どけ! 覚者が!」
「我々の邪魔は許さんぞ!」
孤立、集中攻撃を回避するため声を掛け合い。
近付く敵に五織の彩で迎撃し、小手返しでいなして通さない。
(同じ人なのだから違うのだとも思うのだが。新人類だろうが旧人類だろうが同じ「人」なんだ。何故根本を見ないんだろう……)
鉄甲掌で気絶させた相手を、ガムテープで拘束しながらも。
複雑な疼きが、晴れることはなかった。敵の下劣な喚きが耳に届く。
「あいつだ! あの女を出せ!」
「こういう時のために、教化したんだろう!」
「言葉が変われば印象も変わるか。人の狡賢さは尊敬に値するな。まぁ嫌味だが」
●
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
意志を感じさせぬ虚ろな目。
長谷川美和子は、激しい炎を撒き散らした。その右腕は巨大な火炎放射器のような形に、変異している。
「ねぇ、君の名前は? なんでそんなに怒っているの?」
まことは彼女が向かってくると、そちらの対応に回る。
護りを固め、マイナスイオンを利用しながら声をかけた。
「……名前? 名前? 名前? ううう」
「そっか、ありがとう。辛かったんだよね、苦しかったんだよね。それをなんとかしたくて、頑張ってるんだよね」
美和子は、急に苦しみ出し。
灼熱した炎を覚者達へぶつける。それでも――十天、指崎まこと。いざ尋常に、勝負。回復を行いながら、語りかける。
「君は良い子だよ、君は悪くない。だからさ、無理に戦わなくてもいいんだ。辛いなら、苦しいなら。休んでいいんだよ?」
「うう……殺す殺す、それが、やるべきこと」
「さて、教化された覚者が居るらしいけど……ふむ、実に好ましい程の感情の発露だが……紛い物の感情は俺は好きじゃないなァ……」
という訳で大人しくさせる事にしようと。
泰葉の猛の一撃が、美和子に直撃する。洗脳された身体が揺れる。
「なあ、君はそれでいいのかい? 殺意だけ命令だけで動くお人形さんみたいな存在に甘んじていいのかい? どうせ殺意を滾らせるなら自分の意思を持て。あんたが憤怒者どもにやられた怒りは俺達に向けるべき感情ではないだろ? なあ、長谷川美和子。君の意思は、感情は、どうしたいんだ? 目を覚ましなよ、長谷川美和子。君はただの機械じゃない、立派な感情を持った一個の人間だろ?」
どっちにしろ。F.i.V.Eには連れて帰るけどね、とまでは。
口には出さなかったが。
「何をやっている! 我々の導きに従って早く覚者共を殺せ!」
「導くとか、そういうのいいんでー。一緒に歩めた方がいいよね?」
悠乃が、わめく戦闘員に拳を二連撃で打ち込み。
そのまま投げ飛ばす。命力分配で一息ついてから、ともしびで薄暗い工場内を照らす。
「ヒトモノカネ……お金はいいとして、人と物は止めないとね」
美和子のことは仲間に任せ。
掃討を続ける。
「ムアー! 本当にここの組織は洗脳大好きデスネ! ソシテ私はソノ洗脳というのは大嫌いデス!」
リーネも洗脳された覚者を助けたい思いは変わらない。
紫鋼塞を再度使い、先陣を切ってB.O.T.で視界を潰すような弾幕を張り続けた。
「……何なのよ、コイツ等。守ろうとしている対象のはずの覚者を洗脳して戦力として使うとか、自ら掲げたお題目すら守れないの? 覚者同士戦わせようとか、覚者を守るっていう言葉が聞いてあきれるわ。アンタ達の私利私欲の為に覚者を使わないでもらえるかしら!」
ありすは、辺り構わず召炎波で焼き払った。
資材の押収? 別に必要なわけじゃないんだし屑鉄でもいいでしょう?
障害物なんて気にしなければいい。
そして。
「ふん……人間相手にこれを使うことになるなんてね」
誰一人として逃がさない。
炎の津波でコンテナのみならず、敵をも大熱量で押し流す。
「くっ。ここはもう駄目だ! 施設を爆破しろ」
「させない、よ」
自棄になった過激派へと、日那乃が飛行で飛び込む。
このような場合にずっと備えていたのだ。エアブリットを炸裂させて、敵の動きを止め。赤貴が続いて、炎を這わせて自爆を阻止した。
(個々に手間をかけて、全体の制圧が滞ってはまずいからな)
赤貴は意図的なトドメは刺さない。
味方回復役のガードに専心して、遠距離攻撃による援護に留まる。ただ、意識して生かそうと思っていないのも事実だ。
(教会のやつらも長谷川も殺すつもりはない、もちろん敵を甘く見てるわけじゃないんだが、俺たちは力があっても、それに溺れたりしてないってとこは見せたいわけ)
一方、義高はそこは覚者の矜持ってやつかなと。
戦闘員がほぼ片付けると、体内を活性化させる。美和子の相手にするため、更に守りを固めて包囲する。
「殺殺殺……うう」
「ったく、やりづらいわね。早く目を覚ましなさい!」
ありすも覚者との戦いに加勢に入る。
放射器の腕から四方八方に炎を暴走させる美和子に、火炎弾と破眼光を打ち込み追い詰める。
(オレは家族にも友達にも恵まれたから今の生活があるが。何処かが違えば彼女と同じ道を歩んでいたかも知れない。逆を言えば彼女はオレと同じ道が歩ける可能性があるはずなんだ)
工場内は狭いから外へと誘導。
夜一は、他の戦闘員から美和子を離すようにずっと立ち回っていた。
「君は誰だ、君は、君の意思はそこにあるのか。君と同じ境遇の人がここにいるんだ。聞こえているなら武器を捨ててくれ。オレたちが君を守るから」
呼びかける。
願いをこめて。
「うう……うううう」
「バカが、こんな奴らを信用するからこうなるんだ。迫害を受けた時からもうわかっていたろ。仇はとってやるからな」
仲間の言葉に苦しむ同胞の炎から、蕾花は身を躱し。
洗脳された覚者へと、渾身の飛燕を思い切り叩きこむ。
(穏健派にいいように使われるようにしか思えないね。要は教会の悪事が表に出る前になんとかしろってことだろ。あたしはどっちも信用しない。工場内を写真に収めて新聞社に情報を流してやる)
真実は伝わらないだろうけど。
教会に打撃を与えられるはずだ、と信じて。
蕾花は気を失って倒れた美和子を……見下ろした。
「長谷川さん。教化されるのに薬とか使われるみたいだから。あとで深想水かけたら。洗脳、ちょっとは解けるのに役に立ったり、しな、い?」
日那乃は美和子の傍らで、看病する。
義高と赤貴はコンテナを物色していた。一応は書類漁りくらいしておく。
「コンテナの中身は押収させてもらう、これは持っていいものでないはずだからな。こいつはしかるべき処理が必要だからな」
「他拠点や重要武装、洗脳した者や手法の情報等ダメモトで、一つでもあれば御の字だ……と思っていたが。教化の方法は構成員でも知らされていないみたいだな」
戦闘の激しさにより、資料の類はほとんどが失われてしまったようだが。
唯一、それだけは判明する。
洗脳……教化については、内部でも謎が多いようだった。真実を知るのは、ほんの一握り。
跡形もない工場内に冷たい風が吹きこみ、焼け焦げたファイルのページがめくれる。覚者達は、我知らず身を震わせた。

■あとがき■
今回の結果は、拠点は無事に制圧。長谷川美和子は医療施設に搬送され、過激派の構成員達も捕縛されました。
美和子は教化が解けたわけではありませんが、皆さんの行動により精神が揺さぶられて反応したのは確かなようです。彼女が今後どうなっていくかは、今後の展開次第でもありますが。
伝えた思いや、言葉は決して無駄ではありません。
それでは、ご参加ありがとうございました。
美和子は教化が解けたわけではありませんが、皆さんの行動により精神が揺さぶられて反応したのは確かなようです。彼女が今後どうなっていくかは、今後の展開次第でもありますが。
伝えた思いや、言葉は決して無駄ではありません。
それでは、ご参加ありがとうございました。
