汝は××なりや?
汝は××なりや?



 ――叫び声から朝は始まる。

 ここ数日、毎朝毎朝、人が死んでいる。
 それも無残に食い荒らされ、惨い形で。
 今日は新婚夫婦の片割れが犠牲となった。
 昨日は村長の娘が犠牲となった。
 一昨日は村に来ていた青年が犠牲となった。

 明日は――?


 夢を視た。
 まんまるの明かりが、すぅっと瞳の奥に入ってくる。
 頭の中がくらくらして、血がぐるぐるして、呼吸が荒くなって、その後はいつも。
 赤くて。紅くて。もっと、もっともっともっと。

「――助けてボクたちは抗えない!!!」

 目が覚め、叫びながら起き上がっていた。
 時刻は昼頃か、時計の針はそう示し、外は明るい。
 見知った部屋で寝ていた。ベッドでは無く、ソファの上に寝かされタオルケットをかけられて。
「大丈夫か」
「おじさん……」
 ここの家主。おじさんは。
 数日前、この村の中央にて血まみれで倒れていた少年の面倒を見ていた。
「随分、魘されていたが」
「……うん」
「今、医者を呼んでいる。安静にしてなさい。
 昨日もまた、嘘を吐いたんだって?
 そろそろ悪戯も止めないと、また子供にいじめられるでな。昨日は子供に押し倒されたってな。
 打ち所が悪くて気絶していたから、おじさん、子供たちを怒っといたでな」
「……ボクのこと、嘘つきだって、狼少年だっていうから。ボクが、一連の事件の犯人だって言うから。
 ボクじゃない、ボクはやってない」
「……毎回、血塗れて倒れてりゃあな。
 けどあんな殺人、子供の力では無理でな。お巡りさんも言ったろう?
 だからおじさんは信用してる。だぁってお前、『覚者』でも無い非力な子供だしなあ」
「……非力じゃない」
「嘯くのはやめなさい」
「おじさんも嫌い」
 優しいおじさんは『狼少年』にミルクを差し出した。
 その味は、とても甘かった。
「村は今物騒でね、毎日人が死ぬ。そうだ、『妖が出ない村』を知っているでな?」
「……し、知らない」
「そうだよなあ。
 いやね、おじさんも噂程度で聞いただけなんだがね。存在するのなら、そっちへ行きたいものさ。そうしたら、おじさんと一緒に来るかい?」
「知らないってば!」
「……って、こら! 待ちなさい!!」
 少年は足を地面につけた途端、偶々開いていた窓から飛び出して去っていった。その俊敏性は、人間の子供にしては速過ぎていた。


 次の日は、あのおじさんが真っ赤な吐しゃ物のようになって発見された。
 その日も叫び声から朝は始まる。
 おじさんのお嫁さんは、おじさんだったものに縋りながら泣きじゃくっていたらしい。

 その頃、狼少年は――、一日行方が知れなかった。

 夜。
 その日は弓月が空から眼下を見下ろしている。

「おじさんの甘すぎるミルク……もう、飲めないと思うと苦しい……」
 狼少年は全身血塗れになり、口は真っ赤な液体に染まり、両の指の先は肉片が付いた形で、木々の間をよろめきながら歩き、そして、突き飛ばされたように村へ続く山道へ飛び出した。
 キィと急ブレーキをかけたのはFiVE覚者が乗った護送車であった。
 明らかに尋常では無い姿をした子供に、怪訝な顔をした覚者と目があったとき。
 木々の間から現れた犬の頭が、少年を噛んで攫っていく。

 点々と続く赤い軌跡を、覚者は追うことにした。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:工藤狂斎
■成功条件
1.毎夜の殺人を止める
2.少年の救出
3.なし
 発端依頼

 リプレイはOPの後から開始です

●状況
・とある村で毎晩、人が殺されている
 4人が死亡しております
 FiVEはこの殺人劇を夢見が察知、原因は『古妖』であることが確定される
 それは夜、どこからか現れて人間を捕食し、またどこかへ消えているという
 その調査・討伐へ向かう途中に、血塗れた少年と逢った
 彼は、覚者の目の前で古妖に攫われていく

●???の少年
・赤い瞳に、白い髪。帽子をかぶり、小柄で気弱そうな少年です
 要救出対象

●敵
・古妖、足場の難はすべてクリアしている様子です

 攻撃ですが、
 噛みつき(物近単、大ダメージ、BS出血)
 切り裂く(特近列、BS虚弱)
 咆哮(特遠全、BS呪縛)
 体当たり(物近単、ノックバック、BS混乱)

●山中
・足場に難あり、動き難い程木々が乱立しております

 それではご縁がありましたら、よろしくお願いします
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(4モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2016年10月07日

■メイン参加者 6人■

『追跡の羽音』
風祭・誘輔(CL2001092)
『使命を持った少年』
御白 小唄(CL2001173)
『緋焔姫』
焔陰 凛(CL2000119)
『静かに見つめる眼』
東雲 梛(CL2001410)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『居待ち月』
天野 澄香(CL2000194)


 時は少し戻る。
 覚者六人は、毎晩人が死亡する村が古妖の仕業であることを夢見から聞きつけ、その調査&終幕の為にとある場所を目指していた。
 だがしかし、道中、血塗れの不審な少年が巨大な狼に噛みつかれて消えていく。
「ちょ、待ちや!」
 瞳と髪の色を瞬時に変え、覚醒を果たした『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は狼を追っていく。
「どうしましょうか……明らかに、不審でした。追いましょうか」
 『願いの翼』天野 澄香(CL2000194)は帽子を頭の上へ乗っけながら、護送車から出た。背後からは、絶えず煙草の煙が天を目指しては消えていき、『ゴシップ探偵』風祭・誘輔(CL2001092)はそれから携帯用の灰皿に煙草を押し込み潰す。
「面倒な事に巻き込まれちまった。しかしほっとくわけにもいかねえ、しょうがねえ、迷子のガキをむかえにいくか」
「はい!」
 耳がぴこんと縦に直立した『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)は、刹那、凛の軌跡を辿りながら山の深くへと身を投じていく。
「兎に角、あの子を取り返さなきゃ!!」
 小唄の足は急ぐ、そしてその隣を『第二種接近遭遇』香月 凜音(CL2000495)が並走した。
 木々を分け、草を蹴り、緑の臭いが凜音の鼻を掠めていく、と、同時にするのはやけに強調される鉄の臭い。それは例え犬の守護使役が無くとも、感ずる事は可能であるくらいで。
 一方、護送車の前で頭を抑えた東雲 梛(CL2001410)は、黄泉という因子の性か、伝わる情報に他の者より鋭いものを嗅ぎつけている。
 そして、ぽつりと呟いた。

「……、一体じゃない」


 少年を引きずる狼は、広場に出たところで一度足を止め背後を確認した。
 追ってきていない――と、思えばそれでも良かったが。草陰から飛び出したのは、小唄である。
 小唄は真っ先に少年へと手を伸ばした。だが狼の反応速度は彼をも上回ったか、後方へ飛べば小唄の手は少年を掠めてしまう。代わりに、少年から垂れた血が小唄の顔面を染め上げた。
 しかし狼が後退した先には、凛が立っていた。
「その子、放したってくれんか?」
 無理矢理にでも飛んだ狼の胴が凛を吹き飛ばし、木の側面へ背中を強打する。
 どうやら……話をするつもりは無いということか。それとも。凛から見た狼の瞳は完全に『理性を失っていた』。
「こいつ、おかしいで」
 凛は一言呟き、空から舞い降りてきた澄香は着地ど同時にこくんと頷いた。だがまだここは探るべきである、と判断した澄香はタロットカードを指に挟み前へ掲げつつも、問う。
「貴方は何故その少年を攫うのですか? 私達はその子を助けに来ました」
 反応は無い。
 唸り声が響く。
「貴方がその子に危害を加えるのなら黙って見てるわけにはいきません。もし危害を加えるつもりがないのなら、私達を信じては貰えないでしょうか」
 反応はあった。
 少年の肩を噛んでいる顎が、更に圧力を加えて少年は遂に叫び声を上げた。
「貴方――!!」
 飛び出しかけた澄香を片手で制した凜音。冷静に判断するのだ――。
「まずは古妖とその子を引き離してくれ。俺は皆の状態維持に努める」

 戦闘が開始され数秒後。
 空中で片腕を振り上げた誘輔は、ショットガントレットを両腕に。同時に両腕を突き出し、狼を穿つ。
 獣の低いうめき声が聞こえ衝撃で飛ばされた狼だが、まだ四足で踏ん張り地面を滑るように後退。その間、噛みつかれたままの少年は、薄っすらと瞳を開けた。
「テメェは、その餓鬼を守ろうとした。ちげえか?」
 反応は無い。話は無理か、本当に駄目か。誘輔は再び機会を伺う。
 その間、梛は首を振り回して周囲を警戒していた。
「皆、俺たち、囲まれてる」
「どういうことや、古妖に呼び寄せられたっちゅーことかいな!」
「そこまでは、分からない。けど近づいては来ない。それと……」
 梛は銀雪棍を巧みにくるくる腕と手首で振り回してから、足下で芽吹いた茨を棍で絡めとり狼の足を射抜く。
「ぼんやりだが、『その子』も人間じゃない、古妖だ」
 茨を辿り、小唄は身体能力のギアを最大限まで引き延ばし、そして、まずは狼を蹴り上げ一打、空中へ浮いた狼を上から殴りつけ二打、地面へ落ちて砂煙を舞わせたところで踵落としをお見舞いし三打。
 唾を吐きながら、今度こそ獣の唸り声が本格的になったところで少年の身体はぽぉんと空中へ投げ出された。
「誰か!」
 小唄は狼を抑え込みながら叫べば、
「ああ」
 凜音が両腕をキャッチする形で留めながら、少年の着地点まで走った。
 ぽすんとキャッチ。思ったより体重が軽い少年の赤い瞳は、凜音をぼんやりと映し出す。不安気で、悲しみを帯びているのは凜音はなんとなく感じた。だからこそか、できるだけ優しい声色を選んだ。
「大丈夫か。まずはゆっくり深呼吸して、俺の近くにでもいたらいい。怖い思いはさせないから」
『……』
 少年は、否、古妖の少年は口を半開きにしながら、小さくこくんと頷いて、身をまかせるように彼の服にしがみ付いた。

 狼の咆哮が響いてから、より血走る瞳で狼は駆けた。
 狼の牙は誘輔の胴へ食らいつき、骨と肉が圧力に押し潰されていく音を間近で聞きながらも、誘輔は狼の首根っこを強引に掴んで引き寄せる。
「俺達ゃ敵じゃねえ、味方だ。あのガキに危害を加える意志はねえ。お前も同じ気持ちなら……あのガキを守りてえと思ってるなら、これ以上戦う気はねえ」
 この狼は少年を護っていたのでは無いかと、一縷の希望的な望みを賭けたが。しかしそうでは無いようだ、
 誘輔を蹴った狼は空中でくるくる廻ってから着地を決め、凛はそこへ飛び出した。
「ええ加減にせぇよ!! あの子は渡さへんで!!」
 紅の炎を纏い、朱焔が空を裂きながら狼の尻尾を分断し、残りの二撃で胴を穿つ。血と唾液をばら撒きながら、今度は横に回転して勢いを逃がす狼へ、
「これ以上やったら、貴方、死んじゃいますよ……」
 澄香は悲し気な声色を残しながら、恐る恐る指を鳴らした刹那。狼の足元より芽吹き、急成長した草花が狼の足を伝って胴や頭まで絡みついていく。
 一瞬にして、草木の檻の中へ閉じ込められた狼に成す術は無い。
 凜音は、問う。
「目的を聞かせて貰う事はできないか? 食餌として殺人を犯しているんじゃないなら、理由があるだろう」
 返答は無い。
 代わりに、凜音の両手の中で小さくなっていた古妖の少年の手が、凜音の服を掴んで引っ張った。
「……どうした?」
『……』
 少年は不安気な目線を向けてくるばかりだ。
 澄香が草木を増して増して狼を抑えているものの、
「長くは、持たないかもです……っ」
「あー了解了解」
 再び、誘輔が両腕を振り上げる。
「会話が無理っつーんなら、こっちしかねぇわな」
 武力的交渉。
 再び誘輔の打撃が狼を穿ち、くの字になって飛んだ奴へ小唄は飛び出した。三連のギアで高速移動を繰り返しながら、放電する彼は狼へと突っ込む。
 と同時に凛は炎を纏わせた刀で狼の鼻先から瞳にかけてすっぱりと切り伏せた。
 雄たけびをあげた狼、裏腹に古妖の少年はぴくりとも動かずその一部始終をただじぃと見つめていた。そこにはなんの感情も秘めていない瞳で。
 それを不審にも感じつつだが、凜音は回復の恩恵を途切れないように繋いでいた。相手方の攻撃力は舐められたものでは無い。油断すればごっそりと削られていくかのような予感さえあるものだ。
 そして澄香と梛は、ほぼ同時に草木へと指示を与える。茨の槍が、草木の締め付けが狼の力と体力と自由を奪い、そして。
「覚悟!!」
 小唄の拳が大上段から叩きつけられ、狼はその場で動かなくなった。

 が。

 凜音の腕から飛び出した古妖の少年が、小さな顎で狼の首を噛み千切りトドメを刺した。
 一瞬にして赤く染まった少年の顔。血を啜り、肉を咀嚼し始めたのに澄香は、いや、その行動に一動は混乱を余儀なくしただろう。
「まだだ!!」
 しかし梛の声で再び、覚者たちは現実へ引き戻される。囲んでいた古妖が一斉に仕掛けてきたのだ、その数は三。
「サービス残業かあ? いいぜ、付き合ってやる」
 誘輔は両腕を高らかに上げて、宣戦布告を飲み込んだ。


 敵を倒し終えた覚者たちは、近くに流れる川へ来ていた。
「ほら、綺麗になったで」
 まずはその血をどうにかしなければ、という事で。凛は古妖の少年を洗い、血を全て流した。しかし何故だろうか、彼からは獣のような臭いもする。
 服を着たところで古妖の少年は、凜音が気に入ったのか、それとも『近くにいたらいい』の言葉を忠実に遂行しているのか、彼の傍を離れようとはせず、また、凛音の『臭い』をこれでもかと嗅いでいた。小唄は心の底から少年の仕草が人とはかけ離れていることを感じ取っていた。
「私達は貴方の敵ではありません。村の殺人を止めに来たのです」
 澄香は言い聞かせるように言うと、少年の手の甲に真新しい傷ができているのを見つけた。それは先の戦闘でついたものだろう。
 澄香の両手が少年の手を包み込みながら、「痛いの痛いのとんでいけ」の言葉と一緒に回復をかけた。治ったそれを、少年は何度か珍しそうに見ていた。
 とはいえ、覚者たちには時間の制限というものがある。
 もし、先ほどの狼の群れを倒しても、とある村の毎夜の犠牲が終わらなければ解決には至らない。
 すかさず、凛は背の低い少年と同じ目線まで足を折った。
「ええか、信用ってのは一方だけでは成り立たんのや。あんたはあたしらの事を信用するか?」
「……?」
 少年は、頭を斜めにこてんと落としてから、特に意味も解っていないように頷いた。
「まず、何故殺した」
 誘輔は直球で聞いた。
 そう、先の戦闘で古妖の少年は狼の古妖を残らず殺したのだ。
『まんまるが襲ってきた。もう彼らは戻れないとこまでいってしまった為、殺しました』
「……よくわかんねえけど、つまり……なんだ、俺たちでいう破綻者みたいなものか?」
『はたんしゃ?』
 成程、誘輔と古妖の少年では知識に差がある。誘輔はもっとかみ砕いて破綻者を説明すれば、似ていると言われた。
 という所で、古妖の少年のお腹が健康にも「ぐー」と鳴ったため。苦笑交じりか呆れ顔の中間あたりの表情をしながら、
「ほれ」
 誘輔はお手製のお弁当を開く。
「腹減ってねえか? 遠慮せず食え」
 少年は、鼻をくんくんと動かし、これが食べ物なのか探っているようにしていた。そして、なんとも獣のように手を使わずに、肉だけを選んで食べたのだ。
「私は天野澄香と言います」
「俺は東雲梛。名前はなんて言うの?」
『名前は……無いです。人間からは、神様と呼ばれてました』
 神様、という言葉に澄香は聞き返す。
「神様、ですか?」
『大神様とも』
「タイシンサマ? ですか」
 少年は、大神様と呼ばれた古妖であるが本来の呼び名は別にあるだろう。
 例えば――誘輔は言う。

「人狼か、お前」

『!!』
 『人狼の少年』はお弁当箱を放り投げてから、飛び退くように後退した。四足のように手を地面につけ、低い声で唸る姿は『先ほどの狼たちと何が違うというのか』。
「ちょい待ちぃ! うちらは、敵ちゃうで? な?」
 凛は手を伸ばす。そこに敵意が無いことを示すように、人狼であるからとはいえまだ件の犯人と決めつけた訳では無いと示すように。
 しかし人狼の少年は凛の手へ噛みついた。濃い血の香りと痛みが走るものの、凛は抵抗ひとつせず。
「――つまり、毎夜の殺人を止めようとして、殺人を犯してる古妖と戦闘して血まみれになっとったんやろ?」
 加えて、梛は言う。
「決めつけないよ。ちゃんと答えがわかるまで。君は犯人じゃないんだろう?」
 少しずつ緩んでいく人狼の少年の顎の力。最後には申し訳なさそうに凛の血を舐めてから、また少しずつ後退していく。
 澄香は泣きじゃくる子供をあやす様な感覚で、少しずつ人狼へと近づいた。
 大丈夫、と言いながら、心の中では噛みつかれるのは若干恐怖はあったものの。
「よく頑張りましたね」
 澄香は怯える人狼を優しく抱きしめていく。
「私達も普通の人ではありませんから。貴方の助けになれるかもしれません。話しては頂けませんか?」
 暫く人狼は考え事をしつつも、再び凜音へくっつくと、凜音は人狼の頭を手慣れた手つきで撫で始めた。思い出すのは自分よりも小さな少女と人狼を重ねれば、そこにあまり違いは見えないもの。そして、人狼はぽつぽつと話しを始めていく。
『………僕は……人狼。
 誇り高き、森の民。そして、守り神。人間から施しを受け、奉られる代わりに、ボクたちは人間を守ります。
 ボクたち人狼は、群れず。一定の年齢に達すると、一匹で終生を過ごします。なので、他人狼の死については、悲しいとも思いません。
 ……ボクたち人狼は、ある日からおかしくなってしまった。ボクはそれが悲しい。
 おかしくなった人狼を殺すため、おかしくなった人狼からあの通りすがりの村の人間を守るため、ボクはここにいました。
 ……人狼は、皆、祟り神になってしまう。祟り神は食べることしか考えない。
 まんまるが来る。
 ボクも逃げられない。ボクはどうしたらいいのでしょう?』
 それが真相だろう。
「話してくださって、ありがとうございます」
 澄香はそう言い。小唄は、この案件を中恭介へ持っていくことにした。
 ついでに、小唄は少年の帽子を取ってみたがそこに狼のような耳は無く人間の耳が、腰もついでに見てみたが尻尾の類は見受けられない。思うに完璧な人間へ擬態が可能なのだろう。小唄は屈託のない笑顔のままに、人狼の少年へ狼の姿になれるのかと聞いてみたが、こくんとうなづいた人狼は小唄の尻尾をじぃっと見てから、数秒後、駆り立てられたように小唄の尻尾を追いかけ始めた。
 梛は加える。
「……何らかのきっかけで人狼は自我の暴走するのだろう。たぶん視覚的な情報かなと思う、わかりやすい所で月とか」
『まんまるは、まんまるです』
 梛の考察は大体あってた。大体。
 一応というところで、少年と一晩、村で過ごした。
 少年が暴走する気配は無いが月をじーーーと見上げていた。そしてその日から村で毎夜の殺人が行われることは無かった。
 また、村での聞き込みにある情報が引っかかる。

 ―――『妖の出ない村』の話が。


 早朝、犠牲が無いことを確認した覚者たちは一度本部へ戻ることとした。

「……帰っちゃうの?」

 人狼は、米粒のように小さくなっていく護送車を見てから、一度、振り向いた。
「おじさん、ごめんね。ボク、行かないと。たくさんよくしてくれて、ありがとうございました」
 人狼は地面すれすれに顔をつけてから、鼻をひくひく鳴らした。探していたのは、とある少年の香りだ。
「うん、これなら追えるかも」
 人狼は小さな足で駆け出し、やがて風を従え地を蹴り上げ、草木を大きく揺らす速度を保ちながら、人間の姿から雄々しい狼の姿へと変わり、護送車の軌跡を追って行った。

 ――月と、血に誘われ、交差した『人』と『人ならざるもの』の『絆』物語が今、幕を開けた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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