<五麟復興>振り上げた拳の下しどころ
<五麟復興>振り上げた拳の下しどころ


●傷痕
《紅蓮ノ五麟》
 五麟市を襲った百鬼の災禍は様々な被害を出していた。
 FiVE達覚者は懸命に戦い、警察は、消防は被害を最小限に食い止めるべく奔走した。
 けれど、全てにその手が届くわけでは無かった……。

「おい、お前。覚者か?」
 削岩機を腕と一体化させて、瓦礫と格闘している付喪の覚者を呼びかける声。振り向くとそこにはバットや棒きれを持った非覚者が数人。
「そうですが……何か?」
「お前達のせいで俺達は職場を失ったんだ、落とし前をつけさせてもらう」
 非覚者の一人がバットを振り上げる。覚者であっても戦うことを知らない一般市民である付喪の青年が機械の腕で身を庇おうとすると。
「はいはい、邪魔はいけないなー、凶器集合罪他でしょっ引かないと行けないけどいいかな」
 世間話をするかのようにくたびれたスーツの男がバットを持った非覚者の腹に拳をめり込ませて、他の取り巻きにバッジを見せる。
「て……てめえ、警察は覚者の味方をするっていうのか!?」
「するよ、こいつは瓦礫を片付けて復興をしようとしている一般市民。お前達は不満を垂れて誰かに暴力をふるって憂さ晴らしをしようとしている一般市民。オマワリがどっちの味方か分かるだろ?」
「…………」
「お前らの気持ちも分かるが、かといってここで腐ってどうする? 力有り余ってるなら仕事だって見つかるだろう? 今、こんな状態だしな」
 肩をすくめて、周辺を見回す刑事。男達は彼を睨みつけた後、やり場のない怒りを胸に去っていく。

「あの……ありがとうございます」
「気にするな、こっちも仕事だ。それよりもそっちも頑張ってくれ、そうすれば街も早く元通りになる」
 礼を言う覚者にいいよいいよと手を振って去っていく刑事。誰かを探すように歩いていた一人の制服警官が彼を見つけると急いで近づいてきた。
「先輩、探しましたよ!」
「悪い悪い、上の命令で見回ってた……で、処遇は決まった?」
 刑事の言葉に制服警官の顔が曇る。
「機動隊による命令無視の出動に関しては全員始末書だそうです。他の仲間も命令に従ったとして御咎めなしになってますが……先輩は異動というか飛ばされそうです」
「隔者に対して戦闘行為と機動隊の無断出動を扇動したからなあ、仕方ないさ」
「先輩元気そうっすね」
「だって俺、出世コース外れてるし」
 楽しそうに笑う刑事。
「ま、せめて最後にまたあいつらに会えたら良いなってくらいだな」

「覚者の作った飯なんか食えるか!」
 中年男性が翼人のボランティアが差し出した食事を払いのける。食器が床に落ちる音が響き、辺りが静まり返る。
 ここは家を失った人たちが避難している体育館。
 百鬼達の災禍により家を失った人達が寄り添い、夜を過ごす場所。食事の配給を受けるために並んでいた男は目の前の覚者を見て百鬼達を思い出し、やり場のない怒りが行動となって表れた。
「お前達覚者が争ったせい――」
「食べ物を粗末にするなー!!」
 罵声を浴びせようとした男をエプロン姿の女性がスナップを効かせた平手打ちで黙らせた。
 いきなりの平手打ちで尻餅をついた男を見下ろし、女は腰に手を当てる。
「争ったのはFiVEとヒャッキーとかいう隔者でしょ! しかもFiVEは街を守るために戦ったんでしょ! 新聞読んでるの?」
「でもよ、覚者がいなければ俺だって家を無くしたり――」
「あたしだって借りてたワンルーム無くなったわー!」
 容赦ない女の蹴りが襲う。彼女は翼人のボランティアを指差して。
「大体彼女だって、家を無くすわ、親とはぐれたわで被害者なのよ! それなのにこうやって手伝ってくれてるのにアンタはなんなの? ろくでなしなの? ブルースでも歌うの!?」
「でも……」
「でもも、すももも関係ないっ! 文句言う暇あるなら飯を食って皿洗え! こっちも人手が足りないんだ!!」
 女の剣幕に押される男。彼に差し出される食事を持つのは翼人の少女。
「あの……これ……」
「…………悪かったな」
 ばつの悪い顔で男は少女から食事を受け取り、その場を去った。女はその様子を見てから人々に向き直って。
「さあ、早く並んで並んで! まだ食事はあるからね! 冷めないうちに食べちゃわないと!」
 大きな声で言った。

 そんな場所で貴方は何が出来ますか?


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:塩見 純
■成功条件
1.避難所での住民交流
2.一般人の感情を動かす技能スキルを使わない
3.なし
皆さんが頑張っても手が届かないところがあります。
今回はその為に家を失った人達との物語です。

彼らは家を失いました
彼らは怪我をしました

誰のせいで?
誰のせいでもありません
でも誰かのせいにしたくなっています。

幸い、FiVEと百鬼の戦闘の時に縁のあった警察官が「やりすぎた」ために見回りにきています。
避難所でも元気に動いているアラサーの女性がいます。
彼らと一緒に何かをしてみませんか?


どうも塩見です。
復興支援のシナリオとなります。
復興支援としてできることは瓦礫の撤去や避難所での手伝い、ライフラインの回復や避難所の環境充実になると思います。

成功条件にも書いていますが覚者の避難民も居るため一部技能スキルの使用は人心誘導と取られる可能性がありますので使わないようにしてください。

今回はいつもと違う内容になりますがよろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2016年04月09日

■メイン参加者 6人■


●手が届かなかった場所
 桜舞う五麟の街。紅蓮の夜の傷跡が残る街に向かうFiVE達覚者を出迎えるのは一人の刑事。
「えーと、久しぶりと初めましてだったかな? よろしく頼む」
 覚者達の顔を見回すとバッジを見せながらひどく雑な挨拶を行う刑事。指崎 まこと(CL2000087)はその姿を見てクスリと笑い改めて挨拶をした。
「お疲れ様です。ご無事なようでなにより」
「そっちこそ、あれだけやられたのは大丈夫ってことは……若さか?」
 二人の間にあるのは紅蓮の夜の出来事。
「はい。また、よろしくお願いします」
「おう。それじゃ、案内しよう……言っとくけど、あまり楽しい所じゃねえぞ」
 応える刑事の表情には渋いものがあった。

 刑事が案内する場所は住宅街の一角。かつては様々な人たちが暮らし生活していた土地、しかしそこは無残にも壊され、残ったのは瓦礫の山。
「丁度、百鬼だっけ? あれの本隊が通ったルートになったんだが、避難は間に合ったけれど防衛線とかは間に合わなくてな、AAAも居なかったからこんな感じになっちまった」
 淡々と状況を説明する男の言葉に誰かを責める言葉はない。けれどまことと『裏切者』鳴神 零(CL2000669)にはもうちょっと何かできなかったのかという思いが残り、『二兎の救い手』明石 ミュエル(CL2000172)の胸を締め付ける何かがあったのは別任務で起こったことのせいだけではなかったはず。
「ここでやってもらうのは瓦礫撤去の手伝いかな? 特殊車両の運転とか出来ればちょっとは違うんだろうけど、やっぱり人力も必要だからな。人手があればその分早く終わる」

 次に案内されたのはその場所から近くの学校の体育館。
「で、ここは避難所。分かってる通り元は学校の体育館。春だったのが幸いだったけど、こんな感じ」
 見せられた様子はブルーシートを敷いた床を間に合わせの段ボールやベニヤ板で区切って各世帯ごとに分けられた場所。そこは人々は寝食を過ごし、日々をしのいでいた。
「ごらんのとおり、シェアハウスにしては大きい感じ、ライフラインは大丈夫だったけど、人手が足りないんで避難している人間が動いてる有様だ。ちなみに風呂は無いのでみんな遠くの被害の少ないところの銭湯に行ってる」
 気のせいか匂いが立ち込めているのはそのせいだろうか?
「ここでの手伝いはそうだな……あそこのアラサーのお姉さんが仕切ってるから――」
 指さした先の女性がスリッパで刑事の頭を引っぱたいた。
「さり気に人をアラサー呼ばわりするな! 婚期逃したらどうするの!」
 頭を押さえて蹲る刑事を横目に女性は覚者へ向き直った。
「えっと……ファイボの皆さんだっけ?」
「ああ、うん。違う。FiVE、FiVEの一員」
 零が訂正する。
「あ、ごめんごめん。みんな自分の生活で手いっぱいでね、守ってくれてた貴方達の事まで気に出来なかったの。貴方達が街を守ってくれに、ごめんなさい」
 謝罪の後、彼女は改めて向き直り。
「何にしても人手があるのは助かるわ。でも気を付けて、みんなが受けた傷は大きいから」
 言って彼女は避難所の方へ視線を移す、奇異な目で見ていた人々は慌てて視線を逸らし、そして何人かの人だけが覚者達をじっと見つめていた。
 何かをこらえるかのように……。

●かつて家だったもの
「わー瓦礫でいっぱいだね、民のみんなはブルトーザーでどばっといかないの?」
 倒壊した家屋を前にプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が瓦礫の撤去に動く男に質問した。
「そうできりゃ楽だけどさ、遺留品だって残ってるかもしれないし。下手すりゃガス管引っ掛けてドカーン! っていうのもあるのさ。だからこういう時は人力よ」
 瓦礫に覚者非覚者を問わず、作業員が飛び掛かり、次々と撤去し運んでいく。
「では人手に余る大きなものはどうするのじゃ?」
 『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)がジャージ姿で手伝いながら質問する。
「その時は君達の出番だ、あんな風にな」
 男が指差す先では腕をチェーンソーと一体化させた付喪の覚者が廃材を分断し、それをみんなで持っていく。それでも重たいものは身体能力に優れた覚者が担当する。
「そんなわけで力仕事だ、お姉ちゃんには悪いが頑張ってくれよな」
「うむ、任せるのじゃ」
 樹香はそう答えると瓦礫を担ぎ始めた。零も同じように瓦礫の撤去に動く。
「力仕事なら、任せてね」
 口にしながらも零は遠巻きに見つめる彼らの視線に何かを感じ取る。
「ねえ、樹香ちゃん」
「今、この場で、悪い事をしているわけではないからの。堂々と作業をするまでじゃ」
 零の言葉を樹香が切り返す、そこに秘められたものを感じて零も黙ってると。
「すまないな、お嬢ちゃん」
 現場監督らしい大柄な作業員が声をかけた。
「俺らの中には家が無くなった奴も居てな、班分けはしてるんだけど、どうしてもな……夜通し守ってくれたのに悪いな」
 申し訳なさそうにに男は口にした後、ふと何かに気づいた様に
「そう言えば、もう一人は何処に行った?」

「やぁオマワリサーン、余がまた道を聞きに来たよ!」
「おめえ、さり気に煽ってるだろ?」
 二人が作業しているところから離れたところ、まだ動いている自販機から取り出したコーヒーを飲んでいた刑事にプリンスが話しかける。
「で、サボって来て何の用だ?」
「も、勿論遊んでたフリですよ? オマワリサーンとお話をね」
「おいおい、こっちはお前らの監督を押し付けられた上に来週には異動の身だぞ。百鬼……だっけ? そいつらの情報とかは知らないぜ」
 情報交換と勘違いした刑事が答えると
「えー、ニポンの王は戦に勝ったのに土地も家畜も財宝も出さないの? 挙句SHIMANAGASHIするの?」
 わざとらしく驚くプリンスに刑事は苦笑しながらも口を開く。
「信賞必罰ってのがあるんだよ。非常時とはいえ、やりすぎた。お前や俺みたく戦闘力のある人間は能力は制限されなくてはいけない。でないと歯止めが効かなくなったらどうする?」
「ふーん、そうなんだ」
「そうなのよ」
「じゃあ代わりに余からコレ賜与。家の権限を1つ行使するのは最高の褒賞なんだよ?」
 手渡されるのはニポンの最新MANGA、勿論コンビニで買ったもの。それを見て刑事は吹き出しつつも。
「では恐悦ながら恩賜に預かりましょう、閣下」
 両手でMANGAを受け取った警察官は一歩下がると本を小脇に抱えて最敬礼をした。
「称号や俸禄でもいいけど、貴公はもうもっといいもの貰ってるしね」

●彼らの役目
「傷を癒すスキル? 要らない要らない」
三島 椿(CL2000061)による回復の申し出を断るのは先ほどの彼女。
「怪我をしているなら病院へ搬送しているし。ここにいる覚者で足りているから、それにここにいる人の傷は怪我じゃないの」
 彼女が言っているのは被害に遭った人間の心の傷。それは覚者非覚者問わず負っているもの。
「だから今は少しでも元気が出るように暖かいものを作ってみんなで食べる――そうだろ?」
 寸胴鍋をお玉で叩き、これが私達の武器だという様に彼女が応えると他のボランティアも頷く。
「分かったら、みんな手伝って!人手は足りないからね」
 動き出す人達を見て椿はよしっ、と自分に小さなカツを入れ、彼らの中に入る。その様子を微笑みながら見ていたまことも後に続いた。

 晩御飯の為に戦っている仲間がいる一方、ミュエルが行っていたのは避難所の外での掃除。
 割れたガラスや薬品類のような危険物がないかを危険予知で確認し、取り除く。特に子供達が遊んでいる校庭を中心に行っていた。
 だからこそ子供達の目に留まり、やがて一人の少年が近づいてきた。
「覚者のおねーちゃん!」
「あら、分かっちゃった?」
「だって、頭の上で変な蜂さんが遊んでるよ」
 作業に夢中で気が付かなかったが守護使役のレンゲさんが遊んでいたらしく、髪の毛が揺れるのを感じる。
「君も覚者なの?」
 ミュエルがしゃがんで少年の視線と同じ高さに合わせる。
「そうだよ! 俺も覚者なんだ!」
 そう言って紋様ある腕を見せる子供に対して、ミュエルも作業着の裾をゆっくりと引き上げてビスクドールのような陶器の脚を見せる。
「わー、きれい!」
 いつの間にか集まっていた子供達のうち少女がミュエルの脚を見て声を上げた。
次々と駆け寄ってきては話しかけてくる子供達。その様子にFiVEの少女は微笑みを隠せなかった。
「あら、みんなこんなところに居たのかい?」
 彼らに声をかけるのはボランティアの女。
「あ、おばちゃん!」
「おねーさんだっっ! ご飯の時間だから手を洗ってお母さんたちに知らせてきなさい」
「はーい!」
 彼女の言葉に子供達が体育館へと走っていく、それを見つめるミュエルの表情が曇ったのを彼女は見逃さない。
「あんな風に覚者とか非覚者とか関係なくしてるのが珍しい?」
 自分の考えていることを見抜かれたみたいで覚者の少女は驚き、彼女を見る。
「小学生の頃、ひとりだけ親友がいて……その子が覚者になって、アタシを助けてくれたとき……怖くて、避けちゃったんです」
「…………」
「だから覚者としての力、使って……みんなの力に、なることが、今のアタシの、役目」
「馬鹿だねえ」
 彼女の手がミュエルの背中を叩く。
「確かに覚者の力は便利だと思うけど、アンタの役目はそうじゃないと思うよ」
「……え!?」
「でも、今からは力仕事だから覚者のパワー、頼りにさせてもらうね? 子供たち含めて食べ盛りは一杯いるからね」
 肝心な答えははぐらしつつ彼女はミュエルの手を引っ張っていった。

 夕食の配膳は大仕事であった。
 避難所に居る人間全員分の食事を作り、配るのだからすぐには終わらない。まことやミュエル、椿は積極的に力仕事を請け負い。料理の入った寸胴鍋や容器を運ぶ。
 その後、ミュエルが濡れた足場をハイバランサーで機敏に動き洗い物をし。まことと椿は避難者への食事を配る。
「どうぞ」
「…………」
 椿が声をかけるがやはり無視される。しかし彼らは諦めない。
「最近、体調は如何ですか?」
 まことは配膳しながらも避難所の人間の体調を気遣い、声をかける。一人ひとりへの声掛けにやがて応える人も出てくる。
「今のところ大丈夫さ、でも何かあったら頼りにさせてもらうよ」
 食事を受け取る男の言葉にまことの表情がかすかに綻んだ。
(これも自己満足なのかもしれない、それでも)
 紫雨の行動の結果、起きたことを目にした椿は考え、今出来ることを行い、彼らに向き合う。
「おにーちゃんもおねーちゃんもFiVE? その羽で飛ぶの! マッハ出せるの!?」
 二人の翼に気づいた子供達が近づく、子供達にとっては街を守って戦ったFiVEという存在は憧れに近いものがあるのだろう。
「そうよ、みんなで戦ったの!」
「すっげー!!」
 椿の子供達が感心の声を上げる。けれどその最中まことは見逃さなかったFiVEという言葉に過剰に反応した人間が居ることを。

 
●諍い
「てめえ、やろうってんのか!?」
 声は突然聞こえてきた。
 日が沈みかかり空を赤く染める頃、作業に従事していた覚者に非覚者の人間が声を荒げて絡んできたのだ。
「またか……」
 現場監督の男が失望の呟きを漏らす。零と樹香はすぐに声のする方向へ走った。
「覚者さんが頑張ってこんなザマかよ! 見ろよコレ、こいつは怪我して仕事できないし。俺は俺で仕事もなくなった!」
 叫ぶ男の息は酒臭い。そうするしかなかったのだろう。そんな彼らの前に二人の少女が割って入る。
「なんだぁ?」
「FiVEの一員。鳴神零。宜しくね」
 男の問いに零が答える。『FiVE』その言葉に男達からどよめきが出る。数人は後ずさり、食ってかかった男はそれを見て引くに引けなくなる。
(誰彼無く当たりたい気持ちは分かるよ、ワシは覚者じゃが、人間じゃからな)
 零と男達の様子を見ながら、樹香は考える。
「私達と百鬼の戦いに巻き込んだのは謝る。街への被害はFiVE名開示と共に予想できた事態だった」
「…………」
 錯綜する思い、何かを我慢している男へ零は言葉を続ける。
「でもね、間違えないで。私達に直接当たるのはいい。他の人には当たらないで。――だから分かりやすく言えば、かかってきなさいよ! 何が言いたいかって? 立ち上がって前を向け! くよくよ過去に囚われるな!」
「ふざけんな! 元はと言えば手前らのせいだろ! 過去だって!? 俺達が生きてきた証がくよくよしたもんだっていうのか!?」
(でも人間じゃから、前も後ろも向くよ)
 男が言い返すも零はまだ言葉を続ける、未来に立ち向かってほしいから。
「貴方たちには立派な命があるじゃない! 何回死んでも死ねない私達化け物よりも遥かに貴重な命を持っているのだから」
(じゃが、それでいいのか?)
 二人の後ろでどよめきが上がった、一緒に働いていた覚者の作業員に視線が集まる。
「ああ、確かに化け物だな! 覚者はFiVEはそうやって化け物同士で争ってろよ!」
 男の怒鳴り声に騒めきが強くなる。言葉が悪かった。被害にあったのは覚者も非覚者も一緒だったのだから、そして――
「それにかかって来いだぁ? そんなのお前が覚者で死なないから言える言葉だろ! 自分が安全だから言える言葉なんだよ!」
 覚者であることが災いした、零自身が言う通り何回死んでも死ねない化け物にかかってこいと言われる、その事が人々に隔たりを作る。しかし……。
「やぁ、余が街ぶっ壊した主犯の王子だよ!ほーらこっちこっち」
 空気を読まないプリンスはそれをぶち壊した。お尻ぺんぺんつきだ。
「この……ヤロウ!!」
 酒に酔った男は零を突き飛ばしプリンスに向かって拳を振るう。
 ――ぺき。
「痛ってぇえええええ!」
 機化硬によって強化された身体は殴りつけた男の拳を痛めるに十分だった。
「こいつ! 何かしてやがる」
 もう一人が角材で叩き、次々と男達がプリンスに襲い掛かった。
「立てるか?」
 突き飛ばされて、尻もちを付いていた零に刑事の手が差し伸べられる。
「……はい、ありがとうございます」
 その手を借りて立ち上がると彼女の横で漫画本を読みながら刑事は口を開く。
「前を向いてほしいのは分かる。けど人間ってやつは自分から踏み出せる奴ばかりじゃないんだ。あいつらが欲しかったのは一歩踏み出すために背中を押してくれる何かだったんじゃないかな?」
 男の怒号とプリンスの笑い声が聞こえるのを零と樹香は見つめ、刑事は漫画を読み続けていた。やがて根負けした男達がへたり込むとプリンスは彼らに向かって、
「スッキリした?そうでもないよね。まぁ、そんなもんだよ。次は何しようか? 余はとりあえずみんなで暖取った方がいいと思うんだけど」
 次に何をするかを提案する。
「さんせー、ところで俺漫画読んでいたから、ここで起こったことは知らないからな」
 暗にここに起こった事を見逃す事を言いつつ、刑事が同意する。
「お姉ちゃんたち……コーヒー買ってもらえないか? あいつらの分もさ」
 場がひと段落したところで現場監督が紙幣を数枚、二人の少女に渡す。
「あ、俺手伝います!」
 覚者の作業員も手を挙げる。零と樹香は顔を見合わせた後
「わかりました」
 と頷いた。

 同じ頃、避難所の方でも同じように騒ぎが起こっていた。
 夜は懐中電灯を持って見回りをしていた椿が見つけたのは、覚者と非覚者の喧嘩。勿論力の差は歴然で一方的に非覚者が打ちのめされる展開になるのを椿が止める。
 殴りかかる覚者。けれど一般人とFiVEで戦ってきた彼女では差は歴然、故に覚者の男は投げ技で地面に叩きつけられる。
「貴方達の怒りはもっともだわ、でもこの人は関係ない。もし怒りをぶつけるなら私にして。それで貴方達の気がすむなら私がそれを受ける」
 椿が男達を真正面から見つめる。
「…………でもよ、そいつら。こうなったのは俺達のせいだって言うんだぜ」
 覚者の一人が答えると倒れていた非覚者の男が「そうだ!」と同意の声を上げる。そこへまこととミュエルも駆けつける。まことは男達の間に入ると頭を下げ、ただ一言。
「守れなくて、すいませんでした」
 それだけを告げる。短くも重い言葉に皆押し黙り、長い沈黙が続く。それを破ったのはボランティアの女だった。
「この子達は謝ったし、自分で責任取ろうとしたよ。で、アンタたちはどうする?」
 多分、見ていたのだろう、FiVEとして自分達が何をするのかを。ミュエルはそう感じていた。夕方にも同じように彼女が居たのを覚えていたから、多分ずっと見守っていたんだろうと。
 男達はお互い視線を交わしあうと一言。
「悪い」
 とだけ謝り、それから三人に向かって。
「今日は来てくれてありがとうな、飯……旨かったぜ」
 バツの悪い表情で告げると避難所へと戻っていった。
「なんだい、アタシが作るのは不味いって言うのかい」
「お姉さん」
 愚痴る彼女にまことが呼びかける。「なんだい?」と振り向く彼女にまことは、
「カッコいいですね。……ありがとう」
 そう礼を述べると、彼女は少年の背中を思いっきり叩き。
「そういうのは10年たってから言いな!」
 避難所の方へと歩いて行った。

●手は届いたか?
「で、一日やってみてどうだった?」
 刑事が問いかける。
「思った以上に出来なかった事も多かったろ?でもそれでいいんだ、お前らは化け物でもない人間なんだからさ」
 彼の言葉にどう答えたか?
 それはその場にいる者だけの秘密――。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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