≪嘘夢語≫守護使役が働くお店 ~精霊の花茶碗~
≪嘘夢語≫守護使役が働くお店 ~精霊の花茶碗~


●4月1日
ムッフフ~ン。
キミたちはエイプリルフールが何の日だか知っているかい?
ムッフフ~ン♪
きょうは特別に素敵な嘘をついて、みんなにありえない夢を見せてあげよう。
さあ、ついた。
あそこがキミたちの守護使役が働くお店だよ。
楽しんでおいで。

●カフェ・精霊の花茶碗
ヨーロッパの田舎を思わせる森の一角。
轍の跡が残る道路の、でこぼことした振動をおしりに感じながら、赤くて小さなバスで木々の間を抜けると、壁に蔦のからまる素朴な建物が見えてきました。
 獏の車掌さんに促されるまま、白木のバス停で降りたあなた。
 新緑の小道を少し歩いて、スズランのようなベルがついたドアを開くと、可愛らしい音色とともに轢きたての珈琲豆のいい香りが出迎えてくれました。
「いらっしゃいませ」
 高い天井の窓から降り注ぐ淡い陽の光と色とりどりの花々に囲まれて、銀の盆を片手に笑顔で振り返ったエプロン姿の君は、なんと、いつも貴方の傍で見守ってくれている守護使役だったのです。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:そうすけ
■成功条件
1.擬人化した守護使役たちが働く夢のカフェで、お茶を楽しむ
2.なし
3.なし
●エイプリルフール依頼について
 この依頼は参加者全員が見ている同じ夢の中での出来事となります。
 その為世界観に沿わない設定、起こりえない情況での依頼となっている可能性が
 ありますが全て夢ですので情況を楽しんでしまいしょう。
 またこの依頼での出来事は全て夢のため、現実世界には一切染み出す事はありません。

※要約すると夢の世界で盛大な嘘を思いっきり楽しんじゃえ!です。



●場所などなど。
 ・現実の世界の出来事ではなく、古妖・獏が見せる夢の中です。
 ・時間は昼。
 ・喫茶店内のみの描写になります。
 ・守護使役はカフェで働く店員という設定です。

 ※客同士というシチュエーションではありませんのでご注意ください。

●書式
 本シナリオは独自にプレイング書式があります。ご協力願います。

1:場所指定
 以下の中から選択、一行目にご記入ください。
 ・カウンター席
 ・テーブル席/窓際・海
 ・テーブル席/窓際・山
 ・テーブル席/窓際・庭
 ※L字型のカウンターは6人まで。短い辺に2席、長い辺に4席。テーブルは二人掛けのみです。
2:守護使役の性別
 以下の中から選択、2行目にご記入ください。
 ・男性
 ・女性
 ・分からない
3:守護使役の年齢(自分と比べて…)
 ・同じ
 ・年上
 ・年下
4:守護使役の見た目(カフェ制服はノリの効いた白シャツに焦げ茶色のエプロンです)
 自由記入。
 髪型、髪の色などなど。
 自分の守護使役が擬人化したらこうだろうな、というイメージを書いてください。
 制服の下は自由。ジーンズでもスカートでもブルマでも。お好きに。
 何も思いつかない、という場合は「お任せ」とご記入ください。
 そうすけが貴方の守護使役の擬人化された姿を好き勝手にでっち上げます。
5:守護使役の性格、口調
 自由記入。
 何も思いつかない、という場合は「お任せ」とご記入ください。
6:守護使役は貴方をなんて呼ぶ?
 自由記入。
7:注文の品
 自由記入。
 何でもあります、出してくれます。
 軽食も可。
8:その他
 マスターの計らいで、「短い休憩」を取ることになった店員たちと暫しお喋りができます。
 彼らに聞いてみたいこと、言っておきたいこと。
 文字数の許す限りどうぞ。
 でも余り込み入った話はできませんのであしからず。

●その他
 よろしければご参加ください。
 おまちしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年04月20日

■メイン参加者 8人■

『ゆるゆるふああ』
鼎 飛鳥(CL2000093)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『落涙朱華』
志賀 行成(CL2000352)
『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)
『アフェッツオーソは触れられない』
御巫・夜一(CL2000867)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『ファイブブルー』
浅葱 枢紋(CL2000138)

●結鹿とクロ
 菊坂 結鹿(CL2000432)が案内されたのは、大きなガラス窓からこの世のものとは思えないほど色鮮やかで美しい庭が見渡せる席だった。
 ため息をついて見入っていると、窓ガラスに映り込むウェイターのシルエットに気がついた。
(「なんだかモデルさんみたい」)
 花景色からオーダーを待つ長身のウェイターへゆっくりと顔を戻すと、優しさと感謝のこもった眼差しに迎えられた。

 déjà-vu――

 この感じ。初めてじゃない。どこかで会ったことあるような。
「……クロ?」
「やっと気づいてくれたか。心配になってきたところだったぞ、結鹿」
 笑顔とともにクロの額に軽くかかった黒髪が揺れた。白い歯が唇のあいだから覗き見える。新緑を揺らす初夏の風のような笑い声が、結鹿の耳をくすぐった。
 初めて耳にする声なのに、ああ、でも、確かにこれはクロの声だ。
「ようこそ、精霊の花茶碗へ。ここは俺たち守護使役の憩いの場、夢の狭間にあるカフェだ。ゆっくりしていってくれ」
 クロは注文を取るためにペンとボードを構えた。
「ご注文は?」
「パンプディングと紅茶をお願い」
「かしこまりました」
 クロの後姿は、それはもうほれぼれするほど恰好がよかった。ピンと伸びた背筋と長い脚、無駄のないキビキビとした動作。ウェイターと言うよりも、中世の騎士のような雰囲気だ。
 クロはすぐテーブルに戻ってきた。
 真剣な顔つきで花のティーポットを傾けて、やや赤みがかったオレンジ色の紅茶をカップに注ぎ入れてくれる。
「結鹿のつくる食べ物は本当に美味い。これが口に合えばいいんだが……」
 プティング上層は白いレアチーズで、上に桜の花びらが一枚飾られていた。深い甘みと爽やかな渋みを感じる紅茶とともに頂く。
 美味しい――。
「いつも思ってるんだが、結鹿は幸せそうに食事をする。それを見ると俺も幸せな気持ちになるんだ。これからも俺は結鹿とともにある。よろしく頼む……」
 結鹿は笑顔で頷いた。

●枢紋と羽桜
 花の香とともに『極道【浅葱組】の若様』浅葱 枢紋(CL2000138)へ振り返ったのは、金色の目がくりくりとした愛らしい女の子だった。浅葱色で毛先に連れ琥珀色の天パかかった髪をポニーテールにしている。
「いらっしゃいませ♪」
 桜色の大きめなヘアバンドから飛び出したアホ毛がぴょこんと揺れる。
「おにいちゃん、待っていましたですよ」
「お、お兄ちゃん?」
「あ、ひど~い。ぼくがわからないですか? いつもいっしょにいるのに」
 いわれてみれば。
 唇をツンと尖らせる少女の右頬には深緑の四葉のクローバー模様があった。自分の守護使役と同じだ。そう言えば羽桜の姿が見えない。もしかして……。
「はっ羽桜!?」
「はい、おにいちゃん!」
 勢い良く抱きついてきた。
 ストレートな愛情表現に微笑みながら、頭を撫でてやる。
「なんか妹が出来たみたいで可愛いな……」
 海が見える窓際の席に通された。
「ごちゅうもんをおうかがいするですよ」
 少しおかしな敬語に苦笑しつつ、ホットカフェラテとバニラアイスを添えたメープルシロップのパンケーキを注文する。
 羽桜はオーダーの品を復唱すると、スキップしながらカウンターの奥へ戻っていった。
 白い砂浜に打ち寄せる波の音を聞きながら待つこと数分。両手で銀のぼんを危なっかしく持った羽桜がやってきて、向かいの椅子に座った。
「羽桜、休憩貰ったのか?」
「はい! もらえたです! てんちょーさんがやすんでいいっていってくれたです!」
 そうか、と言ってホークとナイフを手に取る。
「なぁ、少し聞きたい事があるんだが……」
「なんですか、おにいちゃん?」
「なんで俺の事、お兄ちゃんって呼ぶんだ?」
「おにいちゃんはおにいちゃんですよ? ぼくのあるじさまだけど、かぞくみたいにせっしてくれるからおにいちゃんなんです」
「なら親父やお袋、弟の事は?」
「おとさん、おかさん、しもんくんです!」
 帰ったら必ず親父達に伝えよう。
 食べるか、とパンケーキを刺したホークを羽桜に差し出した。

●飛鳥ところん
 『ゆるゆるふああ』鼎 飛鳥(CL2000093)はウェイターの姿を一目見るなり抱きついた。
「ころんさん! あすかが想像していたまんまなのよ!」
 勢い余ってそのまま床に押し倒すと、店の天井からつりさげられた花かごから、ハラハラと色とりどりの花びらが落ちてきた。店内中の視線を集めていることにもお構いなしで、少年のさっぱりと短めに切られたマロン色の毛に指を入れてもしゃもしゃとかき乱す。
「細くてふあふあなのよ、むふふふ」
 制服の下に砂色の綿パンと白のスニーカーを着た色白のぽっちゃり少年は、飛鳥が長年想像していた守護使役ころんの擬人化した姿だった。
「飛鳥ちゃんにはかなわないなぁ」
 ころんは飛鳥を上に乗せたまま苦労して起き上がるとニッコリ笑った。
「いま山桜がとってもきれいに咲いているんだよ。飛鳥ちゃんを席に案内するね」
「あすか、吉野の桜を一度に行きたいと思っていたのよ。ころんさんとお花見したいな」
 窓際のテーブル席からは、山一面を春色に染め上げる桜が見渡せた。山裾は薄い霧の衣を羽織って燻っている。
「ふぉぉ、きれい! とっても素敵」
「何を頼むか決まったらボクを呼んでね」
「もう決まっているのよ。抹茶パフェと桜のおかきください」
「それと熱いお茶だね。ボクも一緒していい?」
 飛鳥が来ると知ったころんは、店長に休憩をお願いしていたらしい。
「もちろんなのよ。あ、ころんさん。お腹がすいてたら好きなものを頼んでくださいなのよ」
 じゃあそうするね、というなりころんは飛鳥の向かいの席に腰を下ろした。食べ物の好みも飛鳥ちゃんと同じだよ、と笑いながら手をあげて、黒髪のハンサムなウェイターに二人分の注文を通した。
 パフェが運ばれてくると、ふたりはすぐにスプーンを手に取った。
「うふふ。ころんさんは人間になっても美味しそうに食べる名人なのよ。だーいすき♪」
「ボクも飛鳥ちゃんのこと大好き。飛鳥ちゃんにステキな恋人ができても、ずっとそばにいるね」
 二人の影を縁取るように、窓の外をさらさらと桜吹雪が流れていく。

●日那乃とまりん
 桂木・日那乃(CL2000941)は、カフェ制服の下に黒のスラックスをはいた細身の店員に案内されてカウンター席に着いた。
 店内をゆったりと流れる爽やかな風に溶け込んで、珈琲のいい香りが漂う。咲き誇る花々を見て珈琲と香りが混じってしまうのでは思ったが、全く心配いらなかった。
 日那乃はメニューを広げて注文の品を決めてしまうと、梁から吊り下げられたガラスのハンギングベースに目を向けた。縁を紫で縁取った白い花が零れ落ちそうになっている。
「ふふ。いい雰囲気でしょ?」
 少女のものとも少年ものとも判別のつかない声。先程の店員が微笑みを浮かべて傍に立っていた。
 外見年齢は15、6歳くらいだろうか。透き通るような肌と小さく柔らかそうな唇、ショートカットされた薄い灰色の髪の下で、青色の目が輝いている。
「ねえ、ヒナ。せっかくの機会だし、いっぱいお話ししよう」
「お話? ……えっと。……ほんとに、マリン……?」
 そう。ここは守護使役たちが働くカフェ。出迎えの挨拶と同時に、彼、それとも彼女、は確かにマリンと名乗っている。
(「……だけど」)
 こんな不思議なことがあってもいいのだろうか?
「ちっとも不思議じゃないよ。きょうはエイプリールフールだから」
 え、と口を手で覆う。
 すると、マリンは軽くウインクを飛ばしてきた。
「以心伝心ってやつ? はい、フルーツパフェ。ねえ、ボク、もう休み時間だし、ヒナの横に座ってお喋りしてもいい?」
 こくり、と頷く。
「えっと、マリンもパフェ、食べる?」
「もちろん」
 じゃ~ん、と言いながらマリンが取りだしたのは、先がハートの形になった二本のスプーンだった。柄の先に細く長い鎖がついていて一つに繋がっている。
 頬を寄せ合うようにしてパフェ食べながら、ふたりは会話を楽しんだ。でも、楽しい時間はあっという間に過ぎ去って――。
「マリンは……、マリンだけは、ずっと、一緒にいてくれる、ね?」
 休み時間の終わり、日那乃はマリンの服の裾捕まえて引き止めた。
「このスプーンに誓って。ボクたちはずっと一緒だよ」
 間を繋ぐ銀の鎖がきらりと光った。

●夜一とぷく
「庭にしよう。うん、庭がいい」
「おい、勝手に決めるな」
 ぷくはオレ、『アフェッツオーソは触れられない』御巫・夜一(CL2000867)を従えてすたすたと店内を進んでいく。
「いいから、いいから。任せて」
 白い首の上で夕陽のように赤い後れ毛が踊る。イチの好みはばっちり把握している、と振り返りもしない。
 ぷくのゆるく結わえた赤髪の前にあるのは、深い藍色の眼だ。瑞々しくも艶やかな肌に髪と同じ色のルージュを薄く引いた顔は、生まれてこの方ずっと傍にいるという贔屓目をなくしても美人の類に入ると思う。
「何見とれてんの。あ、もしかして、初めて気づいた? この美貌に」
 バカをいうな。見とれたのは窓の外の景色だよ、と軽くはぐらして座った。
「ケーキセット。このベリー系のタルトとカフェオレを頼む。砂糖はいらない」
 ぷくは目を細めると容赦なく攻め立ててきた。甘いものが好きなくせして、さては女の子みたいにダイエットでも始める気、とおちょくってくる。
「甘い飲み物とスイーツじゃあ胸焼けするだろ」
 美人の相棒は、ふうん、とちっとも納得していない顔でカウンターへ戻っていった。
「はい。お待ちどうさま」
「二つも頼んでないぞ?」
「休憩を貰ったからイチと一緒に食べようと思ってさ。いや?」
 別に、とぶっきらぼうにいってタルトにホークを刺す。がっつり大きく切り崩して口に入れた。ほろ苦いココア生地と甘酸っぱいベリーが美味しい。甘さ控えめ。大人の味だ。
「ふふん♪ 砂糖いれる?」
 いじわるさんめ。
 オレは黙ってカフェオレを飲んだ。
「しかし、金魚みたいな姿だったぷくが同い年くらいのしかも女性とは……想像もしなかった。てっきり年下だとばかり……叩くな、痛い」
 痛い痛いといいつつ笑顔でかわす。
「今にして思えばこの容姿で傷付いたとき、ふっと頬を撫でられた気がした時があったんだ。あれはお前か?」
「気のせいだよ」
「気のせいにしては温かくて、当時のオレは救われたんだ、ありがとう。みっともない姿も沢山みせたな、覚醒してからもぷくには苦労をかける」
 オレとぷくは運命共同体だ。
「この縁は死が二人を別つまで、か?」
「はは、違いない」
 死が別つまで、頼むぞ、相棒――。

●亮平とぴょーて三世
 カウンター席から店員の働きぶりを見る『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)の目は厳しく……はなく、まるでわが子を見守る心配性の親のそのもののだった。
(「あのぴよーてがお店で働いてるなんて、何だか少し変な感じがするな」)
 視線の先、紺碧の海を背景にテーブルを拭く金髪の少年がいた。ぴよーて三世だ。カフェ制服の下は王子様のバルーンパンツ。トレードマークの小さな王冠も、しっかり頭に乗っけている。
「見よ、我の仕事を。完璧であろう?」
 ぴょーて三世は拭き終ったばかりのテーブルを指さしながら、そばを通りがかったぽっちゃり体型の少年ウェイターに仕事ぶりを自慢した。
 うん、きれいだね、とおっとり返されて胸を反らす。花々に囲まれて、満面の笑顔がいつもよりもキラキラと輝いて見えた。
 亮平の胸にちょっぴり不安が沸き上がる。
(「いつも、そう……キラキラして、プライドが高そうな態度だから余計に感じるんだろうけど……どんな接客の仕方をするんだか」)
 気がつくとぴょーて三世がこちらを睨みつけながら、ずんずん床を揺らす勢いでやってきていた。
「あ、あぁ……心配そうに見てたのが気に入らなかったのかな? ごめん、謝るからそんなに近付いてガン飛ばさないでったら」
「注文はなんだ?」
「ぴ、ぴょーて。一応、俺もお客さんなんだし、流石に……あ、はい。ごめんなさい、頑張ってました、ぴよーては頑張ってました」
 頭を撫でてやると、盛大にため息をつかれてしまった。あ、あれ?
「お前、我を子供だと思っているだろう」
 どう見ても子供じゃないか。
 今日のオススメのデザートとカフェオレを注文しながら思いが顔に出ていたようだ。
 いきなり頬を両手で挟まれて――。
「ちょ、ぴよーて……揺らさないでっ」
「駄目だ。お前はお子様か。ブラックにしろ。我がお前のために焙煎し、手挽した豆で入る珈琲を味わうがよい」
 えっと、漏らす。
 揺れが止まった。
「いつもお前の肩越しに見ているからな。モルトの珈琲を飲ませてやる」
 そういえば……守護使役って進化したら成長して大人っぽくなるのかな?
 嬉しさに顔をほころばせながら、ふと、そのあたりの事をぴよーてに訊きてみようと思った。

●奏空とライライさん
「ライライさんなの!? ほんとに!?」
「うっせぇ、騒ぐなよ」
 大好きな守護使役の擬人化した姿を前にして、いきなりテンションアップした『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)。
 対照的にライライさんはとってもクールだ。他のお客さんに迷惑だろうが、と奏空の頭にぽすりと手刀を落とす。
「ほら、突っ立てないで座れよ」
 不愛想な物言いだが、その目は優しく笑っていた。
 テーブル窓の外は花畑。チュ—リップ、ラベンダー、ひまわり、コスモス、水仙、あじさいと様々な花が互いの美しさを損なうことなく引きたてあっており、不思議な調和で保たれている。なによりも目を引いたのは、庭の真中あたりにある大きくて古い桜の木だった。
「わあ~、満開だね」
「そうなるように整えたからな。で、注文は。何が食べたい?」
 まさか、ライライさんがあの桜を咲かせてくれたんだろうか。聞いてみたかったが、なんとなく出鼻をくじかれてしまった感じがして言い出せなかった。
「ライライさんが大好きなオムライスがいいな」
「ちょ……声が大きい。俺のイメージが崩れるじゃないか」
 どんなイメージなんだよ、とちょっぴり口を尖らせる。
 俺は想像ではもっと『ライライさん!』『ソラ―♪ 来てくれたんだねー』みたいなノリを想像してたんだけど……。
 あの愛くるしい鳥さんが金髪のイケメン兄貴になるだなんて。一体、誰に想像ができた?
 ライライさんの姿は、なんとなく前世の自分じゃないかと思いつつ、奏空は出されたオムライスを大人しくちまりちまりと食べだした。
「美味しいか、ソラ?」
「うん。美味しいよ」
 もしかして、このオムライスもライライさんが作った?
 聞きたいけど聞きにくい。
「ったく世話が焼けるな。俺がいないと駄目なんだから」
 すっと指が伸びてきて、顎からご飯粒をかすめ取っていった。あまりに自然なしぐさに、彼がずっと傍にいてくれたことを思い出して嬉しくなった。
「ありがとうライライさん」
「あ、それな。俺の本当の名は――」
 窓の外から桜の花びらとともに爽やかなが吹き込んできて、名前を流し去った。
 あとに残るは、茶目っ気たっぷりのライライさんの笑顔――。

●行成ともちまる
「いらっしゃいませ、ごしゅじんさま」
 『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)は目を瞬いた。
 あのもちまるがこのような姿とは……女の子、でいいのだろうか?
 中性的で優しい輪郭、ぱっちりとした栗色の瞳。細い鼻筋に、桜色した小さめの口。少しばかりそばかすの散った色白の頬は見るからにもちもち、つやつやとしている。その頬を縁取っているのはクリーム色で丸みのあるショートボムの髪だ。
「どうかしましたか?」
「なんでもない。……可愛らしい姿だな、似合っている」
 てへへ、と照れて、もちまるの愛らしい顔に笑みが溢れ出した。
 こっちですよ、と手を引かれながらカウンター席に案内された。
「コーヒーとサンドイッチ、あとおすすめのスイーツあればそれを」
 注文を通してから、それとなく店内を見渡した。
 カウンターの短い辺では、金髪の少年がモルトで使われているのと同じデザインのコーヒーミルを回していた。客の姿は背の高い花瓶の影になって見えなかった。反対端にも客がいるが、こちらもあでやかに咲く花で姿が見えない。
「流行っているようだな」
 注文の品を運んできたもちまるに話しかける。
「きょうはとくべつなのです。あ、は~い。すぐいきますぅ」
 カウンターの奥で赤毛をゆるく結った女性がもちまるを呼んでいた。
 仕事をしているもちまるをもう一度しっかりと見返し……。
 ここの店主に迷惑はかけていないか? 仕事はちゃんとこなせているか?
 聞きたいことは沢山あるが、少々心配しすぎだなこれでは。
 苦笑いしていると、もちまるがにこにこしながら戻ってきた。手にロウソクを刺したケーキを持っている。なんだ、と思っていると目の前に置かれた。
「ちょっと遅くなりましたけど……ごしゅじんさま、おたんじょうびおめでとうございますぅ。ずっとずっとお祝いしたかったんですよ。きょう、やっと叶いました」
 いつのまにか人が集まっていた。
 守護使役とそのパートナーたちが声を揃えて歌いだす。
 最後にせかされて、火のついたロウソクを吹き消けした。
「私は、君が守るにふさわしい人生を送れているだろうか。これからも、どうか……頼りない部分もあるごしゅじんさま、だろうが……」
 涙が零れる前に立ちあがり、深々とお辞儀した。
「よろしく頼む」


 ――ありがとう
 ――きみたちに出会えて、ほんとうによかった

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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