赤帽子
●赤帽子
「へへっ、流石にこの時間なら誰も居ないだろ!」
とある日曜日。朝も早くから自転車で河川敷の市民球場までやって来たのは元気一杯の小学生だった。自転車の籠には道具一式が積まれており、野球少年だと一目で解る。
貸し切りの球場で早朝練習をしたかったのだろうが、そうは問屋が卸さない。
「って、あれ? 何だよこんな朝っぱらから誰か居るのか、よ……」
人の事を言えない少年が球場で動く影を見つける。子供である自分よりも小さいが、揃いの赤い帽子を被っているのか動きが良く見えた。
一体誰が居るのかと人影を少年が見ると、やがてその顔から血の気が引いていく。
「ギャ、ギイ!」
「ギャッギャッ!」
手足は細いが頭は大きく、尖った耳と牙のような歯並びは獣のような有様だ。そして何よりもオリーブグリーンの肌色は人間の物ではない。
「あ、妖だ……!」
親や教師からその恐ろしさを嫌と言う程教わっている少年は一目散に逃げ帰る。妖が野球用のバットとボールを持ち、揃いの赤いヘルメットを被っている事など気にする余裕は無かった。
●鯉は居ないよ
「赤い頭の妖精、レッドキャップに似てるけど何でか野球用のバットとボールを持っているみたいだ。多分、姿だけ似ている妖なんだろうな」
久方 相馬(nCL2000004)が妖について説明する声はいつになく軽快である。予知や事前調査の結果判明した事だが、どうも今回の妖は危険度が低いようなのだ。
事件を事前に知る事のできる夢見にとって危険度が低いという事は、仲間が傷付く可能性が低いという事。安心して任せられるが故の安堵なのだろう。
「一体一体は弱いけど数が多い。なら、こっちも頭数を揃えれば良いだけだ。カキーンとやってやろうぜ!」
「へへっ、流石にこの時間なら誰も居ないだろ!」
とある日曜日。朝も早くから自転車で河川敷の市民球場までやって来たのは元気一杯の小学生だった。自転車の籠には道具一式が積まれており、野球少年だと一目で解る。
貸し切りの球場で早朝練習をしたかったのだろうが、そうは問屋が卸さない。
「って、あれ? 何だよこんな朝っぱらから誰か居るのか、よ……」
人の事を言えない少年が球場で動く影を見つける。子供である自分よりも小さいが、揃いの赤い帽子を被っているのか動きが良く見えた。
一体誰が居るのかと人影を少年が見ると、やがてその顔から血の気が引いていく。
「ギャ、ギイ!」
「ギャッギャッ!」
手足は細いが頭は大きく、尖った耳と牙のような歯並びは獣のような有様だ。そして何よりもオリーブグリーンの肌色は人間の物ではない。
「あ、妖だ……!」
親や教師からその恐ろしさを嫌と言う程教わっている少年は一目散に逃げ帰る。妖が野球用のバットとボールを持ち、揃いの赤いヘルメットを被っている事など気にする余裕は無かった。
●鯉は居ないよ
「赤い頭の妖精、レッドキャップに似てるけど何でか野球用のバットとボールを持っているみたいだ。多分、姿だけ似ている妖なんだろうな」
久方 相馬(nCL2000004)が妖について説明する声はいつになく軽快である。予知や事前調査の結果判明した事だが、どうも今回の妖は危険度が低いようなのだ。
事件を事前に知る事のできる夢見にとって危険度が低いという事は、仲間が傷付く可能性が低いという事。安心して任せられるが故の安堵なのだろう。
「一体一体は弱いけど数が多い。なら、こっちも頭数を揃えれば良いだけだ。カキーンとやってやろうぜ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.赤帽子を全て倒せ!
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
・河川敷の市民球場。よく整地されており、戦う際に一切の支障はない。プレイボール!
●目標
赤帽子:妖・自然系・ランク1:赤い帽子、と言うかヘルメットを被った妖。手に持ったバットと何処からか取り出すボールで攻撃してくる。一体あたりの力は弱いが九体出現するため注意が必要。
フルスイング:A物近単:手に持ったバットで思い切り殴り掛かって来る。痛い。
ピッチング:A物遠単:何処からか取り出したボールを投げつけて来る。まあまあ痛い。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/9
6/9
公開日
2016年04月23日
2016年04月23日
■メイン参加者 6人■

●
「七人か。三角ベースならできるね」
最後衛に位置した水瀬 珠姫(nCL2000070)がポツリと呟く。未だ朝靄晴れ切らぬとある市民球場、そこに三体三列ずつ並んでいる妖―――赤帽子を前に言うには随分と軽い言葉であった。
「オー、野球デスネ! 言葉は知ってマスガ、ルールとかはサッパリデスネ!」
「フッ、妖達が悪さをしてると聞いて、参上! 数だけ多い雑魚らしいが……上等!!」
赤帽子を確認したリーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)が真っ先に土行弐式「紫鋼塞」で身を固める。この辺りの反応の速さは流石と言った所だろう。
現に隣に立つ佐戸・悟(CL2001371)の口上よりも初手の行動が素早いほどであった。
「ああ! なんて事なの! こんなにも病原体が発生してるなんて! 大多数の人が使う市民球場に万一こんな連中がうろついてたら怪我、病気の元でしかないわ!」
「なんだかこの前と大体同じメンバーなの。今日はよろしくお願いしますなの!」
添木・のばら(CL2001367)のエキサイトぶりに瀬織津・鈴鹿(CL2001285)が以前の出来事を思い出したのか頭を下げる。移動中は完全に夜中だったせいか、ようやく目が覚めたのだろう。
「この間の夢であった人達、多い。実際に、居たんだね、宜しく……それと、私、18歳だから」
「……わかってるさ、もう子ども扱いはしない。前回は全面的に俺が悪かった。だから機嫌を直してくれないか?」
じっとりとした視線で神々楽 黄泉(CL2001332)が隣の添木・千唐(CL2001369)を見る。こちらはこちらで以前色々とあったようだ。
「ハハッ、この依頼が終わったら皆に好きな物でもご馳走するさ。それで許してくれ」
黄泉に睨まれた千唐は肩を竦めてそう言うと、火行壱式「醒の炎」を起動させて前を見る。赤帽子がこちらの様子を窺っている内に先手を取った形になった。
「ホント!? えへへ♪ 今回も一緒に頑張ろうなの♪ 黄泉さんと鈴鹿はもうお友達なの♪ だから黄泉さんの後ろは任されたなの!」
「……貴女は、現実でもいつも、その格好、なの?」
河内の毒衣によりカウンターの姿勢を取って黄泉の後ろにつく鈴鹿だが、それに対する背中の第三の目による黄泉の視線には含みが持たされていた。
まあ、友人同士の忌憚のない意見である筈だ。多分。
「って、わぁぁぁぁぁぁ!? 鈴鹿ちゃん!? あ、あぁ言うのはイケナイと思いマスヨ!」
と、後ろに立つ鈴鹿の存在に気付いたリーネが顔を赤らめながら何やら怒涛の如く口にしているが、周囲の面々はおろか言われている筈の鈴鹿ですらスルーしていた。
「いいわ、治療を施しましょう。ええ、事前に予防するのも医者の務め。殺菌しなくては!」
「なに、心配しなさんな。俺は! 痛みは! ばっちこい!! だ!!! さあ、俺を存分に殴るがいい!」
妖を前にヒートアップするのばらに合わせるように悟が吠え、土行壱式「蔵王」によって防御力が引き上げられる。
「それにしても、私この依頼の参加申請出したっけ……? ま、良いか」
最後に首を傾げながらも珠姫が使った天行壱式「纏霧」が赤帽子を包み込んでいく。折角先手を取れたのだからと補助を買って出た結果の行動だった。
●
「あ、しまった。後衛用の装備に変えるの忘れてた」
戦闘態勢に入った赤帽子に先制攻撃を加えた珠姫が言う。水行壱式「水礫」を投げるように手から放ったのだが、その手には専用の手甲が嵌められていた。
「まだまだ修行中の身の上なれば、こう言う依頼で少しづつ経験を積むのが一番だろうよ」
続いて前衛の千唐が火行壱式「炎撃」にて炎を纏った槍を振るうと、肉を焼く音と香ばしい香りが漂う。川辺と言えばバーベキューだが、流石に人型をした妖の肉は食べられないか。
「ヒャッハー!! 人数なんて関係ないの! やっちまえなの!」
後衛、前衛と狙いが前後に動いたのに合わせて鈴鹿が最後衛の赤帽子へ破眼光を放つ。踏ん張りと共に放たれた光は一発は回避されるも、二射目は見事に赤帽子に命中していた。
「ギャッギャッ!」
「おぉっと! なの!」
と、ここまで一方的にやられていた赤帽子が動く。前衛の個体はバットを振るい、中後衛の個体はどこからか取り出したボールを投げつけ始めた。
その一部が千唐と鈴鹿に命中するも、河内の毒衣にて衝撃を緩和した鈴鹿は軽やかな身のこなしでボールを投げ返してしまう。
「敵、変わった帽子、何、あれ? 野球? ばっと? ぼーる?」
こてんと首を傾げた黄泉は、それとは別に思い切り体を動かした。掬い上げる様な軌道を半月斧がダイナミックに描き、前衛を担当していた三体の赤帽子は天高く舞い上がる。即死であった。
「あの赤帽子達も一応は人型。なのであれば人体と同じ所が急所のはず……打つべし打つべし!」
敵の前衛が全滅した事で前進した覚者達。その勢いのまま、のばらが一体の赤帽子の側頭部を鞭で叩く。静かな川辺に破裂音が鳴り響いた。
「さあ、来いよ! 貴様等が大好きな体のいい的がここに居るぞ! 俺を攻撃しろよ! さあさあ、もっと攻撃するんだ!」
テンションも高らかに挑発しつつ、土行壱式「蒼鋼壁」にて悟は防御を固める。とは言え、その気迫に赤帽子は若干引いているようだ。視線を合わせようとしない。
「ギャウッ!」
「野球のボールなんて私が全部撃ち抜いて破裂させてミセマスネー! クリア! デスヨ!」
先程の攻勢に出遅れた赤帽子が黄泉へボールを投げるも、それを飲み込みながら水行弐式「伊邪波」が赤帽子へと襲い掛かった。リーネの高い特殊攻撃力と合わせ、赤帽子達はフラついている。
「むむ、一回じゃ足りなかったの。今度こそ……破眼光っ!」
破眼光による呪いをかけようと鈴鹿は額の目を光らせる。すると、その光が顔面に命中した赤帽子が白目を剥いて痙攣し始めた。無事に呪いがかかったようだ。
「では……俺の神槍の為、贄になってくれよ、赤帽子共」
更に別の個体へ千唐の槍が奔る。飛燕と呼ばれる二連撃の体術を槍でこなし、見事に赤帽子の一体を仕留める事に成功していた。
「解らないし……倒せば、良い、よね。人間世界、難しい事多い」
そう静かに口にした黄泉の半月斧が再び唸る。千唐の一撃で倒れた一体と合わせ、もう二体が地に伏せた。これで残るは三体。最初期の後列に居る個体だけとなった。
「ギッ!」
「あぅ」
「病原体共! 貴方達を治療せねばこの球場の状態を治療できないなら……疾く殺菌されなさい!」
お返しとばかりに投げられたボールが黄泉に当たるもほぼ無傷。気合いと共に振りかぶられたのばらの鞭は虚しく地面を叩くだけであった。
「フハハハ! やってみろヨォォォ! 俺をもっと攻撃しろォォォ!!!」
「「「………。」」」
気合いと共に他の覚者達の前に悟が出るが、赤帽子達は頑なにそれを見ようとしない。まあ、拘束具に赤褌の人間を見てしまえばその反応も致し方ないだろう。
「水礫っ! ……あー、やっぱ威力足りないか」
珠姫が先程と同じ個体へ水礫を放つも、やはり威力不足。地力を装備で誤魔化しているツケが回って来ていた。
「ギャッ!」
「くっ!」
「ルールは詳しく知りマセンガ、それデッドボール、というのデハアリマセンカ!? 危ないデスヨー!」
赤帽子がのばらにボールをぶつけた事にリーネが反論する。それと同時に伊邪波を放つが、手元が狂ったのか明後日の方向へ水飛沫が飛んでいった。
「むー? リーネお姉さんは何で私を警戒してるの? えっ? 夢の中でパンツ盗られた?」
鈴鹿がリーネに続くように伊邪波を放ち、やはり同じように外れていく。と言うか、割とぶっ飛んだ内容の話をしているようだ。
「さてまだまだ修行中の身の俺……どこまでやれるか」
千唐が貫殺撃にて一体を狙う。前後に並んでいる時に使えばより効果的な技だが、これは技の順番を間違えたと言うよりは他の面々の攻撃が苛烈過ぎたと言った方が正しいだろう。
「三度目の正直―――も、駄目か。はぁ……」
今度は一発に狙いを絞って、と珠姫が水礫を放つ。むしろダメージが減る一方であり、やはり戦闘経験が足りないと嘆息するばかりであった。
「ギィアッ!」
「うぐっ!?」
「細かい事、味方に任せて、ドンドン、行く」
再びボールがのばらに直撃し、そろそろ回復の必要性が見えてくる。その一方で火力を担当している黄泉が三度半月斧を振るった。
飛燕と同様に二回の攻撃を可能とする技「地烈」が残った三体の赤帽子の内、二体を仕留める。これで残りは一体だ。
「猛れ、伊邪波っ! ……むー、また失敗デス!」
「ギャギャァ!」
「キャッ!? この、よくもやりマシタネ!」
トドメを刺さんとリーネは伊邪波を放つが、今度はまさかの不発。ビビらせやがってと言いたげな赤帽子がリーネにバットで殴り掛かり、紫鋼塞による反撃を受けていた。
「フッハハハハハハ! さぁ、ドンドンこぉい!」
「私は医者! 医者たる者、まだ見ぬ患者の為に全力を尽くすべし!」
防御態勢の悟の横を駆け抜けたのばらが残った一体へ飛び掛かる。その手には苦無が握られており、マウントポジションを取ったのばらは滅多刺しという言葉が似合う程、何度も何度も何度も何度も赤帽子へと突き刺していた。
その執拗なまでの攻撃――のばら曰く治療――に他の覚者達がドン引きしていたのは言うまでもない。
●
「ふぅ……今回も良い攻めを漫喫したよ。ああ、仲間からの罵倒もご褒美です!」
ハッハッハ、と悟が整地用のレーキをかけながら笑う。のばらの提案で荒れたグラウンドを皆で直している所だった。
「うぅ、今日は中々当たらなかったデス……大技を狙い過ぎましたカ?」
「伊邪波は強力ですけど中々当て辛いのが難点ですね。参考にします」
狙いがそれたり不発もあったリーネが肩を落とし、珠姫がそれに応える。同様に伊邪波を使っていた鈴鹿はと言えば、千唐の提案に乗っかっている所だった。
「さて、微力ながら我が神槍はお役にたてたかな? 約束通り、今日は俺の奢りで好きな物を食べるといいさ」
「えへへ♪ 黄泉さんともっと仲良くなりたいからご飯一緒に食べに行こうなの!」
「う……うん」
倉庫に道具を片付けた鈴鹿は黄泉の周りをくるくると回り、それを見て笑みを浮かべたのばらがその場を締めた。
「よろしい。では解散としましょう。お疲れ様です、皆さん」
今日もまた、任務完了である。
「七人か。三角ベースならできるね」
最後衛に位置した水瀬 珠姫(nCL2000070)がポツリと呟く。未だ朝靄晴れ切らぬとある市民球場、そこに三体三列ずつ並んでいる妖―――赤帽子を前に言うには随分と軽い言葉であった。
「オー、野球デスネ! 言葉は知ってマスガ、ルールとかはサッパリデスネ!」
「フッ、妖達が悪さをしてると聞いて、参上! 数だけ多い雑魚らしいが……上等!!」
赤帽子を確認したリーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)が真っ先に土行弐式「紫鋼塞」で身を固める。この辺りの反応の速さは流石と言った所だろう。
現に隣に立つ佐戸・悟(CL2001371)の口上よりも初手の行動が素早いほどであった。
「ああ! なんて事なの! こんなにも病原体が発生してるなんて! 大多数の人が使う市民球場に万一こんな連中がうろついてたら怪我、病気の元でしかないわ!」
「なんだかこの前と大体同じメンバーなの。今日はよろしくお願いしますなの!」
添木・のばら(CL2001367)のエキサイトぶりに瀬織津・鈴鹿(CL2001285)が以前の出来事を思い出したのか頭を下げる。移動中は完全に夜中だったせいか、ようやく目が覚めたのだろう。
「この間の夢であった人達、多い。実際に、居たんだね、宜しく……それと、私、18歳だから」
「……わかってるさ、もう子ども扱いはしない。前回は全面的に俺が悪かった。だから機嫌を直してくれないか?」
じっとりとした視線で神々楽 黄泉(CL2001332)が隣の添木・千唐(CL2001369)を見る。こちらはこちらで以前色々とあったようだ。
「ハハッ、この依頼が終わったら皆に好きな物でもご馳走するさ。それで許してくれ」
黄泉に睨まれた千唐は肩を竦めてそう言うと、火行壱式「醒の炎」を起動させて前を見る。赤帽子がこちらの様子を窺っている内に先手を取った形になった。
「ホント!? えへへ♪ 今回も一緒に頑張ろうなの♪ 黄泉さんと鈴鹿はもうお友達なの♪ だから黄泉さんの後ろは任されたなの!」
「……貴女は、現実でもいつも、その格好、なの?」
河内の毒衣によりカウンターの姿勢を取って黄泉の後ろにつく鈴鹿だが、それに対する背中の第三の目による黄泉の視線には含みが持たされていた。
まあ、友人同士の忌憚のない意見である筈だ。多分。
「って、わぁぁぁぁぁぁ!? 鈴鹿ちゃん!? あ、あぁ言うのはイケナイと思いマスヨ!」
と、後ろに立つ鈴鹿の存在に気付いたリーネが顔を赤らめながら何やら怒涛の如く口にしているが、周囲の面々はおろか言われている筈の鈴鹿ですらスルーしていた。
「いいわ、治療を施しましょう。ええ、事前に予防するのも医者の務め。殺菌しなくては!」
「なに、心配しなさんな。俺は! 痛みは! ばっちこい!! だ!!! さあ、俺を存分に殴るがいい!」
妖を前にヒートアップするのばらに合わせるように悟が吠え、土行壱式「蔵王」によって防御力が引き上げられる。
「それにしても、私この依頼の参加申請出したっけ……? ま、良いか」
最後に首を傾げながらも珠姫が使った天行壱式「纏霧」が赤帽子を包み込んでいく。折角先手を取れたのだからと補助を買って出た結果の行動だった。
●
「あ、しまった。後衛用の装備に変えるの忘れてた」
戦闘態勢に入った赤帽子に先制攻撃を加えた珠姫が言う。水行壱式「水礫」を投げるように手から放ったのだが、その手には専用の手甲が嵌められていた。
「まだまだ修行中の身の上なれば、こう言う依頼で少しづつ経験を積むのが一番だろうよ」
続いて前衛の千唐が火行壱式「炎撃」にて炎を纏った槍を振るうと、肉を焼く音と香ばしい香りが漂う。川辺と言えばバーベキューだが、流石に人型をした妖の肉は食べられないか。
「ヒャッハー!! 人数なんて関係ないの! やっちまえなの!」
後衛、前衛と狙いが前後に動いたのに合わせて鈴鹿が最後衛の赤帽子へ破眼光を放つ。踏ん張りと共に放たれた光は一発は回避されるも、二射目は見事に赤帽子に命中していた。
「ギャッギャッ!」
「おぉっと! なの!」
と、ここまで一方的にやられていた赤帽子が動く。前衛の個体はバットを振るい、中後衛の個体はどこからか取り出したボールを投げつけ始めた。
その一部が千唐と鈴鹿に命中するも、河内の毒衣にて衝撃を緩和した鈴鹿は軽やかな身のこなしでボールを投げ返してしまう。
「敵、変わった帽子、何、あれ? 野球? ばっと? ぼーる?」
こてんと首を傾げた黄泉は、それとは別に思い切り体を動かした。掬い上げる様な軌道を半月斧がダイナミックに描き、前衛を担当していた三体の赤帽子は天高く舞い上がる。即死であった。
「あの赤帽子達も一応は人型。なのであれば人体と同じ所が急所のはず……打つべし打つべし!」
敵の前衛が全滅した事で前進した覚者達。その勢いのまま、のばらが一体の赤帽子の側頭部を鞭で叩く。静かな川辺に破裂音が鳴り響いた。
「さあ、来いよ! 貴様等が大好きな体のいい的がここに居るぞ! 俺を攻撃しろよ! さあさあ、もっと攻撃するんだ!」
テンションも高らかに挑発しつつ、土行壱式「蒼鋼壁」にて悟は防御を固める。とは言え、その気迫に赤帽子は若干引いているようだ。視線を合わせようとしない。
「ギャウッ!」
「野球のボールなんて私が全部撃ち抜いて破裂させてミセマスネー! クリア! デスヨ!」
先程の攻勢に出遅れた赤帽子が黄泉へボールを投げるも、それを飲み込みながら水行弐式「伊邪波」が赤帽子へと襲い掛かった。リーネの高い特殊攻撃力と合わせ、赤帽子達はフラついている。
「むむ、一回じゃ足りなかったの。今度こそ……破眼光っ!」
破眼光による呪いをかけようと鈴鹿は額の目を光らせる。すると、その光が顔面に命中した赤帽子が白目を剥いて痙攣し始めた。無事に呪いがかかったようだ。
「では……俺の神槍の為、贄になってくれよ、赤帽子共」
更に別の個体へ千唐の槍が奔る。飛燕と呼ばれる二連撃の体術を槍でこなし、見事に赤帽子の一体を仕留める事に成功していた。
「解らないし……倒せば、良い、よね。人間世界、難しい事多い」
そう静かに口にした黄泉の半月斧が再び唸る。千唐の一撃で倒れた一体と合わせ、もう二体が地に伏せた。これで残るは三体。最初期の後列に居る個体だけとなった。
「ギッ!」
「あぅ」
「病原体共! 貴方達を治療せねばこの球場の状態を治療できないなら……疾く殺菌されなさい!」
お返しとばかりに投げられたボールが黄泉に当たるもほぼ無傷。気合いと共に振りかぶられたのばらの鞭は虚しく地面を叩くだけであった。
「フハハハ! やってみろヨォォォ! 俺をもっと攻撃しろォォォ!!!」
「「「………。」」」
気合いと共に他の覚者達の前に悟が出るが、赤帽子達は頑なにそれを見ようとしない。まあ、拘束具に赤褌の人間を見てしまえばその反応も致し方ないだろう。
「水礫っ! ……あー、やっぱ威力足りないか」
珠姫が先程と同じ個体へ水礫を放つも、やはり威力不足。地力を装備で誤魔化しているツケが回って来ていた。
「ギャッ!」
「くっ!」
「ルールは詳しく知りマセンガ、それデッドボール、というのデハアリマセンカ!? 危ないデスヨー!」
赤帽子がのばらにボールをぶつけた事にリーネが反論する。それと同時に伊邪波を放つが、手元が狂ったのか明後日の方向へ水飛沫が飛んでいった。
「むー? リーネお姉さんは何で私を警戒してるの? えっ? 夢の中でパンツ盗られた?」
鈴鹿がリーネに続くように伊邪波を放ち、やはり同じように外れていく。と言うか、割とぶっ飛んだ内容の話をしているようだ。
「さてまだまだ修行中の身の俺……どこまでやれるか」
千唐が貫殺撃にて一体を狙う。前後に並んでいる時に使えばより効果的な技だが、これは技の順番を間違えたと言うよりは他の面々の攻撃が苛烈過ぎたと言った方が正しいだろう。
「三度目の正直―――も、駄目か。はぁ……」
今度は一発に狙いを絞って、と珠姫が水礫を放つ。むしろダメージが減る一方であり、やはり戦闘経験が足りないと嘆息するばかりであった。
「ギィアッ!」
「うぐっ!?」
「細かい事、味方に任せて、ドンドン、行く」
再びボールがのばらに直撃し、そろそろ回復の必要性が見えてくる。その一方で火力を担当している黄泉が三度半月斧を振るった。
飛燕と同様に二回の攻撃を可能とする技「地烈」が残った三体の赤帽子の内、二体を仕留める。これで残りは一体だ。
「猛れ、伊邪波っ! ……むー、また失敗デス!」
「ギャギャァ!」
「キャッ!? この、よくもやりマシタネ!」
トドメを刺さんとリーネは伊邪波を放つが、今度はまさかの不発。ビビらせやがってと言いたげな赤帽子がリーネにバットで殴り掛かり、紫鋼塞による反撃を受けていた。
「フッハハハハハハ! さぁ、ドンドンこぉい!」
「私は医者! 医者たる者、まだ見ぬ患者の為に全力を尽くすべし!」
防御態勢の悟の横を駆け抜けたのばらが残った一体へ飛び掛かる。その手には苦無が握られており、マウントポジションを取ったのばらは滅多刺しという言葉が似合う程、何度も何度も何度も何度も赤帽子へと突き刺していた。
その執拗なまでの攻撃――のばら曰く治療――に他の覚者達がドン引きしていたのは言うまでもない。
●
「ふぅ……今回も良い攻めを漫喫したよ。ああ、仲間からの罵倒もご褒美です!」
ハッハッハ、と悟が整地用のレーキをかけながら笑う。のばらの提案で荒れたグラウンドを皆で直している所だった。
「うぅ、今日は中々当たらなかったデス……大技を狙い過ぎましたカ?」
「伊邪波は強力ですけど中々当て辛いのが難点ですね。参考にします」
狙いがそれたり不発もあったリーネが肩を落とし、珠姫がそれに応える。同様に伊邪波を使っていた鈴鹿はと言えば、千唐の提案に乗っかっている所だった。
「さて、微力ながら我が神槍はお役にたてたかな? 約束通り、今日は俺の奢りで好きな物を食べるといいさ」
「えへへ♪ 黄泉さんともっと仲良くなりたいからご飯一緒に食べに行こうなの!」
「う……うん」
倉庫に道具を片付けた鈴鹿は黄泉の周りをくるくると回り、それを見て笑みを浮かべたのばらがその場を締めた。
「よろしい。では解散としましょう。お疲れ様です、皆さん」
今日もまた、任務完了である。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
特殊成果
なし
