有名になれば誰かが名を騙る
有名になれば誰かが名を騙る


●山を歩く者たち
「京都にある研究機関がベース?」
「うむ。四半世紀前の『逢魔化』以降変化するこの日本において、それを多角的にとらえ研究することが目的のようだ」
 山道を歩く六人の覚者。歓談しながら歩いているのだが、その雰囲気はハイキングとは異なっていた。例えるなら、これから戦いに向かう戦士のような表情だ。
「聞けば先の能力者京都襲撃や滋賀の大規模古妖拉致事件を解決したとのことだ。その実力は折り紙付き。研究と同時にAAAの代替組織として治安維持も行うつもりだとか。覚者の規模も我ら『偉人列伝』を超える大組織だ」
 彼らが話題にしているのは、昨今台頭してきた覚者組織のことだった。なお『能力者京都襲撃』とは日の丸事変のことであり、『大規模古妖拉致事件』とは古妖狩人の事件である。
「まだ若き組織故に世間の認知度も低い。だが人を見る目はあるようだな。この『発明王の生まれ変わり』である吾輩に声をかけてくるとは」
「……で、その組織からの依頼があの泉?」
 覚者の一人が遠くに見える泉を指さす。山の中腹にある済んだ水を携えた泉だ。『発明王の生まれ変わり』を名乗った男は、うむと頷き言葉をつづける。
「この地方には人に恋した龍の伝承があるのだ。『寿命の違いで死に別れる』……と言う悲恋系の物語なのだが、あそこはその時龍が流した涙が泉と言われている」
「その泉に現れた水型の妖を退治。研究の為にその水を汲んで来い、と」
「人里から離れている故に事件性は低いが、ランクが上がればその限りではない。早々に退治してしまおう」
 言って彼らは泉に近づいていく。覚者の一人が思い出したように尋ねた。
「そういえば、その依頼主っていうか研究機関の名前って何?」
「ああ、言ってなかったか。彼らはFi――」

●FiVE
「総合化学研究機関FiNE、だそうだ」
 ねーよなー、と言いたげな顔で久方 相馬(nCL2000004)は集まった覚者に告げる。
「肩書は『古い知識と現代化学の融合』で、古妖などの伝承を現代化学と照らし合わせて検証しようとかそんなのだ。ざっくりいうと、武器のない古妖狩人、かな」
 例えが悪すぎだろ、と言うツッコミを受けながら相馬は説明を続ける。だがあそこまで過激でないにせよ、FiVEの名を騙っている時点でいい組織とはいいがたい。
「龍の泉の伝承を聞いて薬になると判断したけど、そこを守る神秘的存在がいることに気づき、実力ある覚者を雇って排除に向かわせたって所だ。
 これだけだと何の問題もないんだけど、そこに居るのが妖じゃなくて『龍が愛する人と住む山を守るために魂を分けて生み出した』自然霊的な古妖なんだ。倒されると近隣の自然系のバランスが崩れてしまうらしい」
 真剣な口調で話す相馬。どうやらFiVEのニセモノが出たという笑い話では終わらないらしい。
「説得を聞いてくれる相手だといいんだけど……」
 頭を掻いて説得の難色を示す相馬。向こうの覚者は『夢見(自称)に聞いた』という事もあり完全に向こうの情報を信用している。FiVEの情報源も同じ『夢見』である以上、水掛け論にしかならない。
 そしてその古妖が妖同様言葉を喋るような知性を持っていないことが、誤解に拍車をかけている。古妖と妖の違いを線引きできる人物は少ない。『人間』と言うカテゴライズから見れば、共に異形の存在なのだ。
「少し荒っぽいけど殴って大人しくさせてから説得、しかないと思うぜ。あちらも邪魔するなら攻撃をしてくるだろうし」
 それしかないか、と覚者は立ち上がる。

●『偉人列伝』
「吾輩と『斧の王』、そして『鬼の剣士』が前に。真ん中に『少年悪漢王』を。『落葉』と『砂漠の女王』が後衛に。相手は一体だけだ。敵は強いようだが、落ち着いて戦えば問題はなかろう。
 この戦い、勝ったも同然とこの『発明王』が断言しよう」



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.隔者六名の戦闘不能
2.『龍の涙』の生存
3.なし
 どくどくです。
 馬鹿三度。

●敵情報
 隔者
 PC達の言うこと聞いてくれない覚者、という意味で隔者。騙されていることを説明しても、聞いてくれません。自意識過剰なので、言葉による挑発には乗りやすいでしょう。
 彼らは構成員が全て前世持ちと言う『偉人列伝』と呼ばれる覚者組織です。自分達の前世が何らかの偉人であると自称しており、まあ、その、そういうイタイ子です。なお本当に前世が偉人かだなんて証明できません。アホですが、実力は難易度相応。
 古妖(彼らは妖と信じている)退治を邪魔立てするなら容赦しません。
 なお、第一ターンの行動は全員『錬覇法』です。

『発明王の生まれ変わり』山田・勝家
 木の前世持ち。二十歳男性。
 トーマス・エジソンの生まれ変わりを自称しています。アンティークなスーツにモノクル。神具はステッキ(突剣相当)。
 拙作『愛猫に絡む思いと殴り合い』『前世知る識者が集いて、タコ殴り』等に出ていますが、知らずとも問題ありません。倒すべき相手という認識で十分です。
『錬覇法』『葉纏』『香仇花』『捕縛蔓』『覚醒爆光』『韋駄天足』等を活性化しています。

『斧の王』清水・透
 土の前世持ち。三十五歳男性。
 エイブラハム・リンカーンの生まれ変わりを自称しています。神具は半月斧。髭を生やしたりと形から入るタイプです。でも英語は喋れません。
『錬覇法』『琴桜』『蔵王』『念弾』『特攻強化・壱』『覚醒爆光』等を活性化しています。

『鬼の剣士』中塚・琴音
 火の前世持ち。一七歳女子。
 島津豊久の生まれ変わりを自称しています。神具は日本刀。戦闘大好き。
『錬覇法』『醒の炎』『斬・一の構え』『地烈』『物攻強化・壱』『覚醒爆光』中を活性化しています。

『落葉』飯田・吾妻
 天の前世持ち。十五歳男性。
 菱田春草の生まれ変わりを自称しています。美術部所属。攻撃が苦手な性格の為、支援に走ります。
『錬覇法』『演舞・舞衣』『填気』『纏霧』『アイドルオーラ』等を活性化しています。

『老年悪漢王』郷田・勅久
 水の前世持ち。八十歳男性。
 ビリー・ザ・キッドの生まれ変わりを自称しています。ハンドガンを手にして戦います。
『錬覇法』『水礫』『念弾』『速度強化・壱』『覚醒爆光』等を活性化しています。

『砂漠の女王』楠木・詩織
 水の前世持ち。十歳女性。
 クレオパトラ7世フィロパトルの生まれ変わりを自称しています。エジプトっぽい杖を手に回復に回ります。
『錬覇法』『癒しの滴』『癒しの霧』『水衣』『アイドルオーラ』等を活性化しています。

●NPC
・龍の涙(×1)
 泉に住む自然霊です。見た目は水が隆起して男性の姿を取った形。一説では竜の魂から生み出されたと言われ、この山を守る存在と言われています。
 体力は覚者よりもありますが、攻撃能力は皆無です。防御判定は行いますが、行動はすべて待機になります(移動もできません)。また、言葉が喋れないため交渉などは不可能です。
 ある程度隔者の攻撃を受け続ければ、戦闘不能になります。

・総合化学研究機関FiNE
 正体はFiVEの名を騙るただの詐欺集団です。調べればすぐにわかる程度に偽装もずさん。龍の涙が守る泉の水が目的です。それを元に一山当てるつもりだとか。
 なお泉の水にはこの地の子供たちがすくすく育ってほしい、という願いを込められており、『安産』『豊胸』『子宝』等の効用があるとかないとかいう情報を掴んでいます。

●場所情報
 山中の泉近く。人通りは皆無。時刻は昼の為、明かりは十分。広さや足場も戦闘に支障なしです。
 戦闘開始時、敵前衛に『龍の涙』『山田』『清水』『中塚』が。中衛に『郷田』が後衛に『飯田』『楠木』がいます。覚者達は敵後衛を突く形で登場できます。
 事前付与は可能ですが、その間も時間は流れます。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年04月03日

■メイン参加者 8人■

『偽弱者(はすらー)』
橡・槐(CL2000732)
『Mr.ライトニング』
水部 稜(CL2001272)
『優麗なる乙女』
西荻 つばめ(CL2001243)


「また、発明王……飽きぬなぁ、アンタも」
 ため息一つつき、『星狩り』一色・満月(CL2000044)が目の前の男に語り掛ける。以前も似たようなシチュエーションで敵対したの思い出す。その時は被害は最小限に収まったが、今回はうまくいくか。少なくとも立ち位置としては不利な場所だ。
「いつぞやのエジソン氏ですか。偉人列伝とはずいぶんと……」
 そこまで口にして、『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は口を紡ぐ。暦因子ばかりの覚者集団『偉人列伝』。その意思統一は完璧で、反乱は起きそうにない。ある意味理想のチームだ。……まあ、常識面で見れば難ありなのは仕方ないが。
「山田さん……また、騙されたの……?」
『二兎の救い手』明石 ミュエル(CL2000172)が額を押さえながら問いかける。最も自分達もつい数日前まで、偽装された七星剣の組織を受け入れそうになっていたのだから大きなことは言えない。でも、もう、何度目?
「また……? この方学習能力が無いのかしら? それとも、とても純粋な方なのかしら」
 ミュエルの言葉を聞いて、西荻 つばめ(CL2001243)は首をひねる。小袖に袴、黒の編上げブーツスタイル。そんな大正ロマンスタイルを貫くつばめ。泉から小さく風が吹き、黒髪のボブカットを小さく揺らした。
「前世が誰なんて根拠のないものに自信を持てるのは最早才能だな」
 騙されやすいのもこの領域だと才能だろうが、と『雷霆代理人』水部 稜(CL2001272)は毒を吐く。同じ暦因子だが、稜は前世の存在に懐疑的である。どうあれ彼らを倒さなければならないのだ。面倒でも相手してやろう。
「FiNE……『晴れ』というよりは『飾り立てた』『上品ぶった』とかの意味ですかね」
 ばったものにはお似合いの名前ですかね、と『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732)は続けた。覚醒して車椅子から立ち上がり、体をほぐすように動かす。その詐欺集団は後回しにして、今は仕事を片付けなくては。
「お話さえ通じれば、簡単に解決するのですが……」
 と、ため息をつく望月・夢(CL2001307)。今回の目的は最終的には『龍の涙』の無事だ。その条件として隔者六人の戦闘不能がある。彼らを説得できればそれが一番被害が少ないのだが、無理なのでしょうね、と諦める。
「そうね。このオツムが可哀想な人達を何とかしなくてはね?」
 同じく隔者六人を見ながら『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は笑みを浮かべる。戦うと決めれば行きは早い。勝利の為に意識を切り替え、行動するのみだ。互いの位置関係を把握し、そして頭の中で作戦を組み立てる。
「これはどういうことだ『発明王』! まさか妖に操られた者達か!」
「いや彼らは…………そういえば誰なんだろう?」
 山田は知った顔を見て何かを言いかけて、首をひねる。FiVEも秘して活動していたため、自ら名乗れなかったのだから仕方ないのだが。
「ともあれ妖退治を邪魔立てするなら容赦はできん。行くぞ、皆の者!」
『連! 覇! 法!』
 六人の『偉人列伝』が一斉に付与を行う。やる気は十分のようだ。
 やはり聞く耳持たないかと諦めの表情を浮かべ、覚者達も神具を構える。


「やあやあ、我こそはFiVEなり。ってか」
 最初に動いたのは満月だ。僅かながらの自己主張をして抜刀する。そのままその切っ先を中塚に向けた。向ける気迫は殺意ほど鋭くはなく、しかし善意とはいいがたい気迫。例えるなら闘気。この一刀でねじ伏せてくれるという挑発に近い意志。
「オイ、島津豊久。俺の首を落としてみろ。できぬのなら、その名、語るに落ちる」
「ほう。よくぞ吠えたな」
 満月の言葉に踵を返して中塚が切りかかってくる。その一撃を受け止め、返す刀で胴を薙ぐ。肉を裂いた確かな手ごたえが満月の手に伝わってきた。
「アンタは戦闘が好きだそうだが、俺はそこまで戦闘は好きでなくてな。好いていない俺ごときの人間に負けたら、面子丸つぶれであろう?」
「ならば我が刀を受けてみよ!」
「こら、『鬼の剣士』! そのような安い挑発に――」
 妖をそっちのけて挑発に乗る中塚に注意をする山田。そこに稜の声がかかる。
「努力しか能のない親愛なるエジソン殿。愚鈍な仲間を連れてまた道化の練習か? テスラ、と言えばわかるか?」
 眼鏡を押し上げながら稜が言う。どこか演技めいたその動きに山田が驚くように答えた。
「まさか……ニコラ・テスラか!?」
「1%の霊感の無さ故に99%の努力を水泡に帰す行いをしているようだな。直流の敗北を忘れたか? 今世も雷電に愛されていないしなぁ?」
 言いながら天の源素を操り、稲妻を生み出す稜。その術にぐぬぬと呻きをあげる山田。
(下らん。前世などという根拠のない物をどう信じれるのか)
 もっとも稜のテスラ前世説は当の本人は全く信じていないのだが。
「先ずは皆様を……」
 言葉で気を引いている間に夢はナイフを構える。覚醒と同時に開く第三の瞳。どこか神秘的ともいえる服を着ている夢。踊りを行うこともあり、着ている服が戦闘の邪魔になることはない。すっ、と足を運びながら舞い始める。
 激しい戦闘の中にあって、心の中は凪いた湖の如く。術式の為に源素を体内で活性化させながら、円を描くように足を運び大地に印を刻む夢。それはまさに舞うように。発生した霧が隔者達の視界を奪い、攻撃の手を弱めていく。
「支援は私が行います。皆様、戦いに専念してください」
「ふふ、どこの馬の骨だか知らないけれど……皆纏めて『女帝』の前に跪きなさい!」
 爆音と共に自己強化を行うエメレンツィア。赤いドレスに身を纏い、そのドレスよりもなお赤い髪が風に舞う。金の瞳で隔者たちを見ながら、女帝の尊厳を示すかのようにほほ笑んだ。格の違いを見せつけるように静かに、そして優雅に。
 赤い手袋に包まれた指が一度閉じて、そして開く。そこに集まるのは清らかな水。源素の力で生み出された癒しの力を持った水。それはエメレンツィアの意志に従い霧となり、仲間に向かい広がっていく。霧は傷を冷やし、そして癒していく。
「お馬鹿さんがいっぱい集まったところで、ねぇ?」
「むぅ。吾輩を馬鹿呼ばわりするとは……しかしその尊大な姿はまさか……!」
「いや、馬鹿でしょうが」
 ばっさりと言い放つ槐。槐は隔者が攻めている古妖の目の前に居た。覚者の仲間が『偉人列伝』を押さえ込んでいる間に駆け抜けてきたのだ。古妖がそれほど傷ついてはいない事を確認し、隔者の方に意識を向ける。
 槐は戦場を見回し、状況を確認する。槐の役割は攻めることではない。仲間をサポートし、戦場をコントロールすることだ。土の加護を身に纏い、天の源素を体内で循環させて解き放つ。心地良い空気が傷つき乱れた肉体を癒していく。
「ばったもんに踊らされている自称偉人列伝の人達も、お里が知れ……困ったものなのです」
「とはいえ、油断ならない相手であることも事実です。実力は相応のようです」
 ナイフで相手の攻撃を受けながら千陽が息を整える。しょうもない詐欺に騙される程度の知力ではあるが、それなりに戦いを経験しているようだ。だがそれはFiVEも同じこと。猛る気持ちを押さえながら、冷静にナイフを振るう。
 銃とナイフを隔者に向ける。使い慣れたナイフ。使い慣れた銃。体に染みついた軍隊の動きが見せる殺意の一歩手前。それだけで相手の動きを規制し、千陽は相手の攻め数を減らす。気迫に飲まれた隔者の唾をのむ音が、確かに千陽の耳に届く。
「加減できる自信はありませんので、怪我をしたくない方は下がってください」
「ええと……うん。怪我したくなかったら……言ってね」
 一言告げてからミュエルは『術式ノート』を広げる・術式の使い方をまとめたもので、それを見ながらミュエルは術式を展開する。小さなことからコツコツと積み重ねる。ミュエルという覚者の性格を表すかのような神具である。
 ミュエルは目の前に居る楠木に向かい、手を掲げる。手の平に生まれた小さな花が開き、かぐわしい香りを放出する。それは力を奪う香。隔者の体力を奪い、そして活力をも奪っていく源素の花。回復を行う楠木を弱らせ、その回復量を奪っていく。
「それで、えっと……エジソンは、なんか偉い人で……リンカーンも、なんか偉い人で……あとの四人……誰……?」
「いやほら、明治の画家で!」
「っていうか、なんか偉い人って……最初の二人もよくわかってない……?」
 ミュエルの一言に動揺する『偉人列伝』の隔者。挑発や毒舌よりも、その一言がショックだったようだ。
 だが当初の目的である古妖を守る陣形はうまく形成できた。だが、陣形確保を優先した分、隔者に先制を許す形になってしまった。ここからが踏ん張りどころだと、覚者は気合を入れる。
 戦いの天秤は、未だ大きく揺れていた。


 覚者達は先ず古妖を守るために、槐と千陽を古妖の下に送り出す。その後、挟み撃ちの形で隔者を攻め立てていた。攻められたくない古妖に向かわせないように、挑発を繰り返して呼び寄せていた。
「動かない標的を撃ち悦に浸るのがビリー・ザ・キッドですか? 郷田老」
「悪漢とはそういうもんじゃからの。しかし安い挑発に乗るのも悪漢か」
「弁護士の生まれ変わりがこの程度の挑発に踊らされているとは実に滑稽だな? 悔しかったら私を言葉で殺してみろ」
「はっはっは。そこまで言うならテスラの雷霆とやらを見せてもらおうか。磁束密度の単位になったほどだ。さぞ強いのだろうな」
 千陽が郷田を挑発し、稜が清水を挑発する。そのせいもあって、隔者の攻撃は覚者の方に向いていた。千陽、稜、つばめ、そしてメインで回復を行っているエメレンツィアが攻撃を受けて大きくよろめく。千陽、稜、エメレンツィアは命数を削って意識を保ち、つばめはそのまま倒れ伏した。
「思ったよりもこちらに攻撃が来ないな……ああ、そういう事か」
 六人の隔者全員にこちらに攻撃を向けさせるように言葉を投げかけた稜だが、実際に攻撃を向けられたのは山田と清水の二人のみ。怪訝に思ったがその理由はすぐにわかった。稜の言葉は毒舌で相手の心を抉ってはいるが、こちらに水を差すようには向けられていない。ただの罵詈雑言で終わっていたのだ。
「まあそれでもこっちに来る攻撃が減ったのは助かりますね」
 槐はナイフを振るいながら相手をけん制し、仲間の気力を回復するために術式を放つ。隔者側メインアタッカーの四人が、護衛対象の古妖に神具を向けていないのだ。こちらの目的を考えれば、上出来である。
「お陰で私は休む暇もないけど……ね!」
 回復の術を行使しながら、エメレンツィアは息を整える。部隊を二分している以上、質全的に前衛の数は減少する。こちらが相手の回復役を狙うように、隔者も回復役であるエメレンツィアを狙っていた。体力面で劣る彼女は、隔者の攻撃に長く耐えれそうにない。
「大丈夫……私も……回復するから……」
 ミュエルが疲弊したエメレンツィアを回復させるために回復にシフトする。樹木の力を振り絞り、養分を含んだエキスを生み出す。挑発をしたりするよりは、こちらの方がずっと気が楽だと、こっそり安堵するミュエル。
「俺の勝ち……だな」
 刀を振り下ろした満月が、崩れ落ちる中塚を見ながら言う。倒れ伏し、その動きが止まるまで気を抜かない。満月も命数を削られる程の傷を受けたが、勝ちは勝ちだ。意識を戦場に戻し、次の目標に向かう。
「息つく暇もありませんね」
 仲間を癒す為に術式を込めた舞いを続ける夢。敵を伏す為に神具を振るう事だけが戦いではない。仲間を守るために支援に徹するのも、また戦い。夢の支えにより隔者から与えられる悪影響が取り除かれており、その積み重ねが覚者達の攻めを加速している。
「出来ればこのあたりで手打ちにしていただけるとありがたいのですが。覚者同士で戦うというのも馬鹿馬鹿しいですし」
 隔者をある程度廃したところで千陽が降伏勧告を行う。古妖が害ある存在ではないと主張するが、彼らを説得するには至らなかった。仕方ない、と制圧を再開する。ナイフを振るい、プレッシャーをかけながら少しずつ相手を追い詰めていく。
 回復を行う楠木がダウンすれば、隔者が追い詰められるのは早かった。挑発により攻撃対象を分散させることができたのも大きかっただろう。一人、また一人と隔者が倒れていく。
「悪いな発明王。これで終いだ」
 満月の刃が山田に向かい振るわれる。。ステッキで受け止められた刀は、ひらりと風に舞うように翻った。空いたわき腹に向かい刃が走る。
「十天、一色満月。その身に名と刃を刻め」
 その言葉が聞こえたか否か。満月の一閃を受けて、発明王を名乗る男は力尽きた。


 で、事情を説明すると。
『申し訳ありませんでした』
 あっさり非を認めて土下座する隔者六人。この光景前も見たよね、とミュエルはデジャヴを感じていた。
「くっ……この『発明王』をだますとは……!? さては稀代の詐欺師『カリオストロ』の生まれ変わりか……!」 
 等と額を押さえて苦悶を示す山田。だが話を聞いた稜はつまらなそうに告げる。
「ふん。よくあるペーパー会社だ。偽装もずさんだし、大した相手ではない」
 弁護士である稜からすれば、大したことのない犯罪者だった。すぐに対処すれば問題ない相手だ。
「大丈夫……もう、傷つける人は……いないから……」
 ミュエルが念波を使って古妖に思念を送る。口を開くことがない古妖だが、その糸は通じたのだろう。首肯してそれに応じる。
「所で……泉の水の効果……本当だったりするのかな……?」
「調査の意味も含めて少し分けてほしいのですよ」
 ミュエルと槐が古妖に泉の水を求める。古妖の快諾を得て、水筒に水を入れた。あとでこっそり口にしてみようと、心に思う乙女二人。
「龍の愛か。これからもこの世界を守ってくれよ」
 満月は泉の物語を思い出しながら、古妖に語り掛ける。愛する者を喪い、しかし哀しみに負けず子を守るために尽力する愛。その愛がいまだに残っているのだ。
「ご迷惑をおかけしました。俗世の者の思惑により、御身に害が及んだ事、御詫び申し上げます」
 夢が古妖に向かい一礼する。相手はこの土地の一部と言ってもいい相手。それなりに敬意を表して接していた。
「龍の涙を安全にする方法も考えないといけないわね。また別の人とかが狙ってきた時に私達が動けると限らないわ」
 その辺りもFiVEに相談ね、とエメレンツィアは腕を組む。そのまま今回戦った隔者を見た。彼らをどうするかも決めなくては。なお彼らは、
「我々は研究機関Fi『VE』です。やっとまともに名乗れましたね、山田氏」
「ふ……この状況で吾輩を騙そうなど。そんな大きな組織がこんなタイミングでやってくるはずがなかろう。この『発明王』の慧眼は見抜いているぞ!」
 千陽が自分達こそがFiVEであることを説明するが、そんな台詞ですぐには信じようとしなかった。信じてもらう説得にかなりの時間を要したことを記しておく。
(あ。この人の予測とか推理って基本的に当たらないんだ……)
 覚者達は偉そうに胸を張る山田に対し、そんな感想を抱いていた。

 事の元凶であるFiNEは、報告後すぐに身柄を押さえられた。あとは法の裁きである。
 彼らに利用されただけ、という事もあり『偉人列伝』は大きな咎めを受けなかったという。互いに情報交換を行う旨を取り、何かあったら連絡するという約束を取り付けた。
「この『発明王』の智謀が必要な時はいつでも連絡してくれたまえ!」
 とは去り際に告げた山田のセリフだ。……それほど有用な覚者組織では無いのかもしれない。
 そして泉の水の効果だが――こっそり水を飲んだ者たちの個人情報もあり、ここには記さずに置くことにする。

 悲恋の竜が流した涙。それが生む優しい自然の営み。それは覚者が守った証。
 竜の愛は、今日も健在であった。
 

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。
 OPの何に時間がかかったかって、どんな偉人にするかで丸半日。

 古妖を守りながらの勝負となりましたが、見事な防衛でした。あと挑発も。
 このチームワークあっての勝利と言えましょう。
 そんなわけで、MVPはもっとも『偉人列伝』を動揺させた明石様に。自意識過剰な人間は自分のことを知らないという発言が一番堪えるのです。

 ともあれお疲れさまでした。先ずは体を癒してください。
 それではまた、五麟市で。

〓〓
なんと!
橡・槐(CL2000732)
明石 ミュエル(CL2000172)
二人の体系が「豊満」になった!

※ただし1週間ほどで効果は消えます。




 
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