【攫ウ者達】新たな被害者
●誘拐される子供達
夕暮れの公園。
そこでは、男女2人ずつ、4人の子供達が遊んでいる。おそらくまだ、小学校中学年くらいの年齢だろう。
楽しそうに公園を駆け回る子供達。よく見れば、男女1人ずつ、手足の関節が球体となっている。別の男女にも、それぞれの頭にネズミの耳、そしてお尻に尻尾が生えている。子供達はいずれも覚者として目覚めていたのだ。
力に目覚めてしまえば、なかなか一般人と一緒にいるのは辛いもの。彼らも自然に覚者同士で集まるようになる。その方が余計な気を使うこともなく、気楽に遊ぶことが出来るからだ。
「あのねあのね、次は何して遊ぶ?」
「ダメだよ、もうすぐ日が沈んじゃう」
「妖が出ちゃうぞー!」
日が暮れることにも子供達は余り怖がる様子を見せず、きゃっきゃと笑いながら後片付けをし、家路に着こうとした。
しかし……。
「おっと、まだ帰るのは早いんじゃないの、ボク達」
そこへ現れたのは、人相の悪い8人の男達。手前側にいたスキンヘッドの男が子供達へと声をかけてきた。
「そうそう、お兄さん達ヒマなんだよぉ」
「そそ、折角だからもっと遊んでいこうぜぇ、ひひひ……」
その横にでかっ鼻とゲジ眉の男が進み出て、子供達を見下ろす。
「きゃっ……むぐっ!」
「何するん……だ……」
ネズミの女の子が悲鳴を上げそうになるところを、後ろにいた男達が口を押さえた。すぐにネズミの男の子が抵抗しようとするが、別の配下らしき男がサーベルの柄で小突き、男の子を昏倒させてしまう。
「い、いや……」
械の因子持ちの2人の子は、なす術なく抱き合い、震えてしまう。
「よしお前ら、運ぶぞ」
子供達をあっさりと捕まえた若者達の手際は余りに良すぎた。そいつらは近くに止めてあった2台のバンに子供達を押し込み、彼らもまたそれに乗り込んでその場を去っていったのである……。
●またも狙われた覚者
『F.i.V.E.』の会議室。
覚者の誘拐事件が起こると聞きつけた『F.i.V.E.』の覚者達が、会議室にいた『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)へと説明を求める。
「うむ、本当なのじゃ……」
場所は福井県の住宅地。隔者と思われる若い男ら数人が小学生の男女4人を誘拐する事件が起こる。
「いや、まだ現地点では、未遂じゃの。じゃから、皆にこれを止めて欲しいのじゃ」
けいは状況をまとめたレポートを覚者達へと配る。
それに目を通していた覚者達の中から、見覚えのある顔が隔者の中に混じっていると主張があった。
「坊主、じゃな」
犯行を行う隔者の1人は先日、河澄・静音を拉致しようとした男の1人と外見が一致する。スキンヘッドに械の因子持ち。まず、間違いはないだろう。
ちなみに、その時は覚者達の活躍もあり、2人の隔者の身柄を確保、静音も無事保護することができた。
そういえば、前回捕らえた2人の男達はどうなったのかと、別の覚者から質問の手が上がる。
「うむ……、完全黙秘しておって、聴取が進んでおらんようじゃの」
『F.i.V.E.』のスタッフや覚者が尋問を行っているのだが、静音を狙った目的については未だ語ろうとはしない。
「じゃが、今回の1件で、連中の狙いは『覚者』ではないかと考えられておるのじゃ」
前回の相手は、同じくその作戦に参加していた覚者の1人を確保しようとする動きをみせたという報告もある。そう結論付けても問題ないかもしれないと、けいは口にしていた。
とはいえ、敵の狙いが覚者で間違いないとしても、その目的はほとんど分からない。さらなる情報が欲しいところだ。
現在捕まえている隔者の2人は口を割ろうとしないが、下っ端連中ならば、あっさりと供述する可能性もある。だからこそ、この1件で配下を捕らえ、何か情報を引き出したいのだが……。
「ただ、あくまでも子供達の安全が最優先じゃよ」
もし、子供達が捕まってしまえば、生命の保証すらも疑わしいのだ。この為、子供達の保護を最優先事項として動きたい。
現場となる公園周辺は住宅地ではあるが、男達は通行人が少なくなったタイミングを見計らって犯行に及んでいる。
公園は比較的広いが、あちらこちらに遊具が備え付けられている。子供達の遊び場であることを考えれば、遊具を破壊しないように戦いたい。
また、下手に敵を刺激すれば、子供達はもちろん、無関係の一般人を人質として取る危険がある。子供達の救出の為、うまく立ち回りたいところだ。
「説明は以上なのじゃ。ともあれ、無理は禁物じゃぞ。相手が何を仕掛けてくるかは分からんから、十分注意して子供達の救出に当たって欲しいのじゃ」
けいは最後に覚者達の身を案じ、注意を促すのだった。
夕暮れの公園。
そこでは、男女2人ずつ、4人の子供達が遊んでいる。おそらくまだ、小学校中学年くらいの年齢だろう。
楽しそうに公園を駆け回る子供達。よく見れば、男女1人ずつ、手足の関節が球体となっている。別の男女にも、それぞれの頭にネズミの耳、そしてお尻に尻尾が生えている。子供達はいずれも覚者として目覚めていたのだ。
力に目覚めてしまえば、なかなか一般人と一緒にいるのは辛いもの。彼らも自然に覚者同士で集まるようになる。その方が余計な気を使うこともなく、気楽に遊ぶことが出来るからだ。
「あのねあのね、次は何して遊ぶ?」
「ダメだよ、もうすぐ日が沈んじゃう」
「妖が出ちゃうぞー!」
日が暮れることにも子供達は余り怖がる様子を見せず、きゃっきゃと笑いながら後片付けをし、家路に着こうとした。
しかし……。
「おっと、まだ帰るのは早いんじゃないの、ボク達」
そこへ現れたのは、人相の悪い8人の男達。手前側にいたスキンヘッドの男が子供達へと声をかけてきた。
「そうそう、お兄さん達ヒマなんだよぉ」
「そそ、折角だからもっと遊んでいこうぜぇ、ひひひ……」
その横にでかっ鼻とゲジ眉の男が進み出て、子供達を見下ろす。
「きゃっ……むぐっ!」
「何するん……だ……」
ネズミの女の子が悲鳴を上げそうになるところを、後ろにいた男達が口を押さえた。すぐにネズミの男の子が抵抗しようとするが、別の配下らしき男がサーベルの柄で小突き、男の子を昏倒させてしまう。
「い、いや……」
械の因子持ちの2人の子は、なす術なく抱き合い、震えてしまう。
「よしお前ら、運ぶぞ」
子供達をあっさりと捕まえた若者達の手際は余りに良すぎた。そいつらは近くに止めてあった2台のバンに子供達を押し込み、彼らもまたそれに乗り込んでその場を去っていったのである……。
●またも狙われた覚者
『F.i.V.E.』の会議室。
覚者の誘拐事件が起こると聞きつけた『F.i.V.E.』の覚者達が、会議室にいた『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)へと説明を求める。
「うむ、本当なのじゃ……」
場所は福井県の住宅地。隔者と思われる若い男ら数人が小学生の男女4人を誘拐する事件が起こる。
「いや、まだ現地点では、未遂じゃの。じゃから、皆にこれを止めて欲しいのじゃ」
けいは状況をまとめたレポートを覚者達へと配る。
それに目を通していた覚者達の中から、見覚えのある顔が隔者の中に混じっていると主張があった。
「坊主、じゃな」
犯行を行う隔者の1人は先日、河澄・静音を拉致しようとした男の1人と外見が一致する。スキンヘッドに械の因子持ち。まず、間違いはないだろう。
ちなみに、その時は覚者達の活躍もあり、2人の隔者の身柄を確保、静音も無事保護することができた。
そういえば、前回捕らえた2人の男達はどうなったのかと、別の覚者から質問の手が上がる。
「うむ……、完全黙秘しておって、聴取が進んでおらんようじゃの」
『F.i.V.E.』のスタッフや覚者が尋問を行っているのだが、静音を狙った目的については未だ語ろうとはしない。
「じゃが、今回の1件で、連中の狙いは『覚者』ではないかと考えられておるのじゃ」
前回の相手は、同じくその作戦に参加していた覚者の1人を確保しようとする動きをみせたという報告もある。そう結論付けても問題ないかもしれないと、けいは口にしていた。
とはいえ、敵の狙いが覚者で間違いないとしても、その目的はほとんど分からない。さらなる情報が欲しいところだ。
現在捕まえている隔者の2人は口を割ろうとしないが、下っ端連中ならば、あっさりと供述する可能性もある。だからこそ、この1件で配下を捕らえ、何か情報を引き出したいのだが……。
「ただ、あくまでも子供達の安全が最優先じゃよ」
もし、子供達が捕まってしまえば、生命の保証すらも疑わしいのだ。この為、子供達の保護を最優先事項として動きたい。
現場となる公園周辺は住宅地ではあるが、男達は通行人が少なくなったタイミングを見計らって犯行に及んでいる。
公園は比較的広いが、あちらこちらに遊具が備え付けられている。子供達の遊び場であることを考えれば、遊具を破壊しないように戦いたい。
また、下手に敵を刺激すれば、子供達はもちろん、無関係の一般人を人質として取る危険がある。子供達の救出の為、うまく立ち回りたいところだ。
「説明は以上なのじゃ。ともあれ、無理は禁物じゃぞ。相手が何を仕掛けてくるかは分からんから、十分注意して子供達の救出に当たって欲しいのじゃ」
けいは最後に覚者達の身を案じ、注意を促すのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.覚者の子供達の保護
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
こちらのシナリオは、【攫ウ者達】シリーズ第2弾です。
以前、河澄・静音が拉致されかけた事件がありましたが、
今度は覚者の子供達が狙われる事件が予見されました。
こちらを防いでいただききますよう願います。
●敵
○隔者……8名。若い男性の一隊です。
・仮称、ゲジ眉、ゲジ眉の男。翼×土、ダブルシールド、『無頼漢』を使用。
・仮称、坊主、スキンヘッドの男。械×土、大鎚、『琴富士』を使用。
・仮称、でかっ鼻、鼻の大きな男。獣(羊)×土、片手斧、『隆神槍』を使用。
以上3名は他にも壱式スキルも3つほど、また、ステルスと各因子の専用技能スキルを所持しています。
・配下、5人。(暦×水、暦×火、暦×木、彩×水、彩×天)
サーベルや刀を持って切りかかってきます。いずれも壱式スキルのみ使ってきます。
●状況
夕暮れの公園が舞台となります。
公園にはジャングルジムや砂場、ブランコなど、戦いにおいて障害となるものもあります。
壊せば障害としての機能は果たさなくなりますが、子供達の遊び場を奪うことを考えれば、壊すのは避けるべきでしょう。
●NPC
○小学生……獣(子)の男女、械の男女の4人です。戦闘能力はほとんどありません。
前回の事件は
拙作『【攫ウ者達】狙われた翼人の少女』を
ご参照くださいませ。
OPでも簡単に内容には触れておりますので、
見ずとも問題はございません。
それでは、今回もよろしくお願いいたします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年04月21日
2016年04月21日
■メイン参加者 8人■

●誘拐事件再び
福井県までやってきた『F.i.V.E.』の覚者達。
この地のとある公園にて、隔者が攫われる事件が起きるという。
「今度は子供を狙うだなんて……だけど、渡す訳にはいきません」
「もしかして、新手の誘拐ビジネスとかなん? バンまで用意してくるなんてあんまりやん」
『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)も、茨田・凜(CL2000438)も、隔者の所業に対して怒りを露わにしている。
「危ないおっちゃん達は、しっかりとお仕置きしないとダメなんよ」
「……ああ、吐き気がする……。女子供を……弱者を食い物としか見てない鬼畜外道の屑共は……許しがたい」
『隔者狩りの復讐鬼』飛騨・沙織(CL2001262)もまた憤っていたが、怒りの余り、具合すら悪くなっている。それは、彼女の過去に起因しているのだが……。
それでも、隔者の悪意から子供達を守らねばと、沙織はこみ上げる吐き気を堪える。
『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268)は、前回戦った相手を思い出す。捕らえた隔者2人は今なお、犯行動機などについては黙秘を続けているという。
「何が目的か知りませんが、思い通りにはさせませんわ!」
彼女もまた、子供達の保護に意気込みを見せていた。
「前回は静音さんで今回は小学生……。つくづく卑怯な奴らだな」
『デジタル陰陽師』成瀬 翔(CL2000063)の言葉に、『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)が唸りこむ。
「うーん……。狙われてる人の傾向を見てると、幼い子やか弱そうな女性を攫ってる感じで、因子や五行は関係がなさそうな気がするけど……」
とはいえ、現状狙われた対象が同じ『F.i.V.E.』の覚者である翼人の少女と、今回の子供達だけでは情報が少なすぎる。
「本当に、許しがたい連中ね。いたいけな子供は世界の宝、この愛らしい子達を手に入れようなんて言語道断!」
私だって一人くらい欲しいのにと、『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)はくすりと笑う。
「ともかく、隔者を徹底的に教育し直してあげないといけないわね?」
「できれば全員捕まえて、今度こそ何が目的なのか聞き出したい所だな」
翔が言うように、隔者達の目的をこの1件で把握しておきたいところだ。
「もしかしたら、色んなタイプの覚者を攫って実験をする為かもしれない。仲間も子供達も攫われないように気をつけよう」
亮平は前回、ラーラが隔者に拘束されそうになったことを思い出す。場合によっては今回もメンバーが狙われるかもしれない。覚者一行は十分に注意しつつ、依頼に当たるのである。
●子供達を守るべく
目的の公園へとやってきた覚者達はまず、状況の確認をする。
いのりは守護使役に周囲の臭いを『かぎわけ』させる。隔者の1人は、先日敵として退治した坊主。その臭いに反応できればと思ったのだ。翔も守護使役の空丸を飛ばし、周囲を『ていさつ』する。
今のところ、隔者が乗っていると思われるバンは見当たらないし、敵の臭いも感じない。
他のメンバー達は現場付近で待機を行い、敵の出現を待つ。
「皆さん、ここは危ないので、速やかに離れてくださいっ」
潜伏を行うメンバーがいる中、ラーラは通りがかる一般人へと積極的に声をかけ、その場から離れるよう呼びかける。彼女の名声も手伝って、一般人は素直に応じてくれていたようだ。
亮平はというと、仲間達との意思疎通を図る為に、送受心・改を発動させる。その上で、彼もまた守護使役に『ていさつ』を頼む。自身は鷹の目を駆使し、一般人の往来、また、隔者の接近を確認していたようだ。
「おす! オレ、翔って言うんだ。お前らはこの辺の子か?」
公園で遊ぶ子供達と年の近い翔が話しかける。最初は警戒していた子供達。何せ2人は現の因子持ち。見た目は一般人と変わらないのだ。
いのりは守護使役を見てもらえば大丈夫だろうと考えていたが、一般人も気づいていないだけで守護使役を連れているのを失念していた。
そこで、翔は覚醒してみせる。目の前で大人の姿となった彼の姿に、子供達は目を丸くし、破願する。現の因子持ちを見るのが初めてだったのだろう。
「あ、良かったら、これ食わね?」
ともあれ、子供達の警戒心を解いた2人は、仲良くなろうと桜あんぱんを子供達に渡し、自分達もそれを手にする。6つ用意してきたのは、亮平の計らいである。
それを頬張る子供達に、翔といのりは事情を説明しようとする。
「実はこの公園に……っ!」
しかし、そこで、亮平から隔者接近の知らせが入る。彼らの守護使役もまた、その接近を主へと知らせてくれていた。
隔者達は手馴れていた。颯爽と現れ、すぐさま降車して駆けて来る。さすがに細かく子供達へと説明する余裕はなさそうだ。
ただ、他の覚者達も動き始めていた。
「通りすがりの正義の味方でな?」
隔者の前に立ち塞がったのは、『星狩り』一色・満月(CL2000044)だ。彼は同時に、これから始まる戦闘に備えて結界を展開していく。無関係な人の接近を防ぐ為だ。
同じく、そこに駆けつけてきたエメレンツィアに亮平。凜も仲間に合わせて壁となっていた。戦いでは障害となる遊具が近くにないかと、凜は確認していたようだ。
エメレンツィアは、敵の数を数える。手前側にやってきたのは、配下と思われる5人の男達。いずれも人相が悪い輩だ。
後ろからは3人の男達。こちらは情報通り、ゲジ眉、でかっ鼻、そして、坊主の姿がある。
強面の隔者に怯える子供達に、ラーラはにっこりと笑いかけた。
「大丈夫ですよ。お姉さん達に任せてください」
「大丈夫、皆様はいのり達がきっと護りますわ!」
いのりは覚醒して大人の姿になった後、子供達を安心させるように微笑む。
翔も再び覚醒し、子供達を隔者のバンから遠ざけようとする。
「くそ、待ちやがれ!」
一方の隔者達。直前に偵察した配下は人がいないタイミングを見計らい、バンを呼びに向かっていたのだろう。だが、こうして直前に現れた覚者達に邪魔され、苛立ちながら襲い掛かってくる。
「振り返ってはならんぞ……走れ!」
満月が叫ぶと、子供達は逆方向へと駆け出した。満月はそれを確認することなく目の前の敵に備え、体内の体を燃え上がらせる。
さて、配下の後ろにいる3人のうちの1人は、覚者達の知る顔である。
「またお会いしましたわね。一体、何が目的なんですの!?」
いのりが問う。スキンヘッドの男、仮称坊主。こいつは前回の誘拐未遂現場にも現れていたのだ。
「久々だ。あの時捕まえたアンタの仲間、感心したよ。仲間は売れないようだ」
「……ちっ」
坊主の表情が険しくなり、小声で仲間と言葉でやり取りする。
「そこまでして何を求める? 力か、美貌か、金か、女か、権力か」
3人の男達は反応する。金という言葉に。満月はそれを超直感で察しながらもゲジ眉の男を抑えようと立ち回った。
尤も、隔者達も素直にこちらの相手をしようとはしない。あくまでも敵の狙いは子供のようにも見える。しかし、隙あらば、覚者、メンバー達を狙う危険がある。
「誘拐されるから、ここから絶対に離れるなよ」
翔はある程度後方に子供達を下がらせると、自らは戦いに加わるべく戻っていく。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
ラーラは覚醒し、魔女っ子の姿へと変わる。他のメンバー達もまた覚醒し、隔者を抑えるべく戦い始めたのだった。
●人攫い達の強襲
「そこをどきやがれ!」
襲い来る隔者達。とにかく、相手を無力化せねばならない。亮平は敵の周囲の空気に眠りへと誘う。配下の3人が倒れ、眠り始めていた。
手前の配下は明らかに格下だ。満月は配下の後ろにいる3人の隔者に視線を移す。どうやら、この連中は自分達と同等の力を持つようだ。
その中でも特に翼人、ゲジ眉が最も危険だ。こいつは一度飛び立たせてしまうと、子供を攫う可能性が極めて高い。それについては、覚者達は前回の戦いで学習済みである。
とはいえ、子供達の安全の確保が先だ。満月は念弾を飛ばし、ゲジ眉を牽制する。ただ、彼は人を傷つけるのもそうだし、何より死に至らしめたくはない。
「そちらがヤバイと思ったら退いてくれ、頼む」
だからこそ、満月は相手に訴えるのだが、隔者達は攻撃を止める気配はない。
「邪魔すんなや!」
刀を振るってくる隔者達。一度決行したからには、やりきらねばならぬといったところか。
起きたままの配下2人は、サーベルを振るい、あるいはスキルを行使してくる。そいつは前に立つ覚者達へと雷を叩きつけてきた。
その1人を翔がブロックして抑え、相手よりも激しい雷を叩き落とす。それに痺れた配下は、雷の威力に驚いていたようだ。
しかしながら、後ろの隔者達は別だ。そいつらもまた眠気に耐え、土行のスキルを行使する。覚者へとプレッシャーを与え、あるいは地面から岩槍を隆起させて覚者を貫いてこようとする。いずれも二式スキルの使い手だ。
「『F.i.V.E.』……。めんどくせぇ奴らだ」
どうやら、坊主はこちらの素性を知っているらしい。そんな呟きと共に、坊主は全身を鋼鉄と化し、大槌で覚者へと殴りかかってきた。
それを受け止めたのは、沙織だ。彼女は敵全体の足元から蔓を伸ばし、その体へと巻き付けさせる。とにかく、一般人、子供、あるいは仲間達が人質に取られないようにと、彼女は隔者の動きを封じる。
(まさか、怪しげな性癖でもあるのかしら)
女子供を狙うとあらば……。いのりは妙な想像をしてしまい、身を震わせる。
思いっきり首を振ってその想像を消し去ったいのりは、ちらりと後ろを見る。後方にいる子供達に血生臭い場面は見せたくはない。戦場に立つのは自分達だけで十分。まだ、彼らは子供なのだから。
いのりは改めて前へと向き直り、敵に向けて高密度の霧を放つ。それによって身体能力が落ちた敵は、入らぬ力にやきもきしていたようだ。
エメレンツィアもまた、翼人の男に注意を払いつつ仕掛ける。
(……そういえば、前回いたパンチパーマの男はいないのね)
パンチは前回逃げたうちの1人だ。それが不在なのは気になるものの、作戦においては好都合。後ろに下がったエメレンツィアは力を高めた後、空気中の水分を荒波へと変えて敵陣へと浴びせかけていった。
凜はというと、子供達を守りながらも、守護使役に敵のバンのタイヤを食いちぎってもらおうと動く。ただ、守護使役が動くことが出来るのは、自分から3メートル範囲内。敵の向こう側にあるバンはここからでは遠すぎた。
仲間と連携がうまく取れれば、うまく動けただろうか。凜はちょっとだけ悔しそうに頬を膨らましつつ、仲間の支援をすべく心地良い風を巻き起こすのである。
そうこうしているうちに、ラーラが起こした雷雲から雷を叩き落すと、配下の1体が黒焦げになって倒れてしまう。
その強さに、後ろの隔者達は苦虫を噛み砕いたような顔をするのであった。
●隔者を止めろ!
敵の狙いは、覚者の捕獲でほぼ間違いない。
現に、相手はこの場を如何に突破して、奥にいる子供を捕らえようかと堂々と話しているのだから。
自分が眠らせた配下も徐々に起きてきてはいるが、亮平は確固撃破できるようにと銃弾を放つ。配下の1人が嗚咽と共に崩れ落ちた。
満月は依然として、ゲジ眉を抑え続けている。配下が減ったことで、直接狙えるようになったことは大きい。後のことを考えて、足元に倒れる配下をこちらに引きずり込んでおきたいが、目の前の相手を抑えるので手一杯だ。
(夕方が終わる前に子供を帰す。早急に終わらす)
満月は刀を振るい、ゲジ眉へと二連撃を浴びせかけていた。そいつは両手の盾でなんとか抑えようとしつつも、覚者達にプレッシャーを与えてくる。
しかしながら、手数もあって、覚者が優勢だ。
翔が放つ波動弾。それは彼が抑えていた配下を貫き、倒してしまう。威力の衰えぬそれは、仲間が抑えるゲジ眉をも貫いた。
戦いの間、ラーラは敵と味方の状況を逐一チェックする。とりわけ、こちらを強引に突破する敵がいないか確認しながらも、敵陣に雷を落とし続ける。
雷を浴びた配下達目掛け、沙織は『双刀・鎬』で切りかかっていく。それに耐え切れず、配下の1人が地面へと沈んでいった。
もちろん、敵も黙って配下が倒れるのを見ているわけではない。
でかっ鼻もまた片手斧で切りかかってくる。その一撃は沙織の体に食い込み、彼女の顔を引きつらせる。
さらに、坊主の大槌が亮平の頭を殴りつける。彼の頭から赤いものが流れ出た。
抑えに回っている仲間の傷を見たエメレンツィアは攻撃の手を止め、凜と回復対象を確認し合いながら癒しの霧を撒く。
「突破なんてさせないわ」
エメレンツィアはだからこそ、仲間達を癒す。凜も同じく前線を支えようと癒しの滴を振りまき、さらに水のベールで仲間の防御力を高めていく。
力をもらった亮平は、さらに仲間を守るべく構えを取る。配下の刀を受け止める彼の後ろから、いのりが冥王の杖を振り上げ、星のように輝く光の粒を降り注がせる。それにより、残る配下が意識を失っていた。
これで残るは土行の二式スキルを使う3人。覚者達も傷ついてはいたが、このまま攻め込めば相手を抑えられるだろうと考える。
ラーラは一度、火焔連弾に切り替えて攻撃を行っていたが、相手が3人だけとなったことで、再び敵陣へと雷を落とし始める。
多少傷だらけになりながらも、押さえていた満月が地を這うような軌跡を描きつつ、ゲジ眉の体へと連撃を繰り出す。
「ぐはっ!」
血を吐いたそいつは目から光を失い、公園の土の上へと横になった。
「おい、引くぞ」
「でも、また失敗したって知れたら……」
「だったら、てめぇだけ捕まってろ!」
「ちっ、くそがっ!」
二式使いの2人の行動は早い。すぐさまその場から逃げ去っていく。そして、2台のバンそれぞれに乗り込み、逃走して行ったのだった。
●子供達が去った後で……
指揮をとる隔者は取り逃がしてしまったが、子供達は守りきることが出来た。
いのりは子供達に怪我がないかと確認する。覚者達のおかげでそれもほとんどなかったようだ。
ただ、暴漢に襲われかけたことで、少女などは涙を流している。彼女達を、エメレンツィアがあやしていた。
「もう大丈夫よ、怖かったわね」
「よしよし」
もう1人の少女も、凜が慰めてあげていた。彼女は手持ちのお菓子を差し出しつつ、あやしていたようだ。
「もう大丈夫」
沙織もまた、転んだタイミングで膝を擦ったのだろう。男の子の怪我を樹のシズクで癒しつつ、自愛の笑顔でメロンパンを差し出し、安心させていた。
「家へ送っていこう。……何か怖いことがあっても、俺達が守る」
満月が子供達に付き添う。日が沈み、妖の時間となるその前に、子供達を家に帰してあげたい。
「できれば君達、覚者じゃない子とも遊んでみてくれ」
その途中、満月がそんな言葉をかけると、子供達の表情が陰る。何か嫌な想い出を思い返したのだろう。
「俺達は同じ世界に生きている同じ人間だから。皆仲良くして欲しい」
満月は気になったことを彼らに告げる。今は届かなくとも、いつか、分かるときがくるかもしれないと願って。
いのりはその後ろ姿を見つめ、この少年少女達がいつか、救いを求める誰かの為に力を使ってくれるよう願うのである。
子供達が去った後。
捕らえた隔者達は一度亮平が再び眠らせ、その間に彼が持ってきた縄で縛り付けていた。
二式使い2人を逃したのが悔しいところだとエメレンツィアは考えていた。それに、前回逃げたパンチパーマの頭がどこかにいるはずだ。探し出す必要があるだろう。
率先して配下に対して威風を放ち尋問するのは、沙織だ。
「私は『お願い』しているのではない。『命令』してるんだ……。苦痛を味わいたくないなら、さっさと喋ろ」
「てめぇら、しゃべんじゃ……むぐ」
ゲジ眉は配下の口を封じようとするが、亮平がすかさずバッグから桜あんぱんを取り出し、ゲジ眉の口へと強引に押しこんで黙らせる。頭にはゲジゲジと油性ペンで落書きをしていたようだ。
「……喋らないなら。目を潰し、耳を落とし、鼻を削ぎ、手足の指を切り落とすのも辞さない」
彼女は威圧する。その目は本気だ。それに、配下は怯える。
「お、俺達は命令されただけだ!」
「覚者を連れて来れば、金を出すってよ!」
先程、力の差は見せ付けている。そして、沙織が本気だと彼らも察しているのだろう。
亮平も翔も、子供達を送るのを敢えて止め、この場に留まっていた。沙織を制する為に。
「……申し訳ありません。ですが、正直甘いですよ……」
沙織は肩を落とした。隔者に全てを奪われた彼女。だからこそ、慈悲を与えるのが我慢ならない。
「悪名がなんですか……、後から後悔しても、遅いんですよ……」
悔しさの余り、涙をこぼす。一度堰を切ってしまったそれは止まることがなかった。
しばしの間、沙織の嗚咽する声が公園に響いていた。
福井県までやってきた『F.i.V.E.』の覚者達。
この地のとある公園にて、隔者が攫われる事件が起きるという。
「今度は子供を狙うだなんて……だけど、渡す訳にはいきません」
「もしかして、新手の誘拐ビジネスとかなん? バンまで用意してくるなんてあんまりやん」
『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)も、茨田・凜(CL2000438)も、隔者の所業に対して怒りを露わにしている。
「危ないおっちゃん達は、しっかりとお仕置きしないとダメなんよ」
「……ああ、吐き気がする……。女子供を……弱者を食い物としか見てない鬼畜外道の屑共は……許しがたい」
『隔者狩りの復讐鬼』飛騨・沙織(CL2001262)もまた憤っていたが、怒りの余り、具合すら悪くなっている。それは、彼女の過去に起因しているのだが……。
それでも、隔者の悪意から子供達を守らねばと、沙織はこみ上げる吐き気を堪える。
『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268)は、前回戦った相手を思い出す。捕らえた隔者2人は今なお、犯行動機などについては黙秘を続けているという。
「何が目的か知りませんが、思い通りにはさせませんわ!」
彼女もまた、子供達の保護に意気込みを見せていた。
「前回は静音さんで今回は小学生……。つくづく卑怯な奴らだな」
『デジタル陰陽師』成瀬 翔(CL2000063)の言葉に、『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)が唸りこむ。
「うーん……。狙われてる人の傾向を見てると、幼い子やか弱そうな女性を攫ってる感じで、因子や五行は関係がなさそうな気がするけど……」
とはいえ、現状狙われた対象が同じ『F.i.V.E.』の覚者である翼人の少女と、今回の子供達だけでは情報が少なすぎる。
「本当に、許しがたい連中ね。いたいけな子供は世界の宝、この愛らしい子達を手に入れようなんて言語道断!」
私だって一人くらい欲しいのにと、『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)はくすりと笑う。
「ともかく、隔者を徹底的に教育し直してあげないといけないわね?」
「できれば全員捕まえて、今度こそ何が目的なのか聞き出したい所だな」
翔が言うように、隔者達の目的をこの1件で把握しておきたいところだ。
「もしかしたら、色んなタイプの覚者を攫って実験をする為かもしれない。仲間も子供達も攫われないように気をつけよう」
亮平は前回、ラーラが隔者に拘束されそうになったことを思い出す。場合によっては今回もメンバーが狙われるかもしれない。覚者一行は十分に注意しつつ、依頼に当たるのである。
●子供達を守るべく
目的の公園へとやってきた覚者達はまず、状況の確認をする。
いのりは守護使役に周囲の臭いを『かぎわけ』させる。隔者の1人は、先日敵として退治した坊主。その臭いに反応できればと思ったのだ。翔も守護使役の空丸を飛ばし、周囲を『ていさつ』する。
今のところ、隔者が乗っていると思われるバンは見当たらないし、敵の臭いも感じない。
他のメンバー達は現場付近で待機を行い、敵の出現を待つ。
「皆さん、ここは危ないので、速やかに離れてくださいっ」
潜伏を行うメンバーがいる中、ラーラは通りがかる一般人へと積極的に声をかけ、その場から離れるよう呼びかける。彼女の名声も手伝って、一般人は素直に応じてくれていたようだ。
亮平はというと、仲間達との意思疎通を図る為に、送受心・改を発動させる。その上で、彼もまた守護使役に『ていさつ』を頼む。自身は鷹の目を駆使し、一般人の往来、また、隔者の接近を確認していたようだ。
「おす! オレ、翔って言うんだ。お前らはこの辺の子か?」
公園で遊ぶ子供達と年の近い翔が話しかける。最初は警戒していた子供達。何せ2人は現の因子持ち。見た目は一般人と変わらないのだ。
いのりは守護使役を見てもらえば大丈夫だろうと考えていたが、一般人も気づいていないだけで守護使役を連れているのを失念していた。
そこで、翔は覚醒してみせる。目の前で大人の姿となった彼の姿に、子供達は目を丸くし、破願する。現の因子持ちを見るのが初めてだったのだろう。
「あ、良かったら、これ食わね?」
ともあれ、子供達の警戒心を解いた2人は、仲良くなろうと桜あんぱんを子供達に渡し、自分達もそれを手にする。6つ用意してきたのは、亮平の計らいである。
それを頬張る子供達に、翔といのりは事情を説明しようとする。
「実はこの公園に……っ!」
しかし、そこで、亮平から隔者接近の知らせが入る。彼らの守護使役もまた、その接近を主へと知らせてくれていた。
隔者達は手馴れていた。颯爽と現れ、すぐさま降車して駆けて来る。さすがに細かく子供達へと説明する余裕はなさそうだ。
ただ、他の覚者達も動き始めていた。
「通りすがりの正義の味方でな?」
隔者の前に立ち塞がったのは、『星狩り』一色・満月(CL2000044)だ。彼は同時に、これから始まる戦闘に備えて結界を展開していく。無関係な人の接近を防ぐ為だ。
同じく、そこに駆けつけてきたエメレンツィアに亮平。凜も仲間に合わせて壁となっていた。戦いでは障害となる遊具が近くにないかと、凜は確認していたようだ。
エメレンツィアは、敵の数を数える。手前側にやってきたのは、配下と思われる5人の男達。いずれも人相が悪い輩だ。
後ろからは3人の男達。こちらは情報通り、ゲジ眉、でかっ鼻、そして、坊主の姿がある。
強面の隔者に怯える子供達に、ラーラはにっこりと笑いかけた。
「大丈夫ですよ。お姉さん達に任せてください」
「大丈夫、皆様はいのり達がきっと護りますわ!」
いのりは覚醒して大人の姿になった後、子供達を安心させるように微笑む。
翔も再び覚醒し、子供達を隔者のバンから遠ざけようとする。
「くそ、待ちやがれ!」
一方の隔者達。直前に偵察した配下は人がいないタイミングを見計らい、バンを呼びに向かっていたのだろう。だが、こうして直前に現れた覚者達に邪魔され、苛立ちながら襲い掛かってくる。
「振り返ってはならんぞ……走れ!」
満月が叫ぶと、子供達は逆方向へと駆け出した。満月はそれを確認することなく目の前の敵に備え、体内の体を燃え上がらせる。
さて、配下の後ろにいる3人のうちの1人は、覚者達の知る顔である。
「またお会いしましたわね。一体、何が目的なんですの!?」
いのりが問う。スキンヘッドの男、仮称坊主。こいつは前回の誘拐未遂現場にも現れていたのだ。
「久々だ。あの時捕まえたアンタの仲間、感心したよ。仲間は売れないようだ」
「……ちっ」
坊主の表情が険しくなり、小声で仲間と言葉でやり取りする。
「そこまでして何を求める? 力か、美貌か、金か、女か、権力か」
3人の男達は反応する。金という言葉に。満月はそれを超直感で察しながらもゲジ眉の男を抑えようと立ち回った。
尤も、隔者達も素直にこちらの相手をしようとはしない。あくまでも敵の狙いは子供のようにも見える。しかし、隙あらば、覚者、メンバー達を狙う危険がある。
「誘拐されるから、ここから絶対に離れるなよ」
翔はある程度後方に子供達を下がらせると、自らは戦いに加わるべく戻っていく。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
ラーラは覚醒し、魔女っ子の姿へと変わる。他のメンバー達もまた覚醒し、隔者を抑えるべく戦い始めたのだった。
●人攫い達の強襲
「そこをどきやがれ!」
襲い来る隔者達。とにかく、相手を無力化せねばならない。亮平は敵の周囲の空気に眠りへと誘う。配下の3人が倒れ、眠り始めていた。
手前の配下は明らかに格下だ。満月は配下の後ろにいる3人の隔者に視線を移す。どうやら、この連中は自分達と同等の力を持つようだ。
その中でも特に翼人、ゲジ眉が最も危険だ。こいつは一度飛び立たせてしまうと、子供を攫う可能性が極めて高い。それについては、覚者達は前回の戦いで学習済みである。
とはいえ、子供達の安全の確保が先だ。満月は念弾を飛ばし、ゲジ眉を牽制する。ただ、彼は人を傷つけるのもそうだし、何より死に至らしめたくはない。
「そちらがヤバイと思ったら退いてくれ、頼む」
だからこそ、満月は相手に訴えるのだが、隔者達は攻撃を止める気配はない。
「邪魔すんなや!」
刀を振るってくる隔者達。一度決行したからには、やりきらねばならぬといったところか。
起きたままの配下2人は、サーベルを振るい、あるいはスキルを行使してくる。そいつは前に立つ覚者達へと雷を叩きつけてきた。
その1人を翔がブロックして抑え、相手よりも激しい雷を叩き落とす。それに痺れた配下は、雷の威力に驚いていたようだ。
しかしながら、後ろの隔者達は別だ。そいつらもまた眠気に耐え、土行のスキルを行使する。覚者へとプレッシャーを与え、あるいは地面から岩槍を隆起させて覚者を貫いてこようとする。いずれも二式スキルの使い手だ。
「『F.i.V.E.』……。めんどくせぇ奴らだ」
どうやら、坊主はこちらの素性を知っているらしい。そんな呟きと共に、坊主は全身を鋼鉄と化し、大槌で覚者へと殴りかかってきた。
それを受け止めたのは、沙織だ。彼女は敵全体の足元から蔓を伸ばし、その体へと巻き付けさせる。とにかく、一般人、子供、あるいは仲間達が人質に取られないようにと、彼女は隔者の動きを封じる。
(まさか、怪しげな性癖でもあるのかしら)
女子供を狙うとあらば……。いのりは妙な想像をしてしまい、身を震わせる。
思いっきり首を振ってその想像を消し去ったいのりは、ちらりと後ろを見る。後方にいる子供達に血生臭い場面は見せたくはない。戦場に立つのは自分達だけで十分。まだ、彼らは子供なのだから。
いのりは改めて前へと向き直り、敵に向けて高密度の霧を放つ。それによって身体能力が落ちた敵は、入らぬ力にやきもきしていたようだ。
エメレンツィアもまた、翼人の男に注意を払いつつ仕掛ける。
(……そういえば、前回いたパンチパーマの男はいないのね)
パンチは前回逃げたうちの1人だ。それが不在なのは気になるものの、作戦においては好都合。後ろに下がったエメレンツィアは力を高めた後、空気中の水分を荒波へと変えて敵陣へと浴びせかけていった。
凜はというと、子供達を守りながらも、守護使役に敵のバンのタイヤを食いちぎってもらおうと動く。ただ、守護使役が動くことが出来るのは、自分から3メートル範囲内。敵の向こう側にあるバンはここからでは遠すぎた。
仲間と連携がうまく取れれば、うまく動けただろうか。凜はちょっとだけ悔しそうに頬を膨らましつつ、仲間の支援をすべく心地良い風を巻き起こすのである。
そうこうしているうちに、ラーラが起こした雷雲から雷を叩き落すと、配下の1体が黒焦げになって倒れてしまう。
その強さに、後ろの隔者達は苦虫を噛み砕いたような顔をするのであった。
●隔者を止めろ!
敵の狙いは、覚者の捕獲でほぼ間違いない。
現に、相手はこの場を如何に突破して、奥にいる子供を捕らえようかと堂々と話しているのだから。
自分が眠らせた配下も徐々に起きてきてはいるが、亮平は確固撃破できるようにと銃弾を放つ。配下の1人が嗚咽と共に崩れ落ちた。
満月は依然として、ゲジ眉を抑え続けている。配下が減ったことで、直接狙えるようになったことは大きい。後のことを考えて、足元に倒れる配下をこちらに引きずり込んでおきたいが、目の前の相手を抑えるので手一杯だ。
(夕方が終わる前に子供を帰す。早急に終わらす)
満月は刀を振るい、ゲジ眉へと二連撃を浴びせかけていた。そいつは両手の盾でなんとか抑えようとしつつも、覚者達にプレッシャーを与えてくる。
しかしながら、手数もあって、覚者が優勢だ。
翔が放つ波動弾。それは彼が抑えていた配下を貫き、倒してしまう。威力の衰えぬそれは、仲間が抑えるゲジ眉をも貫いた。
戦いの間、ラーラは敵と味方の状況を逐一チェックする。とりわけ、こちらを強引に突破する敵がいないか確認しながらも、敵陣に雷を落とし続ける。
雷を浴びた配下達目掛け、沙織は『双刀・鎬』で切りかかっていく。それに耐え切れず、配下の1人が地面へと沈んでいった。
もちろん、敵も黙って配下が倒れるのを見ているわけではない。
でかっ鼻もまた片手斧で切りかかってくる。その一撃は沙織の体に食い込み、彼女の顔を引きつらせる。
さらに、坊主の大槌が亮平の頭を殴りつける。彼の頭から赤いものが流れ出た。
抑えに回っている仲間の傷を見たエメレンツィアは攻撃の手を止め、凜と回復対象を確認し合いながら癒しの霧を撒く。
「突破なんてさせないわ」
エメレンツィアはだからこそ、仲間達を癒す。凜も同じく前線を支えようと癒しの滴を振りまき、さらに水のベールで仲間の防御力を高めていく。
力をもらった亮平は、さらに仲間を守るべく構えを取る。配下の刀を受け止める彼の後ろから、いのりが冥王の杖を振り上げ、星のように輝く光の粒を降り注がせる。それにより、残る配下が意識を失っていた。
これで残るは土行の二式スキルを使う3人。覚者達も傷ついてはいたが、このまま攻め込めば相手を抑えられるだろうと考える。
ラーラは一度、火焔連弾に切り替えて攻撃を行っていたが、相手が3人だけとなったことで、再び敵陣へと雷を落とし始める。
多少傷だらけになりながらも、押さえていた満月が地を這うような軌跡を描きつつ、ゲジ眉の体へと連撃を繰り出す。
「ぐはっ!」
血を吐いたそいつは目から光を失い、公園の土の上へと横になった。
「おい、引くぞ」
「でも、また失敗したって知れたら……」
「だったら、てめぇだけ捕まってろ!」
「ちっ、くそがっ!」
二式使いの2人の行動は早い。すぐさまその場から逃げ去っていく。そして、2台のバンそれぞれに乗り込み、逃走して行ったのだった。
●子供達が去った後で……
指揮をとる隔者は取り逃がしてしまったが、子供達は守りきることが出来た。
いのりは子供達に怪我がないかと確認する。覚者達のおかげでそれもほとんどなかったようだ。
ただ、暴漢に襲われかけたことで、少女などは涙を流している。彼女達を、エメレンツィアがあやしていた。
「もう大丈夫よ、怖かったわね」
「よしよし」
もう1人の少女も、凜が慰めてあげていた。彼女は手持ちのお菓子を差し出しつつ、あやしていたようだ。
「もう大丈夫」
沙織もまた、転んだタイミングで膝を擦ったのだろう。男の子の怪我を樹のシズクで癒しつつ、自愛の笑顔でメロンパンを差し出し、安心させていた。
「家へ送っていこう。……何か怖いことがあっても、俺達が守る」
満月が子供達に付き添う。日が沈み、妖の時間となるその前に、子供達を家に帰してあげたい。
「できれば君達、覚者じゃない子とも遊んでみてくれ」
その途中、満月がそんな言葉をかけると、子供達の表情が陰る。何か嫌な想い出を思い返したのだろう。
「俺達は同じ世界に生きている同じ人間だから。皆仲良くして欲しい」
満月は気になったことを彼らに告げる。今は届かなくとも、いつか、分かるときがくるかもしれないと願って。
いのりはその後ろ姿を見つめ、この少年少女達がいつか、救いを求める誰かの為に力を使ってくれるよう願うのである。
子供達が去った後。
捕らえた隔者達は一度亮平が再び眠らせ、その間に彼が持ってきた縄で縛り付けていた。
二式使い2人を逃したのが悔しいところだとエメレンツィアは考えていた。それに、前回逃げたパンチパーマの頭がどこかにいるはずだ。探し出す必要があるだろう。
率先して配下に対して威風を放ち尋問するのは、沙織だ。
「私は『お願い』しているのではない。『命令』してるんだ……。苦痛を味わいたくないなら、さっさと喋ろ」
「てめぇら、しゃべんじゃ……むぐ」
ゲジ眉は配下の口を封じようとするが、亮平がすかさずバッグから桜あんぱんを取り出し、ゲジ眉の口へと強引に押しこんで黙らせる。頭にはゲジゲジと油性ペンで落書きをしていたようだ。
「……喋らないなら。目を潰し、耳を落とし、鼻を削ぎ、手足の指を切り落とすのも辞さない」
彼女は威圧する。その目は本気だ。それに、配下は怯える。
「お、俺達は命令されただけだ!」
「覚者を連れて来れば、金を出すってよ!」
先程、力の差は見せ付けている。そして、沙織が本気だと彼らも察しているのだろう。
亮平も翔も、子供達を送るのを敢えて止め、この場に留まっていた。沙織を制する為に。
「……申し訳ありません。ですが、正直甘いですよ……」
沙織は肩を落とした。隔者に全てを奪われた彼女。だからこそ、慈悲を与えるのが我慢ならない。
「悪名がなんですか……、後から後悔しても、遅いんですよ……」
悔しさの余り、涙をこぼす。一度堰を切ってしまったそれは止まることがなかった。
しばしの間、沙織の嗚咽する声が公園に響いていた。

■あとがき■
リプレイ、公開です。
無事、子供達を守りきりまして、
嬉しい限りです。
MVPは子供達との接触、戦闘、事後と
幅広い活躍を見せていただいたあなたへ。
敵の目的が徐々に明らかになってきました。
果たして次は……。
ともあれ皆様、
本当にお疲れ様でした!
無事、子供達を守りきりまして、
嬉しい限りです。
MVPは子供達との接触、戦闘、事後と
幅広い活躍を見せていただいたあなたへ。
敵の目的が徐々に明らかになってきました。
果たして次は……。
ともあれ皆様、
本当にお疲れ様でした!
